ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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お久しぶりです、頑張ります。短めです。







第三十八章 収束と暗黒 ⑥

「うっ!くっ…ぐぅっ…」

 

文字通り落ちるような勢いで前方に引っ張られる俺は、障害物や魔物から身を守るので精一杯だった。魔法で守備力を底上げし、身体を丸めてダメージを最小限に抑えているが、先端の尖った彫刻などぶつかると本当に危ない物や、前方から吹っ飛んでくる人間に戸惑っている魔物などは体を捻って蹴り飛ばしたり魔法で迎撃したりしてなんとか対応していた。

 

「(異空間にも逃げられない…っ!呪術が妨害されている…!?)」

 

俺を「ディム」たらしめていた変身魔術『妖精の見る夢(コティングリー)』は既に剥がれてしまっていた。『賢人の見る夢(イデア)』を使おうにも、空間に穴を空けることまではできても繋げることができない。せいぜい壁や床に激突しそうな時に壁抜けとして使用できるくらいだ。しかし引っ張られ続けて分かったこともある。俺は今間違いなく「まっすぐ」に引っ張られており、行き先は十中八九闇の遺跡の最深部。つまり俺を待ち受けているのはラプソーンだ。…やばいのよ。俺とサーベルトじゃもう手に負えないから勇者を連れてきたってのに、ここで引き剥がされてタイマンに持ち込まれたらベルガラックでの戦いの焼き直しだ。今度は相手に退く理由がないのでどちらかが死ぬまで戦う可能性が高い。かなりの奇跡を期待しないと死者無しで勝つのは不可能だろうな…。

 

俺は…ここで死ぬのかもしれない。そのあと勇者たちがユリマちゃんを倒して……また原作に帰結するのかもしれない。何となくそう思った。その考えには妙な説得力があった。

 

「(もしそうだったとしても…ただでは死んでやらんし、死にたくもない。…とことん足掻いてやる)」

 

俺は前方へ向かう重力を利用して、進行方向に突っ立っている「トロル」に向かって剣を思いっきり振り抜いた。こちらのことを認識すらできなかった哀れな魔物は、その焦げ茶色の体躯が真っ二つになって初めて自分が殺されたことに気が付いた。

 

 

……

 

「…っ!がっ!」

 

かれこれ十数分は空中を引き摺られていただろうか。突然俺を引っ張っていた魔力が消えたため、俺は慣性に従うまま吹っ飛ばされ、床に体を打ち付けて転がった。

 

「…ここは」

 

俺はすぐさま『ベホマ』で完全に回復し、注意深くあたりを見渡した。薄暗いのは相変わらずだが、無数の蝋燭と天から差す竜胆色の光は禍々しくも畏ろしい。間違いない、ここが闇の遺跡の最深部…。

 

「…っち、まだ呪術は使えない…!」

 

俺は『イデア』を使おうとしたが、やはり空間を繋げることができない。アスカンタのアジトにいるサーベルトと合流しないことにはまず話にならない。キラちゃんと繋がっている携帯念話(フォン)はさっきグズグズに潰されてしまったため連絡も取れない。どうする。…どうする。

 

 

『ククク…来たか。哀れな道化よ。』

 

 

「ラプソーン……!姿を現せ」

 

 

『我の姿を捉えられないのが余程恐いと見える。ククク…悲しいなぁ…』

 

暗い大広間に声がこだまする。ユリマちゃん…の姿をした暗黒神(ラプソーン)は天井からゆっくりと降りてきた。ユリマちゃんの端正な顔が醜く歪み、俺に懐いてくれていたあの頃のままの声で俺を嘲る。本当に不快だ。

 

 

「貴様…一人だな…あの賢者の出涸らしはどうした?…ククク…尻尾を巻いて逃げたか…!」

 

 

「サーベルトのことか?はん、せいぜい笑ってろ。もうサーベルトはいつでもお前の首を斬り飛ばせる位置で機を窺ってるよ。」

 

「陳腐なハッタリだな。此処は我を崇める祭壇…最早庭のようなものよ。貴様以外には誰もいないことなどわかっている。…ああ、あと入り口付近に取るに足りん雑魚が何匹かいるようだが、ここには決して辿り着くまい。」

