ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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やっとこさ勇者編が一区切り終わります。なんやかんやで長引いてしまった…。








Chapter18 トロデーン国領 ②

『未来国家』アスカンタに入城した一行。そこにはまるで別世界かのような風景が広がっていた。動く床、鉄の乗り物、「家魔」と呼ばれる未知の技術が詰め込まれた機械。知らない世界に思わずはしゃいでしまう一行だが、異様な硬さと戦闘スタイルを持つ魔物に襲われ窮地に陥る。しかし怪物と共に現れた『キラ』と名乗る少女によって魔物たちは一匹残らず倒れ、トロデに傷を負わせる事態は回避できたのであった。

 

 

 

 

一行は少女キラについていく形でアスカンタの城下町を歩いていた。

 

「あっ、キラちゃん。さっきの警報はなんだったんだい?」

 

「セキュリティサービスの誤作動のようです。被害は出ておりませんのでご安心ください!」

 

「避難訓練は何回かやってたからすぐに隠れられたけど、『警報』がなるなんて初めてだ…まさかこの街に本物の魔物が出たとか…!?」

 

「いえ、そのような様子は確認されませんでしたよ。ご心配をおかけしました。」

 

「"がーでぃあん"だ!キラさんもいるぞ!おーい!」

 

不安そうな国民たちにテキパキと応対し、キラは大きく手を振る少年たちににこやかに手を振り返した。どうやらさきほどの魔物の鳴き声はこの街の人々にとっては『警報』で、国民たちは家の中に避難していたらしい。

 

「なぁ…キラと言ったか?その…そいつは何なんだ?"がーでぃあん"って呼ばれていた…キラーパンサー?なのか?」

 

「あ、えっと、彼の名は『ソルプレッサ』と言います。私の…大事な相棒です。"ガーディアン"と言うのはアスカンタ王国がソルプレッサさんに付けた称号のようなものですね。その称号が浸透し始めたのは最近のようですが…国内で起きる犯罪事件はたいてい彼が一瞬で鎮圧できますから。"ガーディアン"とは"守護者"を意味する語だそうです。…ここで少しお話をしましょうか。」

 

キラはアスカンタ城中央塔の近くにある民家の一つの前で足を止めた。ここいらの建物は他の国でもよく見る建築様式だ。周りに出歩いている人もいなければ、店も出ていない閑静な住宅街である。

 

「あれ…?ここでいいの?(この子、アスカンタ王室の関係者かと思ってたけど…)」

 

「はい。今は空き家ですが、ここはかつて私の住んでいた寮です。今の私はアスカンタ政府の者ではないので…。」

 

「わけありか。話を聞こうぞ、エイト。」

 

「わかりました。ですが、王様は絶対出てこないようお願いします…」

 

キラは民家に入りきらないソルプレッサを家の前に待機させ、一行を招いた。

 

「おっおい!そのキラーパンサー、馬姫様…じゃないアッシらの馬車を取って食ったりしないでがすかね!?」

 

「大丈夫ですよ、彼は食事を必要としません。あまり外では憚られる話題ですので、どうぞ中へ…」

 

「んー…」

 

エイトは服が内側からグイグイと引っ張られる感触を感じた。まあ…トロデの言いたいことはわかる。

 

「あー、すみません。僕らの馬はさみしがり屋でして、誰かがついていなくちゃいけないんですよ。なので僕は外にいますね。」

 

「そ、そうですか。すみません、気が回らず…」

 

「兄貴が付いてるなら安心でがすね。」

 

「エイト、何かあったらすぐに呼んでね!」

 

エイトとトロデはミーティアのそばで残り、ヤンガスたちはキラに連れられて民家へと入っていった。ソルプレッサと名付けられた怪物は、エイトとミーティアを一瞥したかと思うと、ぷいと向こうを向いて寝転んだ。

 

「(…こんな恐ろしい魔物があんな女の子に連れられているなんて…)」

 

 

「…なるほど、あなたがたは我が国の王パヴァン様との謁見を望まれてアスカンタにいらっしゃったのですね。」

 

「そうなの。この国は本当にすごいわね。なんというか…こう、ぐわーっ!って感じで見たことないものが押し寄せてくる感じ。とても刺激的だわ。」

 

「右に同じでげす。」

 

まだ興奮を抑えきれていないゼシカとヤンガスだが、反面ククールは机に両肘をついて手を組み、真剣な表情でキラに鋭い視線を飛ばした。

 

