ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
勇者サイドで⑥まで行くのは今回が初めてですね。(それまでの最長はリブルアーチ地方の⑤)中身はそんな分厚くなかったはずなんですが、一体どこで膨らんだんだ…?
今回「残酷な描写」タグがおしごと頑張ってます。温かい目で見守ってあげてください。「たべある記」ほどではないですが。
開戦。降る雪は次第にその勢いを増し、燃え盛るメディの家もまたその勢いを衰えさせない。炎と吹雪の中、先駆けたのはヤンガスだった。
「でえぇぇいっ!!」
「すっトロいんだよ!」
オノの重量を活かした素早い振り下ろしは容易く躱されてしまう。これまでの定石に倣いククールは弓でゲモンの翼を狙うが、放った矢は、しかしその漆黒の濡羽に小さな傷をつけるにとどまる。
「ヤンガスっ!」
「心配無用でがす!」
大振りの後隙を狙い、ゲモンの鋭い爪がヤンガスを狙うが、突然ゲモンの目の前で小さな爆発が起こりその爪は弾かれる。
「グヌッ!?」
ヤンガスには少々直情的な部分があるが、格上を相手にオノの持つ後隙を無視するほどの命知らずではない。ヤンガスはオノが躱されたと見るや後ろに「ばくだん岩のカケラ」を放り、追ってきたゲモンの前で炸裂させた。そのまま雪の上で一回転するとすぐに立ち上がり体勢を整える。
小爆発の次は大爆発。ゼシカの唱えた『メラゾーマ』が周囲の黒い魔物を巻き込んでゲモンを爆風に包む。しかしゲモンは爆風を振り払ってゼシカへ突貫、痛烈に殴り飛ばした。
「あうっ!」
「「ゼシカッ!」」
間一髪。吹き飛ばされたゼシカが岩壁に激突する前にククールがギリギリでなんとか受け止め、エイトがゲモンを「さみだれづき」で足止めしている間に『ベホマ』で受けたダメージを回復する。
「大丈夫か!?」
「…ありがと!あんな奴に負ける私じゃないわ!『ヒャダルコ』!」
「鳥野郎!これでも食らいやがれっ!」
そしてゼシカの詠唱を聞いたエイトはサイドステップで飛び退き、周囲の雪で強化された氷結呪文がゲモンを凍てつかせ、さらに「岩石おとし」の要領で巨大な雪の塊を掘り出したヤンガスもゲモンの背後から雪塊を投げつけた。生物…特に動物系の魔物である以上は冷気に弱いはず。もともと気温が摂氏0度を常に下回る雪山地方の地の利を生かした環境利用闘法である…が。
「猿知恵…そんなもんが俺様に効くわけ…ねェだろうがッ!!」
「くうっ!」
悪手。ゲモンはヒャド系を始めとする冷気属性に完全耐性を持っており、ほとんどダメージも与えられていない。ゲモンの羽ばたきで雪が舞い上がり、エイトたちは視界不良に陥る。一方、猛禽類特有の高性能な眼を三つも持っているゲモンからすればこちらの場所などお見通し。図らずも雪山地方はゲモンに最適なフィールドなのであった。
「(くっ、前が…連携が取れなくなるのはマズい!)『バギクロス』!」
「そよ風か?まるで効かねェなァ!」
「なっ!ぐうっ…!」
咄嗟にククールの放った『バギクロス』のおかげで舞い上がった雪は吹き飛ばされ、視界を回復したエイトはゲモンのタックルを紙一重で避けることができた。そのままゲモンは旋回し、ゆっくりと着地する。悠々たる振る舞いは、相手がまるで本気を出していないことを見せつけているようにも思えた。
「グハハハ…誰かと思えば、つい先ほど賢者の成り損ないを護衛していた奴らじゃあねェか。俺様の魔法を受けて生きていられたことくらいは褒めてやってもいいが……やはり下等生物の考えることは理解できんなァ。なぜそのまま賢者の下から逃げなかった?」
ゲモンの三つの眼がギョロギョロと動き、エイトたちをねめつける。貧相、デブ、女、ヒョロガリ、そして全員が脆弱、矮小。ゲモンにとってはエイトたちなど脅威でもなんでもない。それどころか丁度いい具合に甚振れる玩具がノコノコやってきてくれたと邪悪に笑い、舌なめずりをした。
