ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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番外編でーす。今回はもう一つ番外編があるので、よければそっちも見ていってくださいねぇ。




追記:もう一つの番外編、12時に間に合いませんでした……先にこっちだけでも楽しんでいってください…!もう一つの…閲覧自由の番外編は恐らく明日に。その他は明後日に。閲覧自由話が苦手な方にはご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いいたします。








番外編 暗黒神の誤算

風吹きすさぶ上空。真下に真っ黒な橋の町を見下ろす天空の、その空間の一部がぐにゃりと曲がり、やぶれる。

 

『…』

 

「ラプソーン様、ようやくの凱旋、このゲモン待ち侘びておりました…!」

 

「・・・」

 

『…数百年もの間…緩慢に過ごしていた貴様がそれを宣うか…』

 

「そっそれは…ッ!その…ザコ鳥のレティスがですね…」

 

「・・・」

 

『……忌々しい名だ。二度とその鳥の名を口にするな』

 

やぶれた空間の裂け目より現れたるは、卑怯卑劣の悪鬼、妖魔ゲモン……とその手に持つ杖の中に封じられし闇の権化、暗黒神ラプソーン。そして…………

 

「も、申し訳ございません…!とっ、ところで、ラプソーン様!このゴミはどこで処理しましょうか!」

 

ゲモンは翼をはためかせながら足をゆらゆらと揺らす。その足に掴まれている男こそがドルマゲス。妖魔と暗黒神に敗せし墜ちた魔性の道化師である。

 

『…』

 

「やはり今ここで首を引きちぎりましょう!俺───わ、私はこの男を殺したくてたまらないのです!」

 

数百年間上司のいないこの闇の世界で好きに過ごしていたゲモンは敬語が拙い。そもそも魔物としてはかなり嗜虐心の強いゲモンは誰かの下につくような魔物ではないのだ。しかしそれでも開き直らず、取ってつけたような敬語を使おうと四苦八苦しているのは、この闇の世界でラプソーンの機嫌を損ねることがどういうことであるかを彼が正しく弁えている証拠である。

 

『クク…殺せるものなら殺してみろ…どの道貴様にこの哀れな道化は壊せまい』

 

「はい?…で、では。」

 

やけにすんなり殺害の許可が出たことにゲモンは多少訝しみつつも、早速首を引きちぎろうとする。リブルアーチでドルマゲスたちを裂いたり刺したりして痛めつけていたのはそれが『遊び』の延長に過ぎなかったからであり、元より殺そうと決めていたならば、頭と胴体を掴んで一瞬、なのだ。ゲモンは自身の左足を、掴んでいたドルマゲスの肩から頭に移し、力任せに引っ張った。

 

「…?」

 

一瞬…のはずだった。

 

「なっ…くっ……なんだコイツ!?」

 

千切れない。どれだけ力を入れても、どれだけ爪を食い込ませても…だ。まるで何か不思議な力で守られているかのように、ドルマゲスの身体は千切れない。

 

「なら脚…っ!う、腕……っ!!」

 

なんとか相手を引き千切ってやろうと躍起になるゲモンだが、ドルマゲスの四肢は千切れない。…補足しておくと、彼の身体が別段頑丈なわけではない。爪を立てれば傷はつくし、握りつぶせば骨も折れる。しかし、腕、手、指…爪の一枚に至るまで、身体から切り離すことが『全く』できない。ゲモンどころかラプソーンですら理解の及ばないそれは、ドルマゲスの『偶像の見る夢(ヴェーダ)』の効力である。

 

「ハァ…ハァ……なんだ…ッ…本当になんなんだァッ!コイツはよォ…ッ!!」

 

どれだけ力を込めても何も変わらない足元の下等生物に、ゲモンは苛立ちを通り越して軽い恐怖を覚える。

 

『理解したか?貴様にこの男は壊せない。またも何かくだらぬ小細工をしているようだが…が、我ならば殺すことは容易い』

 

壊せないが、殺せはする。それに感付いているラプソーンが、しかしあえてそれをしない理由は……リブルアーチでドルマゲスや、彼の周りのニンゲンたちの不気味な姿を目の当たりにしているゲモンにはなんとなく想像がつく。

 

「それはつまり……」

 

『殺せば…我の知らぬところでこの道化は復活する可能性がある』

 

「…!こ、コイツが『勇者』…ということですか…!?」

 

