ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
今までで一番長くなってしまいました。
※闇の世界編をスキップされた方へ(新・第九章まえがき参照)
これから先の話を読んでいく上では、
①「ラミア」という名前の神鳥(ドルマゲスの行動により原作から展開が変わり命を救われたレティスの子)がドルマゲスの仲間になったこと
②「ディム」という名前のキャラクターがドルマゲスの仲間になったこと
の二つだけを知っておいていただければ問題ないです。どうぞこれからもよろしくお願いします。
アスカンタ王国の北部にドルマゲスが建設した巨大アジト「U.S.A.」に潜伏し、暗黒神の目を欺きつつ暗躍するライラスたち。リブルアーチでゲモンに敗れ、姿を消したドルマゲスを捜索する傍らで賢者の保護や監視に向けて各々が活動していたが、奮闘虚しく4人目の賢者の封印が解かれた上に賢者ギャリングと賢者オディロの保護にも失敗してしまう。ラプソーンの魔の手が残る賢者の末裔たちへと迫る中、これからの暗黒神対策を最適なものにするためライラスはドルマゲスの捜索を最優先の任務とし、これまでで唯一捜索の手が入っていない『隔絶された台地』を目指すのだった。
…
U.S.A.から世界地図の端にある隔絶された台地を目指す四つの影。「ガルーダ」のセキュリティサービスに乗るライラス、サーベルト、キラ。先頭を行くのはユリマ。彼女は重力魔法を自在に操り、前方や上方へと「落ち続ける」ことで空中を移動できるためセキュリティサービスに乗る必要がない。飛行速度もまだまだ上げられるのだが、ただの町娘である彼女は地理感覚に乏しく、また方向音痴でもあるため、ユリマはしぶしぶ他の三人に速度を合わせて飛んでいた。
「ちょっとキラちゃん遅くないですか?わたしもっと急ぎたいんですけど。早くドルマゲスさんに会いたいんですけど!」
「ユリあさんほっへたひっはらないれぇ!…いててて…私だけ遅いわけじゃないのにぃ…」
「我慢しろユリマ、これがこいつらの限界だ。恨むべきは愚鈍なガルーダ…このポンコツどもめ!」
「ライラスさんもユリマも落ち着いて…!これだってドリィが作ってくれた立派なセキュリティサービスだろう?」
「ふんっ!」
「もうぅ…全くユリマさんは…。……ん?」
ライラスに杖で叩かれ、ユリマにも小突かれて涙目になっているセキュリティサービスをサーベルトが慰めている傍ら、ユリマに引っ張られた頬を揉んでいたキラは前方になんとなく違和感を覚え、双眼鏡を取り出して覗き込んだ。
「あれは…?………っ!!!」
「み、皆様!前方から高速で何かが飛来してきています!」
「!!!」
キラのその報告を受け、サーベルトたちは即座に前方へ意識を集中させる。現在彼らは既にかなりの高度まで上がってきており、野生動物や魔物の生息域からは外れている。つまり通常この高度に生物はいないはずなのだ。対象が暗黒神に付き従う妖魔ゲモン、またはそれに準ずる魔物である可能性を考え、全員が臨戦態勢に入った。
「…撃ち落としますか?」
「…まだだ。相手が『情報』を持っている可能性がある。こちらの呼びかけに応じない、あるいは敵対的な反応を示した瞬間に我々の最高火力をぶつけ、撤退する。」
「りょーかいです。」
サーベルトは「きせきのつるぎ・
「止まってください!」
「…」
「キラ、状況はどうだ」
「対象はその場で停止。黄金色の鳥…?のように見え、闇の魔物の特徴は有していません。ですが既存のどの魔物サンプルともその姿が一致せず正体が不明なため、依然警戒は続けてください。」
「わかった。」
