ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
前回でめちゃくちゃ『ルーラ』の設定を盛りましたが、私のリサーチ不足でククールも覚えられることが分かってしまいました。応急処置の一文を追加しましたが、改めてお詫び申し上げます。だってククールでルーラ使ったことなくてェ…(言い訳)
ディムと合流し、闇の遺跡に張られた結界を破るアイテム「太陽のカガミ」を手に入れるべくサザンビーク王国に到着した一行。冒険者ディムの不思議な術と薬の効果でトロデは元の姿を、ミーティアは元の姿に加えて一時的に声を取り戻すことができたため、二人も堂々と王国に入れるようになり、トロデはその足で王室まで出向きサザンビーク王クラビウスとの面会を要求するのだった。
…
「…我が国の現状については以上じゃ。」
トロデはぽつぽつと、しかしテンポよく自国に起こった悲劇について詳細に語った。姫の生誕祭にアスカンタ王パヴァンに推薦された道化師ドルマゲスを招いたこと。自分の過ちで彼を秘宝の杖に曝露させてしまったこと。その後のドルマゲスによって建物は破壊され、人々はイバラに変えられてしまったこと。しかし体裁を考慮したのか自分と姫が姿を変えられ、今のこれは偽の姿であるということは伏せた。思わずヤンガスがツッコミそうになったが、咄嗟にククールがヤンガスの口の中に手袋を突っ込んだことで事なきを得た。
その後も、全員がトロデの話を沈痛な面持ちで聞いていたのだが、ディムだけは周りとは少し違う、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。「そんなこと言われたら…もう変装しないとこの国に来られないじゃん」という彼の愚痴は静まりかえった部屋の中でも聞こえないほどに小さく発せられ、誰の耳にも入らないまま彼の口の中で消えた。
「…にわかには信じがたいが、トロデ王。貴殿がわざわざ我が国まで出向いて伝えに来るというのだから間違いはあるまい。この度は貴国の不幸、心中察すると共に貴国を脅威にさらした魔性の道化師、ことドルマゲスの調査を我が国も請け負うことを約束しよう。それらしき人物が国内で発見されればすぐに拘束し、貴殿に伝達する。」
「ご助力感謝する。ありがたい限りじゃ。」
「クラビウス王、ミ…わたくしからもお願いいたしますわ。」
「ミーティア姫。こうして会うのは初めてか…君は母親によく似ているな。……国のことは不愍に思うが、君やトロデ王が無事で良かった。サザンビーク王国は友好国であるトロデーンの復興に協力することを約束しよう。もちろん侵略などは以ての外だ。ドルマゲスを捕らえたならばあの手この手で情報を引き出そう。」
クラビウスはミーティアを見て少し顔を綻ばせた。彼の重厚な、しかし安心感のある声にトロデは笑みを浮かべ、ミーティアの顔もパッと明るくなる。しかし彼らの顔が明るくなればなるほど後ろのディムの顔は険しくなっていく。
「して、クラビウス王よ。ドルマゲスの行方は依然として不明じゃが、ドルマゲスの関係者と見られる者…"悪徳の町"パルミドで『物乞い通りの魔王』と呼ばれていた女が北西の孤島に在る『闇の遺跡』へ向かったという情報を得たのじゃ。しかし闇の遺跡には闇の心を持つ者以外を阻む結界が張ってあって入れん。そこで『太陽のカガミ』を貸してほしいのじゃが…」
「なに?トロデ王、何故我が王家に伝わる『魔法の鏡』が『太陽のカガミ』だと知っている?あの鏡が太陽の光をため込むことができるというのは国民でも一部の者しか知らないはずだが…」
「ぬ?そうなのか?わしはそこにおる冒険者のディムから聞いただけじゃが…」
クラビウスが訝しむようにトロデから視線を送られたディムを睨む。王家の秘宝について妙に詳しいディムがどこかの組織の手先なのではないかと疑っているようだ。
「い、いや、僕は、その、あっ、そう!西の森に住むおじいさんから聞いたんです!彼は確かかつてこの国で名を馳せた宮廷魔導士だったとか。僕は彼の友人なので聞かせていただいたことがあったのですよ。はは…」
