ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
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ハロ~、冒険者ディム、もとい道化師ドルマゲスです。いや…まさか勇者たちがまだ船も持っていないとは驚きました。原作とそこまで経過時間に変わりはないと思っていたんですけどねぇ。全く誰のせいなんだか!きっとラプソーンのせいです。そうに違いない!
…
俺は勇者たちが出発したのを気配で感じ取ると、踵を返してさっきまでいた場所に戻った。
「弱ったなぁ…」
俺はリクライニング・チェアを出すとそこに深く腰掛けた。落ち着く。アスカンタで貰った錬金釜をU.S.A.に持ち帰って改良型錬金釜"
なんてことはどうでも良くて。問題は勇者たちが船を持っていないことだ。俺はこのまま勇者たちと一緒にサザンビークへと行こうと思っていたのだが、船がないとその後の展開で困る。パルミドからベルガラックに渡った時のように海の上を歩くのはもうこりごりだ。今は海の魔物も狂暴化してるし危ないしな。だとするとやはり彼らには古代の魔道船を手に入れて海上をブイブイ言わせてもらう必要がある。…つまり予定が狂って時間に空きができる、ということだ。
俺は勇者からもらったチーズ、その残りを齧った。濃厚で味わい深い…。これは竜神族も満足する味だろうな。…おほん、サーベルトや魔物たち『王家の山』班は予定が長引いてもまあ問題あるまい。引き続き戦力増強に努めてもらおう。キラちゃんは上手くやっているだろうか。魔物たちにいじめられたりしていないだろうか…やはり分身を…。いや…。
「私、足手まといですよね…」と口から零れた時のキラちゃんの顔が忘れられない。そしてそれに対し気の利いたことも言えずただ黙殺した自分の情けなさにも失望する。
…ダメだ、今のキラちゃんと面と向かって話せる気がしない。
「…ん?」
ぶんぶんと首を振った俺が海の方を見ると、妙なものが流れてきていることに気が付いた。赤くて、紫色で、丸くて、しかしひものようなものが出ている、馬車ほどの大きさの物体が波に揺られて少しずつ近づいてくるのだ。興味を惹かれた俺は立ち上がってその物体を見に行くことにした。
俺が海辺まで行くと丁度「それ」は砂浜に打ち上げられていた。恐る恐る触ると意外と弾力がありぶよぶよしている。
「(魔物の死体か…?しかしどんな殺され方を…)」
すると俺が触ったことに反応して「それ」は突然ビクッと動いた。俺もビクッとした。
「生き…てるのか?」
俺は試しに「それ」に『ベホイミ』をかけてみた。死体なら効果は無いし、生きててもベホイミ程度の回復力なら相手が襲ってきてもすぐに鎮圧できる。
「…うぅ…あ……」
人語…!人語を解する魔物はたいがい友好的だが、そうでない場合その賢さは脅威にもなる。俺は一歩後ずさった。
「だ、誰だか知らないが、た…すかった…」
そこまで来て俺は「それ」の色合いと声に覚えがあることを思い出した。
「も、もしかして、オセアーノンですか?」
「…あ、ああ…。」
嘘だろ…。俺が知ってる「オセアーノン」はもっとイカらしい形状をしていて、もう二回りはデカかったはずだ。それが今は顔がどこかも分からない球体になり、この通り小さくなってしまっている…いや、『圧縮された』のか…?ともかくオセアーノンは俺の下僕なので心配はない。俺は『ベホマ』を唱えた…のだが。
「はぁ…はぁ…」
「回復しない…?いや」
知っている。この状態。かつてラプソーンと初めて戦った後だ。身体を貫かれた
コイツは…もう、死ぬ。
「…オセアーノン、誰にやられた?」
「…その声、まさか……ドルマゲス…さん…?」
「ええ、そうです。」
「…アンタの……せいだ。」
「え?」
「アンタと出会わなければあの女に…」
「あの女…?」
「ドルマゲス……オマエの…知り合い……トラペッタの…女…!」
「…まさか!オセアーノン!」
「…」
「おい!オセアーノン!」
オセアーノンだったものはそれきり微動だにしなくなってしまった。俺はオセアーノンを『
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「地図を見るに…ここらへんかな…っとあれかあれか」
俺は『王家の山』まで『ルーラ』で飛んでサーベルトに計画延長の旨を伝え、その足で大陸反対側の『隠者の家』がある森までやってきた。…サーベルトにもう少し期間が延びると伝えた時、周りの魔物たちが深く絶望しているのが見えたが、サーベルトはどんな過酷な鍛錬を課しているのだろうか…?