「…!」
「皆の命を弄んで、家を焼いて…アンタのやってることが許せないからよッ!」
「街一つ消し飛ばしてくれやがって。オレは腐っても神に仕える身、お前の行為は到底看過できるもんじゃない」
「………あ"?」
しかしゲモンの浮かべていた邪悪な笑みは、怒りに燃えるゼシカたちの言葉で消え失せる。
「…」
「(なんだ…さっきとは雰囲気が…?)」
「……許せない?許せない、だと?…テメェらみたいなクズが俺様を許す許さないの立場に立てると思ってンのか?なァ!こっちが寛大に接してやればいい気になりやがってヨォォォ!」
「なっ、何なのコイツ…」
「破綻してやがる…」
ゲモンは実力主義の闇の世界でその狡猾さと卑怯さ、それと確かな実力で成り上がってきた一握りの強者であり、かつ自分より弱い者をゴミか道具としか考えていない徹底した差別主義者である。そんなゲモンの目の前でゴミが自分を断罪できる立場にあるかのような物言いをしようものならどうなるか…想像に難くない。ゲモンは激昂し、耳障りな叫び声をあげた。空気が震え、エイトたちは思わず一歩後ずさりたくなる衝動に駆られる。
「……俺様が慈悲で与えてやった命をドブに捨てるとは馬鹿な奴らよ…いいだろう、もう少し遊んでやるつもりだったが、テメェら全員、今から嬲り殺しにしてやる…。くせぇオス共は全員ミンチにして鳥の餌、そこの生意気な女は自ら死を懇願するほど『愉しい』目に遭わせてやろう」
「「…ッ!」」
ゲモンの身体から立ち上りし紫のオーラ。それ則ち相手が暗黒神の闇のチカラを解放したことを意味する。一段と迫力と魔力の増したゲモンに対峙するエイトたち。雪山地方は全てを凍止める氷点下の世界、しかし彼らの汗と震えは止まることを知らない。
「ケエェェェッッッ!!!」
「ごっ…!」
「まずァ一匹ィ…」
これまでとは一線を画す驚異的なスピードで飛来してきたゲモンの一撃でククールの右胸は容易く貫かれる。ゲモンはそこから拳を引き抜くことをせず、乱暴に腕を払った。ククールの脇下の肉が削がれ、骨が飛び散り、右腕が歪に傾く。
「く、ククール!!!!!」
ゲモンのスピードに驚く間もなく致命傷を負わされたククール。声も出せずその場に崩れ落ちるククールの下へエイトが駆けだすが、その目の前にゲモンが現れる。
「すっトロいってのが聞こえて無かったのかァ?鳥頭がッ!」
「ぐっ…!ぐあああっ!!」
「二匹」
咄嗟にガードした槍もろとも殴り飛ばされ、エイトは勢いよく崖に激突した。折れた「砂塵のヤリ」の先端が深雪に突き刺さる。そのままエイトの指を一本ずつ引きちぎってやろうと足を向けたゲモンだが、体内に一瞬の異変を感じて立ち止まる。
「?なんだ…?」
そしてその刹那。
「!?!?!?」
強烈な衝撃が全身を走り、ゲモンは思わずよろめいた。ゼシカの『イオナズン』…しかもそれは闇の遺跡であの『魔王』ことユリマが見せたものと同じ、起点座標を相手の体内に移して爆発させる超攻撃的な魔法だ。一度しか見ていない技術を見様見真似のみでここまで再現してみせたのは流石、彼女も七賢者の血を継ぐ天才であると言えよう。しかし……。
「(なんで膝もつかないのよ…ッ!)」
「グ、グハハハハ…やはり女は威勢のいいほうが良いなァ…遊びがいがある」
妖魔、墜ちず。爆発による黒煙を口から漏らしながらゲモンはゼシカの方を向いて笑った。もっとも、そのギラギラと血走る三つの目玉はまるで笑ってはいなかったが。
「え、消え……」
「ゼシカ!後ろだっ!!!」
ヤンガスの声がゼシカの鼓膜に到達するよりも早く、ゲモンはゼシカの背後にぬるりと回り込み、左の
「あ"っ!!!う"う"っ…!」
苦悶の表情を浮かべ、声にならない声を上げるゼシカ。ゲモンはそんな彼女の反応をしばし愉しむと、脚を引き抜き、ゼシカを蹴り飛ばした。
「くっ…!…?あ、あれ、何…た…てない…?」
