ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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めりーくりすます!
先日カップルで溢れる繁華街を一人で散策しまして。
身体も心も冷え切った帰りの電車でこの話を思い付き、日付が変わったところで筆を執った次第です。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

今話は番外編です。前回、次回との繋がりはありませんので、お急ぎの方は読み飛ばしていただいても問題ありません。







番外編 ”聖夜の道化(サンタ・クロース)”

「『くりすます』…??」

 

やっぱりないのか…俺はまた一つ現世との風習の違いを思い知らされた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

きっかけは珍しく冷え込んだある朝のことだった。俺は小旅行から帰り、しばらく休暇もとったところで何か町を挙げた催しごとをしたいと突然思い立ったのだ。要は新しく覚えた手品を仰々しく披露して、トラペッタの住民から喝采を浴びる会である。しかし思い立ったはいいものの、それらしいきっかけはなかなか見つからない。町の創立記念日はまだまだ先だし、交通事故ゼロ〇〇日達成記念云々は堅すぎてパーティーにはおおよそ似つかわしくない。

 

どうしようかと悩む俺の横を冷たい風が通り抜けて身震いを一つした際、天啓が舞い降りた。そうだ、この季節には世界中で聖人の降誕を祝う大きな祭があるではないか。…とはいえここは現実世界ではないのでそのようなものがあるのか聞いてみようと思い、早速家に遊びに来ていたユリマちゃんに聞いてみたのだが…返答は否だった。

 

「そうですか…」

 

「ねぇドルマゲスさん!『くりすます』ってなんなんですか?」

 

うーん、どう説明したものか。幸いこちらにも酷似した宗教が世界中で信仰されているのでそれで説明させてもらおう。

 

「私の故郷では神様がこの世界に降誕された日を定め、年に一度祝祭として大きなパーティーを行う風習がありましてね。私たちはその日を『聖人のミサ(クリスマス)』と呼んでいたのです。この町ではそのような類のお祭りは無いのですか?」

 

「なるほど…うーん…このトラペッタでは無いですね…でもパーティーなんて楽しそう!わたし、『くりすます』体験してみたいです!」

 

やっぱりなかった。俺もこのトラペッタで数年過ごしていたから分かっていたことではあったが。その後教会の神父さんにも聞いたが、そのような儀式は行っていないとのこと。…しかし神父さんは俺のクリスマスの話に興味を惹かれたらしく、相談に前向きに乗ってくれた。

 

「でも、神様が降誕なされた日を私たちが勝手に決めて良いものなのでしょうか?」

 

「いいえ、ドルマゲスさん。確かにそれは畏れ多い事かもしれません。しかし単に主の降誕を祝うための祭りならばいかがでしょう。我々では主の降誕なされた日を定めるような力はありませんが、降誕を祝うだけならば父なる主は快く受け容れてくださるのではないでしょうか?」

 

「ふむ、なるほど、それは筋が通っていますね。」

 

その理論でいけば一年中いつでも騒げることになってしまうが…あくまでもメインは感謝であるということを忘れなければそれで良いのだろう。ともかく、意外にノリノリな神父さんという協力者を得てから話は早かった。礼拝に来る町人たちには神父さんにクリスマスを布教してもらい、俺はラッパを吹きならしながらあちこちでクリスマスの概要、サンタクロース(ミラ・ニコラウス)の伝承などを簡単に話して聞かせた。住民たちはなかなか興味があるようで、そこからは人から人へとクリスマスは伝播していき、なんと俺が発案してから数時間もかからずにトラペッタの町全体にクリスマスの話は広まった。

 

ラッパを吹いて演説してを繰り返して喉が渇いた俺は酒場に立ち寄った。

 

「いらっしゃい、ドルマゲス。今日は何にするんだい。」

 

「マスター、喉に優しいものをお願いします。」

 

「了解。…ところで、あんたの故郷で催されてるって祭典。クリスマスだっけ。なかなか面白そうだね。なんでもサンタっていう老人の魔物が魔獣が引く魔道具に乗って空を移動して、子どもたちに贈り物をするそうじゃないか。なかなか不思議な伝承だね。」

