ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
本編とはほぼ関係ないので、お急ぎの方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。
「ふうっ……」
俺は地面に腰を下ろし、「岩塩」と「ジョロの実」の果汁から作った簡単な栄養剤を一気に呷った。口元から零れた液体が服のシミになるが、そんなものは気にしない。今の俺は地味な作業着姿なのだから。
ふぁあ…まずいな。まだ働き始めてから4時間しか経っていないのにもう眠くなってきた。昨日夜更かししすぎたかな。…よし、今日はもう休もう!効率大事!
俺がそう思って立ち上がったところ、遠くから一匹のモグラが走って来るのが見える。…まさか、もう終わったのか。
「総監督ー!ドルマゲス総監督ー!指示されていた領域の掘削、及びアジト内のガレキと岩石の撤去、それからアジト内の地ならしが期日より4日前倒しで完了したっす!次の指示をくださいっす!」
「ず、随分と早いですね…早めに終わったのなら今日はもう上がってもらっても大丈夫ですよ。」
早すぎる。この『モグラのアジト』の面積は小さく見積もってもアスカンタ王国と同じか、それ以上に大きいはずだ。それに掘削、運搬、地ならし。全てハードな肉体労働である。ちょっと厳しいかなー、とか思いながら期間を一週間に設定したのに、2日と半日で終わらせてしまうとは…。
「いやいや!俺たちまだまだ働けますよ!あいつらも久々の大仕事だー!ってすっかり張り切って毎日働いてます!」
「マジですか…」
俺もまだまだ魔物という存在の底力を侮っていたようだ。
俺…いや、正確には分身である俺は厄介な仕事を押し付けた俺本体を恨めしく思いながら、一週間かけて練ろうと思っていたプランを急造すべくモグラ現場監督に昼休憩を言い渡すのだった。
「休憩入りますっす!!!」
…
"ユナイテッド・サービシーズ・オブ・アスカンタ"、略して"U.S.A."。これが俺が建設しようとしている複合施設の名称である。元は研究所と工場を建てたらあとは適当に地下ショッピングモールでも作っときゃ見栄えがいいかなどと考えていたのだが、検地して計算したところ、完成しても微妙に土地が余ってしまうことが分かった。
ので、いっそ地下を拡張して巨大な工場と研究所を建て、地上にショッピングモールとその他娯楽施設、ついでに遊園地なども作ることにした。アスカンタ王国も資金援助をしてくれることにはなったし、魔物たちは殆ど無償で働いてくれる(モグラ曰く作業している方が楽しいらしい)のだが、それでも全然足りないのでこの地に住まう「おどる宝石」たちの中身は漏れなく譲っていただけることになった。
どんな酷い手を使ったのかって?なに、
一時間後には計画も粗方練り直した俺は、モグラ現場監督を呼び出した。
「これからあなたたちには地下の地縄張りと地上の地ならしを並行してやってもらいます。私はその他の準備をしておきますので、地下のグループが遣り方まで終えたら設計担当グループをターミナル入口予定地に集めてもう一度私まで知らせてください。」
「了解っす!では!」
地縄張りと遣り方はどこの世界でも建築の基本の基本らしい。アスカンタの書物に同じようなことが書かれていたので間違いはないだろう。…正直地鎮の方はやってもやらなくてもいいと思うが、神様や精霊が実在するこの世界では万が一ということもあるので地鎮を行っておいて損はないはずだ。
「精が出とるモグな、ドルマゲス工場長?いや、ここでは総監督モグか。」
「おや、ドン・モグーラリーダー。調子はどうですか?」
「ワシの喉か?今日はなかなかいいコンディションをしておるモグ。なんならここで一曲…」
「いや喉じゃなくて!」
何回やるんだこのやり取り…。ドン・モグーラは隙を見つけるとすぐにリサイタルを開こうとするので困る。俺が渡した新しいハープのおかげで聴けるレベルにまではなったが、進んで聴きたいかと言われると素直には頷けない。彼の歌唱力はそんなレベルである。
「悪い悪いモグ。冗談はさておき、お前が言っていた“三種の神器”とやらの内、『ヒンヤーリ』と『グルピカ』はなんとかなりそうモグ。逆に『シロクロ』の開発には行き詰まっているようモグな。ワシも設計図は覚えたが、ありゃ随分と厄介な回路をしているモグ。」
「そうですか。では『シロクロ』の開発はそのまま続行でお願いします。『グルピカ』は完成したら一旦置いておいて、『ヒンヤーリ』の低廉化に人員を回しておいてください。」
「分かったモグ。」
「あ、そうそうコンサートホール建設ですが、何人かのモグラが建設反対のストライキを起こしているみたいです。あとでぜひ声をかけてやってください。」
「なぬ!ワシの歌を聞きたがっている子分たちがたくさんいるというのになんと酷いことを…工場長、感謝するモグ。今から喝を入れてくるモグ!!」
ドン・モグーラは地響きのような足音を起こしながら地上へと向かった。ドン・モグーラはああ見えてハープを操るほど手先が器用なので、現在は臨時工場の開発部門のリーダーをやらせている。成果は上々のようだ。カリスマの有るドン・モグーラはもちろん、かしこさの高い「ホークマン」は開発や研究においてはとても優秀な人材だということも分かった。
そんなことを言っている間に当のホークマンも俺に指示を仰ぐべくやってきた。
…俺はいつになったら休めるんだ?