双眼鏡を覗き、見えるものを適切に報告していくキラ。こちらが呼びかけて相手が動きを止めたということは、最初からこちらの排除が目的でない可能性があり、会話の余地がある。そう考察したキラは相手が冷静さを取り戻す前に拡声器を握りしめ、次の一手を……
「!!!」
「なっ…!消え…っ!?も、目標喪失!全員周辺を警戒し―――」
『あっ、もしかして、貴方が「キラさん」ですか?』
黄金色の鳥は突然スピードを上げ、サーベルトでさえ視認するのも精一杯の速度で接近、キラの頭の上で留まった。正体不明の存在に頭を鷲掴みにされた形になったキラは恐怖で小刻みに震えつつ、パニックになりそうになるのを必死に抑える。御守りの『
「あっ………ひっ…」
「速…っ!…って、なんでキラちゃんの名前を…」
「反応するなユリマッ!『カマ』だッ!」
「貴様!目的はなんだっ!キラから離れろっ!」
『えっ!じゃあ貴方が「師匠」、貴方が「ユリマ」、貴方が「サーベルト」!?……うわ~い、やった~!来たばかりなのに、早速全員見つけちゃったー!!あははっ!』
惑乱するサーベルトたちを余所に、黄金色の鳥はキラの頭上でくるくると回りながら歓声を上げる。だが、彼らもいつまでも様子見をしているわけではない。サーベルトは安定しない足場をライラスの補助で踏みしめ、横一文字に『かまいたち』を放った。驚いて飛び上がった鳥の首を、いつの間にか背後に回っていたユリマがむんずと掴む。
『ぐえっ!』
「さて…珍しい鳥さん、煮るのと焼かれると潰してミンチにされるの、どれがいいですか?」
「ユリマ、甚振るのは構わんが殺すなよ」
「場合によりますね」
『ぐ…ぐぐ…ま、待ってください!皆さんは父さまの仲間なんですよね!?』
「何…?父さまだと…!?」
「は?意味の分からないことを…保身のつもりですか?醜い」
『ぐええっ!待って待って、待ってください!ボクはラミア!父さまの、ドルマゲスの命であなた方を探しにきたんですぅっ!!』
『ドルマゲス』という言葉を口に出したその瞬間、周囲の温度が数度下がった……少なくとも黄金色の鳥、ラミアにとってはそう感じた。掴まれた首にかかる圧がじりじりと強くなっていく。
「……これは脅しでなく忠告ですけど、そこから先は言葉を選んだ方がいいと思いますよ」
「貴様、何者だ」
「ドリィの何を知っている。答えろ」
「教えてください。私たちにとってとても…とても大事なことです」
『……ッ!!』
ラミアを刺す七つの視線。首に込められた力も既に普通の鳥ならば窒息しかねない強さと化しており、彼は本能的に命の危険を感じた。
次、何かを間違うと自分は死ぬ。根拠はないが、確実にそうなるという予感があった。
『……』
極限まで引き延ばされた思考の中でラミアの取った次の一手は………酸素が不足して痺れ始めた翼、その弱弱しい念力で懐から『父さま』に渡されたバッジとメモを取り出すことだった。
神鳥ラミア、生後数日にして今際の際を知る。
…
「闇の世界…通りでどこにも痕跡が見当たらないわけだ」
「以前にドリィがその存在だけは仄めかしていたが…くそっ、どうして思い出せなかったんだ」
「ドルマゲス様……本当に、生きて……!…ぐすん……」
ラミアがドルマゲスから託されたというバッジとメモ。キラの鑑定によってバッジもメモの筆跡もドルマゲス本人のものだと判明したことで、ようやくライラスたちはラミアに対する態度を軟化させた。
ラミアはちょっとしたお使いのつもりで来たのに突然殺されかけたことの衝撃と恐怖でしばらくめそめそと泣いていたが、自分の使命を思い出したのか突然やる気を取り戻し、ドルマゲスが現在置かれている状況と、自らがここに来た理由を説明した。
「で!ドルマゲスさんには!どうやったら!会えるんですか!!!」
そうなると落ち着いていられないのがこの少女である。禁断症状を拗らせて大量の人形を量産するほどドルマゲスに焦がれていたユリマは、ようやく得られた手掛かりに目をギラギラさせながらラミアを振り回す。