 

なんか変な表現で広まってるけど大方間違ってないしいいか。

 

「そうでしょう?でも伝承は伝承。しかもいきなりこんな催し物を始めたような町にサンタは来ないので実際のところ子供たちへの贈り物は親がコッソリと枕元に置いていくのですよ。」

 

「…知ってるけど、なんと夢のない…でもそういうものかね。伝説なんてものは。信じてくれる誰かがいなければどんな伝説も空想どまりさ。あんたの言うサンタだって信じてくれる子供がいるからその存在を保つことができてるわけで。はい、どうぞ」

 

「お、ありがとうございます。」

 

「おいドルマゲス」

 

俺が出されたホットトディをくいっと呷り、鼻に抜ける柑橘の風味を愉しんでいると、不愛想な声が俺を呼んだ。そういえば会うのは1年ぶりくらいになるかな。

 

「お久しぶりです、ルイネロさん」

 

「元気そうで何よりだ。隣は空いているか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

占い師ルイネロは今日はオフなのか、だぼっとした部屋着で酒場に来ていた。

 

「お前の言うクリスマスとやらはどうやら明日か明後日かに開催されるようだな。」

 

「そうですね。まさか私もこんなに早く事が進むとは思っていませんでしたよ。みなさん乗り気なのは嬉しい限りですけどねぇ。」

 

「おれも祭は嫌いではない。…ハレとケの繰り返しで人生を紡ぐ人間にとっては、時にこうやって意図的にハレを作り出すことも生活にメリハリをつけるために必要だからな。…しかしおれが相談したいのはそんなことではなくてな…」

 

「というと?」

 

「贈り物だ。贈り物の風習について相談したい」

 

ああ、ユリマちゃんに何を贈るのか悩んでいるんだな。

 

「ユリマさんへの贈り物ですか?」

 

「そうだ。何を贈ればいいのかてんで見当がつかなくてな。本人に聞いてもうまくはぐらかされて教えてくれんのだ。」

 

「ルイネロさんお得意の占いで『観て』みたらどうです?」

 

「お前に言われんでも試している。しかしなんだか暗くてよく見えんし、ようやく見えたと思ったら水晶玉には絶対にお前が映るのだ。何度やってもだ。なのでお前に相談しろというお告げとおれは占いを解釈し、こうしてお前に話しに来たわけだ。…お前はユリマへのプレゼントは何が良いと思う?」

 

「ウーム…」

 

えー。そんなこといきなり言われても…。そうだなあ、ユリマちゃんは魔法の勉強を熱心にしているので現実的には新しい魔術書とかそんなところが妥当なのだろうが、それをあまり好ましく思っていないルイネロにいうとまた言いがかりをつけられて説教されそうな気がする。他に彼女が欲しそうなものは…あっ。

 

「服なんてどうです?昔ルイネロさんが買ってあげたという服をユリマさんはたいそう大事にしていましたし、贈り物の格としても内容としてもなかなかいいのではないでしょうか?」

 

「ふむ…」

 

しばらく顎に手を当て考えるそぶりを見せた後、ルイネロの険しい顔は少し柔らかくなった。どうやら得心がいったようだ。

 

「どうです?」

 

「なるほど。それは良さそうだ。…やはり占いはお前に相談することを指していたようだな。…ついでと言ってはなんだが、お告げの範囲がどこまでなのか分からないので、贈る服もお前が選んでくれないか。その代わりにこの酒の席の代金は俺に持たせてもらおう。」

 

お、ラッキー。どうせ暇だしついていって選んであげようじゃないか。全く、お告げだなんだと言いながら、本当は選んだ服が娘に喜んでもらえるかどうか自分一人じゃ心底不安なのだろう。まったく不器用な父親だなぁ。

 

「…しかしお前、そんな温かい酒なんて飲んで、体調でも悪いのか?」

 

「養命酒代わりじゃないですよ!!!」

 

 

男二人のむさい服選びも恙なく終わり、俺は家に帰った。

 

「ただいま帰りましたー。」

 

