ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
まあ、ACT7が始まってしまったのでまたしばらくはお預けですね。では、本編もどうぞお楽しみください!
今回、全然進みません。批判の多かったサザンビーク編のようなマンネリに陥らないようには気にはかけているのですが…。どうかご了承ください。
ハロー、パトロール中の用心棒道化師、ドルマゲスにござい。闇の世界の魔物は原作に出てこないものも含め、一様に真っ黒ですね。それだけならいいんですけど、こっちの魔物は味が悪い!もっと美味しく食べられたなら…戦闘を行うモチベーションだって上がるってものなんですけどもねぇ。
…
「こんにちは~」
俺は黒ユリマの実家…つまり闇の世界の占い師ルイネロの家を訪ねた。光の世界と同じく、黒ルイネロもまた占いの腕で成り上がった有名人だという情報は既に酒場で掴んでいる。占い…特に失せ物・探し人の捜索に特化した彼ならばきっと俺の本体も探し出してくれることだろう。
「…」
「こ、こんにちは~?」
「…」
「る、ルイネロさーん…?」
「…誰だか知らんが、帰ってくれ。おれはもう…占わんことに決めたのだ」
「…」
…探し出して……くれる……ことだろう…多分!
…
本来占いを行う場所であろう様々な装飾を施された部屋…の隣の居間でカーテンも開けずに(といってもそもそも太陽がないのでカーテンを開けても基本的に暗い)黒ルイネロは佇んでいた。足元には酒瓶が散乱しており、かなり長い間飲んだくれていることが分かる。俺は転がっている瓶を踏んですっ転ばないように気をつけながら部屋の奥へ踏み入った。
「帰ってくれと言ったろう…」
「こんにちは、私の名はドルマゲスと申します。…どうしても貴方に探して欲しいものがあり、今日はここまで来た次第でして…」
「…ああ、お前か。最近この街をざわつかせてる『イロモノ』ってのは。どうした?おれを脅しにでも来たのか?」
黒ルイネロは顔を少し上げて俺の顔をチラリと見ると、また視線を落とした。こっちに来てから服はこっちのものを使っているので、色付きなのは手足と顔くらいだ。顔も原作ドルマゲスよろしく白化粧をすれば違和感もなくなるのだろうが、毎日洗顔することを考えるとちょっと面倒なのが現状…。別に色付きであることを隠しているわけでもないし。
「ルイネロさんはこの町の中でも高名な占い師だと聞いて私はやってきたのですが…占いをしないというのは、その、どういう…?」
「お前に話したところでおれにメリットがない」
光の世界のように最近は占いが当たらなくなった、という話もこっちでは聞いていない。水晶玉関連ではないようだが…仕方ない。ちょっと揺さぶってみるか。闇トラペッタは原作知識こそ全く通用しない未知の領域だが、光の世界の知識があればそれなりには活用できるはず。
「ユリマさん…」「!」「…関連ですね」
黒ルイネロの眉がピクリと動いた。おそらく当たっているのだろう。どっちの世界でも変わらんな、この不器用オヤジめ。
「…お前、何をどこまで知っている?」
「ユリマさんと貴方が実の親子でないことくらいですが。」
ここが光の世界と違うとはいえ、家族構成、血の繋がりくらいは流石に変わっていないだろう。ということは向こうと同じく黒ルイネロと黒ユリマもまた義理の親子のはずだ。
「……ユリマが話したのか?」
「……ええ。」
かなりグレーゾーンだが、一応嘘はついてない。ユリマから聞いたのは本当だ。こちらの世界の彼女ではないだけで。…まだ無垢で可愛げがあったころの幼女ユリマちゃんである。まあ、今のあの子に魅力がないわけじゃないけどねー。
「…。なら、話くらいはしてやろう」
「(長くなりそうだなあ…なるべく短めでお願いしたいところだけども…)」
「……寂しいのだ」
「…」
「…」
「は?」
長話を覚悟していたのだが、思っていた256倍は簡潔だった。思わず直情的な言葉が漏れてしまったので慌てて取り繕う。もう少し、もう少しだけ詳しく…
