ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
今回はチャゴスとゼシカのターンですね。
ハロー、結局チャゴス王子のお守りをすることになってしまった道化師ドルマゲスです。トロデとミーティアがいれば展開は変わってチャゴスが一人で儀式に挑戦することにならないかなと思ったのですが…逆に『ドルマゲス』は出禁になってしまいました。それどころかトロデが私の風貌をよく覚えていないのか「面妖な術を使う道化師」としか伝えていないので、今後サザンビークにくる道化師や旅芸人は全員捕縛されてしまうのではないでしょうか。可哀想な同業者たち…心から同情します。
…
俺はチャゴスを部屋から無理やり引きずり出させた後、悠々とクラビウスの下へ戻った。道中でゼシカが「どしたの?話聞こうか?」と出会い厨みたいなことを言いだしたり、エイトやククールがこちらを窺うような素振りを見せたりしていたが…。うーん、ちょっと調子に乗って鬱憤を晴らしすぎたかもな。これからはしばらく大人しくしていよう。
…
「おお、戻ってきたかエイト、そしてその仲間たちよ。一応紹介しておくべきかな。この者が我が息子にしてサザンビークの次代の王となる者、チャゴス王子であるぞ。」
部屋には王と王子と大臣と俺たち以外は誰もいない。どうやらチャゴスを連れてきた(連行した)城の者たちはそれぞれの持ち場へ戻ったようだ。毎度毎度お疲れ様です。にこやかに息子を紹介するクラビウスを見ると、どれだけ息子が堕落していようと、ああ、この人は本当に息子を愛しているんだなと少し優しい気持ちになる。…もっとも、その優しさが原因で生まれた怪物に何人もの国民が苛立ちを募らせているのだが。一方で紹介されたチャゴスはこれまた不満そうな顔をしている……腹立つなあホント。
「お待ちください父上!なぜこのような見るからに身分の低そうな輩にこのぼくを紹介するのですか。」
早速チャゴス節が炸裂した。厚顔無恥で血統主義なチャゴス君は、相手が多人数であれ武器を背負っている人物であれ、自分より身分の低い者を見下すことを恐れない。チラリと横を見ると、ゼシカとククールはもう嫌な顔をしている。
「身分なぞ問題ではない。お前の儀式を補佐してくれる者たちにお前を紹介するのは当然のことであろう。」
「儀式ですと!?ぼくはそんな話きいておりません、行くと言った覚えもありません!何度もトカゲはイヤだと申したではありませんか…」
「よく聞け、チャゴスよ。どんなにイヤでも儀式を済ませ強い王になれるとわしらに示さねば、ミーティア姫と結婚できんのだぞ。」
「ぼくは結婚なんか別に…」
父親自らが説得してもなお全然儀式へ行く気がないチャゴスに、流石にクラビウスも焦りを見せはじめた。依頼の請負人たる俺たちもこの現場を見ているのだからなおさらだろう。
「本当にそう思っておるのか。…実は先程までミーティア姫とトロデ王がこの国に来ていたのだが…。」
「えっ!?も、もう帰ったんですよね?ぼくが城の者共に運ばれるところなんて見られてないですよね!?」
チャゴスはどうでもいい心配をしている。どうせこれから痴態はどんどん上塗りしていくんだから心配なんてしなくていいのに。
「ああ…ミーティア姫はそこにいるおなごに勝るとも劣らぬ…」
「ぼんっ!きゅっ!ぼーん!!」
「……なスタイルだったぞ。」
「おお…!」
クラビウスの声に力がこもり、俺は肩を竦めた。DQ8屈指の迷シーンに立ち会えたことは感動ではあるが…。ああ、ほらみんな幻滅してる。あの優しくて冷静なエイトですら、クラビウスの不躾すぎる発言に目が死んでしまっている。やっぱりクラビウスにも「この親にしてこの子あり」な部分はある気がするな。…それ以外は立派なんだけども。
「私をダシにしないでよね…!」