「おう。」

 

師匠は食卓でパサパサのパンを食べていた。あれ俺が作っておいた朝食じゃない?もう夕方なんですけど…師匠は一回研究に集中したらこうなるから困る。

 

「あ、そうだ。師匠にはまだクリスマスの話してませんでしたよね?」

 

「それくらい知っておるわ。またお前の始めた妙な試みだろう?」

 

「むっ、それだと私がいつも妙な試みばかりしてるみたいじゃないですか!」

 

「実際しておるだろうが。魔物と対話を試みたり、妙なカラクリ人形を町中に放ったり、次元に穴をあけたり、分身したり…」

 

「ああ…」

 

やってたわいっぱい。妙な試み。

 

「…まあ師であるわしとお前自身以外に迷惑をかけないようなことなら基本的に容認しているがな…今回のことも眉を顰めこそすれ、別に邪魔をしようとは思っとらん。せいぜい好きにやれ。わしは今から寝るので起こさないように。」

 

牛乳でパンを流し込んだ師匠は食器もそのままに部屋へと戻っていってしまった。…師匠はああ言ってはいるが、なんだかんだでクリスマスのいい意味での非日常性は認めてくれているのだろう。俺も明日に決まったクリスマスの準備のために自室へ戻った。

 

 

そしてトラペッタのクリスマス(のようなもの)当日。町は誰もが心なしかそわそわしていた。町人のほとんど全員がクリスマスに意欲的だったおかげで、俺がクリスマスを広めてから一日半しか経っていないにもかかわらず、町は「それらしく」なっていた。玄関にはリース(のようなもの)が飾られ、どこの家の前にもリボンとベルだけをつけた簡素な低木の植木が置いてある。道具屋などは装飾品を木につるしているのでそれっぽいが。街灯から街灯へは俺の作った電飾が掛けられていた。そんなに寒くないのがなんだかクリスマスらしくないが、季節が存在しないトラペッタでは仕方のない事だ。だからこそ俺の新しい呪術が映える。

 

宿屋では朝からチキンとケーキを売り出すのに大忙しだったようで、ようやく完売して疲れが押し寄せてきたのか、売り子も店員も眠ってしまっていた。俺がそんな様子を見ながら広場に向かって歩いていると、意外な人物が目に映った。

 

「あっ!ドルマゲスさんじゃない!」

 

「え?ゼシカさん??ポルクとマルクも…」

 

どうしてトラペッタに?ゼシカは俺を見つけると手を振って駆け寄ってきた。ポルクとマルクは初めて来たトラペッタの人の多さに圧倒されているのか、はたまたクリスマスに圧倒されているのか、二人ともゼシカの後ろで縮こまって周りの様子を窺っていた。

 

「昨日リーザスに来たトラペッタの商人が『ドルマゲスが何か面白そうな催しを明日するらしい』なんて言うもんだから気になって!それで母さんに許可を取ってトラペッタまでやって来たのよ!それにしてもスゴイわね!わたし、こんなにワクワクした気持ちになるの、初めて!」

 

「なるほど、そうだったんですか!それは企画した側としても嬉しい限りです。でも本番はこれからですよ?先に広場に行っておいてください。」

 

「?わかったわ!さ!二人とも行きましょ!」

 

「う、うん…!」「ゼシカ姉ちゃん待ってよぉ!」

 

まあ、せっかく来てくれたんだしゼシカたちにも楽しんでもらおう。俺はまたラッパを吹きながら、『今からすごいことをするから気になる人は広場に集まってください』と呼びかけて回った。

 

 

「なにがあるんだろう?」

 

「ドルマゲスのことだからきっとすごいことをするに違いない。」

 

「このお祭りだけでも楽しかったのにこれ以上何を見せてくれるというんだ??」

 

「お集りの皆様、大変お待たせいたしました。本日は我が故郷に伝わる聖祭を楽しんでいただけているようで私ドルマゲス、恐悦至極に存じます。しかしこの聖祭、実は一つ決定的に足りないものがあるのです!」

 

広場はざわついた。よしよし、掴みは好調だな。

 

「クリスマスを彩るのに最も必要なものはそう!『雪』です!」

 

「「雪…?」」

 

雪。それはクリスマスのイメージとは切り離せない冬の風物詩である。クリスマスも冬も無いここではあまり頓着の無い者も多いだろう。それどころか雪を知らない人だっているはずだ。ならば見せてあげようではないか!