「それで本題なんだが…アスカンタに技術提供をした"U.S.A."ってのは何者なんだ?」

 

「??」

 

「…お茶でもどうぞ。この国の更に北の地で採れたダージリンです。」

 

キラはククールの質問には答えずにカップに紅茶を注いだ。夏摘み(セカンドフラッシュ)の官能的な香気が部屋にふんわりと広がる。

 

「ククール、そのゆーえす…なんとかってのはなんなの?さっきこの子も名乗ってたけど…」

 

「『家魔量販店』の店主から聞いたよ。この国の技術は全てU.S.A.って組織から流れてくるんだと。」

 

「…それはきっと今話すべきじゃないのだと思います。申し訳ありません…。」

 

「…」

 

「今の私が問いたいのは『なぜセキュリティサービスが活性状態に入ったのか』です。彼らは絶対に絶対に人を襲うことはありません。」

 

キラは客人が誰も紅茶に手を付けないので、仕方なく自分のカップにも紅茶を注いで口をつけた。これで毒や薬を混ぜていないということは相手に伝わるだろう。

 

「…」

 

「正直にお答えください。皆様は『魔物』をこの国に連れ込んだ、もしくは()()()()()()()()()()が流れている方が皆様の中にいらっしゃるのではないでしょうか…?」

 

「!?」

 

「…!」

 

「で、でもよ嬢ちゃん!もし『魔物』がいるってんなら、入口の『すきゃん』?だかなんだかで弾かれるんじゃねぇのか?アレはそういう検査じゃないってのかい?」

 

「それは…その通りでございます。『スキャン』は確かに対象者が魔物か否かを判断するシステムです。しかし稀に()()()()()()()()()()という存在がいらっしゃるため、そういう者は通す代わりに私に通報が行くようになっているのです。そして私が駆け付ければ案の定皆様はセキュリティサービスたちと戦闘になっており…」

 

「…」

 

「…ああ、確かにオレたちは『魔物』を連れ込んださ。」

 

「ちょっと!」

 

「ククール!?」

 

「ヤンガス、ゼシカ。お前らよく考えてみろ。オレたちはじいさんのことを安全なヤツだってわかってる。でもこの国の奴らにとっての魔物なんて依然として恐怖の象徴だ。外から来たオレたちが恐怖をバラまいてちゃただの侵略者、そうは思わないか?その上に嘘までついちゃ神様も救っちゃくれない。」

 

ククールの言い分はもっともだ。魔物に侵略されて地図から消えた村なんてものは少なくない。だからこそゼシカの兄、サーベルトは毎日村周りのパトロールを行っていたのだ。

 

「…まあ…そう、ね。」

 

「…理由をお聞かせ願います。」

 

「…。信じちゃあもらえないだろうが―─」

 

ククールは先ほどは伏せていた「旅の目的」「この国に来た目的」「トロデ王の意向」を伝えた。

 

「──なるほど。理解しました。私、キラは『魔物と化した他国の王をアスカンタに連れ込んだ』皆様を信用します。」

 

「…何よ、それって随分トゲのある言い方じゃない?」

 

皮肉ともとれるキラの言葉がゼシカの癇に障ったのか、少し強い語気で抗議したが、キラは毅然とした態度で返した。

 

「…あの『デンデン竜』は『デンすけ3号』という名前でした。」

 

「え?」

 

「…武器屋の息子さんは両親が不在の間、よく『デンすけ3号』に遊んでもらっていました。道具屋の店主が積荷をひっくり返してしまった時、『デンすけ3号』は身を挺して割れ物を守り、それ以来道具屋の店主は『デンすけ3号』をペットのように可愛がっていました。」

 

「な…」

 

キラはくいっと紅茶を飲みほした。淹れたばかりのダージリンはキラの舌と喉を朱く焼いたが、キラにとっては些細なことだった。

 

「アスカンタ全域のセキュリティサービスは私の管轄下にあり、いつでもその動きを止めることができます。『デンすけ3号』の破壊を止めることのできなかったのは到着の遅れた私の責任です。世界を救おうと旅を続ける皆様にケガがなくて本当に良かった。それは本心です。」

 

「…」

 

「…私は皆様の大義を信じこの()()を秘匿しましょう。皆様は何も悪くありません。トロデ王に悪気はなかったようですし、なによりこの国のことを何も知らなかったのですから…。ですので…今の言葉は私の…大人げない、八つ当たりです。ごめんなさい。」