チャゴスから下卑た視線を受けたゼシカは分かりやすく苛立っている。…まあククールも認めるように、確かにゼシカのプロポーションは抜群(本人によると母のアローザはもっとスゴイらしい)で、俺も一人の男である以上興味はある。が、チャゴスと同類と思われるのはひっじょ~~~に心外なので俺はゼシカの方を見ないようにした。
…うーん、ゼシカかあ。ディム君は大体10~12歳くらいのショタなので、姉御肌のゼシカに甘えれば色々世話を焼いてくれるかもしれないが、正体がバレた時のことを考えたら絶対に口には出せないな。あとサーベルトに合わせる顔もなくなるし。
「……おほん、チャゴスよ。城の者が陰でお前をなんと言ってるかここでわざわざ言うまでもないだろう。少しでも悔しいと思うのなら儀式を済ませ、男をあげてみせろ。」
「…」
「そこにいるエイトたちも陰ながらお前の力になってくれよう。どうだ?チャゴスよ。行ってみんか?」
「うぅ…行ってみようかな。あっ、でもやっぱりどうしようか「おお!行くと申すか!表向きお前は一人で王者の儀式へ出発したことにするからな。一足先に城下町を出て門のそばにあるエイトたちの馬車に乗り込んで待っていろ。よいな?」」
「えっ!?」
「よし大臣。チャゴスをさっそく儀式へ送り出せ。さもひとりで行ったように見せかけるためにも兵士を連れていき、派手に門の前で見送らせろ。」
「ははっ。仰せの通りに。」「そんな、ぼくはまだ…」
チャゴスの困惑もどこ吹く風、大臣はチャゴスの首根っこを掴んでそのまま引きずっていった。部屋にいるのがクラビウスと俺たちだけになると、クラビウスはため息を吐いた。
「ふぅ、やっと行きおったか。エイトよ、くれぐれも護衛のことは誰にも口外しないでくれよ。…特にそなたの主君であるトロデ王とその娘ミーティア姫には黙っておいてほしい。チャゴスにもメンツというものがあるのだ。」
「えーと…」
どうやらエイトは嘘を吐くのが苦手らしい。いや、そりゃ原作では一度も言葉を発していないので実際のところは分からないが…だとしたらこういうところもサーベルトに似ている。ゼシカがエイトに兄の姿を投影したのにはこういう一面もあるのかもな。
「あと、王者の儀式に関しては城の外でチャゴスにでも聞いてくれ。そなたが見事この任を成し遂げてくれれば約束していた魔法の鏡はくれてやる。では、頼んだぞ。」
…
「王子は有無も言わさず連れてかれやしたね。ただの親バカかと思いきやクラビウス王も厳しい人でがすな。」
「どこがだよ。厳しく育てた上で王子がああなったってんなら王子は筋金入りのダメ人間だぜ。」
「あの王様、結構やらしいわね…私の身体を見てぼんっきゅっぼーん!とか言わないでほしいわ!まったく!」
王子が無理やり送り出されたのを見届けた後、俺たちはのんびりと城門まで歩いていく。エイトたちの足取りは重く、いくら「太陽のカガミ」のためとはいえ、これからあの王子に付き合わされることを考えてげっそりしているようだ。サザンビーク王家の異常さが分かってもらえて何よりです。
「ねえ、ディム…クラビウス王から護衛のことは王様たちには言っちゃいけないって言われたよね。でも王様はきっと城の外で待っているし、王様を置いて王家の山に行くわけにもいかないし…どうしたらいいかな…」
「エイトさんは誠実でいい人ですね。でも大丈夫です。トロデ王とミーティア姫に僕がかけた変身の魔法は二人が城を出た時点で解除してますし、何よりクラビウス王の中では今の王と姫は御者と馬、つまり僕たちの同行者としか認識されていないので、事情を話したとしても大きな問題にはなりませんよ。」
「そうよね。そもそもいずれ親族になる相手に隠し事をするってのもおかしな話だと思うわ。」
「でも、それじゃあクラビウス王との約束を反故にする形に…」
「あのなあエイト、クラビウス王から課せられた任務は王子の護衛だ。それだけ遂行すりゃ何も文句はつけられねえだろ。じいさんにもきっちり説明すりゃ秘密は守ってくれるだろうしな。あのじいさん、物分かりは中々いい方だし。」
