ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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皆様のおかげでこの小説も100話を突破することができました!日頃の感謝に加え、重ねてお礼申し上げます。元々この小説はトロデーン城(第十章)で終わらせるつもりでした。せっかくなので構想のまま終わったその幻の最終回を少しアレンジし、ここで供養させていただこうと思います!


閲覧自由です。本編には関係しないため、読み飛ばしていただいても大丈夫です。





⚠今話にはドラゴンクエストⅪ(イレブン)のネタバレが含まれます!⚠








(閲覧自由)100話突破記念番外編 過ぎ去りし時を求めて

 

 

 

──

 

 

 

───

 

 

 

「…ん」

 

背中に感じる、硬く冷たい感触で俺は目を覚ました。視界に飛び込んでくるのは黄金の…天井が高い…高すぎない?天井見えないんだけど。

 

「どこだここ…」

 

繭の中だったり、草むらだったり、真っ黒い部屋のベッドだったり。なんか最近見覚えのない場所で目覚めることが多い気がするな…。とりあえず俺は硬い床から体を起こす。あー、身体重……。ここが死後の世界だと言われても別に驚きはしない。いつ死んだっておかしくないことばっかしてるし…どうせ一回終わってる人生…死ぬ気でやらなきゃ悲しくない人生はやってこないかんね。

 

さて。目覚めた場所は広い…塔?黄金の歯車で形成された塔のような建物に俺は一人でいる。…こんな建物、知らないけど。ライドンの塔?違う、こんな煌びやかじゃない。リーザス像の塔なんかもっとそう。

 

「えぇ…」

 

どうしよう、本当に知らない場所だ…闇のトラペッタで目覚めた後、なんやかんやあって俺はやっぱり死んでしまったのだろうか。ずっと床に座っているわけにもいかないので、立ち上がって(へり)から下を覗いてみる。うーん、底が見えん。明らかに支えがないのに空中を移動している床があったり、動力源の不明な回転するオブジェがあったり。少なくともここが人の手で作られたものではない、なにか超常的な力で成り立っている場所であることは間違いなさそうだ。

 

こんな場所から転落してはたまらない、と俺が後ずさろうとした瞬間、肩に手が置かれた。

 

「ウワーッ!?!?」

 

「…。」

 

ビビった!!めちゃくちゃビビった!!落ちるかと思った!!!誰だ?こんなところに人が…?慌てて振り返った俺は、そこで今度こそ転落するかと思った。目の前にいたのは八尺はあろうかという長身の化け物。やたら長い腕、水色に淡く光る肌、のっぺりした体…

 

「…ん?」

 

「…。」

 

……丸く黒い二つの目、その間の口のような穴…。なーんか。かすかに見覚え、ある。もしかして、もしかして……?

 

「…もしや…時の、番人…だったりしますか?」

 

「…。」

 

「…?」

 

ええと、違ったかな。敵意は無さそうだが…?一応俺は(へり)から離れ、謎の水色から一歩距離を取った。

 

「…。」

 

「あの…」

 

「そう。わたしは時の番人。時のゆくすえをみまもるもの。」

 

「おおう…やっぱり…」

 

時の番人。ドラゴンクエストⅪに登場する、忘れられた塔で「時のオーブ」を守護している存在。正体は時のオーブの破壊に失敗した賢者セニカ様の成れの果て。ドラクエⅪは俺が最後に遊んだドラクエだ。最早遠い記憶とはいえ、これだけわかりやすい特徴が目の前に現れてくれればちょっとは思い出す。とはいえ…俺はなぜこんなところに?

 

「それでセニカ様…じゃない、時の番人様?私はどうしてこんなところにいるのでしょう?」

 

絶対に初対面の相手にする質問ではないのだが、もしかすればセニカ様なら何か知っているかもしれない。

 

「せにか…?わたしはなにものでもありません。ただ時のながれをみまもるだけのそんざい……。」

 

「あ、はい。適当なこと言ってごめんなさい」

 

どうやらここが「忘れられた塔」なのは間違いないようだが…ドラクエⅧの世界に来たと思ったら、今度はドラクエⅪの世界に来てしまったのか?まだまだ向こうでやり残したこといっぱいあったんだけどな……。

 

「あなたをもとのせかいにもどさねばなりません。時のまよいびとよ。」

 

「時の迷い人…」

 

時の迷い人。はて。……俺のことだな、間違いなく。ということは死んだわけではなさそう。転移か、召喚か。……セニカ様は「元の世界に戻さねばならない」って言ってるし、召喚じゃあないな。ならばおそらくイレギュラー、望まぬ転移か。

 

「番人様。私の名はドルマゲスと申します。私はどうすれば元居た世界に帰ることができるのでしょうか?」

 

セニカ様は後ろを振り返り、祭壇に浮かび上がる球体を指さした。ああ、ここが忘れられた塔なら、あれは…

 

「このさきにある祭壇には『時のオーブ』とよばれるほうぎょくがまつられています。そのチカラをつかえばあなたのねがいもかなうでしょう。しかし…」

 

「ほう」

 