クラビウスは思い当たる節があるようで、「ふむ、そうか。」というと玉座に座りなおした。そんなことより気がかりなことがあるようで、それ以上の追及はせずに口をもごもごさせる。もしかして「彼」のことだろうか。ミーティアは自身も気になっていることについて尋ねてみた。
「ところでクラビウス王、本日はチャゴス王子はいらっしゃらないのでしょうか?」
「!?…あ、ああいるとも。我が息子チャゴスもミーティア姫に似合うような王子になるため日々邁進中なのだよ…だが今はまだ未熟でな…」
「そ、そうなのですね…」
図星だったようで、クラビウスは露骨に早口になる。その対応だけで、多感で聡明なミーティアは自身の婚約者となる人物がろくでもない男であるとうすうす感じたのだろう。少し声がか細くなった。その時、ディムがピンと背筋を伸ばすとトロデの真横まで忍び寄り、耳元でクラビウスと大臣には聞こえないくらいの声で囁く。
「(トロデ王、鏡の交渉については僕に考えがあります。一度ここは僕らを置いて姫と共に退出を。ミーティア姫の薬の効果ももう切れてしまいますので…)」
「(なるほど、この場で姫が馬の声を出してしまうのはよろしくないわい。…わかった、わしらは城の外で待っておる。言いたいことは全て伝えたし、おぬしらもわしの従者、もとい護衛だと分かった以上は無下にはされんはずじゃ。エイト、そしてディム。頼んだぞ。…ミーティア、わしに合わせよ。)」
「(わかりました、お父様!)」
「トロデ王よ、どうかしたか?」
「おほん、おっと、これはいかん!わしとしたことがとても重要な用事を忘れていた!!急ぎトラペッタに向かわねばならん!」
「あ、あー!ミーティアも早くトロデーン国領であるトラペッタの町へ行かなければですわー!」
トロデはともかく、ミーティアはヤンガスやゼシカもビックリの棒読み演技だが、まさかそんなところで嘘を吐くとは思っていないクラビウスは動揺を露わにする。
「なに?それはいかん、すぐに御者を…」
「いや、ありがたいが問題ない。城の外に馬車を待たせておるでな。特急で帰るゆえ、荷物になるこやつらはここに置いていくぞ。それでは失礼させてもらおう。」
「誰が荷物でがすか。」
「む?そ、そうか。そこまで言うならば…大臣、トロデ王を見送る準備を。」
「いやいい。もともと突然の訪問で迷惑をかけたのはわしじゃ。……クラビウス王、この度は世話になる。次会う時は姫の結婚式でな。」
「あ、ああ…トロデ王、ミーティア姫も無理だけはしないようにしてほしい。」
「(うーん、めちゃくちゃな演技だし苦しい設定だけど大丈夫かな…そもそもディムは何を考えてこんなことを…?)」
挨拶もそこそこに、トロデはエイトたちに目配せをしてミーティアの手を引き、さっさと退出してしまった。クラビウスは呆気にとられていたが、しばらくして我に返ると残されたエイトたちを見て何かを悩んでいる。
「そなたらはトロデーンの兵士か?」
「いや、兵士はここにいるエイトの兄貴だけで、アッシらはただの旅人でがす。」
ヤンガスがエイトの背中を軽く押して一歩前に出させた。
「…エイトか。…。」
「クラビウス王様、どうかなさいましたか?」
「いや、そなたの人相が親族に似ていたものでな。すまない。少し聞きたいことがある。」
「(親族に…サザンビークの王族と僕が…?)なんでございましょうか?」
「そなたらの事情はよく分かった。しかし先ほども述べた通り、魔法の鏡は王家の家宝。いくらトロデ王の頼みであってもおいそれと渡すのは王の沽券に関わるのだ。…力にはなりたいのはやまやまだがこちらも民を束ねる身、分かってほしい。」
「やっぱりダメでがすか…。おっさんってあんまり人望ないんでがすかね?」
「いや、そんなことは無いと思うけど…」
「まっ、そんなこったろうと思ってたよ。はなっから借りられるとは期待してなかったけどな。」
「どうすればいいのよ…サーベルト兄さんのカタキを討つには魔法の鏡が必要だってのに!」
手掛かりに繋がる魔王の居場所が判明し、あとは目と鼻の先というところでの停滞。エイトたちにフラストレーションが溜まっていく。一方で、飄々とした様子でやっぱりダメかと肩を竦めたディムは、クラビウスの前に進み出て跪いた。
