ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
いつかも書きましたが、この小説は私の身に何かが起きでもしない限り、絶対に途中で投げ出したりはしません!ぜひ最後までお付き合いいただければありがたいです!
次回は近日中(一週間以内)!の予定!
久々なのでちょっと長めのあらすじを置いておきます。前回から読み進めてきて不要だという方は読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ACT6:~新・第五章までの話を推敲しました。よろしければご覧ください。
不慮の事故により命を落とし、ドラゴンクエストⅧに登場する魔性の道化師「ドルマゲス」に転生してしまった男。彼は悪役としての役割を放棄し、自分なりのハッピーエンドを求めて動き出した。
三度の交戦の末、ついに暗黒神ラプソーンに完全敗北を喫したドルマゲスは闇の世界に封印されるも、神鳥レティスらの協力により封印を解除。魔力を除く本来の力を取り戻した。ドラクエⅧにおける本来の主人公「勇者エイト」と遂に邂逅したドルマゲスはこれまでの全ての誤解を解いて和解し、協力して世界をラプソーンの魔の手から救うことを約束する。しかし直後、ラプソーンからの二か所同時襲撃を知らせる連絡が届き、勇者はサヴェッラ大聖堂へ、ドルマゲスはベルガラックへと向かうこととなるのだった。
ハロー、初めて訪れた光のレティシアを観光する暇も無くベルガラックへと急行するハメになった道化師のドルマゲスです。…いやしかし、この期に及んでラプソーンが二か所同時に襲撃をかけてくるとは思いませんでした。私という面倒な相手がいなくなった今こそ攻勢に出るべき、とでも考えたのでしょうか?
…まあ、どんな思惑があろうと絶対にヤツの思い通りにはさせませんがね。
…
俺たちが到着した時点では、意外にもベルガラックは閑散としていた。遠くの方から喧騒が聞こえてくるものの、リブルアーチの時のような阿鼻叫喚の地獄絵図ではない。キラちゃんの報告が早かったおかげで被害が出る前に到着できたようだ。
「ユリマ、U.S.A.に『
「サーベルトは二人が到着するまで住民の避難と警護を。敵の深追いはせず、ベルガラック住民の安全を最優先でお願いします」「心得た!」
「私は賢者ギャリングの守護と首魁の調査に向かいます。質問は?」「ないぞ」「ありません!」
「では早速…あっ」
待った。俺は指示通りU.S.A.に向かおうとしていたユリマと、今まさに駆けだそうと一歩を踏み出したサーベルトを呼び止める。
「ユリマ、もし自分一人じゃ敵わないと思ったら、その時は構わず逃げてください」
「!」
ユリマの手が止まる。
彼女がリブルアーチで無理をして死にかけたことは師匠から聞いた。実際死んでいてもおかしくなかったし、なんなら現在完治しているのが信じられないほどだということも。ユリマの魔法の才と未来視の能力を考えれば、相手が暗黒神であろうと不利を悟ればそこから逃げ出すことくらいわけはないはず。それでも彼女がギリギリまで命を懸けたのは、きっと自分が逃走することによって俺や他の人間に被害が及ぶことを恐れたからだろう。
「いつも言ってくれているように、私は貴方の大事な人…ですよね?だから貴方はいつも私を第一に考え、行動してくれている。しかし同様に貴方も私の大事な人。……本当の所は、私は貴方にも傷ついてほしくない。なので無理を悟ったらすぐに逃げてほしいのです。」
「ど、ドルマゲスさん…?」
今回もリブルアーチの時と同じ、街一つの防衛戦。相手もラプソーンか、それに近い実力を持つ闇の勢力だ。…だが前回のようなヘマは絶対にしないと誓おう。
「とはいえ逃げられない、あるいは逃げたくない状況というものは誰しもあるでしょう。もしユリマがそんな状況に陥ったらすぐに私を呼んでください。どこにいたって絶対に駆け付けてみせますから。」
「!!!」
どうしようもなく勝ちの目が見えない戦局、それもきっといつかは直面するだろう。しかしまあ、せめてその時くらいは背中を合わせて最後まで一緒に戦いたいものだ。
