ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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ファンアート、くれー!(ファンアート欲求モンスター)

性懲りもなく今までノープランでやってきたんですけど、そろそろ終盤に向けてストーリープロットをちょろっと練ってから書こうかなとか考えています。とりあえず今回は(も)ノープランです(ものぐさ)


今回の話なんですが、ぜひ「ドルマゲス~おおぞらにたたかう」をバックミュージックとして流しながら閲覧していただきたいです!自文ながらここ数話ではなかなか良い出来に仕上がった予感がするので、楽しんでいただけると幸いです。








第二十三章 収束と暗黒 ④

…。

 

 

 

 

フードの人物が『ザキ』を唱えた。

確かに何かが起こった。

もしくは何も起こらなかった。

分からない。

見えないから。

分からねば。

 

そう考えた…考えるより前に俺は『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』を解除すると同時に『マヒャド』を唱え、『イオ』が封じられた魔法玉を投げつけた。相手と距離を取るためには収束と拡散により圧倒的な質量が発生するイオ系呪文が有効だ。動きを止める『マヒャド』は、確実に『イオ』を炸裂させるための布石である。しかしそれはとっさの判断が偶然功を奏したに過ぎず、俺はキラとサーベルトの安否のこと以外の全てが頭から抜けていた。見事に『イオ』は直撃し、フードの人物は夜の草原へ吹っ飛んでいく。『マヒャド』の余波で焚き火もほとんど消えてしまった。

 

「きゃっ!どっ、ドルマゲスさっ」

 

「サーベルト!キラ!返事を!!!」

 

認識阻害呪術(ラグランジュ)が解け、膝をついたサーベルトとサーベルトの後ろで倒れているキラが俺の目にも見えるようになる。やっぱり…!

 

「サーベルト!!」

 

「う…ドリィ…」

 

サーベルトに目立った外傷は無い。キラは…?まさか、間に合わなかったのか…!?

 

「キラ!起きろ!キラ!!『ザメハ』!」

 

俺は喉も裂けんとばかりに声を上げて腕の中の少女の名前を呼ぶ。

 

 

「…」

 

 

「キラ…!?起きてくれ…」

 

 

そんな。

 

 

…そんな、そんな。まさか。

 

 

「キラ…ドリィ…クソ、不甲斐ない…俺が…ッ…俺がッ!!」

 

 

サーベルトは両の目に涙を湛えながら地面を殴った。

 

 

…やめろ。謝るなサーベルト。お前が謝ると、認めてしまう。確定してしまう。

 

 

「呼吸が…心臓…も…」

 

 

俺は何をしている?確認するな。証拠を揃えるな。

 

 

「キラ…」

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

俺とサーベルトの間に絶望が横たわる。焚き火の残火が弾ける音は尚も空気を読まずに静寂を劈き続けていたが、それも次第に消えていった。

 

 

それは永遠より永く。そして須臾よりも…。

 

 

「お、驚かせてごめんなさい…」

 

「…!!!」

 

空気を読まない女声が静寂を破り、俺とサーベルトは声の主を睨みつけた。空に浮かぶ二十七日月の弱弱しい光でも、相手の姿を照らすことはできるようで、闇に目が慣れてきた俺たちは声の主の姿を視界に捉え…

 

俺は酷く動揺した。

 

「ユ…リ……マ……?」

 

「…ドリィ、知り合いか」

 

「そっ、そうですユリマです!!ドルマゲスさん!助けに来ました!」

 

?????

