ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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前回頂いたコメントより『もし隔離してたらユリ…魔王がブチギレるぞ』

恐ろしいですねぇ。もし世界のどこにもドルマゲスがいないことを知ったら、その時のユリマちゃんの絶望と哀しみは如何ほどでしょうか。…でも『月影の窓』は人の子の強い願いと窓枠の影と月光があれば現れる可能性があるので、もしかしたら割と早い段階で再会はできるかもしれませんね。…まあその場合イシュマウリがどうなるかは知ったこっちゃありませんがね。








第二十八章 転生者と大魔法使い

 

 

 

 

 

「え?」

 

師匠の魂が…!?

 

「ドルマゲス、君の師匠の魂はまだ冥界には逝っていないよ。」

 

月の民イシュマウリは驚いた俺の顔を見て笑った。

 

「ふふ、どうやらこれも君の知る未来には起こり得ないことのようだね?…私は戯れで命の話をしない。マスター・ライラスの魂が在るのは事実だ。」

 

「そんな…でも師匠はトロデーンでラプソーンに…」

 

イシュマウリの言う通り、彼はこんなところで適当なことを言う男ではないはずだ。しかし師匠はラプソーンが憑依した俺によって腹を貫かれ、確かに絶命したはず。一体どういうことだ…?

俺が言葉を飲み込めずにまごついているとイシュマウリはため息を吐いた。

 

「…君は妙なところで鈍いようだ。確かにマスター・ライラスは暗黒神との激闘の末に命を散らした。しかしそれで死んだのはあくまでも肉体。そして肉体と精神を繋ぐ霊絡。その魂は霊体となり未だこの世界に留まり続けている。」

 

「な、なるほど…」

 

「君は賢いが、抜けているね。」

 

イシュマウリは肩を竦め、やれやれといったポーズをとる。…てめーが小難しい話ばっかするから「魂」も何かの隠喩かと思って素直に言葉通り受け取れなかったんだよ!と言いたかったが俺は大人なので抑えた。大人なので。

 

「それで、師匠の魂はどこに在るんだ?」

 

「どうやら彼は自分が事切れたことに気が付いていないらしい。長い夢を見ている彼の魂は冥界には逝けず、ふわりふわりと漂い続けて、『とある場所』に現在固着されている。」

 

「とある場所…」

 

「自らの死に気が付かぬ者の魂が集う場所…月の神秘とも泉の神秘とも異なるもう一つの神秘…。筋書きを知る君ならば知っているのではないかな?」

 

イシュマウリは悪戯っぽく笑った。会話を交わしてみて初めて分かったが、彼はこう見えて結構茶目っ気のある性格をしている。原作ではひたすら不思議で思わせぶりなことばかり言っていたものだが、なかなかどうして人間臭いところもあるみたいだ。

 

「(自分が死んだことに気がつかない者の魂が行きつく…)」

 

その時、俺の脳内に電流が走った。

 

「─もしかして!"あの場所"かっ!」

 

盲点。あそこはストーリー自体には全く関わらない場所だったので、すっかり頭から存在が抜け落ちていた…。なるほど、あそこならばイシュマウリの言葉もあながち出鱈目とは言えない。得心の行った俺の様子を見てイシュマウリは満足そうに微笑んだ。コイツいつも笑ってんな。

 

「さあ、お別れだ。外なる人の子よ。君が紡ぐ全く異質な物語、その結末を楽しみにしているよ。」

 

「ありがとう、イシュマウリ。」

 

俺はイシュマウリに向かってサムズアップすると、言葉少なに館から出て、そのまま『月影の窓』をくぐる─…前に。俺は地面を少し削って袋に入れた。月の世界なる異界の物質。こんなものを採取する機会をそうそう逃すわけにはいかないからな。請求書は『U.S.A.』にでも送っといてくれ。…ん?月からこっちに来るのは難しいんだっけか?まあいいや。俺は改めて窓に向きあい、通り抜けた。

 

「やれやれ…まったく興味深い(ろくでもない)異分子だ。」

 

 

 

 

─ふしぎな泉─

 

