ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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ドランゴってなんであんな凶悪な場所に配置されてるんですかね…








第三章 斧蜥蜴の強襲と住民の強襲

ハロー、徒手空拳の道化師、ドルマゲスです。

トラペッタの住民として暮らせば暮らすほど不法侵入・器物破損を各地で行う勇者が蛮族に思えます。彼ら、世界を救うという名目が無ければ普通に悪党だと思うんですけど…いや、名目あっても犯罪は犯罪か。ワルイコト、ダメ、ゼッタイ。

 

 

 

 

「ドルマゲスよ、掃除はつつがなく進んでおるか?」

 

「ええ!先日もユリマさんに毎日偉いですね、と褒めて頂きましたよ」

 

「ユリマ…というとあの似非(えせ)占い師の一人娘か」

 

「似非て…ルイネロさんは最近調子が悪いだけで前までは高名な大占い師として世界に名を轟かせていたんでしょう?」

 

「昔の話だ」

 

俺とライラスさんは朝食を取りながらたわいもない会話をしている。朝食を作るのも片付けも俺の仕事だ。おかげで料理もすっかり板についてきてしまった。それどころか趣味の一つにさえなってしまい、今ではこの世界にない前世のメニューに挑戦するまでに至っている。先日も酒場でガーリックチキンを振舞ったところ、絶大な評価を得ることができた。魔法は教えてもらってないが、怪我の功名というやつだ。また、原作ドルマゲスに倣って手品の練習もしている。トラペッタの街娘、ユリマちゃん(12)に見せると手を叩いて喜んでくれるので大変気分がいい。もちろん酒場の余興としても盛り上がるので嗜んでいて損はない。

 

「なんでもいいが、ドルマゲス。迂闊に外を出歩くんじゃないぞ」

 

俺はサラダが喉に詰まりそうになったが、それをライラスさんに悟られる前にミルクで流し込んだ。

 

「(マジか。バレてる?いや、カマをかけているだけの可能性もあるな…)」

 

よし、ここはしらを切ろう!

 

「ええ、分かっていますよ。外は危険、ですもんね?」

 

「…分かっているならいい」

 

…よかったぁ。なんとか切り抜けられたようだ。ライラスさんが昼寝をしている短い時間しか外に出てない上に、装備一式は道具屋に預かってもらっているのに…やはり流石は七賢者が一人『大魔法使い』マスター・コゾの子孫、その観察眼は老いてなお健在か。そんなライラスさんは朝食を終えると、食器もそのままにまたすぐ自室に籠ろうとする。

 

「あっ!師匠!本を貸してもらってもいいですか?」

 

「…なんだ、魔導書なら貸さんぞ」

 

「いえ、料理本とか裁縫の本でいいんですけど…」

 

「そんなもんあるか!」

 

えー。ライラスさんも研究の合間にやってみればいいのに、料理。そんで自分の分は自分で作ってくれ。

 

 

ライラスさんには釘を刺されたが俺はプチ冒険を辞めるつもりはない。憧れは誰にも止められねぇんだ、と深淵の探窟家が言うように、今の俺の冒険への憧れは誰にも止められまい。今日もいいところで掃除を切り上げて町を出発。

 

最近は少し遠出するようになって、トラペッタの町の南側、「滝の洞窟」の方まで散歩するようになった。トラペッタ地方の魔物にも大分慣れてきたように感じる。生理的嫌悪を感じる「リップス」や一度「ひつじ数えうた」で眠らされかなりの痛手を負った「プークプック」などは避けるようにしているが、「しましまキャット」や「くしざしツインズ」が相手ならそう怖くはない。ただし対多数の経験はまだあまりないのが今の懸念点だ。背後を取られると思わぬ一撃を食らうことがある。一人旅は不安だなぁ…DQⅠの主人公を尊敬するばかりだ。

 

先日、散歩ついでに滝の上の一軒家におじゃまし、チーズおじさんと仲良くなった。最初は不愛想だったが、フライドチキンを差し入れするとお気に召してくれたようでたくさんチーズをくれ、さらにゲームにはなかった様々なライフハックを教えてもらった。

俺が今行っている「いっかくウサギ」の剥ぎ取りもその一つだ。いっかくウサギも魔獣の端くれなので、その皮は「まじゅうの皮」として売ることができる。もちろん最初は剥ぎ取りの方法なんて全く知らなかったが、チーズおじさんが懇切丁寧に教えてくれたので人並みにはできるようになった。ライラスさんもこれくらい熱心に教えてくれたらいいのに。

 

「さて、今日はここまでにしておきますかね…と」

 

俺がいっかくウサギの皮を仕舞ってトラペッタへの帰路へとついていたところ、太陽の光を反射してキラキラと輝く海が俺の視界に入った。ああ、そういえば海の方には結局行ってなかったな。

