ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
ハロー、魔法使いの弟子、ドルマゲスです。
最近は少し遠出して「南の関所」付近で鍛錬を行っており、敵も少し手ごわくなってきたので本格的に肉体改造を始めました。目指すは細マッチョ魔法剣士道化師です。
…
「違う、もっと全身から魔力をかき集めるイメージを持て!」
「ええと、こうでしょうか?『メラ』!」
「違う…!まったく、どうすれば伝わるんだ…」
師匠に魔法を習い始めて数日。俺と師匠は早速挫折しかけていた。俺が驚くほどに魔法を使うことができなかったからだ。師匠も、俺がいくら体質的に魔法が苦手とはいえど、まさか初級の攻撃魔法すら唱えられないとは思わなかったらしい。俺だってバカではないつもりだ。ドラクエ世界の魔法理論は大体理解したつもりである。
この世界の魔法は所謂「精霊魔法」という種類に属する魔法で、呪印の施されたゲート─呪文を唱えるときに体の周りに出現する円環のことだ─に自分の魔力を通し、呪文を詠唱することで魔力が実体化、属性が付与されて様々な効果を与えるというものだ。ゲートを通過させる魔力量を増幅することで『メラ』が『メラゾーマ』になったりする…というわけだ。分かっている、分かっているのだ。しかし…
「なら…こうでしょう!『メラ』!」
「ちがーう!馬鹿者!!やはりお前には魔法は早すぎるわ!もう知らん!わしは寝るぞ!」
ついに諦めて師匠は部屋に籠ってしまったが、カチャカチャとフラスコの音がするあたり、おそらく俺の魔法薬のための研究を続けているのだろう。全く師匠には足を向けて寝られない。
「…うーん」
しかし分からない。ゲートまではなんとか出せるようになったのだが、効果が現れない。ということは考えられる問題は一つだろう。深刻な
早速鍛錬に向かおうとしたところで俺は足を止めた。
「(待てよ…今の俺はドルマゲスだ。勇者じゃない。原作のドルマゲスはどうやって戦っていた…?)」
通常攻撃と呪文だけだったか…?否。念力を使ったり、分身をしたりしていた。そもそもだ。この世界の不思議な術は何も魔法だけではない。「なぞの神官」の光攻撃や、「じんめんじゅ」「どろにんぎょう」などの使う『ふしぎなおどり』、「レッドテイル」の呪いの玉、最近実際に食らった技でいうと「プークプック」の『ひつじ数え歌』など、明らかに魔法でないものがある。「プークプック」の場合は種族特有の行動なのかもしれないが、「じんめんじゅ」、「どろにんぎょう」はそれぞれ自然系、物質系…と系統も異なる魔物のはずだ。しかし「ふしぎなおどり」は使用者に相違なく効果を及ぼすので、そこに共通のプロセスが存在するのは確かだ。これらは勇者たち人間が使う『特技』とは明らかに一線を画している。なんならMPが0のモンスターでもこういった技を為すことがあるのだ。もしかすると、俺にも使えるようなものがあるかもしれない。
俺は魔法と区別するために、これら呪文を用いない不思議の術を「呪術」と仮称することにした。名称は運命を操るほどの強力な技を使った七賢者が一人、『大呪術師』クーパスから拝借した。橋の街「リブルアーチ」でご主人様にイジメられているチェルスくんのご先祖様だ。
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それはそれとして、だ。鍛錬を欠くわけにはいかない。健全な精神は健全な肉体に宿るのだ。
「南の関所」付近はリーザス地方の魔物が紛れ込むことがあるのでなかなか手ごたえがある。最近は同時に4匹の魔物を相手取ることができるようになった。先の戦いでドランゴに殺されかけた経験から背後の殺気も敏感に感知でき、対処できるようになったのだ。俺は「リリパット」の放つ弓矢の軌道を冷静に見切り、抜かりなく盾で全て叩き落としてから距離を詰めて「こんぼう」で殴りつけた。
「ふう…やはり呪文はあまり使ってくれませんね…」
素人が呪文を覚えるためには、その呪文を魔導書などから情報として理解するか、実際に目で見て技術を盗むしかない。レベルが上がるだけで神から啓示が下りてくる勇者パーティーとは違って、一般魔導士は苦労するのだ。リリパットは『スクルト』をまれに使うのでぜひ見たかったが…まあ機会はいくらでもある。そう思いなおして腰を上げると、遠くに見慣れた少女の姿が見えた。