『揺らさないでぇ~!!』
「ユリマさん落ち着いて…はいられないですよね…私も冷静さを欠いています…ぐすん」
「早く!教えて!!」
『もうヤダ…母さま…』
「無事だと分かったとはいえ、予断を許さない状況なんだろう?ドリィのピンチに駆け付けられないで何が彼の親友だ!とにかく場所を教えてくれ!」
『と、とりあえず、皆ボクについてきてください!闇の世界への入り口が向こうにあります!ボクはそこから来たんで―――うわぁっ!?』
ラミアがそう言い終わらない内に、とうとうしびれを切らしたユリマが彼の首を掴んだ。当然、今度は
「わたしは先に行ってますから!お兄さんたちもできるだけ急いでくださいね!ほら鳥さん!案内!」
そう言うとユリマはラミアを掴んだまま流れ星のように飛んで行ってしまった。ラミアの悲痛な叫び声がみるみるうちに小さくなっていく。
「あっ!ユリマさん!」
「よせ…ああなったユリマは誰にも止められん。それはお前もよく分かっているだろう。我々もすぐに後を追うぞ。」
一拍置いて、ユリマを追う形でライラスたちも闇の世界への入り口があるトラペッタの高台へと進路を変えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして、闇の世界。
「ドルマゲスさぁぁぁん!!!来ちゃった~~~!!!♡♡♡」
『父さまぁ~~~~~!助けてぇ~~~~~!!!』
「ユリマ!!!!!!!」
俺を襲おうとしていた魔物の悉くを撃滅したユリマはふわりと着地すると、俺を見て大粒の涙を浮かべながらにっこりと笑った。そして…。
「ドルマゲスさん…」
俺は次に来るであろう彼女の行動を予測し、脚を開いて深く腰を落とす。
「うわああああん!!!ドルマゲスさぁぁぁん!!!!!」
手綱を失った暴れ馬の如き猛烈な勢いで飛び込んでくるユリマを、俺は命をも失う覚悟で抱き留めた。遠心力で衝撃を逃がし、ぐるんぐるんと数回回転してようやくユリマは止まる。俺もなんとか死んでない。
「会いだがっだぁ~~!!!会いだがっだよぉ~~~!!!!」
「ええ…私も…ずっと」
ユリマはその端正な顔を涙と鼻水でぐずぐずにして、小さな子供のように大泣きする。ふと背中に当たるもふもふした感触に気付き、そちらに意識をやってみると、首を鷲掴みにされたラミアが呼吸困難で息も絶え絶えになっていた。
「あっ、ラミア!?ちょっ、ユリマ、その、その鳥を離して、その…くっ」
ダメだ、ユリマの抱擁が強すぎて今の俺じゃ身動き一つ取れない。だがこんな何でもないところでラミアを死なせて(不死鳥だけど)はレティスに申し訳が立たなさすぎる。
俺はユリマを何とか説得して一旦(数秒)離れてもらい、ラミアを介抱した。
『うっ…うっ…父さま……世界って過酷なんですね……ボク、なにもわかってませんでした…ううっ』
今すぐにラミアを慰めてやりたいところだが、今はもっと優先しなければならないことがある。俺は倒れているはずのディムの姿を探したが、意外にも彼は既に近くの樹木まで移動し、幹に背を預けて体を休めていた。
「ディム君!大丈夫ですか!?私はてっきりもうダメかと…」
「僕だって一時はどうなることかと思いましたよ。まあ実際そこの女の人が来てくれてなかったら死んでたでしょうね。回復呪文を唱える隙を作ってくれてありがとうございました。おじさんも死にかけでしょう?はい、『ベホマ』」
ディムの回復呪文で俺の傷も完全に癒える。ユリマはまだ涙を流し、ずびずびと鼻をすすりながら俺の右側にくっついているが、流石にディムのことは見過ごせないらしく「あの人はだれ?」という視線を送ってきた。今すぐに説明しても良いが…
