ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
長くなったので分けました。前回の続きです。
DQⅧの世界に転生してから修行を重ねて俺は魔法や呪術を修得し、これまでも空を歩いたり、『ルーラ』で空中を高速移動したり、「キメラ」に乗って移動したり…という経験はしてきた。しかし……。
「(おお……!)」
レティシアを発ったレティスは瞬く間に隔絶された台地を飛び出し、大空へと繰り出した。大陸や島々が石や砂の粒のように、世界そのものがちいさな箱庭に見えるほどの高度をレティスと一体になって縦横無尽に飛び回る光景はまさに「大空が自分のもの」になったかのようだった。空の、海の、大地の…。まるで自分が世界の覇者になったような、こんな気分は初めてだ。
「本当に凄い…!ラミア様もいつもこんな光景をご覧になっているのですか?」
『ディムくんの方が年上なんだから、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ!…ううん、ボクもまだ生まれたばかりだからこんな高い所から地上を眺めるのは初めて…やっぱり母さまはすごいなあ!』
ディムとラミアも大空に興奮しているようで微笑ましい。…微笑ましくはあるのだが、ラミアには将来勇者たちに同行してもらう必要があるんだよな。機動力は数段劣るものの、俺たちにはセキュリティサービスがあるので理論上空の移動は彼の力を借りずとも可能なのだ。一方勇者たちには空を移動する手段が無い。既に俺たちだけではラプソーンを止めることが不可能だということがリブルアーチの一戦で証明されてしまった今、勇者たちの力も惜しみなく借りていくつもりだ。して、勇者たちにはこれから俺たちと「三角谷」や「法皇の館」や「風鳴りの山」、万が一の場合は「暗黒魔城都市」などにも行ってもらわねばならず、基本的にセキュサはライセンスを持つ俺かキラちゃんがいないと使えない。というわけでラミアには勇者たちと一緒にいてもらいたいのだ。
でもまあ…それは今の彼に水を差すような形で伝える必要は無いか。光の世界に戻る時に考えるとしよう。
「レティス、高台が見えてきました!雲がかかっている二つの内、奥側の高台です!」
『わかりました。封印されている貴方の身体を傷つけないよう慎重に着陸しますね。』
レティスは背中に乗っている俺たちに負荷がかからないようゆっくりと速度を落とし、土煙を立てることもなく静かに目的地である「トラペッタの高台」に降り立った。
…
辺りに魔物の気配はなく、高台はひっそりとしている。誰の妨害も受けることなくレティスの背から降りた俺たちが、封印されている俺の本体を見つけるのに時間はかからなかった。
「これが…」
『ああっ!中に父さまの御姿が!』
「ほんとですね…おじさんの言ってたことは嘘じゃなかったんだ…」
高台の中央で薄紫色の光をぼんやりと放っている半円状のドーム。強い光ではないが、それでもこの闇の世界では悪目立ちも良いところだ。ドームの中で横たわっているのは俺…つまりこのドームが封印の結界で間違いはない。俺が封印の中で横たわる自分の姿を睨みつけていると、レティスが興味深そうに結界に嘴を近づけた。
『これは…間違いなく暗黒神の魔力です。そしてこの封印は私が数百年前に奴へ施したものと似ている……。』
レティスが結界にその鋭い爪を立ててみるも、結界は無反応。当然無傷である。
