ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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お久しぶりです!








ACT6:リブルアーチ地方~薬草園の洞窟
新・第一章 まだ誰も知らない物語


ゴポポ…ポ…

 

 

 

声が聞こえる。だが何も見えない。

 

 

 

ゴボ…ゴボ…

 

 

 

光のない世界からさらに光のない世界へ、沈んでいく。濁っていく。澱んでいく。体温が急速に奪われていくのを感じる。

 

 

 

ゴポゴポ…ポ…

 

 

 

──目覚めよ、星の筋書きを乱す者よ、哀れで愛しい昼の子よ。

 

 

 

優しいハープの音色と共に、よく響く声が脳内に透き通る。誰だ?

 

 

 

──君の宝物から目を離していてはいけないよ。もうこの刹那、次の刹那に君の宝物は屍に姿を変えてしまっているかもしれない…君は今後延々と肉の偶像を崇拝することになるかもしれない…

 

 

 

誰…いや、この回りくどい言い回しは…

 

 

 

──私の気まぐれに応えてみせてくれ。彼女の存在が朧となって、月夜の泡沫へ溶け往く前に…

 

 

 

月の民の…

 

 

 

──ふふ…『窓』が無くとも、私はいつも君たち昼の子を見守っている。さあ見せてくれ、少年の魂を持つ青年。ここで退場するはずだった道化師。外なる世界から舞い降りた異分子。私も知らない、まだ誰も知らない物語(ストーリー)を…

 

 

 

次第に声は遠のき、落ちていく。墜ちていく。堕ちていく。闇より(くら)く、暗黒よりもなお(くら)い深淵へ。……しかしそこには確かな暖かさがあった。

 

 

 

 

 

 

ゴボ…ゴポポ…

 

生温い液体の中、薄紫色の繭の中、俺は目を覚ました。

 

「(ここは…)」

 

そうだ、俺はユリマと戦って、それで…

 

「(勝った?はずだよな…)」

 

ズキリ、と頭に痛みが走る。どうもそこからの記憶が無いようだ。さっきだって誰かに呼ばれていたような…そもそもここはどこだ?…いくら藻掻いても前には進めない。呼吸はできるが…。

 

さらに大きく腕を動かそうとして、俺は先の戦いで右腕がグズグズになっていたことを思い出し、思わず自分の腕を確認した。

 

「(!…千切れていない…!それどころか治療されている…)」

 

先の戦いでユリマの重力魔法と真空魔法の合わせ技を正面から喰らってしまった右腕は、皮膚や肉がズタズタに裂け、そこかしこで骨が見え隠れしているという目を覆いたくなるような惨状になってしまっていたが…今は血が滲んでいるとはいえ、腕は包帯で丁寧に固定され、無事に繋がっていた。そしてさらにこの場を満たす謎の液体が治癒力を高めているのだろうか、俺自身でも分かるくらいの「治っていく感覚」がある。

 

この包帯の巻き方は覚えている。几帳面なキラちゃんはいつも痛いくらいに包帯をキツく巻いてしまうのだ。そしてそれに気づくと毎回慌てて謝りながらまた巻きなおしてくれる。きっとこのギチギチの包帯は彼女が巻いてくれたのだろう。

 

一方この謎の液体と繭も知っている。原作ドルマゲスが傷を癒すために籠っていたもの…もとい暗黒神ラプソーンの力で生み出されるものと恐らく同じである。現在の杖の所有者はユリマ…ということは。

 

「(…!俺はユリマを倒しきれなかったんだ…!!サーベルトは!?キラちゃんは!?無事なのか!?!?)」

 

嫌な予感が頭を(よぎ)る。彼女は俺を倒した後サーベルトとキラちゃんを酷い目に遭わせると仄めかしていた。まさか…!繭の内側にしか意識が向いていなかった俺は、ここでようやっと繭の外の世界に目を凝らす。薄暗い暗黒の祭壇の中、繭の外の音は何一つ聞こえないが、土煙が上がっているのが見えた。