「もう…っ!ドルマゲスさんはずるいですよっ…分かりました。危なくなったらすぐ呼びますから、その時はぜーんぶかなぐり捨てて、最優先で来てくださいね…?」「もちろんですよ」
ちょっとキザなセリフだったかもしれないが、キラちゃんとは違ってユリマには大げさな言葉で伝えてあげた方がむしろしっかりと気持ちが伝わる。彼女は顔を真っ赤にしてもじもじしながらも、危なくなった時はちゃんと助けを求めることを約束してくれた。
「当然、サーベルトもですよ?貴方の強さは私が一番よく分かっているつもりですが、何事も相性というものはあります。助けが必要だと思ったら大声で私の名前を呼んでください」
「当然さ。頼られる事の嬉しさ、誰かを頼りにするという勇気を俺はドリィから教えてもらった。俺はもう誰かを頼ることを弱さや恥とは思わない。」
サーベルトも前回ゲモンには一歩及ばなかった。俺とユリマと三人で力を合わせていれば…あの戦いもあるいは別の結末を辿っていたかもしれない、ということはサーベルトも分かってくれているようだ。
「それでは、散開!」
二人にくれぐれも無理をするなと再度念押しし、俺たちはベルガラックの防衛を開始した。
…
「さて…」
思ったより閑散としているとは言ったものの、見たところベルガラック住民が皆落ち着いているというわけではなく、あくまでまだこの街が襲われているという事に気がついていない住民が大半ということだろう。特に今は昼…夜の街であるベルガラックではまだ眠っている者も多いはずだ。東の方から聞こえてくる戦闘音にも人間の悲鳴はない。ベルガラックに過剰なまでに配置したセキュリティサービスは上手く機能しているようだ。
周辺に魔物が来ていないことを確認すると、黙ってその場を足早に駆ける。避難はサーベルトに一任しているため、ギャリング邸に向かう用事のある俺がここで徒に不安を煽るのは得策とは言えないだろう。船頭多くしてなんとやら…ってやつ。
魔物が襲ってきているのはやはりギャリング邸…やはり今回もただ魔物が気まぐれに襲撃してきたわけではなく、知性ある何者かによって指揮され、意図的に賢者の住む邸宅を狙っているようだ。だが防衛戦はリブルアーチに続いて闇の世界のドニでの経験もある。不安はあれど焦りはない。
「グギャーッッ!」
「ほっ」
突然「キラーパンサー」が後ろから飛び掛かってきたので、宙返りで躱してそのまま『ムーンサルト』を食らわせてやる。…魔力がないのでただの空中三日月蹴りなのだが、当たり所が良かったのかキラーパンサーはその一撃で大きなダメージを受けた。…やはり、体力が元に戻っただけではなく、リブルアーチにいた時よりも俺の身体は強く、しなやかになっている。
このことについて、おそらくはひとつの身体に戻った際に闇の世界での経験値が加算されたのだろう、とレティスは考察していた。
「グゥゥ…」
顔面に強烈な蹴りを食らわされたキラーパンサーは戦意を喪失したようだ。モンスターと言ってもベースは野生動物、死ぬまで戦うことをやめない個体もいれば、こういう臆病な個体もいる。…さて、今回の首魁について聞いてみるか。しかし…キラーパンサー?にしてはどこか様子が…
「(もしもし、豹さん)」
「(!?キ、キサマ!ワレワレノコトバヲハナセルノカ!?)」
だいぶ訛りが酷いが、なんとか聞き取ることのできる自然語だ。……
「(この街を襲うよう指示したのは誰ですか?)」
「(ガ、イウワケガナイダロウ!!)」
「(教えてくださるのなら、今後人間を襲わないという条件付きで見逃してあげますよ)」
「(ナメルナアアアッッ!!)」
やれやれ。俺はやけくそになって飛び掛かって来るキラーパンサーを迎え撃つ形で「きせきのつるぎ・レプリカ」を振り抜き、巨大な豹を両断した。しかし目の前の敵に集中したその一瞬、十匹以上のキラーパンサーが死角から現れ、俺を取り囲む。……元々こいつらは群れる種族だったな。さっきの臆病な個体は囮か?
「…?」
…キラーパンサーの中に数体の「シャドウパンサー」が混じっている。そんなことあるか…?
さらによく見ると、キラーパンサーたちの目の奥では薄暗い炎のようなものが揺らめいているのが見えた。明らかに通常の個体ではない。もしかしたらさっき両断した個体の違和感もそれか?