 

「…」

 

キラはぺこりと頭を下げた。紅茶は、もう冷めてしまっていた。

 

 

「あ、みんな、おかえり。大丈夫だった?」

 

「あぁ兄貴。大丈夫でげす。さっきの嬢ちゃんが『月影のハープ』を貸してくれるようにこの国の王様に掛け合ってくれるらしいでげすよ…。」

 

「…?」

 

民家から出てきた仲間たちはどことなくやるせない顔をしている。エイトがそれを疑問に思い何があったのか聞こうとしたが、キラが乗り込んだ怪物が大きく飛び上がった風圧で遮られた。

 

「ひゃー…。すっごい…」

 

怪物はひと跳びで中央塔の屋上まで登った。相変わらず跳躍や着地の際に音はしない。恐るべき衝撃吸収機能である。残された一行は『月影のハープ』を借りるためキラの帰りを待っていた。

 

「ああ、それでみんな、少し元気がないみたいだけど…中でどんな話をしたの?」

 

「まあ、オレたちの旅の目的だな。じいさんのことも話したぜ。」

 

「なんと!わしの話をして、あの娘は信用してくれたのか!?」

 

服の中からトロデが叫ぶ。あんまりトロデが動き回るのでエイトは思わず体勢を崩した。

 

「信用するってさ。…あのお嬢さん、まるでいつかこんなことが起こるとわかってたみたいな雰囲気だったな。なぁ?」

 

「そうでげすね。おっさんの話をしても特に驚いていなかったでがす。でもドルマゲスの野郎との繋がりはわからなかったでげすよ。何も聞いても知らないの一点張りでがした。」

 

「…それでね、エイト。私たちが倒した魔物…この国の武器屋の子どもや道具屋の店主の友達だったんだって。」

 

「えっ…?」

 

ゼシカはキラの話が少し堪えたようだ。言葉の端々にも力がない。

 

「私たち、この国の人の心の拠り所を一つ壊しちゃったのよ。」

 

「そっか…。…思えばあの魔物は最後まで一度も僕らを襲おうとはしなかったね。」

 

エイトはトロデを傷つけぬよう、それに続く「人間とそれ以外を区別できているんだね」という言葉は控えることにした。

 

「ま、ここの魔物にはこれから不用意に手を出さないってことでいいじゃないか。キラは今特例で魔物たちの警戒を緩和してくれるらしい。こっちからちょっかいかけない限りは問題ないだろ。な?ゼシカ」

 

「うん…」

 

ゼシカが自身の肩にさりげなく置かれたククールの手を払いのけていると、怪物(ソルプレッサ)と共に再びキラが現れた。

 

「うおっ、あの巨体で無音とは相変わらず薄気味悪いバケモノでがすね。」

 

「しっ!ヤンガス、あんたさっきの話から何も学んでないの?あの『キラーパンサー』はキラの相棒だって言ってたじゃない!人の相棒に薄気味悪いなんて本人の前で言うんじゃないわよ!」

 

「き、気を付けるでがす。」

 

「…皆様、こちら『月影のハープ』でございます。」

 

今のヤンガスの言葉はキラに聞こえていたのか否か。エイトたちは後者であることを祈るばかりだ。…キラの後ろに控える怪物が自分たちでは到底敵わない相手であることは明白なのだから。キラは光にさらさずとも淡く輝く白金色の竪琴をエイトに差し出した。

 

「ほう…」

 

「キレイ…!」

 

「これが…」

 

「要求しておいてなんだけど、本当に貰っていいのかな?」

 

「アスカンタ王パヴァン様は大変懐の深いお方です。私が事情を申し上げますと、世界のためならと快く竪琴を賜ってくださいました。そのため返却は不要でございます。…その代わり世界を救うために必ず役立ててくださいね。」

 

「ありがとうございます。必ずや役立ててみせましょう。」

 

「…はい。それとこちらは私から。…というよりいつか来る皆様のために()()()()が予め用意なさっていたものです。ぜひ冒険にお役立てください。」

 

キラは自身のてのひらほどの小さなプレゼントボックスをヤンガスに渡した。受け取ったヤンガスは想像していた以上の箱の重さに少し驚く。

 

「うおっと。これは一体なんでがすか?かなりの重さでげすが…」

 

「耳にかける装飾品で、名を『しあわせの耳飾り』と言います。効果のほどは自身でお確かめください。」

 

