ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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幕間を二つ、挿入投稿しました 2022/11/03
どちらも閲覧は自由ですが、趣味全開で書いたグルメレポートの方はともかく…掲示板の方はほんの少しだけ本編の補完が入っているので閲覧していただければと思います。

ちょっと長くなっちゃった。







第十七章 夢のマイ拠点と小間使いの夢

ハロー、お気に入りの『道化の衣装』が土で汚れてしまったのでちょっとブルーな道化師ドルマゲスです。先の戦闘、本当はもう少し早く終わるはずだったんです。こちらは二人ですが、レベルは大きく離れているので。しかしどうも火力が足りません。ええ、私のです。サーベルトはうまくやってくれているので…はてどうしたものか…。

 

 

 

 

「お前の名前はドルマゲスというモグか…ではドルマゲス、条件を言うモグ。お前はワシに何を求め、代わりに何を差し出してくれるモグ?」

 

俺たちとモグラの戦いは第二ラウンド…「話し合い」に突入した。子分のモグラたちは手持ち無沙汰になってモジモジしている。サーベルトも話し合いとなると自分の出る幕はないと察したのかその場で体育座りをしており…なんか申し訳ないな。

俺はとりあえずその場にいる全員分の椅子を用意した。サーベルト、俺も鎧を装備してたから分かるんだが、鎧を装着したまま体育座りをするのは本当に腰に悪いので辞めときなね。腰痛は冒険者の天敵よ。

 

「私の要求は二つ。一つはこの『モグラのアジト』のあなたたち魔物の居住区を除く全ての領地を私に譲渡すること。もう一つは私にあなたたちの労働力を提供すること。以上です。」

 

「…は?なんだよそれ…ッ!お前、俺たちを馬鹿にしてんのか!?」

 

「落ち着けモグ。まだ交換条件を聞いていないモグ。」

 

「そういうことです。その見返りは、私の領土に進入し、その各種施設を無償で利用できる権利をあなた方に付与すること。…私はここを研究所兼拠点兼避難所兼工場兼……とりあえず超大型の複合施設に作り替えたいのです。あなたたちは私の下でパーク建設の手伝いをしてもらいますが、その代わり完成したら自由に施設を利用してもらって結構です。」

 

「……」

 

「…ワシらが利用できる予定の施設にはどんなものがあるモグ?」

 

「そうですねぇ…」

 

俺は前々から考えていたこの計画の企画書を異空間から引っ張り出してきてペラペラめくった。洞窟の中には俺がページをめくる音と松明がパチパチと弾ける音しかしない。さきほどまでの騒音が嘘のようだ。

奥ではモグラたちがアスカンタの宝物を持ってきてサーベルトに渡している。なんか面白そうなものばかりだけど…まあ後でいいや。

 

「…ええとですね、あなたたちが興味を引きそうなもので言うとまずコンサートホール。」

 

ドン・モグーラの身体がピクッと動いた。音楽と聞くと反応せずにはいられない彼だ。コンサートホールには必ず興味を引かれると確信していた。

 

「そして大衆食堂。仮眠室休憩室娯楽室、マッサージルーム。」

 

子分たちの身体もピクッと動いた。そうだろうそうだろう。働くことが生活そのものとなっているワーカーホリックのモグラたちとはいえ、娯楽に興味がないわけがない。

 

「後これはきちんと代金を支払ってもらわねばなりませんが、服飾雑貨や武器防具、道具屋銀行宿屋に酒場、古今東西何でもござれです。無い店はぱふぱふ屋くらいですかね。…ああ、それとこれは餞別です。何なりとお使いください。」

 

相手に反論の暇を与えず俺は懐から特製のハープを取り出し、ドン・モグーラに手渡した。

 

「おお!これは!!」

 

「月影のハープは返していただきますが、あなたの趣味を奪ったお詫びです。ぜひこの場で一曲聞かせていただけますか?」

 

その言葉に子分の顔から血の気が引いていく。サーベルトなんかはもう耳栓をして兜をかぶり、うずくまって椅子の下に避難している。準備良すぎだろ。

 

「そうか?そんなに聴きたいモグか??仕方ないモグ!それでは一曲…」

 