「あなたにはほんとうに失われた時をもとめるかくごがありますか?」

 

「えー…」

 

覚悟とか言われても。ないです!って言えば今後はこのロトゼタシア…だっけ?で暮らすことになるのだろうか。それはちょっと…

 

「…まあ、きいてみただけです。かくごがあろうとなかろうと、わたしにはあなたをおくりかえすぎむがあります。おくりかえすけんりもあります。」

 

あ、そうなの。流石は時の番人様。じゃあ頼んじゃおう。

 

「一応、覚悟はあります。私にはまだ為さねばならないことが山ほどあるのでね。…では、よろしくお願いします」

 

「…。いいでしょう。では、こちらへ」

 

俺はゆらゆらと歩く───といっても彼女に足は無いが───セニカ様に続いて祭壇に進み出た。俺の頭より一回りも二回りも大きな時のオーブは神聖な光を湛え、静かに時を紡いでいる(らしい)。

 

「それでは、私を元の世界に戻してください!」

 

「はい。ではどうぞ。」

 

「…」

 

「…」

 

「…え?」

 

「…どうぞ」

 

「どうぞって…え?何がです?」

 

「時のオーブをこわすにはすべてをたちきることのできるおおいなるチカラがひつようです。」

 

「…え??」

 

なんとなーく、嫌な予感がする。

 

「…」

 

「ま、まさか……その大いなる力って」

 

「勇者のチカラです」

 

「詰んだーーーーっっ!!!」

 

嫌な予感的中した!!俺勇者じゃないもん!ちょっと変な技が使える遊び人だもん!!!帰れない!!!!!

 

「あなたは…勇者ではないのですか…」

 

心なしかセニカ様のこちらを見る真っ黒まんまるな目…その視線が冷たいものになっているような気がする。いやいや、そんなこと言われても…

 

「えっと…どうしましょう…?」

 

「しかたないですね…なにか、かたいものなどもっていませんか。」

 

「?ええと、硬いものかたいもの…ああ、じゃあこれなどどうでしょうか?硬さだけならスゴイですよ。」

 

俺は『賢人の見る夢(イデア)』から「オリハルコンの棒」を取り出してセニカ様に手渡した。右腕が使えないって超不便だな…

 

「はい。ではこうやって…」

 

「?セニカ様?」

 

セニカ様がその長い腕をいっぱいに振りかぶったかと思うと。

 

「えい。えい。えい。」

 

「せっ、セニカ様ァ!?!?」

 

何をトチ狂ったのか、なんとセニカ様はオリハルコンの棒で時のオーブをガンガン殴打し始めた。あんた時の流れを見守るだけの存在じゃなかったの!?第一、勇者のチカラも込められてないただの棒じゃ時のオーブは…

 

「よし。こわれましたね。」

 

「壊れるの!?!?」

 

壊れるんだ。驚きでちょっと素が出てしまった。…それにしたってなんそれ。もうめちゃくちゃじゃないか…まあ、これで無事に帰れるなら、もうなんでも……

 

「こわれた時のオーブがぼうそうすればねじまがった時のうずにのみこまれてしまうかもしれない…そうなったらあなたはえいえんに時のはざまをさまようことになるでしょう。」

 

「そういうの先に言ってほしかったなぁあ!!」

 

なに、セニカ様ってこんな適当な人だっけ…もう随分昔のことだから記憶が…いやいや絶対違うよな。…ともかく、セニカ様の一方的な送り出し(ほぼ厄介払い)によってあれよあれよという間に俺は砕け散った時のオーブから溢れ出る、眩い光に包まれた。あーくそ、これで永遠に時の狭間を彷徨うことになったら俺の語彙が完全に擦り切れるまでセニカ様を罵ってやる。ラプソーンとゲモンはその倍罵って呪ってやる。

 

 

光は消え、そこにドルマゲスの姿は無かった。再び静けさを取り戻した時の祭壇で時の番人はただ佇む。

 

「さようなら、どるまげす…ぼうけんのしょのせかいにそとからきたひと……」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

で。

 

戻ってきましたよ。ドラクエⅧ(空と海と大地と呪われし姫君)の世界。戻ってきたは良いけども……

 

北の大陸はトロデーン城。光の世界の。しかも滅びる前の!

 

「(元々のドラクエⅧ世界に戻してくれるだけでよかったのに…)」

 

まあ、時のオーブの破壊が何を引き起こすかは一応覚えている。「過ぎ去りし時を求める」こと、つまり世界の流れを断ち切って過去に戻ることができるのだ。まさか時だけじゃなく時空まで司っているとは思わなかったが…オーブの性質上、仕方ないことなのだろうか。もうあの時代のユリマやキラちゃん、サーベルト、師匠には会えないのかな…。

 

えぇ、どうしたらいいんだろうこれから。一回寝てやろうかな。全部夢かもしれない。

 

「眠れないのですか」

 

そらぁね!眠れるわけないよ!後ろからよく知った声がしたので振り返ると、そこにはサーベルトがいた。少し若々しい…というかちょっとなよなよしてる?まだ死線を潜り抜けて来てないからだろうか。