それともう一つ。先刻のオセアーノンの遺言だが、アレは間違いなくユリマちゃんを指したものだろう。オセアーノンを死に追いやったのはユリマちゃんだと彼は証言したのだ。…ユリマちゃんが杖を手にしたのはベルガラックの宿屋のはずなのだが、オセアーノンが回遊しているのはトラペッタ地方のある北の大陸とマイエラ地方がある南の大陸の間の海域だ。となるとユリマちゃんは「杖を手にする前にオセアーノンに手をかけた」ことになるが…。
そもそもユリマちゃんに関しては分からないことが多すぎるので、どうやっても推測の域を出ない。とりあえずは今できることをやろう。
「ごめんください。」
俺が扉を開けると、「スライム」と「どろにんぎょう」が出迎えた。確か寝室には「ドラキー」もいたはずだ。俺はとりあえずこの家の主の所在をスライムに聞いてみることにした。
「うっしっし。ぼくはこの辺じゃ一番のあまのじゃくで通っているスライムだっち。キミもこの家に住んでるじいさんに会いにきたっちね?」
「いいえ?じいさんのことなんて知りませんよ?」
俺がシラを切るとスライムは苛立ち始めた。
「ちぇっ!なんだっち。ここに来るやつらは大抵じいさんのことを訪ねてくるっちよ。ホントはじいさんの居場所を知りたくてウズウズしてるっちね?そうだっちね?」
「いや全然?」
「ふん!そんなら嫌でも教えてやるっちよ!ぼくはあまのじゃくだっちからね!じいさんはここから西に行ったふしぎな泉のそばにいるっち。」
「へー。そうなんですねー。」
「へへん!どうだ!頭に余分な情報を入れられて困ったっちか!!」
なんて扱いやすいスライム!可愛い奴め。俺がスライムを撫でてやると「ぐえぇー!やめるっち!」と彼に露骨に嫌がられてしまった。
…それはともかくとして、やっぱりこの家の主は「ふしぎな泉」にいるのか。ならちょうどいい。俺は家を後にし「ふしぎな泉」へと向かった。
…
─ふしぎな泉─
「…!」
周囲は青々と草木が茂り、どれも瑞々しい。泉もまわりの植物の碧に負けないほど澄んだ藍、水面には虹色の光沢が輝いている。何とも言えぬ幻想的な光景に、俺は思わず言葉を失ってしまった。
「おや、こんなところに人が来るとは珍しい。…どうしたのですかな?」
…おっと、幻想的すぎて全然存在に気が付かなかった。俺はこの人に会いに来たんだった。
「これは初めまして。私旅人のドリィと申します。」
「ドリィさん。こちらこそよろしく。…む?」
老人は握手のために出した俺の手を掴んだ時に何か異変を感じ取ったようだ。
「…何か?」
「…ドリィさん、私に何かを隠していますね?怒らないので元の姿に戻ってくれませんか?」
「…」
この老人はかつてサザンビーク王国で宮廷魔導士として活躍していた魔術師だ。盲目だが『心眼』なる技術で世界を見ているらしく、その精度はラプソーンの呪いをも貫通する。やはり彼の前で生半可な変装は通用しないな。
「申し訳ございません。騙すつもりはなかったのですが…」
俺は『
「ですから、変化を解いてください。私を欺こうなんてそうはいきませんよ?」
「え?」
「え?」
「あの、もう変化は解いたのですが…」
「な、なんですと!?それはまことか!?」
本当本当!今は『モシャス』も『コティングリー』も使ってないよ!
「失礼…いや、やはり私の見えている形とは異なる…。」
老魔術師は俺の身体に触れると、やはり釈然としないように呟いた。
「わ、私はもう変化などしてないですよ!?」
「ううむ…では私の心眼が衰えたかな…確かに君からは少年の形をした魂が見えるのだが…」
「少年…?」
少年…
あ。まさか。そういうことか。
今のこの肉体の、もっと深み……魂は精神。魂は記憶。老魔術師はきっと「この世界に来る前の俺」の魂を見ているのだ。合点がいった。
「なるほど…申し訳ない、あなたから見て私は確かに異様に映るかもしれませんが、あなたを欺く意図はありません。本日はお願いがあってきたのです。」
「……。…君はふしぎな人間だが悪人ではないように思える。話してみなさい。」
…
「ふむ。暗黒神ラプソーン…昔読んだおとぎ話の存在ではなかったのか…。そして打倒暗黒神の旅に出ている君はこの泉が持つ解呪の効能の秘密を知りたいと。」
「はい。そういうことで泉の水を少々拝借してもよろしいでしょうか…?」
「構わないよ。ぜひ役立ててくれ。」
「ありがとうございます!」
老魔術師に快諾してもらい、早速俺は水筒を泉に突っ込んで水を汲んだ。そして水を泉から持ち出そうとして…
「あれ…?」
水筒の中身からは虹色の輝きが失われている。これは…?