行けるか…?俺は内心冷や汗をかきながら腕を組み行く末を見守る。ドン・モグーラが口を開いた瞬間絶望的な音が…

 

と思ったが、…うるさい。いや確かにうるさいことはうるさいのだが、実際はそこまで耳障りな音ではなかった。よし、うまく行っているようだな。

 

「あ、あれ…そこまで…酷くない?」

 

「…声は相変わらずバカでかいが、先ほどまでのような頭をつんざく痛みはないな。耳は痛いが。ドリィ、どういうことだ?」

 

「音痴と歌上手は紙一重、というやつですね。あれは私が細工をし、受けた音波に対してそれに対応する和音が強制的に発生する呪いをかけたハープです。ハープ自体はアスカンタで購入しました。どんなに破壊的な歌下手でもあのハープを持っていればハープの音色が(ある程度は)オブラートに包んでくれます。」

 

「おおっ!よく分からんが…これなら辛うじて聴ける!これでボスの歌に怯えなくて済むぞ!!」

 

「「うおおー!!」」

 

ワッ!とモグラたちが沸く。気が付くとモグラたち、というかモグラのアジトの魔物たちが続々と集まってきていた。いつの間に…。戦意はないようなので別にいいが。モグラの子分たちなどは涙を流して喜んでいる。あの様子じゃ、アスカンタからハープを盗む以前から定期的にジャイ〇ンリサイタルは開かれていたと見える。心中お察しします。

 

そんな言葉は聞こえていないドン・モグーラは、単純にギャラリーが増えたと喜んでいた。とりあえず一曲…一曲終わったよな?魔物の歌の区切りはよく分からん。…が終わったところで俺はすかさず話を進めた。

 

「さて……さて!ドン・モグーラ、この取引、受けていただけるでしょうか。」

 

「おお…ふむ、お前を疑うわけではないが、再度確認しておくモグ。ワシらがのむ条件は、ひとつ、アジトのほぼ全域をお前に譲渡すること。ふたつ、ワシらを労働力としてお前の拠点建設に貢ぐこと。で、お前がのむ条件は、ひとつ、拠点建設後、ワシらに拠点内施設を自由に利用できる権利を付与すること。ふたつ、このスーパーでスペシャルなハープをワシに完全譲渡すること、で間違いないモグ?」

 

…やはり切れ者だ、ドン・モグーラ。彼はアホだがバカではない。それは人語を解し、使いこなすほどの頭脳もそうだが、組織のトップとしての自覚・風格・実力は持っているし、加えてこの威圧感。やはりボスモンスターは伊達じゃない。というか、別にハープは条件の一つじゃなくておまけみたいなもんなんだけどな…まあいっか。

 

「…はい、基本的な条件はそれだけです。副次的な『ルール』はありますが、『条件』に優先されるようなものはありません。拠点建設開始後、別途指示します。…ではその条件で契約をしましょう。この契約書にサインを。」

 

「…それだけ分かればワシから言うことは無いモグ。…よし!ではその条件でワシ、ドン・モグーラはドルマゲスと契約を結ぶモグ!」

 

部下に確認とか取らなくていいのか…?そう思ったがモグラたちは特に抗議するような動きを見せない。信頼の表れだろうか?あるいは強烈なトップダウン?…ともかく、俺が紙とペンを渡すとドン・モグーラは意外と器用に署名した。へー、人語の文字なんていつ覚えたんだか。

 

取引成立(ディール)!ありがとうございました。」

 

「ようし、せっかくいいハープを貰ったからには頑張って働くモグ!お前たちもしっかり汗を流すモグよ~!」

 

「「おお~~~!!!」」

 

俺は一旦アスカンタへと帰ろうかと思っていたのだが、せっかくテンションが上がっている彼らを放置して熱を冷めさせるのももったいない。俺は『悪魔の見る夢(アストラル)』で二人に分裂し、片方は現場監督としてアジトに残り早速指揮を執ることにした。

 

「さあ、宝物も取り返したことですし、パヴァン王に報告しに行きましょう!」「ああ!」

 

俺は『リレミト』『ルーラ』を使いサーベルト共々アスカンタへと舞い戻った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─アスカンタ城─

 

