ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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新年あけましておめでとうございます。
この作品は果たして年内に終わるでしょうか…とりあえず今年も頑張りますのでお付き合いのほどよろしくお願いいたします。



ということで粗品ですがお年玉です。
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ユリマっちの重力パワーでみなさんが今年1年「地に足のついた」生活ができることをお祈りしています。








ACT4:ベルガラック地方~船入手
第二十二章 失せ物と待ち人


ハロー…とか言ってる場合じゃ無さすぎる無能役立たず慢心クソゴミカス道化師のドルマゲスです…。…マズいです。ラプソーンが監視下から外れてしまったのが本当にマズい。そもそも『神鳥の杖』は「ミラーシールド」を加工して作った箱の中で聖なる魔法に曝され続けているからこそこれまで沈黙していただけであって、その内側には依然として最低最悪にして邪知暴虐、世界を混沌に陥れようと図った暗黒神の魂が封じられているのです。もしなにかの拍子に杖が誰かの手に渡ろうものなら間違いなくその生体はラプソーンの端末になってしまうでしょう。とりあえず緊急で行わなければならないのは一刻も早く杖の在処を突き止めて取り戻すこと……。

 

 

 

 

「な…ドリィ…今…なんと…」

 

「『神鳥の杖』がどこにも…ないんです…」

 

「え……その杖…というのは恐ろしい神様が封じられていると以前ドルマゲス様が仰られていた代物のことですか…?」

 

「ええ…そんな…まさか、『賢人の見る夢(イデア)』の中に保管しておいたものが無くなるなんて…」

 

迂闊だった…っ!まさか異空間からモノを持ち出されるとは…!ラプソーンが自力で出たという可能性もないではないが、原作でも杖だけの状態ではあまり大きな距離を動くようなことはできなかったはずであり、まして次元に穴を空けることなどは現時点の奴では不可能な芸当だろう。とするとやはり…

 

いや、これも慢心か…。実際、俺だけのものと思っていた『イデア』は他者に干渉された。…俺は手紙を持ったまま立ち尽くした。そんな俺を見かねてか、サーベルトが俺に声をかける。

 

「その手紙は…?」

 

「…私が先刻ベッドから見つけたものです。今朝目覚めた時にはもうあったはずなので、おそらく夜中の内に何者かが入り込んで置いていったのでしょう。」

 

俺はサーベルトとキラちゃんにも内容が伝わるように手紙を読み上げた。

 

「親愛なるドルマゲス様へ。こんな形でごめんなさい。本当は直接お会いしたかったのですけど、貴方の寝顔を見ているともうそれだけで満足してしまって…起こすのも忍びなくて…。こんな不甲斐ないダメな私を許してください。この綺麗な箱は私が預かっておきます。きっと貴方の大事なモノなんですよね?野ざらしにしてたら他の誰かに盗られちゃいますから。心配しないでください。私がちゃんと肌身離さず持っておきます。えと、泥棒じゃないです。ちゃんと返します。だから、今日の夜、また迎えに行きます。貴方はもう一人じゃないんです。これからは私がそばにいます。貴方が背負っているもの全てを捨てて、ずっと二人で生きていきましょう。」

 

「…」

 

「この後の文字は書いては消してを繰り返したような跡があり、判別できませんでした…。」

 

「…えーと」

 

「あの、それって…」

 

「ドリィ、それは…その…恋文じゃないか?」

 

「そっ…そうですよ…」

 

「…え?」

 

思わずバカみたいな声を出してしまった。『神鳥の杖』が無くなったことが衝撃すぎて気が回らなかったが、確かに後半はラブレターのように見える…って!

 

「自慢をするわけじゃないが、俺も村の娘から恋文をもらったことがある。ここまで…その…情熱的なものではなかったが、そのような文体だったのを覚えているな。」

 

「わっ、私も…その、あります…ラブレター貰ったこと…内容の全てを理解できたわけではありませんが、あまり親しくないような人に渡す内容ではないと思います…あっいやっその時はちゃんと断ってっ、その、はい…」

 

へ、へ~二人とも結構モテてんじゃん…別に!羨ましくなんかないんだからね!…って!!違う!!!

 

そんな浮つけるか!!『杖』の有無はそれこそ未来を左右する重要事項だ。「だいじなもの」のなかでもずば抜けて大事な最重要アイテムである。それを落とし物感覚で(しかもちゃんと仕舞ってたし)持っていかれると本当に困るし、めちゃくちゃ迷惑だ。この二人は事の重大さが分かっていな…いや、少なくともサーベルトは一回杖持った俺に殺されかけてるんだからもっと焦ってくれよ。

 

「二人とも…そんな暢気なことは言ってられません。幸いこの手紙に書いてあることが真実なら、手紙の主は今夜私に会いに来るでしょう。相手が大人しく杖を返してくれればそこで終わりですが、私は相手の要求を呑むつもりはありません。」

 