「おーい?ドリー?いるっちかー?」

 

「根の詰め過ぎは良くないってじいさんが言ってたもんだから、し・か・た・な・く!迎えに来たっちよー?」

 

「あれ?いないっちか?てっきりまだ資料を読んでるもんだと思ってたっちが…」

 

「…」

 

「…?なんだっちか?この影…」

 

「ち、ちょっと近づいてみるっち…」

 

「…(な、なんかドキドキするっち…)」

 

 

「ばあ」

 

 

「ひぃえええぇぇぇぇ~~~~!!!」

 

「あれ?どうしたんですか?こんなところで」

 

スライムは泡を吹いて気絶している。何か恐ろしいものでも見たのだろうか?俺は天を仰いだ。夜は更けており、東の空が白み始めるのは時間の問題だ。とりあえず俺はスライムを抱き上げて隠者の家まで運び、暖炉の前で本を読んでいた老魔術師にオリハルコンの研究資料の件で感謝を述べてから目的地へと急いだ。

 

 

─ベルガラック南部─

 

「ふう…間に合った…」

 

少し急ぎ足だったかいもあり、なんとか夜が明ける前に到着することができた。なだらかな丘陵地にぽっかり空いた不自然な空間。…おそらくもうじきここに『樹』が現れる。

 

「…!」

 

ぼんやりとした光が現れたかと思うと次第に像を結び、萌黄(もえぎ)色の葉は夜の闇を照らす。美しい一本の樹木が、先ほどまで何もなかった場所に存在していた。

 

…『ふしぎな樹木』、または『命をつかさどる木』。一説には『世界樹』、そして『神秘の樹』。この樹は普段は世界のどこにも存在していないが、明け方──彼誰時にのみ、その姿を顕現させる幻の樹木である。明け方の『彼誰時(かはたれどき)』は夕方の『黄昏時(たそがれどき)』と共にあの世とこの世のの境界が曖昧になる魔力的に不安定な時間帯であり、その瞬間にのみ現れる樹木の強い魔力は、まさに成仏できない魂たちの「止まり木」の役割を果たすというわけだ。

 

「はは、流石にこう連続で神秘と対面すると笑えてきますね…」

 

ふしぎな泉、月の世界、ふしぎな樹木。ドラクエⅧの三大神秘にまさか一日で全て出会うとは思わなんだ。しかしイシュマウリの言ったことが真実であるならば…!俺は青々と茂る樹木に近づいた。

 

「…む、お前は旅人か。」

 

「おや…はい。私の名はドルマゲスと申します。見ての通りの旅芸人です。」

 

「そうか。わしの名はバウムレン。主人であるラパン様の命令により使いに出たのだが、行く道が分からなくなってしまったのだ。…通りすがりの旅人に聞くのもおかしなことだが、お前は知らぬか?わしはどこへ行くはずだったのか…。」

 

木に近づく俺の背後からいきなり話しかけてきたのはバウムレンと名乗る「キラーパンサー」だった。言葉の内容からしてやはりあのバウムレンで間違いないようだ。よく見ると向こうの景色が透けて見えており、彼が霊体であることをうかがわせる。

 

原作では、樹木に囚われ此岸を彷徨い続ける彼は『キラーパンサー友の会』会長ラパンの命を受けた勇者たちの助力によって無事に成仏していたが…。彼がここにいるということは勇者たちはまだここに来てないってことか。どこで道草食ってんだか。まあいいけど。

 

「申し訳ありませんが私には…。」

 

「そうか…分かっていたことだがな…。」

 

流暢な人語だ。きっと生きていたころからとても賢い個体だったのだろう。それとも死んだことで言語の壁がなくなったのか?また別の機会に要検証だな。望んでいた答えを得られなかったバウムレンはがっくりと肩を落とした。

 

「少し前から一人の人間がここに住み着くようになってな。彼にも尋ねてみたのだが、どうも気難しい性格をしておるようで何も答えてくれん。…旅人よ、お前も彼の話を聞いてやってはくれぬか?人間同士、何か分かり合えることなどあるやもしれぬ。」

 

