ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
「…父上よ、全て白状いたします。ぼくは、この神聖な儀式の場に偽のアルゴンハートを持ち込んでしまいました…否、『持ち込ませられた』のです……」
「ほう…?」
「そこにいる平民共の卑劣な手によって!!」
チャゴスは俺たちを指さし、こちらからしかその表情が見えないような角度でぼくの勝ちだ!!という風に笑った。
あ゛???????
フゥー……危ない危ない。思わずヒートアップしかけた頭を落ち着かせる。追い詰められたネズミは猫をも噛むと言うが…まさかここでこっちに飛び火するとは思っていなかった。俺を羽交い絞めにしているエイトにもう大丈夫です、と伝えて放してもらうと俺は大きく深呼吸した。一瞬とんでもない殺気が勇者たちから出ていたが、今は各々自分を落ち着かせているようだ。しかしそれは必ずしもチャゴスへの殺意が消えたことを意味しない。あと一言何か言えばぶった切ってやる。そんな危険な感情がエイト以外の全員から溢れている。てかエイトは暢気すぎな。一方で外野の者たちも困惑してざわついている。そもそもしれっと参列している俺たちが何者かも知らないのだ。
「…こうなっては仕方あるまい。大臣、皆の者に彼らを紹介せよ。」
「…不正に加担した以上説明責任もありますし、やむを得ませんな。皆の者、静聴せよ。そこに並ぶ者たちは腕の立つ冒険者。王者の儀式に同行したチャゴス王子の護衛である。王子の身を案じた国王によって秘密裏に任ぜられた者たちだ。皆を騙す形になったことは申し訳ない。」
クラビウスも大臣に合わせ、頭を下げる。
王子はやっぱり一人で出発したんじゃなかったのか、という失望の声が一瞬あがるが、静聴せよという大臣の発言を思い出したのかすぐに王の間は再び静寂に包まれた。
「ご苦労、大臣。…皆の不満はわしが後で全て受け止めよう。…しかしどうか、今は気持ちを抑えてほしい。」
王子はともかく、現国王には全幅の信頼を寄せている参列者たちは王に従って頷いた。
「…さて、チャゴスよ。彼らの手で偽のアルゴンハートを持ち込むことになったとはどういうことか?……エイト!そしてその同行者たちよ、前へ出て証言せよ!そなたらに非がある、または証言を偽るようなことがあれば裁判にかけられることもあり得ると心得よ。」
衛兵たちが剣を抜いたので、俺たちは言われるがまま王の前に進み出た。クラビウスとチャゴスが並び立ち、それに俺たちが対峙する形だ。チャゴスが何を言っても誰も何も文句を言わないのは、ヤンガスたちの頭が大分冷えてきた証拠だ。曲がりなりにもここは王の御前、許可なき発言はそれだけで不敬とされる。しかしだからといって何も言わないのは、この現状に屈したからではなく、機を窺って爪を研いでいるからである。
「…父上、ぼくは確かにアルゴンハートを手に入れました。しかしこいつらにとって誤算だったのは、儀式があまりに上手くいきすぎてしまったということです。アルゴンハートを手に入れて帰ろうとしたぼくを見てこいつらは焦りました。このまま何の役にも立たなければ、護衛の仕事を全うできず、報酬が貰えない!とでも考えたのでしょう。こいつらは数の力でぼくを脅し、無意味なアルゴリザード狩りを続けさせたのです。」
「……連戦させて疲弊させ、お前が助けを呼ばざるを得ない状況を作り出すためか?」
「えー…と、まさにその通りです!しかしどんなアルゴリザードも易々と倒してしまうぼくに業を煮やしたのか、帰ってきた後バザーで売られていた偽のアルゴンハートを、ぼくを騙して購入させ、あろうことかぼくの手に入れたアルゴンハートを全て盗んだのです!しかしぼくは儀式での連戦で疲れ、抵抗できず…くそー、なんて卑劣な…」
「……エイトよ、そなたは実際にアルゴンハートを持っておるのか?」
「…ディムが持っています。」
「ディム。見せてみよ。」
俺は無言でエイトから預かっていたアルゴンハートを全て取り出した。指輪サイズのものが三つと、『メモリア』が落とした大きなものが一つだ。
「なるほど。……チャゴス、続けよ。」