「何から何までありがとう。それと…ごめんなさい。『デンすけ3号』さんのこと…」

 

魔物を連れ込んでいると発覚して以降ずっと険しい顔をしていたキラだったが、すっかりしおらしくなったゼシカを見て、少しだけ顔をほころばせた。ように見えた。

 

「…先ほども申し上げましたが、私は皆様の行為を赦しています。国民の皆様には私から説明しておきましょう。現在アスカンタ王国内のセキュリティサービスは皆様のため一時的に全機を待機状態にさせていますが、このままでは国防に支障が出てしまいますので…」

 

「そっか…早めに出て行った方が良さそうだね。」

 

キラは何も言わず右手の人差し指をぴんと立ててみせた。

 

「…一時間」

 

「「?」」

 

「武器防具や道具を揃える時間は皆様にも必要でしょう。本来ならすぐにでも退出していただきたいものですが…世界をお救いになる皆様です。一時間程度なら私とソルプレッサさんで国防は賄えるので、準備ができ次第出発なさってくださいませ。」

 

「あ…ありがとう!」

 

「では皆様…またいつか。」

 

そう言うとキラはスタスタと町の奥へと姿を消してしまった。怪物もキラに追従し完全に見えなくなったところで、トロデがエイトの服の中から飛び出し、そしてそのまま馬車の荷台へと飛び込んだ。

 

「…ふぅ…他人の服の中というのはどうにも息苦しくてかなわんわい。」

 

「王様、他に選択肢の無かった状況とはいえ、申し訳ありませんでした。」

 

「よい。さて、パヴァンの直接の言葉は聞けなんだが、ワシらを応援してくれるという意向は伝わったし、現にこうして『月影のハープ』は手に入ったのじゃ。頃合いの良いことにもうじき日暮れ、準備を整えてトロデーンへ向かおうぞ。」

 

「…ちょいとおっさぁん、アッシらはほとんどおっさんのわがままのせいでキラの嬢ちゃんに目をつけられたようなもんでげすよ?そいつぁちょっと淡白すぎないでげすかね?」

 

「…すまん」

 

「?…おっさん?」

 

ヤンガスは今に飛び掛かってくるぞとトロデを待ち構えていたのだが、なじられたトロデも先ほどのゼシカ同様少し元気が無いように見えた。…そう、二人は『失う』辛さを知っているのだ。意図せずとも自分たちが『奪う』側に加担してしまっていたという事実はヤンガスたちの想像より重くのしかかったようだった。

 

「…ワシは今後一切町には近寄らんことにするわい。…なに、馬車の中だってやることがないわけでもあるまいて。」

 

「おっさん…」

 

「ヤンガス。じいさんやゼシカには思うこともあるんだろうさ。時間は有限なんだ、オレたちはさっさと買い物しようぜ。…あ、でもエイトは武器屋には寄るなよ!?お前が武器屋に入ったら2時間は出てこないんだからな。」

 

「えぇ~!そんな殺生な…」

 

「殺生もコショウもねぇよ!ほら行くぞ!!」

 

ククールはヤンガスとエイトを連れてさっさと繁華街の方へ向かった。きっとゼシカやトロデに気を遣っての行為なのだろう。ゼシカは少しククールを見直した。

 

 

「…エイト!」

 

「ゼシカ」

 

食品を買い込んでいたエイトに、ゼシカが声をかけた。少し時間を置いたおかげか、ゼシカの顔にほとんど影は見られない。

 

「私…さっきまで酷いことをしちゃったなって凄く反省してた。わざとじゃないって言ったって…奪っちゃったものは事実。」

 

「うん。」

 

「でもせっかく許されたことをいつまでも考えていたって仕方ないって思ったの。だから…湿っぽいのはこれでおしまい。」

 

「…ゼシカが元気になってくれて僕は嬉しいよ。」

 

「…えへ、なぁにそれ!そんなに元気のない私が珍しかった?…じゃあまた後で!ヤンガスとククールにも言って来なくっちゃ!」

 

どこまで行っても眩しいくらいにゼシカは前向き。エイトは少し彼女を羨ましく感じながら手を振った。この様子ならきっとトロデの調子も戻っていることだろう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─アスカンタ城内部─

 

「…キラ、『勇者』たちはどんな人物だった?できれば僕もトロデ王と直接会って話してみたかったが…」

 