「む?そなたは我が国にいた宮廷魔導士の友人だと言っていた…確か、ディムだな。何か?」
「王よ、憚りながら申し上げます。何かお困りのことは無いでしょうか。我々、腕っぷしの方は並の兵士を凌駕すると自負しております。…例えば王が力仕事の任務を我々に与え、その見返りとして魔法の鏡を貸与していただく…という形ならば我々も王のお役に立て、かつ目的も達成することができます。如何でしょうか。」
「貴様!王に対する無許可の進言、無礼だぞ!」
「よい、大臣。こちらからも提案しようと思っていたところだ。……しかし決めあぐねていた理由はその内容にある。」
「その理由ってのを聞かせてもらえないでがすか?」
クラビウスは一行に語った。もうじき息子のチャゴスが一人前の王になるために通過する儀式があるのだが、彼は大嫌いなトカゲとの戦闘を嫌い、頑なに儀式を拒否しているという。王者の儀式は命を落としかねない儀式であり、苦渋の策として護衛をつけることも考えたが、城の兵士に手伝わせれば王者の儀式の条件である「一人で完遂する」を達成できていないことが国民に知られてしまうため、中々決断に踏み込めないというのだ。
「そなたらに護衛についてもらうことも考えたが、そなたらはトロデ王とミーティア姫の護衛を務める者…滅多なことは頼めん。やはりこの話は…」
「クラビウス王!私たち、どうしても魔法の鏡が必要なんです!護衛でもなんでも任せてください!」
「あっしも王子を守るくらいのことはできるでがすよ。おっさ…トロデ王の護衛は元々ここまでの予定でがしたからね。」
「もちろん、心配しなくてもトロデ王には黙っておくくらいのことはしておくさ。オレたち、エイト以外はトロデーンの兵士じゃないからな。」
「…。」
エイトたちはここぞとばかりにあることもないこともまくし立て、なんとかチャンスを得ようとする。クラビウスはしばし目を閉じると、とても重そうに口を開いた。
「…では頼みたい。そなたらに超機密の任務を課す。内容はチャゴスの護衛、報酬は魔法の鏡だ。……チャゴスを呼んでまいれ。」
…
「…で、なんで私たちまでチャゴス王子を探さないといけないわけ?」
「仕方ないだろ、チャゴス王子が謁見の間に来る前に逃げ出したってんだからな。」
「いくらトカゲが苦手と言ったって、王者の儀式は王位を継承する者全員が通る道だってクラビウス王も言ってたでがす。チャゴスって王子はそんなヘタレなんでがすかね?」
「王子様っていうからには私、勇敢で人望に厚い人を想像してたんだけどね…」
「そりゃまた、ベタでがすな。」
「しかも名前までチャゴスだもんね。なんだかパッとしないわ。」
「おいおい、それは関係ねーだろ。名前にまで罪は無いと思うぞ。」
「ディムはチャゴス王子のこと、何か知ってる?」
儀式を嫌がって逃げ出したチャゴスを探すという名目で王城を適当に散策するエイトたち。エイトがディムにチャゴスのことを知っているかと聞くと、ディムはそれはそれはイヤそうな顔をした。
「あー、はいはい。よ~~~く知ってますよ。あの高慢ちきな太っちょ君のことでしょう?」
「「ちょっ!?」」
「滅多なことは言うもんじゃないでがすよ!!」
予想だにしなかった暴言に慌ててヤンガスが口をふさぐ。エイトは周りを確認するが、城の関係者は近くにはいないようで胸をなでおろした。
「おいおい、命は大切にしろよな。王子の悪口なんて王様の耳に届いたらただじゃすまないだろ?」
「だって本当のことですし。お城の人たちもきっと見て見ぬふりしてくれますよ。…僕、昔王子にひっどいこと言われたんです。それから王子のことはあまりよく思っていないんですよね。大人げないことを言っているのは自覚してますが、みなさんも実際に護衛の任につけば彼がどういう王子サマなのかすぐに分かると思いますよ。」
「…」
「…え~、温厚なディムがここまで言うんだもん、相当"スゴイ"人には違いないわ。……どうしよう、ちょっとイヤになってきたかも…」
「えぇ…カタキはどうするんでげすか…」
「ん?あそこ、人が集まってるね。行ってみようか。」