「全てのアルゴンハートを奪われたぼくの手にはその偽物しか残されていませんでした。ぼくは日を改めて再度王家の山へ向かおうと考えました!しかしまたもこいつらに脅され…すぐへ王城へ向かうように言われました。きっと報酬が待ちきれなかったのでしょう。ここに来たのもきっとぼくを嗤うためです。卑しさに限りがありません。」
「卑しさに限りが無いのはどっちよ。」
「暴力に屈してしまったぼくは、それでも父上を悲しませるような事だけは避けたいと思い…このような…えーと、王家とご先祖様に泥を塗るようなことをしてしまったのです…うぅ…」
チャゴスはしょぼい泣きまねを始めた。正直アレで誰が騙されるのかと思ったが、城の者たちの中には感じ入って涙ぐんでいるものもいる。ざっと見たところ、チャゴスの言い分を信じている者が半分、チャゴスを白い目で見ている者が半分といったところか。しかし城の者がどうかというのは正直何の関係もない。重要なのはクラビウスがチャゴスの言い分を信用するかどうかである。チャゴスに対しては宇宙一甘いクラビウスがチャゴスを全面的に信用すればその時点で全ては終わる。
「…なるほど、お前の言い分は分かった。」
穴だらけではある…が、足りない頭を総動員したか、追い詰められて頭脳が覚醒したか。チャゴスが急ごしらえで作ったにしては筋の通ったストーリーだと思う。しかも奇跡的にアルゴンハートの取引の場面を補完している。あそこで「こいつらが購入して僕に押し付けた」などと言っていれば、取引の場面を見ていたであろうクラビウスにはそれが
つまりどういうことかというと、かなりピンチです。
「次はそなたに問おう。エイトよ、チャゴスの言い分は全て真実か?」
重苦しい空気の中発せられたクラビウスの厳かな声は相手を委縮させるには十分だ。しかしエイトは物怖じなどしない。間髪容れずにその質問に回答する。トーポよ、しっかり見てるか?お前の孫は立派に成長してるぞ!
「いいえ、チャゴス王子の言い分には一部事実と異なる箇所があります。」
「…申してみよ。」
「まず、王子は王家の山ではほとんど戦闘に参加していません。それにアルゴリザード討伐の続行を提言したのはチャゴス王子その人です。」
「うっ!?」
なぁにが「うっ!?」だよ。そりゃ反論するに決まってるだろ。頭チャゴスか?チャゴスか。
「偽物のアルゴンハートを購入したのも王子であり、こちらのディムが今持っているアルゴンハートは盗んだのではなく王子から押し付けられたものです。」
「王子は疲労で動けないどころか、儀式中も何もしてないから帰ってきても元気いっぱいでがしたよね。」
「ざっ!戯言だ!父上、この者たちは虚偽の証言をしています!即刻処罰を!」
「…。」
「王子が自分からもう一度王家の山に行こうと思うなんて、それこそ戯言よ。城のみんなもどう思う?このチャゴス王子が進んで王家の山へ戻ろうとすると思うかしら?」
ゼシカが誰に言うでもなく語りかけると、さっきまで涙ぐんでいた城の者たちも首を傾げ始めた。
「「「確かに…。」」」
「あっ、わたくし、王子様がバザーでお買い物をされていたところをお見かけしました!疲労など感じさせない軽快な歩みで、その時は気にも留めなかったのですが…」
「なっなんだと!?そ、それは見間違いだ!」
「私も見ました。」「そういえばあの時イカメシ料理を提供していた店の前にいたのは…」「広場のステージで、バニーショーの最前列に陣取っていたのって王子様ですよね?」
「ち…違う!!違うんだ!みんなこいつらに騙されている!!父上、ぼくを信じてください!!」
クラビウスはチャゴスの言葉が聞こえているのかいないのか、目を閉じたまま深く頷き、一歩前へ出て俺の目の前に対峙した。
「ディムよ。」
「はい。何でしょうか?」
「わしとて一国の王、親バカと言われてもバカとは言わせん。そなたらの言うことに嘘がないことくらいは見抜いたつもりだ。しかし同時にチャゴスを信じたいというどうしようもなく甘い自分もいる。…そなたらが正しいとわしを納得させられるような証拠はあるか?」
「そ、そうだ!証拠がないぞ!父上がどちらの言葉を信じるかなんて一目瞭然だ!!ぶわっはっは!」
「ありますよ?」
俺は何を当然のことを、という風にさらりと答えてみせた。その言葉にクラビウスは目を見開く。エイトたちもこちらを困惑した表情で見ており、チャゴスにいたっては負け惜しみだ!と勝ち誇った顔をしている。…というか、なんでそんなに強気なんだよ…。全く理解できないチャゴスの態度に呆れながら俺は果物ナイフほどの大きさの水晶を取り出した。