 

「わたし、雪なんて本でしか読んだことない…」

 

「『オークニス』ならともかく、ここらへんじゃあ雪なんて降らないからねぇ…」

 

「そこでです。みなさんによりクリスマスを楽しんでもらうために『雪』をご用意しました。さあみなさん!空をご覧ください!」

 

「そら?…あっ!」

 

小さな牡丹雪がポルクの鼻先に着地し、消えた。ついでマルクの頭に。ゼシカの手のひらに。ユリマちゃんの肩に。そうした内に雪は勢いを増し、少しずつ足元にうっすら雪が積もり始めた。広場に来ていなかった他の住民たちも何事かと家から出てきて空を見上げている。

 

─『聖夜に見る夢(ジングル・ベル)』─

俺がまだ見ぬオークニスはじめ雪山地方に想いを馳せて作り出した呪術だ。範囲はそう広くはないが、指定した区域を『領域』とし、内部に雪を降らせることができる。魔力で出来ている雪なので、溶けても水にはならず消えるのと、あくまで発生させるのは雪雲だけなので気温もそこまで下がらないのが特徴である。

 

「これが…雪…!」

 

「あたしゃ雪なんて初めて見たよ!キレイだねぇ…」

 

「俺も初めてだ!綺麗…だけどちょっと寒くなってきたな…」

 

「「冷たい!」」

 

「白くてふわふわだ!」

 

ふふふ。いい反応だ。こうやって楽しんでもらえるとこちらとしても企画した甲斐があるというもの。

しんしんと降り積もる雪の中、大人も子供も珍しい雪に大興奮のまま夜は更けていった。

 

 

「ふう。ただいま帰りましたー。」

 

「ドルマゲスか。」

 

「師匠!珍しいですねぇこんな夜中まで起きてるなんて。」

 

「まあな。…」

 

「…?何か?」

 

「いや…」

 

これ絶対何かある時の反応だ。俺も伊達にこのツンデレおじさん(マスター・ライラス)と暮らしているわけではない。こうなったらこちらからきっかけを作ってやらねばこの人は決して動かない。

 

「そうですか。私は今日一日働きづめで疲れたのでお先に失礼しますね。」

 

「ま、待て。ドルマゲス。その…なんだ。…今日突然降った雪はお前の仕業だろう。違うか?」

 

「ええ、確かに私が降らせましたが。」

 

「お前が使ったのは魔法ではなく呪術などという似非魔法だ。そんなものに頼るようではまだまだ大魔法使いには程遠いぞ。」

 

「はあ。」

 

「…といつもなら言っているが。町民たちの様子を見て気が変わった。魔法も技術もなんでも、全ては誰かを幸せにするためにという願いを込められて生まれてくるものなのだ。かの賢者マスター・コゾも、そのような願いの下で数々の魔法を生み出してきたのだと伝え聞いている。そういった点では今日のお前は及第点といったところだろう。…これはその褒美だ。」

 

師匠は俺に小箱を投げてよこした。

 

「?ありがとうございます。開けてみても?」

 

「構わん」

 

小箱の中身は「祈りの指輪」だった。おお。伝説級の装備!というわけではないが、トラペッタで調達できるような代物でもない。…まさか作ったのか!?…それにしてもいきなり何を言われるのかと思ったが、もしかしてこれはクリスマスプレゼントなのだろうか…。師匠のこういうところは本当に憎めない。

 

「ありがとうございます!大切にいたします!」

 

「ふん…」

 

コンコンコン…

 

俺が代わりに肩たたき券でも献上しようかと思っていた時、扉がノックされた。出ると、数十人の大人が家の前にずらりと並んでいる。何かあったのだろうか?

