ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
「あっ!」
固唾を飲んで勝負の行方を見守っていたサーベルトとキラは、ユリマが倒れたことで一瞬湧いたが、その後すぐにドルマゲスも倒れて結界が消失したことで一気に血の気が引いた。
「ドリィ!」「ドルマゲス様!」
全速力で駆け寄り、脈を測ろうとしたキラは最早原型をとどめていないドルマゲスの右腕を見て頭を抱えた。
「ああ!あああ!ど、どうしましょう!?うで、腕が!!」
「落ち着けキラ!呼吸はしてる!心臓は…よし、こっちも大丈夫…意識を失ってはいるが安定している…酷い損傷だが…」
「よ、よかったぁ…!」
「ああ…!本当によかった…!」
キラの目尻に涙が浮かぶ。今まで自分の前で苦戦したドルマゲスの姿を見たことのなかったキラにとって、此度の観戦はあまりに刺激が強かった。トロデーンやベルガラックでドルマゲスと共にラプソーンと激戦を繰り広げたサーベルトにしても、ドルマゲスが倒れた時はもうダメかと思わずにはいられないほどであった。
「とにかく『特やくそう』のゼリーを…!」
「『ベホマ』を封じた魔法玉はなかったか?」
「今は持ち合わせていないです…」
「そうか…俺に魔法の才が無かったことをこんなに恨めしく思ったことは無いな…ご先祖様から受け継がれてきた魔法の才能は全てゼシカが持って行ってしまったから…」
負担をかけないようにドルマゲスの頭をそっと自分の膝の上に乗せ、磨り潰した「特やくそう」を「スライムゼリー」で包んで嚥下しやすくしたものをドルマゲスの口に流し込んだ。対象に意識が無くても安全かつ確実に回復できるように、とキラが考案して開発した回復薬である。
「結局…あの女の人は何者だったんでしょう…?」
「アレは暗黒神ラプソーンが憑依した一般女性だ。ドルマゲスとは知り合いのようだが…。俺はベルガラックでも一度戦ったことがある。…不俱戴天の仇であるが暗黒の神を名乗るだけある、凶悪な強さだった…。」
「非常に不快です…私をそんなのと同じにしないでくださいよ。」
「…え?」
静まりかえった遺跡の最奥に吸い込まれていく、キラでもサーベルトでもない
「「!!!!!」」
「私はわたしです。ですが…そうですか、この杖を手に取ってから頭にガンガン響くこの声の正体が…そのラプ…なんでした?」
「ひっ!あっ、ああ…」
「くっ…!キラ、俺の後ろに」
サーベルトは即座に「はやぶさの剣・改」を抜き、キラとドルマゲスを庇うような位置で構えた。その体勢は「霞の構え」。サーベルトの持つ最高の技『
「貴様!何故貴様が生きている!先ほどまで確かに…っ!!」
「…あはぁ、貴方たち
「…!」
よ、と杖を突いてユリマは立ち上がった。服は破け、肌は爛れて腫れ上がっているが、その眼は依然として妖しい輝きを衰えさせない。そんなユリマを見てサーベルトは剣を握る手に力を込めた。相手のどんな挙動にも対応できるようにするため…というのは建前で、実際は止まらない震えを抑えようとするためである。
「ドルマゲスさんは優しすぎるんですよ……。」
「…」
ユリマはどこかやりきれないような表情で俯くと、ドルマゲスに視線を合わせて少し微笑んだ。…しかしその顔はドルマゲスの頭がキラの膝の上にあることを認めると途端に不機嫌な表情に戻る。
「流石に魔力も身体もガタガタ、とはいえあなたたち二人をめちゃくちゃにすることなんて造作もないですが…」
「…ッ!!!」
「…ですが、ちょっと興が削がれましたね。」
「…それは、どういう…」
「ねぇ、お兄さん。お兄さんはドルマゲスさんのこと、どう思ってます?」
なぜ今、なぜそんなことを、そもそも相手はドリィを下した敵、こんな悠長に会話していていいのか、などサーベルトの脳内で一瞬にして思考が浮かんだが…僅かゼロコンマ数秒。それらを全て捨て置いてサーベルトは即答した。
「ドリィ…ドルマゲスは俺の初めての…最高の友人、親友だ。決して失いたくない、かけがえのない相棒。」
その回答に納得したのかしていないのか、ユリマは表情を崩さず今度はキラへ問う。
「…。ふぅん…じゃ、そっちのあなた。あなたはドルマゲスさんの何なんですか?男二人に守られて恥ずかしくないんですか?というかそんな貧相な膝にドルマゲスさんの頭を乗せてもしもドルマゲスさんが首を痛めたらどう責任を取るつもりですか?」
「………」
「…こんなのも答えられないようじゃ──」
「わ、私はドルマゲス様の小間使いで、助手でもあります。私を広い世界へと連れ出していただいたドルマゲス様には返しきれない恩があります。私だってずっとお二人に負担をかけてばかりいる自分には呆れているし情けなく思います。だからこれからはそんな不甲斐ないことはないように何か策を考えます。私は確かに肉付きも悪いし色気もないですが……、ですがそれでも貴女にドルマゲス様を託すよりは私の膝の方が10倍、いや100倍安全です。」
「……」
キラは正座したままの体勢でユリマの朱く輝く左目を、光を失い白く濁る右目を、その両の目を物怖じせずに睨みつけた。
「私は…自身の欲望のためにドルマゲス様を…私の憧れの人を