ものすごくいや~な予感がする。何か、また新しいイレギュラーが起こっているような…
「…ま、なんにせよ全員ブッ倒すことには変わりませんけどね」
魔物や周りの雰囲気からして、襲撃がそろそろ本格化しそうな兆しがある。あまり時間もかけてはいられないな。俺は大きく息を吸って「やけつく息」を吐き出した。
「!!!」
黒豹たちがマヒして動けなくなったところを真一文字に切り払う。相手が痛みに怯んで思わず開いた口から3、4個ずつ「ばくだん岩のかけら」を捻じ込み、内側から爆散。その黒煙に紛れ、俺はギャリング邸へ急いだ。
…
ギャリング邸ではセキュリティサービスと魔物たちの戦闘が繰り広げられていた。目を凝らして見てみると、やはり光の世界に生息する魔物たちの目の奥には薄暗い炎が宿っている…ように見える。幸い、数で勝るセキュサが優勢であり、すぐに加勢しなければならないということはない。とはいえ、ここまで来ると流石に住民たちもパニックに陥っており、どこへ逃げればいいのかもわからないまま戸惑っている者が多いか…。人命を第一とするセキュサのおかげで怪我人はいないようだが…魔物の数は増加しつつある。さっきのパンサーたちは本隊に先駆けてやって来た尖兵だったのだろう。とりあえず住民を安全な場所に…
「もし、御婦人。ここは危ないので…」
「まあっ!なんて恐ろしい顔なの!腕も無いし…はっ!まさか魔物!?」
「…」
……ベルガラックもパルミドほどではないが、世間知らずの金持ちが多いという意味でそこそこ民度は低い。それに今は緊急事態だ。多少の失言は水に流しましょ。ユリマがいなくて良かった。
「やめなさい!離して!…やめっ、た、助けてー!殺されるーぅ!!」
「人聞き悪いなァもう」
安全な中心部に向かうため、なおも暴れるマダムを担ぎ上げようとした瞬間―――俺の背中に痛烈なドロップキックが食らわされた。
「ぐはあっ!?」
ダメージはほぼない…だが重い一撃。一体誰が…咄嗟に受け身を取って剣を構えた俺の前に立っていたのは…
「魔物がせこい真似してんじゃねェよ!……んん?おめェ、確か…」
「…ギャリング様?」
筋骨隆々の偉丈夫、賢者の末裔ギャリングが仁王立ちで首を傾げていた。ユリマがいなくて良かった。本当に。
「…その怪しい出で立ちに胡散臭ェ顔は…ドルマゲスじゃねェか!久しいなァ!生きてたか!その腕はどうした、名誉の負傷か?がっはっは!」
「私たちもいるよ~ん!」「わっ!いきなり背に飛び乗ってくるな妹よ!」
続いてギャリングの後ろから顔を出したのは彼の養子であるフォーグとユッケの兄妹だ。…というか、まさかの護衛対象が戦場に登場…これはちょっとマズいだろう。
「皆様、ここは危険です。すぐに屋敷に戻ってください。」
「なんでえ、おれはそのつもりだったのによ、おめェが紛らわしいことするから町の代表として出張らねェといけなくなったんじゃねェか。そもそもこんな魔物どもなんて屁でもねェよ」
忘れられがちだが、ギャリングはこのベルガラックの町長だ。権力があり、おまけに腕も立つので住民からはあらゆるトラブルを解決してくれる存在として頼りにされている。
「私はただあのご婦人を助けようとしていただけでして…ありゃ」
俺が言い訳をするために後ろを振り向くと、先ほどのマダムがそそくさと逃げていく後姿が見えた。魔物だと勘違いしていた俺が町長の知り合いだったので気まずくなったのだろう。
「ところで…ドルマゲスさん、今この街を襲ってるのって…」
ユッケはその黄緑色の派手髪を揺らしつつ、声を一段低くして囁く。トーンを下げたところで、そもそもの声が大きいのであまり意味がないような気がするが、彼女なりに周囲に配慮しているのだろう。
「決まっているだろう。ラプソーンだ。ついにかの暗黒神ラプソーンが世界を滅ぼしにやって来たのだ!」
「ちょっとお兄!私は今ドルマゲスさんと話してるのヨ!」
「なんだと?ひとの親切心になんて言い草か!妹よ!」
