ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
世界を闇に染めんとする暗黒の神。
世界を光で救わんとする勇者たち。
どんな王国の勇士の力も、どんな狡猾な魔物の魔力も、暗黒神や勇者には遠く及ばず、この世界の命運はまさしく彼らによって左右されることとなった。
しかし…本来の星の筋書き『原作』とは異なるこの時間軸。とある場所に、世界を軽々と征服できるほどの勢力を持ちながら、しかし勇者にも暗黒神にも与しないある組織が存在した。アスカンタ王パヴァンとの密約の元、アスカンタ地方北部の拓けた草原『モグラのアジト』跡地に蟻の巣の如く張り巡らされた巨大な地下空間、そこで暮らす人々、あるいは魔物たちの様相はさながら一つの王国、軍隊。
「U.S.A.(ユナイテッド・サービシーズ・オブ・アスカンタ)」。それこそが道化師ドルマゲスが光の世界に残した置き土産の名である。
…
「…ユリマさん、何を?」
「見て分かりません?裁縫ですケド」
「いえ、それこそ見て分かるのですけども…その、この量は…?」
ドルマゲスの信奉者にして忠犬、あるいは狂犬。トラペッタの町娘ユリマはエントランスでちくちくとぬいぐるみを作っていた。…それだけ聞くと可愛いものだが、そのぬいぐるみは彼女の愛する人を模したもの。それも既に完成したものが彼女の座る椅子の後ろに山のように積み上げられている。当然、愛する人──ドルマゲス本人の許可は取っていない。
「こんなんじゃ足りないくらいですよ。この『ドルマゲスさん人形』はわたしに勇気と愛をくれるんです。いっぱいあればあるほど幸せになるんです。ふふふ、ふふ。」
「(ひぇ…)」
ドルマゲスに付き従う幼き秘書、兼U.S.A.代表代理。アスカンタの王室小間使いキラは苦々しい顔をしつつもユリマの作った人形の一つを拾い上げた。…多少美化されているような気がしないでもないが、愛らしい人形じゃないか。と彼女はこっそり思う。……忘れてはならないが、彼女もユリマほど熱烈ではないにしろ、ドルマゲスを慕い、信奉する者の一人であることに変わりはない。
「わたしだってホントはドルマゲスさんのために身を粉にして働きたいんですよ?だから今だって魔物の訓練にも参加したくてうずうずしてるのに、キラちゃんがダメって言うから」
ユリマはキラをキッと睨みつける。常人なら、あるいは悪徳の町パルミドに幅を利かせるゴロツキであろうと竦みあがってしまうようなどぎつい眼光である。以前のキラならそれだけで倒れてしまっていてもおかしくなかったが、今の彼女はユリマの強烈な視線にもだいぶ慣れたようだ。
「いやいや!あれじゃあ鍛錬じゃなくて蹂躙ですよぅ!ドルマゲス様がせっかくスカウトしてこられた兵隊なのに、ユリマさんがそれを潰してしまっては意味がないです!!」
元はドルマゲスが暗黒神の目を欺いて再封印の準備を整えるための研究を行う場所になるだけのはずだったU.S.A.だが、ドルマゲスが各地から連れてきた魔物たちや、ワーカーホリックな先住民の「モグラ」たちの手によって今では巨大な王国のようなアジトとなっている。暗黒神復活に備え、従業契約を交わした魔物たちには鍛錬(敷地内での殺し合いは固く禁じられている)の時間が設けられているのだが、ユリマは時折そこにフラリと現れて憂さを晴らすかのように魔物たちに対して無茶なレベリングを課すのだ。
だが、その悉くをなぎ倒す嵐のようなユリマの存在がU.S.A.内で反乱を目論む獅子身中の虫どもの戦意を喪失させる一因になっている、という事実は二人の知るところではない。