 

「サーベルト…?」

 

「さ、サーベルト??おほん、…ドルマゲスさん、貴方はきっと何かを悩んでおられるのでしょう。」

 

んー??……あっ、そうか。トロデーンが滅びる前、そしてこの町の賑わい。今日はミーティア姫生誕祭の前日!サーベルトはまだリーザス様のお告げを信じてバリバリ俺を疑ってる時期じゃん!思わず今までの名残で馴れ馴れしく呼んでしまった。

 

「私が悩んでいるように、見えますか?」

 

「分かります。私は貴方を疑って馬車に同行した身、この二日間貴方を見てきました。…ゼシカの言った通り、貴方は変わり者だが、真っ直ぐな人だ。…とても何か大きな悪事をしでかすような人ではない、と俺は結論付けました。まずは貴方を疑ってしまっていたことを謝罪させてほしい。本当に申し訳ありませんでした。」

 

お、早速疑いが晴れた。見てますかリーザス様~?サーベルトは貴女より俺を信用してるみたいですよ~笑

 

 

 

…俺、あんたに鼓膜破られかけたのまだ全然根に持ってるからな。

 

「頭を上げてくださいサーベルト様。貴方は当然のことをしただけです、何も謝罪することなどございませんよ」

 

「…分かります。ドルマゲスさんは何か悩んでおられますね?それも、かなり大きな…()()()()()()()()()()お悩みを」

 

うーむ。正しくは()()()()()()()()()()()んだけど、なんと説明すればいいのやら…というところで俺は体の違和感に気がついた。

 

「(…お?)」

 

右腕が治っている。そうか、時間が巻き戻ったから…あれ、でもこの感覚、ちょっと待てよ…

 

「サーベルト様、ちょっと、ちょっとだけ離れていてもらえますか?」

 

「え?…ああ、はい……?」

 

俺は空に向かって呪文を唱えてみる。

 

「『ベギラゴン』」

 

俺の指から灼熱が迸り、空で東洋の龍を象ってうねる。お祭り騒ぎに浮かれるトロデーンの人々は天駆ける焔の龍を、余興か何かの出し物の一つだと思ったようで、皆空を見上げてはしゃいでいる。

 

「…おお……」

 

「なっ!?今のはドルマゲスさん…貴方が!?」

 

「あ、はい。よく分かりませんが私、魔法使えるようになりました」

 

「そんな、急に……!?」

 

右腕が治って魔力も回復しているどころか、この肉体…多分リブルアーチ時点でのそれと同じだ。だって本来この時点じゃ『メラミ』だって使えなかったはず。ということはこの時まだ不完全だった『妖精の見る夢(コティングリー)』や『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』だって使える…レベルは60後半ある…明日が生誕祭……

 

「ふむ…」

 

…あ。イケるなこれ。俺の明晰な頭脳が勝利の計算式を弾き出した。…と、実はこっそり起きていたのであろう、先ほどの俺の『ベギラゴン』を見た師匠が跳ね起きる。

 

「ドルマゲス…!?お前……!?」

 

「師匠……私、魔法使えるようになりました…!」

 

「…。……長い人生、何があるかまるでわからんな。…ふん、とりあえず、『めでたいことだ』とでも言っておくとしよう」

 

「!……ありがとうございます」

 

わしの開発した「大魔聖水」も使わず勝手に使えるようになりおって、と不機嫌になるかと思ったが、思いがけないことに師匠は少しだけ笑った。……そうか、やっぱりこの人は……。

 

「…ドルマゲスさん、魔法の才が開花したのは素晴らしいことですが……『悩み』というのは…もしやそのことだったのですか?」

 

おっと。少しばかり感慨に耽ってしまっていた。…しかし他人行儀のサーベルトも随分懐かしい…というか逆に違和感を覚えるな。サーベルトはもっとフレンドリィな方がいい。

 

「いいえ。サーベルト様の言う通り、私はとても大きな悩みを抱えております…しかしこれは私の問題。あなた方に話していいものかどうか……」

 

「この際だ、魔法が使えるようになって浮かれている間に全て話してしまえ、ドルマゲス」

 

「し、師匠…!?しかし…」

 

演技っぽくなってないだろうか。できるだけ前回のように振舞いたいが、流石に自分が何と言っていたのかまでは覚えていない。なんかこの時…何故か二人に話すの渋ってたんだよな、俺。未来知識のバタフライエフェクトがどうとか。まあおかげさまで闇のトラペッタなんて見たこともない場所に落とされたんですけども。

 

「マスター・ライラスさんはドルマゲスさんの悩みについて何かご存じなのですか?」

 

「いや、知らん。だがわしはこいつが何かを抱えておることには、トラペッタの町を出る前から感付いておった。何故かと?…愚問だな、わしが一体誰の師だと思っているのか?」

 

「師匠…!」

 

「さあ話せドルマゲス。お前の悩みを。」

 

「俺たちは貴方のために動く覚悟ができています。」

 