 

わけが…分からない…

 

「ドリィ、ドリィ!気を抜くな!しっかりしろ!」

 

サーベルトは既に剣を抜き、構えている。俺はまだ動けない。情報が…。

 

「ドルマゲスさん…?」

 

「近づくな!!貴様の目的はなんだ!!ドリィを連れて行って何をさせるつもりだ!!」

 

「…はぁ。…うるさいですね。あなたなんなんですか?さっきも女が隠れてると思ったら、あなたみたいな人まで出てくるなんて。そこまでしてわたしの邪魔をしたいんですか?…いいからそこを退いてください。」

 

「(なんという…殺気…!先刻よりも重く、濃い…!しかし、しかし…)」

 

サーベルトは先ほどのように地面とくっつきそうになる膝を全力で殴りつけ、止まらない震えを抑えて、少女の前で構えなおした。

 

「親友一人守れずして、世界など…守れるものか!!」

 

「…聞こえなかったですか?じゃあもう一回だけ…」

 

少女はサーベルトの横に一瞬で移動し、耳元で囁いた。

 

「退いてくださいよ」

 

その瞬間、サーベルトの後ろにいる俺ですら卒倒しそうなほどの重い覇気が滝のように流れ出した。辺りから生命の気配が消え、立ち込めた暗雲に月も隠される。この雰囲気…やはりどこかで…

 

気を抜けば気絶してしまいそうなほどに緊迫した空気の中、しかしサーベルトは怯まない。

 

「…いいや、退かない。俺たちは…こんなところで止まるわけにはいかない!」

 

「…そろそろか。」

 

少女がそう言うや否やサーベルトははやぶさの剣を振り上げずにそのまま突き出した。予備動作の最も少ない最速の「しっぷう突き」だ。しかし少女はその突きを手に持った杖で受け止めた。サーベルトは驚きすぐに距離を取るが、少女が反撃することはなかった。

 

杖…?あの杖は…そうだ、あの中には…そしてこの雰囲気、違和感…。

 

「!!!」

 

「ラ…プ…ソーン…!!」

 

他の何も分からないまま、しかし元凶だけは理解した俺は、即座に全力を込めた『メラゾーマ』を放った。しかし、豪火球はかき消され、同時に紫の波動がユリマを中心にして全方向に拡散する。その光は身体の制御権が完全にユリマからラプソーンに移った事を意味していた。俺は殆ど反射的にキラの亡骸を異空間に入れた。

 

「…ふむ、ようやくか。……久しいな、哀れな道化よ。」

 

ユリマ(暗黒神)は邪悪に笑った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ラプソーン…ッ!!」

 

「ドリィ、アレは…」

 

「ええ、トロデーンの時と同様、あの少女の中にいるのは憎き暗黒神ラプソーンです。」

 

距離を取ってそのまま俺のところまで下がってきたサーベルトが相手を見据えたまま俺に尋ねてくる。

 

「外側の少女はお前の知り合いなんだな?」

 

…そうだ、あの背格好、顔、髪型…。間違いなくトラペッタに住む占い師ルイネロの娘、ユリマだ。何故ユリマちゃんがここに?なぜ杖を、どうやって?

 

…いや、まだ分からないことは多いが今はそんなことに思考を回している余裕はない。少しでも考え事をしようものなら即座に首が飛ぶかのような空気がこの空間には流れている。実際脚の震えは止まらないし、冷や汗油汗も留まるところを知らない。

 

「…ええ、ですが手心などは加えず全力で迎え撃ってください。この戦いの勝敗如何では最悪世界が滅びます。」

 

原作では本来この時点では杖はまだ俺(ドルマゲス)が持っていて、意識もラプソーンとドルマゲスのものが混在しているはずなのだ。だからこそ酷使した肉体を癒すためこの後ドルマゲスは闇の遺跡へと向かうのだが、新しい端末を手に入れたとなると話は違う。肉体を癒す必要が無いのですぐに次の賢者の元へ向かうだろう。まずギャリングを殺して、その後はチェルスの方か、あるいは戻ってオディロの方へ向かうのかは分からないが、展開がワンステージ進行するのは間違いない。

 

…そして悔しいがおそらく今の俺たちではこのラプソーンには敵わない。杖を奪い返すことはできないだろう。ユリマちゃんには申し訳ないが、こうなってしまったからにはせめてここで肉体にダメージを蓄積させ、ラプソーンに闇の遺跡に撤退せざるを得ない状況にしなければならない。

 