「それは?」
「これは私が『録音機』と呼んでいる、音を記憶する魔道具です。これに城を出発した時から今までの王子周辺の会話は全て記憶されています。といってもいきなり信じろと言うのは酷かと。手始めにこの部屋の音を呼び戻してみましょう。」
「なるほど。ではやってみせよ。」
俺が水晶を指で弾くと、水晶が淡い水色の光を発して震え始める。
・・・
『…こうなっては仕方あるまい。大臣、城の者に彼らを紹介せよ。』
『…不正に加担した以上説明責任もありますし、やむを得ませんな。皆の者、静聴せよ。そこに並ぶ者たちは腕の立つ冒険者。王者の儀式に同行したチャゴス王子の護衛である。王子の身を案じた国王によって秘密裏に任ぜられた者たちだ。皆を騙す形になったことは申し訳ない。』
『…父上、ぼくは確かにアルゴンハートを手に入れました。しかしこいつらにとって誤算だったのは、儀式があまりに上手くいきすぎてしまったということです。アルゴンハートを手に入れて帰ろうとしたぼくを見てこいつらは焦りました。このまま何の役にも立たなければ、護衛の仕事を全うできず、報酬が貰えない!とでも考えたのでしょう。こいつらは数の力でぼくを脅し、無意味なアルゴリザード狩りを続けさせたのです。』
・・・
「さっきのは国王様の声…?」「大臣と王子様の声もしたぞ!」「内容も一言一句同じ…」
「…間違いない、今の声は我が息子、チャゴスの声だ。なるほど、その魔道具の効果は確かに音の記録で間違いないようだ。それでそなたはわしに何を聞かせたいのか?」
録音機は無事に作動し、効果の信憑性もクラビウスに認められた。後ろを振り返ればエイトたちがいつの間にそんなものを手に入れたの、という顔をしている。暇だから作っただけよ。
「これから王に聞いていただきますのは王子と偽のアルゴンハートを取り扱う商人との会話です。…それがどちらが正しいかの証明にはなりませんが、少なくともどちらが嘘をついているかの証拠にはなるかと。」
「よ、余計な事をするな!!やめろ!」
「まあまあ落ち着くでがすよ、王子。王子は嘘なんてついてないんでしょう?だから安心して聞きましょうや。なあ?」
俺に飛び掛かろうとするチャゴスをヤンガスが押さえる。ホントに空気の読める男だ。吠えるブタの腕を掴むヤンガスに感謝しつつ俺は水晶を二回弾いた。
・・・
『お、王子。それは…?』
『おっ、ちょうどいいところに来た。エイト、これが何だかわかるか?…じゃじゃーん!なんとアルゴンハートだぞ!信じられんだろう?これほど大きなアルゴンハートがまだあるなんて!』
『…そこの男から買い取ったのね。』
『ぐへへ。お客様は神様だぜ。金さえ出せばもう一個売るぜ。』
『その通りだゼシカ!ぼくが王家の山で手に入れたアルゴンハートも見事だったが、輝きはこちらの方が上だ。…ということで今まで手に入れたアルゴンハートはエイト、そなたにくれてやる。ぼくはこれを持って城へ戻る。もちろんこのことは内密にな。この商人もバザーが終わればやがて国を出るだろうから秘密が漏れる心配は一切ない。ぶわっはっは!』
『…』
『ではここでお別れだ。皆の称賛を浴びる僕の晴れ姿を見たければお前たちも城へ来るがいい!』
・・・
「!!!」
「…いかがです?」
クラビウスは今の会話を聞き完全にどちらが真実を言っているのか悟ったようだ。というよりかは、俺たちが正しいことを言っているのは分かっていたが、心のどこかで疑いきれず、一縷の望みを託していた息子の良心に完全に裏切られてしまったという方が正しいか。さっきよりもさらに肩を落とし、項垂れている。
「ああ…もうよい…もう…分かった…」
「父上、で、デタラメです。そんなこと、言うはずが…」
「あーあー。王子の言い訳もキレがなくなってきたな。」
その時、俺は体に独特な感覚を覚えた。外で探し物をしていた分身から信号が送られてきたのだ。クラビウスには申し訳ないがダメ押しだ。こんな茶番はさっさと終わりにしよう。
「国王様、証人が到着しました。」
「何…?」
俺は扉を開くと同時に分身を回収する。開かれた扉の前に立っていたのは、あの闇商人だった。一目見るなり、チャゴスは心臓が飛び出るほど驚いた顔をし、クラビウスの後ろに慌てて隠れた。