 

「どうかしましたか?みなさんお揃いで…」

 

「実はね、クリスマスの夜には子供に贈り物をするんでしょう?その役目をドルマゲスさんにやってもらいたくてねぇ。」

 

「こんなに楽しいお祭りは本当に久しぶりだったさ。だからこそそのシメは立役者のあんたが適任だってみんなで相談して決めたんだ。」

 

「え、私がみなさんの代わりにサンタ役をやるということですか?」

 

もう眠いんだけど…俺が師匠に目で助けを求めると、師匠は見事に知らんぷりをした。この…!

 

「…仕方ないですね。では私が責任をもってサンタクロースの代役を務めましょう。」

 

 

俺は『モシャス』でサンタクロースの姿に変化し、子どものいる家を一軒一軒回っていった。この子にはおもちゃ、この子には人形。この子には図鑑、この子にはヘアバンド。こうやってプレゼントを配っていくと、贈り物を通して親が子を想う気持ちのようなものが伝わってくる気がする。俺子供いないけど。

 

ゼシカとポルク・マルクはアローザの知り合いの家に泊まっているらしい。俺は先ほどまでと同じように枕元にプレゼントを置いて去ろうとしたが、なぜかバッチリ起きていたゼシカと目が合ってしまった。

 

「(あーっ!やっと来た!あなたがサンタさんね!本当に居たんだ!)」

 

「(いや、あの、その…め、メリークリスマス!)」

 

「(サンタさんはどこに住んでるの?どうやって一瞬でこの町まで来たの?魔獣と魔道具も見せてほしいわ!聞きたいことがたくさんあるの!)」

 

こんな興奮した状況でも周りに気を使って小声で話せるゼシカは流石に貴族の令嬢だな。…とそんなことを暢気に考えている場合じゃない。流石に堂々と会話するのもまずいか?俺のような偽物が本物のサンタを騙っては罰が当たるかもしれないし。

 

「(…ほ、ほっほっほ、ではメリークリスマス!来年も良い子でな!)」

 

「(あ!逃げないでよ!)」

 

「『ラリホー』」

 

ちょいと手荒でごめんよ!

 

「(あ……さんた…さ…ん…)すぅ…すぅ…」

 

「良い夢を。」

 

倒れたゼシカをベッドへ運び、ゼシカたちの枕元にもプレゼントを置いて俺は家を出た。

 

 

最後はルイネロの家…だったのだが。

 

「せめて寝てるの確認してから俺に依頼しに来てくれよ…本人だけ寝ててどうするんだ…」

 

ユリマちゃんは普通に起きてベッドで本を読んでいた。一方依頼主のはずのルイネロは下の階で酔って寝てしまっている。うーん、どうしたもんか…またさっきみたいに眠らせてもいいが……

 

「?そこに誰かいるんですか?」

 

やば、見つかっちゃった。こうなったら開き直るしかない。

 

「ほっほっほ、メリークリスマス!サンタクロースだよ。」

 

「…ドルマゲスさん?」

 

…アレ?俺の『モシャス』は独特な赤い服、ふくよかな体、白くて長いひげ……どこからどう見ても完璧なサンタを演じられているはずなんですケド…声も身長も顔も変えてるし。

 

「ドルマゲス?私はサンタクロースだよ。」

 

「…ドルマ「サンタクロースだよ。」」

 

「…」

 

何故バレてるのかは分からんが…悪いねユリマちゃん、これも子どもたちの夢を守るため。俺のワガママに付き合ってくれ。

 

「…!…じゃあサンタさん、私のお願いを聞いてもらってもいいですか?」

 

ユリマちゃんは本を置いてベッドに入った。寝てくれるようだ。協力的で助かるよ。

 

「私の頭を撫でてください」

 

ユリマちゃんって未だに寝る時にそんなことしてもらってたのか。ちょっと意外…

 

…と思ったけど待て。この子は小さい時に両親を失って、ルイネロも数年前まですっかりダメ親父だったから…もしかしたらユリマちゃんはそういう行為に飢えているのかもしれない。そう言う意味では俺くらいの間柄が適任か。

 

「きみの頭をかい?」

 