「…いい。素晴らしい…!この女の身体に含まれる暗黒の量は格別だ!まるで暗黒で肉体が構成されているよう…フハハハ…まるで我が真の肉体かのように動かせるぞ…!」

 

「ドリィ!頼む!」

 

「了解、合わせます!」

 

俺が『ピオラ』を唱えると同時にサーベルトは増強された脚力で地を蹴り、「はやぶさ斬り」を放った。サーベルトが攻撃態勢に入る直前に続けて俺の唱えた『バイキルト』が効き、強化された四連撃がラプソーンに襲い掛かる。

 

「むん?…ちぃ、残りカスが無粋な真似を…」

 

ラプソーンは両手に杖を持ち三つの斬撃を防いだが、最後の一撃はいなしきれず直撃した。しかしほとんどダメージは無いようだ。ラプソーンは杖を手放して右手で剣を振りぬいたままのサーベルトの右肩を掴み、サーベルトに反応する隙を与えないまま左の拳でサーベルトの顎を打ち抜いた。

 

「!!…!」

 

「サーベルト!!」

 

攻撃か、回復か…いや、ここは妨害!

 

「『ジゴフラッシュ』!」

 

暗闇の草原に眩い光が満ちる。暗黒神であるラプソーンは聖や光の攻撃に弱い。サーベルトならこの隙を突くことができるはずだ。

 

「く…虚仮(こけ)脅しが…」

 

「(よし、脳は揺れたが身体は動く、戦える…!)恩に着る!」

 

サーベルトは肩を掴むラプソーンの腕を切り裂いて脱出し、さらに連撃を加えるようだ。また一度戻って来るかと思ったが、よく考えればそれが正しい。ラプソーンは聡く、狡いので二度目の『ジゴフラッシュ』が通用する保証はできない。であれば今のうちにHPを削るのは得策だ。インファイターのサーベルトが攻撃している間に呪文を撃つのは危険が伴うので俺は今のうちにテンションを溜める。原作ドルマゲスのような無駄行動は取ってやらない。

 

「間抜けが!見えておるわ!!」

 

ラプソーンは向かってくる魔力を感知し、『メラゾーマ』を唱えて迎撃した。物質が掻き消える確かな手応えを感じ、ラプソーンはニヤリと笑う。そして俺はそんなラプソーンを見て、冷たい笑みを浮かべる。(ラプソーンのテンションが下がった!)

 

余裕の表情を見せる俺の様子にラプソーンが気付いた時にはもう遅く、背後から瞑想を終えて剣を構えたサーベルトが飛び出した。その構えは『霞の構え』。ラプソーンはなんとか無理に体をよじって振り返るも防御するのが間に合わず、強化された十二の火炎(ヒノカミカグラ)─はやぶさの剣の効果で二十四の火炎になっている─をまともにうけてぶっ飛んだ。しかし空中でブレーキをかけると、口元の血を拭った。どうやら流石のラプソーンも合体技(バランス崩壊)の前ではノーダメージとはいかないらしい。

 

「ぐ…貴様は今確かに我が消し去ったはず…!何をした…!」

 

言うかよバーカ。さっきお前が消したのはサーベルトを模した泥人形を『妖精の見る夢(コティングリー)』で作って突撃させただけだ。と言っても魔力の形は本人と相違ないので咄嗟の判断が続く戦闘中では容易に見分けることは出来まい。

 

「サーベルト!下がって!」

 

トロデーンの時のような油断はもうしない。今は俺たちが優勢に見えるが、これは()()()()攻撃が当たっていないだけだ。正直最初の一撃でサーベルトが戦闘不能にならなかったのは奇跡と言ってもいい。もちろん初撃も油断しているわけではなかったが…やはり強い…。おそらく呪われしユリマ(このラプソーン)は原作ドルマゲスどころか、呪われしゼシカも超えてマルチェロ級の強さだと思われる。

勇者たちは今ごろ順当にレベルを上げてくれているだろうが、流石にこんな化け物を今の彼らにぶつけるわけにはいかない。

 

