ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
第十六章 新兵器と音痴土竜
ハロー、いつも元気な道化師ドルマゲスです。いやあ、久々に大暴れできる機会が頂けて腕が鳴りますね…しかも今回はトロデーンのように切迫した状態でなく、アスカンタ王から大義名分を頂いている、というこの上ない条件です。色々試しちゃいましょうかねぇ!いざ、モグラ殲滅!ワクワク!!
…
─アスカンタ城地下─
俺とサーベルトは暗い洞窟を『レミーラ』の呪文で照らしながら進んでいった。余談であるが、『レミーラ』はどうやら『ジゴフラッシュ』と同系統の呪文らしく、俺が『ジゴフラッシュ』を覚えると『レミーラ』も唱えられるようになった。同時に『レミラーマ』も覚えたが、特にこれといった使い道が思い浮かばないので今は置いておく。…別に光が無くても進めないわけではないが、あった方が足元が安心だ。それに…
「サーベルト!あれです!」「よし来た!」
光で照らしてやると「おどる宝石」が反射でキラキラ光るので簡単に位置を特定できる。おどる宝石はそこまで多くのゴールドを落とすわけではないが、それは本体を倒してしまっているからだ。宝石部分だけを奪って浄化して魔力を抜き、市場で換金すれば素晴らしい大金になる。俺たちは三匹ほどの「おどる宝石」をただの巾着袋に変えてやった。よ~し、また大金集めて戻っておいで。
しばらく進むと外が明るくなってきて、地上に出た。ここはアスカンタ城の北部だ。ここからさらに北上すれば今回の事件の犯人が生息する「モグラのアジト」がある。
「あれ…地上に出てしまったようだが…?」
「ご心配なく。ここから北に進めば犯人たちの棲む洞窟があるのです。」
「なるほど。…人の大切な宝物を盗んでいく卑劣漢め、俺が叩きのめしてやる…!」
俺たちは途中の魔物を適当にあしらいながら洞窟へと歩を進めた。仲間を呼ぶ「マドハンド」など厄介な魔物もいるにはいるが、ブレス系の攻撃や『イオナズン』などで一網打尽にしてしまえば問題はない。俺は再度『レミーラ』を唱え、今度こそモグラのアジトへと侵入した。
…
─モグラのアジト─
中はまるで迷路のようだ。ほとんど一本道だった「滝の洞窟」や「旧修道院跡地」と違い、分かれ道も多い上、グネグネと曲がりくねる道と、どこまでも続く似たような景色のせいでとても迷いやすい。これがゲームならマップが重宝されるのだが、生憎そんなものは無い。俺は一度通った道を忘れないよう10mほどの間隔で『レミーラ』を設置していった。サーベルトはというと、襲ってくる「マッドドッグ」や「キラースコップ」を俺が手を貸すまでもなくボコボコにしており、それを見た他の魔物は若干引いているようだ。
「サーベルト、懲らしめるのはいいですがほどほどに…」
魔物たちの顔が少し安心した顔になった。
「…私の分も残しておいてくださいね…!」
俺がそう言いながら魔物たちの方を振り返ると、そこにいた数匹の魔物たちはショックで気を失ったり、死んだふりをしたりした。ちょっと面白い。お化け屋敷の運営側に立っているような気分だ。
地下二階に到着すると、いよいよモグラたちの本拠地ということもあって、魔物たちの勢いが強くなっていった。
「くっ…囲まれたか!」
気が付くと俺たちは20を超える数の魔物に包囲されていた。別にここらのベルガラック地方の魔物かそれ以下の強さしか持たない魔物に負けるつもりはないが、油断してやるほど甘くもない。
「…サーベルト、それではここで私の新発明を披露いたしましょう。
台詞が芝居がかりすぎてちょっと恥ずかしいのを誤魔化すようにサーベルトに拍手を促すと、サーベルトは怪訝な顔一つせず拍手してくれた。お前のそういうところ好きだぜ。俺は腕を大きく振って『
「これは…魔物か…?」
「いいえ、魔物の細胞や人工筋肉を使用していますが、大部分は金属でできた機械兵器です。今回はお披露目、この子が主役なので我々は少しここで休みましょう。紅茶でも淹れましょうか。」
俺は椅子を出し、唖然としているサーベルトを座らせた。ふふん、驚いたか。これぞ俺の試作兵器『バイラリン』だ。ベースは精錬を繰り返した高純度の鋼、形状モデルは「バベルボブル」。バランスの悪さを多脚化することでカバー。「バベルボブル」特有の無駄行動も機械なのでもちろん無し。その脚はほとんど「スキッパー」の細胞を使っており、戦闘中は自律的に相手に『ボミオス』をかけ続けるデバッファーの役を担う。『ボミオス』をそんなに連打する必要があるのかという話だが、『バイラリン』は俺たちの苦手な対多数戦を想定しているので、新手が登場した時に即座に先制を取れるようにしているのだ。4本の可変性六軸アームソードも「サーベルきつね」「さまようよろい」「くびかりぞく」「ぼうれい剣士」という全く異なるスタイルの剣技をラーニングさせてあり、それら全てをランダムにスイッチしながら繰り出すので、一級の剣士であるサーベルトであっても、その全てを捌ききることはほとんど不可能のはずだ。また「エビルスピリッツ」など一個体に複数の意識を持つ魔物の細胞を核にしたパラレルリンク機構を上部と下部に一つずつ設置することでより自然な動き、かつ頭部にある制御ノードの負荷軽減も担っている。
外界センサがサーモグラフィセンサと超音波距離センサの二種類しか搭載していないため、輪郭があやふやで、体温を持たない「あやしいかげ」など一部の魔物には全く太刀打ちできない事など、「バイラリン」にはまだまだ改善点も多い。がこのダンジョンでは大いに暴れてくれるだろう。ゲーム的に言えば「毎ターンボミオスを4回唱えてきて、攻撃が必ず当たる4回行動のすごく守備力とHPの高い敵」だ。俺だったら絶対相手にしたくない。
『バイラリン』は4本のアームソードを器用に振り回し、的確に魔物を戦闘不能にしながら進撃していく。魔物たちも応戦するが、せいぜい外殻に傷をつけるくらいしかできない。こいつをぶっ壊したかったら原作ドルマゲスかマルチェロでも持ってきやがれ!
