ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
なんか…全然話進まない!?サザンビーク編の二の舞にならないように、端折れるとこはどんどん端折っていきます!
ハロー、ゼシカ…もといラプソーン現着まで意外と時間があって胸を撫で下ろしている道化師ドルマゲスです。流石に呪われしゼシカが呪われしユリマをも凌駕するような能力を有しているとは考えにくいですが、いつもこちらの想定を悪い意味で上回ってくるのがラプソーンという存在。気を引き締めていかないとですね。
…
「…あっ、いたいた!サーベルト!師匠とキラさんも!」
俺はリブルアーチの武器防具屋付近でパトロールをしていた三人を見つけて駆け寄った。パトロールと言っても街を回りながら色々なものを見て回るだけの気楽なもの、言うなれば物見遊山である。
「やあ、ドリィ。ハワード氏には会えたのか?」
「会えました。…しかし話を聞いたところ、暗黒神に対抗するためにはどうやら『クラン・スピネル』という宝石が必要なようでして。今からその宝石を取りに行こうと思っているのですよ。」
「なるほど?それで、その宝石はどこにあるんだ?」
「はい。ええとその前に。…みなさん、いいですか?」
俺は雑談に興じていたユリマたちにも注目を促した。キラちゃんがユリマに見せているのは…石造りの文鎮だろうか、橋の意匠が施されていて超可愛い。お土産に買ったのかな?俺も後で覗いてみよう。
「ハワード氏から得た情報によると、ラプソーンがこの街に到着するのは明日の夕方らしいです。」
「…それでは、今はまだこの街は安全ということですね?良かった…」
「明日の夕方…意外に時間があるな。これはわしがわざわざ出張る必要もなかったか…?」
「ラプソーン到着の前に私はやりたいことがいくつかあるのですが、目的地が微妙に離れているので『分かれて』行きます。ですので皆さんも各々自分に必要な時間を明日まで過ごしてください。今日は早めに宿をとりましょう。」
「分かれて…ってドルマゲスさんは結局どこへ行くんですか?」
「『リーザス像の塔』、『剣士像の洞窟』、『ライドンの塔』ですね」
「!!!」
お、流石村一番のリーザス様信徒。俺が「リーザス像の塔」と口にすると、敬虔なサーベルトは素早く反応した。
「…い、今『リーザス像の塔』と言ったか!?あそこへ行くのか!?」
「はい、それも含めて明日お話しします。今日は…遅くなる前に明日の決戦に向けて休みましょう。サーベルト、休息もゼシカさん救出への大事な過程ですよ。」
「…ああ、俺もパトロール中に少し気持ちの整理がついたんだ。わかっているさ。…じゃあ、宿屋へ行こう」
サーベルトはいつもと変わらない笑顔を見せた。よし、これなら大丈夫そうだな。俺たちは日が落ちたばかりながら宿屋で軽い食事をとり、そのまましっかりと睡眠を取った。
…
「「「さて、行きましょうか!リーザス像の塔(剣士像の洞窟)(ライドンの塔)に!!!」」」
「どっ、ドルマゲスさんが…増え…!?」
「分身体とはこれまで何度か世話になっていたが、増えるところを見るのは久しぶりだな!」
「わしに至ってはトロデーンのあの一戦以来か。同じ顔が並んでいるというのはなんとも気色の悪い」
「「「師匠、流石に酷くないですか?」」」
「ええい、一気に喋るな!頭がおかしくなる!」
早朝、俺は時間短縮のために文字通り「分かれて」行動する旨を皆に伝えた。久々の『
「ドルマゲス様は凄まじいお方故、分身することなんて朝飯前なのです。ですが初めて目にしたユリマさんが驚かれるのは無理もないですよね。…私は慣れてますけど」
「ムッ!キラちゃんのくせに生意気ですよ!」
「い、いだい!ほ、ほっへをひっはらないでください~!」
「やめなさいやめなさい」
ユリマは重力を操ってキラちゃんの頬を引っ張っているのだろうか、傍から見れば透明人間に頬をつねられているかのようだ。詠唱無しであれほど細かなパワーコントロール…随分器用なことをする。
「どこも魔物の巣窟として知られる場所だが…お前は一人で行くのか?」
「そうですね、リーザス像の塔だけにはサーベルトに同行してもらいます。挑戦者が予め想定されている他二つと違ってあそこはリーザスの村の共有財産、私有地ですから。」
「今しがた町一番の富豪の家に侵入した輩がよく言う…」
「う…」
サーベルトキラちゃんとの3人旅をしていた時は二人とも俺を全面的に肯定してくれていたので、痛いところを突いてくる師匠がいるとどうしても調子が狂うな。別にそれが苦痛というわけではないんだけど。
「そ、その間、みなさんにはリブルアーチ地方で魔物のサンプルを集めておいて欲しいのです。もちろん用事があればそちらを優先してくださいね。サンプル集めの方法に関しては…キラさん、二人にご説明願えますか?」
「は…はいっ!任せてください!」
