ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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ユリマちゃん視点のお話も今回で最後です。








第 話 『ユリマ』 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

………

 

 

ああ 神様 わたしの人生は"孤独"です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お父さんは、お父さんじゃない

 

 

どこかわたしに遠慮している

 

 

お父さん以外に仲のいい大人はいない

 

 

きょうだいもいない

 

 

目線の同じ友達もいない

 

 

好きな人ができた

 

 

でもいなくなった

 

 

 

 

 

わたしはひとりだった

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ 神様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや…もう、いい。わたしは、大丈夫

 

 

身体は痛いけど、内臓(なかみ)ももうないけど、大丈夫

 

 

わたしは最後にあの人を助けられた、守ることができた、役に立てた

 

 

だからもう、大丈夫

 

 

 

 

 

あの人の役に立ちたい

 

 

小さなころから、私とお父さんが本当の意味での親子になれたときから、ずっとそれだけが夢だった

 

 

ちょっと怖い笑顔が好きだった

 

 

わたしの知らない、でも美味しい料理が好きだった

 

 

時々くれる花が好きだった

 

 

褒めてくれる時に撫でてくれる手が好きだった

 

 

ずっとこの「好き」を何かの形で贈りたかった

 

 

でもわたしが贈る前にあの人は行ってしまった

 

 

その間も「好き」は膨れ上がって、居ても立っても居られなくなった

 

 

ライラスさんの家から薬を盗んで飲んで、わたしもあの人を追って街を出た

 

 

海に落ちた私をイカさんが拾ってくれた

 

 

わたしはイカさんを潰した

 

 

それからも魔物たちは絶え間なく襲ってきた、わたしは全て潰した

 

 

宿場町でわたしは「半魔」と呼ばれて追い出された

 

 

それでもよかった、あの人に近づけるのなら

 

 

老夫婦の家に泊まらせてもらった

 

 

久々にヒトの優しさに触れてわたしも優しい気持ちになった、でもごめんなさい、わたしはもうあの人以外を愛せない

 

 

あの人は見つからなくて、スラム街でしばらく寝泊まりしていた

 

 

男の人は嫌い

 

 

あの人は西の大陸へ向かったのだと聞いた

 

 

船を持っている女の人に船を貸してもらった

 

 

船を動かしたことなんてないから、船は少し壊れてしまった、ごめんなさい

 

 

宿屋でついにあの人を見つけた、すぐに飛びつきたかったけど、夜中だったし、知らない剣士の人と相部屋だったのでやめておこうと思った

 

 

頭の中で声がして、杖を手に取れと言ってきた

 

 

杖の場所はすぐに見当がついた、あの人は大事なものをすぐに異空間(ぽけっと)へ隠すから

 

 

頭の中の声に従う気はなかったけど、大事なものみたいだから誰かに盗られないよう、わたしが預かっておこうと思った

 

 

そこからしばらく記憶が無い

 

 

誰かの記憶を追体験しているような、興味のない映画をぼんやり眺めているような、わたしだけどわたしじゃないような。ずっとそんな感じだった

 

 

 

 

あれ、なんで、今、こんなこと

 

 

 

 

 

 

そっか

 

 

 

 

 

 

 

 

わたし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

目が覚めた…?息、吸える。心臓、鳴ってる。…わたし、生きてたんだ。

 

「…」

 

知らない天井、知らないベッド、ここはどこだろう…

 

「あっ!起きられたんですね」

 

わたしの顔を覗き込んできたのは看護婦のような装束に身を包んだ金髪の女の子。…えーと、キラちゃん、だったかな。よく覚えてないけど、たぶんそう。

 

 

 

面白くない。

 

 

 

「…」

 

「ちょ、ちょっとぉ!?なんでもう一回寝るんですか!?」

 

「…目覚めなおすんですよ。どうして起き抜けに見るのがあなたの顔じゃないといけないんですか?」

 

「な!な!な…!」

 

わたしが薄目を開けてキラちゃんを見ると、顔を真っ赤にして服を握りしめている。何か言いたそうにしているけど、うまく言葉になってないみたい。揶揄われ慣れてないのかな?…きっと生まれてから何も悩み事なく生きてきたんだろうな。羨ましい。わたしは起き上がってキラちゃんのおでこを指で弾いた。

 

「あでっ」

 

