ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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今回は前回の続きです!(前編・中編・後編の三話目)

まさか6話くらいで終わらせようと思っていたサザンビーク編が11話も続くとは…しかし今回でホントのホントに終わりです!チャゴスファンの皆様は退場するチャゴス君に喝采を送ってあげてください!





第三十六章 救えぬ王子と儀式の結末 後

うずくまったチャゴスがぶつぶつと何かを言っている。俺はそれをその後の自分に降りかかってくるであろう多方面からの叱責の恐怖に怯えているのだろうと思って気に留めなかった。エイトたちも最早チャゴスに微塵も意識を向けていなかった。

 

俺たちは大きな誤解をしていた。失念していた。チャゴスのあきらめ(往生際)の悪さを。

 

「お前たちの言うことがぼくの言うことより信用されるわけがない!父上はぼくの味方だ!ぼくは間違ってないんだ!」

 

「…流石にしつこいですよ、チャゴス王子。あなたは不正を犯し、僕たちはそれを暴いた。それだけの話じゃないですか。」

 

「うるさいぞ!平民は喋るな、ぼくに口答えをするな、何も口を開くな!下賤な者はその生まれを恥じて慎ましやかに生きるべきだ!お前たちがいなければ全部全部上手くいっていたんだ!!」

 

チャゴスは泣きながら喚き散らす。本当にくどいししつこい。恥をかいては罪を犯し、罪を重ねては恥を上塗りし…罪と恥でライドンの塔でも作る気か?

 

「…そんなわけないでしょ!チャゴス王子、私たちが不甲斐ないアンタのためにどれだけ必死にリザードたちと戦ってきたと思ってるの!アンタ一人で上手くいったって?何が上手くいくっていうのよ!戦いを私たちに任せっきりかと思ったら酷い悪口も言うし、馬や御者も虐めて、帰ってきたらニセモノの宝石を買って提出して!あまつさえそれがバレたら私たちに責任転嫁!詰められたら最後は逆上なんて…!アンタ、私が今まであってきたどんな人よりもぶっちぎりでサイテーの男よ!!」

 

「うるさい、うるさーい!!!!」

 

「!!!」

 

「きゃっ!?」

 

チャゴスはとうとう狂ったか、儀式のときから持っていた「せいなるナイフ」を振りかざし、ゼシカに飛び掛かる。まさか土壇場でそんな行動に出ると思っていなかったゼシカは咄嗟に動けず、衝撃に備えて目を閉じるしかない。それは仲間たちや暗い顔をして俯いていたクラビウスも同じだ。だから、呪術を使える俺しか間に合わない。

 

「『ラウンドゼロ』」

 

チャゴスの兇刃がゼシカに届く一歩手前、俺はチャゴスから「攻撃するはずだった時間」を奪い、一瞬チャゴスの動きを止める。続いて蝋燭の火を吹き消すようにピンポイントで「やけつく息」を吐いた。神経に作用して動きを止める微粒子がチャゴスの自由を奪う。

 

「ぐぐ…!身体が…」

 

チャゴスとて理性ある人間、何も明確な殺意を持ってゼシカを殺そうとしたわけではないだろう。彼としては自分の痛いところを突いてくる口うるさい女を黙らせたかっただけで、ナイフを彼女の柔肌に突き立てて深く刺そうと思ったわけではないのかもしれない。しかしいくら常人離れした打たれ強さを持つゼシカも、その喉笛を裂かれては大きなダメージを負う。魔物でない人間(オトコ)に襲われ殺されかけたことでトラウマを植え付けられるかもしれない。

 

まあ、そんなことを考える暇はなく。今の俺はもうこのカスに対するどうしようもない悪感情しかなかった。怒り、苛立ち、諦念、軽蔑。あるいはその全てか、どれでもないか。とにかく、もう『霊竜』なんて幻や重力魔法に頼る気はなかった。頼ろうとも思わなかった。

 

「…いい加減にしろ…どこまで腐ってんだよ…!このッ!クズ野郎ーッ!!」

 

ドゴッ!!

 

「ぐぶあっっ!?」

 

魔法は使わない。呪術も使わない。科学も使わない。何の強化も施されていない、しかし全力を込めた拳で俺はチャゴスの顎を思いっきり打ち抜いた。チャゴスは放物線を描いて大きく吹き飛び、壁にぶつかって床に叩きつけられた。気絶はしているようだが、傷はひとつもない。

 

「…」

 

「ちゃ、チャゴス!!無事か!!」

 

「ディム…ごめんなさい、私が油断してたばっかりに…」

 

「いや、良いんです…ゼシカさんが無事で良かった。」

 

「!…うん、ありがと…」

 

「ディム…王子を、殴っちゃった…ね…」

 

「…オレはお前を責めないぜ。お前がやらなきゃオレがやってたさ。」

 

皆、困惑と諦めの表情を浮かべる。いくら任務を完遂したとしても、王族に対する直接的暴力は国家への反逆を意味する。この瞬間、俺たちが「太陽のカガミ」を譲り受けることは出来なくなってしまった。

