ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
新・第二十二章 立つ鳥黒を濁さず‐レティシア‐
ハロー、道化師のドルマゲスです。紆余曲折ありましたが、無事に闇のレティシアに到達することができました。原作でも登場した場所であることもあってか、ここにいると妙な安心感がありますねえ。さて、闇のレティシアには辿り着きましたが、目的地はここではありません。早いとこレティスを探して、闇のトラペッタ近くの高台に封印されている俺の本体を何とかしてもらいたいところですが…。
…
「『止まり木』とさっきの人は言ってましたけど…周辺の植生を見る限り、大きな木なんてものが育つとは思えませんね。」
「まあ、ここも随分空気は薄いですからねえ。実際『止まり木』は例えであって、樹木じゃないんですよ?」
「ああ、そうなんで……え、何で知ってるんですか?」
「ええっと、光の世界がそうだったからです」
俺がそう取り繕うと、ふーん、とディムは興味無さげに気のない返事を返してくる。
サーベルト始め俺の仲間たちには俺の原作知識を『未来を視ている』という
だが、闇のレティシアまで来た今は原作知識も多少は通用する。今後のことを考えると「未来を知っている」とカミングアウトした方が良いとは思うのだが、発表するタイミングと伝える内容を測りかねているのが現状である。
「あっ、もしかしてあれじゃないですか?『止まり木』」
そんなことを考えている間に見えてきたのは、見晴らしの良い丘陵の中央に積みあがった巨石。それは無骨な鳥居のようにも、小さな遺構にも見える、不思議な物体である。近くにレティスの姿は見えないが、あれがいわゆる「レティスの止まり木」であることは間違いない。
「そうですね。しかしレティスは…」
どこにいるのか。
俺がそう口に出そうとしたその瞬間、後方から一陣の風が吹いた。あまりの強風に俺は思わず身を屈め、ディムは二、三歩よろめく。突風は草原をなぎ倒すかのように草を揺らしながらまっすぐに止まり木の方向に吹きすさび、そして……
「レティス……!」
「!まさかあれが…?そんな、思っていたよりもずっと……」
『世界を渡る鳥』神鳥レティスがその美しく鮮やかな藤色の翼を優雅にはためかせながら、ゆっくりと止まり木に舞い降りた。
…
「…!…!」
ディムは口をぱくぱくさせて何も言えないでいる。普段の冷静沈着な彼の姿を見ていると幾分意外ではあるが、彼が「ハデハデ」を見るのは俺に続いて二度目である。元々他の魔物を圧倒するような体躯を持つ巨鳥が、闇の世界にはなじみの薄い色付きの姿で現れればこうもなろう。むしろ腰を抜かしたりしないだけ肝が据わっている。
かくいう俺もレティスの放つ威光…というか覇気にあてられ、額に玉のような汗が浮いてきている。原作知識でレティスの姿形やその設定まで知っているという精神的アドバンテージがあってなおこの緊張…ラプソーンとはまた違う、平伏してしまいたくなるような畏れ多い圧を全身で感じる。レティスは嘴で少し羽を繕うと、こちらをじっと見つめてきた。その鋭い視線に俺は何もかも見透かされているような感覚になり、その場で動けなくなってしまった。
『人の子よ。もしや、貴方が
レティスはしばらくこちらの出方を窺っていたようだが…動けない俺たちを見かねたのか、思念を飛ばしてきた。俺がこれまで修得してきたどの魔物言語とも異なる、相手の脳に直接語り掛ける思念…いわゆるテレパシーだ。
「その人………?」
『貴方がもし…いえ、どうやら怯えさせてしまっているようですね。ごめんなさい。ともかく、あなた方と話がしたいのです、人の子よ。どうぞ私のもとへ…』
そう言うとレティスの圧がふっと消えた。…いや、意図的に消したのだろう。レティスはこちらが止まり木の下まで来るのをじっと待っている。……どうやら今から引き返すという選択肢は無さそうだ。
「おじさん…」
「ええ、行きましょう。…大丈夫です。レティスは我々ではひっくり返っても勝ちの目はありませんが、今の彼女に戦意はないはずです。」
原作レティスは『破れ目』を作る力で闇の世界へと勇者を誘い、力試しの名目で彼らに勝負を挑んだが、それは彼らが自分の卵を拉致しているゲモンと勝負が成立するかどうかを図るためのものであり、本来彼女は好戦的な性格ではないはず。そしてゲモンは既に闇の世界にはいないので、レティスが俺たちに戦闘を仕掛けてくる理由はない。