どこかでのんびりと生きる…それ自体は俺の最終的な目的である。しかしそれは全てを捨ててではなく、全てを終わらせてからだ。逃げても逃げても運命はいつも俺を脅かす。世界の時間は収束する。逃げながら生きることは俺にはできない。そして運命(ものがたり)は始まった。賽は投げられてしまった。もう止まるわけにはいかないのだ。

 

「交渉は決裂する可能性が高いです。そうなると高確率で戦闘になるでしょう。こちらのアドバンテージ…利点は相手がこちらの陣営を私一人だと思っていることです。相手の力は未知数。私とサーベルトの全力を持って短期決戦で鎮圧します。」

 

相手が人間なら拘束して尋問、非協力的な魔物ならU.S.A.(けんきゅうじょ)に送って脳髄から杖に関する情報を取り出す。非人道的だとも吐き気を催す邪悪だともなんとでも言えばいい。こちとら既に国落としの大罪人じゃい。

 

「相手が何者か、何を考えているか、何をしてくるかは全く分かりません。二人とも、危険を感じたらすぐに退避してください。」

 

「あの…それではドルマゲス様は…」

 

キラちゃんとサーベルトが心配そうにこちらを見てくる。俺は微笑んでサムズアップした。

 

「もちろん私も逃げます。命あっての物種ですからね。」

 

まあ…嘘だ。確かに巨悪を滅ぼすという役目は俺には重すぎる。それは勇者の仕事だ。俺はあくまで自分のために、自分の大事な人たちのために動くのだ。だとしても、杖を放置したことで起こるであろう災害から目を背けるわけにはいかない。痛いのもつらいのも嫌だ。でも守れるものは守りたい。

 

道化師は欲の権化。…俺は欲張りなのだ。

 

俺たちは来るべき夜に備えて準備を始めた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

時は少し遡り、前日の夜中。

 

「はぁ…」

 

へべれけ状態から急に素面に引き戻されたキラは混乱と羞恥のあまり、勢いでベルガラックを飛び出してきてしまった。

 

「…」

 

自分はなんてことを口走ってしまっていたのだろう。思い出すだけで頬が紅潮し、ボフンと頭から湯気が出る。でもどさくさに紛れてドルマゲスの手を握っていたことも思い出して、キラは変な顔になる。

 

「やっぱり、私…」

 

初めは憧れだった。実家を出てすぐ王宮に勤め、外の世界については本の知識がほとんどだった。別にパヴァンに仕えることが不満であったわけではない。しかし檻の中の動物が青空に憧れるように、キラも外の世界を冒険することに憧れていた。ある日アスカンタにやってきた、世界中を遊行しているという旅芸人。王宮の窓からちらりと見えた彼の手品にキラは釘付けになり、以来ずっと会ってみたいと思っていた。件の旅芸人が滑落するシセル王妃の命を救ってからは王宮に食客として招かれるようになり、キラは二人で話すことができるようになった。…ドルマゲス。ほんとはドリィの名で通したいんですけどねと苦笑した旅芸人は、キラに色々な話をしてくれた。北の大陸、南の大陸、西の大陸。さらに地図にない森や島など、ドルマゲスの冒険譚を聞かせてもらう時間は、挿絵と活字だけで世界を知ってきたキラにとってはあまりにも甘美な時間であった。

 

すごい。面白い。…カッコいい!

 

ドルマゲスの存在はキラの冒険に出たいという強い気持ちに火をつけるのに十分だった。

 

そして夢は現実に。こうしてキラはドルマゲスと共に世界を旅している。…魔物を食べさせられそうになった時は戦慄したものだが、今では魔物の処理だって覚えてきたし、仲間のサーベルトとも仲良くやれている。そしてドルマゲスとは…

 

自分の気持ちが、心の中のコレがもはや憧れの域を超えてしまっていることにキラは薄々気が付いていた。

 

 

その上で知らないふりをしていた。…しかしそれももう限界が来ている。

 

 

「あ…っ!そうだ、私一人でこんなところに…魔物が…!」

 

慌てて周りを確認するが、周囲に魔物の姿は見当たらない。遠くで魔物の断末魔の悲鳴が聞こえるのは、…つまり、そういうことだろう。

 

守られているのだ。しかし、キラに気を遣わせないよう遠くで。

 

「(そういうところも…です)」

 

まだ自分の気持ちに気づかないふりを続けるのか、諦めて向き合うのか。それを考えるのは今でなくともいい。キラはこれ以上彼に迷惑はかけられないと小走りでベルガラックへと向かった。

 

 

…が、意外に遠くまで来てしまっていたらしい。朝日は既に地平線から顔を出しており、キラは先程まで酔っていたこともあり、もう疲れて眠くてフラフラだった。しかし流石にこんなところで寝るわけには…そう思っていた矢先、草むらから「キラーパンサー」が飛び出してきた。

 

「!!!」

 

とっさに屈んで頭を庇ったが、いくら待っても音沙汰が無かったため恐る恐る顔を上げると、通常種より一回りも二回りも大きな豹がキラの目の前で座っていた。

 

「あ…」

 

しかしキラは知っている。豹の磨き上げられた関節部分の金属光沢を。自分が磨いたあの脚を。

 

「もしかして、仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)参號機の『ソルプレッサ』さんですか?」