「…と、『寂しい』とは?ルイネロさんはユリマさんと仲が良くない…とか?本当の親子ではないことを黙っていて、それで彼女とケンカをしてしまった…だとか?」
「いや…そんなステージはとうに過ぎている」
「…と言うと?」
黒ルイネロは瓶に残った酒を一気に呷ると、空き瓶を床に転がした。
「お前の言う通り、おれはユリマとケンカをした。おれとユリマの血が繋がっていないことを黙っていたことでな。あの子の本当の両親をおれの占いによって間接的に殺してしまったことを知った日、おれは滝の洞窟へ水晶玉を捨てに行った。占いの才に溺れ大切なものを見失ってしまった愚かな自分と決別したのだ」
洞窟までは一人で行ったのか?こっちじゃ魔物たち一体一体が人間を容易く殺められるチカラを持っているだろうに、大した度胸だ。並の覚悟ではそんなことは思い立つまい。
「ほうほう。おや?しかし先ほど私がこの家にお邪魔した時には水晶玉のようなものが見えましたが…」
ガンッ!と大きな音を立て、黒ルイネロは空のグラスをテーブルに叩きつけた。かなり気が立っているようだ。俺は少しだけ椅子を引いた。
「…そうだっ!だのにどこから聞きつけたのか、サーベルトとかいう男がおれの水晶玉を勝手に取り戻してきおったのだ!もう失くさないようにな、などとこのおれを憐れみおってからに!失くしたわけじゃない!だれがわざわざあんな所まで行って水晶玉を失くすものか!」
「…道理ですね。特に理由なく人は魔物の巣窟に踏み入ったりなどしません。」
あー。なんか想像できるなー。サーベルトならともかく、黒サーベルトならやりそうだ。ありがた迷惑というか、余計なお節介というか。それが善意からのみ来ているものであるのは間違いないが。
しかしなんとなく事態は把握した。おそらくは原作でエイトが最初にこなすはずのイベント…を闇の世界では黒サーベルト(面倒なので以後「黒サー」とでも呼ぼうかな)が遂行したのだろう。多分こっちでは一人で悩んでいる黒ユリマに黒サーが声をかけて事情を知り、黒ユリマの頼みで水晶玉を取り戻したのだ。黒ユリマが黒サーにべったりなのはきっとここがオリジンなのだろう。
「(黒サーは多分ザバンさんも殺してるんだろうなあ…。)」
「人が並々ならぬ覚悟を持って手放したものを涼しい顔で持ち帰ってきおって!…しかし俺が最も許しがたいのが…」
「ユリマさんが彼について出て行ってしまったこと…ですね?」
原作エイトや光の世界で俺が水晶玉を持ち帰ってきたことがそこまで咎められなかったのは、あのイベントを通してルイネロとユリマ、二人の親子としての絆が深まったからである。こっちは黒ユリマの性格がやや向こう見ずなため、父親との和解もほどほどに、黒サーに一目惚れしてそのまま彼についてホイホイと出て行ってしまったのかもしれない。せっかくわだかまりの解けた娘とは同じ町に住んでいながら別居。手元に残ったのは自分の意志で手放したはずの水晶玉。出て行かれた側の黒ルイネロとしてはさぞ面白くないことだろう。
「ああ。それからというものの毎日がどうもやるせなくなってしまってな。ユリマが諦めないで欲しいと言ってくれた手前、もう水晶玉を捨てる気はないが…やはり占いもやる気が起きんのだ。」
誰が悪いかと言われると…。うーん、絶妙に誰にも責任がないのがややこしい。黒ルイネロはそれが贖罪だと決意し、その表明として水晶玉を棄てただけ、黒ユリマも父親との確執を解消したかっただけ、黒サーは困っている人を助けてあげただけ。
「ルイネロさんの事情はよく理解しました…が、私にも引けない事情がありまして。どうか今回だけ占ってはもらえませんか?代金ももちろんお支払い致しますので…」
「…」
黒ルイネロの顔色(この場合は勿論色ではなく「顔つき」の方である)は依然として暗いままだが、その背筋は少し伸びていた。
「…心の内を吐露するというのは思ったよりスッキリするものだな。少し楽になった。話を聞いてくれた礼として────」
おおっ、行けるか?