しかし、大勢いた魔物のほとんどを蹴散らし、次が最後の一匹―――とその瞬間、『バイラリン』は突然沈黙して動かなくなってしまった。
「なあドリィ…動かなくなったが。」
「そんな、まさか魔力切れ!?最大まで充電していたはずなのに!」
まさかこんなに継戦能力が低いと思わなかった。やはり実践段階に入ると研究段階では見えないものが見えてくるな。…仕方ない。周囲の安全を確認して俺は『バイラリン』を収納すると、端っこで縮こまっている「いたずらもぐら」を尋ねた。
(あなたたちの親玉はどこですか)
「あ、あんた、ボスの命を狙っているのか!?く、口が裂けても言うもんか!」
このいたずらもぐらは人語が通じるタイプだったか。少し勘違いしているようなので訂正しておく。
「私たちはこのアジトの魔物を掃討しに来たわけではないです。貴方たち、もしくはここのボスはつい最近、ここから南にあるアスカンタ王国の宝物庫に侵入し、物品を盗み出したでしょう?私たちはそれを取り返しに来ただけです。」
「…くそ、アスカンタの追手がこんなに早く、しかもこんな化け物が来るなんて聞いてないぜ…!本当にボスや俺たちを殺さねぇって約束できるならついてきな!」
「ええ、約束します。ね、サーベルト?」
「ああ、俺たちは別に戦意のない魔物まで殺めるつもりはない。悪事を犯した以上反省はしてもらうがな。」
俺たちはいたずらもぐらに付いて先に進んだ。やはりダンジョンは内部構造を知る者に案内してもらうのが一番手っ取り早くて良い。アジト最奥に到着すると、途端に酷い歌声が響き渡り、俺は思わず耳を塞いだ。
「なん…これは酷い…頭が割れそうだ…!」
「あ…あの歌声の主が…貴方たちの親玉…ですね…?」
「そう…だ…」
歌声は歪なハープの音色と負のハーモニーを奏で、音波は天井にぶつかって洞窟中に反響する。全く酷い。あたりを見回すと、子分のモグラたちも立ったまま気絶していたり、目を回してぶっ倒れていたりと酷い有様だ。サーベルトも俺もこのままでは近づくことすらできない。俺は『
「音が消えた……流石はドリィだな!」
「なんだ…?音が…これ、あんたの仕業か?」
全ての音を遮断しているので彼らが何を言っているのか聞こえんがまあいい。俺たちはそのまま騒音の元凶─『ドン・モグーラ』の前まで来たところで『ラグランジュ』を解除した。う、うるせぇ…ドン・モグーラは俺たちが来たことにも気付かず楽しげに歌い続けている。反面、周りにいる側近のモグラたちはすっかり生気を失ってうんざりした顔だ。
「よお…どうしたお前…ニンゲンなんて連れてきてさ…」
「ああ…こいつらどうもアスカンタの追手らしくてさ。盗んだものを返せって言ってやがんの。」
「えぇ…なんでそんな奴をここに連れてくるんだよ…」
「それがよぉ…こいつらバカみてぇに強いんだ。だから余計な被害が出る前にボスの所へ連れてきたってわけ。」
「そうか…なあアンタ、俺たちのボスは人の物をすぐ盗みたがるクセと下手の横好きの歌さえなけりゃあ部下想いの優しいボスなんだよ…アンタがほんとに強いってんならボスを止めてあのハープを取り上げてくれ…」
本来テンションを上げて攻撃してくるはずのいたずらもぐらたちのテンションがあまりに低いのでなんだかこっちまでしんどくなる。
「え、えぇ。もちろんです。任せてください。」
俺が側近のモグラに向かって胸を叩いたところでようやくドン・モグーラがこちらに気付いた。
「いいっ!ものすごくいいモグッ!ワシの芸術性をこのハープがさらに高めているモグッ!!……んん?おお!そこのお前ら、見かけない顔モグが…ワシの歌を聞きに来たモグか?」
このドン・モグーラ、歌っている時は本当に楽しそうなので、趣味の邪魔をすることに一抹の罪悪感もないではないが…そもそもあの「月影のハープ」はアスカンタ王国のものだし、これ以上あの歌を聞くと体調が悪くなりそうなのでキッパリ言うことにする。
「いいえ、モグラの親玉さん。我々はアスカンタ王の勅令で奪われた国宝を取り戻しに来ました。あなたの歌を邪魔する気はありませんが、そのハープはアスカンタの国宝なのでお返し願いたく。」