アスカンタ王城の謁見の間。アスカンタ王パヴァンと王妃シセルは目の前で傅く金髪の少女から報告を受けていた。沈みゆく夕日の光が部屋に差し込み城内は黄昏に美しく彩られる。しかし日光が王妃の顔に当たって眩そうにしていることに気が付いた大臣は、慌ててカーテンを閉じた。

 

「…おおよそドルマゲス様がかつておっしゃっていた内容と同じでしたわ。でも………私、あの人たちのこと、好きにはなれない気がします。」

 

キラは顔を上げないまま小さな声で告げた。

 

「ああ…」

 

シセルはキラの心中を察し、顔を伏せた。勇者たちはそもそも国を滅ぼされた復讐、もしくは国の奪還を目的に旅をしているので、その元凶たるドルマゲスに敵意を表すのは当然のことではある。そして襲ってくる魔物を迎撃するのも冒険者にとってはまた当然なのだが…仕方ないとはいえ、ドルマゲスに強い憧れを抱くこの少女にその敵意は少し耐え難かったのだろう。

 

「キラ、君の気持ちも分かる。僕だって目の前で恩人を酷く貶されたらどう感じるか…しかし『勇者』たちはドルマゲス曰くこの世界の命運を左右する重要な人物なんだろう?」

 

「そっ、それは王様の仰る通りでございます…申し訳ありません、私情で…」

 

「いいのよ、キラ。それよりドルマゲスに報告してあげたら?せっかくドルマゲス待望の『勇者』と接触したんだから、連絡すればいいのよ。色々積もる話もあるんじゃないかしら?」

 

シセルは縮こまっているキラを慮って話題を変えたのだが、キラは更に小さくなってしまった。

 

「その…ドルマゲス様に連絡するような…資格は私にはありません…」

 

「?」

 

「私は…まだあの方の何にもなれていません。ドルマゲス様にとっての私は…きっと…」

 

「…」

 

どうやら現在ドルマゲスとキラ、二人の間には微妙な空気が流れているらしい。まあおそらくキラの思い込み・勘違いとドルマゲスの大雑把さが悪い方向に噛み合っているだけだろうが…パヴァンとシセルはほぼ同時にため息を吐いた。

 

「…わかった。今回は僕らから報告しておく。しかし早めにドルマゲスと仲直りすること、いいね?」

 

「キラ。今日はありがとう。あなたがこの国の『めんてなー』になってから民たちの生活はより豊かで安全なものになったわ。あなたもドルマゲス同様、この国の英雄よ。私たちにできることがあったらいつでも言ってね。」

 

「た、大変もったいないお言葉…!ありがとうございます!誠心誠意努めます!で、では失礼します!」

 

キラはそそくさと退出した。おそらくU.S.A.に帰還するのだろう。キラが退出すると大臣がぼそりと零した。

 

「…ドルマゲスも大変ですな」

 

「それはキラもお互い様ですわ。ドルマゲスったら!キラを泣かせたら承知しないんですからね!」

 

「シセル、でもキラは昔の君にそっくりだよ。」

 

「あらあなた、あなたこそその大雑把さはドルマゲスとそっくりよ?」

 

「で、では二人はお似合いということですな!はは…」

 

長くなりそうな予感がした大臣がうまくまとめたのでその場は収まった。普段から仲のいい王と王妃だが、それだけに言い合いが始まるとそれもまた長い。大臣の胃はいつもピンチである。

 

シセルがカーテンを開いて空を見上げると、既に日は落ちて少し欠けた月が出ていた。その月光があんまり優しくシセルを照らすので、シセルは何故か笑ってしまった。

 

「(不思議ね…。月の光を見るとなぜあなたの顔を思い出すの?パヴァン…)」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─トロデーン城─

 

欠けた月から伸びる月光は、再び影に像を結ばせた。再度トロデーン城を訪れた一行は今度は迷いなく図書館に辿り着き、伸びる影が扉、あるいは『窓』を型取っていく様子を見つめていた。

 

「兄貴、『月影のハープ』はあるでがすね?よっし、ならもいちど月の世界へ行きますかい!」

 

「月の世界なんて本当にあったのか、今でも半信半疑だぜ。ま、それもこの『窓』を開けばわかることか。」

 

「トロデ王は行かないの?月の世界なんて多分もう二度とお目にかかれないと思うけど。」

 

「興味はあるが、やめておくわい。ミーティアを一人にさせるわけにもいかんしの。」

 

「では王様、行って参ります!皆行くよ!」

 