「あ、でもドランゴとかいうバトルレックスにだけはわたしもかなりヒヤヒヤさせられましたね。確か昔ドルマゲスさんに戦い方を教えていた羨まし…オホン、感心な魔物でしたっけ」
「ドランゴさんは今のU.S.A.で一番強い魔物ですからね…でも、ユリマさんでも打倒できなかったとは驚きです」
「ま、本気出せばあんなのに負けはしないですよ」
そういってコロコロと笑うユリマだが、実際は『ベタランブル』を始めとする強力な魔法の数々と、未来を視通す彼女の『
「それよりキラちゃんのあれはどうなってるんですか?ほら、なんとかのタンバリンを量産するとかしないとか…」
「ああ、それはですね──」
しれっとユリマの作った人形を胸に抱いたままのキラが話を進めようとした瞬間、入り口の扉が勢い良く開いた。神妙な面持ちの老人と表情に焦りの見える青年。アジトに帰って来たのは残る二人の信奉者、ライラスとサーベルトである。
「お二人とも、お帰りなさいませ。外套は私がお預かりしますね。」
「ありがとうキラ。でも今すぐ話したいことがあるんだ。…重要なことだ。」
「うむ。非常に重要で、非常に厄介なことが…な」
「二人とも騒々しいですね…何なんですか一体」
賢者の保護任務から帰ってきた二人の表情は芳しくない。おそらく何か手痛い失敗をしたか、あるいは良くない事態が発生したのだろう。
「心中はお察ししますが、まずは落ち着いてください!『焦る時ほど冷静に』ですよ。」
「…ああ、ドリィがよく言っていた言葉だな。…よしわかった。キラ、ひとまずアレをくれるか?」
「もちろんです!」
「ありがとう。…その人形はなんだ?イカしてるな!」
ドルマゲスの無二の親友にして彼を守る盾。リーザスの剣士サーベルトは身分を隠すためのコートをキラに手渡し、代わりに「まほうのスポドリ」を受け取った。以前ドルマゲスとキラが共同で開発したこの不思議な液体は飲むだけで体力や魔力が回復する上、甘くて飲みやすいのでサーベルトは鍛錬や戦闘の後に愛飲している。かつてドルマゲスに強くなることを誓った彼は、その親友が姿を消してからも鍛錬を一日たりとも欠かしたことはない。他の者が多少なりともドルマゲスについて『最悪の場合』を想定する中、サーベルトだけは全くその可能性を考えていなかった。無思慮や過大評価の類ではない。彼だけはドルマゲスが
「…」
「ねえねえライラスさん、何があったんです?」
「やれやれ…キラからも急くなと言われたろう。心配せずとも今から話す。」
ドルマゲスの師であり賢者マスター・コゾの血を色濃く継ぐ大魔法使い。トラペッタの魔法研究者ライラスはキラに勧められた椅子にどっかりと座りこみ、荷物を下ろして肩や腰をパキポキと鳴らす。その姿は一見するとかなりの年を召した老爺に見えるが、戦闘時の俊敏さは魔物をして舌を巻くほどのもの。ドルマゲスが最も長い時間を共にしたのは間違いなくライラスであり、ここぞという時の二人の阿吽の呼吸はサーベルトですらも立ち入れない至極の領域と言えるが、頑固なライラスは頑なにそれを認めようとはしない。『もっと高みを目指せるから』という彼の含意を理解しているのはドルマゲスだけであった。
ユリマ、キラ、サーベルト、ライラス。「原作」では決して集うことのなかった彼ら四人を繋いだのは一人の道化師。だが、彼はリブルアーチの住民を守るために無理な戦いをし、ラプソーンの腹心「妖魔ゲモン」に敗北して行方知れずとなってしまった。しかし「世界を平和にして、悲しくない人生を送りたい」という願いは確かに彼らへと受け継がれていた。
「悪い知らせと、もっと悪い知らせがある。まずは悪い知らせからだ」
ライラスは大きくため息をつき、サーベルトは少し俯いた。