ダメージ自体は大したものではない。すぐに体勢を立て直そうとしたゼシカだが、足に力が入らず、少し体を持ち上げた後、またすぐに雪に体が埋もれてしまう。
「キズモノだとつまらねェ。聞くところによりゃあ、テメェらニンゲンは骨一つ失っただけで動けなくなるらしいじゃあねェか?脆弱にもほどがある、とんだ笑い
淡々とそう語るゲモンの、濡れたその爪先から鮮血が滴り落ちる。
腰椎。骨盤の上に位置し、全身を支える背骨…ゼシカはそのひとつを砕かれたのだ。失ったからといってすぐさま命に関わるようなものではないが、腰髄を損傷したことによる知覚の低下、下半身の麻痺は免れない。
「う…くぅぅ…っ!」
「ケケケ…しばらくそこで寝てるんだな…さて、あと一匹…」
ゲモンは辺りを見回すが、その視界に最後の一人であるヤンガスの姿は映らない。
「逃げやがったかァ…?まあいい、それなら先に賢者を───」
雪山というフィールドが有利となるのは何もゲモンだけではない。そして、その男は「
「──────っ獲った!!」
雪、無音、そして一閃。ヤンガスの放った渾身の「大まじん斬り」はゲモンにクリーンヒット。鈍い音が響き、衝撃で周囲の雪までもが舞い上がる。すぐに距離を取って残心…流石にこれで倒せたとは思わないが、少なくないダメージは与えられたはず。
だったのだが。
「…まァ、悪くない攻撃だったがな」
「(ほ…ほとんど効いてねえっ!)」
受け止めたオノを払いのける姿にぞわりと寒気を感じたヤンガスはほぼ無意識に「大ぼうぎょ」を発動させ、神速で打ち出されるゲモンの拳をなんとか受け止めた。
「ぐう…ぅ…へっ、もう離さねぇぜ」
「そォか。手間が省けて助かるな」
「…!…バケモンめ」
その後ヤンガスは腕を掴み返され、超至近距離で「はげしい炎」を実に一分間も浴び続けた。
…
「さて…」
ゲモンはもはや判別のつかなくなった炭塊を放り、敢えて燃やさずに残しておいた厩舎を『バギクロス』で破壊した。屋根が吹き飛び野晒しになった厩舎の中では、トロデとミーティアが震えている。ゲモンはミーティアと馬車を鷲掴みにすると、一瞬で洞窟の前まで運んできた。
「賢者よ!聞こえてるかァ!テメェの情けねェ護衛は全員ブチ殺したぜェ!今から離れにいたコイツ等も八つ裂きにしてやるから、せいぜいそこで震えながらその断末魔でも聴いてるんだなァ!」
ゲモンはミーティアの首を掴んで揺さぶりながら洞窟の中にいるであろうメディに向かって叫ぶ。ゲモンにとって厩舎の中にいた者たちが賢者とどういう関係にあるのかは全く知る由もないし、興味もなかった。安い挑発であるが、もしこれで賢者が釣れたなら幸運、賢者が出てこなかったとしても、その時はその時。この馬と御者を甚振って殺すだけである。
「やめろ!ミーティアを離さんかい!」
「なんだ?テメェ…魔物か?」
「誰が魔物じゃ!早くミーティアを離せ!」
「ケッ、同じ魔物のよしみだ、俺様の気が変わらない内にさっさと失せやがれ…それとも何か?この馬はテメェの食料だったか?」
ゲモンは舌なめずりをしながら、恐怖でぶるぶると震えているミーティアをねめつけた。
「中々良く育てられた馬じゃねェか…おい、この馬を俺様に寄こせ。そうしたらテメェの命は見逃してやろう」
「なんじゃと…!?そ、そんな……そんなことをするわけがないだろう!!キサマ!絶対に許さんぞ!!!うおおおおっ!」
「…」
「ギャッ!」
無謀にもゲモンに飛び掛かるトロデだが、指で弾かれて地面に転がされる。しかしなおも立ち上がりゲモンに飛び掛かってきた。ゲモンからすればトロデの攻撃など蚊や蠅が飛んでいるようにしか感じないのだが、しかしそれでも今自分が掴んでいる馬が、この珍妙な魔物にとって大事なものであることは十分に窺い知れた。
誰かの大事なものが自分の手の中にあり、相手がそれを取り返そうと躍起になっていればどうなるか?