バウムレンに促されるまま俺が樹木の裏側を覗くと、一人の見知った老人が樹に寄り掛かって立っていた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『師匠!?しっかりしてください!!師匠!』

 

『ドルマゲスよ…』

 

『は、はいっ!なんでしょうか!』

 

『ドルマゲスよ…お前が来てからの数年間は…わしにとって、とてもとても実りあるものであった…願わくば…お前がわしに代わる大魔法使いに…』

 

『師匠?師匠!師匠…』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「し…!」

 

涙が流れる。こんな感覚はなんだか久々な気がする。

 

「ん…、なんじゃ、ドルマゲスか。」

 

「師匠!!!!!」

 

 

「…ずっとどこかへ向かわねばならん気がしていた。しかしそれがどこなのかは分からず…進んでも進んでも気が付けばこの樹の前にいたのだ。そこの()が何か言っておったのは気付いていたが、生憎わしはそれどころではなかったのだ。」

 

「師匠…(変わんないですね)」

 

「む?ドルマゲス…おぬし今失礼なことを考えたな?」

 

「え!?いやそんなこと…」

 

「ふん、まあいい。それよりドルマゲス、ここはどこだ?あの戦いから何があった?」

 

感動の再会(俺だけ)も程々に、研究者気質な俺と師匠は早速現状把握と考察に入る。俺は話した。トロデーン城での戦いの結末、暗黒神の暗躍、勇者の誕生、サーベルトの活躍、ユリマちゃんの謎、キラちゃんの紹介、そして今の目的の話…

 

「ほう、そんなことが…む?」

 

「どうしました?」

 

「お前、さっきラプソーンの戦いでわしは死んだと言ったな?」

 

「ええ、はい。」

 

「わしはここにいるではないか?死んでなどおらんぞ。」

 

「え?いやだから師匠はあそこで(ラプソーン)に貫かれてですね…」

 

「んん?分からんことを言いおって!わしは今ここで生きているではないか!」

 

「ししょー…」

 

「なんだその哀れんだ目は!?大体暗黒神が憑依していたとはいえ、わしがお前のようなひよっこに後れを取るわけがないだろう!」

 

えぇ…死んでいる間にボケてしまったのか…?全然聞く耳を持ってくれない。…全く!自分の見たものしか信じない頑固さは死んでなお健在か!ああじれったい!!

 

「師匠!失礼します!」

 

「ぬ?うおおおおぉぉぉ!?!?」

 

俺が師匠の胸に向かって腕を差し出すと、俺の腕は師匠の身体を貫通した。当然だ。今の師匠は霊素だけから成り立つ完全霊体。長い旅路で薄れていったのか、魔力すら持っていない今の状態は「あやしいかげ」などエレメント系の魔物よりも更に純粋な存在である。よって物理的な干渉は完全に不可能なのだ。

 

「ほら見てください師匠。私の腕は確かに貫通しましたが、私が師匠に触れることはできていません。」

 

「ふう…ふう…な、何をするのだ、心臓に悪いわ…!」

 

「こうでもしないと信じないじゃないですか…。あと悪くなる心臓もありませんよ。」

 

「ふぅ…ふぅ……はあ…。……成程、納得はいかんが理解はした。わしは確かに死んで、ここで魂だけの存在となったというわけだな。…残念だ。暗黒神の野望を止めることは叶わなかったか…」

 

「…」

 

「魂だけとなった存在は非常に希薄。通常の場合成仏は秒読みだ。しかしわしは自分の死を自覚していなかったため成仏できていなかったというわけか。…ふん、それでドルマゲスよ。お前は迷えるわしに引導を渡しに来てくれたわけだな?」

 

えっ、違う。

 

「いや─」

 

「皆まで言うな。全く…弟子に殺されるなど、いくつ年を重ねても未熟者よ。…まあ、こうして最期に弟子に看取られるというならば、一人寂しく没するよりかは悪くはない。」

 

ああ、これも久々だ。「人の話を聞かないモード」の師匠。こうなったら待つしかない。

 