「ユリマ、ここには一人で来てくれたのですか?」
「ゔ~…えーっと、一人じゃなくて……わたしが一番最初でぇ…ドルマゲスさんに会えてぇ……でもドルマゲスさん腕無くなっててぇ……ゔぅ~~~」
そう言うとユリマはまためそめそと泣き出した。俺は彼女の頭を撫でてやることしかできない。何か気の利いたことを言おうとしても、うまく言葉がまとまらなかった。あんなに言いたい事はたくさんあったはずなのに。
「おじさん、また何か来ましたよ。色が付いているので他の仲間の人じゃないですかね」
「え」
俺が反射的に空を見上げると三匹の「ガルーダ」が…いや、野生のガルーダはあんな規則性のある動きはしない。あれは…セキュリティサービスか!キラちゃんたちだ!!!上空から急降下してきたセキュサたちは次々と着地し、土煙の中から俺がずっと会いたかった他の三人の姿が見えた。
「師匠…!サーベルト…キラさん…!」
「ふん…息災…ではないようだがな…生きていたか、よくやったドルマゲス」
「ドリィ…たくさん話したいことがあったはずなのに…ああ、何も言えないな……生きていてくれて、ありがとう」
「ドルマゲス様…私は……ずっと…ずっと……ずっとドルマゲス様に……!」
キラちゃんは俺の顔を見るとその場でうずくまって泣き出してしまい、サーベルトも後ろを向いて目を擦る。師匠は感動の再開もほどほどに早速闇の世界に興味を引かれたのか、植物や石を観察し始めた。ちらりとディムに目を遣ると「僕のことは後でいいですよ」という風なジェスチャーで返してくれたので、ありがたく再会の余韻に浸らせてもらった。
その後、一旦情報を共有して整理しようとしたのだが、サーベルトが封印されている俺の本体を見つけて騒ぎ始め、ユリマは俺にぴったりくっついたままディムに絡みだし、ようやく顔を上げたキラちゃんは俺の無くなった右腕を見て今度は声を上げて泣き始め、それに共鳴してラミアまで泣き始めた。師匠はもう完全に自分のことで夢中になってしまっていて助けてくれず、どうしたものかと頭を抱えているとさらにそこにレティスまで帰ってきてしまった。
何たるカオス。勝利の宴と呼ぶにはあまりに混沌とした大騒ぎは、その全てに収拾がつくまで実に一時間を要した。
…
『本当に申し訳ありません…まさか私が目を離している隙にそのような事態になってしまっていたとは…』
「仕方のないことですよ。魔物たちの口ぶりから、奴らは貴方の感知範囲から外れるまでずっと潜伏し続けていたようですし。それに、実際私やディム君は既に回復してますしね。…それよりこちらこそ、大切なお子様を可哀想な目に遭わせてしまって…」
『それは…。』
『母さま…ボクは大丈夫です…世界は美しくて、厳しい。それを知れただけ、むしろ感謝したいぐらいで…』
これまでの経緯は一旦置いて、レティスとラミア、そしてディムをサーベルトたちに紹介し、レティスたちにも俺の仲間を紹介することで大騒ぎはいったん収まった。
闇の世界に来た時に俺の腕が無くなってしまったことに対しては師匠は黙ったまま何も言わず、サーベルトは怒りを露わにし、ユリマとキラちゃんはずっと泣いていた。今はサーベルトと師匠とディムが先に俺の封印結界の破壊作業に入っている。
「しかし、ドルマゲス様はやはり凄いです。神話の存在だった神鳥様からここまでの信頼を得ていらっしゃったなんて。」
「ねえ、まだドルマゲスさんが『父さま』って呼ばれてることについての説明が無いんですけど???」
ユリマはまだ俺の右側に磁石のようにがっちりくっついており、さらに左側のスペースはキラちゃんがしれっと確保し始めた。傍から見れば両手に花と言えなくもない絵面だが、彼女らは今の俺がちょっと強めに殴られれば死んでしまうほど貧弱な存在であることを完全に忘れている。もっと労わって!