 

「…!(サーベルト、キラ…)」

 

この繭から脱出したくとも…まるで動くことができず、呪術も阻害されている。

 

「くそっ…!」

 

俺は無力感に苛まれながら天井を眺めた。

 

「…?」

 

天井には繭から伸びる根が張り巡らせられている…と、そこで俺は自分の閉じ込められているものとは別の色の根があることに気が付いた。あの浅葱色の根はどこへ伸びているのだろうか…?俺はほぼ無意識に根の先を目で追う。

 

「(…!繭がもう一つ…!あっ!)」

 

もう一つの繭、そしてその中には探していた二人がこちらを見ていた。

 

「(サーベルト!キラ!無事だったのか!)」

 

「…!……!」

 

やはり全く音は聞こえないが、二人はどうやらものすごく喜んでくれているらしい。しばらくするとキラちゃんは感極まったのか泣き始めてしまい、そのタイミングで我に返ったサーベルトが機転を利かせてハンドサインでの意思疎通を試みてきた。

 

「(『あなた・気絶・生存・嬉しい』……ふぅむ、なるほど)」

 

やはり俺はユリマを倒しきれず、そのまま自分が先に限界を迎えてしまっていたらしい。しかし何故二人も繭に?下で戦っているのは誰だ…?……聞けばいいのか。こういった状況だと言葉や音を介さないで意思の疎通ができる自然系の魔物の言語は便利だ。俺はサーベルトに『私・元気・今・下・戦闘・誰』というメッセージで答えると、サーベルトの表情が少し曇った。

 

『闇・女・対峙・男・三人……妹』

 

「!!!(な…るほど…そうか、そうなったか…!)」

 

俺はすぐに下を向いて爆発や煙の元を探す。…いた!祭壇の薄暗さに慣れてきた俺の目に、勇者に向かって呪文をぶっ放すユリマの姿が映った。しかし四人で交代しながら戦う勇者たち──エイト・ヤンガス・ゼシカ・ククール──は孤軍奮闘するユリマを確実に追い詰めている。既に『少女の見る夢(リリィ)』のカラクリも看破されているようだ。

 

「(最悪だ…!この戦いにどんな意味があるってんだ…!)」

 

俺は悔しさで拳を強く握った。戦場に俺がいない今、ユリマと勇者たちが戦うことには何の意味もない。勇者たちは神の加護があるから死んでもまたすぐに戻ってくるし、ユリマが負ければラプソーンはまた新しい端末を探すだけだろう。そしてユリマは一度死ねばもう生き返らない。そんな簡単なことを分かっていながら何もできない自分が心底恨めしかった。

 

「(俺が勇者たちをここに呼んだのに…俺のせいで…ッ!)」

 

「…?」

 

「(…なんだ?音が…)」

 

その時繭に差し込む微かな爆発音。蚊の鳴くようなか細い音だったが、自身の心臓の音と気泡の音しか聞こえないこの空間でそれは確かに響いた。この繭は暗黒神の力を持つユリマの創りだしたもの、それが揺らいでいる…つまり。

 

「(ユリマの力が消えかかっている!)」

 

つまり勇者の剣がユリマの命に届きかかっているということだが…。…待てよ、これは逆に考えれば彼女を救うチャンスにもなり得るか…!?