「す、すみません、今お時間大丈夫ですか、ドルマゲス所長…?」
「はい…ええと、貴方は…ホークマンの…3、いや2番目…」
「グ、
「ああ、ごめんなさい。ではホーク1さん、報告をお願いします。」
魔物は全部顔も姿も同じなので判別がつかないんだよ。こんどドン・モグーラに言って何個か名札を作ってもらおう。
「ごほん、
「そうですね。貰っておきましょう。あとで私の仮設住宅に運んでおいてください。セキュリティサービスは慎重に運んでくださいね。タイプによっては落とすだけで壊れちゃうんですから。もし壊したら……私は間違って貴方をサンプルにしてしまうかもしれませんし。」
「ヒッ…え、えっと!グリーンチームからは以上です。そしてこれが
ただの冗談だったのに。すっかりホーク1は委縮してしまっている。俺は報告書に目を通した。…うん、俺が今すぐ行かなければならないような用事はなさそうだ。
「ご苦労様でした。もうじき定時なのである程度で切り上げて貰って構いませんよ。…ところでホーク2さんとホーク3さんとホーク4さんはどうしたんです?」
「えっ、いや…なんか腹痛だとか知恵熱が出たとかで…(クソ、あいつら…今日はドルマゲスが2徹目で機嫌が悪いから報告したくないとかでオレに押し付けやがって…オレだってこえーよ…)」
「…そうですか。では御三方に伝えておいてください。『話があるので仮病が治ったら所長室まで来い』と。」
心から安堵した表情で帰っていくホーク1を見送って、やっと俺にも休みの時間がやってきた。眠い、眠すぎる。今ごろ俺の本体はキラちゃんの家でゆっくり過ごしていることだろう。ふん、羨ましくなんてないもん。俺も爆睡してやるもん。
俺は帰って着替えてシャワーを浴び、仮設住宅の自分のベッドにダイブした。このベッドはアスカンタで購入した最高級の逸品だ。間接照明を灯し、アロマも焚く。俺は快眠のための投資は惜しみなく行う派である。ああ、幸せ…
俺が眠りについてから一時間と数分。モグラ現場監督が勢いよくドアを開け、終わりましたっす!!!と大声で叫ぶまでは、確かに俺は天国にいた。
俺は無言ですっくと立ち上がると、現場監督をグーで殴りもう一回ベッドに潜った。
「い゛っ!?ひ、酷いっすよ~総監督~」
ごめんね、報告しろって言ったの俺だよね。でもね、普通あの規模の地縄張りって一日かかる作業なのよ。そんなに早く終わると思うわけないじゃん。ねえ、寝かせてよ…。
「…ごめん、もう無理…今日は終わり。…おやすみ。」
俺の声に殺意が込められているのを感じたのか、現場監督はすごすごと引き下がった。せっかく設計担当グループも集まってくれただろうに、本当に申し訳ない。やっぱり俺は人を動かす立場には向いていないな…
そんな自責の念もどこへやら、俺の意識はもう一度天国へ堕ちていった。
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断っておくが、俺はここで働く魔物たちに対して労働を強制しているわけではない。食事は配給制で振舞っているものの、別にお給金も出していないし。一日の内7時間働いてくれたら御の字である。24時間働いているモグラたちのようなワーカーホリックもいるにはいるが、その他の魔物たちはグループを組み、7時間ごとにシフトを交代する21時間体制を採っているようだ。…別に反抗する奴や働かない奴が出ても問題はない。嫌ならばどこへなりとも行けばいいし、働かないなら
…それで残りの三時間はどうしているのかというと、言語の勉強である。円滑なコミュニケーションを達成するため、人語を公用語にして魔物たちに人語を学習させているのだ。人語の講師はドン・モグーラと人語を解するエリートモグラたち、そして…