「…はあ、冗談ですよ。全く、ジョークの一つも理解できないでよくあのドルマゲスさんの近くにいられましたね?」

 

「…」

 

私が本当にもう一度寝ようとすると、キラちゃんは無言で私を殴ってきた。ぐーで。

ぱーじゃなくてぐーで!あまりに突然すぎて私はおでこにいいのを貰ってしまった。

 

「イッタ。……何するんですか?」

 

「それはこちらのセリフですよ。どうしてドルマゲス様を傷つけるような人がそこまでドルマゲス様にこだわるのですか?」

 

「…あなたには決して入る余地のない理由(わけ)が、わたしにはあるんですよ」

 

わたしは殴られたおでこをさする。元々非力そうな彼女のパンチ、しかもかなり手加減されていた。痛いはずがない、ないけど…なんか。ショック?それとも衝撃?わたしの精神(こころ)は少し揺れた。

 

「私、ドルマゲスさんを虐めた貴方をまだ許していませんから。このパンチは…私の気持ちです。」

 

「…はぁ、あなたに許されないからなんなんです?なんであなたがドルマゲスさんのことで私に怒るんです?義憤ですか?わたしに対するあてつけ?アピールですか?気持ち悪い、吐き気催しちゃいますよ。おえー。」

 

「あと私を殺したことも許してません」

 

「えっ」

 

えっ、えっ。そんな、えっ?

 

「…」

 

キラちゃんの表情は真顔のまま変わらない。適当なこと言ってる?…そんな感じでもない。え、じゃあ本当なの?わたしが?記憶の曖昧な間に彼女を?で、でもじゃあ彼女はなぜ生きて…

 

「ご、ごめんなさい…?」

 

キラちゃんはふふんと意地悪っぽい笑みを浮かべた。…腹が立つなぁ。ボコボコにして私の隣のベッドにでも寝かせておいてあげようか。みんなビックリするだろうな。

 

「えーと、まあそんな程度では許すことはできませんが、謝罪の言葉は受け取っておきますね。」

 

キラちゃんはわたしの肩を少し押してまたベッドに寝かせようとした。別に反抗する理由もないわたしはされるがまま、再度大きな枕に後頭部を(うず)める。キラちゃんは袖をまくって、濡れた布を絞り、わたしの頭にそっと乗せてきた。つめたい。

 

「…なんですか、これ」

 

「ライラス様の魔法薬の副作用でしょうか、まだ少し熱っぽいので冷やさないと。」

 

「…熱っぽいって、ヒートアップさせたのはあなたですけど?」

 

「…ですので、頭を冷やせってことです。ドルマゲス様にお熱のお嬢様。」

 

「…!」

 

わたしにはキラちゃんに言い返す言葉を見つけることはできなかった。…なぁんだ。ちゃんとユーモアもあるんだ。……そりゃドルマゲスさんも気に入るわけだよね。

 

「……はあ。わかりました。わたしは寝ます。あなたもご苦労様。帰って良いですよ。そしてもう戻ってこないでください。」

 

「いえ、貴方が目覚めたので、私はこれからドルマゲス様たちを呼んできます。」

 

「ど、ドルマゲスさんがっ!?ねっ、寝られないじゃないですかぁ!」

 

キラちゃんはくすくすと笑い、部屋を出て行った。あれ?なんか、遊ばれた?

 

…なんでだろう、わたしの方が賢さ(あたま)肉体(からだ)も、戦闘力(パワー)魅力(ぱわー)(POWER)も上回ってるはずなのに…こんなに『負けた』気がするのはなんで?

 

そんなことはどうでもよくて。今からドルマゲスさんが来るんだよね!?わたしにはそっちの方がよっぽど重要!

 

ぽっ、と火にかけたやかんのように火照るわたしの顔。どうしよう、わたしどんな顔でドルマゲスさんに会えばいいの?たくさん迷惑かけたんだよね。…あんまり覚えてないけど…。でも、会えるの楽しみ、嬉しい、大好き!