 

暗黒神の力はあくまでユリマに「貸し与えて」いるだけ、ということを一度暗黒神に憑依されたことのある俺は知っている。力尽きる瞬間、ユリマ自身の生命力が尽きるより先に、ラプソーンはユリマに与えた暗黒の力を回収しようとするだろう。それは「ユリマが使った暗黒神の技」…つまり今俺たちを封じている繭が消えることを意味する。その瞬間にユリマを救出して退散すれば、ユリマを失うことなくこの場を切り抜けられる。

 

もう少し目覚めるのが遅かったら既にユリマは殺されていたかもしれない…少し想像して思わず身震いした。俺が今このタイミングで眠りから覚めたことは僥倖と言えよう。俺はサーベルトにハンドサインを送る。

 

『すぐ・崩壊・これ・わたし・救出・闇・女』

 

サーベルトは少し…いやかなり困ったような顔をした。そして隣でまだ涙ぐんでいるキラちゃんもまたイヤイヤと首を横に振る。

 

「(…。)」

 

通常の感性を持つ者なら誰だって二人の反応が正しいと感じるのだろう。ユリマは俺を殺す気で攻撃を仕掛けてきていたし、サーベルトもベルガラックで彼女に手酷い痛手を負わされた。キラちゃんに至っては一度彼女に殺されているのだ。そんな相手を救おうと言い出そうものなら正気を疑われるのが道理だろう。

 

しかし、しかし…だ。それでも俺は彼女を助け出したい。俺は二人と違って、知ってしまっている。屈託のない笑顔、拗ねた時に頬を膨らませる仕草、疲れて眠ってしまった父親に毛布を掛けてあげる優しさ…俺はもう既に彼女の人間性に惹かれてしまっている。いくら牙を向けてきた相手とはいえ、救う意思すら見せずに諦めようものなら…俺はきっと、自分を今後一生許せない。

 

俺は更にハンドサインを送った。

 

『わたし・引き受ける・責任・全て』

 

「…」

 

『頼む』

 

「(頼む…)」

 

一考の後、サーベルトはわざとらしく肩を竦めるジェスチャーをしてみせた。そしてグズるキラちゃんを諭し(内容は聞こえないが多分上手く丸め込んでくれている)、サインを返してきた。

 

『了承・引き受ける・補助・全て…わたし・信頼・最大・あなた』

 

へへっ、やっぱりお前は最高だぜサーベルト。

 

『…無茶・不可・絶対』

 

…なんだかんだ言ってキラちゃんも優しいんだもんな。ありがとう。

 

 

眼下のユリマはもう息も絶え絶えで見ているこちらも辛い。しかし最速で助けに入るためにはやはり戦況から目を逸らすわけにはいかないのだ。繭の力はますます弱まり、既に外の声も聞こえるまでになった。しかしまだ脱出は敵わない。

 

勇者たちの絞り出すような声が聞こえてくる。彼らもまた限界が近いようだ。しかしユリマは膝をついてへたり込み、もう動くことも叶いそうにない。待つことしかできないこの時間が歯痒くて仕方がない。

 

「(くそ…まだか…!)」

 

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ」

 

「『魔王』、なんてタフ…!」

 

「でも…あと一息でがす…!」

 

「ヤンガス!『魔王』はもう攻撃を避けられないわ!決めて!!」

 

「任せろ!う、おおおおおっ!!」

 

 

 

「(マズい…!早く…ッ!早く!!!)」

 

「!!!」

 

その瞬間、名状しがたい音と共に繭が消滅する。ラプソーンがユリマの中から完全に撤退したのだ。ついに自由になった俺は、重力のまま自由落下するキラちゃんをサーベルトに一任し、全速力で空を駆けた。ヤンガスはもうオノを振り下ろし始めている。一瞬でも遅れればユリマは死ぬ!もっと急げ俺!もっと軽く、もっと小さく…!