良い人たちすぎる…やっぱり二人とも最高ですよ。…ええっと…?もうこの時点で話すんだっけ。ラプソーンのこと、七賢者のこと、杖のこと。あと、俺が操られるだろうってことくらい?…それくらいだったような。違うかったような。まあ、いいか。

 

「…二人とも、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて相談させていただきます。まず────。」

 

どんな馬鹿げた話であろうと、真摯に話せば二人とも信用してくれるということは知っているので、俺は前置きもそこそこに前回話したであろうことは大体伝えた。そんでもっておそらくどうやってもトロデ王は俺に杖を見せようとするであろうことも伝えると、師匠は顔を顰めていた。師匠からトロデへの心象ってあんまり良くないみたいなんだよなあ…まあでも、それは自分が蒔いた種ってことで。トロデは恨むなら杖のことを碌に後世に伝えてこなかった歴代トロデーン国王と、トロデーンに杖を設置した七賢者『神の子』エジェウスを恨んでくれ。

 

 

「────というわけです。いかがでしょうか。」

 

「い、いかがでしょうか、と言われても…にわかには信じがたい話ですが、貴方がこんなところで嘘をつくようにも思えませんし…。」

 

「ですよね!ありがとうございます!」

 

「…??」

 

「…。」

 

「…ドルマゲスよ、お前…何か変わったか……?」

 

「…。」

 

流石に元気すぎたか?いや、さっきまで重かった身体も今めちゃくちゃスッキリしてるし、明日のこと考えたらもう楽しみで楽しみで。…怪しまれても仕方なかったかもしれない。自粛します。

 

「いえ…この荒唐無稽な話をお二人に受け入れていただけたのが嬉しくて…!私は、いい人たちに巡り合えたんだな…と、柄にもなく心が躍ってしまったのです。申し訳ありません。」

 

「……。やれやれ、何者かにすり替わられているのかと一瞬警戒したが、そのくどい話し方は確かにわしの弟子に違いあるまい。…いい、続けろ」

 

「はい!」

 

それからは明日のことについて話し合った。前回は4つくらい作戦を立てていたような気がするが、もう今回はそんなもの必要ない。

 

 

「────という作戦で行こうと思っているのですが、どうでしょうか。」

 

「…。」

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「…頭のおかしい作戦を、わけのわからない理論と聞いたことのない前例で補強するな。夢でも見ている気分になる」

 

「ええと、よく理解できていないのですが、要するに俺は王や姫、城内の方々を守ればいいんですよね?」

 

「はい、この中で一番俊敏に動けるのはサーベルト様なので…期待しています!」

 

俺があまりに食い気味なので二人とも若干気圧され気味になってしまっていたが、それでも最後は必ずこの国を守ろう、と誓い合い、堅い握手を交わした。

 

 

 

 

 

杖洗って待ってろよ、ラプソーン。愉悦に歪んだお前の声が絶望に変わる瞬間はしっかり聞き遂げてやるからな。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

翌日、姫の生誕祭は前回と同じように予定通り行われた。まず、俺たちは広場に集まり、トロデ王のありがたい演説(やっぱり今回も9割強が娘自慢だった)を聞き、その後にミーティア姫の演説。それから国民は姫の成人を祝う祭りに繰り出し、俺たち招待客は城内の謁見の間で姫に余興を披露する。

 

ミーティア姫の演説は何度聴いても良い。実にいい。俺がディムとして彼女たちと旅をしていた時も王族としての気品、そして覚悟は端々から感じられたが、彼女が最も輝くのはやはり民衆の前に立った時だ。ミーティアはトロデーンの次期女王としてこの国をきっと素晴らしい国にしてくれることだろう。西方の高慢傲慢卑怯ふとっちょクズカス下品のクソチキンにもぜひ見習ってもらいたい。…奴が姫の許嫁なのが許せん…俺の方がアイツよりマシなんじゃ…いかんいかん、それは勇者エイトの役割だ。

 

そして俺たちは城内に招かれた。城内に足を踏み入れると、早速不快な声が脳内に響く。その波動は凄まじく、思わず眩暈がする…だろうな。この当時の俺なら。サーベルトが後ろから俺を心配してくれているようだが、俺は問題ない、と手でサインを出した。本当に問題ないんでね。

 

さて。玉座のある謁見の間で俺は余興を披露することになった。まずはなんとかの吟遊詩人、そしてなんとかの音楽家…この人たちも俺たちと同じ来賓だったろうに…元の時代ではイバラになってしまっていたのだろうか。そして来るは俺の番。

 

やはり目的が別のところにあると言ったとしても自国の王と王女の御前……しかもこの時代ではまだとはいえ、一時期は共に旅をした仲だ。自分の道化師としてのプライドだってまだあるからな。俺は宝物庫からビンビン飛んでくる強迫観念と念波をガン無視し、最高のパフォーマンスを披露した。出し、消し、煽り、惹きつけ、騙し、移動させ、光り、消し、また出す。