自身も暗黒を統べる神であるラプソーンは『神の加護』というものを当然の如く知っている。いわゆる世界システム……世界の均衡が歪んだ時に現れる『勇者』なる不死身の戦士たち。彼らは肉体を失っても、魂を失っても『神の加護』によって何度でも完全に復活するという幾分巫山戯た特性を付与される。

 

ラプソーンはトロデーンでの、ベルガラックでの、闇の遺跡での、そしてリブルアーチでのドルマゲスの戦いぶり、もとい不死性から、彼を今世の『勇者』であると判断した。もし勇者ではないのならばあの身を削るような、ある種悍ましい戦い方はできまい。そして『勇者』は世界の均衡を正すべく動く。自分の計画を引っ掻き回す万物の中心にいつもドルマゲスがいたこともその判断材料としては十分だった。

 

『…』

 

杖の中のラプソーンが思い起こすのは遠い遠い…しかし決して忘れられぬ忌々しい記憶。数百年前に自分が下等生物たるニンゲンに後れを取り、無様にも封印された屈辱の記憶。…そう、『七賢者』たちもまた『勇者』だった。自分がニンゲンごときに打倒されたのは、幾度斃そうとも憎き七賢者たちはその度に復活し、折れぬ闘志で向かってきたからである。

 

『復活すれば、またこの男は我を妨害しようとするだろう。…もちろんその度に殺してやるのも一興だが……』

 

「ラプソーン様?」

 

『…。それも生温い。』

 

「…?」

 

端的に言ってしまえば、ラプソーンはドルマゲスを嫌悪していた。天敵と言ってもいい。最終的には光の世界と闇の世界の両方を支配し君臨するという野望を持つラプソーンにとって、自分に反抗し、こちらの望まないことばかりを的確にやらかし続け、何もかも思い通りにならない…『支配』から最も遠いドルマゲスは他の何より苛立たしい存在であることは間違いなかった。

 

ハッキリ言って、もう顔も見たくないのだ。最早今では殺したいとすら思わない。

 

『この道化には我と同じ屈辱を味わせてやらねばなるまい…』

 

「…と、言いますと…?」

 

『…東へ向かえ。魔力を奪い、霊力に鍵をかけ、肉体を封印する。自ら死を望むほどの永遠の牢獄へこの哀れな道化を沈めてくれるわ……』

 

「しょ…承知しま、致しました!」

 

ゲモンの持つ杖がビリビリと震える。その声色だけでも十分に窺い知れる暗黒神の静かなる怒りに、思わず身震いしたゲモンはすぐに翼を翻して移動を開始した。

 

 

─北の大陸・とある場所─

 

「…ッ!?」

 

「失せろ、ザコがッ!」

 

「ギィエエェェ………ッ!!」

 

ラプソーンの言いつけ通りにリブルアーチから東へ飛び、手ごろな場所を見つけたゲモンは、着地すると同時にその場にいた魔物を掴んで引き裂き、傍にあった樹木に磔にした。みせしめ…もとい魔物避けである。きわめて暴力的な方法ではあるものの効果は覿面(てきめん)であり、一瞬にして周囲から魔物の気配が消える。

 

「ラプソーン様、到着いたしました」

 

『…。気取られてはいまいだろうな…』

 

「もちろんでございます!あのアホウドリはきっと今も暢気に卵の世話ですよ!」

 

『隔絶された大地』…その「神鳥の巣」に住まう神鳥レティスは、ラプソーンにとっては宿敵…当時の七賢者たちが既に老衰で全員亡き者になっていると考えると、最後の宿敵である。数百年前の戦い、総力戦の末に七賢者たちはラプソーンによる光と闇、二世界の融合を阻止したのだが、既に力を使い果たしていたレティスはそのまま闇の世界に取り残されてしまったのだった。それを闇の遺跡でゲモンから聞いた時には哀れな、とせせら笑ったものだが……実際こうして闇の世界に帰還するとなるとその存在は厄介極まりない。

 

ラプソーンが世界を統べる悪魔であるとするならば、レティスはさながら世界を渡る神の使い。お互い数百年程度では実力は一つも衰えない。加えてこちらは未だ不完全体。

 

…現時点での会敵は不利。そう悟ったラプソーンは移動中はオーラを隠し、杖の中で身を潜めていたのだった。

 

『…よかろう。ではすぐに終わらせるとしようぞ…「代われ」』

 

「仰せのままに!」

 