 

少しでも素早く動くため、ほぼ無意識に『妖精の見る夢(コティングリー)』で子供(ディム)の姿に変身した俺は一陣の風となり、今まさに終劇を迎えようとしている戦場へ突撃した。

 

 

鈍い音と共にぶわりと土煙が舞う。ヤンガスのオノの一撃から間一髪、本当に紙一重でユリマを救出することができた。煙の中から勇者たちの声が聞こえる。

 

 

 

「やった…のか…?」

 

「ヤンガス!」

 

「兄貴!手ごたえが無いでがす!避けられた!!」

 

 

 

少し離れたところで勇者たちが叫んでいるが、今の俺には腕の中で今にも息絶えてしまいそうな少女の、弱くなっていく心臓の鼓動しか頭に入らない。俺は何も考えることができずに立ち尽くしていると、ユリマの口から微かに音が漏れる。

 

「…か…」

 

「…!なんだ!?どうしたユリマ!?」

 

「わたし…が…ドルマゲスさんを…まもる…か…ら…」

 

「…ッ!!!」

 

ユリマに最早意識はなかった。今のだって無意識下で出た寝言のようなものなのかもしれない。しかしその言葉は俺の心を深く抉った。彼女は許されざる行為を多数行ってきたが、芯はいつでも変わらなかった。良くも悪くも真っ直ぐだったのだ。そして、その思いの対象こそが…

 

「ユリマ………」

 

…諦めるとか諦めないとか、もうそういう次元ではない。この子をここで死なせてはいけない。ユリマを闇に堕としたのは俺、なら救い上げるのも俺でなくてはならない。俺には彼女を救う責務がある。

 

 

 

「「「「ディム!?」」」」

 

「『魔王』!?ディムが…なんで!?」

 

ああ違うんだエイト。ユリマを『魔王』にしてしまったのが俺なんだ。

 

「ディム!そいつから離れて!危ないわ!!」

 

きっとユリマはゼシカたちに恐ろしい思いをさせたのだろう。でももう危なくないんだ。

 

「そいつから離れろディム!引導を渡してやるでがす!」

 

ヤンガス…お前の覚悟、責任感、立派だよ。でもごめん、それをさせるわけにはいかない。

 

 

 

限界を超えて「蒼天魔斬」を繰り出してくるヤンガス。その顔に余裕など微塵もなく、いかにユリマが脅威的な存在であるかが窺える。だがそんなヤンガスとは対照的に、俺の顔に焦りはなかった。

 

ギィン、という金属音と共にヤンガスの一撃は弾かれる。ごめんな、サーベルト。お前だって今すぐゼシカの所へ行きたいだろうに…。しかしサーベルトに全幅の信頼を寄せられている俺が止まるわけにはいかない。俺はサーベルトを、彼が世を忍ぶ仮の名で呼んだ。

 

「…アインス」

 

サーベルトはヤンガスの攻撃を全て防ぎ切り、ヤンガスを圧倒した。俺は『ラリホーマ』を唱えてヤンガスを完全に無力化し、エイトとククールの方へ向き直る。

 

 

 

「…お前、ディム…やっぱり騙していやがったのか…」

 

「君がドルマゲスだったんだね…」

 

 

 

そうさ。俺こそが魔性の道化師ドルマゲス…

 

 

 

「何とか言えよ!おい!オレたちを騙して遊んで楽しかったか!?…オレはなあ!お前の料理、好きだったんだぜ!ゼシカも、ヤンガスもだ!お前のことを心底可愛がってた!全部嘘だって言うのかよ!!」

 

「…ディムがサザンビークで姫を一瞬でも元の姿に戻してくれた時、僕はあの時の姫の笑顔をずっと忘れない。君が何を考えてそんなことをしたのかは計り知れないけど…今のこんな状況でも、僕は君に感謝してるんだ。だから、だからこそ、すごく残念だよ。すごく…」

 

 

 

俺は嘘をついた。モンスターをけしかけたりもした。でも…

 

こんな時くらいは誠実でありたい。俺は真っ直ぐ二人の目を見た。

 

 

 

「…隠し事をしていたことは、ごめんなさい。でも…騙していたつもりはありません。本当です」

 

その時、傍らのユリマが顔を歪ませ、苦しそうな呻き声を上げた。呼吸がどんどん浅く、不規則になっていっている…限界は近そうだ。

 

「急がないと。キラ、アインス、手を」

 