当然、新しい玩具の誕生である。
「グハハハ…テメェ、この馬が余程大事と見えるなァ…なァに、俺様も元々この馬をどうこうするつもりはなかったんだが…あァ、テメェの反抗的な態度に酷く気分を害した。そうだ、この馬を尻尾から順番に食っていくことにしよう」
「なっ!何を…っ!」
「俺様は小食でなァ、これだけ立派な馬を平らげるにはひと月はかかりそうだ…死なれちゃあ味が悪くなるからな、この馬には自分が少しずつ食われていく一か月、しっかり生きていてもらわねェと困る」
「…!……!!」
ミーティアの首根っこを掴むゲモンの手に少しだけ力が込められる。ミーティアはあまりの恐怖に涙を流し、過呼吸状態に陥ってしまった。無論、そのような悪辣で残酷な行為を許すトロデではない、が…。
「ミーティア!!た、頼む!ワシが悪かった!だからミーティアは離してやってくれ!」
「どこの田舎魔物か知らんが……謝り方も分からねェのか?頭を垂れろよ。懇願ってのは這い蹲って、頭を汚ねェ地面に擦り付けて行うもんだろうが」
「う…く…!」
本当なら今すぐにでも相手の言う通りにしなければならないし、トロデ自身もそのつもりだった。しかし魔物の姿になっても変わらぬその王族としての気高い誇りが、魔物に屈して土下座するというトロデの最後の一歩を一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇わせた。
「グハハハ…どうした?馬を俺様に渡す気になったのか?ならそうと言えばいいものを!」
そしてその一瞬を見逃してやるほどの甘さを持っていたのなら、彼は『妖魔』などと呼ばれてはいないだろう。ゲモンはトロデの態度を勝手に「否」と解釈し、ミーティアを貪り食うことに決めた。ミーティアの首を掴んでいるその手が少しずつ爪を立てていく。
「やっ!やめろ!やめてくれ!この通りじゃ!!ミーティアを、ミーティアだけは許してやってくれ!ワシはどうなってもいい!だから…!」
「アーアー、聞こえねェなァ!こんな上物の馬は久しぶりだ、じっくり堪能させてもらうぜ…ほらほら、怖いか?馬…自分の命に指が掛かる気分はどうだ?」
「……!…!…!!!」
「やめてくれ!お願いじゃあっ!」
ミーティアには最早声を上げるほどの胆力も残っておらず、ただ怯えることしかできなかった。そして鋭い爪の食い込んだその美しい首筋から、遂に一筋の血が流れた時。
「姫を……離せええええぇぇぇっっっ!!!!!」
若き竜が目覚める。
「なん…グハァッ!?」
黄金に光り輝く龍を思わせるオーラを身に纏ったエイトの体当たりをモロに食らい、ゲモンは思わずミーティアから手を離した。この機を逃してなるものかとエイトはありったけの力を込めて拳の連撃を叩きこみ、ゲモンを吹き飛ばす。後に「ドラゴンソウル」と名付けられるその技は、まさしくエイトの魂の叫びだった。
「姫!王様!」
「え、エイトよ…その姿は…」
「ぼ、僕から…ハァ、ハァ…は、離れないで…!」
竜神族の秘技である「ドラゴンソウル」は莫大な魔力を消費して行使する、まさに奥義。それは本来今の時点でのエイトが扱っていいような代物ではなく、加えてエイトは既に瀕死の状態であった。その上で黄金の龍を纏い続けるというのは魂をすり減らす行為に他ならない。しかしエイトは立った。主君の危機に命を削らずして、何が近衛だろうか!
