ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
ドルマゲスはもっと報われてもいいな、という軽い気持ちで始めたのですが、想像を超える数の方々から反応を頂いて嬉しい限りです。
これからどうなるかは私にも全く想像がつきませんが、この駄文にもう少しお付き合いいただけると幸いです。
設定資料集を更新しました。原作をご存じの方もご存じない方も是非ご覧ください。
説明するのもヤボかもしれませんが、勇者エイトサイドが「Chapter〇」、道化師ドルマゲスサイドが「第〇章」というタイトルになっております。
「主人公」というとどっちを指すのが正解なんでしょうかね…どっちもか…
Chapter1 空と海と大地と呪われし姫君
トロデーン王国の王女、ミーティア姫の18歳の生誕祭に客人として招かれた魔性の道化師、ドルマゲス。彼は国の秘宝である「神鳥の杖」を奪い、杖の力でトロデーン城全体を呪いで覆った上、人徳ある王を醜い魔物に、美しき姫を馬に、善良な国民を物言わぬイバラの姿に変えて滅ぼした。目を覚ました王と姫は、ただ一人呪いを免れた近衛兵と共に呪いを解く旅に出る。
DRAGON QUEST Ⅷ
…
「見えました王様、あれがトラペッタ地方に続く吊り橋ですね?」
「おお!そうじゃ!……と、ふぅ。やれやれ、最近ずっと城から出てなかったせいか、大分体が鈍っとるのぉ…座って手綱を持っているだけで腰が痛いわい」
馬車を引いて旅をする二人の男。馬はその美しい毛並みから相当高貴な血を引く馬であることが窺い知れるが…その後ろをよく見ると、御者の方はなんと魔物である。そしてその魔物に付き従う一人の青年。このなんとも奇妙な一団こそが、亡国トロデーン唯一の生き残り、国王トロデと王女ミーティア、そして近衛兵エイトである。彼らは姫と王、そして王国にかけられた呪いを解くために、魔性の道化師ドルマゲスを追っているのだった。
「あはは…王様は旅をすることなんて初めてですもんね」
「それもこれも全てあの憎き道化師ドルマゲスのせいじゃ!!…と言いたいところじゃが。」
それまで威勢よく喋っていたトロデだが、突然力無く項垂れる。
「わしが一番許せんのは…わし自身じゃ。あれは防げた事件じゃった。わしがドルマゲスを宝物庫に連れて行かなければ…」
「…今となっては仕方のないことですが…あの時、どうして彼を宝物庫に連れて行ったのですか?ドルマゲスのお連れの方々もあまり気乗りしていなかったように見えたのですが」
「…分からん。あの時は強烈に『この旅芸人に秘宝の杖を見せればきっと喜ぶ』と思い込んでいたのじゃ。今思えばなんと浅はかな考えか…代々秘宝を守ってきたトロデーン王家の者としてご先祖様に顔向けできんわ…」
「そう気を落とさないでください…僕はあの時、気を失ってしまっていたので詳しくは存じていませんが、ドルマゲスは杖の力で国全体を呪ったのでしょう?まさかあの杖にあんな凶悪な力があるなんて…」
「とにかくだ!エイト、わしらはなんとしてもドルマゲスを見つけ出し、姫や国の民たちの呪いを解いてもらわねばならん!そのためにはこの頭を地に擦り付けることも、わしのこの命すら厭うまい…それでも奴が話に応じなければ…頼むぞ、エイトよ!」
一行が吊り橋に差し掛かったところで、エイトは橋の中央に立ちはだかる人影を認めた。大柄な体、ダボっとした小汚いズボン、毛皮で作った簡素な服、そして背中に背負った大きなオノ…どうやら追剥ぎか、山賊か。男はこちらに気付くと背中のオノを両手に握って振り回し、エイトたちを威嚇した。
「止まれぃ!!やいやい!おめぇら、一体誰の許しを得てこの橋を渡ろうとしてんだ!」
「許しもへったくれもあるか!この辺りはまだ我がトロデーン王国の領地じゃわい!」
「ああーん?…おいおいおっさん!気色悪い顔して王様気取りかよ!笑わせるぜ!」
「うむむ…ぬううぅ!痛いところを突きおって…!そういうお前は何者じゃ!」
「オレか?聞かれて名乗るもおこがましいが、オレの名を聞いて震えるなよ!天下に轟く大山賊、ヤンガス様とはオレの事でぇ!!」