エイトの声に続いて、ヤンガスたちも「月影の窓」に手を伸ばし月の世界へと足を踏み入れた。

 

 

またもや幻想が支配する不思議な世界に入り込んだエイトたち。前回と訪れた時と特に変化はなく、変わらず青い世界は静寂(しじま)を奏でていた。そのまま進んで小さな館に足を踏み入れると、館の主であるイシュマウリが目を閉じて佇んでいた。

 

「…数多(あまた)の月夜を数えたが、これほど時の流れを遅く感じたことは無かった。」

 

「あの…イシュマウリさん」

 

「皆まで言わずとも、その輝く顔でわかる。見事『月影のハープ』を見つけてきた…そうだろう?」

 

「ご明察でがすね。」

 

「ああ、オレたちはアンタの言う通りハープを持ってきたぜ。」

 

「さあ、見せておくれ。海の記憶を呼び覚ますにふさわしい大いなる楽器を。」

 

エイトは頷くと、月の世界に来てより一層輝きを増している『月影のハープ』を差し出した。するとまるでその時を待ちわびていたかのようにハープが光を放ち、イシュマウリの手へと吸い寄せられていく。イシュマウリは振り返ると両手で優しくハープを包んだ。

 

「……この月影のハープも随分長い旅をしてきたようだ。…そう、君たちのように。よもや再び私の手に戻る時が来るとは。……いやこれ以上はやめておこう。」

 

「これでホントに船が蘇るのか?ハープを持ってきておいてなんだが、オレはまだ半信半疑だぜ。」

 

「無論だ。さあ、荒れ野の船のもとへ。まどろむ船を起こし旅立たせるため歌を奏でよう。」

 

愛おしそうにハープを撫でるイシュマウリ。どうやらハープは元々彼の所有物だったらしい。イシュマウリがハープをひと(はじ)きすると、奏でられた音に呼応するように館中を強く、しかし柔らかな光が包み込んだ。

 

「わっ…」

 

 

「…?」

 

エイトたちが再び目を開くと、そこは月の世界でなく、打ち棄てられた船があるトロデーンの荒野だった。なんと城にいたはずのトロデとミーティアもいる。

 

「なっ、なんじゃあ!?」

 

「王様!姫!」

 

「おっさんいつの間に!」

 

「わしが言いたいわい!おぬしらいつの間に!?──って!?」

 

トロデは辺りを見渡し、ようやくここが荒れ果てた城の中ではないことに気が付いたようだ。

 

「こ、これはどういうことじゃ!?わしらはさっきまで──もがが!」

 

「おっさんちょっとやかましいでげすよ。」

 

状況についていけないのは誰しも同じ。しかしヤンガスはいち早く落ち着きを取り戻し、パニックになって騒ぐトロデの口をふさいだ。それを見たエイトは、自分よりよっぽどヤンガスの方が兄貴分にはふさわしいのにな…と思う。こればっかりはヤンガス次第なので考えても仕方のないことではあるが。

 

そんな喧騒をよそに、イシュマウリは古代の船へと近づき、その手のひらで優しく触れた。

 

「この船も月影のハープも……そして私も、みな旧き世界に属するもの…」

 

「(旧き世界…?)」

 

「礼を言おう。懐かしいものたちに、こうして巡り合わせてくれたことに。」

 

ゼシカが茫然と呟くが、イシュマウリは意に介すことなく白銀のハープを弾き始めた。

 

 

 

~♪~♪

 

 

 

ハープが音楽を奏でると、どこからか魚が現れた。魔物かと警戒したが、どうやら触れることはできない幻のようだ。これが、大地の記憶とやらなのだろう。

 

「さぁ、おいで。過ぎ去りし時よ、海よ。再び戻ってきておくれ」

 

淡い金色の光が溢れ、イシュマウリを中心に水の幻が現れる。水は徐々に満ち、このまま海の幻が現れる…エイトがそう思ったところで、しかしイシュマウリはハープを下した。幻は再び霧散してしまう。

 

「ありゃ?こりゃどうしたんでげすか?」

 

「なんと……月影のハープでもだめなのか……」

 

肩を落とすイシュマウリ。収まるべきところに収まって最高の状態にあるこの『月影のハープ』でもだめならば、やはりこの船を再び海原へと戻すことは…。イシュマウリがそう諦めかけたとき、静観を決めていたミーティアが突如声を上げた。

 

「姫!?」

 