俺はテンション20、倍率250%の『マヒャド』を打ち込み、下がってきたサーベルトに『ベホマ』をかける。ラプソーンは迫る氷塊の嵐に『メラゾーマ』で迎撃し、炎と氷は完全に相殺された。

 

「はっ、二回溜めた『マヒャド』がただの『メラゾーマ』に…やはり化け物ですね…」

 

「ふん、化け物だと…?痴れ者が、我は暗黒神、闇の世界の神なるぞ!」

 

まだ終わらないか…ならば次の手を打つまで!

 

俺は『ぶきみなひかり』で相手を照らし、ラプソーンの耐性を下げる。やはり呪文使用直後はある程度の呪術は通るようだ。俺が合図を送るとその瞬間、誰もいない方向からラプソーンに向かって『ボミエ』が重ねて掛けられる。

 

「むっ!?」

 

異変を感じたラプソーンは即座に『バギムーチョ』で一帯を更地に変える。今の攻撃で俺が隠して(消して)いた初号機『踊り子(バイラリン)』はスクラップになってしまっただろう。しかし彼の遺した効果は如実に表れていた。

 

「身体が…っこ、小癪なぁっ!!」

 

素早さ8段階減少。熟練者同士の戦いにおいてのそれは劇的な要素であり、俺たちから見たラプソーンの動きは最早止まって見える。相手もそれが分かっているので迎撃の態勢を取っているようだ。

…ここで畳みかける!

俺は深呼吸をして異次元から八卦を象った手のひらサイズの小さな炉を取り出し、『粉』が入った袋を炉心に設置して種火を灯す。結局実践では一度も使えていないこの呪術だが、準備はしておいて正解だった。

 

 

「…『偶像の見る夢(ヴェーダ)』」

 

 

俺がその呪術の名を唱えると八卦の炉が七色に光り、俺の身体中に力が漲っていくのが分かる。魔力が満ちる…のはいつものことだが、今俺の中に満ちているのは100%が聖なる魔力。心なしか神聖な気持ちにすらなる。ぶっつけ本番の呪術は成功と言っていいだろう。さあ、ここが正念場だ!

 

再び前線に舞い戻ったサーベルトに続いて俺も前に出、ラプソーンの横腹を思いきり殴りつけた。ラプソーンが苦しそうに呻き声を上げる。肉体がユリマちゃんなので心が痛む…のはある。しかし、サーベルトに手加減無用と言っておいて、自分が手加減をする道理はない。すかさず反対の手で同じ箇所を打ち抜く。そして再度…

 

「ふーっ、ふーっ、…フフ、捉えたぞ…!」

 

ラプソーンに左腕を掴まれてしまった。クソッ、二発目は誘われていたか…ッ!

 

「ドリィ!!」

 

「でやあっ!!」

 

「ぐああっ!!」

 

そのまま振り回された俺は尋常じゃない力で地に叩き伏せられ、一瞬意識が飛びかけた。左の肩が動かないのはおそらく脱臼か、骨折か…『ヴェーダ』を使っていなかったら間違いなく左腕は無くなっていた。

 

「ドリィ!!腕が!」

 

「サーベルト!ダメですこっちを見ては!!」

 

「よそ見か?悲しいなぁ…」

 

「がっ…!」

 

俺を気にかけた一瞬の隙を突かれ、ラプソーン渾身の膝蹴りが鳩尾に入り、サーベルトは膝から崩れ落ちた。

 

…一瞬、本当の一瞬の隙から戦況を一気に崩された。決して侮ってはいなかったが…これが神の実力…なら、最後だ。

 

「はあ…はあ……中々良いところまで行ったが…惜しかったな!」

 

ラプソーンは地に伏せる俺とサーベルトを見て嗤い、呪文を唱え始めた。あの大きさはおそらく『メラガイアー』。

『メラゾーマ』で事足りるところを盛大に屠ろうとするその油断…その油断がお前の首を刈る!