 

「く…」

 

「ハッタリまで不得手になったか?道化の称号も形無しなわけだ…悲しい、悲しいなぁ…」

 

「…」

 

ラプソーンは薄く笑うと、目にも止まらぬ速さで体当たりをしてきた。俺はとっさに「ふぶきのつるぎ」で防御するが、たまらず吹っ飛ばされる。

 

「我は今気分がいい。貴様が時間を浪費していたために我が仮の宿は完全なる回復を遂げ、『準備』も今しがた完了した。貴様の功績だ。褒美として苦しまぬよう一撃で葬ってくれよう…。」

 

「…ッ!易々と殺せると思うなよ!『メラゾーマ』!」

 

俺は立ち上がりざまに豪火球を放ったが、直撃を受けたはずのラプソーンは涼しい顔をしている。

 

「…実に悲しい。こんな弱小な蠅が今まで我を苛立たせていたかと思うと…な」

 

「(全然効いてない!?くそっ、一人だと詠唱もままならないからか!完全な状態で魔法が放てない…ッ!)」

 

まずい…まずいまずいっ!何が「かなりの奇跡を期待しないと死者無しでは勝てない」だ。それが既に思い上がりだった…ッ!こうして対峙すると嫌でも分かってしまう…!

 

 

俺はコイツに敵わない……!!

 

 

剣の鍛錬が甘い俺ではラプソーンに攻撃を当てられない。『イオナズン』を放つ。ほとんどダメージは無い。『ベギラゴン』を放つ。大岩を落とされて消火される。『マヒャド』を放つ。動きすら止められない。『ザバラーン』を放つ。闇のイバラで押し返される。閉鎖空間なので『バギクロス』を連発すると真空に近づいてこちらが呼吸できなくなるので使えない。『ドルモーア』は相手が闇の化身であるため、『ジバリーナ』は相手が浮遊しているため、『ベタロール』は相手が高速で動くため、効果が期待できない。『メラガイアー』を始めとした極大呪文は詠唱破棄では打てない。呪術も魔術も満足に使えない…!

 

「ハハハ…そんな貧相な雷撃に頼る他ないか?もう少し我を楽しませてくれると思ったがな…」

 

「(ちくしょう…比較的効果がありそうなのが雷速で放てて確実に命中させられる『ギガデイン』しかない…でも『ギガデイン』一辺倒だとすぐに適応される…!)」

 

だからってどうする?俺にはもう『ギガデイン』を打つことしかできない。

 

「『ギガデイン』!『ギガデイン』!」

 

くそっ!くそっ!

 

「『ギガデイン』!『ギガデイン』!『ギガデイン』!」

 

ちくしょう…!

 

情けない戦い方をする俺に失望したのか、それまで不敵に笑っていたラプソーンの顔から表情が消えた。

 

「…もう、よい。もうわかった…貴様は……つまらん。二度に渡って我を追い詰めてみせたのは賢者の出涸らし共とこの宿主であって、貴様ではなかったのだ。貴様は一人では…あまりにも無力。吹けば飛ぶような塵芥よ。」

 

「…!」

 

ラプソーンは一瞬で目の前に移動してきた。俺は呪文を放った直後であり、一瞬だが動けない。

 

「(あ…これだめだ…死…!)」

 

「永久に闇を彷徨いながら孤独に果てよ」

 

「!!!」

 

 

「…?」

 

来るはずだったラプソーンの一撃はいつまで経っても届かず、俺はゆっくりと目を開けた。すぐ目の前にはラプソーンが俺の腹に向けて杖を突きだしていたが、薄皮一枚隔てた所で止まっており、ラプソーンは心底不快そうな表情をしている。

 

「なんだ…なんなのだお前は…!なぜまだ抗える…!」

 

「くっ!どういうことだ…?」

 

俺はバックステップを取って距離を取る。ラプソーンはぎこちない動きで姿勢を変えながら地面に降り立ち、頭を抱えた。

 

「なんなんだ!我は貴様の自我を完全に制圧したはず…なぜだ!何故一介の村娘風情が…暗黒神の力に対抗できる!?」

 

「だっ…て…そこに…目の前に……いる…から……ひとり…じゃ…ない…」

 