「どれどれ……む。ドリィ君、この水からは既にふしぎなチカラを感じないよ。」
何だと!?そんな…いや、彼の言うことだ。きっとそうなのだろう。
「も、もしかしてこの泉から持ち出すと効能が消えるのでしょうか…?」
「その可能性は十分にある。試したのは初めてだが…」
参ったな…。呪いを解くことができる水が持ち運べればいろいろ便利だと思ったんだけど…。
途方に暮れそうになったその時、俺の脳内に電流が走り、悪魔的発想が思い浮かんだ。
この水を研究所に持ち帰られないのなら、
こ こ に 研 究 所 を 建 て た ら 良 い の で は ?
「…おじいさん、失礼を承知で申し上げます。」
「なんだね?言ってみなさい。」
「この泉に私の研究所を建ててもいいですか??」
「…」
「どうかなさいましたか?」
「…いや、想像していたよりもかなり失礼で驚いたな…と…」
「お願いします!」
「い、いったん私の家に来なさい…。」
その後、説得に説得を重ね、老魔術師は渋々…本当に渋々、研究のための簡易サイトを泉周辺に建設することを容認してくれた。
…
「…まあねえドリィ君、君の気持ちも分かるよ。」
老魔術師は紅茶を出してくれたので、俺もお茶菓子を出す。俺の空中から物を出す仕草にも動じないあたり、もしかしてこの人も『呪術』に心得があったりするのだろうか?
「…といいますと?」
「『科学者』『魔導士』両者は全く正反対の存在に見える。しかし、そのどちらも『探求者』という意味では同じ存在だと私は思っているのだよ。私も現役時代はなりふり構わず研究に没頭したものだ。」
…なかなか深い言葉だ。俺もその通りだと思う。だからこそ俺は「研究者」で「魔法使い」で「探索者」なのだ。それら三つが相反する存在ながら両立できるのは、根っこが同じだからなんだなぁ。
「…正直君のような強引なのは初めてだがね。」
う。謹んで反省します…後悔はしてないけど。
「しかしまあ、私も特に迷惑を被るわけでないし、気兼ねなく研究しておくれ。私も君の研究に対して元宮廷魔導士としての所見を述べるくらいのことはしてあげよう。」
「ありがとうございます!」
それは本当に助かる。師匠亡き今、魔法の話ができるのはゼシカくらいしか思い当たらないからだ。俺は嬉しくなって近くにいた「どろにんぎょう」に話しかけた。
「君の家のおじいさんはとっても良い人ですね!」
「自分、馬鹿デスカラ、オッシャル意味ガ、ヨクワカリマセン…」
「そいつは人間の言葉がしゃべれないっち。何度話しかけても同じことしか言わないっちよ。」
あ、そうか。このどろにんぎょうは人間の言葉がよく分かっていないんだったな。なら久しぶりに物質語で話しかけてみるか。
「(君の家のおじいさんはとってもいい人ですね)」
「(なんと!貴方は物質語をお話しになることができるのですね。わざわざ私に合わせてくださって恐縮の極みでございます…。ええ、ええ!我が家のおじい様はとてもよくできた方です。そこのスライム、二階のドラキーとこの私がかつて見世物小屋で虐められていた時、助けてくださったのがおじい様なのです。おじい様は私たちを助けてくれただけではなくそれ以来この家に住まわせてくださいました。私たちは彼に本当に感謝しているのです。)」
うわすごい饒舌。見かけによらんな。
「え!?え!?どろにんぎょうが喋ってるっち!?キミはどろにんぎょうの言葉がわかるっちか!?何て言ってるっち!?」
「教えてほしい?」
「教えてほし…いや、教えてほしくないっち!いや、その…」
「教えてほしくないの?」
「いや、教えて…欲しく…あ、アンタ!どっちにしろ教えない気だっち!あまのじゃくの敵だっち!!」
スライムは俺の膝の上でぴょんぴょんと飛び跳ねる。本当に可愛いスライムだな!!俺は両手でスライムを撫で回した。
「ひ、ひえぇ~!!やめるっち!!!」
スライムと戯れる俺を見て老魔術師はニコニコと笑っている。
「全く。本当にふしぎな人だ、ドリィ君は。」
俺はその後、早速泉の周りに
ゼシカのトロデに対する呼び方は「トロデ王」とします。助言してくださった方、ありがとうございました!