『成程…カッティードが編み出していたような、反撃性能を持つバリアではないと。しかし、その代わりにひたすら耐久性を高めたものであるようです。』
「……どうでしょう、レティス。なんとかなりそうですか?」
『母さま…』
『…正直、ここまで強靭な結界は見たことがありません。ドルマゲス、貴方は余程暗黒神に警戒されていたのでしょうね。…とりあえず、やるだけのことはやってみましょう。』
「…」
誤算だった。ゲモンを優に打倒できる能力を持ち、ラプソーンとも対等に渡り合えていたレティスなら、不完全な状態のラプソーンの施した封印など余裕で突破できると思っていたが…ラプソーンの結界はレティスの力をも上回っていたとは。
レティスは手始めに『ライデイン』を唱え、封印の破壊を試みた。次に先程よりも強烈な鷲掴みを、さらにその金色の嘴を持って結界を痛烈についばんだ。しかし…
『困りましたね…これだけやっても亀裂の一つも入らないとは…。』
「おじさん、下がっててください。僕も神鳥様を手伝います!」
『父さま、安全な場所へ!』
『ディム、私と貴方の最高火力で結界に衝撃を与えるのです。』「はい!」
『『ギガデイン』』
迸る二条の白い稲妻が合わさり、あらゆるものを分解する巨大なエネルギーの塊『ジゴデイン』へと変化して結界を飲み込むが、結界に残された傷は大きくなかった。
「はあ…はあ…おじさんごと消し飛ばす勢いで放った全力の『ギガデイン』だったのに…!」
『私も今の呪文で手加減をしたつもりはありませんでした。…どうやらこの結界には魔力を軽減する特性も付与されているようです。』
「そんな…」
…雲行きが怪しくなってきた。思っても見なかったところで足止めを食らいそうだ。幸い、結界にはこれまでの攻撃で小さな傷がついており、この結界も完全に無敵ではないということだけはわかったのだが…
『壊せないわけではありません。ですがかなり時間がかかりそうです…』
「…私が通れるくらいの穴を空けるのにはどれくらい時間がかかりそうか概算できますか?」
『魔法で作られた結界はガラスや鉄のそれを破壊するのとはわけが違います。封印内部の貴方に影響を与えないよう配慮しながら私だけで結界を破壊するならば……恐らく、一月近くは』
「一月…!」
長い………!レティスが適当なことを言うとは思えない。一月という期間はおそらく正しいのだろう。しかし一月も待っていれば間違いなくラプソーンは復活してしまう。勇者たちも今の強化されたラプソーンには太刀打ちできないかもしれない。そうなれば俺が戻る前に世界が滅ぼされてしまう可能性すらある。俺の『
「物理攻撃しか通用しないとなると、僕ではあまり力になれないかも…トラペッタが近いですし、サーベルトさんでも呼びますか?…いやでも流石にあの人でも焼け石に水か…」
黒サーか…確かに彼が弱いわけではないが、この結界を破るにはいささか力不足かもしれない。ウチのサーベルトならあるいは…あるい……は………
…ん?
待った。待った待った待った。
「レティス、一つ訊きたいことがあるのですが、いいですか?」
『はい。なんでしょうか?』
「世界を渡る貴方は『破れ目』を使って光と闇の世界をつなげることができる。しかし現在は自分が通れるほど大きなものは作れない。そうですね?」
『ええ、そうです。その力で私は光の世界を観察し、貴方に辿り着きました。』
「その破れ目で私を光の世界へ帰そうとしてくれていた。つまり人間サイズの行き来は可能であると。」
『その通りです。』
よっし!なら希望はある!