「ん?旅人の兄ちゃんいつの間に部屋の中に…それより、大量に宝石を買いたいと言っているお客様はどこだ?」
「ディム、その男は何者だ?」
「装飾品を取り扱う店をバザーで出店している行商人です。王子と取引をした張本人でもあります。」
「げげっ、国王…様!?」
「…最早聞きたくもないが、問おう。行商の男よ、そなたは我が息子と取引をしたか?」
「おっ、王子様なんてわたくし、顔も知りませんし…へへ」
「(よし!いいぞ!このままならやり過ごせる!)」
「ん?何をやっている、チャゴス。前へ出ろ。」
「え!?あっ!ちょ…」
クラビウスはぐいと王子を引っ張り出し商人の目の前に突き出した。王の機嫌を損ねないよう手を揉んでいた商人の目が、チャゴスを見てカモを見る卑しい目に変わる。
「おっ、アルゴンハートを購入してくれたお客様じゃねぇか。もしかしてお客様が…?」
「ちっ!ちが…」
「…なるほど、アルゴンハートだな。お求めとあらば何度でも売るぜ。なんてったってお客様は神様だからな。ぐへへ…」
「あ…あああ…」
闇商人はチャゴスが提出したものと全く同じものを取り出してみせた。自分の主張と完璧に食い違うエイトたちの主張、城の者たちの目撃証言、王も認めた当時の音声、そして偽のアルゴンハートを売りつけた本人である商人の発言。今度こそ、完全にチャゴスは崩れ落ちた。逆に商人が出てくるまで自分が優位だと思っていたことの方が驚きだ。何のことは無い。王子は最初から詰んでいたわけだ。初めはちょっと焦ったが、その後どんどん自分からボロを出してくれて助かった。
俺は用済みとなった商人を口八丁で誤魔化し、また城下町へ戻らせる。グレーな商売をしている彼だが、今はもういい。彼のやっていることがこの国の法律に抵触するならばまた後でこの国の兵士に捕らえてもらえばいい話だ。
チャゴスを信じる余地がもうひとかけらも無くなってしまったクラビウスは落とした肩を小刻みに震わせ始め、そして一粒の雫が床へ落ちる。
「!?」
「チャゴス…お前は…お前はなんと…」
「ちっ、父上!?!?」
「泣いてるわ…」
「泣いてるな。」
「泣いてるでがすね。」
「泣いてるね…」
クラビウスは音もなく泣いていた。王族は国民の模範、滅多なことがない限りは泣いてはならない。それが王たるものの責務だ、とかつてパヴァンが言っていたのを聞いたことがある(妻が死んだら悲しみで2年以上も引きこもる男がよく言う)。つまり、あの厳格な王であるクラビウスが涙を流すほどにチャゴスの裏切りは彼の心を深く傷つけたのだ。城の者たちも王の涙を見るのは初めてであり、異常な事態が起こっていると察したのだろう。王を気遣い、誰が言うともなくひとり、またひとりと退出していった。
「なんと…不甲斐ない…情けない…わしは…」
「父上っ!?父上っ!!」
「わしが…育ててしまったのか…こんな恥も外聞も誇りもない王子を…」
「は、やっと気づいたかよ。ったく、王子様には苦労させられたもんだぜ。」
「クラビウス王、取り込み中のところ悪いでげすが、あっしらも急いでましてね…」
ククールがクラビウスに悪態をつく。おいおい…と思うが、皮肉屋な彼のことを考えるとよくここまで我慢したものだとは思う。一波乱あったが最後の最後に吹っ掛けられた冤罪も退け、なんとかこれで任務は遂行したと言えるだろう。悲しみのあまり膝をついてしまったクラビウスには悪いが、さっさと宝物庫に入る許可を貰おう。
「…だ……んだ………なんだ…!」
うずくまったチャゴスがぶつぶつと何かを言っている。俺はそれをその後の自分に降りかかってくるであろう多方面からの叱責の恐怖に怯えているのだろうと思って気に留めなかった。エイトたちも最早チャゴスに微塵も意識を向けていなかった。
俺たちは大きな誤解をしていた。失念していた。チャゴスの
本当は普通にさっさとチャゴスを返却して、魔法の鏡を貰って、そのまま闇の遺跡に向かうつもりでした(なんなら王家の山もスキップする案もあった)。つまるところChapter22でサザンビーク編は終わるつもりだったんですね。…まさかそこから20000(奇しくも彼のHPと同じ)字近く費やすとは思っていませんでしたが…