 

「好き」が止まらない。本当はもっと申し訳なさそうにしたり、葛藤したりするべきなのかな?…でも、わたしは行動原理が「好き(それ)」だから。今までも、きっとこれからも。わたしはそわそわしながらドルマゲスさんが来るのを待った。鏡もないまま髪の毛を直しちゃったりして。相変わらず右目は見えないままだけど、構わない。もう一度ドルマゲスさんを視界におさめられるのなら。

 

わたしにとっては永遠の様に長い数分の後。再びドアが開き、ひょっこり顔を出したのはキラちゃん。…ドルマゲスさんじゃない!!おあずけされて少し荒んでいたわたしは彼女に唾を吐きかけそうになったけど、飲み込む。いくら何でもはしたなさすぎるよね。

 

「!!!」

 

でも、そんな思考すら一瞬の内に消滅。わたしの目線はキラちゃんの後ろから現れたドルマゲスさんに釘付けになってしまった。

 

「あ…ぁ」

 

上手く言葉が紡げない。

 

「…」

 

ドルマゲスさんは何も言わずにずんずん近づいてくる。どうしよう、怒られるのかな、叱られるのかな。「嫌いです」「最低です」なんて言われたらどうしよう…どっ!どうしよう!!

 

「そ、の…ど、ドルマゲスさん…」

 

ドルマゲスさんは腕を広げた。叩かれるのかと思ってわたしは少し怯む。ドルマゲスさんは更に近づいてきた。ドルマゲスさんは腕をわたしの後ろに回した。ドルマゲスさんはそのまま私を強く抱きしめ──

 

え?これって

 

「…おかえり…ユリマさん」

 

 

 

 

 

─ぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しあわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

目が覚めた。もしかしてさっきまでのやりとりは全部夢だったとか?だったら笑えない。

 

「…あっ、起きられたんですね。起きましたよ、皆様!」

 

「…」

 

「もう!なんでまた寝ようとするんですか!」

 

「…目覚めなお「おはようございます、ユリマさん」」

 

「…」

 

「ユリマさん?」

 

「おおおおおおおおおはようございますドルマゲスさん」

 

「すっごい震えてますが大丈夫ですか?」

 

心臓が高鳴る。夢じゃなかった!夢じゃ…わたし…やっと…

 

「ああっと、また気絶されても困りますからね。もうちょっと起きておいてください。…ねぇ師匠、あの薬、眠気を引き起こす成分とか入ってるんですか?」

 

「入っとるかそんなもん。医療用の薬じゃあるまいし。こやつのメンタルの問題だ。」

 

「ら…いらすさん?」

 

「ふむ、記憶に異常は見られんようだな。」

 

白い髪に白い髭を蓄えたおじいさん、ドルマゲスさんの師匠。ライラスさん。確か死んだはずじゃ…?キラちゃんといい、やっぱりここって死後の世界…?

 

「???」

 

「…面食らっておるな。」

 

「まあ、ユリマさんの中では師匠は死人ですからねー」

 

「確かにわしは長い間仮死状態にあったからな。キラも一度は完全に死んだと聞くし、サーベルトも死にかけたというではないか。さてはドルマゲス…実はお前、死神か何かじゃないのか?」

 

「人聞き悪いですねぇ。サーベルトも何か言ってくださいよ」

 

ドルマゲスさんに話を振られて口を開いたのはドルマゲスさんより少し若そうな男の人…ちょっと覚えてる。ドルマゲスさんを親友だって言ってた人だ。多分。

 

「ドルマゲスは命の恩人ですよ。ライラスさん。…顔が死神を想起させるほど怖い、と言われるとそれは俺もそう思いますけど。」

 

「一言多いんですよ!」「ははっ、悪い悪い」

 

ドルマゲスさんがあんな風に笑うのは初めて見るかもしれない。厳しいイメージのあるライラスさんも今は口角が少し上がっている。

 

「…」

 

「どうですか?」

 

「…何がです?」

 

「サーベルト様も、ライラス様も、…私も。みんなドルマゲスさんが大好きで、信頼しているんですよ。」

 

「…」

 

「貴方だけがドルマゲス様の理解者というわけではないのです。」

 

「…そう、ですね…あなたに諭されるなんて。」

 

病室で大きな声を出したせいなのか、ライラスさんに正座させられているドルマゲスさんと剣士のお兄さんを見て、わたしは自分の布団に目を落とした。そうか。わたしだけじゃなかったんだ。わたしだけがドルマゲスさんを好きだったわけじゃないんだ。じゃあ、なんのためにわたしは…

 

「そして、貴方もまた彼の理解者であることに変わりはないのです。」

 