「もともと王子にこっそり護衛をつけて国民を欺こうとしてる国王でがす。あっしらにも嘘の一つや二つ吐く権利くらいはあるんじゃないでがすか?」
「…そうだね。みんなの言うとおり、王子はしっかり護衛しよう。あとはまあ…こう…うまいこと…やろう!」
パーティの正常性最後の砦であるエイトも遂に折れ、斯くして俺たちはワルの集団になった。エイトにはクラビウス王がミーティア姫の姿態をチャゴスの動機づけに利用されたのが効いたようだ。ともかくこれで全員が気持ちよく(よくはない)王家の山に行けるようになったのでよしとする。さあ、バリバリレベルを上げてもらおうかね。
…
俺たちは王家の山へと向かった。チャゴスはやれ馬車がせまいだの歩くのはしんどいからやっぱり乗せろだの儀式に行きたくないだのベルガラックに向かえだのやかましく、トロデもうんざりしていた。最初は丁寧に接していたゼシカももう愛想をつかし、常に理由をつけて馬車から離れている。ちゃんと王子に対応しているのはエイトだけだ。俺はこんな婚約者を持ってなお気丈に歩いているミーティアを心から不憫に思い、彼女のたてがみををひと撫ですると、ミーティアはこっちを見て大丈夫、ありがとう。というふうな表情をした(馬なのでよく分からないけど)。健気すぎる…大丈夫、結婚式は勇者がぶち壊してくれるからね。
というか今思えば王家の山スキップしなくて良かった。これでチャゴスが護衛なしで、あったとしても正当な手続きで儀式完遂してたら、クラビウスに婚姻を破談にする理由がなくなってたじゃん。そりゃあエイトが竜神族の里でウィニアの「アルゴンリング」を持ってくればサザンビークの王太子であることは証明されるだろうが、あの親バカ王ならそのまま勢いでチャゴスとミーティアをくっつける気がする。やっぱりこのイベントは必須だったか。
あとはチャゴスが原作と違って、勇気を出してアルゴリザードに挑むなどのイレギュラーが発生しないかどうかだが、まあこれは大丈夫だろう。チャゴスは相変わらずの嘘つきで威勢だけのヘタレ、しかし俺は彼を信用している。「全く信用できない」という一点をひたすら信用している。
─王家の山─
「では、ぼくは王家の山の管理人に話をつけてくるからな。お前たちはここでじっとして待っていろよ!」
チャゴスは管理人の家へと入っていった。俺も王家の山の生態系をめちゃくちゃにしてしまったことについて謝りに行った方がいいのかな?
「…ところで王子って戦えるのか?道すがら魔物と戦う機会だってイヤってほどあるだろうしよ。」
「まあ…戦えるんじゃないかな…?その、一般人程度には。」
「まんがいち死なれたらやっかいでがす。王族を死なせたとあっちゃアッシらは打ち首でがすぜ、打ち首!」
「わっ、わっ、わっ!なに言ってんのよバカ!その口ぶりだとまるで私たちがこれから王子を殺害するみたいな言い方じゃないのよ!もう!」
「そうじゃぞ、王子を死なすなら事故を装うのじゃ。」
「おっさんいつの間に!てか何を言ってんでがすか!!」
トロデはめちゃくちゃ遠い目をしていた。目に光がない…というかもう黒目しかないんじゃ?ってくらいない。怖っ!…そりゃ苦心して修理した錬金釜を邪魔だと言って道端に放り出されたり、ミーティアが休憩していると使えない馬だと言われたり、チャゴスの視界に入るたびに不気味な奴だと罵られたりすればこうもなる。むしろミーティアが虚仮にされたときに飛び出さなかったのは本当に偉いと思う。俺なら錬金釜を投げ捨てられた時点で何らかの呪いはかけてる。
「へっ、冗談じゃ。冗談…たぶん」
「「「おいっ!」」」
「まあいい。おぬしら、ここからが本番じゃ。さっさと王者の儀式を完遂して魔法の鏡を手に入れ、闇の遺跡へと向かうぞ。」
「そうね、冴えない王子のお守りはもうごめんよ。」
「どうした、何の話をしている?」
チャゴスが帰ってき(やがっ)た。間がいいのか悪いのか…。
