ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
ハロー、呪術と魔法の両刀使い(どっちも使えない)道化師となったドルマゲスです。
あの後ルイネロさんとユリマちゃんは無事に和解したそうです。と言っても帰ったユリマちゃんが二日酔いで寝起きのルイネロさんに水晶玉を渡し、自分の過去を知っていることの旨を全て話したうえでルイネロさんを一方的に許すというめちゃくちゃな荒業だったようですが。勇者一行のお使いイベントを一つ消しちゃいましたね…まあいっか、どうせ私が動かなければ物語は始まらないわけですし。
…
「あー!ドルマゲスさん!おはようございます!!」
「ユリマさん、おはようございます」
「滝の洞窟」に水晶玉を取りに行って数日。ユリマちゃんは胸に抱えるものが無くなったおかげなのか、前までよりも活発になっていた。しかもたまに俺の家(師匠の家)に来るようになった。あんまり長居させると親父が殴り込みに来そうだったので、いつもよきところで帰らせているが。そういえば、まだあれからルイネロさんには会ってなかったな。お礼の品とかくれたり…しないだろうなあ。でも一応顔を見せにはいこうかな。
俺は滝の洞窟から持ち帰ってきた「メタッピー」の残骸を物置に押し込んで家を出た。
「こんにちは…」
「うん?ああ、ドルマゲスか。」
「はい、ルイネロさんは最近息災ですか?」
「まあな。それより何の用だ?俺は忙しいのであまり時間は取れんぞ。」
「あー…えーっとですね…」
うーん、流石に師匠と並んで気難しい人間だ。お礼をねだることは難しそうだ…少しだけ話してからお暇しようかな。
「お父さん!お父さんが占い師をできるようになったのはドルマゲスさんのおかげなのに、そんな言い方ないと思うわ!」
そこへユリマちゃんが二階から駆け下りてきた。ぷんすか怒りながら当然のように俺の横に腰掛ける。ルイネロさんの視線が痛い。
「……ハァ、そうだな、今の俺が占いの道をもう一度歩むことができたのはお前のおかげだ。感謝している。」
ルイネロさんは頭を下げた。なんとなく俺もつられて頭を下げてしまう。
「いいえ、私はユリマさんのお願いを聞いただけに過ぎませんので…」
「それでもだ。俺と娘が真の意味で親子になれたのはお前があの洞窟から水晶玉を取ってきたからだ。これは疑いようもない。礼と言っては何だが、一つ占ってやろう。なあにタダでいい。」
お?これは願っても無い展開だ。占えないものは無いとまで言われた世界一の占い師ルイネロにタダで占ってもらうことができるとは!何を占ってもらおうか…
「よろしいのですか?では…そうですねぇ……マスターライラスのもとで魔法の修練を行っているワタクシですが、恥ずかしながら実は未だに魔法の一つも使えていないのです。その原因を探っていただきたいのですが、占えそうですか?」
レベルも順当に上がっていってるというのに未だに『メラ』も使えないのは流石におかしい、と思い始めたのは昨日の話だ。どう考えても他に要因があるとしか思えない。
「ふん、容易いことだ。ではゆくぞ…」
「お願いします」
ルイネロさんが水晶玉を覗き込むと玉は眩く輝き始めた。
「むっ、むむむっ!これは…」
「何か見えましたか?」
「うむ、お前の体の中に黒い靄が所狭しと見える。これが原因だろう。」
「靄、ですか…?すみませんが原因についてもう少し詳しく」
「この靄…は触れる魔力を吸い取っているようだ。なのでその部分に魔力は蓄積しない。例えるなら……ただのバケツと中にたくさん石を入れたバケツ、水が溜まりやすいのはただのバケツだな?この水を魔力と考えろ。石を入れたバケツがお前の身体だ。なのでいくら魔力の最大値に空きがあっても魔力が溜まらない。そんな調子では、魔法を使えないのも無理はないな。」
「そんな…ではその靄はどうすれば取り除けるのでしょうか…」
「すまんがそこまでは分からんな。この靄が何なのかもわからん。俺に見えるのはそこまでだ。」
「そうですか…分かりました、ありがとうございます。」
「ああ、またいつでも来い。…おっと、次回からは財布を忘れるなよ。」
…
ルイネロさんの家を後にし、俺は途方に暮れ…ることはなかった。
魔法は今は使えないが、師匠が薬を完成させてくれたならばきっとこの靄も晴れるはずだ。そして俺には呪術研究という目下の課題がある。何も落ち込むことはない!
