ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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ガチで存在忘れられてそうなおじいちゃんのためにおまけです。








番外編 ライラス氏の優雅なる療養生活

コツ…コツ…

 

ライラスの療養室の前の廊下を誰かが歩く靴音がする。

 

「…」

 

ぺた…ぺた…

 

もう一つ、療養室の前を誰かが歩く足音?がする。

 

「……」

 

ウジュルルル、グジュルルル…

 

さらにもう一つ、療養室の前を誰かが歩く?音がする。

 

「……!」

 

3つの足音はライラスの療養室の前を通り過ぎたかと思うとまた引き返し、しばらくすると踵を返してまた通り過ぎようとする。要はドアの前をうろついているのだ。ベッドの上のライラスは無視を決め込んで研究日誌を書き込もうとするが、どうも頭に入らない。

 

コツ…コツ…

ペタ…ペタ…

ウジュルルル、グジュルルル…

 

「…ッ!!うるっさいぞさっきから!用があるなら入ってこんか!!」

 

ライラスが我慢できずに怒鳴り散らすと、ドアが勢い良く開いて三体の魔物が転がり込んできた。「ホークマン」「パプリカン」「マドハンド」。三体とも人間を脅かす凶悪な魔物である。しかし三体がこの部屋に来たのはライラスを襲うためではなく…。

 

「入る時はドアをノックせんか!お前たちは『マナー』の講義も受けてないのか!!」

 

「「すっ、すみません!」」

 

ホークマンは美しい角度で完璧な謝罪の礼をし、一頭身のパプリカンは地面に突っ伏すような形で平伏した。言葉を発せないマドハンドは謝罪のジェスチャーを取る。

 

「ふん、もうよいわ…して、要件はなんじゃ?わしは忙しいのだ。」

 

「あのぅ、ライラス客員教授…今朝の実験のことなんですけど…」

 

実験と聞くと、途端に険しかったライラスの眉は上がる。研究はライラスのライフワークにして最高の趣味。多少の無礼など実験結果の前には些事なのだ。

 

「ほう!もう実験は終了したのか!今朝というと…」

 

「…」

 

ライラスは手にした研究日誌をパラパラとめくった。ただでさえびっしりと書き込まれているページには膨大な量のメモや付箋が貼付してある。その内容は世界を三度ひっくり返しても足りないほどのとんでもない大発明のアイデアが大量に書き込んであるのだが、難解過ぎてライラス本人にしか読み解けないというある意味での機密文書である。三体の魔物たちはその傍らで気まずそうに縮こまっていた。

 

「『仮想錬金釜による黄金の生成』か。ドルマゲスの提案ではあるが、わしも気になっていた実験ではないか。お前たちが担当だったのか、よくやった。…さて、報告書はどこだ?」

 

「…」

 

「…何だ?どうした」

 

怪訝な表情になったライラスを見て、ホークマンは滝のような冷や汗を流し、パプリカンは呼吸が浅くなる。マドハンドなどもう中指の第二関節ほどまで地中に埋まってしまっていた。

 

「そ…その…今朝の実験のことですが…」

 

「なんだ、煮え切らんな。…失敗したか?失敗など気にするな。失敗は成功の基とも言う。失敗程度でわしがお前たちを叱責すると思ったか?」

 

マドハンドは喋れないのをいいことにホークマンを急かすように小突いた。

 

「(コイツ(マドハンド)あとで絶対ボコす…)ら、ライラス客員教授…実験なのですが…作業中に研究員が…い、居眠りをし!」

 

瞬間、療養室の温度が3℃ほど下がった。…正確にはライラスの表情が激変したので魔物たちの血の気が引いて体温が下がったのだが。

 

「…適切なプロセスを踏めなかったばかりかッ!と、当該研究員は叱責を恐れて責任者に報告を行わず…!」

 

「……続けろ」

 

この時、パプリカンは自分が二体で一体の魔物であることに心底安心感を感じたという。地獄に行っても俺たちは一人ぼっちではない…と。

 