 

「『奇襲(ソルプレッサ)』!!!」

 

一閃。闇の中から音を超える速度で飛び出した白銀の牙がラプソーンの肩に咬みついた。

 

「ぐうぅ、まだこんな隠し玉を…!だがこれしきでは止められん!勝負あったな!」

 

ラプソーンが腕を振り払うと、三号機『ソルプレッサ』の顎は破壊され、機動を停止した。

 

「まだ終わってない!!」

 

「ほざけ!地に這いつくばったままのお前に何ができる!…何が…?まさかッ!?」

 

そう、お前が話しているのは泥人形。もう()()()()()()()()()

 

「うおおおおっ!!!!」

 

「くそおおおっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の拳が相手の眼前まで迫った時、俺は勝利を確信した。勝てなくとも、これで相手はすぐには癒せないダメージを負い撤退するだろうと。責めないでくれとは言わないが、どうか仕方なかったと分かってほしい。

 

俺の誤算は相手が卑劣な手段も厭わない暗黒神だったこと、その仮の宿が俺の大事な人(ユリマちゃん)であったことだった。

 

 

 

 

「ドルマゲス…さん…」

 

邪悪な顔から悪気が抜かれ、見慣れた少女の顔に戻る。それは俺がずっと追い求めている日常のピースで…

 

「…ッ!!」

 

「(この野郎、ギリギリで意識を切り替えやがった…ッ!!)」

 

動揺した俺は体の軸がブレ、全ての力を込めた最後の右ストレートはユリマちゃんの頬を掠めて空を切った。

 

「ドルマゲスさん…」

 

「…くそ、ここまでか…」

 

ユリマちゃんは嬉しそうな、悲しそうな、よく分からない顔で俺を見て、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

待ってます

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

その瞬間ユリマちゃんの顔は再び邪悪に歪み、ラプソーンが戻ってきた。サーベルトは動けない。『ヴェーダ』は解け、俺ももう動けない。

 

「フフ、ハハハハハ!!そのまま殴ればよいものを、なんとも甘ったるい男よ!残念だったな!今度こそ終わりだ!!神に逆らう愚者共が!!」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ラプソーンの誤算もまた、仮の宿が俺を大好きな人(ユリマちゃん)であったことだった。

 

 

 

「ぐふっ!お、おごっ!?ゴフッ!こ、これは…?ガハァッ!!」

 

「…」

 

ユリマちゃんはあの瞬間、自分の肉体に意識が戻った一瞬の間に迷わず貫手で自らの腹を貫き、その手の先、つまり体内から『バギクロス』を発生させた。表皮を魔力で硬化して覆っているラプソーンも体内までは防御できなかったようだ。

 

「な、何が…がっ!こ、この女ァ…!!!」

 

「…」

 

「ま、まずい、このままでは…ッ!」

 

「…」

 

「グッ…、無様な道化、それと残りカスよ!命拾いしたな!」

 

そう言い捨てるとラプソーンは『神鳥の杖』と共に消えた。同時に暗雲は晴れ、太陽も顔を出す。

 

 

 

 

「…完敗、か…」

 

「(ユリマちゃん…)」

 

 

 

 

俺が最後の最後の力で握りこぶし大の異空間を開くと、指人形サイズの俺が中から這い出てきた。0.1%の魂を『悪魔の見る夢(アストラル)』で分離した俺の最終バックアップだ。杖を奪った謎の人物と会う前に、誰と戦闘になっても良いよう、アスカンタにいる俺Aとも融合してほぼ100%の力で挑んだのだが、結局ラプソーンには敵わなかった。実際こうして事前に保険をかけておかねば本当にくたばってしまっていただろうから、99.9%の実力で挑んだことに後悔はない。しかし…

 

「二人トモ!今回復スルゾ!!」

 

「…」

 

ミニ俺に『ベホマ』をかけてもらった俺とサーベルトは座り込んだ。辺りには焼けた草、掘り返された大地、仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)の残骸…。二号機『(エスパーダ)』を連れてくれば戦況は変わっていただろうか。…いや、鈍重で搦手も使えない『エスパーダ』では的が増えるだけになっただろう。それにそのようなことは今考えても仕方のないことだ。

 

「ドリィ、俺は…」

 

「いえ、サーベルトのせいじゃないですよ。それに…本来の目的は、果たしましたから…」

 

「…」

 

「…」

 

 

「そうだ、キラさん…」

 

俺はキラちゃんの亡骸を異空間から取り出した。彼女の肌はすっかり青白く…あれ?