「おはよう!ドルマゲスくん!今日も頑張るね!」
「おはようドルマゲスくん。今日も頑張るよ。」
「おはようございます、先生、教授。今日もよろしくお願いしますね。」
自称賢い魔物にして俺の恩師でもあるスライムの先生と教授だ。少し前に思い立った俺が『ルーラ』で滝の洞窟に戻って感動の再会を果たした後、一緒に連れてきたのだ。感覚派の先生と理論派の教授二人の講義は分かりやすいと魔物たちの間でも評判である。その間に俺はゾンビ語と物質語の勉強をしている。
モグラのアジトやアスカンタ城地下に生息している「マドハンド」だが、これがなかなか有能で、一応は物質系モンスターに分類されるはずなのだが、自然系とゾンビ系の魔物でもあるらしい。
この前ダメ元で自然語で話しかけてみたところ何かしらの反応を示したので、木の棒を渡すと地面に文字を書き始めた。しかし何が書いてあるか分からないのでうんうん唸っていると、また次の指示を乞いに来ていたモグラ現場監督が自然語の文字だと教えてくれたのだ。
一度興味を持ったらズブズブはまるのが俺の性分である。近くでサボっていた「マッドドッグ」を捕まえて音声と文字を照合し、ノートにメモしてマドハンドとの筆談を試みた。筆談は成功し、以来俺はマドハンドからゾンビ語と物質語の通信教育を受けているというわけだ。分からないところがあればマドハンドは仲間を呼んで集団で講義してくれるほど熱心に教えてくれるので俺の語学力はメキメキ上達している。
…
「!…おっと」
こめかみに電流が走るような小さな衝撃。本体の俺が送ってきた記憶と経験のフィードバックだ。
どうやら俺本体が勇者と遭遇した様だ。まったく何やってんだか。しかし、もし勇者たちがアスカンタに立ち寄っていたらパヴァンが俺のことを色々話していたかもしれないな。おそらく勇者たちは「月影のハープ」を譲ってもらうためにこの国に寄るはずなので、パヴァンたちにネタバラシしないように言っておこう。それが終わったら、
はあ……俺はいつ休めるのかね~~。
良いベッドでゆっくり休むことだけを楽しみに、ドルマゲスの分身に過ぎない俺は今日も頭をフル回転させるのだった。
社内アンケート
あなたが置かれている労働環境にランクをつけてください。
★★★★★
働くのって楽しい!!(キラースコップ)
★★★
今はしんどいけど、完成して無料で遊べるならまあ…(ホークマン)
★
ブラックすぎるゴミ職場。特に代表がカス。人間のくせして俺たち魔物に指示するのが鼻持ちならない。こんなところさっさとうわまてなにをする(ここでアンケートは途切れている。)
ドルマゲス(男・28)
職業:大魔法使い・道化師・マゲス研究所所長・アスカンタ建築総監督・ドリーム重化学工場長・U.S.A.ホールディングス代表取締役社長
今欲しいもの:休息
自分用
U.S.A.ホールディングス内の部門
総監督、所長、工場長、代表取締役社長(全部ドルマゲスが兼任)
↓
現場監督(モグラの子分)、研究部門長(ホークマン)、グループリーダー(ドン・モグーラ)
↓
情報委員会、安全委員会、福祉委員会、懲戒委員会(アジト内の秩序を保つ役割を担う)
↓
先生・教授等の客員講師、その他の膨大な魔物の共同体
↓
一般魔物
U.S.A.ホールディングスで
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はたらきたい
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働きたくないでござる
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給料が出るならまあ…