ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
ハロー、久々に船で海を渡るドルマゲスです。私は海を歩けるので金銭的な理由から船での移動は避けてたんですけども、いざ船に乗ってみると…頬を撫でて吹き抜ける風、波蠢く大海原、船を襲おうとやってくる海産物の方々…楽しいことがいっぱいありますね…!
…
ポルトリンクに到着した俺たちは特に大きな出来事も無くマイエラ行きの船に乗ることになった。あったことと言えば野草売りだとかいう女性が「やくそう」を割高で売りつけようとしてきたことくらいだ。あと波止場の受付がサーベルトの顔を訝しげに見ていたので、俺が慌てて『マヌーサ』を受付にかけて有耶無耶にした。そしてそのまま予定通り出航し、今に至る。
「…なあドリィ、俺は変装した方がいいか?」
「いやいや、うっかりしていたのは私です。ポルトリンクはアルバート御用達の港町なので、そりゃ港の人間はアインスの事を覚えてても不思議じゃないですよね。アインスはトロデーンから出たことはありますか?ないならば変装はしなくても大丈夫ですが。」
「いや、無いな。それよりドリィ。その…二人の時はサーベルトと呼んでくれて構わないぞ。」
えっ何めんどくさ…どしたんサーベルト。顔なんて赤らめちゃって。
「わ、分かりました。じゃあ人前に出る時がアインスということで…」
サーベルトの好感度が日に日に上がっているような気がするが、何が原因なのかさっぱり分からない。俺は鈍感かそうでないかと問われるとギリ鈍感だし、忘れっぽい性格だとは思う(なので丸腰で人跡未踏の森に入るなど何度もへまをやらかしている)が、いくら思い返してもサーベルトが俺に懐く理由が出てこない。…人間とは不思議なものだ。
俺は船のデッキに出て風にあたろうとへりに寄り掛かった。遠くに小さな城が見える。船から見るのは初めてだが、おそらくあれは『メダル王国』の城だろう。…とその前に見覚えのある紫の頭が見えた。
「ん?」
「どうした?」
「いえね、向こうに少し知り合いがいたもので。ちょっと行ってきますね。すぐ戻ってきます。」
「そうか、分かった。」
サーベルトは船内に誰か知り合いがいるのかと思っているようだが、生憎俺に人間の知り合いはほとんどいないのだ。俺は船から飛び降りてこちらを窺っている「オセアーノン」のところまで歩いて行った。
「やあ、これはこれは。いつぞやのイカさんじゃないですか?」
「ヒッ!ドルマゲスの旦那!?…そ、その節はどうも…」
「今日はあの船を襲おうと思っていたのですか??歓迎しますよ。丁度私もお腹がすいてきたのでね。前回の様に脚を十本ほどいただいてもよろしいでしょうか?」
「いっいやいや!!滅相も無いですっ!船を襲うつもりなんてこれっぽっちも!」
「…」
…まあ嘘はついてなさそうだ。このイカは喧嘩っ早いが、好き好んで人間を襲うような外道でもない。原作で主人公たちが乗る船を襲ったのは神鳥の杖に操られたドルマゲスの強力な憎しみの魔力にあてられたからだ。人語も理解しているし、魔物の中では比較的善良な部類と言ってもいいだろう。案外こういうやつが海の魔物から港を守っているのかもしれない。
「ああ、そうだ。イカさん。『海竜』という魔物をご存じですか?」
「へっ?海竜ですか?…あのアホならよく迷子になってここらへんに流れてくるので追い払っていますが…」
「それは良いことを聞きました。でしたらあの船がマイエラ地方の船着き場に到着するころに近くに海竜を誘導しておいてもらってもいいですか?」
「えっでも…」
「お願いしますね!いやあ助かった!!もしイカさんが了承してくださらなかったらどうしようかと思ってましたよ!!……まあその場合は船の食事が少し豪勢なものになるだけの話ですがねえ。」
「!!!喜んで!!喜んで海竜のアホを連れていかせていただきます!」
