ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

142 / 147
前回の続きです。前回は一時間前くらいに投稿してます。

今回も前回同様、話の途中で視点が変わりますのでご注意ください。勇者視点から始まります。







新・第二十七章 謝り倒しP.A.R.T.Y. 後

「ドルマゲス、アンタにアッシらへの敵意はねぇってこたぁわかったでがす。影で兄貴たちの力になってくれていたことも。だが…隣の女…『魔王』についての説明はまだ受けてねぇ」

 

「アタシなんて実際にそいつから被害も受けてんだ。そこんところをなあなあにしたまま協力なんてできないね。」

 

トロデの話がひと段落したことを見計らってヤンガスとゲルダが立ち上がった。トロデの話を聞く時間を設けたことでいくらか冷静さは取り戻したようだが、ユリマを睨む視線は依然厳しいままである。一方、詰められている当のドルマゲスの表情は読みづらく、申し訳なさげにしているようにも見えるし、飄々としているようにも見える。

 

「やぁん、こわ~い」

 

「てめえ…ふざけてんじゃねぇぞ!!」

 

「…それはこっちの台詞ですけど?」

 

「ぐっ…」

 

へらへらしているユリマに怒号を飛ばしたヤンガスであったが、それが引き金となったか再び表情の消えたユリマの低い声で思わず黙り込んでしまう。

 

「言っておきますけど、わたしがあなたたちと闇の遺跡で戦ったのは、ドルマゲスさんをあなたたちみたいな野蛮な人たちから守るためですから。そのことで一方的に責められるのは少々お門違いでは?」

 

「確かにヤンガスたちとはそうかもねえ。でもアタシはどうだい?」

 

「…誰ですか?あなたは」

 

「…コイツ……!」

 

ユリマはお前のことなど本当に覚えてないという顔で小首を傾げる。ゲルダは思わず飛び掛かりたくなる衝動を抑えて大きく息を吐いた。

 

「(…いや、いっそここで力の差を理解らせてやる方が良いか?)」

 

ゲルダ自身、ユリマに襲われたトラウマを完全に払拭できたわけではない。ここで彼女を下せば自身のプライドを大きく傷つけたあのトラウマを克服するいい機会となるだろう。

 

「(今の魔王は普通のガキ…ちょいとシメてやるくらいなら…)」

 

「…なんてね。やめた方がいいと思いますよ、ゲルダさん」「!?」

 

心を読まれたと感じたゲルダは思わず飛び退き、恐怖を孕んだ目でユリマを捉えた。実際彼女に読心能力などは無く、彼女に備わっている数秒先の未来を視る魔術『少女の見る夢(リリィ)』によって未来のゲルダの動きを覗き()()だけなのだが、そんなことは彼女と直接的な戦闘を行ったことのないゲルダには知る由もない。

 

「どうしてもわたしと遊びたいっていうなら考えますけど?」

 

「…ちっ、得体の知れない女だよ」

 

「…ドルマゲスさん、ダメです、やっぱり。こんな礼儀のカケラも無いような人たちと仲良くなんてできません」

 

「ユリマ、仲良くできるかどうかと、自分のした事を謝ることは全く別の問題です。まずは謝りましょう。ね?」

 

ドルマゲスはユリマを諭すように彼女の肩を持って語りかけるも、彼女は拗ねた子供のようにそっぽを向いて目を合わせようとしない。

 

「仕方がないですね…元はと言えば私が蒔いた種…。ヤンガスさん、そしてゲルダさん。」

 

ドルマゲスは口をへの字に結んだままのユリマを見て遂に説得を諦めたのか、彼女から手を放し、ヤンガスとゲルダに向き直った。

 

「彼女…ユリマもまた私やゼシカさんと同じようにラプソーンに操られてしまったただの人間です。……しかしそれとこれとは話が別。私の仲間がゲルダさんの大事な船を傷つけてしまったこと、それだけでなくヤンガスさんの大事なご友人であるゲルダさんまで傷つけてしまったこと、本当に面目次第もございません。代わって私に謝罪させてください。」

 

ドルマゲスは立ち上がっているヤンガスとゲルダに合わせ、椅子から立ち上がって頭を下げた。ヤンガスとゲルダももちろん驚いたが、それに一番仰天したのはユリマである。

 

「ドルマゲスさん!?どうして!?それこそわたしがやったことで、ドルマゲスさんはなんにも…」

 

「…実際に二人は傷ついて、だから怒っているんじゃないですか。貴方が謝らないなら貴方の代わりに誰かが謝るのが至極当然、それこそ礼儀というものでしょう?」

 