フォーグとユッケの仲は原作よりも多少は良くなっているようだが、ことあるごとに言い争いを始めるところは変わっていない。そのままやいのやいのと口論を始めたので収拾がつかなくなる前に止めようとしたが、それよりも早くギャリングの剛腕が二人の頭にゲンコツを落とした。
「「ぎゃっ!!」」
「フォーグ!ユッケ!何度言ったらてめェらの不仲は治るんだ!」
「父よ…しかし妹は」「お父さん…だってお兄が」
「しかしもだってもあるか!!いいか、こうしてぶん殴って叱ってくれるおれみたいな存在がいつまでもてめェらの近くにいると思ってんじゃねェぞ!!」
「…」
「分かったら返事ィ!!!」「「はいぃっ!」」
フォーグとユッケはギャリングにしっしっと手で追い払われ、逃げ出すようにして屋敷の奥に引っ込んでいった。…いやしかし、すごい剣幕だ。ただでさえギャリングは元々マフィアじみた強面の男だってのに、その男に拳骨食らって怒鳴られれば普通の人間なら気絶したっておかしくない。隣でギャリングの怒号を聞いていただけの俺でも嫌な汗をかくくらいだ。
まあ…だがこれもギャリングなりの教育、ひいては愛だろう。まったく、この世界の老人はなんで揃いも揃って不器用な人たちばかりなのか。
「…ドルマゲス」
「はい」
「もしおれがどこかでくたばっても、絶対にあいつらに手出しするんじゃねェぞ」
「…?」
ギャリングは二人によって既に閉じられた屋敷の扉を見つめながら、先ほどよりも幾分小さな声で呟くように言った。どこか含みのある表情…俺がその真意を問おうとした瞬間、背後に音も無く異形の巨体が舞い降りる。キラちゃんの『
「!」
俺は既に拳を構えて戦闘態勢に入っているギャリングに問題はないと伝え、『ソルプレッサ』から降りるのに苦戦しているキラちゃんを抱きかかえて地面に下ろしてやる。キラちゃんは恥ずかしそうに小さく礼を言うと、ギャリングに軽くお辞儀をし、咳払いをした。ギャリングは巨大な魔物にキラちゃんが乗っていたことに驚いていたようだったが、すぐに彼の中で色々と合点がいったのか、特に何かを口に出すことはなかった。
「コホン…ドルマゲス様、私キラとライラス様は只今現着いたしました。遅くなりまして大変申し訳ございません。ドルマゲス様の下へ参上せよとのことでしたが、現場の判断により私が単独で参りました。ライラス様は既にユリマさんとエリアを分担して魔物の掃討に向かっておられます」
キラちゃんを降ろして身軽になったソルプレッサは瞬く間に屋敷周辺の魔物を一掃し、周囲の安全を確保した。
「キラさん、先ほどは迅速な報告をありがとうございました。おかげで勇者をサヴェッラに送り、我々がベルガラックに来るという判断がすぐにできましたよ」
「め、滅相もございません!あの時は焦っていたとはいえ、痴態を…。い、いえ!それよりも今回の襲撃について、ドルマゲス様のお耳に入れたいことがございまして…それで……」
キラちゃんはちらりとギャリングを一瞥する。ああ、この場で話してもいいのか気にしているのか。
「大丈夫ですよ。それはギャリング様にもお話すべきことでしょう。」
「うん?なんだ、おれにも教えてくれるのか?パヴァン王のとこのメイドの嬢ちゃん」
「…今の私はU.S.A.代表補佐官、でございます。ベルガラック町長ギャリング様。」
キラちゃんは珍しく強めの口調でぴしゃりと言い放つと、また咳払いをして少し早口気味に説明を始めた。
「現在ベルガラックを襲撃している魔物を空中から偵察しましたところ、その数は全体でおよそ二百体。光の世界における『闇の魔物の自然発生』は現時点では観測されていないため、この襲撃は暗黒神ラプソーンによるものと見て間違いないと思われます。」
ギャリングはキラちゃんの話を黙って聞いている。元々賢者としての自覚が薄れないよう、数百年にもわたって代々「ギャリング」を襲名してきただけあって、彼は末裔の中でも賢者としての責任感は強い方だ。第一、今襲われているのが自分が町長を務める町だということもあるが、「ラプソーン」の名が出た時に彼が一瞬身を固くしたのを俺は見逃さなかった。