「効いたぜ…今のはよォッ!!!」
崩れた岩を吹き飛ばし、ゲモンが飛び掛かって来る。龍を纏った今のエイトならゲモンにもついていける、否、追い抜ける。エイトの眼はゲモンの全ての動きを見切り、その嘴に強烈なアッパーカットを決める。回転しながら空を舞うゲモンは途中で体勢を立て直すと、「はげしい炎」を吐き出した。
「…うっ…!」
避けようとするエイトだが、肉体に負荷がかかり過ぎたのか一瞬動きが鈍る。炎がエイトを焼く寸前、「こごえる吹雪」がエイトを守るように包んだ。
「…と、トーポ…?」
「…。」
守ったのは彼のペット、ネズミのトーポが食べた「こごえるチーズ」。トーポは懐かしいものを見るような、嬉しいのか悲しいのか分からない目でエイトを見つめている。
「チィッ!ならもう一度この爪で…」
「『ジゴフラッシュ』!!!」
「ぬ…ギャアァ!?」
闇の世界の魔物であるゲモンに光の呪文は劇毒である。ゲモンは優秀な三つの眼から入ってくる光量に脳が対処しきれずに墜落した。
「ゼシカ!」
「私だけ寝てるわけには…いかない…わ…!」
ゼシカは衰弱した筋機能を『バイキルト』で無理やり増強して戦線に復帰した。その隣にはゼシカに肩を貸すククール、そして復活してもまだ火傷跡の残っているヤンガス。全員万全とは言えないが、それでもその眼にはまだ戦闘を続行する意思が宿っていた。
「お、おぬしら…」
「ゴミが…ゴミ共が!ゴミクズ共がァッ!!!いいだろうッ!ゴミはゴミらしく塵殺してやるぞッ!!!光栄に思うがいい!!!」
「みんな…行こう!!ここでアイツを止めるんだ!!」
「「おおっ!!」」
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外で黄金色の光と紫色の闇が激突し、その余波で揺れる遺跡の中。賢者の末裔メディはついに重い腰を上げた。
「母さん…」
「もう、止めてはいけないよ。グラッド…」
今、外に出ることが何を意味しているかくらいはメディもグラッドも承知している。しかしその上で彼女は外へ出ていくことを決めたのだ。
「…本当に、本当に行ってしまうのか?」
「わしが生きていることが世界の平和に繋がること、それはわかっておる。しかし…カッティード様の結界といえども、あれほど強大な邪悪を前に耐えられるかどうかはわからない。もし破られればわしだけでなくおまえまで命を落とすことになるじゃろう。それはわしの本意ではない」
「か、母さんが死ぬくらいなら、俺が───」「グラッド!!!」「…っ!」
これまで見せたことのない母親の剣幕にグラッドは思わず口を噤む。メディはすぐに元の優しい口調に戻ると、あやすように、窘めるようにグラッドの頬に手を添えた。
「……そんな悲しいこと、言わないでおくれ。わしがどうなろうともおまえが元気に生きていてくれれば、わしはそれで、それだけで幸せなのじゃよ」
「母さん…」
「グラッド」
「…」
グラッドの頬を涙が伝う。
「愛してるよ。お前が生まれてからずっと、これからもずっと…………。」
「そ、そんな、こと……」
頬を伝った涙が地面に落ちる。
「生まれてきてくれてありがとうね。」
「か、母さん!行っちゃダメだ!戻ってきてくれ!母さん!!!」
「バフ」
歩きだすメディの脚に擦り寄るようにバフが現れる。
「グラッドを頼むよ。あんたにも最後まで迷惑をかけるねぇ。」
バフは数秒間メディと見つめあうとベロリと彼女の手の甲を舐め、メディとグラッドの間に立ちはだかった。
「母さん!かあさん!!!」
メディもバフも、もう二度と互いを振り返ることは無かった。
…
「く…そ……!」
「及ばな…かった…か…!」
「兄……さ…」
「てめぇ…ゼッタイろくな死に方……しない…ぜ」
エイトは遂に限界を超えた魔力までもが底をつき、竜化解除と共に倒れる。仲間たちも相手の実力には一歩及ばず敗北、その命は尽きた。
「ハァ…ハァ……て、手こずらせやがって…」
エイトたちは大健闘したと言っても良いだろう。相手がゲモンでなければ、いや、ゲモンであったとしても相手がただの『妖魔ゲモン』であれば竜化したエイトの猛攻で押し切れていたに違いない。惜しむらくは相手が暗黒神のチカラを借り受けていたことか。
