ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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お待たせしました、始まります!
一応『闇の遺跡』編が終わるとこの小説は一区切りとなりますね。原作ではここでドルマゲスは退場しますので。果たしてドルマゲスくんは歴史の修正力に打ち勝つことができるのか?







ACT5:サザンビーク国領~闇の遺跡
第三十章 聖人騎士とダメ王子


ハロー、U.S.A.でひたすら書類仕事をしている道化師ドルマゲスです…。今確認しているこれでようやく報告書類は最後ですが…ああ…疲れた…。特に新規従業員の一覧が多すぎます。ドン・モグーラによればサーベルトがサザンビーク地方から次々と魔物を送り込んできているようですが…。

 

 

 

 

ギャリングの邸宅、もといベルガラックから『王家の山』に俺が移動したころにはすっかり日は落ちてしまっていた。なんだか王家の山は以前来たときよりも格段にすっきりしている。通行に邪魔な岩や植物を採取したり取り去ったりしたこともあるが、一番はやはり数が激減した魔物だろう。山に入ってからしばらく山道を歩いているが、まだ一度も魔物とエンカウントしていない。生息地を移しているだけなので狩猟しているわけではないが…これってもしかしなくても生態系破壊しまくってるよな?今になって怖くなってきた。クラビウス王に怒られたらどうしよう。

 

ブオン   ブオン

 

「?」

 

異音が聞こえたので俺は少し足を早める。何かイレギュラーが発生したのか?ラプソーンが未だ『闇の遺跡』から動いていないのは衛星「ハエ男」からの情報で確認済みだが、イシュマウリの言う『星の筋書き』は既に狂っているので安心はできない。……しかしそんな俺の不安は杞憂に終わった。山の中腹、大きく開けている場所まで来ると、サーベルトがめちゃくちゃデカい岩を括り付けた模造刀で素振りをしていた。異音の正体は素振りの音だった。

 

…。

 

ええ…何それ、怖…

 

「ん?ドリィ!ドリィじゃないか!久々だな!!」

 

「あー、えー、はい……」

 

 

サーベルトは俺を見て声をかけるなり汗を流してくると言い、クソデカ模造刀を放り出して早々に滝の方へ行ってしまった。刀と言ってもほとんどデカい岩なのでそんなもんを放り出すと当然轟音と共に山が揺れる。もうこれ以上山を弄らないでくれよ…。さて、そう自分のことを棚に上げ、俺はイスとテーブルを亜空間から取り出して紅茶を淹れる準備を始める。

 

夜空の月は今日も綺麗だ。月の世界は本当に月にあるのだろうか?いつか世界が平和になったらロケット事業でもおったてて検証してやろうか。そんなことを考えていると、ラフな「たびびとのふく」に着替えたサーベルトが戻ってきた。

 

「まあ、とりあえず座ってください。再会を祝して月夜のティータイムとしゃれこもうじゃないですか。」

 

「それはいいな!…よっと。それにしても久々だなぁドリィ。王家の山(こっち)にいた分身のドリィはそこに生ってる『ジョロの実』や他の野草や魔物の採取を済ませるとさっさと帰ってしまったから…」

 

「言ったって数週間の話ですけどねぇ。このさみしがり屋さんめ!なんちゃってね」

 

俺はティーカップをサーベルトの前に置き、皿にクッキーを並べた。ベルガラックで購入した"ちゃんとした"クッキーなのでもちろん魔物はただの1ミリグラムも入っていない。ティータイムと食事は分けて然るべきである。サーベルトは甘党だからお砂糖は5つくらい入れてあげよう。…多いかな?

 

「あ、砂糖はもう一つ入れてくれ。」

 

…うん、やっぱりお砂糖の数は事前に訊いておくのがマナーだよな。俺は自分の紅茶にも砂糖を入れるとマドラーでくるくると混ぜた。紅茶に映っていた月がかき混ぜられて満ち欠けを繰り返す。

 

「あと、俺はさみしがり屋じゃないさ。しかし数週間も話ができる人間が周りにいないとそうなるのも普通じゃないか?」

 

「人語の話せる魔物たちはいるはずですが?」

 

「魔物じゃあなあ…全員が全員悪い奴ってわけではないのは分かっているが、やっぱり腹を割って話すなら人間が良い。」

 