人類の知恵の結晶・手品。夢を現実にする力・魔法。そして俺だけが見せられる個性・呪術。この三つを組み合わせた我流演舞に……さらに俺は「イデア」「アストラル」「コティングリー」「ラグランジュ」。魔術もアドリブで組み合わせて一切のミスなく完璧に魅せきった。ふむ、長らく誰かにパフォーマンスは見せることはなかったが、腕は落ちてないようで安心した。また今度、今はまだアスカンタで働いてるキラちゃんにでも見せてあげよう。

 

 

「…す、素晴らしすぎて言葉も出んわ…こんな…そ、そなたがドルマゲスだな?噂に違わぬ名士!天晴れじゃ!褒めて遣わすぞ!!」

 

「いえいえ、どうも。」

 

「私も、こんな素敵で素晴らしい演目は初めて拝見いたしました…まるで夢を見ているようでしたわ…!」

 

「姫様の御所望とあらばいつでもお見せ致しますよ。」

 

「まあ!では明日も来ていただこうかしら、なんて!うふふ!」

 

「…おほん、トロデ王、そしてミーティア姫。お楽しみいただけたようで…何よりです。この道化師ドルマゲス、この身に余る光栄を受けて恐悦至極に存じます。」

 

俺は二人に笑いかけた後、恭しく頭を下げて引き下がった。脳をイバラに巻き付かれるような強烈な頭痛?ないない。あるけど屁でもない。闇の遺跡でユリマと殺し愛やってた時の方がよっぽど辛かったっての。

 

「ドルマゲスよ!そなたに見せたいものがある!マスター・ライラスとアルバートの世継ぎも共に来るがよい!あとのものは下がってよいぞ!褒美は大臣から受け取るがよい!大儀であった!」

 

「王様、このドルマゲスは先ほどの演舞で大変疲労しております!どうか休ませてはいただけないでしょうか!」

 

はい来ましたクソイベ。…サーベルトはこの時そんなことを言ってくれてたんだな。前回の俺はそれどころじゃなかったからなあ。

 

「心配するな!これを見れば驚きでどんな疲労も吹っ飛ぶわ!」

 

謎理論すぎる。しかし今思えばいくらトロデといえどもそんな無茶なことを言うはずがないので、彼もまた多少なりとも暗黒神に操られてたんだろうな。…にしてももうちょっとまともな理由は思いつかなかったのだろうか。

 

「しかし…」

 

「さあ、着いたぞ!これ、そこの門番よ…と、今日の担当はエイトじゃったか。客人が通る。()()()のカギを開けてくれい」

 

「了解しました、王様。」

 

あ、この時エイトもいたのね。こうして兵士として勤務している時もトーポは一緒にいるんだな。なんかの規律に引っかかったりしないのだろうか。ないか、ネズミだし。中身はジジイだけども。

 

「!ここが…!い、いけません、王よ!中に入っては…」

 

師匠も一応トロデを引き留めようとしてくれているが、昨日トロデが話を聞かないであろうことは伝えたので、半分諦めている様子だ。むしろ忌々し気にトロデを睨んでいる。師匠は自分も話聞かないくせして、人の話を聞かない人間が嫌いだっていう困ったさんだからな。

 

トロデは宝物を親に見せる時の子どもの様に軽い足取りで階段を上っていく。その姿を追った俺の目に、トロデーンの魔法の杖、もとい神鳥の杖が映った。その瞬間、肉眼で視認できるほどの濃い瘴気が杖から一気に立ち上る。ウン百年ぶりのチャンスにかなり舞い上がっているようだ。

 

「さ。師匠、サーベルト様、始めましょうか。」

 

「よ、よし…!」

 

「まあ、こうなっては仕方あるまい。王、そして姫よ。少々不敬を失礼する。『ラリホー』」

 

「なっ、なんじゃあっ!?これ…なに…を……す……」

 

「すぅ……すぅ……」

 

師匠はトロデとミーティアを眠らせ、サーベルトに委ねた。

 

「サーベルトよ、後は頼む」

 

「はい!トロデ王とミーティア姫は俺が命に代えてもお守りします!」

 

サーベルトが眠っているトロデとミーティアの前で仁王立ちしたことを確認すると、俺は禍々しいオーラを放つ神鳥の杖を掴んだ。その瞬間流れ込んでくる…強大な闇のチカラ。脳内に響く声。

 

『ククク…チカラに溺れた哀れな道化め…漸く、だ…貴様の身体を苗床に、我は完全なる復活を────』

 

「勝手に苗床にしていいわけないでしょ。このノンデリ野郎が」

 

『ぬ!?』

 

ほい、『悪魔の見る夢(アストラル)』。杖を持った10%の俺と、杖から離れた90%の俺に魂を分離させる。杖を持った方の俺はラプソーンの制御下に入ってしまうが……。たかだか10%。Lv.6の遊び人の身体能力なんてたかが知れてるんだよね。

 

「分身とは、なんとも弱者らしい小手先…ククク…良いだろう…暗黒の名を冠する神である我のチカラを見せてくれるわ…!」

 

「(お前も使ってたくせに!)師匠!来ますっ!」

 

「わかっているっ!」

 