「…!ドルマゲス、アンタは」

 

「ドルマゲス『さん』ですよ!…………うぅ…あの…わたしも……ごめんなさい…色々傷つけてしまって…」

 

流石にいたたまれなくなったユリマもドルマゲス同様、ヤンガスとゲルダに頭を下げた。

 

…それは誰がどう見ても渋々行われている謝罪であることは明白であり、そこに謝意などまるでないことは明らかであったが…

 

 

 

「…ぷっ!あっははは!あの『魔王』が!パルミド中を震撼させた『物乞い通りの魔王』が!ドルマゲスの前では借りてきた猫かい!あっははは!こりゃ傑作だね!」

 

 

 

それが逆に滑稽に映ったのか、ゲルダはケラケラと笑いだした。嘲笑というより、本当におかしくて仕方ないという笑いである。そんなゲルダを見てヤンガスもエイトも、ユリマもドルマゲスまで呆気に取られる。

 

「ヤンガス…ありゃどういうことだ?ゲルダはおかしくなっちまったのか?」

 

「さあ…ゲルダの笑いのツボは昔からよくわからんでがすよ」

 

その異様さはあの皮肉屋のククールが思わずゲルダの体調を心配するほどであった。…しかしそれによって毒気を抜かれたか、ヤンガスも気づけばもう以前ほどの憎しみをユリマに抱くことはなくなっていた。

 

「ははは…いいさ、一笑いさせてくれたアンタと、アンタがお熱なドルマゲスの謝罪に免じて赦してやるよ。だいたい、ケガもすっかり治ったし船もまあ…今は修理が進んでるからね」

 

「アッシはまあ、ゲルダが赦したなら…」

 

「お二人の寛大な御心に深く感謝申し上げます。こちら、私からの慰謝の気持ちを…これから共に戦う仲間として、どうか受け取ってください。」

 

ドルマゲスはいつの間に取り出したのか、巨大なハンマーと不思議な意匠の施された短剣を二人に手渡した。「ハンマーは不得手なんでがすがね…」と言いたげな苦笑いを浮かべているヤンガスと違い、ゲルダは手に馴染む短剣がかなり気に入ったようだ。その様子を遠巻きに見ていたククールは浅く笑う。

 

「どうかした?ククール」

 

「いえね、抜け目ないやり方だなと思っただけさ。ゲルダとヤンガスが謝罪を受け入れた瞬間、ドルマゲスは間髪入れず詫びの品を出して、あいつらはそれを受け取っただろ。この時点で魔王とのしがらみは全て清算されたことになったのさ。詫びの品を受け取っておいて後からこっちが文句を付けようもんなら、非があるのはこっちってことになる。ドルマゲスはそれが分かってて予めアイテムを用意して、完璧なタイミングで出してきたんだよ。」

 

「それは………確かに抜け目がないね」

 

ドルマゲスなら…少なくともかつて冒険を共にしたディムならば交渉の手段としてそういうやり方は好みそうだとエイトは納得する。そしてそれに気づいたククールに対しても感心した。

 

「あのニコニコした顔を貼り付けてねちっこくこっちの逃げ道を塞いでくる感じ、まさに俺が昔ドニで出会った時のドルマゲスだぜ。」

 

「…」

 

ククールとしてもドルマゲスは少なくとも敵ではないということは信じても良いと考えているようだったが、額に寄せられた皴はまだ戻らないままだった。

 

「兄貴!」

 

「うん、ヤンガス、ゲルダさんも…もう大丈夫?」

 

エイトのそれは「これから先、ドルマゲス達と協力していく上で問題が発生することが無いか」という確認を含んだ問いだ。闇の遺跡で相対した時ほどの桁違いの力こそ無いようだが、ユリマは依然として常人離れした実力の持ち主であり、ドルマゲス陣営と反目し合うことはできる限り避けたいエイトとしてはここで懸念を断ち切っておきたいというのが本音である。

 

「ああ、大丈夫さ。元々あんまり根に持つタイプじゃないからね、アタシは」

 

「大丈夫でがすよ、兄貴。あの娘っ子のことはまだ気に入らないでがすが…てめぇの敵が誰なのかを見失うようなヘマはしやせん!」

 

「そう、ならよかった!」

 

二人の答えに満足したエイトがドルマゲスに軽く頭を下げると、ドルマゲスは微笑を崩さないまま手を振って返した。ヤンガスとゲルダ、そしてユリマが席に戻り、誰が示し合わすでもなくテーブルは再度静寂に包まれる。