「まぁ、それは同意ですね。」

 

「…ん?これは美味い…!こんな美味い紅茶は飲んだことがないぞ!」

 

「アスカンタのアジト近くで栽培している茶葉を使ってみました。どうです?これを新しい商品にしても面白いと思いませんか?」

 

「賛成だ。俺が客なら木箱いっぱいに注文する。」

 

「それはよかった。」

 

本当はティーバッグなどを使う通常の淹茶式でなく「おいしいミルク」を煮て直接沸騰させる煮出し式で淹れる、など他にも工夫を凝らした逸品の紅茶なのだが、まくし立てるように全てを解説するのは美しくない。俺もミルクティーを啜った。あっつっ!

 

「ところで、今日はどうしたんだ?もう時期が来たのか?」

 

「ああ、それもあります。勇者たちが船を入手したので直にサザンビークに到着します。そうすればこの『王家の山』に勇者たちは現れるでしょう。でもそれだけじゃないんですよね。本題は…」

 

「本題は?」

 

「私の師匠、マスター・ライラスの反魂に成功したということです!!」

 

「??はんごん?」

 

俺はやにわに立ち上がって喜びを表現したのだが、サーベルトには伝わらなかったらしい。自分だけ舞い上がっちゃってちょっと恥ずかしい。

 

「ごほん、生き返ったのですよ、師匠が」

 

「なにっ!?」

 

ここでようやくサーベルトも立ち上がった。

 

「本当か!?!?すごい、ど、どうやって…いや、流石はドリィだな!!!!本当にすごいぞ!!!」

 

「あ~~やめて~~そんなに強く揺さぶらないで~~~脳が揺れる~~~」

 

「あっ、悪い。」

 

ふぅ。サーベルトはもうとっくに常人の域を超えたパワーを持っているので肩を持ってゆすられただけでも首ががくんがくんする。タイミングが悪けりゃ首の骨が折れてもおかしくないかも。

 

「それで?ライラスさんは今どこに?」

 

「U.S.A.に。サーベルトも修行は十分できたでしょう?一回アジトに戻ってゆっくり休息をとって、師匠に顔を合わせてあげてください。」

 

「なるほどな。そういうことならアジトに帰還しよう。…ところでこっちのドリィが完成させて置いていった"アレ"も一緒に持って帰るのか?」

 

「まさか。あれは勇者たちにぶつけるんですよ。もともと『アルゴングレート』ごときじゃ大した経験値にもならないでしょうし。他の生態に影響を与えるような行動はしてませんでしたか?」

 

「ああ。一日中丸まって寝ているか水を飲むかしかしてないな。」

 

「それは重畳。じゃ、クッキーを食べたらアジトの入り口まで送りますよ。…そういえば、会社に送られてきた大量の新規従業員たちは全てサーベルトが?」

 

「ああ、それはだな…」

 

その後、俺はサーベルトとたわいない会話で深夜の紅茶を楽しみ、夜になって寝ていた魔物たち(U.S.A.の職員のみ)を叩き起こして全員をアジトまで送り届けた。ドランゴにも声をかけたが、彼はこの山に残るようだ。彼の周りには野生の「バトルレックス」の舎弟が何匹もいたから、もしかしてここで棲みつくのかもしれないな。俺はアジトでひと眠りすると勇者たちに先を越されないようにさっさとサザンビーク王国へ『ルーラ』で飛んだ。

 

 

─サザンビーク王国─

 

「うーん、まだちょっと寝足りないかなぁ…?」

 

勇者がいつ来るか分からんので急いで来てみたはいいものの、彼らはまだ来ていなかった。まあいい。サザンビークは面白い街なので数日は寝泊まりしても飽きないだろう。もうじきバザーも開催されるしな。チョロリと地を這うトカゲを横目に、俺はディムに変装して街を見て回ることにした。

 

「もし、旅のお方。」

 

「ああはい、なんでしょうか?」

 

「ここらでチャゴス王子を見かけませんでしたかな?今朝から姿が見えないらしく…まだこの国を出てはいないはずなのですが。」

 

国の中央を流れる美しい運河を眺めていた俺に話しかけてきたのはこの国の衛兵だった。

 

「チャゴス?はて?」

 