「まだまだ研究したい魔法は山ほどあるのが無念だが…それでもこの過酷な世界でこんな老人になるまで生きてこられたことをせめてもの僥倖と思おう。……さて、我が弟子ドルマゲスよ。別離の時間だな…。」

 

「…」

 

「『大魔法使い』マスター・ライラスの物語は今日を以て終幕。今からお前が大魔法使いを名乗るがよい。では、達者でな…!」

 

師匠は悦に入ってしまい、しかもなんか勝手に成仏しようとしている。話も聞かず勝手に逝かないで欲しいですねホント。

 

「えーと、師匠?」

 

「…なんじゃ。雰囲気が台無しだぞ。」

 

「私は…その、師匠を看取りに来たんじゃなくて、迎えに来たんですよ。」

 

「…は?」

 

ああ、もちろん死神的なお迎えではなくてね。俺は『賢人の見る夢(イデア)』から凍らせた棺桶を取り出した。思っていた形ではなかったが、師匠の魂と出会えた。肉体はここにある。そして俺は"魂を移動させられる"。

 

「ん?棺桶…ま、まさかお前…」

 

俺は棺桶を開き、師匠の肉体を取り出すとこの前勇者たちの料理を温めた時のように、魔力で凍った肉体を温め始めた。凍った人体を常温にレンジアップするのは初めてだが…まあ何とかなるはず。

 

「ぬおっ!それは…わしか!?……お、お前は本当に人を驚かせるのが得意な奴だな。」

 

「もちろんです。道化師ですから。」

 

こんなもんかな。俺は師匠の肉体が上手く人体に適した温度になり、凍ったままの場所がないことを確認すると、どこか達観した様子の師匠(魂)に向き直った。

 

「今から師匠の魂を肉体に移します。精神、肉体共に安定しているのでほぼ確実に成功しますが…かなり長い間凍らせていたのでおそらく身体中がバキバキで関節一つ動かすのも容易ではないでしょう。なのでしばらくは私のアジトで療養してもらうことになるでしょうが…構いませんか?」

 

「ふん…まあそれで再び生を受けられるというのならば、文句の一つや二つは飲み込んでやる。さっさと成功させろ。」

 

このツンデレジジイ。素直じゃないんだから。さて、俺は左手で師匠の肉体の胸に手を当て、右手で魂の胸のあたりに手をかざした。さあ始めよう。師弟の再会を祝して!

 

「『胎児の見る夢(エーテル)』!!」

 

 

「…むっ!」

 

「師匠、おはようございます。10秒ぶりくらいですね。とりあえず顔の筋肉と生命維持に最低限必要な筋肉は弛緩させたのでものを見たり話したりはできるでしょうが、立ったり歩いたりするための治療はものすごい時間がかかるので、それは後で受けてください。」

 

「…ま、お前も大魔法使いを名乗るならば蘇生くらいできて当然だな…ってイダダダダダ!!」

 

「あーあー…えっと動いたら激痛が走ります。ご注意を。」

 

「さ、先に言わんか!!!」

 

ごめんちゃい。俺は心の中で舌を出して可愛く謝った。

 

「さて、行きましょうか!」

 

「ま、待ってくれ!!」

 

「「?」」

 

突如舞い込んできた声。俺と師匠が振り返ると(師匠は首も動かせないので耳だけ傾けた)、そこにはバウムレンがいた。

 

「今までの話…そして今の()()、失礼ながら見聞きしていた!そして頼みがある…!わしを……もう一度ラパン様に会わせてはくれんか!?」

 

「…続けてください。」

 

「…ずっとおかしいとは思っていたのだ。行けども行けども同じところをグルグルと回ってばかりなのだからな。…だがお前…いや、そなたの話を聞いて合点がいった。わしは()()()のだと。いつどこで…そのようなことは最早思い出せんが…。わしは永遠に行くべき道を見失ったままであった。しかしそこにそなたが現れた。わしはもうずいぶん前に死んだ身。既に肉体は土に還り、残ってはいまい。」

 

「…」

 

「…しかし死を自覚した今、成仏は秒読み…。頼む、道化師の旅人よ。その()()の力を以てわしをラパン様に……」

 