「け、結果としてぇ!仮想錬金釜は暴走を起こし消失、錬金実験は錬金釜消失後も継続されたため、空間の過度な収縮により虚数空間が16秒間出現…当該研究員は既に避難済みだったのですが…あ、実験サンプル1~7と試作自律戦闘人形(プロトオートマター)5号機、3㎏分の複製オリハルコン、そしてそれら全ての実験報告書が虚数空間に飲み込まれ…完全に、しょ、消失しました…」

 

「……」

 

「……っ」

 

「…居眠りをした研究員は何人だ、どこにいる」

 

「今は懲戒委員会に…!さ、3体です!申し訳ございませんでしたぁっ!」

 

「2分以内にそいつらを連れてこい。お前たちは全データを復旧して1日で実験前の状態に戻せ。何が何でもだ。できなければ…」

 

「「はい!失礼しましたぁ!」」

 

光のような速度で療養室を後にする魔物たち。2分後、同室から地獄の窯の蓋を開けたかのような絶叫が聞こえてきたのは言うまでもない。

 

 

大魔法使いマスター・ライラスはトラペッタに一軒家を構える魔法研究者にして賢者の末裔である。かつてトロデーンでの戦いでラプソーン操る自分の弟子によって腹に風穴を空けられ確かに絶命したが、月日が経ち、ライラスは弟子・ドルマゲスの手によって現世に舞い戻ったのだ。実の弟子によって殺され、生き返らせられたというわけである。「死を自覚していなかったこと」と「迷える魂の止まり木」が偶然かちあったことが原因だと弟子は述べていたが…ここらへんは要検証。ライラスは自分の知らないことをそのままにしておくことに我慢ができない性分であった。

 

何はともあれ、復活──ドルマゲス的に言わせると「反魂」なのだが──を果たしたライラス。とはいえ長時間にわたって冷凍保存されていた自分の肉体は思うように動かすことができず、復活後はしばらく寝たきりの毎日であった。しかし転んでもただでは起きないライラスは、動けない時間を使って頭に溢れる抽象的な研究のアイデアを実像化してまとめあげ、身体が動かせるようになった瞬間から大量のプロジェクトを進行させ始め、今に至る。

 

ここはU.S.A.。「モグラのアジト」のもつ広大な領地に目を付けたドルマゲスによってアスカンタ王パヴァンから割譲され、地下に巨大な実験施設と商業施設を建設したドルマゲス達の拠点である。地上には荒野が広がるのみであるが、その実、地下には世界一の大国サザンビークの王城がすっぽり入るほどの領域が広がっている。ここで生活する魔物はドルマゲスとその部下によって厳しい規律と美味しいご飯で管理されており、人間を襲うような種はいない。よってU.S.A.は事実上世界で最も安全な場所であり、ライラスも安心して療養することができたのだ。

 

 

「ふう…全く、睡眠時間は十分にくれてやっとると言うのにその時間で遊び惚けておるから居眠りなぞするのだ。ドルマゲスが魔物用に改良して広めた『スロット』や『ビンゴ』などというチャラついた遊戯にも問題があるのではないか?」

 

「しかしライラス客員教授、遊戯室の開放によって従業員たちのストレスレベルが低下したのは事実でして…」

 

「…」

 

ライラスは少し言葉に詰まり、無意識に手で顎をさする。

 

「…まあ、あやつの考えることが間違っていることは稀だ。わしの言うことは年寄りの戯言だと思って気にするな。」

 

ライラスの隣で歩きながら老人の愚痴に付き合ってあげているのは「ホーク3」。四つある研究部門の内の3つ目、考古錬金学部門(レッドチーム)を担当する責任者(くろうにん)の「ホークマン」である。現在ライラスとホーク3は地上にある実験サイトへ向かうため、地下3階層から伸びる架空昇道(エレベイター)に乗っていた。

 

「…所長、ドルマゲス所長はライラス客員教授のお弟子様なのですよね。所長からは『師匠の言うことは私の命令よりも優先させなさい』と従業員全体に仰せつかっているのですが…」

 

「…うーむ、あやつめ…」

 