「ご存じないですか…旅の方ならば仕方ない。失礼。」

 

立派な赤い兵装に身を包んだ衛兵はさっさと次の人に聞き込みに行った。チャゴス?もちろん知ってるとも。しかし彼を知っていると言えば俺まで王子探しに付き合わされるかもしれない。なんであんな子豚ちゃんをわざわざ探してやらねばならんのか。ここで一日中川の流れを見ている方がずっと建設的だ。

 

「──チャゴス王子、また逃げ出したんだって?」

 

「ええ、でも今度はベルガラックに行かせないように門番を増員したって聞いたから国外脱出はできないんじゃないかしら。」

 

武器防具屋の荒くれと道具屋のバニーの会話を耳にはさみながら俺は散歩を続ける。全くしようのない王子だなぁ。人目を盗んでギャンブルに入り浸るわ、儀式も勉学も嫌がるわ、プライドも高くて、しかし実力はない。しかもその人徳の無さが国民全員に知れ渡ってるのがもう救えない…。

 

「王子が次期国王になったらと思うと…わたし不安だわ。」

 

ほんとにそうだよ。

 

サザンビーク王国は立地も良いし国力も高い、文句なしでこの世界で一番大きな国なのだが、如何せん王族の性格に難点がある。広く国中に悪名が轟く次期国王のチャゴスはもちろん、王位継承者でありながら一目惚れした女性を追って失踪するエルトリオ、さらには一見厳格に見えるクラビウス王も、チャゴスという傲慢の擬人化みたいな怪物を育て上げたという点では、その甘さも十分に難点と言える。おまけに政治を補佐する大臣も息子が世間知らずなラグサットなので、もはや大臣すらも怪しい。……改めて考えるとサザンビークの中枢やっべえな。

 

以前サザンビークには全国周遊の際に来たことがある。観光がてら城下で手品を披露して日銭を稼いでいたのだが、その時運悪くチャゴス王子に目をつけられてしまった。チャゴス王子はその日もベルガラックで遊んでいたところを衛兵に連れ戻されてきたところらしく非常に不機嫌で、民衆から喝采を浴びる俺を疎ましく思ったのかもしれない。「貴様のインチキ手品のタネを暴いてやる!!」と突っかかってきた王子を見て他のギャラリーはみな散り散りに帰ってしまい、俺は王子の手前手品を披露しないわけにもいかず、しかたなく消失マジックをやってみせた。しかし呪術を使っているため当然タネなどは無く(あったとして王子に見破れるかどうかは定かではない)タネを見破れなかった王子は逆上して俺を口汚く罵ったのだ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「なんだこの…なんだこの手品は!!見ていてつまらん!!どうだ!その証拠にぼくの他に誰も見物人はいないではないか!」

 

「(それは王子がみんなに嫌がられているからでは…)」

 

「大体お前のような貧相な格好をした貧乏人がぼくの国でデカい顔をしているのが大層不快だ!」

 

「(王子の方が顔は…いや、これは失礼か)」

 

「何か言ったらどうだ!それとも言葉の使い方も知らないのか?」

 

「……差し出がましいようですが王子、王子がいらっしゃるまでは見物人はいましたよ。」

 

「うるさい!!僕の前で許可なく発言するな!不敬だぞ!」

 

「(^^)」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

嫌な記憶を思い出してしまった。俺は運河を一通り見て回ると城の前まで来た。勇者と合流する前に城の内部構造把握も兼ねて王城も散歩してもいいかもしれないな。

 

…まあ別に手品の感想は人それぞれなので、手品をいくら悪く言われようと、それはギャラリーを楽しませられないこちらの落ち度と受け止められるのだが、チャゴスは手品ではなく俺の身なりや出自など、自分が優位に立っている点でのみ俺を謗ってくるのだ。生まれや貴賤でマウントを取る人間が俺は苦手である。それからというもの俺は彼奴のことがかなり嫌いなのだ。ゲームとしてドラクエⅧをプレイしていた時から憎たらしい奴だとは思っていたが、実物はもっと鬱陶しかった。その時は最終的に罵倒を聞かされ続けてげっそりしていた俺を見かねて、城の衛兵が王子を連行してくれたおかげで場は何とか収まったが、もしあの時サザンビークにユリマちゃんなど連れてこようものなら俺への暴言に怒ってチャゴスに殴りかかっていた可能性さえある。ユリマちゃんを取り戻したとしてもできれば王子には会わせたくないな…。