「レティス、今から貴方たちの力を借りて光の世界にいる仲間に協力を要請しようと思います。…ラミア、私の仲間をここまで案内する役は貴方に頼んでもいいですか?」
『父さまが…ボクに!?やります!ラミア、頑張ります!!』
ラミアは心底嬉しそうにくるくるとその場で回るとまた俺の肩に乗って頬ずりしてきた。うーむ、ちょっと可愛く思えてきた。
「おじさんの光の世界の仲間…なるほど、確かに人数がいればそれだけ早く結界を壊せますね。」
『…わかりました。では貴方の案に賭けてみましょう。仲間たちの居場所に見当はついていますか?』
「いえ…。しかし光の世界には我々の拠点があります。そこに行けば彼らの足跡は掴めるはず。」
「それっておじさんが直接光の世界に行くんじゃダメなんですか?」
「それも考えましたが、ラミアはまだ人を乗せて飛ぶことに慣れていません。私が一緒に行って足手まといになるくらいなら、ラミア一人に行ってもらった方が迅速かつ確実だと思いました。」
「なるほど、納得です。」
俺はサーベルト、師匠、キラちゃん、ユリマの似顔絵と簡単な身体的特徴を紙に描いてラミアに渡し、さらに『
ラミアには南の大陸へと南下し、海岸沿いに見える施設へと向かうようにと指示した。
「ラミア、私の仲間をここに連れてきてくれることが理想ですが、仮に出来なくてもそれは貴方のせいではないので気を落とさないでくださいね。危なくなったら逃走に専念、貴方の身の安全が一番大事です。…ではレティス、お願いします」
『はい。…ラミア、どうか暗黒神に気を付けて…。』
『母さま、父さま、ディムくん!ラミア、行って参ります!』
光の世界から誤って何者かが闇の世界に立ち入ってくることの無いよう、レティスがはるか上空に『破れ目』を開くと、ラミアは躊躇いもせず颯爽とその穴に飛び込んでいった。
さて…あとはラミアが誰かしらを連れて帰ってくれるのを待つだけだな。勿論誰が来てくれても嬉しいが、一番物理攻撃に長けたサーベルトだとなお嬉しい。…さて、彼の無事を祈りながら今の内に情報の整理をしておくか。
「レティス、先ほどは色々あって聞けなかったのですが、貴方が光の世界を覗いた時、世界の情勢はどうなっていましたか?」
『そうですね…前提として、貴方の仲間は全員無事でした。そしてラプソーンですが…私が覗き見た時にはコゾ、シャマル、クーパスの封印に続き、既に4つ目の封印が解かれてしまっていました。カッティードの封印です。』
当然。世界最強の剣士であるサーベルトや闇の遺跡で俺&勇者の連戦を生き延びたユリマがあんな奴に殺されるはずがない。頭が良くて要領のいいキラちゃんや強かな師匠も同様だ。俺の自慢の仲間たちはヤワじゃない。
…しかしカッティードの末裔…というと、オークニスのメディばあさんか…。やはり原作の通り…いや、原作よりも強化されているラプソーンは勇者たちでは止められなかったのか。末裔の中でも屈指の聖人と名高いメディばあさん、ついぞコンタクトは取れなかったが、一度くらいは会って話をしてみたかった。
「現在のラプソーンの居場所は分かりますか?」
『それは私の力では…すみません。』
「そうですか…」
『………いえ、待ってください。光の世界に戻るあなたならもしかすると……。少し待っていてもらえますか?すぐに戻ります。』
「え?どこに…」
そう言うとレティスは『破れ目』を放置したまま、行き先も告げずに飛び去ってしまった。なんておてんばな神鳥だろうか。
そして結界の前には必然的に俺とディムだけが残される。
「ディム君、改めて実物のレティスはどうですか?思っていたよりも巨大で、そして神秘的だったでしょう?」
「ええ、それはもう!神々しさすら感じたくらいですよ。レティシアの人々が村をあげて神鳥様を崇めたくなる気持ちも、実際に神鳥様と出会った今ならわかります。……。」
「それは良かった。」
「…」
「ええっと……」
なんとなく気まずい空気が流れる。今まで二人の時でもこんなことなかったんだけどなあ。ちょうどいい話題はなかったかと記憶の糸を手繰っていると、ディムがおもむろに口を開いた。
「おじさん…この前、光の世界に一緒に行かないかって僕のこと誘ってくれましたよね。」
「ああ、はい。覚えてますよ。メダル王国に到着した日の夜ですよね。」
確か闇のメダル王国周辺でサンプル集めがてら魔物を狩っていた時にした話だ。
「あれから色々考えてたんですけど…やっぱり光の世界へ行くのはやめておこうと思います」
「…。…まあ、私にそれを止める権利はありませんね。…ちなみにそれはどうしてです?」