肩を落として出ていったドルマゲスを見て慰めの言葉を色々考えていたユリマだったが、町の石段の下でドルマゲスが生き生きしているのを見て踵を返した。その表情は安堵半分、残念半分といったところである。
「私も…ドルマゲスさんの役に立ちたいなあ…」
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翌日、外での鍛錬を終えた俺は呪術の練習を続けていた。
「うーん…『信じること』と言ってもどうすればいいのか…ああダメダメ、こういった思考が霊力の行使を妨げるんですよね…」
全くコツがつかめず頭を抱えていると、そこへ師匠が部屋に入ってきた。
「これ、何をしとるのだドルマゲス」
「はい師匠。魔法のイメージトレーニングです」
師匠には呪術のことは言ってない。そんなものの話をすると「魔法以外のことに現をぬかしおって…」と怒られそうな気がしたからだ。
「そうか、それは感心。ところでわしがここに来たのは話があってだ。来週トロデーン王国のミーティア姫が12歳になられるので、一つの区切りとして大々的に生誕祭を開くらしいのだ。そこでトロデーン領であるこの町からも代表者が何か余興を献上するようにと通達が来てな。わしはお前が適任だと思うのだが…どうだ?他の住民も異論はないそうだが…」
「と、トロデーンですか…」
「なんだ?なにか嫌なのか?」
トロデーンが嫌というか、トロデーンに行くことに嫌な予感がする。明らかに原作のミーティア姫は12歳より上に見えるし、原作開始の詳しい時期など分からないので何とも言えないが、なんとなく俺がトロデーンに行くのはまずい気がする。いや絶対にまずい。ここはなんとか切り抜けたいが…
「嫌というよりですね、なんだか引け目を感じてしまいます。私は師匠に行ってもらいたいですね。魔法も使えないピエロよりも高名な魔法使いが来た方が姫と王も喜ばれると思うのですが。」
「うーむ、しかし余興という意味ではお前のその妙な手品の方が良いと思うが。」
まずい、師匠も『行きたくないモード』だ…。年寄りの駄々っ子ほど厄介なものは無い。なにか師匠が行きたくなる理由を…そうだ!
「それに、トロデーン城には世界最大の蔵書数を誇る大図書館があると聞きます。日頃師匠が没頭なされている研究に役立つ文書もあるかもしれませんよ。」
「う、むむむ…確かに…そうか、そうかもしれん…」
「他ならぬ私が師匠にぜひトロデーンに向かってほしいと言えば町の皆さんもきっと納得してくれるはずです!」
「…よし、わかった。わしがトロデーンに向かうことにしよう」
俺の最後の一押しでついに師匠は首を縦に振った。よっしゃ!世界は救われた!!
「…ところで、さんざんトロデーン行きを渋るお前は、来週何か用事があるのか?」
あからさまに安堵した俺のにやけ面が気に障ったのだろうか、師匠は怖い顔で詰め寄って来る。
「ええ?えっと…ですね、はい!用事…があります!」
「何のだ」
「は…はひ…えっと…滝の洞窟で珍しい鉱石を見つけまして…」
「嘘をつくな、あそこから鉱石は取れんわ」
「は…あの…その…ユ…ユリマさんと…デート…とか…」
その時部屋の入り口でガササッと何かが落ちる音がした。俺と師匠が振り向くと、顔を真っ赤にして驚いているユリマちゃんがいた。野菜か何かを差し入れしに来てくれたのだろう。これは好都合だ。
「…………………へ………?」
「ルイネロの娘よ、お前は来週ドルマゲスとどこかに出かけるのか?」
俺は後ろからユリマちゃんに目配せをしまくった。頼む!世界の命運が懸かっているんだ!