神鳥の杖が妖しく揺らめく深紫の輝きを放ち、ゲモンの身体に瘴気が満ちる。肉体の主導権がラプソーンに渡ったのだ。杖の中にいる時よりもエネルギーの消費が著しいのは難点であるが、封印をゲモンに一任するのは心許ない。これまで幾度もドルマゲスに出し抜かれてきたラプソーンに抜かりはなかった。

 

「…。」

 

万一を考慮してラプソーンは念で大気の流れを探ったが、大きな力の動きはない。レティスには気づかれていないようだ。それを確認したのち、開けた場所にドルマゲスを打ち棄て、瞑想…徐々に気を高めていく。

 

「……………」

 

草木が揺れ、小動物や虫が騒めきだす。力の奔流に呑まれ正気を失い、右往左往する小さく矮小な生き物たち。ラプソーンはそれらを幾許か煩わしく思いながらも集中を切らすことは無い。

 

魂も肉体も完全でなくても、現時点での最大限の封印を。ラプソーンは既にドルマゲスをかの七賢者たちと同等か、あるいはそれ以上の危険因子として捉えていた。

 

『ゾーン必中』。瞑想によって120%のポテンシャルを引き出したラプソーンはドルマゲスの胸に手を当て、勢いよく全ての魔力を吸いだした。そして次に眉間に手を当て、霊力に鍵をかける。投げられた際に身体の下敷きになっていたのか、ドルマゲスの下から這い出てきた虫が自身の頬をかすめるもまるで気に留めない。

 

「さらばだ、哀れな道化よ。『勇者』ドルマゲスよ。我の統治する素晴らしき新世界の誕生をここで指を咥えて見ているがよい……ぬがぁっ!!」

 

ラプソーンは最後の仕上げとして、ドルマゲスを中心に紫電迸る極小のバリアを張った。外からの衝撃には弱い代わりに内側からは『絶対に』破れない強固な結界だ。外からの衝撃に弱いと言っても内側と比較して、の話……ゲモン程度の攻撃では歯牙にもかけない強度を誇り、仮にレティスが気付いたとしても破るには数年はかかるだろう。

 

ドルマゲスに意識はない。確認済みである。

 

しかしドルマゲスは死んでいない。それも確認済みである。

 

しかしドルマゲスは自力で移動できないほど肉体を損傷している。確認済み。

 

回復するための魔力は全て奪い、この手の中に在る。確認済み。

 

結界内に傷、あるいは魔力の回復に使えるような物質はない。確認済み。

 

誰がどう考えてもここからの脱出など不可能……しかしラプソーンはその上で結界内の時の流れを限界まで緩やかにする呪文を唱えた。ユリマの精神に巣食ううちに習得した重力魔法…その応用である。奇しくもそれは数百年の時を過ごし、光と闇、二つの世界を行き来する暗黒神の手によって変異したそれは、まさしく『時空魔法』とでも呼べる完成度を発揮した。

 

「ククク…これで老いることも朽ちることもあるまい…変わらぬ死に体のまま痛みに悶え苦しみ、その籠の中で悠久の時を過ごすがいい…」

 

闇の世界を統べる神からの問いかけに、しかし紫の籠に囚われた道化師は何も答えない。だがその沈黙こそが求めた答え。ラプソーンは口角を吊り上げ、ゲモンの肉体から杖へ撤退した。そして完全なる復活を遂げるべく、次の賢者を殺しに向かう。

 

肉体を返還されたゲモンは結界内のドルマゲスに向かって唾を吐き、再度出現した空間のやぶれ目から光の世界……雪の町オークニスへと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラプソーンに油断は無かった。トロデーンの時のように外部から思わぬ横槍が入ることを警戒し、ユリマやサーベルトを無視してあえてドルマゲスだけを単体で攫い、レティスにも気付かれぬよう細心の注意を払ってきた。

 

ベルガラックの時のように周囲に仕掛けを施されて妨害されることを考慮し、自分のフィールドである闇の世界、それも人間や魔物のレベルアベレージが最も低い北の大陸で事を行った。

 

闇の遺跡の時のように宿主に行動を阻害されることを危険視し、自分に従順な端末であるゲモンを闇の世界から呼び寄せて使った。

 

その上で死の間際まで肉体を損傷させ意識を奪い、全ての魔力を奪って魔法を、霊力に鍵をかけて呪術を使用不可にし、外的手段による回復をも奪い、しかし朽ちて死亡することがないよう時の流れを変え、極めつけに自身でも破るのに苦心するであろう会心の出来となる封印結界を施した。