サーベルトは首を横に向けたまま俺の肩に手を置いた。ゼシカを視界に入れないようにしているのだろう。絶対ちゃんとした形で再会させるから…今は本当にごめん。そしてキラちゃんは…

 

「!」

 

「……。」

 

背後から力強く抱きしめてきたキラちゃんもサーベルト同様何も言わないが、その嗚咽から泣いていることは分かった。絶対に守るってパヴァンとシセルに約束したのに…心配かけてごめん。あと…信じてくれてありがとう。

 

「エイトさん、ククールさん、ヤンガスさん、ゼシカさんも。いつかまた会いましょう。」

 

俺には最高の仲間であり友人がいる。勇者たちともいつか……。しかし今はその時ではない。

 

 

 

「おい!待てよ!おい!!!」

 

「ディム…」

 

 

 

勇者たちから逃げるように俺は『リレミト』、そして『ルーラ』を唱え、闇の遺跡から離脱した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

──アスカンタ国領北部・U.S.A.──

 

アジトへと転移した俺は変身(コティングリー)を解き、サーベルトの方を振り返った。

 

「さ、サーベルト…あの…っ」

 

「いいさ。話したいことは山ほどあるが…先にその子を連れて行ってあげてやれ。時間が無いんだろう?…ほら、キラもそろそろドリィから離れて。」

 

サーベルトは仮面を外しながら俺の言葉の続きを遮り、ユリマの治療を優先することを促してくれた。本当の本当に頭が上がらない。

 

「…ありがとう…ありがとうございます…っ!サーベルトもキラさんも、このご恩は必ずっ!」

 

サーベルトがキラちゃんを俺から引っぺがすと同時に、俺はユリマを抱えたまま師匠の下へ急いだ。師匠なら、師匠ならきっと何とかしてくれるはず。何かの根拠があるわけではないが、俺はもう師匠に縋るしかなかった。

 

 

「師匠!!!」

 

「なんだドルマゲス、ノックもなしに…と、お前…その女はまさか…!」

 

「はい、ルイネロさんの娘、ユリマさんです。もろもろの説明は後でいくらでも説明します。今は彼女を助けたいです。ご助力願えますか?」

 

師匠は自分の療養室で何かを書いていた。大抵いきなり部屋に入ると怒鳴られるのだが、今回は俺の顔を見てそんな暇はないとわかってくれたのか、師匠は無言でベッドから下りてユリマを寝かせるように指示した。

 

「…診せろ」

 

「はい」

 

俺はユリマを部屋から一番近い清潔なベッドに横たえ、師匠の診察を妨げないように、その場から一歩下がる。

 

「…」

 

「…」

 

カチ、コチ、と響く時計の針の音が、静かな部屋に過ぎてゆく時間を告げる。

 

「……うぅむ…回復は?」

 

「『ベホマ』と『リホイミ』をかけました。『キアリー』『キアリク』で状態異常は消してあります。」

 

「…うむ。確かに外傷は無いな。ではやはりユリマの肉体は…」

 

「うぅ…ぅ……」「ユリマ!」

 

ユリマが再び苦しそうな声を出したので俺も思わず大きな声を出してしまう。

 

「落ち着け。声を出せるのはまだ気力の尽き果てていない証拠だ。…こやつの容体が安定しない原因は、通常ではあり得ない魔力の使い方にある可能性が高い」

 

「…。」

 

「なんらかの理由で自分の魔力量を超える魔法を何度も放ったのか?魔力のないまま無理に魔法を放とうとした結果、身体中の細胞が魔力に変換され消費されてしまっている。今のこやつは生命維持に最低限度必要な臓器以外が体内に存在しない、筋肉も骨も最低限度しか残っていない、まるで人の皮でできた風船のような状態だ。正直…こんな状態の人間は見たことが無い。」

 

…!それでユリマを抱えた時、あんなに軽かったのか…!!臓器も組織も細胞に至るまで魔力に変換して…なんて無茶を…!