バウムレンは項垂れた。

 

「最期にラパン様に一目だけでも会う機会を…くれないだろうか……。後生だ。」

 

バウムレンは低く低く頭を垂れた。後生って、あんたはもう死んで…なんて野暮なことを言う空気ではないので、黙って俺は話だけは聞いている師匠に目をやって判断を仰いだ。

 

「…救ってやれ、ドルマゲス。…何も全ての命を救えとは言わん。しかし救える魂を救わないというのはどうも後味が悪いだろう。こやつは少しの間だがわしと一緒にいた数奇な魔物だ。そんなものを見捨ててはこちらの夢見も悪くなる。」

 

「師匠らしい答えですね。無論、そのつもりです。……さて、バウムレンさん、あなたをあなたの古き友に会わせること…私には叶います。しかしそれだけで良いのですか?」

 

「?…それは、どういう…」

 

「今ならあなたをもう一度この大地に足をつかせることもできます。」

 

「まさか、生き返ることができる…と言うのか…!そのようなことが…」

 

「当然、別れの時はいつか訪れます。私と師匠もいつかはお互い遠く離れた地へ行くでしょう。しかしあなたは長い間主に会えない日々を一人で耐え忍んできました。もう一度出会って、思いの丈を伝え、触れ合うことくらいは許されても良いのではないでしょうか?」

 

バウムレンは信じられないという風に大きく開いた眼でこちらを見、わなわなと身体を震えさせた。

 

「た…頼む…もしも万に一つの()()が起こるならば…どうか…どうか…!」

 

『奇跡』。『奇跡』ね。奇跡というのは──

 

「…奇跡というのは『低確率の事象を確定的に発生させること』ではない。この世には独立した確率過程など存在せん。この世界はひとつの統計的集合体に過ぎないからな。つまり今からこのひよっこが行うのは──」

 

俺と師匠の声がシンクロする。

 

「「ただの『作業』。」」

 

「…ふっ。」

 

「…流石は師匠です。…バウムレンさん、心配しないでください。あなたが孤独に過ごした長い長い時間は私が必ず報いてみせます。」

 

「おお…!おおお……!ようやく…わかった。わしが今の今まで存在しない目的地に向かってずっと彷徨っていたのは…そなたらに出会うためだったのだな…!ありがとう、ありがとう…!」

 

嬉し涙を流して泣き崩れるバウムレン。俺はそれを微笑んで見届けると、『イデア』から「キラーパンサー」タイプのセキュリティサービスを取り出した。合成筋肉と機械由来の肉体だが、普通に生きて、普通に天寿を全うする分には問題ないはずだ。命令に従うプログラムが内蔵されている制御システムなど野暮な装置は取り外しておこう。俺はバウムレンとセキュリティサービスに手を置いて『エーテル』を行使した。三度目ともなれば他者の魂を移動させる感覚にも慣れたものだ。

 

 

「本当になんと感謝を述べればよいか……!旅人たちよ、本当にありがとう。いつかまたラパンハウスに会いに来てくれ。ラパン様もきっとお喜びになるはずだ。」

 

「いえいえ。こちらこそあなたの魂を救えてよかった。さあ、ラパンさんのもとへ。お元気で!」

 

無事に受肉したバウムレンは、新しい肉体にも難なく順応して俊足で駆けていった。これならしばらく経たないうちにラパンとも再会できるだろう。それにしてもラパン…こんな大事な友の弔いを通りすがりの旅人に任せるなんてどういう神経をしてるんだ…?原作ではバウムレンのために仕事をしなければならないとは言っていたが、それとこれとは全く別問題な気が…。

 

「…おい」

 

俺がバウムレンを見送って振り返った瞬間、ふしぎな樹木は姿を消した。彼誰時が終わり、朝が来たのだ。人助けと魔物助けをした後の朝日はこの上なく気持ちいい…

 

「おいっ!ドルマゲス!」

 

「あ、はい。」

 

「あ、はい。じゃない!早く療養所へ連れて行ってくれ!さっきから身体中が痛くてかなわんのだ!」

 