「そういえばレティス、先程まで一体どこに行っていたんですか?」
『西の大陸、サザンビーク国領の外れに『暗黒大樹』という不思議な樹木があります。私はその葉を取りに行っていました。』
ほう、暗黒大樹。…ああなるほど、「暗黒大樹の葉」か!原作における重要アイテムの一つだ。本来は光の世界の「三角谷」で入手するものだが…暗黒大樹が闇の世界に在る以上、こちら側で入手することも当然可能か。レティスは羽毛の中から一枚の大きな紫色の葉っぱを取り出した。
「ねえ、どういうことですか子どもって、ねえド」「ユリマ、一旦静かに」「は~い!♡」
「白黒のこの世界にもこのような美しい植物があるのですね…!」
『これは「暗黒大樹の葉」…強い暗黒の魔力に反応し、邪悪な存在の居場所を指し示すことができます。しかしこの葉が効力を発揮できるのは暗黒の魔力が浮き彫りになる光の世界でのみ。そのため私は持っていませんでしたが…光の世界へと戻る貴方ならきっと活用することができるでしょう。どうぞ受け取ってください。』
「ありがたくいただきます。」
原作ではゲモンが次に向かう場所はサヴェッラ地方にある法皇の館しか残っていなかったため、暗黒大樹の葉のそれらしい恩恵は受けられなかったが、賢者が複数生存している今の場合は別だ。ラプソーンの現在地が分かるというだけでもこちらとしてはかなりのアドバンテージを得られる。……今すぐに光の世界へ戻ることができれば、の話だが…。
「ドリィ、結界を壊すことができたぞ」
「えっ早っ」「あでっ」
「ご、ごめんなさい」「い、いえこちらこそ…」
俺が反射的に後ろを振り向いた拍子に肘がキラちゃんのおでこにクリーンヒットしてしまった。ユリマがそれを見てクスクスと笑っている。
いやそれよりもだ。レティスをして一月かかると言わしめたあの結界をもう?まだ壊し始めてから十分くらいしか経ってないが…?俺が訝し気にレティスの方に目を遣ると彼女もぽかんと口を開けて呆気に取られていた。
『なんと…!』
「す、すごいですね…手伝えなくて申し訳ありません。正直もっと時間のかかるものかとばかり…」
「どんな物体にも弱点となる『核』があるものだ。当然、この結界にも存在する。そこを重点的に攻撃していれば壊すことなどわけはない。暗黒神も甘いな、本気で時間を稼ごうとするならばとびきり硬い結界を一枚張るのでなく、粗雑な結界を何千何万と重ねるべきだった」
「俺はライラスさんに結界の弱点を見つけてもらって、ひたすらその場所を攻撃していただけさ。」
「いやおじさん、簡単に言ってますけどこの人たちとんでもないことしてますよ…なんですか『核』って。僕には他の場所と何が違うのか全く分かりませんでしたし、このハデハデサーベルトさんの剣捌きも訳が分かりません。なんですか『ヒノカミカグラ』って。そりゃおじさんからすればこっち側のサーベルトさんの実力も物足りなく感じたでしょうね。」
「わしは人生の全てを学問に捧げてきた魔法研究家だ。お前のような子供に並ばれてはかなわん、小さなドルマゲスよ。」
「こっちの世界の俺にもいつか会ってみたいものだな!」
世界有数の明晰な頭脳を持つ師匠と腕っぷしなら間違いなく人間最強のサーベルトが力を合わせれば俺たちが苦労した結界もなんてことないわけか。流石だ。ラミアは目を輝かせており、レティスも深く頷いて感心している。どう、すごいでしょ?俺の仲間。
サーベルトが最後の一撃を振り下ろすと、結界は完全に破壊され、禍々しい漆黒のオーラが弾けて霧散した。そして結界は小さな破片に至るまで全てが塵と消え、高台は元の静寂を取り戻した。その中央には、俺の本体。
「…」
ごくりと誰かが生唾を飲み込む音が聞こえてくる。俺は大きく深呼吸すると横たわっている本体に近づいてその胸に手を添え、意識を集中させる。今までずっとやってきた、力と意識が自分の体内にぐっと流れ込んでくるイメージで……。
「『
ぎゅうううん、と巨大な掃除機か何かで吸い込まれるかのような感覚の後、俺は仰向けの状態で意識を取り戻した。…うわっ、身体重っ!そうだった、こっちの身体はまだ死にかけなんだった!