だが、仮に襲われた場合、レベル一桁台のステータスしか持たない俺ではひとたまりもないので、彼女が力試しを挑んでこないことを祈るしかない…まさに神頼みである。
「……しかしディム君?念のため、彼女の神経を逆撫でするようなことを言うのは控えてくださいね?」
「失礼な、僕だって流石に相手くらいは選びますよ…」
ほんとかねえ?彼の今までの黒サーや黒ユリマへの応対を考えると、レティスとの対話中にも失言が飛び出しそうなのが不安で仕方ない…。
…
『私を見ても逃げださず、よく来てくださいましたね。勇気ある人の子よ。あなた方は……いえ、まずは私から名乗るのが礼儀でしょう。私は…レティス。レティシアや下界の者たちから「神鳥」と呼ばれる存在です。』
「お初にお目にかかります、レティス様。私の名はドルマゲス、しがない道化師でございます。」
「僕はディム…そう呼ばれています。神鳥様、貴方に会えて光栄です。」
俺は恭しく頭を下げた。隣をちらりと見ると、ディムもしっかり頭を下げている。レティスが俺たちの力を試そうとするならば、こちらに全力を出させるために何も言わず襲い掛かってくる可能性が高いので、ひとまず安全は保障されたと考えて大丈夫だろう。
『ドルマゲス、ディム。私のことはどうかレティスと呼んでください。…実は、あなた方……特にドルマゲス。隻腕の道化師よ。貴方が私を探していたように、私も貴方を探していたのです。』
「…貴方が、私を?」
『はい。
レティスはこちらを定めるような視線をやめない。圧し潰すような気迫こそ消してもらっているが…やはり、相手は神と呼ばれ崇められる上位の存在。相手に敵意がないと分かってなお冷や汗が止まらない。俺はディムに『後方で待機』のハンドサインを出し、一歩前に出た。
「期待…貴方が私に感じているその期待、差し支えなければお聞きしても?」
『勿論です。あなた方はここに来る前にレティシアを訪れ、私に関する諸々の話を耳にしたことでしょう。ですので、単刀直入に尋ねます。ドルマゲス…貴方が『その人』……ゲモンを誘導し、私の子を救ってくださった方ですか?』
…。レティスはこちらが諸々の事情――それこそレティシアで得られる情報以上のこと――を知っている前提で訊いてきている。彼女が俺たちのことをどこまで知っているかは定かでないが、下手な惚けや誤魔化しは却って立場を弱めかねないな…。今後のラプソーンとの決戦のことを考えると、ここで確実にレティスの信頼は得ておきたい。慎重にいこう。
「失礼…『私の子』とは…?」
『…。この島にある私の巣の中には当時私の子…卵が眠っており、やがて訪れる目覚めの日を待っていたのです。』
「…」
『ですがその私の巣が暗黒神の配下であった一匹の魔物……妖魔ゲモンの手に落ち、卵は人質に取られてしまったのです。ゲモンは卵を救いたければ人間の村を襲えと脅してきました。私はそれに屈し、レティシアを襲っていたのです。』
『しかし、少し前にゲモンが血相を変えて北西の方角へと飛んでいく所を私は目撃しました。もしや卵に何かあったのかと思い私は急いで巣に戻ったのですが、卵は無事でした。』
『……ですがそれは、ゲモンに
『……すると、世界の各地で憎き暗黒神復活の兆し、そしてドルマゲス、貴方がその脅威に対して奮闘してきた痕跡ばかりが見えてきたのです。今は闇の世界の者に似せた姿形をしていますが…本当の貴方は光の世界の者。そして闇の世界に迷い込んだ。そうですね?』
やはり、俺たちがただの観光客などではないことはとっくに見透かされていたか。しかしまあ、それは最終的にはレティスに打ち明けなければならない事だったので問題はない。ゲモンに関してはレティシアで俺が考察した通りだったな。
……よし、言うべきこと、言うべきでないことは大体まとまった。
「……仰る通りです。私はドルマゲス、光の世界の道化師です。そして先ほどの貴方の問いには…是とも非とも答えられません。レティス、貴方の子が危険にさらされなくなったことは大変喜ばしいことですが、私の意図したことではありません。私は…ただがむしゃらにやってきただけです。」