 

小さな浜を少し歩いた俺はひとしきり美しい大海原を見渡し、小波(さざなみ)の音で心を洗い流した後、道端で宝箱から「命のきのみ」を見つけて今度こそ帰ろうとした。

と、その瞬間強烈な悪寒を感じてその場に屈んだ。その直後ブォンと何かが通り過ぎた音がし、俺は慌てて前方に回避して音の正体を確かめる。

 

「バトル…レックス…!?」

 

そこには巨大な戦斧(ハルバード)を両手に構えたオオトカゲ、「バトルレックス」がこちらを見下ろしていた。

 

「(なんでこんな辺境に…いや…「ドランゴ」か…!?)」

 

ドランゴ。モンスターの中でも人間に寄り添える可能性を持った「スカウトモンスター」の一種である。物語後半まで前線で活躍できる戦闘力を持ちながら、最序盤の町であるトラペッタの横に住んでいるという迷惑極まりないモンスター…ここは彼の縄張り…?そうだ、思い出した。

 

ドランゴは斧を構えなおし、再度斬りかかってくる。とっさに俺はひのきの棒を捨て、盾を以て両手で斧を受け止めたが、構えた皮の盾はその負荷に耐え切れず悲鳴を上げる。ドランゴはその体勢のまま口から炎を吐き出した。

 

「づっ!」

 

何とか直撃は免れたが生身の部分に酷い火傷を負ってしまった。

 

「(早く、逃げないと…っ!)」

 

間違いなく勝てないが、かといって背中を見せれば一巻の終わりだということはすぐに理解できた。ドランゴはまたとびかかって斬りつけてくる。しかし今度の一撃は軽かった。ここがチャンスだとばかりに身を翻そうとした瞬間、俺の目に映ったのは眼前に映る斧だった。

 

「(しまった…!はやぶさ斬…り…)」

 

俺は巨大なオノによって袈裟切りにされ、その場に倒れた。

 

 

すぐに首を落とされるかと思ったが、ドランゴは「弱っちいやつだな」とでも言いたげに鼻を鳴らした後自分の巣へ帰ってしまった。しかしどのみちこのままでは出血多量で死んでしまうだろう。身体から徐々に熱が引いていくのがわかるが、もう叫ぶ気力もない。

 

…結局こっちの世界に来ても何も成し遂げられなかった。ライラスさんの言いつけを守って雑用をこなしていれば良かったのだろうか。いや…もう遅い。ここは最早ゲームの世界ではない、分かっていたはずなのに……

 

「………ああ、悲…しい…な」

 

視界はぼやけて色を失い、俺がついに意識を手放してしまいそうな時…

 

「ドルマゲス!!しっかりしろドルマゲス!!!!死ぬな!!『ベホマ』!!」

 

「し…師匠…!」

 

現れた「師匠」によって俺の命は救われた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「この阿呆が!!なぜわしの言いつけを守らなんだ!!」

 

「申し訳ありません…」

 

「理由を聞いているのが分からんのか!!!」

 

「外の世界に憧れて、見てみたいと思い…」

 

「言い訳など聞きたくないわ!!!!!」

 

「申し訳ありません…」

 

家の前まで来たところで俺は土下座してライラスさんの説教を受けている。怒髪天を衝くライラスさんの怒号は昼下がりのトラペッタ全域に響いた。

 

「わしがお前の不在に気付いて飛び出してなかったらお前は死んでいたのだぞ!!!」

 

「返す言葉もございません…」

 

異変に気付いた住民たちが集まってくるがライラスさんが自重することはなく、むしろさらにヒートアップしていく。

 

「最近従順になったと思ったらわしに知らせずに外で遊び歩きおって!!言いつけも守れん弟子を住まわせてやるくらいなら『犬でも飼っていた方がましだ!!』」

 

「!…」

 

これか。このセリフを聞いて原作ドルマゲスは絶望してこの町を飛び出すんだよな。確かにきつい台詞ではあるけども…今回に限っては悪いのが完全にこっちで、ライラスさんは俺の命の恩人だ。ここは素直に受け入れ…

 

「やめてよ!ドルマゲスさんをいじめないで!!」

 

少し上ずりつつも、芯の通った声が聴衆の中より上がる。声の主は占い師ルイネロの娘、ユリマだ。

 

「ゆ、ユリマさん…」

 

「…ルイネロの娘よ、わしはこやつを虐めているわけではない。わしの気も知らず遊び歩いていたこやつに灸を据えてやっているだけだ」

 

「うそよ!ドルマゲスさんは毎日傷だらけで帰ってきているの!私が心配しても笑って大丈夫って言うけど、目は真剣だったもん!遊びに行ってるわけないわ!!」

 

「…」

 