俺はできるだけ恭しく振舞って穏便に済ませようとしたが…。
「何!?ワシの芸術の友、『月影のハープ』を奪いに来たモグか!?モグググググ…ゆるさーん!」
…まあ、こうなるよね。
「サーベルト!来ますよ!これを装着してください!」「おうっ!」
俺はサーベルトに混乱を防ぐ「理性のリング」を渡し、続いて『バイキルト』をかけた。ドン・モグーラが初手で繰り出してくる『芸術スペシャル』は敵味方全体に混乱を引き起こす厄介な技だが、混乱さえしなければそこまで恐くない。俺は耳を塞いで襲い来る
「なんか…ッ苦しくないか…ッ!?」
「き、気のせいデスヨー…!あ、あっそーれ!ハッスルハッスル~!」
サーベルトが何度も相手を斬ったり薙ぎ払っている間、俺は『ハッスルダンス』を踊って誤魔化した。
「ハァ…ハァ…モググググ…!小癪な…!」
ドン・モグーラは自慢の歌が空気の薄さと風の音でかき消されるのが気に入らないようだ。…しかし子分たちが心なしかホッとしているように見えるのは俺だけだろうか。とりあえずこのまま一気に畳みかける。サーベルトに再度『バイキルト』そして『ピオラ』をかけ、『守滅の刻』で守備力を大幅に下げた。
「サーベルト!」
「でやあああぁぁ!!」
高く飛び上がったサーベルトの大上段切りが会心の一撃となりドン・モグーラはついに倒れた。結構タフだった。
「…もぐふっ…」
「ああっ!ボス!」
子分たちが倒れたドン・モグーラの元へ駆け寄る。彼らの高い忠誠心の出どころは社会を形成するモグラモンスターに属しているから、という見方もできるだろうがやはりドン・モグーラが組織のボスとして優秀だったからには違いない。殺すには惜しい男だ…いや元からそんなつもりないけど。
「さあ!お前たちの親玉は敗れた!宝物を返してもらおう!」
「…仕方な」「いやいや、サーベルト。ここからですよ。」
俺はボロボロのドン・モグーラに『ベホマ』をかけた。サーベルトはもちろん、モグラたちも驚いている。
「も、モグッ…!?これは…キズが回復したモグ…?」
「ど、ドリィ!いったい何を…!?」
「まあまあ、悪いようにはしないので…さて、モグラの頭領ドン・モグーラ、貴方にお話があります。…前提として奪った宝物は返してもらいますが、よろしいですね?」
「…負けは負けモグ。奪ったものは返すモグ…。」
ドン・モグーラはしょんぼりとして言った。
「よろしい。これでアスカンタの使者としての私の任務はほぼ完了です。……ではここからは対等な存在として、『私個人』と取引しましょうか。」
「!」
「おいっ!お前!それはどういうことだ!!」
「…いいモグ。おい、お前の名前は何と言うモグ?」
「私の名はドルマゲス。…以後お見知りおきを。」
「さあ、皆様テーブルについて。これからの世界についてのお話です。」
…
ラプソーン、見てるか?聞いているか?お前が杖の中で燻っている間に、俺はどんどん止められなくなるぞ。最初の端末に俺を選んだことをせいぜい今のうちに後悔しておくんだな。必ず…お前の魂を引きずり出して消し去ってやる。
『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』を応用し、身体から逆相位の音波を発することで逆に外界の音を遮断する、いわゆる“ノイズキャンセリング”を再現する魔術。また自分の音だけを消すこともできる。他にも姿だけを消したり、気配だけを消したりすることも理論上は可能である(が、使い勝手はよくないので登場させるかは未定)。
『バイラリン』について
ドルマゲスがその肉体の優秀な頭脳スペックをフルに行使して夜な夜な開発を進めていた仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)の対多数用新型戦闘マシーン。あくまで「防衛」が目的のセキュリティサービスとは違い、バイラリンは「殲滅」を目的としている。ドルマゲスの綿密な実験と調整の下、どんな状況でも決して人間を襲うようなことは無いが、それ以外の誤動作はまだまだ多い試作品。ラスダンの魔物に紛れても見劣りはしない性能を持つが、めちゃくちゃ燃費が悪い。