「お前に遣いの依頼をしてやろう。それが無事に終われば占ってやらんでもない。勿論代金はいただくぞ」
ちょっと期待持たすんじゃないよ。ちょっと上からなのも何なんだ…?俺が色付きだからか?お?色付き差別か??
「…。おつかいの内容は?」
しかし占いを諦めるとなると次の策を考えるのが面倒なので、俺は文句の一つも言ってやりたいのを飲み込んで話を進める。黒ルイネロは少し顔を赤らめて咳ばらいをすると、照れ臭そうに机の中から紙きれを取り出し、ぶっきらぼうに手渡してきた。
「…これをユリマに」
「?なんですか?これは…」
「見て分からんか?手紙だ」
「は?」
手紙を?同じ町に住んでいる娘に?
「おれの気持ちを伝えたいのだがどうも口頭では言いづらくてな…なので手紙をしたためたものの、今度はわざわざ手紙を投函しに行くくらいなら口頭で話す方が効率的だ、と思ってしまってな。どうも腰を上げられなかったのだ」
「…………。郵便屋さんに頼めば…」
「お前は阿呆か?同じ町に住んでいる人間に出す手紙に何故わざわざ郵便を介す必要があるのだ」
「……………………。」
不器用にもほどがあるだろ!俺はもう呆れを通り越して苛立ってすらきていたが……これで占ってもらえるなら安いもの、と自分に言い聞かせつつ手紙を受け取った。
「…では!この手紙はユリマさんに渡しておくので占い…お願いしますよ」
「ああ。頼んだぞ」
俺は気持ち強めにドアを閉めてその場を後にした。口じゃ本心を言えないから手紙で…と言うのはわかるが、ならせめて自分で渡せよ、と言いたい。それともこういう感情は意外と一般的なものなのだろうか?
…
「はーい…誰…え"」
「こんにちは~」
「…」
「ちょっ!閉めないでください!」
黒サーの家を訪ねると、丁度いいことに黒ユリマが出たのだが、黒ユリマは
「昨日いきなり外に放り出したのは謝りますからぁ!」
「…いや、あの、ピクニック…自体は楽しかったんです…けど…」
「?それはよかったですが」
「やっぱりあなたを…サッちゃんに会わせたくは…ないです」
「ちょちょちょ!閉めないで!(力強すぎ!?)」
隻腕の俺は無様に力負けし、明らかに常人を超えたパワーでドアを閉められてしまった。仕方ないのでドアの隙間から手紙をねじ込む。黒ユリマはまだドアの前にいたようで、紙が拾われる音と共に彼女が息を呑むくぐもった音が聞こえた。
「!」
「はぁ…はぁ…私が今日用事があるのはユリマさん…あなたなんですよ。ルイネロさんからの…御手紙です…」
「お、お父さんの!?なんで…」
「私は内容を知りませんが…できれば早めに読んでお返事を書いて頂けると助かります…」
「…!」
「では、私はこれで…」
「ま、待って!返事は今すぐ書きますから…ちょっとそこで待っていてください!」
「…あ、わかりました」
「…」
…待ってくれと言われたものの、別に家に入れてくれるわけではないようなので、俺は玄関に腰かけた。空は相変わらず晴れてるんだか晴れてないんだか分からない気持ちの悪い天気だ。
「(なんか……)」