「ユリマさん!?危ないですよ、一人でこんなところまで来ては…」
「ご、ごめんなさい…あの、ドルマゲスさんに相談したいことがあって…」
「私に相談?…いいですよ、お力になれるかは分かりませんが…是非聞かせてください」
わざわざ俺が町を出てから来たことを考えると、町中ではしにくい相談なのか?…とりあえず俺はユリマちゃんを自分の隣の切り株に座らせ話を促した。
「あの…その…」
ユリマちゃんは言い出しにくそうにしている。少し空気が硬いかな。せめて話しやすくなるように精一杯の笑顔で黙って見守っていてやろう。
「え、ドルマゲスさんどこか痛いんですか?顔がこわばってますよ…?」
…。逆効果だった。俺は少ししょげながら自然体に戻った。
「い、いえ、私は大丈夫ですよ。それより相談というのは…」
「あ、相談は…ですね…えと、……私のお父さんは、本当のお父さんじゃないかもしれないんです…」
「なんと…!?」
そんな吉良〇影みたいな…と思ったが、そうだった。ユリマちゃんとルイネロさんは実の親子ではないのだ。
「それでね、本当のお母さんとお父さんは多分もう…いないと思うんです。お父さんの占いはよく当たるから、それに目を付けた悪い人が本当のお父さんとお母さんを狙って…」
「なるほど…」
「うん…」
大方酔ったルイネロさんがうっかり漏らしてしまったとか、そんなところだろう。そしてルイネロさんは言ってしまったことを全く覚えていないのだろう。まったく酷い親父である。しかもそんな衝撃の事実を年端もいかぬ少女一人に背負わせるとは…さて、なんて声をかけたものか。
「こんなことお父さんには言えないし、町の人にも心配かけたくなくて…あ!ドルマゲスさんには迷惑かけていいとかそういうのじゃなくて…えっと!とにかくお父さんはきっとそれが原因で占いが当たらなくなっちゃったんです!」
「占いの力で驕って…得意になっていた自分がイヤになって水晶玉を『滝の洞窟』に捨ててしまったということですね?」
「!なんでわかったんですか!スゴイ!!」
目をキラキラさせる少女に対して流石にただの原作知識だ…とは言えない。ゴメンよ。
「ふふん、手品です。驚いたでしょう?」
「スゴイ!やっぱりドルマゲスさんはすごい魔法使いさんなんですね!」
うーん、
「ありがとうございます…わかりました。私が責任をもって水晶玉を取ってきましょう。でもここにいたら危ないので先に町に一緒に帰りましょうね」
「はい!お願いします!!」
結局彼女を慰められるような上手い言葉が思いつかなかったので、水晶玉を返して役に立つという結果で示すことに決めた。
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──滝の洞窟──
一度トラペッタに帰った後、俺は準備を整え滝の洞窟までやってきた。滝の洞窟にはおそらくそこまで恐い敵はいないはずなのでさっさと進んでしまおう。おっと、途中で「どうのつるぎ」を拾うのも忘れずに。十分にレベルは上がっているので洞窟内では「メラゴースト」の『メラ』を観察したり、倒した「メタッピー」の構造を解析したりして有意義に過ごすことができた。途中に自称力自慢の「おおきづち」がいたのでニコリと笑いかけると無言で道を空けてくれた。なんだったのか。
そして最深部。おそらくここに水晶玉と、水晶玉をぶつけられた被害者がいるはずなので一応「やくそう」を飲み込んでいく。あぁ…苦い。早く『ホイミ』覚えたいなぁ…
「すみませーん!誰かいらっしゃいませんかーぁ!」
とりあえず大声で叫んでみると水辺からマーマン…もとい滝の主ザバンさんが現れた。
「うるさいのぅ、おちおち昼寝もできんわ!なんじゃお主は!何の用じゃ!」
「すみません、このあたりに大きな水晶玉は落ちていませんでしたか?」
「…!お主…!まさかとは思うが水晶玉の持ち主ではあるまいな…?」
「いいえ違います、私は旅の道化師でして…まさにその持ち主から水晶玉を取ってこいとの命を受けて馳せ参じた次第でございます」
「道化師ィ…?それにしちゃあ地味じゃな…どれ、一つ芸を見せてみろ、そうしたら信用してやるわい」
おお、これは戦わずに済むのではないか?よし、道化師の実力見せてやるぜ!