俺が半ば強迫する形でオセアーノンに頼みごとをするとオセアーノンは急いで海に潜った。そうだ、今度から海を渡るときは彼に乗せてもらって船の代わりにしようか。結構早いし楽そうだ。でも乗り心地は悪そうだな…
「海竜」というモンスターはこの世界では珍しい『ジゴフラッシュ』という光属性の呪文を使う。強い閃光を放ち相手の目をくらませる眩しい魔法だ。幻惑する『マヌーサ』と違いダメージも入るので雑魚戦で使いやすい。あれを覚えて会敵と同時に使っていけば道中の戦闘がかなり楽になるだろう。俺はオセアーノンが完全に見えなくなるのを見届けると船に戻った。
船に戻るとサーベルトが魔物と戦っていた。と言っても昼の海は弱い魔物ばかりなので一方的な戦いだ。戦闘が終わると船員たちから歓声が上がった。一般人の戦闘力が著しく低いこの世界では、魔物という存在はそれだけで脅威なのだ。正直「プチアーノン」や「わかめ王子」がいくら出てきたところで航行に支障は出ないと思うのだが…まあいい。こいつらを料理してパーティーでも開くとしよう。
俺の作ったいかめしと中華スープは大評判になり、船のコックに是非レシピを教えてほしいとせがまれた。その後も歌ったり踊ったりして船着き場に到着するまでパーティーは続いた。
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「ふう…やっと到着か」
「お疲れ様です。」
俺たちはマイエラ地方の船着き場で船を降りた。うーんいい天気だ。別れを惜しむ船員たちに手を振って俺たちは出発した。
この場所は「船着き場」。ポルトリンクから出る定期船が停泊するマイエラ地方側の港で、ただの荷上場なのだが、店や宿屋、教会まであり、正直ここから行った先にある「ドニの町」よりも大きい市場である。
「さて、マイエラ地方に着いたわけだが、これからどうするつもりだ?」
「そうですね。まずは他の賢者の子孫たちに会って話を聞いてみましょうか。賢者の末裔の誰かがラプソーンを滅ぼす手段であったり、魂を呼び戻す方法を知っているかもしれません。」
「なるほど…そして次の賢者の末裔がここマイエラ地方にいるというわけだな。」
「ええ、まずはマイエラ修道院です。」
マイエラ修道院は世界三大聖地のひとつに数えられるありがたい場所で、川の中州という変な場所に建っている、ククールが在籍している男子修道院だ。しかし世界三大聖地と言っても、高い参拝料のせいで貧乏人は参拝できず、救われるのは金持ちだけという腐った聖地である。同じ三大聖地の「聖地ゴルド」もまた金の亡者の化身のような場所で、宿屋は高いのに客を床に寝かせるなどめちゃくちゃなことをする聖地である。そのようなことも合わせてこの世界の教会は全く堕落しているのだ。昔はどうだったのかは知らんが、現在のマイエラ修道院は唯一の聖人であり修道院の院長であるオディロがいるから存続できていると言っても過言ではない。プライドが高く傲慢なマイエラ修道院の聖堂騎士団もオディロ院長だけは本心から尊敬しているのだ。そしてそのオディロ院長こそが七賢者のリーダー、神の子エジェウスの子孫である。原作では自身の命が危機にさらされながらもドルマゲスと対話し、和解を試みたドラクエⅧの数少ない真の聖人なのだ。…当たり前だが俺は院長を殺したりなんてしない。
「おっとその前に…」
俺は船着き場の離れでオセアーノンが海竜を連れてくるのを待った。あれで結構ちゃんとした性格をしているので、一度約束したら逃げたりはしない。と俺は勝手に思っている。
程なくしてオセアーノンが海竜ともみくちゃになりながらやってきた。ステータス上は海竜の方が数段上のはずだが、オセアーノンもボスモンスターの意地を見せたのだろう。互角の戦いを繰り広げながら、俺の前に来る頃には二匹とも疲れ切っていた。
「はあ…はあ…つ、連れてきましたぁ…」
「ありがとうございます。いやぁ本当に助かりました。」
「では私はこれで…」
オセアーノンがポルトリンクに戻ろうとしたので俺は『ベホマ』をかけて彼を呼び止めた。
「あれ、体が…」