「だ、誰か…回復…を……」
「ふん、相変わらず世話の焼ける」
「おじさん、肝心なところで締まらないですよねえ。」
師匠の『ベホマ』により完全回復した俺は、晴れて自分の身体を取り戻した。……違う。今までと全ッ然違う。なんというか、ものすごく身体が軽やかだし、力もふつふつと湧いてくる。リブルアーチ以前の俺はこんな肉体を持っていたのか…すごい。我ながらすごい。すごいパワフルでエネルギッシュ。さっきまでの窮屈な体とは大違いだ。
「皆さん、本当にありがとうございます!おかげでラプソーンに奪われた自分の身体を取り戻すことができました!」
「おめでとうございます、おじさん」
『おめでとう父さま!ボクも自分のことのように嬉しいです!』
「…肉体のことはお前の主観なので知る由もないが、魔力の方はてんで変化を感じんな」
俺の喜びも束の間、師匠が早速水を差してくる。だが、彼が水を差してくるタイミングというのは大抵俺が浮かれている時か、浮かれそうになっている時だ。不器用ではあるがこれも師匠なりの気遣いと言えよう。
「確か、魔法と呪術はまだ奪われたままなんでしたっけ?自称母親のレティスさん、なんとかならないんですか?」
『奪われた魔力は奪った本人…この場合は妖魔ゲモンを打ち破らないことには戻ってこないでしょう。しかし呪術…いわゆる霊力の方はカギをかけられた状態になっているだけです。これなら私にも力になれるでしょう…。ドルマゲス、こちらへ……』
「…っ!」
レティスが嘴をそっと俺の頭頂部に添える。すると一瞬ピリッとした刺激が全身に走り…すぐに収まった。
「お…おお…?」
『前頭葉と視床下部の一部を少し弄りました。試しに何かやってみてください。』
何気に怖い事を言っている気がするが、身体に異常はなさそうなので良しとするか。それじゃあ試しに…
「ほい」
『わあっ、すごい!何も無いところからお花が出てきた!』
「流石はドリィだな!」「ドルマゲス様!そ、その、私にも…」「わたしはもうずっと前に貰ってるからいいですよ。キラちゃんと違って」
何だか懐かしい感じだ。俺は今までやってきたようにダリアの花を出してみせ、茎を切ってちょっとしたコサージュに加工し、ラミアの頭に乗せてあげた。
「本当に使えるようになってる…!レティス、ありがとうございます」
『いえ…私はきっかけを与えただけに過ぎません。ここまで霊力を信じ続けた貴方の努力あっての呪術ですよ。…しかし、お役に立てたようで良かったです。………さて』
「…ええ、そうですね。そろそろお暇しましょうか」
「ああ。我々は元よりお前を光の世界に戻すために来たのだからな。」
「帰りましょ、ドルマゲスさん♪」
「ドルマゲス様がご不在の間の出来事について、報告しなければならないことが山のようにありまして…」
「きっとこれまで心細い思いもしてきただろう。まずはゆっくり休もう、ドリィ。安全な場所で。」
こちらの目を見て微笑みかけてくれる仲間たち。俺は今すぐ彼らと共に帰りたくなる気持ちを抑え、ディムに向き直った。
「では…」
「はい。言いたいことはさっき全部言いましたからね。…その後魔物にボコボコにされたので美しい思い出ではないですけども。」
「はは、それは言えてますね。」
「おじさん、頑張ってくださいね。僕もこっちで頑張りますから。」
「ええ、もちろん。ディム君も何かあれば連絡してきてください……って、連絡取れる場所にお互いいたらですけどね」
『
『ディムは私が責任を持って送り届けます。それでは「破れ目」を……』
「すみません、最後に一ついいですか?」
『なんでしょう?』
俺は師匠に目配せをすると、師匠は面倒くさそうな顔をしつつもサーベルトたちをディムに仕向け、俺たちから意識を逸らせてくれた。