キラは事の顛末を王から聞き、居ても立ってもいられず王の間のあっちをうろうろ、こっちをうろうろ…ずっとうろうろしていた。その様子が特段目に付いたというわけではなかったが、見かねたシセル王妃がキラを咎めた。

 

「キラ…そんなに心配しなくてもドルマゲスは大丈夫よ。」

 

「じ、女王様…しかし、北の魔物たちは強力なものたちばかりなのでしょう…?我がアスカンタの軍も北側の魔物には手を焼いていると耳にします…。もしドルマゲス様たちに何かあれば…と思うと気が気ではなくて…」

 

目線を下げ、両掌をあわせてキラは不安そうにその小柄な身体をモジモジさせる。パヴァン王はそんなキラを見て思案に耽っていた。

 

「大丈夫よ。逆に考えてみて、キラ。私の身体が地に打ち付けられる直前に助けてくれたドルマゲス。あなたがお休みをもらって里帰りする際に、襲ってきた魔物を颯爽と撃退したドルマゲス。そしてさっき自信満々といった風に魔物のアジトへ踏み込んでいったドルマゲス。ドルマゲスが負けるところなんて想像できる?」

 

「…!……いいえ、できません。申し訳ありませんでした女王様。…私たちが今できることはドルマゲス様の無事を信じて待つことのみですよね。」

 

「うふふ、分かればいいのよ。」

 

シセルは満足そうに微笑んでキラの頭を上げさせた。代わりにこれまで静観していたパヴァンが口を開く───と同時に大臣が王の間へ駆け込んできた。

 

「王!ドルマゲス達が帰還いたしましたぞ!!」

 

「なに!それは本当か!シセル、行こう!」「ええ、行きましょう!」

 

「ドルマゲス様がお帰りに…!わ、私も…!」

 

 

「せめて靴の泥くらいは落としてくれ」と門番の衛兵に叱られた後、俺たちがアスカンタ城に入って王の間へ向かっていると、二階でアスカンタ両陛下と丁度鉢合わせた。王と王妃自らお出迎えとはまるで国賓扱いだ。少々面食らっているとパヴァンは俺の手を引いて王の間へと連行した。この人俺のこと幼馴染とか、そんな風に思ってる??

 

「二人とも、本当によくやってくれた。そんなにボロボロになってまで…」

 

いいえ、これはただの泥です。と言いたいが、せっかくなら労ってもらいたいので黙っておこう。

 

「いえ、これはただの泥です。」

 

が、サーベルトは黙らない…まあサーベルトはその素直で純朴なところがいいよね本当に。モテるんだろうなぁ。パヴァンは目を丸くした後、笑い始めた。どうやらサーベルトの正直な物言いがお気に召したようだ。

 

「あっはっは!そうか泥か!つまり苦戦せずに任務をやり遂げたということだね?流石はドルマゲスの護衛。侮っていたわけではないが…見事な腕前だね。」

 

「…身に余る光栄でございます。」

 

騎士として完全になりきっているサーベルト。今度礼儀作法とかちゃんと教えてもらおうかな。パヴァンは優しいからちぐはぐな礼儀作法でも許してくれるが、高慢ちきで短気なチャゴスとかなら少しでも無礼な態度を取れば処刑だなんだと騒ぎだすだろう。サザンビーク王であるクラビウスがしっかりしている人物なので処刑はされないだろうが、絡まれるだけで面倒なんだああいう手合いは。

 

「して、宝物は…」

 

「すべてこちらに。」

 

俺とサーベルトは、ハダカでは悪いだろうと宝箱(からばこ)に入れておいた国宝の数々を取り出して献上した。原作では明らかにハープしか取り返してなかった(しかもそのまま勝手にイシュマウリに渡していた)が、宝物庫を見る限り国宝は複数あったとみて間違いはないはずなので、とりあえずモグラが持っていたものは全部持ってきた。

 

「ふむ。うんうん。なるほど。…うん。全部戻ってきたようだな。」

 

「本当にありがとうございます。謹んでお礼申し上げますわ。」

 

「いえいえ、こちらこそアスカンタの宝物が無事でなによりです。」

 

俺が両陛下に恭しくお辞儀をすると、王妃の後ろからひょっこりと姿を現したキラちゃんがおずおずと近づいてきた。

 

「おや、キラさん。さっきぶりですね?」

 

「ど、ドルマゲス様…!お怪我はありませんか?どこか痛いところは…」

 

「全くありません。このようにほら、五体満足、元気一杯です!」

 

俺はその場で小粋なタップダンスを踊ってみせた。……断じて「ふしぎなおどり」ではない。断じて!