俺を庇うような形でユリマちゃんが立ちふさがった。…実際、毎日負っている傷も実際は傷も「やくそう」で全快する程度なので見かけほど深くないし、冒険といってもほとんど散歩なので、遊び半分なところはあった。目が笑っていないのは単純にこの顔の目つきが悪いのと笑顔が下手なだけなのだが…それを訂正するような空気ではないのでここは黙って事の成り行きを見守る。

 

ユリマちゃんの勇気ある行動に触発されたのか、近所のおばさんや道具屋のおじさんや防具屋の店主、酒場のマスターやバニーまでライラスさんに文句を言い始めた。

 

「ライラスさんあんた言い過ぎじゃないかい?日頃からあんなにこき使っておいて反抗するなという方が異常だよ」

 

「ドルマゲスはうちの店に装備を預けていくんだよ。あんたに見つかったらどやされるってね。町の外に出るのも許さないなんて、ドルマゲスはアンタの飼い犬かい?」

 

「ドルマゲスは、師匠が魔法を教えてくれないとよく愚痴ってたぞ!あんたにも責任はあるんじゃあないのか!?それを頭ごなしに怒鳴りつけるなんてあんまりだろ!」

 

「この子がお使いと銘打ってこっそり冒険していたのはこの町の人間はみんな知ってるよ。知らなかったのはあんただけだ、マスター・ライラス。相手の気も知らずに過ごしてたのはどっちだろうね」

 

「そーよそーよ!ドルマゲスちゃんはね!スゴイ…手品とか使えるんだから!その…スゴイのよ!!」

 

「むむ…そ、それは…」

 

「みなさん…!」

 

みんなが俺の味方になってくれて嬉しい…が、バレてたのか。全員に。結構隠せてたと思ってたのになぁ…そしてライラスさんは普通に知らなかったんだなぁ…ショックっちゃショックだね。

 

流石のライラスさんもトラペッタの町全体が相手では多勢に無勢で強く出られない。さっきまでは「悪いのはこっちで…」とか思っていたが、みんなが作ってくれたこの機会を無駄にはするまい!よし、今だ!

 

「師匠…!」

 

「…な、なんだ、ドルマゲス」

 

「今日のことは本当にありがとうございました…!このご恩は一生忘れません!!そしてこれまで言いつけを破ってきたことは本当に申し訳ありませんでした…!もう“二度と”町の外には出ないし、“朝から晩まで”師匠のために働かせていただきます!!なので、私を師匠の下においてください!!!」

 

ゴツンッ

 

「ドルマゲス!?」

 

…ここで強く頭を地面に打ち付け、誠意を見せる!痛みで涙も流せて一石二鳥!!この惨めな姿で同情を誘い、住民全てのヘイトをライラスさんに向ける!!ごめんなさい!ライラスさん!!

 

住民たちの怒りの視線がライラスさんに向けられる。ユリマちゃんも睨んでいるようだが、拗ねてむくれているようにしか見えなくて可愛い。

 

「…」

 

「…」

 

「…ハァ…参った、降参だ。ドルマゲス、お前に魔法を教えてやる。わしも自分のことは自分でやるし、無意味な仕事は任せん。その代わり、次は助けてやらんからな」

 

「…!あ、ありがとうございます!!!」

 

一本取られたという顔でライラスさんは首を横に振って俺に魔法の勉強を許可してくれた。後ろから「「何よその態度は!!」」と住民たちの声が聞こえてくるが、俺は嬉しさでそれどころではなかった。

 

「よかったね!ドルマゲスさん!」

 

「ユリマさん…!ありがとうございます!全部あなたのおかげですよ!!」

 

俺は嬉しさのあまりユリマちゃんの手を取って踊り、挙句の果てにはユリマちゃんを抱き上げて高い高いをしていた。完全にテンションが100を超えている(スーパーハイテンション)。ユリマちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたが、俺があんまりだらしない顔で笑うので最後はにっこりと笑ってくれた。とてもいい子だ。

 

 

その後酒場に行ってみんなに感謝して回ったのだが、帰りにルイネロさんに呼び出されて何故かボコボコに殴られた。家に帰ると、同じく住民のみなさんにボコボコにされて顔を腫らしたライラスさんが茶を飲んでいた。

 

俺たちはお互いの情けない顔を見合わせて、思わず吹き出してしまった。

 

この日から俺は師匠(ライラスさん)の認識を「部屋を貸してくれる人使いの荒いおっさん」から「部屋を貸してくれる不器用な恩人で師匠」に改めたのだった。

 

 

 

 

 

 




せっかくなのでドルマゲスのプロフィールをば

ドルマゲス(男・22歳)
身長:190㎝
体重:70㎏
趣味:料理、鍛錬
性格:慇懃だが陽気でユーモアもある
レベル:9
職業:魔法使いの住み込みバイト
魔法:なし
特技:なし
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