 

再度になるが、ラプソーンは口では軽んじていながら、内心ではドルマゲスを自身の完全復活、その最大の脅威として認識していた。油断も侮りも驕りも抜かりもない、自身の知恵を全て振り絞った、狂気を感じるほどの用意周到さだった。

 

 

 

 

 

…そう、()()()()()()()()()()()

 

故に、穴があった。

 

一つ、彼の考案・開発した『魔術』は既に魔法や呪術とは異なるプロセスを踏む、独自の体系を持つようになっていたこと。かつてラプソーンが嗤ったそれは呪術ではない。霊力を封じてもそれは変わらない。千年の時を生きるラプソーンの膨大な知識は、ドルマゲスの魔術を『呪術の類である』と分類してしまった。

 

一つ、彼は『勇者』ではなかった。他のニンゲンと同じ、殺せば死ぬ虚弱な存在。ラプソーンは彼を封印するのではなく、人の形をした肉片になるまで尽く殺し尽くすべきだったのだ。しかしラプソーンは彼の復活を恐れ、封印を選んだ。

 

一つ、彼は分身出来た。姿を偽れた。そして……ラプソーンが彼を憎み、確実に始末してくるであろうことをよく理解し、保険をかけていた。…ということにラプソーンの考えは及ばなかった。この状態からは何もできない。それは経験則より導かれたもの…長く生きすぎた故の弊害だった。

 

長い長い時を生き、世界の全てを知り尽くしたラプソーンにとって…世界の外からやって来た『彼』の存在はまさしく盲点(スコトーマ)だった。

 

 

 

 

フラフラと力なく飛ぶ、一匹の黒黄金(クロコガネ)。飛ぶというよりかは落ちている、と表現するのが正しいか。どこへ行くのか、どこまで行くのか…そんなものは誰にも分からない。意志を持たないのが虫の蟲たる特徴である。ドルマゲスの身体から這い出てきたそれは、ラプソーンの頬をかすめて飛び立ち、今に至る。仮にそこにいたのが確実に対象を封印せんと集中しているラプソーンでなく気の短いゲモンであったなら、その不敬な虫は即座に消し炭になっていただろうが…。

 

落ちて、落ちて、落ちて、落ちた。黒い森の地面で動かなくなった虫は、その姿を変えていく。現れたのは…封印されたはずの道化師。

 

『色のある』それは、しかし黒ずんだ血に塗れ、到底生きているとは思えない。

 

魔物たちですら気味悪がって寄り付かず、『それ』がある空間はまるで時が止まったかのようだった。

 

「……?あ、あれ…なんだろう?」

 

「わからない…いや、もしかして……『人』なのか……?」

 

「ひ、人なら……もし生きてるなら急いで連れて行かないと!」

 

やってきたのは闇の世界のトラペッタの…とある青年とそのガールフレンド。

 

 

 

ラプソーンはまたしても、この道化師を、ニンゲン(下等生物)の可能性を見誤った。

 

 

 

 

 

 




『悪魔の見る夢(アストラル)』…ドルマゲスが最初に生み出した三つの魔術の内の一つ。魂を分割し、自分の分身を増やすことができる。しかし分身したところで意識が無いならば意味を成さないはずだが…。

『妖精の見る夢(コティングリー)』…変身呪文『モシャス』を参考に考案された魔術。外見だけでなく体の構造も姿に引っ張られる。それが『新しい真実の姿』となる故に「いてつくはどう」や「ラーのかがみ」の影響を無視することができる。例えば人を犬に変身させれば、能力を解除するまでその人間は高度な思考能力を失うだろう。カラスを人間に変身させたとてすぐに話せるようにはならないが、空を飛ぶ能力は失われる。
虫には意識が無い。意識が無くとも、意志が無くとも、死んでさえいなければ生存するために動く。跳ねる。飛ぶ。そこに魂が在る限り。
偽りには真実を混ぜるのが最も効果的である。妖精はそうやって人の支配する時代を隠れ続けてきた。


ドルマゲス
レベル:68
備考
・肉体の95%が封印(全ステータス95%ダウン)
・魔力を奪われた(最大MP0)
・呪術が使えなくなった







七賢者が勇者(不死属性持ち)であった…というのは捏造です。が、竜神族でも神でも魔物でもないただの人間が暗黒神を追い詰めるところまでいくためには……やはり命がいくつあっても足りないのではないでしょうか。
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