「懸念点としては、ベルガラックを襲撃しているのが闇の魔物だけではないという事です。光の世界の魔物が闇の世界の魔物と徒党を組むという事例は初めての事です。」
「ええキラさん。先程私も『キラーパンサー』と対峙しましたが、どうも様子が変でした。」
「ああ、おれも屋敷に入ってきた魔物を二匹三匹ぶちのめしたが、ありゃ確かに普通じゃねェな。かなり手強かったぜ。」
「「…!?」」
ギャリングの口からさらっと出てきた撃破報告に俺とキラちゃんは揃って目を剥く。冒険者でもないのにあのレベルの魔物を素手で撃退してしまうとは…やはりギャリングの腕っぷしはご先祖様譲りらしい。
「コホン…上空から観測できた魔物のうち、未知の魔物は
赤縁の「インテリめがね」をかけたキラちゃんは手元のレポートを粛々と読み上げる。一体そんなレポートをどこから……まさかキラちゃんはキラちゃんでこうなることを見越してベルガラックに先遣隊を出していたとか?…だとしたらつくづく末恐ろしい補佐官である。
「光の世界の魔物の異変についても気になりますが…。まずは目の前の襲撃から対処すべきですかね。キラさん、敵の親玉は観測できましたか?」
「はっ、はい!ドルマゲス様!報告によりますと、周囲の魔物を率いて進軍する姿から、魔物の親玉は先程の『未知の魔物二体』がそれに該当すると思われます。一体は深紅の体躯に巨大な頭角を持つ魔獣、もう一体は蒼い体躯に巨大な牙を持つ魔獣で、これまでのどのサンプルにもデータが一致しませんでした。」
「ふむ…。」
思った通り、こっちがラプソーンではなかったか。未知の魔物、とは俺が死体サンプルをU.S.A.に送っていない魔物の事だ。また、体色に言及していることからして闇の世界の魔物ではあるまい。つまり光の世界でまだ俺も対峙したことの無い魔物が今回の襲撃を指揮していることになる。赤い身体に角、青い身体に牙…うーん?
……そんなことを考えながら俺が何の気なしに隣を見やると、ギャリングが明らかに動揺した表情で組んだ腕を小刻みに振るわせていた。
「お、おい嬢ちゃん、その赤い身体にデカいツノ、青い身体にデカいキバって特徴は確かなのか…!?」
「はい。組織の者が持ち帰った確かな情報でございます。」
「ギャリング様?」
「…。まだ確証はねェが…嬢ちゃんの情報が正しいってんならそいつらはおそらく『レッドオーガ』と『ブルファング』だ」
「レッドオーガとブルファング、ですか」
ああ、名前を聞いて思い出した。その二体は原作にも登場する隠しボスだ。赤い身体に角、青い身体に牙というさっきの特徴とも一致している。…しかし当然、そいつらが闇の世界の魔物を率いてベルガラックを襲うなんて展開は原作にはない。
「しかしなんだってヤツらが…。二匹とも
そう。二体は砂漠地方のダンジョン『竜骨の迷宮』で最奥部の番人を務めるボスであって、そこから動くことはないはず。であれば考えられる筋は一つだけだ。
「日頃は砂漠の奥深くに生息している魔物が地上に出現し、しかも町を襲う。それが通常有り得ない事であるならば、これは間違いなくラプソーンの差し金でしょう。ヤツには他者の精神を汚染して操る能力があります。その力で二体を操っているのでしょう。」
「…バカな、アイツらが…。…いや、確かに筋は通ってるか…。………ドルマゲス。おれは少々暗黒神とやらを軽視していたらしい。まさかそんなことまで出来ちまうヤツだとはよ。」
「仕方のないことです。ギャリング様はラプソーンと直接対峙したことが無いのですから。」
まさに百聞は一見に如かずだ。実際に見たことの無い相手の力量など正しく測れるわけもない。ギャリングはラプソーンが自身の旧敵であるレッドオーガとブルファングを容易く操ることのできるレベルのバケモノだと知り、それまでとはあからさまに態度が変わった。
「嬢ちゃん、レッドオーガとブルファングはいつ頃この町に到着するかわかるか?」
「はい、おそらくは―――――」
ドオオオォォォン!!!