 

 

「みなさん、ほんっとうに申し訳ありません…僕が考えなしに行動したせいでこの数日が全部台無しに……」

 

「大丈夫、誰もディムを責めたりしないよ。闇の遺跡に入るための別の方法をまた探そう。」

 

「エイトさん…」

 

動きを止めるだけでよかったのに、つい頭に血が上ってチャゴスをぶん殴ってしまった。その場に監視の目はなく、気絶したチャゴスを介抱していたクラビウスしかいなかったため、ほとんど逃げるような形で俺たちは王城から脱出した。立派な犯罪者である。しかしどうしようか…「太陽のカガミ」が無いと闇の遺跡を守る結界は打ち破れない。せめて貰えなくとも観察させてもらえさえすれば同様の効果を持つ模造品を作れたのだが…やってしまったものは仕方ない。悲しいなぁ…

 

とっくに日は沈み、バザーの明かりで城下町が幻想的に輝く。……ああ、あの時のトロデーンもこんな感じだったな。人々の幸せな笑い声が真夏の風鈴のように小気味いい音として俺の耳を潤す。……やはりここで止まるわけにはいかないよな。うん、別の方法を考えよう。

 

「こ…ここにいたか…」

 

「っ!?く…」

 

振り向いた俺たちの前に立っていたのは、息を切らせたクラビウスだった。城からここまで走ってきたのだろうか?

 

「クラビウス王…」

 

「ぜぇ…ぜぇ…待て…話がある…」

 

「……言っておきますが、今更謝罪はしませんよ。確かに僕は王子を殴ってしまいましたが、そうしなければウチのゼシカが傷つけられていましたからね。」

 

もう俺は無用にへりくだるような話し方はしない。既にこの国に用はないので、態度に腹を立てて捕まえようとしてくるなら全力で逃げるだけだ。

 

「なぜそなたが謝る必要があるか。謝りに来たのはわしの方だ。ディム、エイト、ヤンガス、ゼシカ、ククール。愚息が大変な迷惑をかけた。心から謝罪の意を表しよう。」

 

クラビウスが人目も憚らず深々と頭を下げたので俺たちは仰天した。まさか王から頭を下げられる日が来るとは…。人通りの少ない道を選んだのが幸いしたか、頭を下げる王の姿が国民の目に映ることは無い。

 

「今回のことでわしはチャゴスに対してあまりに甘く接しすぎていたと痛感した。あんな人間に育っていたと気付くことすらもできなかった。」

 

「…そうですよクラビウス王。『愛情を込めて育てる』ことと『籠に入れて甘やかす』ことは全く違います。」

 

「…耳が痛いな。……わしは、妻を亡くし、兄を失い…これ以上家族がわしの前からいなくなってしまうことが何よりも恐ろしかった。だから一人息子のチャゴスくらいは、わしが何としても危険から守ってやらねばならないと、そう思って今日まで育ててきた。その結果、傲慢で卑怯な人間に成長してしまい、自分の見栄のためにそなたらを陥れ、あまつさえ傷つけようとした。息子の責任は親が取らねばならない。だからこうして謝りに来た。」

 

「…王子はどうなったでがすか?」

 

「今は寝ている。…そなたがチャゴスを殴ってくれたことでむしろ吹っ切れたよ。全部やり直しだ。チャゴスも、わしも。王位を継ぐなど論外、妻を娶ることもあやつにはまだまだ早いな。明日からチャゴスは自室に軟禁して帝王学の勉強漬けだ。と言っても、もちろん最も重視すべきは倫理道徳の学問だがな。はっはっは。」

 

ヤンガスは王子が無事であると知り胸を撫で下ろした。良いヤツすぎ。

 

クラビウスの言いたいことはまあ分からなくもないが、それにしたってまだまだ甘い。本当に厳しくするつもりなら「息子の責任は親が取らねばならない」など言わず、叩き起こして引き摺ってでも今ここでチャゴスに謝らせるべきなのだ。チャゴスがいなくなると(エイトは記憶を封印されているため)サザンビーク王家が断絶してしまうので王国から追放するわけにはいかないだろうが、偽証、国家反逆未遂、傷害、果てには殺人未遂まで犯しておいてまだ王宮で暮らすことができるとはずいぶんと寛大な処置だ。…まあ今回のことでクラビウスも懲りただろうし、流石にチャゴスのこれ以上の悪化はない…と思いたい。今回クラビウスに暴露したものはチャゴスの悪事の一環である。もしいつかまた王子がやらかすようなことがあれば残りも躊躇なくバラシてやろう。トロデとミーティアとクラビウスとチャゴスで四者面談でもすればいい。

 

「…クラビウス王。これを。」

 

「これは…?」

 

「王子が唯一戦闘に参加して得たアルゴンハートです。といってもアルゴリザードにはかすり傷一つ与えていませんでしたけどね。一応渡すべきかと思いましたので。」

 