「今は何も言わず、私の言葉を信じてください。この先…あるいはもう来ているかもしれません。光の世界のレティシアに下界から来る一団が現れます。赤いバンダナを身に付けた青年、山賊のような風体の男、魔法使いの少女、聖堂騎士の青年、そして一頭の美しい馬に魔物の御者。彼らは我々とは異なる道で暗黒神の打倒を目指している者たち…つまり味方です。おそらく彼らは貴方の力を借りるためにレティシアに来るはず。その時はどうか、彼らにも力を貸してあげて欲しいのです。」
レティスはその大きな目をぱちくりさせていたが、次第に俺の本意を探るかのように険しい顔になり、しばらくしてまた元の温和で優美な表情に戻った。
『貴方が一体何者なのか、少し思い当たる節があります。貴方はもしや…「旧き世界」の者ではないでしょうか?』
残念。
『……いえ、答える必要はありません。わかりました。貴方への恩、あるいは詫びをそのような形で返せるのならば、その者たちの話にも耳を傾けましょう。…しかし私の息子をその者らに預けるかどうかは、また別の話ですよ?』
『?母さま、どうかなさいましたか?』『いいえラミア、何もありませんよ』
あ、バレてる。勇者たちにラミアを預けさせようとしてるのバレてる。レティスはどこか挑戦的…とも取れる表情で俺を瞥見した。なんで神とはいえ鳥なのにこんなに表情豊かに見えるんだ?それはともかく、彼女の言うとおりである。こんな俺を父さまと慕ってくれるラミアには悪いが、彼には勇者と一緒にいて空を飛ぶ手助けをしてもらいたい。
もちろん、俺ももう勇者と距離を取る必要はなくなったので積極的に彼らと協力していきたいと考えている。そもそも彼らと距離を置いて暗躍していたのはトロデーン滅亡の元凶が俺であるという誤解を解いてもらうためであって、それはリブルアーチで操られたゼシカがラプソーンの意思を知った時点で達成されている。その直後に俺が攫われてしまったので彼らと話すことが叶わなかっただけなのだ。光の世界に戻ったら折を見て会いに行くつもりでいる。
「ラミアも良くも悪くも今回で外の世界の過酷さを知ったことでしょう。しかし世界を見守る神鳥ならどんな過酷な現実も直視できるようにならねばなりません。母さまの言うことをよく聞いて、立派な神鳥になってくださいね。私も応援してますから。」
『父さま……!ボク、頑張ります!!!』
『私からも最後にひとつ、いいですか?ドルマゲス』
「はい?」
レティスはラミアを自然な流れでディムたちのいる方へ誘導し、俺と向き合う。
『あまり悲観的なことは言いたくないのですが…。』
「…」
『暗黒神は…おそらく復活してしまうでしょう。当然、世界の為に奮闘してくれているあなた方の働きを否定する気はありません。しかし、奴は既に数百年前の奴と同等か、それ以上の力を有しています。肉体と魂の半分を未だ封じされている現時点で、です。奴がその気になれば今のままでも世界を滅ぼすことは可能でしょう。それだけの力を持ちながら、光の世界が今だ平穏な時を刻んでいるのは…』
「ラプソーンが己の完全復活に心血を注いでいるから…ということですか。」
『はい。奴が数百年前とほぼ同じ力を持っているということは、私が覗き見た光の世界に漂う暗黒の残穢の濃さ…そして貴方を封じ込めていた結界を見て判断しました。あの結界は…私とコゾがかつて奴に施した封印よりもさらに強かった。』
師匠の遠い先祖、七賢者「マスター・コゾ」。彼に使えぬ魔法はないとまで言われた大魔法使いと神鳥レティスが協力して作りだした最強の封印こそがまさに「神鳥の杖」と呼ばれトロデーン城の宝物庫に保管されていたマジックアイテムだ。レティスの言い分によると、今のラプソーンは既に当時の彼女とコゾの最高傑作を上回るほどの実力を持っているという。……いわずもがな、原作よりもずっと強くなっている。
