ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
今の私はスーパーハイテンションなので。
ハロー、すっぴんで服装も地味な道化師ドルマゲスです。
こっちの世界にもだんだん順応してきました。この前お使いついでに道具屋で薬草を買ってかじってみたんですけどクソ不味いですね、アレ。主人公一行はあんなものをモグモグ食べて旅してるのか…
…あ、もしかして塗り薬だったりする?
…
俺がドラクエⅧの世界に転生してから1年が経った。トラペッタにも知り合いは出来たし、生活には不自由していない。しかし────。
「師匠!今日こそ魔法を…」
「お前に魔法なんぞまだ早いわ!ドルマゲス、玄関の掃除は終わったのか?」
「い、いえまだ…です…すぐに…」
この
流石に「メラゾーマ」だとか「ベホマズン」とかを教えろなんて無茶は言わないよ?でも魔法を習いたくて弟子入りしたのに、半年経っても同じ雑用をやらされるのは正直不安になる。…実際、板前なんかじゃ「弟子入り後十年は見稽古」なんて風習もあるみたいだし、「まずは掃除」みたいなのも頑固で古風なライラスさんらしいっちゃらしいが…見稽古もくそも、魔法を見せてもらったことすらただの一度もない。仕事場に入ると怒られるし。原作ドルマゲスはこんな雑用に何年も耐えてたんだよな…それなら確かに大きな魔力を内に秘めた「神鳥の杖」に強く惹かれるのも頷けるかもしれない。手軽に得られる大きな力というものはどんな時代でもどんな世界でも魅力的に映るものだ。
しかし俺は知識として知っている。大魔法使いマスター・ライラスが完成させようと苦心している魔法薬は実はドルマゲスの奥底に眠る魔法の才能を引き出すためのものだと。それを早く作るために俺に炊事洗濯を押しつけているのだと(それは正直どうかと思うが)。全く不器用な人だよな!
俺は軒先の砂を箒で掃きながらそんなことを考えながらニヤニヤと笑っていた。その様子がまあまあ気味悪かったようで、その後近隣では『マスター・ライラスのとこの一番弟子がついに狂った』などと噂されていたらしい。しかし俺が奴隷のようにこき使われていることはトラペッタの町人なら大体知っているので、怒られるのはいつもライラスさんだ。その時は少しだけざまーみろと思ってしまう。
とはいえ、町の人に叱られたからといってライラスさんが俺に魔法を教えてくれるようなことはない。本当に頑固である。
分かってはいる。実際ドルマゲスには魔法の才が無かったようだし、同じ肉体を持つ俺も当然才は無い。仮に魔力が精神によって左右されるものであったとしても…どちらにせよ魔法は使えまい。俺は魔法のない
要するに、ゲーム的に言えば
しかし、いくらこの世界で平和に生きると決めたとはいえ、護身の術の一つも持たないのは心許ない。この地方は比較的脆弱で臆病なモンスターしか現れないが、他の地方や大陸では並の人間など一撃で消し炭にしてしまう魔物がうようよしているのだ。しかし呪文は使えない…うーん…
「…。」
いや物理攻撃すればいいか!
それはそうだ。毎日魔法使いの家で魔法の本ばかり読んでいるせいで魔法の事しか考えられなくなっていたが、剣や斧や弓やムチ、なんだったら素手でも鍛えさえすればこの世界でも十分通用するじゃんか。
そうと決まれば早速鍛錬がしたくなってきた。早急に掃除を終わらせることとしよう。
箒を玄関に片付けるとドアを半開きにしてコッソリ家の中を覗いた。ライラスさんは今昼寝の時間だ。俺は自分の財布を持って家を後にした。
…
鍛錬と言っても、そのため準備を怠るのは厳禁。ここはゲームの世界だが、同時に今の俺にとっては現実世界だ。俺がもし死んだらその時点で何もかもおしまい…かもしれない。流石に町中の壺を割って回ったりするのはモラルがやばいので今まで少しずつ貯めてきたお駄賃をここで使うことにする。400Gも無いが、物価の安いこの町では問題ない。
「ハロー!防具屋のお兄さん」
「おお!あー、ドルマゲス…だったか?お前がこの店に来るのは初めてだな、どうした?」
町の防具屋に入るとドラクエプレイヤーならすっかり見慣れた、筋骨隆々、角のついたフェイスマスクを被った上裸の荒くれ男が出迎えてくれた。酒場で何度か話した程度の間柄だが、気のいい男だ。
「少し遠くにお使いに行くことになりましてね。皮の鎧と皮の帽子を売ってくれませんかね?」
「そうかい。よし来た、二つ合わせて230Gにしてやるよ!」
「うーんもうひと声!」
「なら215Gだ!」 「190G!ほら、近所のよしみじゃないですか!」 「200G!これ以上は下げられねぇな!」 「よし買った!」
値切ったはいいがこれはどうなのだろうか。武器防具の相場も調べておけばよかったな。
後は盾だ。これはわざわざ買う必要はない。俺は宿屋の裏手へとまわり、周囲に誰もいないことを確認して井戸に飛び込んだ。俺は知っている、井戸の中にある宝箱には「皮の盾」が入っていることを。その内この町へやってくるであろう勇者には悪いが、早い者勝ちだ。
…
装備を整えて町の外へ出た。何気にトラペッタから出るのは初めてだ。ドルマゲスはどこか違うところからここへ弟子入りしに来たはずなので外の景色は見ているだろうが、俺はこちらに来て初めて目覚めたのがライラスさんの家だったので、この広大な自然とどこまでも青く澄み渡った空を目にするのは初めてなのだ。こんな景色は前世でもお目にかかれないだろう。
空と海と大地と呪われし姫君(いない)に見とれるのもほどほどに、俺は草原を進んだ。
歩いていると、突然草むらから「スライム」が現れた。何百、何千回と見たあのフォルム、あの顔だ。俺はまた感動してしまった。スライムはそんな俺を見て無い首を傾げると、来ないならこちらから行くぞと言わんばかりに体当たりをかましてきた。
「
割と痛い。水風船が身体に直撃して破裂しなかったときの衝撃に似ている。これがリアルな戦闘…!俺は浮かれていた頭を冷やしてスライムに対峙した。スライムはもう一度体当たりをかましてきたので、俺はタイミングよく盾で弾いて「ひのきの棒」で殴りつけた。スライムは目を回して倒れ、融けて消えてしまった。
「ふう…」
まだ心臓はドキドキしている。こんなものはお遊びの延長線でしかないが、今まさに命と命のやり取りを終えたのだ。恐怖と高揚で動悸はしばらく収まらなかった。
結局その日はスライムを一匹ずつ、7匹ほど狩って帰ってきた。特にアイテムドロップなどは無かったが、まあまあ満足はしたので良しとする。帰ってきてもライラスさんはまだ寝ていた。まあ時間にして1時間も出ていないので怪しまれることはないだろう。ライラスさんが起きた時に怪しまれないよう、俺はまた掃除を再開した。
「明日は海の方にでも行ってみますかね…」
その時の俺はすっかり失念していた。トラペッタ周辺には一匹、とんでもなく場違いな怪物がいることを…
ちなみにプロットなどないので今後の展開などマジで決まってません。自由に、自由に。