 

「…!そ、そんな…!ユリマ、さんは助かるんですか…?」

 

「わしは医者ではない…筋肉や内臓の繋ぎ方などさっぱり分からん」

 

「…ッ」

 

師匠は首を振り、俺は膝から崩れ落ちそうになった。しかし続く師匠の言葉で俺は踏みとどまる。

 

「だが」

 

「…?」

 

「わしは世界一の魔法使いである賢者マスター・コゾの末裔にして、魔法の研究者。『魔力』云々に関することでわしの右に出る者は誰一人としておらん。」

 

師匠は歯を見せてニッと不敵に笑った。本当に自信のある時しか見せない師匠の珍しい表情…

 

「筋肉の錬成、内臓の錬成…そんなもの外付けの魔力でどうとでもなる。ドルマゲスよ、運が良かったな。つい先日完成した最高の魔法薬がある。……この娘は助かるぞ」

 

「…!!!」

 

この時の俺の心情と言ったら…いや、どんな言葉でも言い表せまい。

 

 

ただ一つ言えることは…俺が「ドラゴンクエストⅧ」の世界に転生して8年……この日、俺はこちらに来てから初めて泣いた。

 

 

 

 

その後、俺は感謝の言葉と共に何度も師匠に頭を下げ、果てには鬱陶しいから外に出ていろと怒られて部屋から追い出された。だが…

 

「嬉しそうだな、ドリィ?間に合ったようで何よりだ。」

 

「サーベルト、キラさんも…ええ、とても。」

 

「…わ、私はあの人を助けたこと、まだ納得してないんですからね…」

 

そんなに緩んだ表情をしていたのだろうか?…ともかく二人の所へ戻ってもう一度ゆっくり話をしようと思っていたから、丁度良かった。

 

「申し訳ありません…」

 

「(私が死んじゃった時もこんなに慌ててくれてたのかな…?)」

 

「まあ、言い訳はたっぷり聞かせてもらおうか。…今日は色々あって腹ペコだ。ドリィ、食堂へ行こう。一番美味い料理を食べさせてくれ。…もちろんドリィの奢りで、な?」

 

「…私も、ドルマゲス様を破産させてしまうくらい食べさせていただきますから、パフェ。」

 

「…ええ、もちろんです…!」

 

 

 

後悔は旅路の上で心を引き続ける。それでも、道半ばで歩みを止めてはいけない。…結果だけ見ればたくさんの人を苦しめてしまっていて、空回りだったのかもしれない。勇者たちにも隠し事をしたままだし、結局迷惑をかけてしまった。しかし、ここで折れてしまえば俺は本当にそこまでの男になってしまう。俺はドルマゲスだ。だがあのドルマゲスとは違う。俺の周りにはサーベルトがいる。キラちゃんも、師匠も、そしてユリマも。俺は…絶対に悲しくない、幸せだったと言えるような人生を送ってみせる。俺は固く拳を握った。

 

 

 

──それでいい。異分子よ、もっと自由に。君のこれからの活躍を私も楽しみにしているよ…

 

 

 

その後、俺が食堂での支払金額を目にしてひっくり返るのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 




「俺たちの戦いはこれからだ!というやつだな!」

「サーベルト、縁起悪いこと言わないでください」


ドルマゲス(男・28歳)
職業:魔性の道化師
レベル:60
魔法:DQシリーズにおけるほぼ全ての呪文
呪術:想像力の限り何でもできる
科学:資材の限り何でもできる
好きなもの:仲間




落書きがちょっと気に入ったので載せます。
『少女の見る夢(リリィ)』で明日の天気を覗こうとするユリマちゃんです。


【挿絵表示】


実際には数秒~数分先までの出来事しか見えないので明日の天気はわからないですね。




新章といいながら前回の補完が大部分になってしまいました。この週末は時間があるので明日、明後日も更新できるのではないかと思っています。では完成していればまた明日!
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