「あら王子、大丈夫、関係ないわ。私の知り合いにどうしようもないダメな男がいてね、その人の話をしてたの。」
「そうか。そいつにはぜひぼくのような品格を身に付けてもらいたいものだな。ところでエイト、これを渡しておこう。『トカゲのエキス』だ。」
「(…)」
ゼシカの顔が張り付けた笑顔のまま固まり、眉だけがひくひくと動く。図太さもここまで来ると皮肉も無意識にカウンターできるのか…と俺は思わず感心してしまった。
「トカゲのエキス…ですか?」
「その袋には人間の匂いを消す粉が入っているんだ。今から山に入るからお前たちもその粉を身体に振りかけておけよ。儀式で戦うことになる『アルゴリザード』はな、人間の匂いに敏感で近づいただけでも逃げ出してしまう。そこでその粉で体臭を消しトカゲ臭くなれば奴に逃げられず戦うことができるようになるって寸法だ。」
「くんくん、ずっと王子から臭い匂いがすると思ったら、その袋と同じ匂いでがすな。王子はもうエキスを浴びてるってことでがすか?それは準備万端なことでげす。」
「これは…数日前に誰かに陥れられて振りかけられた大量のエキスが今も取れていないだけだ。…うう、思い出すだけで寒気がする。あとぼくを臭いと言ったな?すぐに謝罪しろ。」
「…」
俺は思わず目を逸らした。チャゴスが言っているのは、間違いなく俺がタルに入っていた王子で遊んでいた時の話だ。話が脱線してコイツがドルマゲスの話でも始めると面倒なことになるので、俺は率先してトカゲのエキスを被る。そこまで悪い匂いってわけでもないんだけどな。
その後エイトがエキスを浴び、ヤンガスが浴び、トロデとミーティアも浴び、ククールも嫌々ながら浴び、ゼシカも浴びようとしたところでまたしてもチャゴスから横槍が入った。
「おい、さっさと準備しろよ、女。いつまで経っても山に入れないではないか。」
「…だから、今トカゲのエキスを浴びようとしていたところじゃない!」
さっきのこともあってか、カチンときた様子のゼシカは少々語気も強めにチャゴスに対して抗議する。それが良くなかったのだろう。慣れない不便な旅で苛立ちがピークに達していたチャゴスのスイッチが入ってしまった。
「おっ、お前!!平民の分際でぼくに口答えする気か!?これだから身分の低い女は野蛮で良くない、ぼくがわざわざ下手に出てやればこうだ!お前の家柄など知りたくもないが、さぞ情けない血筋なのだろうな!平民の親もやはり平民というわけだ!ぼくは親切心からお前の準備が遅いことを指摘しただけなのに!それなのにお前は一体何様だ?ただの女のくせにぼくの厚意を無下にするなど、無礼極まりないということすら理解できないのか?」
「チャゴス王子、言い過ぎです。ゼシカはちゃんと…」
「黙れ!お前とは今話をしていない!…女!即刻謝罪しろ!そうすれば許してやらんこともない。さあ謝れ、額を地面に擦り付けて!!」
「…っ!」
「王子様、それ以上はお止めになってください。帰るのが遅れてしまいますぞ。ささ、行きましょう。」
「……!……ふんっ。それもそうだな。こんな所からは、そしてこんな奴らとも一刻も早く離れたい。おいっ!お前たち、野蛮なら野蛮なりにしっかりぼくを護衛しろよ!」
「…」
…いくら傲岸不遜だからって、流石にチャゴスがここまで言うとは思っていなかった。トロデが良いタイミングで止めていなかったらどうなっていたことやら。ククールを筆頭にエイトもヤンガスも憎々しげに山に入っていくチャゴスの後姿を睨んでいる。ゼシカなんてもう泣き…泣いてる!?座り込んでしまったゼシカに俺が急いで駆け寄るや否や、ゼシカは俺に寄り掛かってぽろぽろと涙をこぼした。
「…ディム…!」
「…あんな横暴に耐えて、我慢できて尊敬します…本当にスゴイと思います。僕ならきっと言い返すか手が出ると思うので。」