「…!なにが…わたしはあなたたちとは違うんです」

 

「私とサーベルト様はかつてのドルマゲス様を知らない。一方、貴方とライラス様は旅に出てからのドルマゲス様を知らない。違いなんてその程度ではありませんか?」

 

「…」

 

「キラさんの言う通りです、ユリマさん」

 

「ドルマゲスさん…」

 

「このバカ弟子はわしに黙って暗黒神に決戦を挑み、しかもマヌケなことに敗走してきたと聞く。なんとも情けない話だが、今は戦力を蓄えるべきだということは知れた。そのためにユリマ、お前の力も必要なのだ」

 

「正直…俺もキラ同様、君のことをまだ許してはいない。しかし君は、俺の信頼するドリィが信頼している者。君が一緒に暗黒神と戦ってくれるというのなら、俺は君を歓迎したい」

 

ライラスさんとお兄さんは私から目を離さない。パルミドで感じたような下卑た視線じゃなくて、もっと澄んだ、美しい眼差し。男の人は嫌い、それは変わらないけど…何故か今は平気だった。

 

「ユリマさん、貴方は私にとって特別な存在ですが、それは師匠もサーベルトもキラさんも同じことです。」

 

そう…か…でも、それってやっぱりちょっと不満。わたし、本当に自分勝手。

 

「わたしは……わたしは、みなさんと同じようには考えられません。ドルマゲスさんだけが特別です。そしてドルマゲスさんにも私だけを特別だと思っていて欲しい。」

 

「…」

 

ドルマゲスさんは困ったように頭を掻いた。キラちゃんとお兄さんは顔を見合わせ、ライラスさんは大きくため息を吐く。三者三様の反応。みんな住む場所も個性も違うのに、その全員がドルマゲスさんの理解者。そこにわたしも…?

 

入って、いいのかな。

 

キラちゃんと目が合う。彼女は控えめに微笑んだ。

 

「(大丈夫ですよ)」

 

そう言っているように思えた。

 

「ユリマさん…」

 

「…冗談です、みなさんをちょっと困らせてみたかっただけ…わたしも、ドルマゲスさんと一緒に戦います。…というか、ずっと昔からわたしはそれが夢でした。他の人は…」

 

わたしはわたしを取り囲む人たちを見回す。みんな、わたしを見ている。高くもない低くもない、わたしと同じ目線で。

 

「…他の人も、まあドルマゲスさんの味方で居てくれる限りは仲間だと思うように努力しますよ。」

 

「…!」

 

ドルマゲスさんの顔は明るくなり、キラちゃんとお兄さんは笑みを浮かべる。ライラスさんもむすっとした表情は変わらないが、悪い感情ではなさそう。

 

「はんっ、最近の若者は素直でないから扱いに苦労してかなわんな。」

 

「え?師匠は自分のこと『最近の若者』だと思ってるんです?」

 

「どういう意味だドルマゲス、そこへ直れ」

 

「失言でしたすみません」

 

また正座させられるドルマゲスさん。その様子がなんだか微笑ましくてわたしは思わず笑ってしまった。

 

「…あははっ」

 

「…やれやれ。こんなバカが好みとは、お前も大概な物好きだな。…改めて、ライラスだ。お前には以前トラペッタで魔法を教えていたことがあるから分かっているだろうが、わしは男だ女だで対応を変えたりはせんからな。ドルマゲス同様、お前も厳しく指導してやるから覚悟しておけ。」

 

「はい。ライラスさん、これからもご指導のほどよろしくお願いします」

 

ライラスさんはふんと鼻を鳴らし、実験の途中で呼び出しおって、と文句を言いながら退出した。

 

「俺の名はサーベルト・アルバート。ドリィによればその真名はサーベルト・クランバートル。リーザスの村の領主の嫡男で、ドリィの親友だ。君とも仲良くしたい。よろしく頼む。」

 

サーベルトと名乗ったお兄さんは手を差し伸べてきた。多分、友好の証、握手。でも…やっぱり嫌だ。ドルマゲスさん以外の男の人の肌に触れるなんて…嫌だ…けど……。

 

「!」

 

わたしは差し伸べられた手の、人差し指だけを右手でつまんだ。ごめんなさい…でも今はこれで。これがわたしにできる、一番の譲歩だから。

 