 

「よかった…。やはり、ドルマゲス様はお強いのですね…」

 

「あはは、それはこのアインスがいたからに決まっています。私はそこまで強くありません。」

 

「そっそうでございましたか!申し訳ありませんでした…」

 

「いや、ドルマゲス…俺は…

 

あれ…なんか変な雰囲気になっちゃったな…どうしよう。キラちゃんはなんかモジモジしてるし、サーベルトは目を伏せて俯いている。妙な空気を察したか、パヴァンが助け船を出してくれた。

 

「…本題に入ろうかドルマゲス。先程宝物を取り返しに行く前に君が言っていた取引の件だが…君の要求は何かな。」

 

今度は王との取引だ。一日に二回も大きな取引をするとは、今日は運がいいのかついてないのか…。まあどっちもこちらから取り付けた取引なんだけどね。…さあここが正念場だ。これがダメならちょっと面倒なことになるからな。

 

「…私の要求は一つ。王国が領有する、アスカンタ城以北の土地の領主に私を任命してほしいのです。」

 

「そんなことなら容易い。今すぐにでも土地の権利書を発行させよう。」

 

大丈夫。理由や根拠、なんなら言い訳まで既に考えてある。加えてこちらには3つのカードが…

 

…って。

 

「ええっ!?良いのですか!?」

 

「良いのですかって、君が望んだんじゃないのか?」

 

いや、そうだが。…そうなのだが!自国民でもない人間から「土地ください」と言われて二つ返事で了承する王なんて存在するのか?存在していていいのか!?…ハッ!これはまさか試されているのでは…ここで素直に喜んだら「適性なし」って言われたり?

 

「もともと北部は我が国の領地ではあるが誰のものでもなかったんだ。向こうの魔物は城周辺の魔物よりも数段強いので、貴族たちの中にも治めたがる者がいなくてね。それに君はアスカンタの人間ではないが国の英雄だ。これくらいなら貴族たちも受け入れてくれるだろう。僕はてっきり次期アスカンタ王の座に据えろとでも言い出すのかと…」

 

言うかそんなこと!…まあ試されているようではないらしい。流石に甘すぎじゃないかと思うが、パヴァンが身内に甘い王で助かった。ともかくこれで俺がドリィアウトレットパーク(仮称)を堂々と建てても文句は言われないわけだ。よしよし。これでオールオッケー。俺は深く頭を下げてパヴァンからは見えないように口角を吊り上げた。完全に秘密裏に計画を進めている悪役の顔である。

 

「そういうことならば、改めてお願いします。」

 

「あら?あなた、もともとドルマゲスにはあの地を割譲するつもりじゃなかったかしら?」

 

「うーん、そうなんだ…実を言うと僕も二年前からドルマゲスに北の土地を治めてもらおうかと考えていた。なので少し見返りとしては弱いか…よし、少し色も付けてあげよう。そうだね、国宝をいくつかあげようか。」

 

「はい?」

 

えっ。えっ二年前。えっ。国宝。しかも複数。えっ。

ほんとになんなんだこの国…俺がおかしいのか?いや、王の隣にいる大臣も困惑してる!よかった、俺がおかしいんじゃなかったんだ!

 

「お、王よ。流石にそれは…」

 

「ドルマゲスにはまだシセルを助けてもらった恩を返しきれていないだろう!それに奪われた国宝をも取り返してもらい、譲渡するのは魔物蔓延る荒れた土地のみ。国の恩人にこんな仕打ちをしては王の名折れ、ひいては先王たちに申し訳が立たないとは思わないか?」

 

「…一理ありますな。」

 

大臣も納得しちゃったよ!