「イカさん、何か欲しいものなどありますか?」
「え?ええと……すみません、今は腹がペコペコなので食い物以外のことは考えられないですね…」
「ふむ、じゃあ何か料理でも振舞いましょうか。」
俺はオセアーノンが何を主食にしているのか知らないのでとりあえずかつてトロデーン城へ向かう途中で獲った「エビラ」の残りを全部使ってパエリアっぽいものを作った。米などは船着き場で調達したものを使った。明らかに人間の味覚に合わせた料理だが、オセアーノンは魔物だし食っても死なんだろ。多分。
「こ、これは…?」
「私の故郷に伝わる(大嘘)パエリアという料理です。欲しいものがないと言うので、せめてものお礼です。どうぞお食べください。」
オセアーノンは一瞬躊躇したが、ここで食べないとどんな目に遭うかを想像したのだろう。意を決してその触腕を器用に使ってパエリアを口へ運んだ。…いや流石に料理食わんかったからといって怒ったりせんが。しかし一口食べたら意外とおいしかったようで沢山ある足をほとんど使ってパエリアを口へ運んだ。人間ならば二十人前はありそうなパエリア(半分以上エビ)だが、ものの数分で完食されてしまった。
「なんつー旨さだ…ドルマゲスの旦那、感動しました!毒が入ってないか警戒してすみませんでした!このご恩は忘れません!」
「く、口に合ったようで良かったです。あと私が恩を返した側なので全部チャラでいいですよ。」
オセアーノンのノリがちょっと鬱陶しくなってきたので俺はさっさとオセアーノンをポルトリンクへ帰らせた。
疲れて眠っていた海竜を『ザメハ』で起こすと、ドラゴン語で「おいウナギ野郎、『海竜』っつー種族は噛みつくことしかできない弱小種族らしいな!」みたいな感じで煽った。すると、意味が通じたようで海竜は見事にブチギレて『ジゴフラッシュ』を使ってきた。
「サーベルト!後ろを向いて目を瞑ってください!!」
「え!?あ、ああ!!」
サーベルトは言われたとおりに守りの形に入ったが、俺は『ジゴフラッシュ』の魔法プロセスを直接観測する必要がある。海竜の口から放たれる太陽の輝きの数倍以上の閃光を俺はありのまま受け入れた。
…
「どうだドリィ…?」
「うーん…まだよく見えませんねぇ…」
結局『ジゴフラッシュ』を習得することはできたのだが、マジで眩しかった。サーベルトが海竜を追い払ってしばらくしてもまだ目がくらくらしている。これは想像以上の収穫になりそうだ…。
しばらく俺たちは休憩し、視力が戻ったところで今度こそマイエラ修道院に向かった。
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「ここがマイエラ修道院か…大きいな…!」
「…」
マイエラ修道院に到着したサーベルトが修道院の立派さ、荘厳さに感嘆する。確かにリーザスの村にある教会より何十倍も大きいからな。しかし、ここの聖堂騎士団は
…
「もし汝らが己の犯した罪に悩み苦しむのなら懺悔の証にこの修道院に寄付をするがよい。さすればいかなる罪をも許すありがたい免罪符をお分けして差し上げますぞ。」
「…なんですって?修道士様、それは神の名を騙ってお金を…モゴゴ」
「はーいアインス君口を慎みましょうね~!!し、失礼しました~」
俺は早速問題を起こそうとするサーベルトを引っ張ってその場を離れた。むむむ、正義感の強いサーベルトをここに連れてくるのは間違っていただろうか…。修道士が売っているのは免罪符だ。要するに教会に金を支払えば神様は何でも許してくれるぞ、という明らかに神を利用した教会の金稼ぎである。ここに来る金持ちの参拝者たちは(どんな宗派かは知らないが)神を篤く信仰しているのでこういった免罪符にゴールドを支払ってしまうのかもしれないが、サーベルトは民族宗教が根強く残るリーザスの村の出身である。故に神様を信仰しておらず、これが良くないものであると正常に判断できてしまうのだ。
「ど、どうして止める?あんな言葉に救いを夢見る人間が何人騙されてきたか…」