「…わ、私だって、言い返してやりたかった。…でも!もしここで王子がへそを曲げて王者の儀式に行かないって!そう言われたら!鏡が貰えなくなって…そしたら兄さんのカタキも取れなくなって…!…だから…私…わたし…。…く、悔しいよ…うぅ……。」
「…流石に僕も今のは良くないと思う。撤回してもらわないと。」
「…ちっ、アレが護衛の対象でさえなきゃ王族だってなんだってぶん殴ってやったところなのによ!」
「今からでも遅くはないでがすよ、ククール、兄貴、夜の闇に紛れて一発殴ってやりましょうぜ!」
「みんな…」
…そうだ。ゼシカはチャゴスにまくし立てられて怖くなって泣いてしまったわけでも、酷いことを言われて悲しくなってしまったわけでもない。ただ、言いたい放題言われて、実家であるアルバートを、家族をバカにされて、それでも言い返すことができなかった状況が涙を流すほど悔しかったのだ。斯くいう俺も今のはかなりイラついた。
…俺は「偉い、本当に偉いです…」と言いながら子供をあやすようにゼシカの頭を優しく撫でる。きっと強気な姿勢が崩れてしまった彼女にはこれが一番効くはずだ。
「みんな…ありがとう、私のために怒ってくれて。でも…いいの、大丈夫。それよりほら、王子が行っちゃう。きちんと王子を護衛して魔法の鏡を手に入れなきゃ…でしょ?」
ゼシカは流れる涙もそのままに、無理して笑顔を作ってみせた。
あー。これダメだ。その笑顔はダメだわ。
俺の中で何かがプッツーンと音を立ててキレた。『しばらく大人しくしていよう』?そんなの無理に決まってんだろ。俺は手を引いてゼシカを立ち上がらせると、勇者たちにちょっと待ってて、のジェスチャーをし、つかつかと後ろからチャゴスに近づいて『マヌーサ』をかけた。
「うん?あっ、うわあああああ!!!???と、トカゲの化け物!?ぐぶっ!!」
「王子!アレは王家の山におわす伝説の霊竜です!大丈夫ですか!!」
「か…身体が…おも…」
想像する限りチャゴスが一番恐れるであろう『竜神王』の幻覚を見せ、『ベタン』の呪文でチャゴスの周りだけ重力を数倍にした。隣でおろおろしているトロデとミーティアにも「大丈夫」と目配せする。
『お前が此度の王者の儀式を受ける者か…』
「ひっ!しゃ、喋った……!!」
『見ていたぞ、お前の所業…貴賤問わず民を思いやれぬものに王の資格は無い…そのまま醜く潰れよ…』
「たっ、!おい!お前たち!助けろ!!」
「王子!謝るのです!さっきゼシカさんに言ったことを全て撤回するのです!」
幻惑状態にない勇者たちからはもちろん竜神王の姿など見えていないし、いきなりチャゴスがうずくまって叫んでいる変人に見えるだろうが、おそらく俺が王子に何かをしたということは理解しているようだ。
「そんな…ぼくがあんな下賤な輩なんかに…」
『では、さらばだ…この世の何よりも醜く意地汚い男よ…』
「早く!助けてくれ!」
何て体力。やっぱりしぶといなコイツ。俺は『ベタン』を『ベタドロン』に強化した。たちまち王子は情けない悲鳴を上げて倒れこむ。俺はゼシカにこっちに来るように促した。
「?」
「やっ、やめてくれ!謝る!謝るよぉ!!」
「ふん…」
俺は『マヌーサ』を治療し、『ベタドロン』を解いた。
「さあ、王子、ゼシカさんに謝りましょう!」
「…ん?なぜぼくが謝る必要がある?あの大きな恐ろしいトカゲはもうどこかに行ったのだから、ぼくが謝る理由はどこにもないだろう。」
「!」
「…ッ!ほんっとに救いようのない奴…!『ベタロール』」
「ああああああああ!!!!くそおおおおお!!痛い!痛い!!謝る!!謝るよ!!!わ、悪かった!!女…ゼシカ!!お前に言った全て!全部撤回する!ご、ごめ、ごめんなさい!あああああ!!早く!早く止めろおおおおお!!!!」
「!…まあ、いいわ。許してあげる。」
俺はまだ不満だったが、これ以上やって王子が死んでしまうと困るので(多分死なないけど)今度こそ魔法を解除し、高等重力呪文で身体の半分以上が地面にめり込んでいる王子を引き上げた。