「あー、はいはい。分かりましたよ。じゃあ行きましょうか。」

 

俺はわざとドライに振舞ってみせた。本当は師匠と再び会えて嬉しくてたまらないのに。師匠もきっとそれには気づいているが、何も言わない。…それは俺もまた師匠が内心では生き返ることができてうれしく思っていることに気が付いているからだ。

朝日は美しく、眩しかった。

 

 

 

 

 





そろそろ忘れてくる頃なので、ここらへんでオリジナル設定ことドルマゲスの呪術についておさらい。

呪術:いわゆる魔法とは異なるプロセスで行使される超自然現象。魔力でなく霊力を使って唱えられる。一般に人間が使うことは叶わず、魔物特有の技として知られていたものをドルマゲスが名付けた。

霊力:どんな生命体もそのうちに秘めているとされる形のないチカラ。これを使うことで「ぶきみなひかり」や「いてつくはどう」「しゃくねつ」などを始め、念力・呪いなど人間には使えない技が使えるようになる。『滝の洞窟』にてザバンから使い方を教わった。「霊力の存在を信じること」がカギとなる。

魔術:ドルマゲスが呪術と現世知識と想像力で作り出したオリジナルの魔法。大抵は直接的な攻撃力を持たずサポートに使われることが多い。ドルマゲスの姑息な戦闘スタイルをより幅広いものにする。

『賢人の見る夢(イデア)』:初出は第七章。ドルマゲスが最初に編み出した魔術の一つ。亜空間(あるいは異空間)につながる次元の穴を空け、自由に出入りできる。中は暑くて乾燥しているが人間でも耐えられないことは無い環境。ドルマゲスは専ら収納スペースとして利用している。

『悪魔の見る夢(アストラル)』:初出は第十章。ドルマゲスが最初に編み出した魔術の一つ。分身することができる。原作ドルマゲスの行動をモチーフにしており、分身のパワーバランスも自在に調整できる。分身が死ぬとその知識は他の分身体にフィードバックされる。意識すればリアルタイムで情報を共有することもできる。現在ドルマゲスはベルガラックに本体、サザンビークに分身体がいる。

『胎児の見る夢(エーテル)』:初出は第十章。ドルマゲスが最初に編み出した魔術の一つ。精神、もとい魂魄を自在に移動させることができる。本来の使い方は幽体離脱だが、『アストラル』があるため死に設定に。だがトロデーンではラプソーンの意識をシャットアウトするなどの活躍を見せた。現在は健全な肉体と魂が近くにあればこの魔術を使って反魂することができるようになっている。

『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』:初出は第十一章。トラペッタに侵入する際に初使用された魔術。波長を操ることで姿、音、気配を消すことができる。触れ合っていれば共振現象を起こして同行者の姿も消すことができる。「匂い」や「魔力」は消せないという欠点を持つ。

『妖精の見る夢(コティングリー)』:初出は第十一章。サーベルトの死を偽装する際に初使用された魔術。変身魔法『モシャス』を別のアプローチから行使することで完全な変装を可能にする。さらに生物ではない機械や人形にも唱えられる。魔法ではないため、「いてつくはどう」や「ラーの鏡」であっても変装を見破ることができない。

『聖夜に見る夢(ジングル・ベル)』:番外編に登場。冬を知らないトラペッタのためにドルマゲスが編み出した雪を降らせる魔術。複数の魔法と呪術が混ざって出来ている。

『偶像の見る夢(ヴェーダ)』:初出は第二十三章。ラプソーン(二戦目)で初使用された魔術。「たね」と「きのみ」を一種類ずつ消費することでそれらの持つ身体強化効能を底上げし、一時的に強大な力を得る。効果が切れた後は強い疲労感に襲われる。




原作バウムレンはもう少し救われてもいいなと思ったので復活という形で救いました。
「深き眠りのこな」についてですが、おそらく無くても成仏はできると考えられます。多分より安らかに逝くための道しるべとか、そんな感じのアイテムなんじゃないですかね?

せっかく反魂で生き返ったライラスですが、療養のためしばらくは戦線に復帰はできません。
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