「…その節は色々と迷惑をかけてごめんなさい。わたしはユリマ。出身はトラペッタの町です。ドルマゲスさんのこと、今まで守ってくれてありがとうございました。これから……よろしくお願いします、お兄さん。」

 

お兄さんはわたしの拙い握手モドキを笑って受け取ってくれた。

 

「では、次は私が……改めまして、私の名前はキラと申します。生まれも育ちもアスカンタ国領、以前は王室で小間使いをしておりました。言いたいことはまだまだあるんですけど…過去は過去、今は今、です。ユリマさん、私は貴方のこれからに期待しています。」

 

キラちゃんも手を差し伸べてきた。わたし、女の人も…特にドルマゲスさんの周りにいる女の人は嫌いだけど…ここでこの手を振り払ってしまうと、やっぱり『負けた』気がする。…だったら。わたしはキラちゃんの手を掴み、強く握りしめた。

 

「!?イタタタタ!いたっ、い、痛いですよ!!」

 

「ああ、失礼。あなたと仲良くなりたくて、つい力が入っちゃいました。キラちゃん、これからよろしくね。」

 

「~~~!!!」

 

やっぱりあの人苦手です~!とキラちゃんはドルマゲスさんの後ろに隠れた。その()()()()振る舞いにわたしは一瞬殺意を抱きそうになるけど、ダメダメ、これからわたしはみんなの仲間に入れてもらうんだから…。わたしは張り付けた笑顔が剥がれないように努めながら、こめかみに浮いた青筋を手で抑えた。そして当のドルマゲスさんは…

 

「え」

 

ドルマゲスさんはいつの間にか私の隣に立っていた。

 

「本当に…よく帰ってきてくれました。…そして、ごめんなさい。貴方を巻き込んでしまって。私が至らないばかりに、貴方を暗黒神との戦いに引き込んでしまった。その右目も…」

 

「いやっ、そんなっ!わたしはただ、ドルマゲスさんの役に立ちたくて!…痛いとか辛いとか、悲しいとか、思ったこと…ないです」

 

嘘だけど。ずっと、思ってたけど。

 

そんな本心を隠しながら、知らず知らずのうちに俯いていたわたしの頭に何かが乗せられる。

 

「!」

 

わたしはこの感触を知っている。

 

「…いいえ、痛かったでしょう、苦しかったでしょう。本当にごめんなさい。全て私と暗黒神の因縁が引き起こしたことで、貴方に罪はないのです。だから…我慢しないで」

 

「…♪」

 

頭、撫でられて。やっぱり最高。優しい気持ちになる。大好き。

 

「…本当に大丈夫です。……今、大丈夫になりました。」

 

「…そうですか。ユリマさんは強いですね。私なんかよりもずっと」

 

そんなことない、わたしは強くない、強がっているだけ。あなたがいるから、強がっているだけ。……でもそんな答えをドルマゲスさんが期待していないことぐらいはわたしにだってわかる。だったら、わたしは。

 

 

 

ここで一歩踏み込んで、「強さ」を。

 

 

 

「あ…の!ドルマゲスさん!」

 

「はい」

 

「ドルマゲスさんがわたしに贖罪をしたいと言ってくれるのなら、みなさんに迷惑をかけたわたしの要望が通るなら…」

 

 

 

自分でも納得できる「強さ」を。キラちゃんにあってわたしにないものを。

 

 

 

「わ、わたしのこと…ユリマさんじゃなくて、『ユリマ』って呼んでください。ドルマゲスさんが国を滅ぼした大罪人だと自嘲するなら、わたしにだってそれを背負わせてください。私たちは運命共同体になるんです。……敬称なんてもう…いらない、でしょう?」

 

わたしはドルマゲスさんの目を見た。見るなってって言われるまでは目を離さない。弱弱しくて、かつ確固たる意志を持って。

 

ドルマゲスさんは息を一つつくと、わたしの頭から手を離し、そのままわたしの手を取った。握手だ。友好の証…。はあ、今だけ握手が『永遠の愛』って意味にならないかな、なんて。

 

「貴方がそれを望むのなら。こちらこそ、よろしくお願いします。一緒に世界を救いましょう、ユリマ。」

 

握手の意味なんて、もうどうでもいいか。今はただこの手のぬくもりを記憶しよう。単純で桃色な私の脳の、全ての領域を使って。

 