俺は手品と魔法(のような何か)を織り交ぜたマジックを披露した。
「ほォ…これは面妖な…なるほどこれは趣深いわ、お主は確かにあのアンポンタン占い師ではなさそうじゃな。よし水晶玉は返してやる、元より邪魔だったしな。あと持ち主に『何でもかんでも滝壺に捨てるな』と伝えておいてくれ」
よし、戦闘回避!!痛いのは嫌だもんね!助かった!
「ありがとうございます…そして伝言確かに承りました」
「ではな」
はい、と言おうとして思い出した。確かこの人(?)も呪いの霧という技を使っていたはずだ。彼には話も通じそうなので、少し聞いてみることにする。
「ああ、お待ちください。少し聞きたいことがあるのですが…立ち話もなんですし少しお茶でもいかがです?」
「…ふむ、わしも他にやることも無いしの、付き合ってやるわい。その代わり茶ではなく肉をくれい」
…
「ふぅ…満腹じゃ。さて若いの、何でも聞くといいぞ」
「はい、では────」
ザバンさんの話は興味深かった。俺の仮説は概ね正しく、『ひつじ数え歌』などの種族の特徴を生かした行動は『特技』と呼ばれるが、ザバンさんの呪いの霧などは別の系統らしい。ちなみに「ふしぎなおどり」や「さそうおどり」は『踊り』と呼ばれる一つの体系の中の一種なのだとか。
「私はこれら魔法以外の不思議の術を『呪術』と呼んでいます。私にも呪術は使えるでしょうか?」
「うむ、お主が呪術と呼ぶものは誰にでも扱うことができる。それには魔法のような破壊力こそないが、応用力は魔法のそれを超えるぞ。呪術、か。悪くない響きじゃな。…呪術を使うためには「霊力」という力が必要じゃ。といっても霊力は魔力のように増えたり減ったりはしない。使えるか使えないかのみじゃ。霊力を行使するため必要なことはたった一つ。『自分には霊力がある』と信じて疑わないことじゃ」
「なに、そんなことで可能になるのですか…!?」
「そうじゃな。何故呪術を扱える人間が滅多にいないのかというと、『あれは魔物の技で人間には使えないものだ』と強く思い込んでしまうからじゃ。呪術には魔法のような華やかさがないどころかむしろ悍ましいものじゃからな、それも拍車をかけておるのじゃろう」
「ざ、ザバンさんはすごく色々なことを知っておられるのですね…」
「ここには情報が水に乗って流れてくるからの。水のうわさというやつじゃ」
「は、はぁ…(どゆこと?)」
確かに俺も自分が原作ドルマゲスを知っていて、かつ自分が今現在ドルマゲスでなければ一介の人間が海を渡ったり「いてつくはどう」を使ったりできると思ってはいないだろう。とにかく、これは呪術研究において大いなる一歩に違いない!
「本日は色々ありがとうございました。これはお礼と詫びの品です」
「わしも久々に楽しかったわい!また来るのじゃぞ!」
ザバンさんに予め用意しておいた痛み止めの軟膏を渡すと、俺は帰ったら行う予定の呪術研究に思いを馳せ、ワクワクしながら滝の洞窟を後にした。
…
「ああ、そうじゃ!水のうわさで数年後にトロデーン城で…と、もう聞こえんか」
ザバンは誰もいなくなった最深部で一人頭をさすった。
今回登場した「霊力」なる独自設定は、呪術の設定付だけのために登場したものであり、原作がドラクエという現状を鑑みて今後はあまり登場させることはないと思います。一方「呪術」というワードの方は魔法以外の術をカテゴライズするために便利なため、これからも使用させていただくことを事前にお詫び申し上げておきます。
ザバンは水晶玉が捨てられてから原作ほど時間が経過していないのでまだ相手の話に耳を傾ける余裕があった、ということにしています。
ドルマゲス(男・22歳)
趣味:鍛錬、研究、料理
レベル:11
職業:魔法使いの弟子
魔法:光源として微小な魔力を浮かすことはできる
呪術:霊力の存在を知った
特技:冷たい笑み
好きなもの:新しい手品を考えること
嫌いなもの:ドランゴ