 

返事をする代わりに『ソルプレッサ』は後背部のハッチを開き、キラに乗り込むように促した。どうやら、キラが帰る意思を見せた時点で迎えに来るように命令されていたようだ。

内部は暖かでふかふかの赤いクッションが敷いてあり、そのまま寝られるようになっていた。キラはドルマゲスの優しさに感謝しながら一時間にも満たない睡眠を取った。

 

目覚めたキラがそのままの足でドルマゲスの下へ向かい流れるように土下座し、サーベルトを苦笑させ、ドルマゲスを大いに困惑させたのは別の話だ。

 

 

『神鳥の杖』奪還の準備は着々と進んでいた。ドルマゲスは携帯念話(フォン)でオディロ院長に周辺を警戒するようにと呼びかけてからは、トロデとの会話によって得たヒントで改良した新しい錬金釜『おもちゃ箱(ビックリボックス)』でずっと色々な道具を作っており、サーベルトは新装備でもフルパフォーマンスが出せるように「はやぶさの剣」で鍛錬をしていた。火急のタスクも特に無く手持ち無沙汰なキラは、ドルマゲスがU.S.A.ホールディングスから持ってきた現在動かせる機体のメンテナンスを行っていた。

 

 

 

そして夜。

 

市街戦になるとベルガラック住民にも被害が出る、というサーベルトの進言に納得したドルマゲスは『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』でキラとサーベルトを認識できないようにし、町から少し離れた見晴らしのいい野原で火を焚き、相手を待ち構えた。キラをどうするかはかなり悩んでいたが、自分たちの近くにいてくれた方が安心できるという理由で連れてきた。…問題は相手が来るかどうかだが、まず間違いなく相手は自分に会いに来るだろうとドルマゲスは確信していた。二人で生きていこうと誘う相手の真意は全く不明だが、杖を奪うことが目的ならわざわざ手紙を残す必要も無かったはずだ。相手の目的はあくまでドルマゲスで杖はその質、ドルマゲスはそう予測していた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

来た…っ!

 

赤黒いフードを被った人物がこちらへ向かってきているのが俺の目にもハッキリと見えた。身長はそれほど高くない。中身は見えないがその大きさからおそらく異形の類ではなく人間、もしくは人型の魔物だろう。俺は生唾を飲み込む。速くなる鼓動、浅くなる呼吸。俺はこちらの世界に来て初めて戦闘を行った時のことを思い出した。…いや、その時よりももっと…。

 

嫌な予感がする…。これはあの式典の日にラプソーンに蹂躙された時のような…ラプソーンと戦った後の()()()のような…

 

フードの人物は俺の姿を認めると走り出した。とっさに俺は身構えたが、その距離十数メートルというところで相手は足を止めて何かを探り始めた。罠を警戒している…?生憎交渉前に罠にかけるつもりはないのでそちら側に罠は設置していない。そっちには見えない聞こえない感じないキラちゃんとサーベルトがいるだけだ。俺は向こうの出方をじっと窺った。

 

フードの人物は何かをブツブツと言い始めた。なんだ…?

 

「わかりますよ?誰かそこにいるんですよね?そんなところで隠れて何してるんですか?あの人とどういう関係なんですか?ねえ?あなたそこで何をしてるんですか?ドルマゲスさんの近くで?あの人を狙ってるんですか?ねぇそうなんでしょう?答えてくださいよ。ねぇ、ねぇ?ねぇ!?」

 

 

ブツブツとした声は次第に大きく、ヒステリックになっていき、俺の耳でもはっきり捉えられるようになった。加えてこのありえないほど濃密な殺意…並の人間なら動くことすら敵わないだろう。…独り言…?俺が相手の謎の行動をそう解釈しようとしたその刹那、頭に最悪の予感が流れ込む。

 

ひとつ。相手は何をしでかすか分からない危険人物、そしてあの殺意。

ふたつ。相手は何らかの手段で俺の魔術に干渉することができる。

みっつ。そっちには見えない聞こえない感じないキラちゃんとサーベルトだけ…。

 

!!!

 

「マズい!!!サーベルト!キラさんを!!!」

 

「なんで答えないんですか?何か後ろ暗い事でもあるんですか?あるんですよね??あなたはドルマゲスさんのですよね???じゃあわたしのですよね????…わたしがドルマゲスさんを守らないと…守らないと…だから」

 

「だから、正当防衛、ですよね?」

 

俺は袋から急いで指輪を取り出して投げ、魔力で加速させた。間に合え…ッ!

 

「結局だんまりですか…とにかく!もうわたしたちの邪魔をしないでくださいね。『ザキ』」

 

 

 

常人ならば聞き流してしまいそうなほど自然に唱えられた死の呪文。

 

 

俺は何も音が出ないはずのキラちゃんの身体が、力なく地面に倒れこむ音を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 




ちなみにキラが恥ずかしさでベルガラックを出なかった場合、その日の夜中にドルマゲスと同じ部屋で寝ているところを発見されるので確実に跡形もなく消されます。誰にとは言いませんが。
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