…まあいいや。こうなったら貰えるものは貰ってしまおう。パヴァンは本当にシセルが絡むと盲目になるな…

 

「では…これと…おや、これは何でしょうか…?」

 

俺は並べられた12の国宝の中から古くて分厚い本と、「てつかぶと」ほどの大きさの真っ白な立方体を手に取った。パヴァンが説明しようとすると食い気味でキラちゃんが割り込んできた。…この子も大概だよな。仕えている王がパヴァンでなくチャなんとか王子なら、こんな蔑ろにされたら激昂してると思うんだけど。

 

「か、代わってこのキラがお答えいたします!ドルマゲス様が左手にお持ちなのは、別の世界の出来事を記したとされる神話、もしくは古文書です。アスカンタという国が興る以前から存在していた数百年物の書物と言われており、文化的価値が高く国宝に指定されていました。それとそちらの立方体は…」

 

キラちゃんとパヴァンの声が重なった。

 

「「錬金釜」」

 

「!!!」

 

「キラ、今は僕が話しているから…」

 

「も、申し訳ございません!!!王様、とんだご無礼をっ!」

 

キラちゃんも結構年相応におてんばなところがあるんだな。原作ではどこか大人びた雰囲気があったが、それは国全体が2年間の喪中で国民がすっかり明るさを失ってしまっていたからかもしれない。でも好きなものを語る時に早口になってしまうのはよく分かるよ。まあ、それよりも重要なのは…

 

「錬金釜…というとあの?」

 

「ほう、知っていたのか。ドルマゲスは博識だな。そう、これは錬金釜。到底釜の形には見えないが、内側には古代文字が刻印されていて、適切な素材を入れると合成して新たなアイテムを生み出してくれる魔道具だ。」

 

俺は王から再度手渡されたそれをしげしげと眺めた。ふむ、錬金釜、この国にもあったのか。トロデーンの錬金釜との違いは形以外よく分からないが、文字が刻印…ということはこの箱そのものが立体魔法陣、もしくは魔術的な『場』の役割を果たすということか。しかもパヴァンが言うにはおそらく外付けの魔力供給も必要がない。完全にこの箱の中で魔術的儀式が完結しているのだ。魔力的第二種永久機関か、それに準ずるものが内蔵されている。もしくは別次元に魔力源があるか、あるいは素材から取り出した微細な魔力を増幅する機構…考えられることはたくさんある。しかしそんなことは今はどうでもいい。

 

「なんと…本物をこの目で見られようとは…」

 

「あいにく、この国には錬金術に精通する人間が少なくてね。仕方なく地下に保管していたんだ。文字通り宝の持ち腐れだったわけさ。…ではその二つをあげよう。大切に使うこと。これからの未来のために役立てることが条件だ。」

 

これ以上「本当にいいのですか?」などいうと流石にくどいしパヴァンも気が変わってしまうかもしれない。ここは潔く、ありがたく貰っておこう。

 

「必ずこの国のために役立ててみせましょう。国宝を私に預けていただけること、この上ない喜びでございます。」

 

じゃあそろそろ失礼します、と言おうとするとシセルが口を開いた。

 

「ドルマゲス。あなた、これから旅に出るのでしょう。領土を欲したあなたですが、私にはなんとなく分かります。あなたたちは何か大いなる目的があって、旅をしているのではないですか?」

 

…聡いな。普通は領土を貰ったらそこに住み着くと思うだろうに。そう、あれは単なる拠点にすぎないのでこれからも旅は続ける。次の賢者の所にも行かないといけないからな。

 

「…シセル王妃にはまるで敵いません。その通り、我々はこれからも旅を続ける所存です。もちろん、頂いた土地は直ちに平定しこの国のために役立てることを誓います。誤解させるような真似をしてしまい誠に…」

 

「いいのよ、ドルマゲス。それならあなたにもう一つお願いがあるの。ね、あなた?」

 

「ああ。…ドルマゲス、君の旅にこのキラを連れて行ってはくれないか?」

 

……はて、このやんごとなき方々は一体何を???