 

「さて…と。じゃあ…あとドルマゲスさんと話したいことがあるのは私くらい、かな」

 

ここまで沈黙を貫いてきたゼシカは緊張した面持ちで立ち上がった。その視線は一度実兄サーベルトに向き…そしてドルマゲスの視線と交差する。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

最後はゼシカか…。トロデたちやヤンガスたちと比べ、俺がゼシカへ与えた物的な損害の程度は低い。だが、代わりにゼシカは最愛の兄を失うという最も大きな精神的ダメージを受けている。そこを無視して彼女、ひいては勇者陣営との協力は有り得ず、だからこそこの場にサーベルトを連れてくるのは必須事項だったわけだ。俺は一触即発の可能性も考慮し、一応回避行動を取れるような位置に立った。

 

「ドルマゲスさん…こうやってちゃんと話すのは本当に久しぶりね…」

 

俺はちらりと隣の席に座っているユリマを見た。卓上ではすました顔をしているが、その下、貧乏ゆすりの激しさはさらに増している。女の人が俺と話してるだけでこうだもんなあ。彼女の膝に「おいしいミルク」の瓶を置いたら上質なバターが作れそうだ。

 

謝罪続きでちょっと頭が疲れてきたか、俺がそんなくだらないことを考えていると…

 

突然ふわりと花のようないい香りが鼻腔をくすぐったことに気付き―――

 

―――そして一拍遅れてゼシカが俺に抱き着いてきたことを理解する。

 

「え?」

 

「は????????????????????????????????????」

 

良い匂い…金木犀か、その系統の……じゃないじゃない!ヤバい!主にゼシカの命がヤバい!

 

「サーベルト!!」

 

「応!」

 

既に俺の意図を察してくれていたサーベルトによってユリマは動き出す前に羽交い締めにされる。

 

「お兄さんどいてそいつ潰せない」

 

「させるわけないだろうそんなことを!くっ…相変わらずなんてパワーだ…すまない!ゼシカの仲間たちも!ユリマを抑えるのを手伝ってくれないか!」

 

「えっ、あっ、はい!!」

 

「やめて!触らないで!乱暴しないで!」

 

「乱暴なのはどっちだよ…」

 

『やっぱりあの人怖いよー!』

 

ユリマはサーベルトたちに数人がかりで遠くへ連行され、その場には俺とゼシカだけが取り残される。ゼシカはサーベルトがユリマを拘束した時から既に俺から離れていた。

 

「ご、ごめんね、そういうつもりはなくて…」

 

「いえ、ユリマがああなのはいつものことですから。」

 

「嬉しくてつい…」

 

「嬉しくて?ゼシカさん、私は…」

 

「兄さんから話は大体聞いたわ…あの日のこと。兄さんとドルマゲスさんはラプソーンの野望を未然に食い止めるためにトロデーンで戦っていたのね。そしてその戦いで死にかけた兄さんを貴方が助けてくれたとも聞いたわ。」

 

「リーザスに帰ってきたボロボロの兄さんもドルマゲスさんの不思議な手品だった。貴方は兄さんを世間的には死んじゃったっていうことにして、リーザスがラプソーンの標的にならないようにしてくれてた…そうよね?」

 

「…」

 

ああ、過大評価その2…。サーベルトも俺についてあることないこと言いふらすんだもんなあ。…「リーザスを守る」というのももちろん理由としてはあるが、一番の理由はゼシカにエイトたちと一緒に旅に出る動機を作りたかっただけで、それは本当に感謝されるようなことじゃない。

 

「ゼシカさん、私は…」

 

「いーの。何も言わないで。私にはぜーんぶわかってるんだから」

 

「…」

 

そしてこっちの話は聞いてくれないときた。この妙な自信と意地っ張りなところは兄妹そっくりだよな。変に頑固なところは母譲りか?