動かなくなったエイトたちの上に少しずつ雪が積もっていく。ゲモンは忌々しそうに彼らを一瞥すると、ミーティアを守るように立ちはだかるトロデに向き直った。
「さて、邪魔者もいなくなったことだ…存分に…」
「く…!(ここまでか…!せめてミーティアだけは……)」
「やめな!あんたの狙いはわしだろう!」
戦場に響く声。洞窟から姿を現したのはメディだった。
…
本来なら賢者を後回しにした時点で、使えない部下の代わりにラプソーンが出張ったとしてもおかしくはなかったのだが、ラプソーンは現在力を蓄えるため休眠状態に入っており、またこれまで幾度となく道化師に辛酸を舐めさせられてきていた経験から、現場に存在する不安要素は徹底的に排除してから行動するべき、との考えに到達していたためにゲモンに特段口添えするようなことも無かった。
とは言え、傍若無人に、勝手気ままに振舞うゲモンにさえ優先順位という概念はある。特に今の自分は特命を受けて活動している身である以上、やれと言われたことはきちんとこなす。その魔物らしからぬある意味での真面目さと強かさもラプソーンが彼を直属の部下にした理由の一つである。
「グハ、グハハハ…ようやく出てきたか、老いぼれめ」
「ほう、これは驚いたね。わしを呼んでるようだから出て来てみればなんと相手が喋る鳥だったとは!臭う、臭う…この邪悪な臭気……お前さんが暗黒神、いや、暗黒神のチカラを持った魔物だね」
「聞き分けの良い弱者は嫌いじゃあねェ。大人しくその命をラプソーン様に捧げやがれ」
「…フン、お前さんがその人と馬に手を出さないと約束しな。話はそれからだよ」
「…が、頭の固い雑魚ァダメだ、虫唾が走る。…何故俺様がテメェのようなカスと約束せねばならんのだ?テメェには何一つ要求する自由なんてねェ。……俺様がここら一帯を吹き飛ばす前に黙ってこっちに来やがれ」
「…やれやれ。鳥は脳みそが小さいってのはホントだったんだねぇ。ここまで聞き分けのないヤツだとは。…いいだろう、今そっちに行ってあげるよ」
燃える自分の家、斃れた勇者たち。メディは彼らには本当に申し訳ないことをしてしまったと深く心を痛める。自分がもっと早く出ていれば彼らに辛い思いをさせることは無かったのだ。しかし……。
洞窟の入り口からメディが離れた瞬間、魔物の残党たちが囲み、メディの退路を塞ぐ。同時に「デスターキー」の一体がトロデとミーティアに刃を向けた。
「グハハハ!よくぞ来た賢者の末裔よ!今からその命を刈り取ってやろう!」
「聞こえていなかったようだからもう一度言うよ。その人たちに向けている武器を下ろしな。」
「…理解できてねェようだからもう一度言ってやろうか?貴様には何一つ要求する自由なんざねェのさ。やはりニンゲンってのは愚か極まりねェな!グハ、グハハハハッ!!」
「……。やはりそういうことかい。」
悲しいことだが、自分ではトロデとミーティアの命までは護れない。あの二人もきっと殺されるだろう。…だが、万に一つでも可能性があるのなら。
「…でも、バアさんが相手だからって何でも思い通りになるとは思わないことだね!」
メディは手に持った袋をゲモンに投げつけた。まさか目の前の干からびた賢者が何かをしてくるとは夢にも考えておらず、ゲモンは袋の内容物をモロに被ってしまう。
「ガアァァァァァッ!?!?ク、キ、キ、ク、キサマァァァァ!!何をォ……!」
「どうじゃね?『ヌーク草』の粉はよく効くだろう?アンタらも食らいなっ!」
メディはさらに粉の入った袋を投げつける。デスターキーは袋を剣で受けるが、その切れ味が仇となり、その場に粉がぶちまけられる。ただの植物が出すものとは思えない強烈な刺激がゲモンたちを襲い、デスターキーは悶えてその場に蹲った。
「さあ!今のうちに逃げてくだされ!」
「メディ殿!しかし貴方は……!」
「わしのことはいいですじゃ、さ、早く…!」
トロデはメディのその瞳に確かな覚悟を見た。
「…!この恩は一生……っ!ゆくぞミーティアっ!」