キラちゃん本人も目が点になってるじゃん。

 

「ふぇっ!?なななっ、王様、それは一体どういう…!?」

 

「君がドルマゲスと出会った二年前、君はドルマゲスから楽しいお話を聞かせてもらったと嬉しそうに話していたね。ドルマゲスが去った際はそれからしばらく本当に残念そうにしていた。そしてドルマゲスが魔物退治に向かったさっきはまるで落ち着きがなかった。不安だった、というのももちろんあるだろうが、あれは…。キラ、君は…ドルマゲスに、そして冒険に憧れている。違うかい?」

 

「!!!」

 

「…」

 

うーむ。パヴァンはシセル以外の人間に対しても見るところは見ているんだな。なるほど、それならやたらキラちゃんが冒険譚を聞きたがるのも、俺がアスカンタを去る時に寂しがったのも納得できる。彼女もまだ広い世界に憧れるお年頃。おそらく色々な話を聞く内に冒険の旅に出てみたくなったのだろう。しかし小間使いとしての彼女の立場がそれを許さなかったわけだ。

 

「おっ、王様…!!ドルマゲス様の御前でそんなこと…言わないでくださいよぅ…」

 

キラちゃんは顔を真っ赤にして消え入りそうな声を絞り出した。何を言う?冒険に憧れる、冒険者に憧れる、冒険に出たい、という気持ちは特段恥ずかしいことではない。むしろ健全な少年少女ならそういった夢を見て当然だ。転生直後の俺も冒険に出たくてしょうがなかった。調子に乗ってドランゴに半殺しにされたのだって今では美しい思い出だ。…いや、流石に死にかけたのは美化できないが。

 

「アインス?あなたはどうですか?」

 

「俺は…ドルマゲスとの旅も気に入っていたが、新しい仲間ができるというのなら喜んで歓迎しよう。」

 

「私も異論はありません。…しかし冒険は危険を伴います。我々は全力であなたをお守りしますが…絶対安全とは言い切れません。キラさん、あなたには冒険の旅に命を賭す覚悟がありますか?」

 

ここから俺たちはラプソーンの野望を阻止すべくどんどん先へ進んでいくつもりので、終盤のダンジョンなどで彼女を守り切れるかどうかについて自信を持って発言することができない。キラちゃんは思いやりのある良い子なので本当はアスカンタに残って長生きしてほしいが…もしもラプソーンが復活したらここら一帯にも「アークデーモン」や「ボストロール」が現れるようになるので、どこも危険といえば危険に違いはない。なら全ての決定権をキラちゃんに委ねよう。自分の運命を決めるのはいつだって自分であるべきなのだ。ストーリーに縛られる俺のようにはなってほしくない。

 

「…わ、私には、小間使いのお仕事が…」

 

「キラ、いいのよ。あなたは今まで十分私たちのために尽くしてくれたじゃない。次は私たちにあなたを応援させて頂戴。」

 

「王妃様…」

 

「さあ行きなさいキラ。あなたの望みのままに。」

 

「…ありがとうございます。パヴァン様、シセル様。私キラはしばらくお暇を頂きます。いつか世界を回って知見を身に付けて戻った際にはこの国のために一生懸命尽くしますので、私の勝手をどうかお許しください。」

 

「…あまり無茶を言ってドルマゲスを困らせないように。僕からはそれだけだ、気を付けて行くんだよ。…ドルマゲス。行きずりになる形で本当に済まないが、どうかこの子を連れて行ってやってくれ。王室の小間使いを完璧にやり切った彼女なら、きっと冒険にも役立つはずだ。」

 

「…王様のご用命とあらば。このドルマゲス、命の限り彼女を守ってみせましょう。」

 

「よし!それでは旅の無事を祈る!」

 

「また遊びにいらしてくださいね。」

 

パヴァンとシセルに見送られ、俺たちは王の間を後にした。ちなみに国宝はまた地下にしまうというので、キラちゃんが旅の準備をしに行っている間に「月影のハープ」だけはアイテムの効果がー、とか風水的にー、とかなんとかゴリ押して城内においてもらうことになった。心配はないだろうが、もしもまたモグラがいらんことをして勇者たちがアジトまでやってきたら面倒なことになるからな。

 

うーん。しかし本当にキラちゃんを連れていくことになるとは。第三者の目から見ると、結構強引に追い出されたようにも見えたのだが、大丈夫なのだろうか?そう思い、俺が後ろを振り向くと、キラちゃんはその薄桃色のウェイトレスドレスと同じ色に頬を染めて呆けていた。