 

「ディムは…ドルマゲスさんだったのよね。王家の山やサザンビークで私を助けてくれたのも…貴方。これまでもずっと、私達のことを陰ながら見守ってくれていた。」

 

ああ、それはまあね。チャゴスの横暴に耐えられなかったという方が若干近いかもしれないが。

 

「ありがとう、ドルマゲスさん。兄さんと私を助けてくれて」

 

「お礼なんていいんですよ。私がやりたくてやっただけですから。」

 

「ふふ…貴方ならそう言うと思った。…あっそうだ、これ…」

 

ゼシカはスカートのポケットからブレスレットを取り出した。あー?…あー、「きんのブレスレット」か。確かその昔、トロデーンへの道すがらリーザスに立ち寄った際にゼシカに渡したもの…だよな?元々海に落ちていたものをオセアーノンが拾い、彼から献上されたものなのでそこまで貴重なものでもないが…まだ持ってくれていたとは。

 

「…返しておくわね。」

 

「ああ。確かにもうゼシカさんには必要無いですよね。大したアイテムでもないですし。」

 

「きんのブレスレット」は守備力を多少上げる程度の能力しかない序盤のアイテム。今はもっと装備品も充実してるだろうしな。

 

「ち、違うの!元々貴方にまた会えたら返そうと思ってて」

 

「ほう、そうだったのですね」

 

なるほど?そりゃ律儀なもんだ。流石サーベルトの妹なだけはある。…よし、いつもサーベルトに世話になっている礼だ、律儀で良い子の妹には良いものをあげちゃおう。俺はゼシカからブレスレットを受け取ると、『賢人の見る夢(イデア)』から錬金釜(ビックリボックス)を取り出し、「エルフのおまもり」「いのりのゆびわ」、それと「人工オリハルコン」をブレスレットと共に入れた。

 

不思議そうな顔をしているゼシカと待つこと数十秒。完成した「ようせいのうでわ・改」を取り出す。道化師っぽく大仰な動きでゼシカの腕にはめてあげることも一瞬、ほんの一瞬だけ頭をよぎったが、流石に絵面が変質者すぎるので普通に渡してあげた。こんなことで信頼を失ったらバカすぎるし。

 

「これは…腕輪…?」

 

「…仲直りの証?ですかね。そういうことにしておきましょう」

 

「ふふっ、なあにそれ?…でもありがとう、貰っておくわね」

 

ゼシカは腕輪を自分の左腕に嵌め、爛漫に笑った。

 

 

 

「あ”あ”ーーーーーっっ!!!なんっっですかそれ!なにもらってるんですかそれ!!!!」

 

「悪いドリィ…俺たちの力ではユリマを止められなかった…」

 

「とんだ怪力娘だね…さっきまでのアタシはこんなのにケンカを売ろうとしてたと考えると恐ろしいよ」

 

そうこうしているうちにユリマがサーベルトやエイト、ヤンガスを引き摺って戻って来た。いつも思うが、あの華奢な身体のどこにあんなスーパーパワーが秘められているんだろうか。

 

「私がドルマゲスさんから何を貰おうがあんたには関係ないでしょ!べーっ!あと私のサーベルト兄さんを勝手にお兄さん呼ばわりしないでよね!!」

 

「こ、こ……コロス…!!!」

 

お願いだからユリマのこと刺激しないであげて。俺は二人の間に割って入り、ユリマにも後で何か見繕ってあげることを約束してなんとかゼシカへの殺意を収めてもらった。

 

 

さて、波乱万丈あったがなんとか勇者との和解ポイントは乗り越えたな。トロデ・エイト・ミーティア、ヤンガスとゲルダ、そしてゼシカ。俺が謝り倒すことで俺たちと彼ら、それぞれとのすれ違いというか、亀裂というか…とにかくそういうのは大体解消された。はず。

 

俺は念力で木の棒をゆらゆら動かしてラミアと遊んでやりつつ、紅茶を飲みながら談笑している勇者面々の顔を窺った―――そして「彼」と目が合う。

 

…そうか、まだクレバーで疑り深いのが難しい顔のままだった。彼…ククールも同じことを思ったのか、徐に立ち上がった。客人だけを立たせるわけにはいかないので俺も立ち上がるしかなく、場も自然と俺たち二人に注目して静かになってしまった。

 

そうさなあ…。俺自身ククール個人とは変な不和がない分、逆に互いの落し所も難しい。しかし彼にもサザンビークでの道中は何かと目をかけてもらっていたし、育ての父であるオディロ院長のこともある。そういった話を正直に話せば彼からの信頼も勝ち取れるだろうか。

 

俺が何を話そうか思案しているのを悟ったか、ククールが先に口を開こうとした時。

 

 

 

ヴゥーーーン…!ヴゥーーーン…!