颯爽と馬車に乗り、ミーティアは痛みに耐えながら最高速でその場から駆け出す。今この場にいる魔物で、ミーティアの足に追いつけるのはゲモン以外では「あんこくちょう」だけだが、命令にない行動をとれば自分はゲモンに殺される。その意識があんこくちょうをその場に留まらせた。皮肉にもゲモンの恐怖政治による統率がここにきて牙を剥いたのである。
「グオオオオッッ!!クソがッ!クソがッ!クッソがァァァァ!!」
目を焼く強烈な刺激、
「……ッ!!!」
「(わしにできることはせいぜいこのくらい……旅人さんや、どうか…後のことは頼みましたぞ……)」
「(グラッド…バフ……。願わくばどうか、どうか幸せに……)」
雪に沈むメディの身体。彼女の家も今やそのほとんどが焼け落ちており、その最後の炎も今、消えた。
原作との相違点
・ゲモンと戦闘になった。
本来雪山地方にボス戦は無いのだが、新たにボスとして妖魔ゲモンが参戦した。ちなみにボス戦だが負けても先には進める(のでイベントバトルに近い)。ただのゲモンよりも数段強化されており、現時点の装備で打ち負かすには60前後のレベルが必要かと思われる。理不尽度は呪われしユリマよりも低いかもしれないが、ユリマ戦のような小細工が無いぶん単純な絶望感はこちらの方が大きい。
・グラッドが人質にならなかった。
一度オークニスに寄るイベントが無くなったのでグラッドが不覚を取ることは無かった。仮にオークニスに寄っていたとしても原作で風邪を引いていた男は本作ゼシカに蹴り飛ばされて比較的暖かい地下通路に転げ落ちていたので風邪を引いておらず、どちらにしろ安泰だった。
・グラッドとメディが和解していた。
原作では遂にグラッドはメディに謝罪できないまま(メディは別に何とも思っていなかったのだが)今生の別れとなってしまったが、本作では互いの本心を確かめ合い、和解することができた。
・ゲモンが強すぎる。
強すぎる。決してエイトたちが弱いわけではない。ドルマゲス&サーベルト&ユリマが万全でもギリギリ打倒できないくらいには強い。ただの犬だったレオパルドに憑依してあの強さなんだから、元々強いゲモンに憑依すればそりゃ強くなるよねって感じ。
・エイト強化。
ミーティアの危機に覚醒。昂る感情に呼応して竜神の血が活性化し、本来まだ覚えないはずの特技とそもそも覚えない特技を習得した。
・ゲモンが強すぎる。
主人公覚醒イベント挟んどいて勝てないってなんなの?
レベル
変化なし
エイト:「ドラゴンソウル」を先行して習得。また、オリジナル技「龍闘気(ドラゴニックオーラ)」を習得。
「ドラゴンソウル」:海外版DQⅧで初登場した勇者エイトの特技。黄金に輝く龍(西洋の『竜』ではなく東洋の『龍』である)のような光を纏って相手に突撃し、敵単体に特大のダメージを与える。消費MPが64(『ベホマズン』の消費MPが36であることを考えるとめちゃくちゃ燃費は悪い)であり、習得レベル65(3DS版では70)ということから、知名度は意外と低い。そもそもストーリークリア適正レベルが46程度なのも原因の一つ。しかしその後バトルロードシリーズでの勇者エイトのとどめの一撃として広く知られるようになっていく。
「龍闘気(ドラゴニックオーラ)」:主君から流れる血を目にし、内なる竜が覚醒したエイトが習得した特技(本作オリジナル)。「ダイの大冒険」に登場する「竜闘気(ドラゴニックオーラ)」とは何の関係もない。「ドラゴンソウル」発動後、黄金の龍を纏ったまま戦闘を続行するもので、各ステータスに大幅な補正が乗り、ドルマゲスの使う『偶像の見る夢(ヴェーダ)』をも余裕で凌ぐほどのチカラを手に入れる。しかし発動してからはオーラの維持に魔力が根こそぎ吸われていくことになるため、MPが尽きた瞬間HPも0になり、さらにその戦闘中での復活が不可能になる。ちょっとだけ飛〇の「蛇〇炎〇黒〇波」に似ているかもしれない。
原作エイトたちがメディ殺害を棒立ちで見ているシーンが虚しすぎたのでどうにかしようとしたら、どうしようもないことになってしまいました。ゲモンとかサクッと倒すつもりだったんですけどね…。
最初【規制済み】な【規制済み】シーンを書いていたのですが、これは流石にR-15では収まらないと思い全消ししてイチから展開を練り直しました。夜中に文章を書くのはあまりよろしくないですね。ゲモンサイテーです。はよボコしたい。