ラプソーンは闇の波動を解き放った。原作でも、前回でもトロデとミーティアの姿を変え、トロデーン全域をイバラに包んだ呪いの波動。さっきは大口を叩いたものの、正直…最初の一発目だけは怖い。なにせ封印中とはいえ、ちまちまと数百年間蓄積してきた闇の力を解き放っているわけだからな。しかしこの技を引き出させないと今の俺でも安全に杖を制御できるかどうかわからない。

 

…だが。

 

「…な!?」

 

所詮は波動。『波』を操るのは得意分野なのさ。俺は『ラグランジュ』を応用し、闇の波動に逆位相の波動をぶつけて相殺した。消し漏らしは師匠が『シャナク』の呪文で全て浄化、飛ぶ瓦礫はサーベルトが叩き落す。まさか数百年分の闇の力が完封されるとは思ってもいなかったであろうラプソーンの動きがあからさまに鈍る。

 

「『ベギラマ』」

 

「……ハッ!そのような単調な攻撃が…」

 

「……単調な攻撃なんてお前には通じないよな、知ってる」

 

老獪な悪というのは本当に厄介だ。何度苦汁を舐めさせられたことか。

 

「な、炎が曲がっ…」

 

有り得ない気道を描く灼熱がラプソーンを烙く。今のはユリマの使う技。放った魔法を重力呪文で自在に操るなんて、とんでもない発想だよホント。…まあ、そんな『ベギラマ』もブラフで。

 

「頭がガラ空きだぞっ!」

 

灼熱に呻くラプソーンをサーベルトが地面に叩き落す。そしてそのまま急降下して「稲妻斬り」。雷撃の追加効果でラプソーンの動きが止まる。

 

「う、ぐが……」

 

へっ、不便な体だろう?ニンゲンの貧弱さを嘗めて貰っちゃあ困る。

 

「さっきは師匠のわしに尻拭いをさせたんだ!今度はお前がわしに合わせろっ!」

 

「了解ですっ!」

 

師匠が巨大な火球を生み出したので、俺は大きく飛び上がって負けないくらい大きな氷塊を形成させる。

 

「…ぐ…!!!」

 

「せっかくの機会だ。わしの魔法の実験台になれ、暗黒神よ」「ごきげんよう、哀れな暗黒神さん」

 

「「『メドローア』!!!」」

 

「…ッ!!!」

 

火と氷、相反する二つの巨大な力が融合し、純然たる魔力となる。その膨大な魔力の塊がラプソーンを飲み込んだ。

 

師匠も俺もトロデーン城が崩壊しないように多少は力をセーブしたが……この宝物庫はリフォームかな。

 

 

杖を持っていた10%の俺は掻き消え、杖だけが残る。俺がそれをひょいと拾い上げると、愚かな、だとか我は何度でもお前の肉体を、だとかと声が聞こえてくるが、魔力を流して黙らせる。最初の闇のチカラ全ブッパさえなければ、この時点でのラプソーンなど大した脅威ではない。今の俺なら十分杖の中にラプソーンを押し留めておける。

 

「サーベルト様、お二人は無事ですか?」

 

「はい、埃ひとつ触れさせていませんよ!」

 

「ふふ、貴方に任せて正解でした。ありがとう、サーベルト」

 

「…!あ、りがとう…!ど、ドルマゲス…」

 

「ドルマゲスよ」

 

「ええ、分かっています…後はお任せしますね。」

 

「ああ。さっさと終わらせて来い。世界の未来を頼んだぞ」

 

宝物庫で轟音がしたんだ、すぐに城の衛兵が駆けつけてくることだろう。眠っている二人や衛兵への対応を二人に任せ、俺は『ラグランジュ』で姿を消して宝物庫を後にした。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

──そもそもはこんなものが世界に存在するから悪い。元の時代ではもう…すでにチェルスが死んでしまったが……。本来、封印なんてものは災厄の先延ばしでしかない。次の時代へ、次の時代へ、とたらい回しにされていくだけだ。封印が解かれる可能性がある限り、脅威は終わらない。

 

 

 

図書室に着いた。都合の良いことに、利用者どころか司書も含めて図書室には誰もいない。皆城下町のお祭りに繰り出しているようだ。

 

 

 

──元凶を叩く、というのが最も確実だが、そのためにはやはり封印を解かねばならないわけで…それは難しい。

 

 

 

「『ラナルータ』、そして『レミーラ』」

 

昼が夜に変わる。外の人々は大変驚いているだろうが、もうじき『聖夜に見る夢(ジングル・ベル)』の雪が降る(鈴が鳴る)。今宵も「そういう」出し物だと思って楽しんでくれ。…誠に残念ながら今日は満月ではないのだが、月の光は神秘の光。同じ神秘の光である光魔法『レミーラ』でも十分事足りるはず。

 

 

 

──もっと手っ取り早いのは原因の封じ込めではなく放逐。すなわち、別の世界にでも放り投げてしまえばいい。生き物のいない世界であれば、自分を復活させるための端末も見つかるまい。

 

 

 

だから、開けてくれ。だってアンタ好きでしょ?人の子が運命に泥臭く抗おうとするのとかさ。

 

な、イシュマウリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────まさか、『月影の窓』がこじ開けられる日が来るとは。」