 

 

 

「!?」

 

「失礼、私です」

 

俺の懐からけたたましく鳴る魔法的な音は『フォン』の着信を知らせるアラーム。おそらくキラちゃんからだろう。しかしなんだろうか…あのキラちゃんが滅多なことでは連絡をよこすとは思えない。

 

…んー、猛烈に悪い予感がしてきたな。俺はすぐに懐から石板を取り出して呼び出しに応じた。

 

「もしもしキラさん?私です。」

 

『ドルマゲス様でいらっしゃいますか!?おいそ、お忙しいところ恐れ入りますが緊急事態が発しぇ、発生しました!』

 

「わ…かりました。まずは落ち着いて深呼吸です、はい吸ってー」

 

『え、にゃ、は、え?』

 

「吸ってー」

 

『すーっ』

 

「吐いてー」

 

『はーっ』

 

石板から聞こえてきたキラちゃんの声は明らかに震えているし所々で裏返っていた。あーもう。こりゃ間違いなくなんか起きてるわ。俺は止まらない胸騒ぎで軽い胸焼けを起こしつつ、冷静でいるよう努めた。勇者たちにとっては俺は一応冒険者の先輩ですからね。

 

「はいよくできました、では現状を端的に教えてください。」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「兄さん、ドルマゲスさんは誰と話してるの?」

 

「俺たちの仲間で、キラという名の女の子だ。………ゼシカ、そして勇者たち。おそらくだが今、君たちにとっても重要な何かが起きようとしている。」

 

「なんだと?」

 

「…ですね。お兄さんの言う通りです。ドルマゲスさんの言葉を一字一句聞き逃すことのないように。ま、そうでなくともドルマゲスさんの言葉を聞き逃すなんて有り得ないんですけどね」

 

ドルマゲスはどうやら手に持った石板で連絡を取っているらしい。ヤンガスはサザンビークで見た「一人で誰かと話すディムの姿」に、ククールはキラという名前に、それぞれ納得していた。

 

「なあサーベルト。そのキラってのはアスカンタ王国にいた少女だな?なら『U.S.A.』ってのはあんたらの所属する組織か?」

 

ククールはユリマよりもまだ話が通じそうなサーベルトにそう問いかけ、首肯で返される。

 

「U.S.A.はドリィが作った組織だ。暗黒神への対策…具体的にはより強いアイテムの作成や魔物の無害化、防衛力の強化を主な目的としている。」

 

「ドルマゲスが今話しかけている石板は、離れた相手とも会話ができるマジックアイテムでがすか?それもアンタたちU.S.A.が?」

 

「いや、あの石板はドリィの魂のカケラを分離させて作ったものらしい。俺も詳しいことは分からないが、量産はできないし、ドリィとしか繋げられないようだ」

 

「…なるほどな。オディロ院長もあの時ドルマゲスとそれで会話してたってワケか。」

 

エイトたちからしてもU.S.A.は全く関わりのない組織ではない。トラペッタやリーザスではU.S.A.によって造られた人造モンスターを見かけているし、アスカンタでは刃を交えたこともある。そもそも彼らの装備は大半がどこかしこで手に入れたU.S.A.製の強力な武器なのだ。

 

「ワシの知らぬ間にそんな巨大な組織ができておったとは…考えたくない話じゃが、もしもそんな組織が世界に敵対的だったとしたならば、三大国が団結せねば勝ちの目はないじゃろうな…ドルマゲスが善人で本当に良かったわい。」

 

「お父様!縁起でもありませんわ、そんなこと!」「はっはっは、すまんすまん」

 

そうぷりぷりと怒るミーティアに諫められるトロデを一瞥し、ユリマは冷めた目で一笑に付す。

 

「世界中が束になったところでドルマゲスさんとわたしたちには敵いっこないですよ」

 

一国の王を前に挑発的ともとれる発言だが、裏を返せばそれほどの力を持つ組織ですらエイトたちの協力を仰がないことには暗黒神には到底勝ち目がないということでもある。幸い、その言葉は今度こそ誰の耳にも届かなかった。

 

 

「皆様突然席を外してしまい、失礼いたしました。しかし、あー、緊急事態です。」

 

キラとの会話を終えて戻って来たドルマゲスは誰が見ても分かるくらいには焦っていた。一挙手一投足に落ち着きが無く、目は空を泳いでいる。それまでドルマゲスは終始余裕の態度を崩していなかっただけに、エイトたちからしても現在かなりマズいことが起きているのだろうということは容易に想像できた。

 

「唐突ですが皆様、七賢者については御存じですね?残っている賢者が三人であることも」

 

「ええ。メディさんからお伺いしました。」

 

「助かります。ですがここからの内容は皆様も頭に叩き込んでください。なにせ緊急事態、ここで対応を間違えると一気に世界が滅ぶ可能性すらあります。」

 

「…わかりました」

 