「理由はいろいろありますけど、決心したのは神鳥様との会話です。いくらおじさんがちょっと失礼な人とはいえ、神鳥様とあんな風に話すのは僕には無理です。あー、あんな風っていうのは態度ではなく、内容です。僕には理解の及ばないような高度な会話というか、ああ、やっぱりこの人は僕とは違う世界に生きている人なんだなって。」
「…はい。」
「あー、えー、でもですね、それは別に卑屈な意味じゃなくて…その、なんというか、おじさんが光の世界の人間なんだと思い知らされた時に、おじさんが光の世界で為すべきことがあるように、僕も闇の世界で何か出来ることがあるかもしれないって、そんな風に思った…思い始めた…感じ…です」
「それは…前向きな理由、と捉えてもいいですか?」
「まあ、はい」
「…であれば私は貴方を応援したいです。あの時『死にたくないから生きているだけ』と言っていた貴方が、もし自分の役割のようなものを見つけられた、あるいはぼんやりとでも輪郭を捉えられたというのなら、それだけでも私は貴方をあの時誘ってよかったと、本気でそう思います。」
闇の世界の自分自身ということもあり、ディムのことはこれまでずっと気にかけていた。闇のドニで彼の本音を聞けたときは素直に嬉しかったし、闇のメダル王国で光の世界へ彼を誘ったのは俺が闇の世界からいなくなった後の彼の寄る辺を心配してのことだ。言ってしまえば俺は一方的に彼の保護者のような心持ちをしていた。そんな彼がやりたいことを見つけたと言うのなら、俺としてはそれを尊重したいに決まっている。
「あり、がとう…ございます。…僕、おじさんたちとの冒険で得た経験は絶対に忘れません。」
「こちらこそ、ディム君には助けられっぱなしでしたからねえ。強力な呪文の数々もそうですし、なにより船!ディム君がいたおかげで今私はここまで辿り着くことができているのですよ。本当にありがとうございました。」
「…なんか、悪くない気分ですね、お礼を言われるのって。『死人』にされていた子どもの頃は論外として、用心棒をやってた時もお礼なんて言われたことなかったので…」
「ふふん、そうでしょう。『お礼を言われたり褒められたりすると気分が良いから』というのも、私が道化師をやっていた理由の一つなんですよ。ちなみに貴方はこれからどうするつもりなんですか?」
「まずは…そうですね、せっかく僕は色々な魔法が使えて腕が立つので、色々な土地を回って仲間を集めつつ、その町や国の問題を解決していく…というのを考えてます。ドニのように魔物に襲われる危険がある所もあるかもしれないですし、アスカンタみたいに国自体が危険な状態になっている所もありますし。」
「おお、それはいいですね。なんというか……主人公のようです」
「気恥ずかしいので主人公はやめてください」
おだてられていると感じたディムがふくれっ面をしてみせるが、慣れていないのか変な顔になっている。それがおかしくて俺が思わず吹き出すと、ディムもつられて少し笑った。
だが…そうか、短い間だったがこれでディムともお別れか。光の世界に戻った後も闇の世界には来ようと思えば来られるとはいえ、彼が冒険の旅に出ていて場所が分からないならば出会えるとは限らない。もしかするとこれが最後の別れになるかもしれないのだ。そう思うと何となく名残惜しくなり、もう少し何か話そうと思った瞬間―――。
「がッ!?」
「ディムっ!?ちぃっ、敵か!」
知らぬ間にディムの影に溶けこんでいた「シャドー」が鋭利な爪で背後からディムを突き刺した。俺はすぐにラスト4体のセキュリティサービスを全て展開し、シャドーを撃退する。
「ディム君!大丈夫ですかっ!?」
「ぐ……ぅ…!」
マヒの症状…!俺はすぐに「まんげつ草」を取り出してディムに与えた。マヒが治って安堵したのも束の間、背後から轟音がして、粉々に吹き飛んだセキュリティサービス「ボーンファイター」の破片が俺たちに降り注ぐ。
「ケケケケ…ラプソーン様ノイイツケ……ココニチカヅクモノ、ミナゴロシ…!」
「ジャマナ『レティス』ハドコカヘイッタ…オマエラナラ、ミナゴロシ…!」
「ホントウニキタ!キキキ…ヤハリラプソーン様ハタダシカッタッ!」
「おじさん…っ!」
シャドーの断末魔の絶叫を皮切りに、木々の隙間、岩場の陰、崖の下…様々な場所から魔物が湧いてきた。しかもこれまでのような有象無象ではない。ドニの防衛戦で指揮役を務めていたダークジャミラのような、最低限度の実力と知性を備えた魔物…ラプソーンの配下…!!!