キラちゃんの声は大地をゆるがすような轟音によってかき消された。俺は咄嗟にキラちゃんを抱き寄せ、飛んでくる石礫から彼女を守る。ギャリングも身体を大きく展開させたソルプレッサが庇ったおかげで無傷だったようだ。元々改造された肉体を持つソルプレッサにもほぼダメージはない。
「ドルマゲス様っ!」
「私は全く問題ありません。それより今の音は…」
「なっ、何が起こった!俺のガキ共は…」
ギャリングは焦って屋敷に戻ろうとするが、二階の窓からフォーグとユッケが無事をアピールするかのようにサムズアップを見せつけていたため、すぐに足を止めて胸を撫で下ろした。
「ドルマゲスよ」「あっ…えっ、師匠!?」
フォーグとユッケの無事に同じく安堵していた俺は突然後ろから声をかけられ、振り向くと師匠が立っていた。急いでここまで来たのか少し息が上がっている。
「少し…ふゥ。手を貸せ、親玉のお出ましだ。ヤツら、町の外で足止めしていたわしに業を煮やしたか、一気に跳びあがってここまで来おったわ。まったく信じがたい脚力だ!」
「…ではさっきの音は…」
「その親玉二匹が着地した衝撃だ!場所はこの屋敷のすぐ裏の庭、放っておけばすぐにここも戦場になるぞ!早く来い!!」
なんてこった、まだもう少しは時間があると思ってたのに…
こちらが本命でないというなら、やはりゲモンはサヴェッラにいることが確定だ。できるだけ早く勇者の助太刀に行かないと…。とにかく敵がターゲット近くまでやってきたというのならうかうかしてはいられない。俺はすぐに師匠について屋敷の裏庭へ急いだ。
・ギャリング
賭博と富豪の街ベルガラックの町長で、七賢者がひとり『無敵の男』ギャリングの末裔。先祖と同じ名前を継承している。原作では他の賢者の末裔同様ドルマゲスに襲われて命を落とすが、屋敷の人間からは「激しく争うような音が聞こえた」とあるため、暗殺しに来たドルマゲスと取っ組み合いになり、その末に殺害されたと考えられる。腕利きの剣士である原作サーベルトが成す術も無くドルマゲスに殺害されたことを考えると、ギャリングは一般人にしてはかなりの戦闘力を持っていると考えられる。
・フォーグ
ギャリングの養子。双子の兄だと本人は思っているが、捨て子だったためどちらが年上なのかははっきりしない。やや理屈っぽい喋り方をするが、感情のままに動く情熱的な一面もある。以前ドルマゲスと会った時に二人で力を合わせる経験をしたため、原作ほど仲は悪くない。
・ユッケ
ギャリングの養子。双子の妹だと本人は思っているが、捨て子だったためどちらが年上なのかははっきりしない。感情で動くタイプのため行動が短絡的だが、論理的に物事を考えるクレバーな一面もある。以前ドルマゲスと会った時に二人で力を合わせる経験をしたため、原作ほど仲は悪くない。
・キラ
パヴァン王のとこのメイドの嬢ちゃん改めU.S.A.代表補佐官。アスカンタの王室小間使い時代に公務で何度かギャリングを見かけたことはあるのだが、彼のマフィア然とした風貌と些か豪快すぎる性格が自身と合わず、軽く苦手意識を持っている。仕事が大好きなU.S.A.のモグラたちと長くいた影響か、最近ワーカーホリックの気質が見え隠れしており、ひたすら働いてドルマゲスの役に立つことを至上の目的とするその心意気はユリマにも一目置かれている。
・光の世界の魔物に起きた異変
光の世界の魔物はラプソーンの闇の瘴気に身も心も支配され狂暴化しており、全体的なステータスが原種よりも大幅にアップしている。DQⅪの「強モンスター(邪モンスター)」やDQMJ3の「ブレイクモンスター」に近い。ドルマゲスやゼシカのようにラプソーン直々に操縦されているわけではないが、「建造物を破壊する」「人間を襲う」などの単純な行動目的を強いられており、それを実行すべく行動する。表記は「(モンスター名)・闇」。瞳が赤く光る強モンスターや緑色に光る邪モンスターと同様、闇モンスターは瞳が紫色に輝く。