「…ギャリングの保護に失敗した。奴は我々の庇護下におかれることを望んでおらん。」
「俺も説得は試みたがダメだった。ギャリングさんは剛毅で快活な方だが……非常に頑固な人だった」
「(あぁー…。)」
今でこそ休職中ではあるが、元はキラも王室御付のお世話係。アスカンタ王パヴァンや王妃シセルの後ろに控え、他の国や町の長を目にする機会は度々あった。なかでもベルガラックの町長であるギャリングとの出会いは色々と強烈だったのでよく覚えている。
「まあ、奴はベルガラックの長。そしてベルガラックといえば世界最大の国家サザンビーク王国の国領でありながら、かの国とは相互不干渉を貫く自治都市だ。よほど支配や庇護を嫌う性分なのだろう。奴の先祖である賢者がそうだったようにな。保護こそ成らなかったが…セキュリティサービス自体はドルマゲスが予め契約・導入していたらしく屋敷の庭に大量に放たれていたので、ひとまずよしとする。」
「ドリィがギャリングさんの家に設置したセキュリティサービスは何かあればすぐにこちらの警報も鳴る仕様だ。その時はユリマ、お前のワープを頼りにしているぞ!」
「…それがドルマゲスさんのためになるなら。」
かつてユリマはドルマゲスを追ってベルガラックに来たことがある。暗黒神に操られていた身とはいえ、彼やサーベルト、キラを傷つける望まぬ再会となってしまったことは未だに彼女の中で小さな
「成程、ギャリング様を連れてくることが叶わなかったというのが『悪い知らせ』ですね。では、『もっと悪い知らせ』というのは…?」
「そう、問題はそっちだ。……マイエラ修道院にいるはずのオディロ院長が『いなかった』」
「…っ!」
その言葉を耳にし、キラは最悪の事態を想定して青ざめる。
「まさか…オディロ様は既に…」
「…いや、それすらもわからん。暗黒神の手にかけられたか、それともどこかへ身を隠しているのか…ともかく修道院の人間は誰も院長の行方を知らなかった。」
何のために無能どもの相手をしてやったのか、とライラスはぼやく。マイエラ修道院聖堂騎士団の悪徳を以前ドルマゲスと共に体験しているサーベルトも、同じく顔を顰めた。
「そしてオークニスの賢者の封印は既に解かれた後…だったな?ユリマ」
「多分。わたしが着いた時には賢者のおばあさんは死にかけだったので、杖を持ってるゲモン…あのクソ鳥にやられてるはず。」
一瞬ユリマの身体から魔力が噴出し、すぐに収まる。ユリマにとって妖魔ゲモンは最愛の人を奪った…まさに仇敵の如き存在。否、それはユリマだけに限らず、この場にいる全員にとっての仇であった。
「ゲモンの居場所が特定できればそれに越したことはないが…ヤツは無尽蔵の体力で空を駆ける。目撃情報などはあまりアテにならんだろうな。」
あのバカ弟子なら…ドルマゲスならあるいはできたのかもしれないが。いつも突飛なアイデアや初めて見るアイテムを持ってきてはよく分からないことをしているあの道化師は、それでもいつも事態を好転させるような事ばかりする。…いや、この場にいない者に望みをかけても仕方ない。ライラスは首を振った。
「ドルマゲスさんなら……」
「…む」
だが、そうやってライラスがついさっき飲み込んだ言葉を、彼女は躊躇なく吐きだすことができる。ユリマに振り回されてばかりのライラスだが、彼女のそういうところは素直に認めており、少々羨ましくもある。
「ドルマゲスさんなら…きっとゲモンだって院長さんだって見つけ出す方法を知ってるはず。
「私も…同じことを考えていました。ドルマゲス様ならきっと何とかしてくださると、不思議とそう思うのです」
それは期待ではなく、信頼。