「この魔物たち…ずっと気配を消して我々に隙ができるのを待っていたわけですか…!」
今この場にいないレティスを責めることはできない。レティスは十分すぎるほどに辺りを警戒していたし、俺もそれとなく索敵はしていた。しかし奴らは俺たちが来るよりもずっと前から影の中に潜んでおり、姿形から気配に至るまでの全てを完全に遮断していたのだ。
だが…こんなところで死ぬわけにはいかない。当然ディムも死なせない。俺は封印結界を背に、前衛を残り3体のセキュサ、後衛にディムを置く陣形を即座に指示した。レティスに壊せない結界は当然コイツらにも壊せない。死角を消すことは対多数戦における基本中の基本だ。
「『ギガデイン』!」
「ディム君っ!レティスが戻ってくるまで持ちこたえてください!」
「言われなくても分かってます!おじさんこそ、神鳥様が戻ってくるまでに被弾しないでくださいよっ!」
俺も『
「デスターキー」の投擲した剣を間一髪で躱し、反撃のボウガンを相手の顔面に打ち込んだところでまたも轟音が響く。セキュリティサービス「モビルフォース」の
「ぐっ…」
「大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫です、かすり傷!でも…ぐ…猛毒を受けました!『どくけしそう』をくださいっ!」
俺は「どくけしそう」を手探りで取り出し、ディムに投げ渡した。しかしその隙に「あんこくちょう」がセキュサの間をすり抜けて俺の肩を掴む。
「だあああっ!」
俺は強引に体を捻って爪から無理やり逃れ、どくけしそうを取り出して開いたままだった『イデア』であんこくちょうを真っ二つに捩じ切る。なんとか致命傷は避けたが、肩に深い傷を負った。ディムは何度か『イオナズン』で相手の一掃を試みているが、相手のHPがなまじ高いせいで排除には至れていない。
セキュリティサービス「スライムベホマズン」が機能を停止する。既に限界回数まで『ベホマズン』を使用し、何もできなくなった緑のスライムの巨体は、最後に「闇の司祭」が唱える呪文から俺を庇ってぐずぐずの破片と化した。
「どくけし…あっ、くそ…ぐふっ…」
俺が雑に投げ渡したせいでディムはどくけしそうをキャッチできなかった。しかし俺がそのことを悔やむ間もなく、目の前に飛び出してきた「まかいじゅ」が『死のおどり』を踊り出す。奴の「根」を見てはいけない。反射的に俺はまかいじゅに背を向けるが、今度は正面に「へドロイド」が這い出てきたので『
最後のセキュリティサービス「アルゴングレート」は最期まで肉壁の役割を果たし、嬲っていた「影の騎士」数体を巻き込んで自爆した。
「はあっ…おじさ…がはっ…ハア…ハア…」
「くそ…こんなはずじゃ……」
セキュリティサービスが全滅し、ディムも猛毒で思うように動けず、俺もあと一度攻撃を食らうと危ない。あの時――リブルアーチで感じた死の気配をすぐ近くに感じて発狂しそうになる。
「ぐああっ!!!」
「ディム!!!」
ダークジャミラの痛恨の一撃を受け、ついにディムがうつ伏せに倒れた。まだ息はあるようだが、満身創痍でもう戦えはしないだろう。せめて、彼だけでもここから逃がさないと。
「……逃がさないと…っ」
しかし俺の意識が一瞬ディムへと逸れたその瞬間、「スライムダーク」の狙い澄ました『スラ・ストライク』が飛んできた。咄嗟に手に持っていたボウガンでガードするが、ボウガンは破壊され、衝撃を完全には抑えきれずに俺も吹っ飛んだ。