「何だ?どうかしたのか?」

 

慌てて皆が近寄るが、ミーティアはイシュマウリへと近づいていった。イシュマウリもミーティアへと近づいていく。

 

「…」

 

「……そうか。気が付かなかったよ。馬の姿は見かけだけ。そなたは高貴なる姫君だったのだね?」

 

ミーティアの顔へと手を差し出し、イシュマウリは優しくその頬をなでる。

 

「言の葉は魔法の始まり。歌声は楽器の始まり。呪いに封じられし、この姫君の声。まさしく大いなる楽器にふさわしい。姫よ……どうかチカラを貸しておくれ。私と一緒に歌っておくれ」

 

「ヒヒーン…!」

 

肯定するようにミーティアが鳴く。これでもう大丈夫。そういった笑みを浮かべながらイシュマウリは再びハープを奏でた。そのメロディーに乗せて、ミーティアの声が交わっていく。

 

水が溢れだし、やがて荒野が海のように水で満たされていく。土の上にいたのに、水の中にいるような感覚だ。だが、その水はやはり幻であるのでエイトたちは呼吸ができる。しかし浮力は働く。妙な感覚に一行は思い思いの行動で表現していた。唯一トロデだけがミーティアの歌声に聞き入っていた。勢力を増す水はさび付いた船を持ち上げ、次第に浮き上がっていった。本当に幻なのかを疑ってしまうほどの現象だ。浮上した船への道が現れ、一行は船へと乗り込んだ。

 

「…やれやれ、ここまでされちゃあ信じないわけにはいかねぇよな…」

 

「イシュマウリさん!」

 

「……さぁ、別れの時だ。旧き海より旅立つ子らに船出を祝う歌を歌おう……」

 

「ありがとうございました!」

 

手向けとばかりにハープを弾くイシュマウリ。その姿は朧になり、やがて見えなくなっていった。おそらく月の世界へと帰っていったのだろう。船は幻の潮に流され、やがて現実の海へとたどり着いた。

 

「…」

 

「何が何だか……アッシにはどうにもわからないでげすが……」

 

「寝ぼけたことを言うな! すべてワシのかわいい姫のおかげじゃわい!」

 

「ま、これでようやく奴…『物乞い通りの魔王』を追えるってことだな」

 

「アッシの勘では『魔王』と一緒にドルマゲスの野郎もいる気がするでがすよ。」

 

「…これで私たちは全ての海を渡ることができるようになったわ、エイト。まずは先んじてサザンビーク王国に潜入しているディムと合流しましょ。『闇の遺跡』に向かうのはそれからよ!…ドルマゲス…あなたを絶対に見つけ出す…!それから兄さんのこと、洗いざらい吐いてもらうわ…!」

 

ゼシカの目で闘志が燃える。文字通り世界のどこにでも届く足を手に入れたことで気が大きくなっているのだろう。興奮しているという点ではククールやヤンガスも同じだ。エイトはまた一つドルマゲスへ近づいた感覚を握りしめながら、古代船の舵を取った。

 

 

 

 

 




原作との相違点

・パヴァンと会わなかった。
ある程度の事情を知っており、自分もトロデーン滅亡と無関係とはいえないと責任を感じているパヴァンはトロデとの面会を望んだが、叶わなかった。

・キラから月影のハープを貰った。
ついでに「しあわせの耳飾り」なんてものも貰った。防衛システムは壊すわ国宝は持っていくわプレゼントまでも貰うわでとんでもない勇者である。ちなみに「人でも魔物でもない者」というセリフは本来ユリマのもので、エイトの出自に関わる伏線なのだが、今回はその役割をキラが担った。

・ようやく船を手に入れた。
ヤッター!さっそく闇の遺跡に…行けません。太陽のカガミが無いので。


レベル変化なし


キラちゃんの口調がだんだん硬くなっていってるのは彼女が静かにイラついてるからです。理由はお察しの通り。…ちなみに今回勇者たちに話を聞いたのがキラちゃんではなく「彼女」だった場合、ぺちゃんこになって勇者たちの冒険はここで終わりです。



いつも一話5000字程度を目指しているのですが、今回何と一話で10000字を超えてしまいました…。もう少し短い方が良いですかね?アンケート採ってみますね。ぜひご協力ください。

小説の長さについて

  • 短いのをたくさん!質より量!
  • 長いのを少しずつ!一話ずつ丁寧に!
  • 長さより話の区切りを重視せよ!
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