「王子、かの霊竜の怒りはおさまったようです。では行きましょう。」
「げほっ!ごほっ!くそー…酷い目に遭った。早くアルゴリザードを狩って帰るぞ!」
さっきまで強力な重力攻撃を食らっていたとは思えないタフさでチャゴスは歩き始めた。…一応重力魔法は最大HPの割合ダメージがベースのはずなので、いくら王子でも受けたダメージは少なくないはずなのだが…まあ、そこもチャゴスらしさと言えばらしさではある。……腹立つなあホント。トロデからこっそり立てられた親指に免じて赦してやるか。その後勇者たちも後から追いついてきた。
「ヒュー。やるじゃんかディム。さっきの王子の情けない謝罪、あれお前がやったんだろ?中々楽しめたぜ。」
「王子もあっしらやディムのことは微塵も疑ってなさそうでげすね。どうやったのかは分かんないでげすが、スカッとしたでがすよ。」
「僕らじゃどうやっても良い結果にはならなかったかもしれない。ありがとう、ディム。この恩はいつかきっと返すよ。」
「いえいえ、僕も皆さんと同じように王子が許せなかっただけですよ。みなさんの苛立ちも解消できたみたいでなによりです。じゃ、行きましょう!」
ああ、と頷きチャゴスと馬車に続いてアルゴリザードを探しにいく勇者たち。俺も、と思った時、後ろからゼシカに呼び止められた。
「ディム!」
「あっ、ゼシカさん。」
「ディム…ありがとう。さっき、私が『大丈夫』って言った時……本当は大丈夫じゃなかったの。悔しい気持ちで心の中がいっぱいで…でもディムが王子に謝らせてくれたおかげで…この胸のもやもやも、全部ふっとんじゃった!…だから私はもう大丈夫!今度はもう、本当に大丈夫だから!」
「みんなが私のために怒ってくれたのももちろん嬉しいけど、私は、まだ小さいのに、一緒にいてまだ日の浅い私のために、誰かのために怒れるあなたを心から尊敬したいの。ふふ、知らないところからやってきて、誰も知らないやり方で誰かを笑顔にするなんて…まるで『アイツ』みたい」
「アイツ…あいつとは誰のこふ」
「…ありがとう…これはお礼!ふふ、ポルクとマルクとか、村の子どもたち以外には、…兄さんにもしてあげたことないんだからね!」
「…!」
ゼシカは屈んで俺を優しく抱きしめると、またカラッとした笑顔に戻って勇者たちの方へ駆けて行った。柄にもなくちょっとドキっとしちゃったのはご愛嬌。てかゼシカめっちゃ良い匂いした。トカゲのエキスじゃあ到底隠し切れないおいろけスキル、恐るべし…。
その後、俺はさっきの抱擁のあの圧迫感はキラちゃんには出せないだろうな…など失礼なことを考えたり、これ俺が元の姿だったら絶対やってくれてないだろうな…など考えたりしたが、やっぱり思い浮かぶのはサーベルトの顔だった。なんかごめんなぁ。いや煽りじゃなくて、何か…普通に、うん。
「(求む、親友の妹に抱き着かれた時の対処法──。)」
いつも当小説を読んでいただきありがとうございます。
読者様の中に「おや?この小説、お気に入りに登録しているのに評価はしていないなあ」という方がおられましたら是非評価のほどをよろしくお願いします!
もちろんこの小説を初めて読んで続きが気になってくださった方はお気に入り登録していただけると更なるモチベになります!
原作との相違点
・トロデとミーティアがクラビウスと面会した。
クラビウスが割と強情だったので王子の儀式は予定通り護衛付きで行われることになったが、後のことを考えると結果オーライ。
・チャゴスが更にクズ。
クズ度が250から255になったところで誤差ではある。
・天誅
その後一週間にわたってチャゴスは夜な夜な竜神王の悪夢を見て魘されていたという。
エイト
レベル:26
ヤンガス
レベル:25→26
ゼシカ
レベル:25→26
ククール
レベル:27
─同時刻 闇の遺跡─
ラプソーン「今度はクランバートルの賢者の末裔じゃない方を無性に殺したくなってきたが…何故だ?」