「私達は『暗黒大樹の葉』という悪しき存在の居場所を示すアイテムを持っています。現在それでラプソーンの位置を捕捉していたのですが、先程それが突然サヴェッラ大聖堂に向かって移動を開始したとの報告を受けました。それもかなりのスピードのようです。サヴェッラ大聖堂には残りの賢者の内の二人である、法皇様と院長様がいらっしゃいます。」

 

「院長って、ククール…!」

 

「院長…!なんでそんなとこに…!いやっ!なら今すぐにでも大聖堂に向かうべきだろ!なあ!」

 

「それがこちらを誘う罠である可能性もあります。大聖堂に行くと見せかけてこちらを誘導し、別の場所に奇襲をかけてくるかもしれません。」

 

「だったらそのなんとかって葉っぱで常に場所を捕捉してりゃあ…」

 

ククールはオディロの名を聞き、いつになく取り乱している。そんな彼の様子にエイトたちは少し驚くも、彼の身の上を知ってしまっている以上、咎めるような事もできない。

 

「大聖堂へのラプソーンの襲撃は予測していました。問題は次です。…最後の賢者であるギャリングがいるベルガラックにも…悪しき存在が迫っています」

 

「なっ…!?」

 

それはつまり、闇の力を纏った悪しき存在が二か所で同時に出現したということである。これにはサーベルトやユリマですら動揺を隠せない。

 

「ドリィ、それはつまり……!」

 

「ラプソーンが分身している可能性もあるし、配下の魔物の内強力なものを動かしているのかもしれません。しかし一番大きな問題は、ラプソーンが残りの賢者全員を同時に狙ってきている―――つまり、奴がついに仕掛けてきたということです。」

 

「…!」

 

「皆様、細かいすり合わせも出来ずいきなりで申し訳ないですが、共同戦線と行きましょう。我々はより危険だと思われるサヴェッラに向かいますので、皆様はベルガラックに…」「待ってくれ」

 

ドルマゲスの言葉を遮ったのはククールだ。彼の額には汗が流れ、ドルマゲス同様余裕を失っていることが分かる。しかし付き合いの長いエイトたちにはククールの続く言葉が予想できていた。

 

「オレたちに、行かせてくれ。サヴェッラ大聖堂へ。…院長の所へ」

 

この場の全員を急かすかのような強い風が平原に吹き下ろした。

 

 

 

 

 




・「プロト・ウォーハンマー」
ヤンガスがドルマゲスからのお詫びの品として受け取った武器。U.S.A.の技術力を駆使してキラが作り出した「ウォーハンマー・改」の改良品。幾層もの鋼の外装を溶接し、魔石「マデュライト」のカケラが埋め込まれた打撃系武器。単純な破壊力が向上している上、インパクトの瞬間に魔石が衝撃に反応することでさらに追加の推進力を得る。ヤンガス以外では持ち上げるので精一杯なほど重い。

・「よるのパピヨン・レプリカ」
ゲルダがドルマゲスからのお詫びの品として受け取った武器。U.S.A.の技術力を駆使してドルマゲスが作り出した最強の短刀「よるのパピヨン」の模造品(新・第十六章参照)。与ダメージが下がった代わりに攻撃効率が上がり、追加効果の「混乱」が発動しやすくなった。ゲルダのメインウェポンは鉄扇だが、短剣が不得意というわけではない。

・「おもちゃ箱(ビックリボックス)」
ドルマゲスがアスカンタ王パヴァンから譲られた錬金釜を、トロデの発言をヒントに改造したもの(第二十二章参照)。めっちゃ久々に登場。原作のレシピに無い錬金も可能になり、素材を入れれば大抵のものは強化されて返ってくる。ドルマゲスがサザンビークの老魔術師との共同研究の末に人工オリハルコン(本物より数段質は落ちる)を生産する方法を確立してからは、とりあえず人工オリハルコンと何かしらのアイテム、という風にドルマゲスは片っ端から雑に錬金している。

・「ようせいのうでわ」
DQⅨで初登場したアイテム。守備力+4の効果と、最大MPを+30する追加効果があるアクセサリー。Ⅸが初登場なので当然だが原作DQⅧには登場しない。

・「ようせいのうでわ・改」
「ようせいのうでわ」に人工オリハルコンを錬金することで基礎能力が底上げされたオリジナルアイテム。守備力+8の効果と、最大MPを+60する追加効果があるアクセサリー。余談であるが、この先この物語においてゼシカのアクセサリー装備が変更されることはない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。