ヤンガスと名乗る山賊はエイトとトロデに大見得を切ったが、大層怯え震えるだろうと考えていた彼の思惑に反し、二人の反応は寂しいものだった。
「…?」
「や、ヤンガス…じゃと…?」
「王様、ご存じなのですか?」
「いや、まったく知らん。聞いたことも無いわいそんな名前。…ヤンガスと言ったか?覚えたぞお前の名前!かっこつけのアホウの名だとな!!わっはっはっはっは!!」
「やれやれ…」
「ぐぬぬぬ…バカにしやがってぇ!こうなりゃ実力行使だ!オレの怖さを思い知れ!!」
そう言い放つとヤンガスは飛び上がってオノを振り下ろしてきた。エイトがその突撃をさらりと避けるとヤンガスはそのまま橋に激突し、橋の基幹が大きく損傷した。
「うおおっ!?」
「よし、今のうちじゃ!渡るぞ!」
エイトたちが渡り切ったところで、損傷し自重を支えきれなくなった橋は崩れてしまった。エイトが崖下を覗き込むと、ヤンガスが縄にしがみついて宙ぶらりんになっているのが見える。それでも斧はしっかり握っているところを見ると、ヤンガスにも山賊なりのプライドがあるのだろうか。
「自業自得じゃな。世の中に悪は栄えんとは、昔の人もよく言ったものじゃわい。さ、行くぞエイトよ。…おうおうミーティアや、怖い思いをさせてすまなかったね…」
「…」
ヤンガスのことなど気にも留めないでさっさと先へ進もうとするトロデだが、エイトとしては、このまま先に進むのは彼を見殺しにするようでどうも後味が悪い。
「どうした?エイトよ」
「…王様、先に進んでいてください。僕はこの人を引き上げてすぐに追いつきます。」
「な、何を言うか!そやつはわしらを襲ってきた相手じゃぞ!?そんな奴放っておけばいいものを…!」
「うーん!重い…まあまあ、良いじゃないですか!情けは人の為ならず、なんてのも昔の人の言葉でしょう…うーん」
なんとかヤンガスを引き上げたエイト。その姿に呆れるトロデとは対照的に、ヤンガスは自分を襲ってきた相手の命を助けたエイトの行動に感激していた。
「え、エイトさん、いや、エイトの兄貴!アッシは兄貴の寛大な心に心底感服いたしやしたでげす!!アッシを兄貴の子分にして下せぇ!」
「えっ!?えっ!?」
突然すぎるヤンガスの申し出にエイトは目を丸くすることしかできない。
「な、何を虫のいい話を…そもそもエイトはわしの家臣じゃぞ!わしらの子分になりたいならまずわしに頼まんかい!!」
「うるせぇぞおっさん!あんたには頼んでねぇよ!オレはエイトの兄貴の子分になるんでぇ!」
「な、なんじゃとぉ~?お前だっておっさんじゃろうが!お前には言われたくないわい!」
そのままやいのやいのと口論を始めた二人を見て、これは長くなりそうだな…と肩を竦めたエイト。その肩にエイトのポケットから這い出してきたネズミがちょこんと座った。彼の名はトーポ。エイトの幼い頃からの相棒だ。チーズをあげると喜んで頬張るトーポを微笑ましく眺めながら、エイトは話がひと段落するまでミーティアのブラッシングをして過ごすのだった。
…
「でやぁっ!」
突っ込んできたスライムを切り伏せたエイトに、結局旅についてくることになったヤンガスが尋ねる。
「兄貴たちが旅をしている理由はわかったでがすよ。でもいったいこれからどこへ向かうおつもりで?」
「えーと、このままトラペッタの町に行って物資を補給して、そこからポルトリンクへ向かう予定かな。」
続けてトロデがヤンガスに手紙を見せた。
「わしらが中庭で目覚めたとき、この手紙が添えてあったのじゃ。一体誰が書いたのか見当もつかんし、信用できるのかどうかも全く分からんが…今のわしらにはこの紙切れを信じて進む他に道は無い、ということじゃな。」
「ほーん。まあおっさんのことはどうでもいいでげすが、アッシは兄貴が行くところなら、海でも空でもお供するでげすよ。」
「お、お前は…!もっとわしに敬意を払わんかい!!」
また口論が始まりそうになったので、慌ててエイトが間に入る。
「あっ!ほら町!町が見えますよ王様!あれがトラペッタですね!!」
「お、おう…そうじゃな…ドルマゲスの生まれは不明だが、奴はあの町で長い時間を過ごしたという。何か情報が掴めるやもしれぬな。」