「………は、はい…………」
「(…確かに、師に色事の話を馬鹿正直に話す弟子もいないか…)……ふん、知らぬ間に色付きおってからに。わしの留守中も修行を欠かすんじゃないぞ!」
「はい!それでは遠征よろしくお願いします!」
俺がそう返事をすると師匠はまた自分の部屋に戻った。
「ふう…」
なんとか俺のトロデーン行きはなくなったが、世界線は収束するとよく聞く。いつか来るかもしれない日に備えて着々と強くなる準備をしておこう。
「あ…あの…」
ああ、本日のMVPユリマちゃんを忘れていた。この子には惜しみない感謝を送りたい。ええと、先に誤解を解いて…
「ああ、ユリマさん。さっきはいきなり失礼しました。実は…」
「ら、来週はぴ、ピクニックに行きたいです…!」
「…。」
でまかせに使われた本人が行きたいと言うのなら……もう嘘でしたとは口が裂けても言えまい。全くこの子はなんていい子なのか。当日は最高の料理を作って持っていくっきゃない。
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結局最後までその場しのぎのウソでしたとは言えず、俺はトロデーン行きの馬車に乗り込んだ師匠を見送った後、お弁当を拵えてユリマちゃんを迎えに行った。ユリマちゃんはいつもの町娘っぽい服装ではなく、西の「サザンビーク王国」や橋の町「リブルアーチ」にいる上品なお嬢さんのような服を着ていた。なんでも昔にルイネロさんからプレゼントされた一品らしい。主張の激しすぎない桃色と橙色の色合いが良く似合っていた。
「ドルマゲスさんは本当にお料理が上手ですね!私も料理は作るけど、こんなおいしい料理を食べてると自信が無くなっちゃいます。」
「なに、私の料理は趣味のそれですから。作れる料理はほんの一握りだけですよ。」
周囲の魔物をあらかた片付け、「せいすい」をまいて魔物避けをしてから俺たちは弁当を食べ始めた。
「私……ドルマゲスさんがトラペッタに来てくれて本当に良かったと思ってます。お父さんも元気を取り戻すことができたし、町の人もドルマゲスさんの話をよくするようになってなんだか楽しそうに見えます」
「そう言ってもらえると嬉しいです。私もこの町に来た頃は右も左も分からないような状態でしたからね。」
実際には右も左もどころか、名前も故郷も経歴も目的も分からなかったんだけどね。
「でも町の皆さんが良くしてくださっているおかげで今は毎日楽しく過ごすことが出来ています。ユリマさんにも本当に感謝しているのですよ?あの日貴方が庇ってくれなければ、私は今でも師匠の雑用係だったかもしれません。」
「そんなっ…えへへ……あっあの、ドルマゲスさんは…これからもずっとこの町に居てくれるんですよね?」
「…」
うーん、この町は本当に心から愛しているけど、正直ここに骨を埋める覚悟があるかと問われるとない。世界は広く、俺はもっとこの世界を見て回りたいのだ。
「…いつかは、ここを出ていきます。ここを出て、私は世界中を旅したいと考えていましてね。」
「…!!!そう、なんですか…」
「でも心配しなくとも、まだまだこの町にはいますよ」
「じゃ、じゃあもし旅に出るときは!私も連れてってください!」
…困った。トラペッタのような平和な土地の女の子を連れて歩くにはこの世界は少々過酷すぎる。気持ちは嬉しいが…俺一人で守り切れる自信がない。情けない話だ。しかしだからといってこの懸命な子どもを正面から拒絶する勇気もない。本当に情けない。ああ、悲しいったら悲しいなあ。
「ふむ…では、もし私が旅に出るときにユリマさんが立派な冒険者になっていたら連れて行ってあげますよ。むしろ私と一緒に魔物と戦ってください。」
「分かりました!私、頑張りますね!」
最終的に逃げに走った俺になんといい返事。ルイネロさんも本当にいい娘さんを持ったねぇ。
その後もたわいもない会話を繰り返し、夕方になる前に俺たちは帰った。とても有意義な時間だった。
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その3日後、師匠が帰ってきた。
「今帰った」
「お帰りなさいませ、師匠。姫はどのようなご様子でしたか?」
「うむ、麗しい王女に育っておったわ。わしの魔法にも親子ともども満足いただけたようで何よりじゃ。それより、ほら」
「これは…?」
俺は師匠に一冊の分厚い本を手渡された。かなり大きくて重い本で、表紙には古い文字で『幻魔怪奇・魔術ノ理論ト実践』と書いてある。
「お前が毎日やっているしょうもない研究を終わらせられるかと思ってな。無理を言って借りてきたので、ありがたく読むように。そしてさっさと魔法を使えるように努力しろ。」
「これは…まさかこれを私のために…?あ、ありがとうございます!」
師匠は俺が呪術の研究を行っていることを知っていたのだ。俺が冒険に行っていたことは知らなかったのに…いや、逆か。あの一件があったからこそ俺のことを見てくれるようになったのかもしれない。やはり師匠には頭が上がらないな。
「さて、わしも色々な本を借りてきたところだ。早速実験を始めるので部屋に入らないように。今夜は豪勢な食事を頼むぞ、ドルマゲス!」
「承りました!」
俺は『幻魔怪奇・魔術ノ理論ト実践』という呪術のバイブルを授かり、より一層研究に励むのだった。
呪術の鍛錬、戦闘の訓練、科学の研究…そして六年が経過した。
第五章終了時プロフィール(魔術書入手直後)
ドルマゲス(男・22歳)
趣味:料理、鍛錬(体力・魔法)、研究(呪術・工学)
レベル:12
魔法:自分の魔法が使えない原因は分かった
呪術:バイブルを読んだことで霊力を掴んだ
科学:メタッピーを分解して再度組み立てることはできるようになった
好きなもの:トラペッタの町
恐いもの:世界線の収束