『…』
「事実、暗黒神が復活に向けて動き始めた責任の一端は私にあります。なんとしても賢者の殺害を阻止しなければ…と東奔西走してきましたが、暗黒神の力を得たゲモンには力及ばず敗北を喫しました。その後ラプソーンによって闇の世界に放逐されたのです。私は貴方に仰っていただいたような聖人君主ではありません。」
『成程……』
『……しかし、今ようやく確信に至ることができました。貴方の勇気が巡り巡って私の子を救ってくれたこともまた
レティスは右翼を大きく広げ、頭を少し下げた。本当にレティスの子のことは考えていなかったのだが、彼もまた、原作では生まれてくることすらできずにゲモンによって爆殺された悲劇の子だ。俺の奮闘のおかげで命が助かったというのならそれに越したことはない。
『そして、貴方が私に会いに来てくださった理由についても、薄々想像がついています。…貴方はきっと、光の世界に帰ることを望んでいるのでしょう?光の世界に残してきた仲間たちと再会するため、そして暗黒神に再び立ち向かうため…。』
どうやら、レティスの中では余程俺は勇気ある者として一目置かれているらしい。確かにサーベルトたちのことはずっと気になっているし、戻ればまたラプソーン復活の妨害をしてやることは確定しているが…最終的に暗黒神を打ち倒すのが俺である必要はない。
まあまだその前に一つやることも残っている。俺は『
「神鳥レティス、貴方の感謝と敬意は確かに受け取りました。しかし、私はまだ光の世界に帰るわけにはいきません。実はこの私は分身に過ぎず、私の本体はここからはるか遠く、北の大陸の高台に封印されてしまっているのです。私の本体を取り戻さないことには光の世界に帰っても思うように動けないのです。」
『…詳しくお聞かせ願えますか?私にも何か手伝えることがあるかもしれません。』
俺たちはここまで黙って待機してくれていたディムを交え、俺が闇の世界に落とされてからこれまでの足跡をかいつまんでレティスに説明した。ディムが重要な事項を端的に伝えてくれたこととレティスの優秀な理解力により、ものの数分でレティスは事の経緯をすぐに把握した。
『私も光の世界の観察を行いつつ、闇の世界全体にも気を張っていました。…しかし暗黒神らしい邪気が闇の世界に侵入してきた気配は全く感じませんでした。』
「…神鳥様でも察知できないとなると…それほど暗黒神の隠密行動能力が優れている…ということですかね?」
「恐らくは。ラプソーンは数百年前の戦いよりもさらに老獪、かつ狡猾になっている可能性があります。今の奴を光の世界にのさばらせておくのはあまりにも危険。私は早急に元の力を取り戻し、光の世界に戻らねばならないのです。」
『ドルマゲス、貴方の言いたいことはわかっています。どうぞ私の力を頼ってください。……と、言いたいところですが…実を言うと私の一存でこの地から離れることは……』
「む…」
「神鳥様、レティシアのことなら心配ありません。長老殿から既に『村のことは気にするな』との言伝を預かっております。長老殿はここ最近の神鳥様の憂いを大変気にしておいででした。神鳥様が自らの動きたいように動いてくだされば、きっとその御姿を見てレティシアの方々も安心召されることでしょう。」
ナイスアシスト!さっきの説明で長老の話を意図的に端折ったのはこのダメ押しに使うためか!ディムはつくづく頭の回る少年だ。俺はディムの肩をちょんと小突くと、彼はニヤリと笑ってちょっと強めに小突き返してきた。
『……そう、ですか。…であれば私にもうあなた方に協力しない理由はありませんね。あなた方さえよければすぐにでも出発しましょう。』
俺は強く頷いた。これでレティスの協力を得るというここでのミッションは達成だ。次はトラペッタの高台で俺の封印を解いてもらい、そのままレティスの力で光の世界に帰る。そうすれば闇の世界の長旅も終わる…。
『よろしいでしょう。では……出ていらっしゃい、
へ?
レティスが促すと、彼女の背中から黄金色の雛鳥がひょっこりと顔を出した。…雛鳥と言っても、翼を広げた姿は既に俺よりも大きく、姿形も成体のそれと変わりない。雛鳥はレティスの背から飛び立つと、その黄金の羽を披露するかのように辺りを一回りして俺の前に降り立った。
『初めまして、
へ??