早くも信念がブレ始めるゼシカにヤンガスが呆れていると、エイトが広間の突き当りに十数人の人だかりを見つけた。王子の行方と関係しているだろうと直感で察したエイトは人ごみの一番外側で話をしていた侍女に話しかけてみる。
「すみません。僕たち国王様の命でチャゴス王子を探しているんですが、王子の行方をご存じないでしょうか?」
「あら、旅の方でございますか?チャゴス王子ならすぐそこにいらっしゃいますが…」
侍女は目の前の扉を指さす。どうやらこの扉の向こうにチャゴス王子がいるらしい。エイトがではなぜみんな集まっているのかと問うと、近くにいた学者姿の男が代わりに答えた。
「私たちもみんな国王様に命じられてチャゴス王子を迎えに参ったのです。」
「でもチャゴス王子は国王様の下へ連れていく途中で逃げ出されてしまい…」
「この使用人の部屋に立てこもってしまったのですわ!」
「ドアを開けようとすると舌を噛み切るぞと脅してくるし…」
学者の次は兵士、召使い、そしてまた侍女と怒涛の勢いでチャゴスの愚行をまくし立て、最後は揃ってため息を吐いた。
「「「どうすれば…」」」
「…。」
「どうしよっか?王子をなんとか部屋から出さないと…」
「王子と交渉でもするか?扉の前にカワイ子ちゃんがいるぞー、とか。」
「とにかく、王子をどうにかして部屋から出さないことには始まらないでげすな。」
「大丈夫です、僕に任せてください!」
「おっ、いやに威勢がいいな。どうやって王子を部屋から出すんだ?」
「いいですか?城の皆さんのあの反応、おそらくチャゴス王子がどういう人間かを嫌というほど知ってる方たちだと見受けられます。そこを利用するんですよ。見てて下さいね…」
ディムは自信満々といった様子でポンと胸を叩くと、堂々とした歩みで人だかりをかき分けていき、おもむろに扉の前に立ってとわざとらしく嘆いた。
「あ~弱ったな~~!!王子がまさか舌を噛み切ることのできるほどの勇気の持ち主だったなんて!!!」
「「「・・・。」」」
「…ディム、なにを「確かに、それもそうだな!」「あけちゃえあけちゃえ!」「私、ちからの強い人呼んできます!!」えっ?」
ディムの一声で城の関係者たちはやんややんやと騒ぎだし、まもなく全員で扉を押し始めた。すぐに扉の向こうで悲痛な叫び声が上がる。
「ウワーーーッ!こ、コラーー!やめろっ!おいっ!無理やり扉を開けようとするな!し、舌を!舌を噛み切るぞ!!」
「王子、その時はトカゲの尻尾の細胞でも移植すればまた生えてくるやもしれませんぞ!さあみんな!押せーー!!」
「ヒッ!お前何てことを…あっ!やめ…やめろ!やめてぇっ!!ああっ」
ガチャン!
遂に扉の鍵は壊れ、チャゴスと城の者を隔てるものは何もなくなる。チャゴスは起死回生を夢見て次の立てこもり部屋に走るも、十数人の包囲網から逃れることは叶わず、両手両足を掴まれてまるでブタの丸焼きのような格好で運ばれていった。一方で一部始終を見ていたエイトたちはディムのとんでもないゴリ押しに開いた口が塞がらない。
「…」
「いっちょあがりです。ブイ。」
「いや、なにピースサインしてんだよお前…。結果的にはこれでいいんだけどよ…」
「ディム…きっと相当酷いことを王子に言われたのね…どしたの?話聞こうか?」
「ゼシカも言ってたでげすが、あのディムにあそこまで強引な手段を取らせる王子を今からあっしらは護衛するんでがすね。…うへえ、確かにこれは気が滅入るでがす。」
「ま、まあ行こうよ。これでチャゴス王子もきっと王者の儀式に行かなきゃならないだろうし…」
知識が豊富で人懐っこいディムでも機嫌を損ねることはある。先刻王子が運ばれる光景を、とてもスカッとした爽やかな顔で見ていたのをを見て、エイトたちは少しだけディムの認識を改めた。普段温厚に見える人ほど怒った時は怖いものなのだ、と。
前話(三十一章)より
『ミーティアは首を大きく縦に振り、駆け寄ってくると俺の手を取った。王族らしい綺麗な手のひら、その柔肌の感触、そして超至近距離から放たれる美少女スマイルの輝きに俺は飛び退きたくなる。へらへら生きている道化師にとって王女様の笑顔は眩しすぎるんだ…』
─同時刻 闇の遺跡─
ラプソーン「む?今誰か知らぬ女が道化師に触れたような気が……いや、我は何を考えているのだ……」