「はい。わたしはいい子でしたから…いっぱい撫でてください。そうすればよく眠れそうです。」

 

ならば仕方ない。面と向かって…というのは恥ずかしいが、今の俺はサンタクロースであってドルマゲスではない。そう自分を納得させた俺は、床に膝をついて彼女の灰茶色の髪から白い額にかけてをゆっくり撫でた。いい子いい子。

 

「…」

 

「…♪」

 

「…///」

 

「…♡」

 

全然寝ないなこの子…

 

数十分後、やっとユリマちゃんは寝息を立て始めた。危うくこっちが先に寝るかと思った。赤ん坊や幼児を寝かしつける時がまさにこんな気分なのだろう、そう考えるとやはり子育てって大変なんだなぁと思う。俺子供いないけど。

 

 

今なお降り続ける雪。俺が眠れば魔術は解けて雪は止むが、雪はしばらく残るので明日には美しい銀世界が拝めることだろう。色々な雪遊びを住民たちに教えるのも楽しいかもしれない。そんな明日を思い浮かべながら俺も眠りにつくのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ドルマゲス様??」

 

「ドリィ、どうかしたか?さっきからぼーっとしてるぞ。」

 

「ん…ああ、すみません、さっき寒い風が吹いたので、少し昔を思い出して郷愁に駆られていました。」

 

俺は椅子から立ち上がって大きく伸びをした。

 

「そうか。俺もよくリーザスの村のことを思い出すよ。賢者の末裔としての務めを果たしたあとは、しばらく故郷で何もせずゆっくりしていたいな。」

 

「私は旅に出たばかりなのでそういうのはまだ…」

 

「あ、そうだ。二人とも、『雪』は見たことありますか?」

 

「実は無いんです。アスカンタには雪は降らないので…」

 

「雪…昔ゼシカがトラペッタで雪とさんた…?なんとかを見たと興奮気味で話していたな。俺は見回りがあってトラペッタには行けなかったが。…俺も行けばよかったな。」

 

「ふふん、私、実は雪を降らせることもできるんですよ!」

 

「ええっ!?凄いです!!…み、見たいです…!」

 

「流石はドリィだ!早速見せてくれ!」

 

「いいでしょう!見逃し厳禁ですよ…!『聖夜に見る夢(ジングル・ベル)』」

 

 

 

今はもうあの頃には戻れない。俺は大罪人で師匠もいない。でもこの美しい思い出の数々だけは褪せさせてはいけない。

初めて見る雪にはしゃぐキラちゃんとサーベルトを見ながら、俺は改めてそう決意したのだった。

 

 

 

 

 




ドルマゲスはまだ『蝶々の見る夢("ラグランジュ")』や『妖精の見る夢("コティングリー")』を覚えていないので潜入や変装はまだまだです。…といっても『普通』は見抜かれることも無いんですがね。


『聖夜に見る夢("ジングル・ベル")』…雪に憧れたドルマゲスが開発した、雪を降らせる魔術。『ラナリオン』の呪文で生み出した雨雲を『芯』として、火炎呪文と氷結呪文を衝突させてできる魔力気流により雨雲を雪雲へと変異させる。火炎呪文と氷結呪文を合成すると通常『メヒャド』か『メドローア』になってしまうが、呪術で「発熱」と「吸熱」の相反する要素のみを抽出し、残りの要素は魔力に還元することで合体魔法を防いでいる。

キリスト教神学的魔術界において、魔術は主に魔術的(masical)魔術、神秘的(mystical)魔術、秘蹟的(sacramental)魔術の三つに分けられる。特にその中でも最も強い意味を持つものが秘蹟的魔術(霊的世界との関係性が明言された魔術)であり、別名を奇跡的魔術とも言う。名の通り奇跡を操る魔術であり、天候を変えるなどというものは正しく神にのみ許された奇跡である。



初めはキラちゃんやサーベルトと雪遊びするパートやユリマとゼシカが邂逅するパートが入ってたんですけど冗長になるのでマルっと削除してブラッシュアップしました。
それではよいお年を!
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