ちょっとやりにくい。嫌になるほど…と言うわけではないが、こっちの人間は光の世界よりややクセが強い…気がする。やはり、闇の世界では光の世界よりも魔物の脅威が大きい、というのが一番の理由だろう。人々は外界を恐れ、変化を恐れ、内向的で疑り深い性格になっている。抑強扶弱の精神が全面に出ている黒サーはサーベルトのように魔物との対話なんて絶対に許さないだろうし(セキュサは魔物ではなくそういう対魔物用の兵器だと説明した)、魔法薬学の研究をしていない黒ライラスは俺の魔術をただただ気色の悪いものとして見ている。黒ユリマは俺を勝手にライバル視してるし…この様子じゃ多分キラちゃんももっと怖がりになってるとか、めちゃくちゃ性格悪くなってるとかの可能性は十分ある。よく知っている顔ぶれだが俺の知っている彼らとは全く合わない、その強烈な違和感。
とどのつまり……
「(帰りたい……)」
俺は
「なにこれ!!!『わたしにサッちゃんと別れろ』って……どういうことなの!!!」
「はあ…」
無理だろうなぁ。家の中からほぼ金切り声に近い怒号が聞こえ、俺は深くため息をついた。蹴破られんばかりの勢いでドアが開かれ、俺は思わず飛び退く。
「(…あんの不器用オヤジめ……!もうちょい言葉選んでくれよ…)」
「ドルマゲスさん……これは一体どういうことなんですか…?」
「えー…私は手紙の中身について一切関知していません…ので、その包丁はとりあえずこっちに向けないでください」
なんでこの子包丁を常時携帯してるんだろう。どこぞの料理人じゃあるまいし。
「…お父さん、いつも私のことを想ってるって言ってくれてたのに……」
「…ならユリマさん、今からお父さんのところへ行きましょう。直談判です。」
「え?…で、でも今すぐに行くのは……」
「お父様は貴方の為を想って…」とここで黒ユリマに説教を垂れることもできるが、彼女に嫌われている俺が言うと話が拗れる上に一刻も早くこんなイベントは終わらせたいので…ここは二人を直接引き合わせるのが無難だろう。どうせ近づいたらキレるのはわかっているので手招きで催促する。
「心配ならサーベルトさんと一緒に行きますか?」
「い…いや!わたし一人で行きます…から!サッちゃんには会わないで!」
徹底してるなあ。どんだけ俺を黒サーに会わせたくないのか。愛だねぇ。
「はいはい、じゃ早速。『
「えっ!?またですかぁっ!?」
ならば多少なりともその愛を父親にも分けてあげてやってくれ。黒ユリマを直接実家に送り届けた(送りつけたとも言う)俺は、荷造りをしに一度黒ライラスの家へ戻ってから黒ルイネロの家へ向かうことにした。親子喧嘩の仲裁に入ってあげるほどこっちも暇ではないのだ。
…
「…ドルマゲスよ」
「なんでしょうか?ライラスさん」
俺は黒ライラスにもうすぐここを出て行くと伝え、荷造りを始めていた。荷造りと言ってもこっちで手に入れた服や道具を全部異空間に放り込んで部屋を掃除するだけの簡単な作業だ。
「お前のその腕…」
「ああ、この右腕ですか」
俺はだらりと垂れ下がった右腕をさする。以前黒ライラスから説明を受けたのだが、肩から先の神経細胞が完全に死んでしまっているらしい。その一方で右腕そのものの物理的破壊、化学的損傷、血流の減少、他組織学的異常は全て彼に直してもらった。薬学をやっていないこちらの世界の彼は医学を研究しているらしく、心筋や神経など再生できないもの以外は大抵治せるのだとか。…凄すぎないか?