 

城で王子に鉢合わせるのも嫌なのでやっぱり宿屋でチェックインの準備でもするか…と思っていると、視界の端でタルがにじり、にじりとゆっくり動いているのが見えた。魔物?いやあんな魔物は知らないし…気になった俺が近づいて確認しようとすると、いきなりタルから声がした。

 

「おいっ!そこに誰かいるのか?衛兵じゃなきゃ誰でもいい。このタルを持って国の外へ出て、ベルガラックまで連れて行ってくれ。」

 

この声………はぁ。

 

俺は頭を掻いた。タルの中にいるのはチャゴス王子だ。一番会いたくない男に一番会いたくないタイミングで出会ってしまったらしい。どうやら今度はタルに隠れて国外脱出を図っているようだ。もちろんベルガラックまで連れて行く気など毛頭ないがこのまま衛兵に突き出すのは面白くない…。

 

あっ、そうだ。

 

「もっ、もしやタルの中にいるのはチャゴス王子であらせられますか!?」

 

「いかにも。さあ、どこの誰とは知らぬがぼくをベルガラックへ送り届けてくれ。」

 

「もちろんでございますとも王子。ところで王子は腹など空かれてはおりませんか?」

 

「ん?そういえば腹は減ったな。何かくれるのか?いい心がけだ、褒めて遣わすぞ。」

 

「ええ、ではこれを。少しタルの蓋を緩めてくださりますか?」

 

話し方もそうだが、もう声色から腹が立つなぁ。俺は近くにいたトカゲを拾い上げ、少しだけ開いたタルの隙間に放してやった。王子はトカゲが大の苦手なのだ。

 

「おお、暗くて見えないがこれは…?」

 

「…」

 

「こ、こ、これ…は…!?!?」

 

俺はダメ押しに「トカゲのエキス」の残りを隙間からねじ込む。『王家の山』に入山する前に俺とサーベルトに振りかけた残りだがもう必要はない。これで中のトカゲは元気に活動し始めるだろう。

 

 

「ひいいいいいいいいっっっっ!!!!!!なっ、ななっ!!と、トカゲだああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

俺は無表情のままタルをロープでぐるぐる縛る。遠めに見れば梱包作業に見えないこともない。

 

 

「ぎゃああああああっっっ!!!こっち来るなぁあああああ!!!!!!で、出れない!!!出せ!!!」

 

 

後は王子捜索に出払ってがら空きになっている城門を通って中に入り、そこらに転がしておけばOKだ。

 

 

「おわあああああああ!!!おっお前!!!僕を騙したなぁっ!!」

 

 

別に嘘はついてないしぃ。トカゲだって食べ物よ。さっき入れたトカゲは毒も牙も持たない安全なトカゲだから王子がケガをすることもない。そもそも王子はめちゃくちゃ素の防御力も体力も高いじゃん。

 

 

「ぎょええええぇぇぇぇ!!!服に、服に入ったぁ!?!?!?」

 

 

…流石にやかましい。恐らく性根が図太すぎてショックを受けても気を失えないのだろう。そこだけはちょっと気の毒な気もする。俺は喚くタルを放置し、外に出てまだ王子を捜索している衛兵を呼んだ。

 

「衛兵さん!城内に王子の声がするタルが!!」

 

「何だって!?情報提供感謝する!!」

 

衛兵は慌てて城に走っていった。これで王子も懲り…はしないだろうが、まあしばらくは落ち着いているだろう。こちらのストレス解消にもなったのでめでたしめでたしだ。

 

 

「のわぁぁぁぁ!!!!ぐげええ!!!!」

 

 

「お、王子!?!?何を!?」

 

後ろで衛兵の困惑する声が聞こえる。あの衛兵には申し訳ないな。悪いけど王子監督不行き届きの罰だと思ってほしい。…なぜかひどく疲れた俺はもう宿屋で休むことにした。

 

 

 

 

 




ドルマゲス
レベル:50→53

サーベルト
レベル:45→49

チャゴス
SAN値:20000→1
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