「うっ」
「ウケケケ…ノコリイッピキ…ダ!」
吹っ飛ばされたそのままの勢いで草原をごろごろと転がる。まだ身体は…動く。俺はよろよろと立ち上がって「ふぶきのつるぎ」を構えたが、もはやそれを振り回すほどの体力は残っていなかった。
「こんな…はずじゃ…こんな…」
ラプソーンの配下たちは残りあと…8?9?まだ潜んでいる可能性もあるな…。
「はっ…はっ…はっ…」
くそ、さっき吹っ飛ばされて脳を揺らされたせいで頭も回らなくなってきた。
「…………」
魔物たちは勝ち誇った笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。
もう、動けない。
「…ごめん…サーベルト…キラちゃん…師匠……ユリマ……ごめん」
「シニヤガレェッ!!!」
ダークジャミラの爪が眼前に迫り、俺は目を閉じた。
…
「ド――…ス――…ん」
来るはずの攻撃が届かなかったことを不思議に思い、俺がゆっくりと目を開けると、俺を屠るはずだったダークジャミラはそこにおらず、黒い血だまりだけがそこに残っていた。それには俺だけでなく魔物たちも動揺しており、俺を殺そうとする手がピタリと止まる。
「ドル―…ス――…ん!」
直後、動揺していた魔物の内の一体が更に消え………いや、
「ドル…ゲスさ―…ん!!」
また一匹、一匹と仲間が潰れていき、何が起こっているのか理解できず狂乱状態に陥る魔物たち。だが反対に俺の頭は少しずつ冷静さを取り戻しつつあった。
こんな芸当ができる人間は一人しか知らない。今際の際にも関わらず、俺はあまりに嬉しくて口角が上がるのを抑えきれなかった。
「ドルマゲスさーーん!!!」
残っていた魔物も全て跡形も無く潰れる。俺は涙を堪え、空を見上げて必死に目を凝らした。
「ドルマゲスさぁぁぁん!!!来ちゃった~~~!!!♡♡♡」
『父さまぁぁぁ~~~!助けてぇぇぇ~~~!!!』
神鳥の首根っこを不躾に引っ掴み、闇の世界に光の天使が舞い降りた。
レティス:所用で席を外した瞬間恩人が大ピンチに陥ってしまったちょっぴり迂闊な神鳥。原作でもちょっとした隙を突かれてゲモンに大事な卵を奪われている。しかしレティスが異変を察知できる距離にいる間は絶対に魔物たちは姿を現さなかったはずなので、誰も待ち伏せに気付けなかった今回の状況においては仕方ないとも言える。
配下の魔物たち:ラプソーンに仕える闇の世界の魔物たち。拙いが人語を話すほどの能力があり、全体的なステータスも原種よりも高い。彼らの同輩中の主席がゲモン。ラプソーンがドルマゲスを封印した後、最後の保険としてトラペッタの高台の影に潜ませていた。ラプソーンからの「近づく者は魔物でも人間でも確実に殺せ。ただしレティスには絶対に気取られるな」という命令を遂行すべく、実に数十日もの間影の中でじっと忍び続けていた。
ドルマゲス:転生してから何度も死にかけている道化師。レベル7相当しかない肉体でこの戦いを生き延びられたのは間違いなく散っていったセキュサたちとディムの奮闘のおかげである。
ディム:息も絶え絶えな少年。実は敢えて外傷を回復せずに流血させ続けることで毒素を排出するという荒業で猛毒を治療している。
光の天使:正体はよくわからないが、どうやらドルマゲスさんに会いに来た人物らしい。