 

「お邪魔しまーす。お荷物の不法投棄に来ましたー。」

 

「…君は」

 

「ああ、こっちじゃ初対面だよな。初めまして。……うーん。俺はドルマゲスだけど…まあ本名は違うよ。…野暮だし言わないけど。…というよりアンタは知れるでしょうよ。俺の靴なり服なりの記憶を聴いてさ。」

 

「…フフ、面白い。そうか、君が異分子なんだね」

 

「…どうだろ。俺は元々高位の次元から転生してきた人間なわけだけど、今は未来から来てる『ドルマゲス』だから…正確には異分子の異分子なのかね」

 

「ふむ?」

 

イシュマウリは顎に手を当てて首を傾げた。彼にも分からないこと、理解するのに時間がかかることというのがあるらしい。しかし、考えに耽っているその表情は心底楽しそうだ。

 

ここは月の世界。月影の窓より通ずる異世界。月の民イシュマウリの住まう月の館以外何もない静かなる世界である。

 

「イシュマウリさん、質問いいすか?」

 

「…なんだろうか?私に答えられることならば。」

 

「足元に広がる月の世界の…海?…はどこに繋がってるんです?」

 

「ほう…」

 

イシュマウリは足元に目を向け、その場でくるりと回った。感情の読みづらいイシュマウリだが、どうやら今のこの状況はかなり楽しんでくれているらしい。

 

「…月の海はすなわち幻の海…帆は無く、船は無く、波は無く。何も無い…ということは全てが存在する、とも言い換えられる。」

 

「つまりここに落ちると?」

 

「無論、全てがあり、何もないのだから…永遠に落ち続けることになるだろうね。誰とも会うことなく、永遠のような一瞬を…全ての世界が閉じ、この月の世界も終わるまで永久に経験することになる。」

 

普通に怖。その割には足場は少し小さすぎやしない?

 

「重畳。ところで今回俺はそんな海にこれ…棄てに来たんだけど、いいかな。海洋汚染しちゃっても」

 

『やめろっ!貴様!!すぐに元の世界へ戻るのだ!!』「うるさい」『ぬぐっ…!』

 

「ほう…その杖は。」

 

「お、もしかして知ってたりする?」

 

「こうして目にするのは初めてだね。…なるほど、あの雛鳥がこの杖を…つい数百年前まで昼の世界が騒がしかった気がしていたが…それは杖の中の君の仕業だったというわけか」

 

「…ほんとにアンタ何年生きてんの?」

 

まるでラプソーンが近所のやんちゃ坊主扱いだ。雛鳥だった頃のレティスも知っているような口ぶりだし…マジで謎だらけだ『旧き世界』。

 

「許可しよう。仮にいずれ封印が解かれたとしても気にしなくていい。そこは月の海。夜の世界。少しばかり暗みが差した方がその風情も増すというものだ。」

 

『なっ!?おい!き…貴様!何を考えている!?早く光の世界へ戻るのだ!そして今すぐその薄汚れた手を放せ!!』

 

「言われなくとも。俺だって一秒たりともお前となんか一緒にいたくないよ」

 

『な…待て!やめ、やめろおおおぉぉぉぉ!!!!!』

 

俺はちらりとイシュマウリを見ると、思いきり杖を月の海に投げこんだ。最後の抵抗だろうか、紫色の光が一気に放出されるが…自由落下する杖に抗えずその紫もやがて点となり、すぐに視認できなくなった。

 

「これで君の気は済んだのかな?」

 

「まぁね。憂さ晴らしにはなったよ。それより『星の筋書き』だっけ。とんでもない乱し方しちゃってゴメンよ。」

 

物語が始まる前にラスボスを永遠の海に投げ入れてしまった。例えるなら小説のページを目次以外すべて破り捨てるがごとき愚行。シナリオが変わるくらいならまだ楽しめただろうが…

 

「…思うところはない、とは言えないが…君も随分と苦労しているようだね。そんな君の…運命に抗う人の子の努力に免じ、赦そう。」

 

「ありがとう。…さて、そろそろお暇しようかな」

 

師匠やサーベルトが今ごろ城の衛兵に詰められている様子がありありと思い浮かぶ。宝物庫を半壊させ、王と姫を眠らせ、おまけに秘宝の杖まで無くなっているのだから。今度こそ俺は大罪人だろう。そうなったらアスカンタでひっそり生きるのもいいかもな。リーザスには時々遊びに行けばいいし、ついでに変身して師匠にも会いに行こう。ユリマは…まあわざわざ呼ばなくたって知らないうちに近くにいそうだ。彼らはみんな以前の彼らとは違うが…また、一からやり直していこう。そうして俺の悲しくない人生を歩んでいこう。

 

「…おや、どうやら異分子の異分子は流石に世界の許容範囲外だったようだね」

 

「ん?」

 

イシュマウリの視線を追って俺の足元に目をやると…俺の足がゆらゆらと揺れている。もちろん実際に揺れているわけではない。陽炎…蜃気楼の類か…?