キラは決してユリマから目を逸らさなかった。弱小な魔物からも逃げまどっていた過去の彼女の姿を知るサーベルトは彼女の成長に、覚悟の強さに僅かながら目を見張る。
「………………………」
「…。」
「……へぇ。言うじゃないですか。私より背も低いくせに、胸もないくせに。魔法も呪術も使えないくせに、戦えすらしないくせに。……私に出来なくて、貴女にできることなんてあります?」
キラは大きな深呼吸を一つすると、よく通る声で言い放った。
「私はいつだってドルマゲス様を信じています。」
「……!!!!!!」
躊躇なく言い放たれたキラの言葉に、ユリマは一瞬、酷く動揺した。顔が驚愕に、恐怖に、衝撃に歪む。まるで落雷が貫いたかのようにユリマは体をびくんと震わせた。そして何か言い返すこともなく、そのまま後ろを向いてひた、ひたと歩き出す。
「待て、どこへ行く…!」
「別に。最後のお仕事ですよ、お兄さん。……ほんとは今でもあなたたち二人をペチャンコの肉餅にしたくてしたくてたまらないんですけどね。」
「…。」
「でも…。あなたたちを傷つけるとあの人が悲しむから。だから、見逃してあげますよ。」
ユリマは杖を横一文字に薙ぎ払った。瞬間、サーベルトに、キラに、ドルマゲスに上向きの重力が発生し、天井に張り付けられる。
「なっ!?くそ、おい!これは何の真似だ!下ろせ!」
「な、なにをするつもりで──」
「そこで指をくわえて見ててくださいよ。私はあなたたちより
さらに天井に張り付けられた三人を紫の繭が包む。外界と遮断され、もう繭の中の声は外のユリマに届かない。
「私も入っていた繭です。中は変な水で満たされていて、治癒力を活性化させる効果もあります。少なくともキラちゃん…でしたっけ。あなたの膝なんかより1000倍ドルマゲスさんを癒せますよ。」
最早キラにその声は届かないことは分かっていながらそんなことを言うのは彼女へのささやかな抵抗だろうか。ユリマは闇の遺跡最深部の入口へ向かおうとして……血を吐き、崩れ落ちた。
「!?!?ゴボッ…」
口から赤黒い血がビチャビチャと滴る。それを拭おうとして、指が思うように動かないことにも気が付いた。
「…!」
「は……は……なんだ、ドルマゲスさん手加減してたわけじゃなかったんだ……。そりゃあ、ドルマゲスさんだもん。武器に毒を塗り込むことぐらいするよね。」
「…」
「(指先に痺れ、慢性的な眠気、血液凝固を妨害する毒…)うーん、ふふ。体中にドルマゲスさんを感じる…♡」
先の戦いの最中、ユリマはハイになっていた。暗黒神の魔力を借り受けて得た仮初の力に舞い上がり、恩人であるはずのドルマゲスを軽んじ、蔑み、哀れんだ。彼との戦いが終わって冷静さを取り戻した今、そんな自分の浅慮さと愚かさに思わず顔が赤くなってしまう。
「何が『歯向かってごめんなさい』ですか、『助けに来てくれてありがとう』ですか。助けに来たなんて言っておいてドルマゲスさんを傷つけて…バカみたいですね、私。」
そしてユリマの鼓膜にこびりついて離れないのは先ほどのキラの言葉。
「(『私はいつでもドルマゲス様を信じています。』……か。)」
「(悔しいなぁ。私が誰よりドルマゲスさんを信じていたはずだったのに。悔しいけど…気づかされた。)」
「…。」
杖をついて立ち上がり、再度佇まいを正すと、ユリマは入口を見据え、それから一度だけ天井の繭に目をやった。
「(戦いの最中、偶然見えちゃったもう少し後の未来…もうすぐ来る…)」
「……認めますよ。あなたたちはドルマゲス様を洗脳なんてしてません。私と同じように、ドルマゲスさんに惹かれて、好きになっちゃったんですよね。……癪ですけど、守ってあげます。謝罪の意味も込めて。」
その瞬間、ギギ、ギ…という耳障りな音と共に扉が開いた。そして姿を現したのは……
「ディム!ねぇディム!!いるんでしょ!!返事して!!!」
「ゼシカ!ディムはドルマゲスかもしれねぇんだ。気持ちはわかるが……隙は見せるなよ?」
赤みがかった栗色の髪の女、長身で銀髪の優男。
「!てめェ…『魔王』だな…」
「僕らは旅の冒険者です。少し…お話を聞きたいのですが。」
ガタイの大きな益荒男、中肉中背の好青年。
「誰ですか?あなたたち…私、今忙しいんですが。」
「『魔王』…!よくもゲルダを!!!」
こちらの問いかけに激高し、飛び掛かってくる男をユリマは『バギマ』で地面に叩き落とす。
「(あれ…『バギクロス』を放ったつもりなのに…ちょっと魔力もセーブしないとダメかも…。あとホントに誰なんですかこの人たち)」
「ヤンガス!…仕方ない、行くぞ!」
「ゼシカ、ディムの行方はあの人が知ってるかもしれない。とりあえず今は!」
「ええ、大丈夫よ。…『魔王』見てなさい!震えて動けなかったあの頃の私とは違うのよ!」
四人の
「(ドルマゲスさん…私、もう間違わないです。絶対にあなたを守りますから。)」
最愛の人を守るため、魔王は世界の希望を相手取る。
当初の予定では闇の遺跡編でこの物語を終わらせる予定でした。しかし風呂敷は広がったまま。こんな中途半端な出来では到底納得できないため、もちろん次回からも続きます!これからももう少しお付き合いください!「終章」とあるのは一つの区切りです。