 

「ドリィ…、何か…妙じゃないか?」

 

キラちゃんの頬は依然として健康な肌色であり、体温も高い。心臓も呼吸も止まっているのに…

 

俺が不思議がっていると、サーベルトがキラちゃんの指にキラリと光るものを見つけた。

 

「これは…『まよけの聖印』…!?」

 

「!!!」

 

『まよけの聖印』。即死を防ぐ装飾品で、戦闘が始まる直前、嫌な予感がした俺が咄嗟にキラちゃんに装着させようとしたものだ。これが装備されているということは間に合って…?いや、実際に彼女は倒れており、息をしていない。

 

「『ザキ』とこの指輪の装着が同時だったとかか…?」

 

なるほど、その線は有りうる。そもそも『まよけの聖印』の効果は、指輪に刻まれた聖印が楔となって魂魄をその場に固定することだ。その結果、魂を強制的に肉体から引きはがして絶命させるザキ系呪文が無効になるわけだが、では『ザキ』と魂魄の固定がほぼ同時だった場合は?魂と肉体の繋がりはそのままで、しかし肉体の外に魂が…

 

「!!!サーベルト、少し離れていてください。もしこの周辺にまだキラさんの魂が存在していればキラさんは生き返ります!」

 

「本当か!?頼む!ドリィ!」

 

 

「ふう…」

 

『生き返る』には主に三つの方法がある。

一つ目は「蘇生」。魂は在るが、肉体が損傷しているため生命活動を維持できない場合の絶命から戻って来る方法だ。

二つ目は「反魂」。肉体は在るが、魂が肉体と離れてしまっている場合の絶命から戻って来る方法。

三つめは「復活」。魂と肉体が分離し、肉体も消滅してしまった場合から完全に元に戻る正に神の御業である。

 

「蘇生」「復活」これらは神の加護を受けていない俺たちには不可能だ。故に世界樹の葉も効果は出ないし、神の奇跡の一端を借り受ける教会や『ザオリク』も意味を成さない。しかし「反魂」は?俺は『胎児の見る夢(エーテル)』によって魂、精神体を移動、分離させられる。魂を分けて移した『携帯念話(フォン)』のように。これをうまく応用すれば…。

 

俺は左手をキラちゃんの丹田に、右手をキラちゃんの胸の真ん中に置いた。頼む!うまく行ってくれ!

 

「『胎児の見る夢(エーテル)』!!」

 

 

 

 

 

 

「ふぇ…?わ、私は何を…?」

 

「!!!キ…」

 

「あっ、ドルマゲス様!す、すすすすみません!こんな大事な時に私寝てしまっていて…!!!」

 

「キラ…!!うぅ、良かった…本当に…」

 

「さ、サーベルト様!?大丈夫ですか!?」

 

「キラさん…!」

 

俺はキラちゃんを優しく抱きしめた。サーベルトも続けて俺とキラちゃんを抱きしめる。

 

「ひゃっ!!な、ななな…」

 

「お帰りなさい、キラさん」

 

「あ、えっと、その…ただいま帰りました…?」

 

 

 

暗黒神と二度目の邂逅にして二度目の敗北。端末にされたユリマちゃん。再び奪われた杖。それでも今は、大事な仲間を失わなかったことを喜ぶべきだと思った。

 

 

 

 

 