「…サーベルト、あれは教会の問題なのです。部外者の我々が何を言っても決して聞き入れてはくれないでしょう。それどころか追い出されて出禁になる可能性もあります。」
「し、しかし…」
「大丈夫です。その直談判も含めてオディロ院長に会いに行きましょう。」
「そういうことだったんだな…!流石はドリィだ!」
サーベルトをうまく丸め込んだ俺はそのまま奥の部屋に進んだ。…しかし、肝心な院長の部屋へ続く扉に二人の聖堂騎士団員がいて門番をしている。…嫌だなぁ。通してくれそうにないなぁ…。どう切り抜けようか…その時俺はオディロ院長が大のダジャレ好きであることを思い出した。そうだ、俺が院長に招かれた旅芸人だという設定にすれば…!よし、これで行こう。
俺はサーベルトに何があっても問題を起こさず、我慢するように頼み、門番の前に躍り出た。
「む?なんだお前らは!怪しい奴め!」
「この奥に何の用だ?部外者はさっさと立ち去れ!」
「これはこれは誇り高き聖堂騎士団の皆様!私はマスター・ドリィと言います。こちらは助手のアインス。本日はマイエラ修道院のオディロ様にお招きいただき、旅芸人として参った次第でございます…。差し支えなければ、院長室まで案内していただいてもよろしいでしょうか?」
「オディロ様が招いた旅芸人だと…?どうも怪しいな…」
「余所者が修道院の地を踏むと神聖な修道院に泥が付く!田舎の旅芸人は貧乏人に貧相な芸でも披露していろ!」
わお。多少は怪しまれるだろうとは思っていたが、怪しまれるどころか痛烈に罵倒された。俺はとりあえず手品を披露して団員を驚かせたが、全然通してくれない。いつもオディロ院長が旅芸人を招くときはどうしてるんだろうか…。
「奇妙な術を使う魔導士め!!オディロ様には一歩たりとも近づけさせんぞ!!」
「命が惜しくば俺たちの剣の錆になる前にここから消えるんだな!!」
それどころか逆効果だった。サーベルトも黙ってはいるが額に青筋が浮き出ている。金を積めば通してくれそうな気がするのだが、サーベルトが後で何をしでかすか分からない。もうダメだ。
俺がそう思っていったん帰ろうとした時、上の窓が開いた。もしかして、オディロ院長!?
「入れるな、とは言ったが手荒な真似をしろ、とは言っていない。我が聖堂騎士団の評判を落とすな。」
「こ、これはマルチェロ様!?申し訳ございません!」
おまえか~い!!これもう絶対ダメじゃないか…
「私の部下が乱暴な真似をしたようで済まない…と言いたいところだが。貴様、院長に招かれた旅芸人だと宣ったな?院長の予定は聖堂騎士団長である私もすべて把握している。今日は院長にそのような予定はない。さあ、何をしに来たか吐いてもらおうか!この下賤な賊め!!」
あ。駄目だこれ。マルチェロは大胆にも窓から飛び降りて剣を抜く。他にも四方から聖堂騎士団が現れた。…早速出番がやって来るとは。俺はサーベルトにハンドサインを送った。サーベルトは理解したようで顔を抑えてうずくまる。
「ふん、降参するとは殊勝な心掛けだ。しかしそれくらいで許され…」
「『ジゴフラッシュ』!!」
瞬間、修道院が真夏の正午の様に明るくなり、騎士たちは全員視力を奪われてパニックになった。マルチェロも流石に閃光を直視しては動けないようで、俺たちからの追撃を警戒して剣を振り回している。それ他の人に当たったらどうするんだよ…俺は『
院長に会おう作戦はひとまず失敗に終わった。
リーザスの村の宗教について
リーザスの村には教会がありますが、あれはあくまで村に立ち寄る旅人たちのために作られたものであり、村人たちはその宗教を信仰しているわけではないのではないかと私は思っています。日本で言えば、町の中にあるイスラム教徒のためのモスク(礼拝所)のようなものではないでしょうか。村民たちは年に一度リーザスの塔で祭りを開くなど独自の宗教を持ち、「リーザス様」を篤く信仰しています。なのでおそらく外来の宗教には疎いのではないか、と考察しました。