「お前はもうこの町を去るんだろう?せっかくだ、切除してやろうか」「怖っ!なんですか藪から棒に」
何がせっかくなのか。話を聞くと、確かにその右腕は血も水も通っているし腐ることはないだろうが、ただ壊死していないだけであって、今後も回復の見込みは全くないのだという。痛覚・圧覚が無いため知らぬ間にケガをしてそこから病に罹る可能性もあるそうだ。
「そこまでしてやる義理などないとは思っていたが、この二週間、お前は割と精力的に働いてくれたからな。麻酔くらいは施してやろうと思ったのだ。…ほら、これを飲め」
「お茶ですか?ありがとうございます」
俺は特に何も考えず出された苦いお茶をすする。精力的に働いていなければ麻酔無しで右腕を切除するつもりだったのだろうか?人の心…
「ふむ…」
しかしどうしようか。ほぼ死体の状況からここまで快復させてくれた確かな腕を持つ黒ライラスがこう言うのだから間違いなく回復の見込みはないのだろう。彼の巧みな技術により俺は幻肢痛などに悩まされることなくこれまで過ごしてきたが…感覚を失った腕というのは正直持て余す。俺の意思に関係なくブラブラ揺れて危ないし、腕の筋肉が機能していないことから肩にもかなりの負担がかかっている。いざという時に思うような動きができないと考えると怖い。「安いもんだ、腕の一本くらい…」とは言いたいものの、さりとて二十幾年物。むむむ。
「…大変ありがたい申し出ですが、わたし…は……」
あれ、なんか…ねむ……
…
「ん…」
「ちょうど起きたか。終わったぞ」
「え…?」
「ほら、お前の右腕だ」
「…は?」
気がつけばベッドの上…この表現も何回目だよ。まだ脳が覚醒しきっていない俺の前で、黒ライラスは俺の膝の上に人間のものとみられる腕部(と手)をそっと置いた。
「…え?」
「腕だ」
数秒のフリーズを経て俺の脳内は最悪な結論に至り、思わず自分の二の腕を見ると…
無い。無い!腕が無い!!!
「うで、わた、おれの、腕っがっ!」
「やかましい、ここに置いているだろうが」
「なっ、そ、そういう問題じゃっ」
「了承を得る前に切ったのが悪かったか?本来なら確かにそうだろうが、その腕を放置していても何も良いことは無い。わしの判断に間違いはない」
「頭おかしいんですか?(頭おかしいんですか?)」
切った方が良いとか良くないとか、そう言う問題じゃ無さすぎる!…があまりに目の前のクソジジイが落ち着いているので、こっちも落ち着かざるを得ない。
腹の立つことに切除されたことによる痛みは(神経が死滅しているのだから当たり前だが)全く無いし、切断面もすっかり縫われていて違和感もない。目の前の腕も綺麗に洗浄されて血液や組織液のシミ一つない。まるで模型か何かを見ているようだ。非常に不本意だが…俺は深呼吸をして動揺を押さえつけた。
「すぅー…はぁー…」
冒険者である俺はすっかり慣れてしまっているのであまり気にならなかったのだが、この家からは微かに血の匂いがする。外科診療所として以外にももしかしたら魔物に襲われた商人の亡骸の解体なども請け負っているのかもしれない。だから彼は人の身体を解体するのにここまで躊躇が無く、その技術もまた伴っているのだ。今回だって俺が切断を躊躇することを見越して先に切ってしまったのだろう。これも一つの優しさ…優しさ…?
「すぅー…はぁー…」
「…」
「腕…」
「そういうことだ。特別に代金はタダでいいぞ」
「…」
黒ライラスはもう興味は失せたという風にモップで床を拭いている。言ってやりたいことは百も千もあるが、多すぎて逆に言葉にならない。
「腕だが…処分するか?」「いいです!私が持ってますから!」
これ以上勝手させてたまるか。俺はベッドから出て立ち上がると、我が子を守るかように左腕で右腕を強く優しく抱え、異空間に仕舞いこんだ。そのうち腐るし、使い道はないだろうが…。そうだ、帰ったらキラちゃんに見せてあげようか。『腕切除ホントドッキリ』とか『ショートコント:どろにんぎょう』とか。
「ドルマゲス」
「…はい?」
「どこへなりと勝手にいけばいいが……達者でな」
「…あ、ありがとう…ございます」