困惑したような表情のホーク3につられてか、ライラスもばつの悪そうな表情になる。そもそもライラスは言葉にこそしていないが、ドルマゲスは自分を超えていると認めている。魔法の才はもちろん、こういった組織の経営力や戦闘力に至るまで、自分ではもはや敵うまいとまで思っているのだ。研究者としても自分と同等かそれに近い発想力や企画力を有していると考えている。そしてここは彼の創立した組織。ライラスは、少なくとも実験の関係しない場所では他人の領域でデカい顔をするほど図太い精神をしていなかった。

 

「ドルマゲスはわしのことを崇拝しすぎだ。わしとて客員の研究者、ここではあやつが一番偉い事には変わりあるまい」

 

「…左様でございますか」

 

架空昇道は地上に到着し、実験サイトで作業を行っていた魔物たちはこちらを確認すると慌てて報告書を準備し始めた。

 

「チーフ、客員教授、お疲れ様です。こちらが報告書です。」

 

「うむ…」

 

ライラスは報告書を受け取ると、重要事項のみを人間離れした早さで頭に入れた。

 

「なるほど…実験はほぼ成功だが、完成には至っていないと」

 

「はい…我々も分量を調節したり、成分や周囲の環境を変えてみたりしたのですが結果は振るわず…」

 

そう言いながら白衣を身にまとった「ウィッチレディ」が差し出したのは試験管に入った無色の液体。しかし試験管から放たれるその仄かな輝きには、膨大な魔力が渦巻いていることはこの場の全員が理解していた。ライラスはその試験管を受け取り、注意深く観察する。

 

「(魔素の流れは磁場に沿って一定…マデュライト鉱石も視認できないレベルまで分解され、かつ安定…保管状況も問題なし…)ホーク3、もう一度成分表を」

 

「はい、こちらに」

 

ライラスは試験管に入っている成分表と試験管を見比べつつ…突然拍子抜けしたように、ほ、と息をついた。

 

「何だ、これでは生体への順応性がほぼゼロではないか。誰か、『命のきのみ』の抽出エキスを持ってきてくれ」

 

「ブラッドハンド」がライラスにエキスの入った注射器を手渡すと、ライラスは手動でエキスを注入しようとしたので、ホーク3は思わずそれを咎める。

 

「きゃ、客員教授!ミリ単位の作業ですので、一度移し替えた方が…」

 

「阿呆が、老い先短い研究者がそんな悠長なことをやっていられるか。わしがどれだけ魔法の研究に携わってきていると思っている、これしきの作業、眠っていてもできる」

 

そうしてライラスがエキスを試験管に滴下すると、液体が蒼く発光し始めた。

 

「おおっ!これは!予測と同じ…!」

 

「……やれやれ…やっとか。苦節数年、ようやく完成した。…ドルマゲスよ、あの時は失敗作を服用させて悪かった。今度は完璧だぞ。」

 

実験の成功に湧く実験サイト。その成功の瞬間を見届けたライラスは、今はここにいない弟子へ思いを馳せた。そのライラスの背中を見つめるのはホーク3。その顔には、どこか感心と納得の表情が浮かんでいる。

 

「(頑固ジジイだが信頼できる人…なるほど、所長の言う通りだ。…今確信した。所長のアレは決して過大評価などではなかった)」

 

ライラスが満足げに眺めている液体の名は「真・大魔聖水」。かつてドルマゲスやユリマが口にした「大魔聖水」の完成版にして、生死の狭間を彷徨っているユリマを此岸へ引き戻し得る唯一の手段である。

 

 

 

 

 

 




。原作でも、ライラスは不器用なだけで真面目で優しい人ってところは描写されていますからね。(すぐ原作ドルマゲスに殺されたけど…)あくまで一軒家で何かと不便だったであろうトラペッタと違い、USAには広大な実験場、あらゆる資材と潤沢な人手・資金があるためライラスの考えるようなことは何でもできます。まさに地上の楽園と言えるでしょう。

とにかくライラスもこれで完全復活!次章からドルマゲス陣営へ参戦します!

ああ、そういえばスレ民の中にライラスをバウムレンと一緒に成仏させてしまった方がちらほら見られましたね…。一体どうなってしまうのでしょうか…。
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