『偶像の見る夢(ヴェーダ)』…ドルマゲスがアスカンタで賜った国宝の古文書を解読し、得た着想から編み出したオリジナルの呪術。八卦炉に種と木の実を粉末状にして混ぜたものを入れて燃焼させ、真言を唱えることで聖なる力を身にまとい一時的に強大な力を得る。八角形に三爻(さんこう)が刻まれた陰陽道の図形はそれだけでも呪術的に大きな力を持つ形相である。
???「(弾幕はパワーだぜ。)」
芥子(ケシ)、丸香(がんこう)、酸香(さんこう)、塗香(ずこう)、薬種(クコ)、切花(きりばな)は真言密教において祈祷や儀式にも使われる薬草、あるいは漢方、あるいは霊的な意味を持つ植物である。それらをそれぞれ、エグみのある味の「ふしぎなきのみ」、苦みがある「ちからのたね」、酸い「まもりのたね」、甘い「かしこさのたね」、辛い「すばやさのたね」、クセのある「いのちのきのみ」で代用することで、本来種と木の実が持つ身体強化効能を何十倍にも高める。「制限時間付き」という縛りを設けることでさらに効果は倍増する。
「オン・ロケイ・ジンバラ・アランジャ・キリク」という言葉は修験道の臨終作法の際に唱えられる観自在王如来真言であり、続けて智拳印(ちけんいん)、羯磨咒(かつまじゅ)、外五鈷印(そとごこいん)、五字咒(ごじしゅう)、普利衆生印(ふりしゅじょういん)、六大印明(ろくだいいんめい)を行えば、死者は必ず安らかに成仏すると言われている。ドルマゲスは『ヴェーダ』という言葉を観自在如来真言の代行とし、聖なる力の部分だけを身に宿している。
『ヴェーダ』の名は呪詛調伏の古文書「アンギラサ・ヴェーダ」から借用している。陰陽道、真言密教、修験道。この呪術は多くの宗教的要素で構成された宗派のサラダボウルである(そもそも修験道は仏教と陰陽道と自然信仰が習合して大成したものである)が、陰陽道、密教(仏教)、修験道、これら全て「冥道十二神」、「仏」、「蔵王権現」など『偶像』を信仰する、という点では似通っている。








分からなくなる人が多くなる予感がする(自分ですらよく分かっていない)ので説明します。

ドルマゲス、トラペッタを発つ

病みユリマ、トラペッタを発つ

病みユリマ、イカさんに乗って南の大陸へ移動し、マイエラから西進

病みユリマ、パルミドで情報収集(家が無いので物乞い通りで過ごし、ちょっかいをかけてくる人間を片っ端から追い払っていたら『物乞い通りの魔王』と呼ばれるようになる)

病みユリマ、勇者の馬車から何か懐かしい匂いがしたので潜っていると、その間にゲルダによって馬車が買われ連れていかれる。ちょうど船を探していたユリマはこれ幸いとばかりにゲルダを脅して船を借りる(勇者など眼中にもない)この時点で持っているのはマスター・ライラスから譲渡されたただの「まどうしの杖」

病みユリマ、ベルガラックにてついにドルマゲスに再会するも、暗黒神の手引きにより異次元に侵入して杖を奪ってその場を去る

闇ユリマ、ベルガラック地方草原でドルマゲスと対峙(この時点で意識の半分はユリマ、意識のもう半分と肉体の制御はラプソーンが行っており、ユリマ自身はラプソーンの催眠(シンクロナイズ)により自分が操られていることに気が付いていない

あと、病み→闇に変わる時点で一人称が「私」から「わたし」に変わっている

闇ユリマ、キラにザキを唱え、ドルマゲスとサーベルトの怒りを買う(本人の意思ではない)

ラプソーンに意識を乗っ取られる

闇ユリマ、ラプソーンと入れ替わった瞬間に迷わず自殺を試みる

ラプソーン、撤退



彼女の名誉のために言っておきますが、流石にユリマも人間なので見境なしに人間を死に至らしめるような真似はしません。…ですよね?

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