俺はアルゴリザード(初戦)から得たアルゴンハートを取り出し、一旦エイトに手渡してからクラビウスに渡させた。エイトは不思議そうな顔をしているが、気にしないでほしい。将来の展開の為に必要なアクションなのだ。

小さな宝石だが、指輪にするなら本来これくらいのもので良いのだろう。受け取ったクラビウスは嬉しそうに宝石を眺めた。

 

「わしは屋上から見ておったのだ、チャゴスが商人から大きなアルゴンハートを渡されるところを…もしかすると、チャゴスは王家の山に行くことすらしなかったのかと思った。だが…そうか…自分一人の力でなくとも、己で戦ってこれを手にしたか…。ならば素直にこれを差し出せばよいものを…未熟者めが。大きさなどわしは気にせんのに。」

 

「いや、勝手にいい話風にしないでもらえます?王子のせいで僕らがどんだけ苦労したと思ってるんですか??」

 

思わず王の話をぶった切ってしまった。クラビウスの反省の色が見られない発言にゼシカもククールもヤンガスも、流石のエイトもため息を吐いた。ああ、クラビウスもダメかもしんない。全然甘いままじゃないか。よっぽど妻の死と兄の出奔が心に大きな傷を残していると見える。妻の方は知らんが、兄の方はまだ防げただろ!俺は天上のエルトリオを恨めしく思った。いや、悪いのはエルトリオとウィニア、二人の交際を頑なに認めなかった竜神族の上層部か。待ってろよ…いつか竜神族の里に行ったら集落中のチーズを「超辛チーズ」と挿げ替えてやる。俺はトーポを睨んだ。

 

「す、すまぬ…とにかく、そなたらは見事依頼を果たしてくれた。約束通り、魔法の鏡はくれてやろう…いや、持っていってほしい。わしとチャゴスに変わるきっかけをくれて本当に感謝している。そして、済まなかった。」

 

クラビウスは後ろ手に持っていた「太陽のカガミ」を差し出した。おおっ、これは願ってもない話だ。最終的に鏡が貰えるなら何でもいい。よし、これで完全にこの国でやることは終わりだ。今夜は宿をとってさっさと──

 

「まさか、それだけじゃないわよねぇ?」

 

「えっ」

 

「『鏡』は『アルゴンハート』との引き換えの報酬でしょ?『ディムの王子への傷害』は『王子の私への殺人未遂』で両成敗とするにしても、まだ『王子が嘘の証言で私たちを陥れたこと』についての誠意は見せられてないわよ?」

 

「そ、それは…すまない」

 

「あー。トロデ王にチャゴス王子に酷い目に遭わされたって言っちゃおうかな~」

 

「ゼシカ…」

 

「っ!!そっそれは困る。す、少ないがこれでいいか?」

 

チャゴスに痛烈に罵倒されたり、こき使われたり、あまつさえナイフで刺されかけたゼシカはこのサザンビーク編一番の被害者と言えるだろう(次点でトロデとミーティア)。何度かチャゴスが酷い目に遭う度に「スッキリした」とは言っていたもののやはり思うところは多いのか、ゼシカらしくないねちっこさを見せてクラビウスを追い詰めてみせ、結局クラビウスから50000Gの慰謝料を徴収した。さらにその後ククールの「儀式中の王子の嫌がらせで精神的に摩耗したのでオレたちには継続的な療養所が必要」というほとんど言いがかりのような要求も突きつけ、俺たちは半永久的にサザンビークの宿屋に無料で宿泊できることになった。…ヤンガスなんかよりよっぽど二人の方が輩である。

 

色んな意味で肩を落としながら王城へ戻るクラビウスの小さな背中を見送ると、俺たちは早速無料になった宿で今までで一番深い眠りに落ち、翌日の早朝に闇の遺跡に向けて出発した。

 

 

 

さらばチャゴス(クズカスバカマヌケ)。ヘンリー王子(幼年)よりも捻くれで、ホルス王子よりも臆病で、キーファ王子よりもワガママで、ファーリス王子よりも見栄っ張りで、そしてどこのどんな王子よりも更生の見込みがない哀れな男よ。できれば金輪際顔も見たくない。

 

 

 

 

 




「ラウンドゼロ」:DQMJ2で登場した特技。敵味方の続く行動がキャンセルされ、強制的にそのターンをそこで終了させる凶悪な特技。「しっぷう突き」や「すてみ」と非常に相性が良く、ネット対戦で猛威を振るった。小説である本作ではターンの概念がないので某少年漫画の「キング・○リムゾン」のような時を飛ばす技になっている。

「やけつく息」:DQ3から登場しているブレス攻撃。敵グループを確率でマヒさせる。「やけつく」という語から炎系の攻撃と勘違いされがちだが、マヒを引き起こす神経毒に侵されると焼かれているような痛みを味わう、ということから「やけつく息」という表現がなされていると思われる。そして息ではあるがおそらく無味無臭。


チャゴスはこれから食事と睡眠以外を全て勉強に費やしますが、残念ながら性格が改善されるようなことは無いと思います。それが彼ですからね。
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