『今の奴の能力の高さについては、ただでさえ強力な従僕であるゲモンの身体を借りているからということもあるでしょう。しかしそれを差し引いても奴が大いなる脅威ということには変わりません。これより貴方は光の世界へ戻ることになりますが…賢者の末裔を守り抜いてラプソーンとの決戦に臨むか、ラプソーンの復活を見越してより多くの人間を救うべく手を回す方向に力を尽くすのか…選択の時はそう遠くないでしょう。私はあなたの決断を尊重したいと思っています。』
「…」
…彼女の言い分は分かる。もちろんすぐに光の世界に戻って賢者を守り、ラプソーンをその場で討伐するのがベストだが、それはおそらく難しいだろうというのが彼女の見解だ。であれば俺がまた敗走して世界が滅びるのを見逃すよりかは、賢者を見捨ててでも万全な準備を整えてラプソーンとの決戦に臨むべきだという彼女の意見は無思慮に撥ねのけるべきものではない。なぜなら完全な状態でない今のラプソーンでさえ、俺たちよりもずっと強いのだから。しかし時間が許すならばこちらには「オーブ」や「U.S.A.」、あまり期待はできないが「竜神族」や「月の民」という対抗手段も残っている。
だが……そう簡単に割り切れるものではないのも確か。この「少数を切り捨て、多数を守る」というある意味達観した考え方は彼女が悠久の時を生きる神鳥だからこそのものだ。
「…今この場では決めかねます。私がどう決断するのか、そもそも決断できるのか。それも含めて見守っていてください。」
『ええ、もとよりそのつもりです。私が言いたかったのは…貴方の行動如何でどんな結末が訪れようとも、世界中から指を指されることになっても、私は貴方の味方だということです、ドルマゲス。我が親愛なる勇者よ。』
「ありがとうございます、レティス。またいつかお会いできることを楽しみにしていますね。」
レティスは微笑みを浮かべると、ラミアを呼び戻し、俺の目の前に『破れ目』を開く。どうやらあっちの世間話もちょうど区切りが良かったようで、サーベルトたちもすぐに戻ってきた。
『さあ、行きなさい。光の世界の者たちよ。』
『父さま!ボクは立派な神鳥になって、また父さまに会いに行きます!その時まで待っててくださいね!』
ラミアは俺のあげたコサージュをブンブン振り回しながら翼を振り、ディムは少し笑って控えめに手を振る。俺はそれにサムズアップで応えると、仲間たちと一緒に『破れ目』を通り抜けた。
…
「うっ」
「ど、どうかなさいましたか?ドルマゲス様…」
「いえ…ちょっと眩しかっただけですよ、大丈夫」
「ドルマゲスさん…?」
「大丈夫ですってば」
「…ユリマ、ドリィはそっとしておいてやろう。」
ありがとう、サーベルト。
闇の世界に慣れてしまった俺にとってはもはや暴力的なまでに視界を埋め尽くす『色彩』。俺は光の世界に帰ってきた。
「はー…」
レティスとの問答で色々想うことはある。しかし今は、今くらいはいいだろう。俺はゆっくりと閉じていく破れ目を見送るとその場に寝転がり、色鮮やかな木々と青空に囲まれて…こみ上げてくるものを抑えきれず、涙を流した。
ただいま、光の世界。
「ねえディムくん、こっちのわたしはどんな感じだった?会ったことあるんでしょ?」
「あー、その件についてはおじさんから言うなと言われてますので言えないですね」「ケチ!」
「どうして言っちゃいけないのか疑問に思ってましたけど、さっきまでのあなたを見るとなんとなく理解できました」
「こっちの世界の俺はどうだ?」
「同じ理由でダメです」「残念だなあ。」
「まあ、お二人とも元気で平和的に暮らしていましたよ」
「あの…私は…どうだったでしょうか…」
「とんでもない暴君の独裁者になってましたね、伝聞ですけど」「な、なんで私だけそんな…」
ドルマゲス
レベル:7→70
全体的なステータスが元に戻った(+補正で前よりも少しだけ強くなった)
魔力…なし
右腕…なし
セキュサ…なし
呪術………あり!
彼女…なし
子供…あり