「腹が減ったでげす…さっさと酒場に行きましょうぜ!兄貴!」
そして魔物と馬と兵士、それに山賊を加えたパーティーは夕焼けに照らされながら"道化師"ドルマゲス生まれの地、トラペッタへ歩を進めるのであった。
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「あれ?おっさんは町に入らないんでげすか?」
「わしは少し積み荷の整理をしてから行く!お主はエイトと共に町に入っておれ!」
「…そうでげすか。じゃあお先に」
町の門の前まで来たところで馬車の中へ入っていったトロデを見て、ヤンガスはエイトに小声で囁く。
「兄貴、あのおっさんってほんとに王様なんでげすか…?それにしては随分働き者でげすね…」
「…まあ確かにね。それも王様の良いところだよ。」
「うーむ。そんなもんなんでげすかね。」
エイトとヤンガスが門を開いて町に入ると、開いた門を見たのか、若い少女が期待に満ちた顔でこちらに走ってきた。こちらを待ち人か何かと勘違いしていたのだろうか。少女はエイトとヤンガスの姿を認めると、あからさまに失望し、その笑顔に影を落とした。
「…ええと、ごめんなさい、旅人の方ですよね。ここはトラペッタです。ところどころで機械の魔物を見かけるかもしれませんが、害はないので安心してくださいね…」
それだけ言うと少女は肩を落とし、とぼとぼと石段を登って行った。ミーティア姫と同い年くらいだろうか?出迎え…と呼ぶには少々お粗末な歓迎にエイトとヤンガスは顔を見合わせる。
「元気よく走ってきたと思ったら、アッシらの顔を見て元気をなくしたり、忙しい娘っ子でげすね。…あっ、そうだ兄貴!向こうに酒場があるみたいでげすよ!あとで行きましょうや!」
「はいはい。その前に旅の準備と宿の手配はしておかないとね。」
それから二人は道具屋に寄ったり、武器を新調したり、あちこちで壺やタルを破壊したりして回った。途中でいつの間にか町に入って来ていたトロデと合流したのだが、「わしはまだこの町を観光していない」と言われ、エイトはヤンガスと情報収集のために二人で酒場に行くことにしたのだった。
酒場に着くと早速荒くれと飲み比べを始めたヤンガスを横目に、エイトは酒場の店主に話しかけてみる。なにかドルマゲスに繋がる情報が得られれば良いが…。
「もし、少し話を聞きたいのですが…」
「…なにか頼んでくれるかい。うちはボランティアじゃないんでね。」
「あっ、すみません。えぇと、じゃあ僕はあまりお酒には強くないので甘いものを…」
「了解。まあ座りなよ。」
店主はエイトをカウンター席に座るよう促すと、ドリンクの準備を始めた。
「それで?あんたの聞きたいことってのは何かな。」
「そうですね…この町に
その時、一瞬だけ店主の動きが止まったが、非常に微細な動作だったため、エイトは気付かない。
「ああ、確かに
突然声のトーンが一段低くなった店主をエイトは若干不審がったが、話を続けた。
「この話はあまり外には広げないでほしいのですが…」
店主がコトリ、と置いた果実のカクテルを少し飲み、エイトが続きを話そうとした瞬間、後ろで怒声が響いた。見ると、男がヤンガスの胸倉を掴んで凄んでいる。その剣幕にバニーや他の客も驚いていた。
「こっこのやろう!ヒック、てき、てきとうなことをぬかすんじゃあねぇぞ!!!」
「お、落ち着けよ
「あーあー完全に出来上がっちゃってるね…悪いねお客さん、少し止めてくるよ」
店主が今にもヤンガスに飛びつかんとする荒くれを諫めに行ったので、エイトはカクテルをもう一口飲んだ。かすかに香る柑橘の淡い口当たりが心地良い。普段酒は飲まないエイトだが、こういうものがあるならばたまに飲むのも悪くはないな、と思った。
「どうしたんだい、珍しいね。あんたがここまでベロベロになるなんて…旅の方、こいつに一体何を言ったんだい?」
「ご、誤解してもらっちゃあ困るぜマスター。オレはただ、『トロデーン城を滅ぼしてマスター・ライラスって魔法使いとリーザスの村のなんとかっていう兄ちゃんを殺したっつうドルマゲスっていう道化師を知らねぇか?』って言っただけだ…」