「と、とお…?あの、レティス?彼は……」
『つい最近孵った私の子です。貴方が命の恩人であることを伝え聞かせているうちに、いつの間にか貴方のことを父親のような存在だと認識してしまったようですね。我々神鳥は元来神に使える存在…。番うことはなく、一生に一度だけ卵を産むのです。なので父親という概念は本来神鳥に相応しいとは言えないのですが…、私が産み落とし、貴方が命を繋いだ。貴方はもはやこの子のもう一人の親と呼んでも差し支えはないでしょう。』
差し支えるだろ…。
「は、はあ…。」
神鳥の子は俺の肩に飛び乗って懐っこく頬ずりしてくる。体の大きさの割には軽いな。…てか、レティスの俺への信頼の厚さは何なの…?俺が恩人本人と分かるや否や急にぐいぐいくるし…。いやまあ命の恩人と言われて悪い気はしないが……すんませんレティスさん、これ認知拒否とかできます?勇者たちが来た時どうするの?原作崩壊も甚だしいんだけども。
「すごいですよおじさん、あの伝説の神鳥のお子様の父親代理なんて!…神鳥様、お子様の名は何とお呼びすればよろしいのでしょうか?」
「そんな急に言われましてもね…」
『いいえディム、神鳥に本来名前はありません。私のこのレティスという名も、かつて共にラプソーンと戦った七賢者の内の一人に名付けられたものです。……北の大陸へと向かう前に…ドルマゲス、この子に名前を付けてくれませんか?』
『父さま!どうかボクに名前を付けてください!ボク、貴方が命の恩人だと母さまに教えてもらってから、父さまに名前を付けていただきたいとずっと思っていたんです!』
「えー……」
名前なんて付けたらほんとに父親みたいじゃんか。…もしかして名前を付けさせることで本格的に認知させようとしに来てる?……考えすぎか。
まあ、名前のないままというのもこの子が可哀想だよな。んー、じゃあ……
「ラミア。」
「!」
その名を呟いた時、レティスの身体が小さく震えたのを俺は見逃さなかった。
「あなたの名前はラミアです。レティスのお子様。どうです?」
『ラミア…ラミア!!ボクはラミア!ラミアです!父さま、ありがとう!母さま、ボクはラミアですよ!』
『ドルマゲス……!?な、なぜ……』
「いい名前でしょう?ねえレティス様?」
ラミアは当然レティス…彼女の生まれた
『母さま!』
『え、ええ。ラミア、素敵な名前を付けてもらいましたね。……それでは二人とも、参りましょうか』
まだ動揺が収まっていないのか、少し早口でそう言い切るとレティスは翼を広げた。俺とディムはラミアに手伝ってもらって巨鳥の背に乗ると、彼女は強く羽ばたいて大空へと飛び立った。色々な意味で良い気分だ。
・暗黒神ラプソーンに立ち向かう勇気ある人の子(好感度↑)
・瀕死&封印の崖っぷちからレティシアまで到達できた不屈の心(好感度↑)
・囚われた息子を(間接的に)救ってくれた命の恩人(好感度↑↑↑)
レティス「(なぜドルマゲスは私がかつて『ラーミア』と呼ばれていたことを知って…偶然?いや、あのしてやったりな表情は……)」ドキドキドキドキ
ドルマゲス「(原作知識の有効活用)」
神鳥レティス:DQⅧに登場する藤色の大鷲のような姿の巨鳥。原作では『破れ目』と『影』を用いて勇者たちを闇の世界へと誘い、卵を人質に取られている自分の代わりに、ゲモンと戦える実力を勇者が備えているかどうか力試しをしてくる。DQⅧのボスの中でも屈指の難敵で、「力試し」という名目のはずなのに一撃でこちらを戦闘不能にしてくるような攻撃ばかり連発してくる。戦闘後は勇者の実力を認め、ゲモンのいる神鳥の巣の麓へと運んでくれる。しかしその運び方も、全員を馬車に詰め込んで、馬姫ミーティアごとその鋭いツメで鷲掴みにするという雑なもの。人々から崇められる神鳥という立場ではあるのだが、こと行動だけに目を向けるとけっこうお茶目でわんぱくなお嬢さんである。生まれはDQⅢのレイアムランドだが、ロトの勇者の冒険が終わった後、暗黒神の存在を察知してDQⅧの世界へと渡って来た。数百年前、七賢者の一人レグニストによって現在の『レティス』という名をつけられた。七賢者と共にラプソーンと戦い、自身の力の一部を籠めた『神鳥の杖』にラプソーンを封印することに成功したが、力のほとんどを使い果たし、自分の影だけを光の世界に残して闇の世界に閉じ込められてしまった。そのまま現在まで闇の世界で過ごしてきたので実年齢は1000を超えている可能性もあるが、神鳥は悠久を生きる不死鳥であるため、結局レティスがいくつになっても清楚系わんぱくレディーであることに変わりはない。
神鳥ラミア:レティスの子。ボクっ娘でなければおそらくオス。原作ではゲモンの自爆により卵のまま粉々になってしまい、生まれることもできずに死んでしまうとても可哀想な神鳥。生まれることができなかったため当然原作で彼の名前はない。本作ではドルマゲスの活躍により歴史が変わり、ゲモンが光の世界に出向したことで無事に生まれることができた。レティスの熱心な教育により命の恩人に大変懐いている。その恩人がドルマゲスであることが確定した時は思わず母親の背中から飛び出したくなるくらい嬉しがっていた。ドルマゲスの意趣返しにより母親の旧姓から名づけられてしまったが、本人(本鳥?)は純粋に喜んでいる。
ドルマゲス:成り行きで勝手に父親にされた不憫な道化師。今はどうやってラミアを勇者たちに引き渡そうか頭を悩ませている。
ディム:自分でも意外なほどレティスの神話にドハマりしてしまった少年。表情には出していないが、レティスに出会えてめちゃくちゃ感激している。