どんなタイミングで餞の言葉寄こしてんだこのジジイ。情緒どうなってんの?……やっぱりなんだかなぁ。もちろん救ってくれたことには限りない感謝を感じてはいるんだけども。なんか…根底でズレている気が…これが
いやでも、とんだ横暴を働かれたとはいえ、彼が命を救ってくれた上、文無しの俺に宿まで貸し出してくれた大恩人であることに変わりはない。俺は深く頭を下げて感謝の意を伝えた。心では多少悪態をつきつつ。
…
「話し合いの結果はどうでしたか?」「どうでしたか?ではないわ馬鹿者!誰がユリマを直接連れてこいと言った!」
そろそろ頃合いと見て俺が黒ルイネロの家を訪ねると、案の定話し合いは終わっていたようで、部屋が少し荒れていた。ユリマの姿はない。
「私は彼女の手伝いをしただけですよ…私が送るかユリマさんが家の戸を叩くか、数分程度の違いしかなかったと思いますが?」
「むぅ……。…ん?お前、腕はどうした?」
「さっき切られて無くなりました。」
「は?この数十分でか!?」
「それより、話し合いはどうなったんです?」
「……ユリマは家出した」
あら…。残念ながら黒ユリマは父親よりも黒サーを取ったらしい。今まで彼女は黒サーの家に「宿泊」していただけだが、これで晴れて「居候」になるというわけだ。しかし、その割には黒ルイネロの顔は先ほど会った時よりかはいくらか元気そうに見える。…てか目の前の人間が数十分見ないうちに片腕無くなってるのに、一瞬で受け入れられるのスゴイな。やはりこの程度のこと、闇の世界では日常茶飯事なのかもしれない。
「……あまり悲しそうではないようですが?」
「そう見えるか?」「ええ」
「まあ……なんだ。ユリマも大人になったのか…とな」
「はあ。親心…ですか?」
「そうだな。結局売り言葉に買い言葉であの子は飛び出してしまったが…それでも久々に本音をぶつけ合えたことは良かったというしかあるまい」
「いいのですか?ルイネロさんは、それで…」
「子のワガママに振り回されてこその親だろうが。それにユリマとていつかは音を上げてあの暑苦しい男の下から帰って来ることだろう」
そういうものなのかね。後おそらく当分は返ってこないと思いますよー。…という言葉を飲み込み、俺はゴールドの詰まった麻袋を机に置いた。
「約束は果たしましたので…」
「まあ…いいだろう、特別に占ってやる。有り金全部出せ」
「これで全てです!」
追剥ぎか山賊かのような悪役セリフに眉を顰めながら、俺は麻袋をずいと差し出した。この二週間でパトロールや戦闘を経て稼いだ20000Gである。もちろんこれが有り金全てなわけではない。全財産渡せと言われて正直に全て出すバカがどこにいるだろうか?
「ふむ…まあこれくらいあればまた当分は働かなくて済みそうだな。さて、何を占いたいのか?」
黒ルイネロは椅子にどかっと座り込むと、黒い、しかし澄んだ黒色の水晶玉を撫で始めた。あんなに黒いのに何かを映したりできるのかな。
「実は今の私は本当の私ではなくてですね」「自分探しなら専門外だが」「違います」
「町の人々から畏れられている通り、私は魔術師でして。魔術の一つとして『分身』ができるのですよ」
闇トラペッタ町民から俺への印象は実に様々だが、大半は恐怖と畏怖、そして嫌悪だ。俺に話しかけてくれるのは全体の2割か3割くらい。一部の勇気ある町民だけである。ほとんどの人間は外来種である俺を魔物とほぼ同列に扱っており、実際街を歩いていれば窓から色んなものを投げつけられることもあった。それも一度や二度ではない。
「その分身を探して欲しいのです。…まあ、意味は違えど『自分探し』ではありますかね」
「よく分からんが、もう一度説明を聞いてもどうせ分からんだろう。とりあえず占ってみるか」
「はい、お願いします」
黒ルイネロが水晶玉を覗き込むと玉はゆらゆらと妖しい輝きを放ち始めた。
「…」
「…」
「むっ、むむむっ!これは…」
「何か見えました?」
「これは…高台…か?巨大な切り株の上…お前によく似た姿の誰かが倒れて…その周りを……なんだ?これは…紫色の何かが覆っている…」