 

「これは…?」

 

「初めて見るものだ。…しかし、異質な時の流れを感じるね。繋がる先は時の狭間か、その先か」

 

「え」

 

「君はもうこの時代には存在できないようだ」

 

「え」

 

絶対セニカ様だ!!!やっぱ時のオーブを変なやり方で壊したから変なことになったんだ!!やだ!!時の狭間やだ!!!急いで俺はその場から飛び退くが、時のひずみはついてくる。場所座標ではなく、人物座標で発生しているみたいだ。…じゃあ不可避じゃないか!!!

 

「イシュマウリ、イシュマウリさん、様!これ、これなんとかなりませんか?時の狭間に永久放逐じゃ俺もラプソーンと同じになっちゃう!!!」

 

「出来ない相談だね。そも星の筋書きを強引に改稿し、時を歪ませたのは君だろう?」

 

「お、鬼!悪魔!!人でなし!!!」

 

「鬼も悪魔もいないのがこの静かなる月の世界。そして私は人の子ではない月の民」

 

「あああああっ!!!」

 

時のひずみはどんどん肥大化し、ついに俺の首まで飲み込んだ。ううっ、痛みや熱さはないけど…なんかめちゃくちゃ気持ち悪い…

 

「…まあ、せめて餞に希望くらいは贈ろうか。…そちらの時代の私にもよろしく、ドルマゲス」

 

「あああ!助け────」

 

 

 

時のひずみがドルマゲスの全身を覆ったかと思うと、糸がちぎれるような、プツンという音と共にその姿は消えた。イシュマウリは少し笑うと、何事もなかったかのようにまた館へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────…ルマゲス、ドルマゲス!」

 

「んん……」

 

「やっと起きたか。封印されたとかいうお前の力を取り戻しに行くんだろう?俺だっていつまでもつきあうわけにはいかないからな、はやく行こう!」

 

「サーベルト…ううん」

 

目覚めしは黒いベッド。ここは闇のトラペッタ。黒いサーベルトに手を引かれ、俺はベッドから立ち上がる。

 

「……長い夢だったなあ」

 

右腕は動かない。身体も重い。魔力も霊力もない。さっきまでの全能感が全て嘘のようだ。

 

「夢?」

 

「さっきまで、とても長い夢を見ていたんですよね。自分が過去に戻る夢です」

 

「へえ、それは面白いな!俺もユリと初めて出会った時のあの胸の高鳴りをもう一度感じたい…」

 

「…サーベルトさん?それ、今のユリマさんに聞かれたら多分拗ねちゃいますよ?」

 

「…あっ!?違うんだ、別に今のユリに不満があるとかではなくてだな…」

 

 

 

長い夢だったが…終わってしまうと名残惜しい。確かに有り得たかもしれない出来事、誰も死なず傷つかない、平和な世界。そんな世界にできたならどんなに素晴らしいだろう。…しかしそれはあくまでもしもの話。今この現実ではもはやそれは実現し得ない。

 

人は望まぬ現実から目を逸らすため道化を演じるが、それでは演じられた道化はどこに目を向ければいいのだろうか?…おそらく逃げ場は現実のどこにもない。だからきっと人は過去に思いを馳せ、過ぎ去りし時を求めるのだ。

 

「お、俺のことはいいだろう!それより、早くしないと置いていくぞ!」

 

「あー、はい。ごめんなさいすぐ用意しますので」

 

「…」

 

「(さながら『道化の見る夢』……なんてね)」

 

不便な体にむち打ち、俺はもぞもぞと寝間着から着替えると、左の手でドアを開けた。

 

 

 

 

 

 




『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』…トロデーンから逃げ延びたドルマゲスがサーベルトと共に旅に出る時に初披露した魔術。『妖精の見る夢(コティングリー)』と同時期に開発された。『波』を操ることができ、「光波」に干渉して姿を消し、「音波」に干渉して音を消し、「生体波動」に干渉して気配すらも消すことで、世界からその痕跡を消すことができる。ただ、波ではない「匂い」だけは消せず、また日の光の下では影が映るため完全とは言えない。その本質は『波の操作』であり…存在を消すことができる、というのはあくまで波の操作による副産物である。
蝶は音もなく飛行し、眼状紋で天敵から姿を偽り、その吹けば飛びそうな気配の希薄さは儚さの象徴とされる。しかし一方で蝶はその美しさと妖しさから、西洋では妖精と誤認され、東洋では『常世神』として畏怖されることもあった。羽ばたき一つで世界の裏側に『大波』を起こせる。それが蝶々である。





─忘れられた塔─

カミュ「なんだと?それじゃ、その時のオーブとやらのチカラを使えば過去に戻ることができるってのか?」

時の番人「はい。しかしその時のオーブはついさっき、そとからきたひとをおくりかえすのにつかってこわれてしまいました。」

グレイグ「なっ…!?」

セーニャ「そんな…っ!では、もう…お姉さまは……!」

マルティナ「セーニャ……」

時の番人「なんちゃって。よびの時のオーブがあります。ははは、だまされましたね。」

カミュ「おい、コイツ一発殴ってもいいか?」
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