その瞬間、店の中にいる全ての人間が息を呑む音が聞こえた。というよりも、そんな音が聞こえるほどに店が静まり返ったのだ。さっきまで冷静な姿勢を崩していなかった店主ですら驚きで固まってしまっている。
「ほ、ほらこいつ!!ヒック、このとおりだ!こいつ、こいつドルマゲスをっ」
「……旅の方たち、その話、詳しく聞かせてくれるかい。なあ、あんたらも聞きたいだろう?」
「お、おい!こんなやつさっさとおいだそうぜ!」
店主は黙って酔っぱらった荒くれに冷水を浴びせると、またこちらに向き直った。周りの人間もこちらに集まってくる。数は10人ほどだろうか。何故かヤンガスも混ざってこっちを見ているので、エイトは仕方なく、自分が見たこととトロデに聞かせてもらったことを語った。
…
「…」
「僕が知っているのはこれで全部です」
「…」
「…みんな、この話はくれぐれも内密にしてくれるかい?」
店主の呼びかけに、他の客たちも神妙な顔で頷いた。エイトとヤンガスだけがこの酒場だとは到底思えないピりついた空気についていけていない。彼らはただの人探しをするような気楽な気持ちで話をしただけなのだ。
「…本当にあんたの言うとおりだったよ。大占い師の名は伊達じゃないね、ルイネロさん。」
エイトが店主の向いた方向に目をやると、カウンター席の奥に一人の男がいた。
「…ふん、今回ほど占いが外れてほしいと願ったことはないわ。」
その男は表情一つ変えず、グラスに残された氷をただ見つめていた。
「…さて、旅の方。ドルマゲスは私たちの大事な友人なんだ。そんな友人を侮辱するような話を信じたくはない。が、あんたたちは嘘をついているようには見えない。だから忠告をしておくよ。この町で、もうその話はしないほうがいい。そんな話をしたってきっとお互い何の得も無いからね。さあ、分かったら今日はもう宿に泊まって、明日旅立ちな。酒代はサービスしてあげるからさ。」
「…よくわかりやせんが、行きましょうか、兄貴」
「うん、そうだね…ごちそうさま」
すっかり空気の冷え切ってしまった酒場を後にして、宿へ向かう前に二人はトラペッタの観光をしているはずのトロデを探しに行った。
原作との相違点
・勇者エイトが喋る。
勇者が喋らないのはプレイヤーが勇者に感情移入しやすい様にという使用上の配慮だが、本作はゲームではないのでじゃんじゃん喋る。性格としては純朴な青年というイメージ。
・トロデが己の非を正しく反省し、後悔している。
原作ではドルマゲスへの非難が止まらない(実際全面的にドルマゲスが悪いので責められない)が、今回は自分にも非があると理解しているので、原作よりも横暴な物言いは鳴りを潜めている。
・ヤンガスが斧を手放さなかったため、「さんぞくのオノ」を装備している。(あまり深い意味はない)
本当は「鉄のオノ」らしいが、山賊が持っているので別に「さんぞくのオノ」でもいいじゃんということで装備している。「さんぞくのオノ」自体は中盤の武器なので序盤は無双できる。
・町民がトロデを見ても怖がらない。
原作では魔物は撃退するべし、という考えが一般的にどの拠点にも存在するが、この街にはドルマゲスの放ったリーザスの村で披露したような人造モンスター「セキュリティサービス」が何匹もトラペッタには徘徊しているので、魔物の姿程度では驚かない。
・トラペッタの町でエイトたちがめちゃくちゃアウェー。
ドルマゲスはトラペッタの町人なら誰でも知っているレベルの有名人で人気者なので、そんな人物の悪評を広めようものなら顰蹙を買うのは道理である。
・占い師ルイネロが既に復帰している。
既に親子の確執も解消され、水晶玉も手元に戻ってきているので、占い師ルイネロはまだまだ現役。原作であったお使いイベントが消滅し、勇者たちはルイネロに恩を売ることができなくなった。
補足
・主人公って近衛兵のくせに結構トロデにフランクな口調じゃない?
→主人公は8歳の時にミーティア姫に発見されてから姫の遊び相手として王室で面倒を見て貰っていたので、トロデに対しては主君と親が混じりあったような敬意を持っていた、とします。なのでこのような少しフランクな態度となっています。