「(やっぱり俺の分身はまだ生きていた…。ならその『紫色の何か』が封印か…?)すみません、その高台というのがどこにあるのか…引きで全体像を確認することなどはできますか?」
「うるさいな、今やっている!」
『
「むむ…これは……トラペッタ……か?」
「ほう、この町の近くですか?」
「……トラペッタの東…雲を突くほどの高台の上……に、お前に似た『イロモノ』が倒れているな。…よし、こんなものか」
黒ルイネロがふう、と息を吐くと水晶玉の光は消えた。ふむ…切り株…トラペッタ…高台……。俺の頭には『ある候補地』が思い浮かんだ。多分あそこだろう。
「ほら、さっさと出て行け。おれは今から酒を買いに行くんだ」
「ルイネロさん、ありがとうございました」
俺は半ば追い出されるようにして黒ルイネロの家を出た。
…
「お、色付き派手男か?調子はどうだい?」
「ああ、こんにちは道具屋のお兄さん。実は私、今からこの街を発つんですよ。」
「なに、そうなのか?寂しくなるねぇ」
「はは…まあきっと喜ぶ人の方が多いと思いますけどね。お兄さんにそう言って頂けて私は嬉しいですよ。」
「…あー。おい、これ…持ってきな。餞別だ」
「いいんですか?ありがとうございます!」
門の近くでバッタリ出会った道具屋に図らずも「上やくそう」を10個ほど貰い、俺は闇トラペッタを出発した。…個人的総評としては…良くは無いが悪くもない町だったな。
…
「(さーて、ポルトリンクまでは…。うん、一本道じゃ迷わないか)」
トラペッタ周辺に設置していたセキュサを回収し、平原を往く。セキュサを引き連れていればここらの魔物など恐れるに足らずだ。一度スライム語や自然語で会話を試みたのだが、どの魔物も訛りが強くてまるで聞き取れなかった。魔物も仲間にはできない、人間も全員が味方ではない、闇の世界ってなかなか厳しいところだよなぁ。
行き先を確認し、地図をしまおうとしたところでセキュサが反応する。迎撃しないということは…人間?俺が振り返ると、闇トラペッタの方角から手を振って走ってくる人影が見える。
「お~い!」
「…サーベルトさん?」
「水臭いじゃないか、俺を置いて行くなんて!」
「あの…どうしてここに?」
「君が町を出たってライラスさんに聞いてな。君は一人じゃきっと生きていけないだろうから、俺が一緒に行ってあげようと思って。」
え、別に大丈夫ですけども。来てくれとも言ってないですけども。
「ああ、えっと…そうだ、ユリマさんが心配するのでは?」
「ああ、ユリは…」
黒サーが答えるより早く、彼の後ろから黒ユリマが顔を出した。
「わたしがサッちゃんに頼んだんです。サッちゃんがドルマゲスさんを追いかけるならわたしも連れて行って…って。愛の逃避行…です。…あなたがいなければね。」
「……。」
そうだった!この女は今絶賛家出中!黒サーが俺を追ってくるなら黒ユリマが町に居残る理由は皆無!ああ、面倒だ、面倒なことになってきたぞ…
「…心配しなくてもあなたの邪魔はしませんから。その代わりあなたもわたしたち二人の邪魔、しないでくださいよね」
「さあ、行こうドルマゲス!どこへ行くのかは知らないが!!!さあ!」
「…。」
ままならない…実にままならない…どうしてこうなるんだ。俺は残った左の腕で頭を掻いた。…まあ、二人を連れて行って何か不利益があるかと言われれば特に無いが………いや、ストレスで俺の胃に穴が空く。絶対。とはいえ今から闇トラペッタに返すメリットも特に…
「(ああ、悲しいなぁ…)」
クソ鳥も暗黒デブも…いつか絶対八つ裂きにしてやる。
『腕切除ホントドッキリ』とかやったら本当にもう二度とキラちゃん口きいてくれなさそう。
ドルマゲス肯定botのサーベルトも流石に言葉を失うし、ライラスは「くだらん」って言ってどっか行くし、一番おかしな行動をとりそうなユリマは…逆にただぽろぽろ涙をこぼしてへたり込んだりするんじゃなかろうか。
ディムがこれしたらヤンガスが泣きながらビンタしてきそう。ゼシカはショックで寝込む。
…ちょっと、というか結構……、いや、やめておきます。
次は勇者サイドの予定です。