 

「私が…冒険の旅に…えへへ」

 

この様子じゃ問題はなさそうだな。俺はサーベルトと目を合わせて肩を竦め、アスカンタの門を目指した。

 

門に着いたところで、王城の方角から立派な馬車が登場した。なんでも、パヴァンが王国の中でもエリートの馬を俺たちに無期限で貸し付けてくれるらしい。…嬉しいし助かるが、ちょっと怖い。あとで土地やら国宝やら馬車やらの件でめちゃくちゃゴールド請求とかされたらどうしよう…。

 

俺たちがありがたく馬車を借り受け、乗り込んだところでキラちゃんがようやく我に返り、ほんわか頭から現実世界に戻ってきた。

 

「あ、改めましてドルマゲス様!そしてアインス様!私の名前はキラです。え、えと、王様たちに流されて同行することになってしまったことは否めないですが、精一杯奉仕させていただきます!私、昔から冒険に憧れていて…今、とても幸せです!足を引っ張ってしまうかもしれませんが、命だって懸ける覚悟があります!な、なので…不束者ですが私をパーティーに置いてくださいませんかっ」

 

キラちゃんは馬車の中で美しい土下座をした。てか、流された感じは本人もあったのね。昔から冒険に憧れていた、というのはおそらくキラに色々な昔話を語って聞かせていた彼女のおばあちゃんの影響だろう。今度話を聞きに行ってみるか。面白い話が聞けるかもしれない。

 

「顔を上げてください。私たちはもう仲間です、そんなに気負う必要はないですよ。これから時に楽しく、時に険しい旅路を一緒に分かち合っていきましょう!」

 

「は、ひゃい!!」

 

「いいじゃないか、気楽にいこう!…改めて、俺の本当の名はサーベルト。アルバート・サーベルトだ。わけあって名は隠してきたが…仲間になった今は無礼講だ。キラ、これからよろしく頼む。」

 

「よし!それでは二人とも、馬車のことですが…」

 

「サーベルト様、でよろしいのですか?これからよろしくお願いします!…しかしいったい何故名を隠してドルマゲス様と旅を…?」

 

「あの…馬車…」

 

「よくぞ聞いてくれた!では俺たちの旅の理由を話して聞かせよう!長くなるぞ!まずは俺の親友、ドルマゲスがいかにすごい奴かを…」

 

「…」

 

サーベルトの話をキラちゃんも興味津々で聞いており、誰も俺の話を聞いてくれない。いくら馬車と言ったって、御者がいなくちゃ動きはしない。…ふーんだ。じゃあ俺が御者やるもんねー。

 

分かっていたことだが、三人パーティーで旅をすると、絶対誰かがハブられるのが世の常だ。そして俺はいつもこんな役だ。現在も生前も変わらない。……だからって、いきなり二人だけで仲良く話を始めて、挙句完全に無視されるとは…悲しいなぁ…。

 

俺は泣きそうになるのを堪えながら御者台に座り手綱を取った。太陽は真上にあるが、何だか俺には夕焼けのように感じた。

 

 

 

 

 

 




ユリマ「…なんかイライラするなあ。なんでだろう?」


ドルマゲス
レベル:40
職業:大魔法使い・道化師・ロボットエンジニア
備考:アスカンタ国宝の古文書と錬金釜、あと土地も貰えて嬉しい

サーベルト
レベル:39
職業:戦士
備考:妹ぐらいの年頃の同志(ドルマゲスファン)が仲間になって嬉しい

キラ←New!
レベル:4
職業:メイド(仕える主君から離れたので小間使いではなくなった)
備考:ドルマゲス(とサーベルト)の冒険に参加できて幸せ




もちろんアスカンタ王国にも錬金釜があるなどの情報はありません。捏造でございます。トロデーンにあるんだからアスカンタにあってもおかしくないよな…と思って登場させてみました。




キラからみたドルマゲスとは、まさに彼の話す冒険譚の主人公、言わば神話の登場人物、スーパースターです。そんなスーパースターからパーティーに歓迎されて自分も神話の一部分になれるとあっては嬉しくなるのも無理はないですね。
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