「は、はひ…」

 

…あーあ、残念。どうやらわたしの脳は働くことを放棄しちゃってるみたい。頭真っ白だよ。

 

わたしの視線と、ドルマゲスさんの視線が交差する。嗚呼、ここで時間を切り取って保管できたなら。でも無情なことに、砂糖を蜂蜜で煮詰めたような、この甘い甘い空間はそう長くは続かなかった。ドアが開いて、ひどくうんざりした表情のライラスさんが首だけ出してドルマゲスさんを呼んだ。

 

「…おい、ドルマゲス、第二階層で魔物同士のもめごとだと。このままだと実験もくそもない、早く鎮圧してきてくれ。…ハァ、2週間かかる実験が全てオシャカになったわ。」

 

「えぇ…またですか…?従業員への教育が足りてないんですかねぇ…とにかく、了解しました!サーベルト!腕っぷしに自信のある人手が要ります!ついてきてください!」

 

「任せろ!ドリィ、案内してくれ!」

 

「ではキラさん、ユリマ、また後で!」

 

「お二人ともお気をつけて!」

 

「あ…い、いってらっしゃい!」

 

ドルマゲスさんとお兄さんは勢いよく部屋を飛び出し、ライラスさんもため息をついてまた廊下へ消える。それを見送ると、キラちゃんも荷物をまとめて立ち上がった。

 

「キラちゃんはいつもここで何をしてるんです?そもそもここってどこ?」

 

「ここは南の大陸、アスカンタ国領の北部にドルマゲス様が建設なさったアジトです。…ユリマさん、お腹が空かれているのではないですか?私は上の階層にある食堂に従事していますので、よければ案内板を見ていらしてください。腕によりをかけて御馳走しますから。それか、今からご一緒しましょうか?」

 

お腹…確かに空いてる。そういえば最後にまともな食事をしたのはいつだっけ?そう思うと急に何か口にしたくなってきた。

 

「わかりました…じゃあ、後で行きます。多分もう歩けますし。」

 

「そうですか、では……あ、そうだ」

 

「?」

 

キラちゃんは廊下を覗いて誰もいないことを確認すると、ちょっと顔を赤らめながら近寄ってきた。あざとい。そしてわたしの耳元で囁く。ますますあざとい!

 

「わ、私…負けませんから」

 

「!」

 

「…」

 

「…」

 

「…す、すみません。やっぱり聞かなかったことに──」

 

やれやれ、煮え切らないなぁ。わたしはさっきよりもちょっと強めにキラちゃんのおでこを指で弾いた。

 

「あでっ!」

 

「…生意気なんですよ。キラちゃん、わたしよりも年下でしょう?……受けて立ってあげますよ。悪足掻きくらいなら、いくらでも」

 

「…うふふ、随分ひねくれたお姉様ですね」

 

「あんまり生意気だと埋めますよ?」

 

そう言ってわたしとキラちゃんは笑いあった。

 

こんなの、初めて。叱ってくれる大人がいて、頼れそうなお兄さんがいて、軽口の叩ける子がいて、好きな人と一緒に肩を並べられる。こんなの、初めて…!

 

「(あ。わたし、今──)」

 

 

ひとりじゃないんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ 神様 わたしの"孤独"が終わります

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「──私たちは運命共同体になるんです。……敬称なんてもう…いらないでしょう?」

「じゃあ私のことも『ドルマゲス』と呼んでくれるんですか?」

「…そ…れとこれとは別問題です」



「──よろしくお願いします、お兄さん。」

「…ッ」

「サーベルト、どうかしましたか?」

「…い、いや…」

「(あー、妹属性が効いてるんですねー)」



どうも。長らく本編の内外で大暴れしていたユリマ氏もこれでようやくドルマゲスくんたちの仲間入りです。許されざる行いをいくつかした彼女ですが、基本的にドルマゲスとラプソーンが悪いのと、サーベルトとキラが神的にイイ人だったので受け入れてもらえました。

ちなみに初期構想ではこれが最終話の予定でした。でもこれだと主人公が誰かわかんなくなっちゃうので終わるに終われず、まだまだ続けます。相変わらず先の見通しは立っていないですが、竜神の里にはいくかな、いかないかなーって感じです。ではまた明日。
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