「(なんだ…ひとり言…?いや違う!)」

 

「ドルマゲス…さん…ドルマゲスさん…は一人じゃない…わ…わた…し……います…」

 

「おおっ…!く…やめ…ろおっ!」

 

「(まさか…ユリマちゃんが…)」

 

ラプソーンの肉体から紫色の光が吹き出したかと思うと、さらにどす黒い光がそれを覆う。それを破ってまた紫の光が漏れだす。俺はそれをただ眺めることしかできない。とにかく今のうちに次の手を…と思ったところで気が付いた。

 

「…!呪術が…!」

 

呪術がもう阻害されていない。ラプソーンの意識が逸れているからか?なんにせよ今の内だ!俺は間髪入れず『イデア』を発動、なかば強引にサーベルトと分身の俺を引きずり出した。

 

「どっ、ドリィ!大丈夫か!ここは…」

 

「…いきなり音信不通になって、何があったのです!?」

 

「サーベルト、いきなりで悪いですがクライマックスです。相手はラプソーン、ベルガラックの時よりも力が増しています。分身の私は融合して少しでも基礎戦闘力を上げましょう。」

 

「「わかった!」」

 

やっぱり俺は一人じゃ何もできない。でも、それでいい。俺には仲間がいるから、そう、ユリマちゃんの言う通り「一人じゃない」。原作ドルマゲス(拗らせ孤独おじさん)とは違う。

 

 

「この…我を、暗黒を冠する神を嘗めるなよおぉぉぉ!!!」

 

ひときわどす黒い光が強まったかと思うと、光の中から息を荒らげながらラプソーンが現れた。

 

「ハァ…ハァ…手こずらせる…我は仮の宿を間違えたのか…?………むん?賢者の出涸らし…いつの間に…」

 

「ラプソーン!対峙するのは三度目だな!今度こそ貴様を討つ!」

 

「今更貴様ごときが力を取り戻した我を前に何になる…ククク、蠅が1()()()()2()()()なろうと変わりはせぬわ…」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「蠅が1()()()()2()()()なろうと変わりはせぬわ…」

 

 

(…?)

 

 

 

「そんなことはない!()()()()()()()()()()どんな困難も乗り越えてきた!」

 

 

 

(…何を、言ってるの?)

 

 

 

「貴様と…たしか()()()()もいたか?仲間など…くだらん。大いなる闇の前には全て無力よ!」

 

 

 

(は?誰が、女が、誰の仲間って…?)

 

 

 

「ラプソーン…お前の言う通り、俺は…私は一人じゃ何もできない!でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何でもできる!お前を倒すことも!」

 

 

 

(…え…?……え……!?)

 

 

 

え?????????????????????????????????????????????

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ククク…では群れたところで何も成せないということをその身をもって……!?な!?う、うおおおおおぉぉぉ!?!?」

 

「!?」

 

突如、ラプソーンを中心に鮮烈な紫の光が瞬き、俺は思わず目を閉じてしまった。時間にして0.1秒にも満たない瞬間。次に俺が目を開けると、服同士が触れるほどの距離にラプソーンが…いや、ユリマちゃんが立っていた。ユリマちゃんの左目にハイライトはなく、白い右目は更によどんでいた。そんな目で、真っ直ぐ、串刺しにされそうな視線で俺の目から目を逸らさない。

 

 

 

「ねぇ、答えてください。ドルマゲスさん、私に手紙をくれたあの日から…ずっとあなたは一人だったんじゃなかったんですか?…私を騙していたんですか?」

 

 

 

 

 




ラプソーンはドルマゲスが本当に一人で闇の遺跡に挑んできたと思ってます。ドルマゲスを最深部まで引っ張ってきたのはもちろんユリマで、ラプソーンはそのことには気づいていませんでした。



ラプソーン「トロデーンでいい宿主みーつけた!」

ドルマゲス「こっからは俺のステージだ!」

ラプソーン「ぐぬぬ」



ラプソーン「ベルガラックでいい宿主みーつけた!」

ユリマ「黙ってろよクズ」

ラプソーン「ぐぬぬ」


原作だとマルチェロにも自我を制されてるし、ラプソーンは特段精神汚染には秀でているわけではないのかも?
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