「正直、今ここにいないドリィに託すのは心苦しい気持ちだ。だが、彼なら…というキラとユリマの気持ちは痛いほどに分かる。俺もそう思っているからだ。」
「うむ……」
闇の遺跡で、ベルガラックで、トロデーン城で。ドルマゲスに命を救われた彼らはドルマゲスに光を見ることをやめない。やめられない。だが、盲信や狂信…彼らはドルマゲスを神のように崇め、無責任に救済を求めているのではない。ただ、一人の人として『信じている』のだ。
そしてそれはライラスとて例外ではなかった。
「…わかった。とりあえず任務の失敗は失敗。次にどうするかだ。では、一旦賢者の保護任務の完遂は保留としよう。」
「…。」
誰かが生唾を飲み込む音が聞こえる。もしかしたら全員がそうしたのかもしれない。
「…そして我がバカ弟子、ドルマゲスの捜索を我々の最優先任務とする。」
「やったぁ!!」「ライラス様…感謝致します」
嬉しさを隠す素振りすらなくぴょんぴょんと跳ねるユリマ、飛び上がりこそしないが人形を一層強く抱きしめるキラ。拳を握りなおすサーベルト。何気ないその仕草だけでも彼らがどれほどこの機会を待ち望んでいたのかが窺い知れる。
「わしは指揮を執るのが性に合わんし、キラも見込みはあるがまだ未熟。先にドルマゲスの捜索に専念してあやつと合流し、その後にこれからのことを考えてもらう方がまだ建設的、と判断したまでだ。」
「分かっております。我々の為に賢明なご判断をありがとうございます、ライラスさん。…して、次はどこを探しましょうか」
「うむ、このU.S.A.内の魔物どものネットワークを総動員して、探せる箇所は全て探した。王国の路地裏から山奥の洞窟、小さな孤島まで、隅々な。だがドルマゲスは影も形も無かった。」
「その心は?」
「つまり、奴は間違いなくあの場所……『隔絶された台地』にいる。強靭な肉体を持つ魔物ですらも到達を断念するという、あの場所だ」
「例の高台ですか……確かに、もうそこ以外は考えられませんね」
サーベルトは納得した様に頷いた。『隔絶された台地』…大洋のど真ん中、あまりに高い断崖絶壁の上にあるので、誰も到達することができない前人未踏の地である。ライラスはドルマゲスがいるとするならば、そこしか有り得ないと断定した。
「キラ、飛行タイプのセキュリティサービスを3人分用意してくれ。丈夫なヤツを3台だ。ユリマは自分で飛べるな?」
「仰せの通りに。すぐ手配いたします。」「もっちろんです!」
「サーベルト、腹ごしらえするか?」
ライラスはサーベルトに訊くが、彼は首を横に振った。彼はサーベルトがそうすることを分かっていたのか、小さく鼻を鳴らすと腰を上げた。
「では……ゆくぞお前たち。ドルマゲスを迎えに、な」
信奉者たちは力強く頷いた。
「ユリマさん、このお人形さんを一ついただいても…?」
「ゼッタイ嫌!……だけどまあ、キラちゃんは面白い子だから特別にいいですよ」
「本当ですか!?うれし──」「500000G」「え」
「500000G払って?これでも特別価格なんですよ?」
…
「キラ?すまん、腹が減ってたのか。俺がいらないと言ったばかりに急がせてしまったな…」
「いえ、お気になさらず……これからしばらく雑草を食べて生きていくことになりそうなので、最後に一口噛みしめているだけです…」
ライラス:ドルマゲスの良き相談役。3DS版のCVは山野史人氏。
サーベルト:ドルマゲスと最も対等な理解者。3DS版のCVは入野自由氏。
キラ:ドルマゲスが全幅の信頼を寄せる右腕。3DS版のCVは近藤唯氏。
ユリマ:狂犬ガオガオ。3DS版のCVは佐藤利奈氏。
少し半端な気もしますが、ACT7はここまでです。次回は番外編+αのいつものやつです!