リブルアーチ地方には貴重なマシン系の魔物「アイアンクック」や摩り下ろせば「まりょくの土」に分解できる「ゴーレム」などが生息している。他にも未だ細胞を採取できていない魔物がたくさん!未開の地方は宝の山である。そしてキラちゃんはサンプル管理のプロ。おまけに最近のキラちゃんは俺より料理が上手になった。もし無人島になにか一つだけ持ち込むことができるとするなら、俺は迷いなく彼女を連れて行くだろう。そうすれば飢え死ぬ心配もなし、研究もし放題だ。そんな彼女に任せればきっと全てが上手くいく。
「ユリマと師匠もそれで大丈夫ですか?」
「都合よく利用されている気がして非常に気に食わんが、わし自身の研究にも繋げられるかもしれないのでしぶしぶ手伝ってやる」
「本当はドルマゲスさんと一緒にいたいけど、ずっとわがまま言ってると困らせちゃうので涙を呑んでしぶしぶキラちゃんに従います」
「二人とも正直で良いことですね」
…仲間が多い今、リーダーである俺にはある程度のスルースキルが必要とされてくる。だから、反応したら負けなのだ…!俺はツッコミを入れたい気持ちを抑えて笑顔で応えた。その後、集合場所などの細かい事項を取り決め、ラプソーンと鉢合わせる可能性があるサザンビーク地方サイドへは決して出ないように警告し、俺(たち)とサーベルトは出発した。目的地は「リーザス像の塔」、クラン・スピネルを頂きに参る。
…
─リーザス像の塔─
「…」
「…どうかしました?」
ガラガラと音を立てて回る木製の風車は、まるでそこだけが流れる時代から切り取られているかのような古めかしさを醸し出している。塔の前まで来ると、サーベルトは眼下に広がる草原を眺めてしばらくの間立ち尽くしていた。おそらく久々に帰ってきた故郷の地に降り立ち、郷愁に浸っているのだろう。…不躾だとは重々承知しているが、できるだけ早くリブルアーチへ戻りたい俺は声をかけて進入を促す。ゴメンね…。
「…ここから、小さくだがリーザスの村が見えるんだ。…村ではきっとポルクやマルク、母さん、屋敷のみんな、村人たちが今日も何気ない毎日を過ごしているんだろう。…俺やゼシカがいなくても」
「…」
「だから…だからこそ俺は動かないといけないんだ。村はポルクとマルク、そしてドリィ、お前のセキュリティサービスが守ってくれる。だったら俺は俺が救えるものを救いに行くだけ…それだけだよな。…悪い、待たせたな。行こうか!」
「ええ、行きましょう」
やはり、サーベルトの帰る場所はここなんだ。そう思うと少し寂しい気もする。ラプソーンの脅威が去れば、きっとサーベルトはあの村へ戻るのだろう。俺たちはトラペッタへ…あー、そう考えると一番可哀想なのは海も隔てているキラちゃんかもしれない。
まあ、ラプソーンをどうにかする前にその後のことを考えるなど笑止千万。まずはクラン・スピネルだ。アレが無いとゼシカからラプソーンを引き剥がせなくて最悪ゼシカが死ぬ。そしたらサーベルトの情緒が終わる。
「ん…っ。ふむ。この扉、押しても引いても開きませんね。サーベルトなら開けられますか?」
「任せろ。この扉は…っと、こうやって下から持ち上げるんだ。村民にしか伝えられない秘密だから、他の皆には言わないでくれよ?」
サーベルトはシャッターの要領で塔の入り口を開いた。転生者である俺は開け方などはもちろん承知しているのだが、この扉の開き方は「村民しか知らない」ことになっているので、便宜上サーベルトに開けてもらう必要があったわけだ。…しかし、分かってしまえばなんてことないとはいえ、「押す」と「引く」しかないこの世界の扉で「持ち上げる」という動作を必要とする扉、というのは心理の盲点を突いた面白い仕掛けだと思う。ウチのアジトの正門も同じ仕掛けにしようかな。
…
塔の構造を熟知しているサーベルトに案内してもらいながら俺たちは素晴らしい早さで最上階を目指して歩いている。というのも道中で今のところ一度も戦闘になっていないのだ。どうやら塔内にいた「かぶとこぞう」個体が俺とサーベルトの顔を覚えていたらしく、絶対に手を出すな!と塔に生息している魔物たちに触れ回っていたようだ。「ベビーサタン」や「おばけきのこ」なら煮込み鍋にしても良かったんだけどな。せっかく『トヘロス』使わずに歩いてたのに。
「…それで、なぜクラン・スピネルがリーザス像の塔に?宝石の持ち主はリブルアーチのクランバートル家なんだろう?」
「これには深いわけがあるそうですが…まあ簡単に言うと、リーザスの村の礎を築いたリーザス・クランバートル…つまりサーベルトの敬愛する『リーザス様』その人ですが、彼女は元々リブルアーチに住む賢者の末裔でした。しかしこの地方を訪れた時にアルバート家の領主様と駆け落ち、姓がアルバートになったわけです。」
「では…『サーベルト・クランバートル』というのは、俺やゼシカのルーツがリブルアーチにあることを示していたわけか。」
「そうなりますね。…リーザス様は多彩なお方だったそうです。七賢者の一人『魔法剣士』シャマルの末裔の名に恥じぬ剣と魔法の才能を持っており、加えて彫刻の才能にも秀でておられたそうで、リーザス像の塔は彼女が建築したとも言われています。」
「あっ!それは俺も知っているぞ!半ば神話化した伝承だと思っていたが、改めてドリィの口からそれを聞くと本当の話にも思えてくるな。…というより、ドリィはなんでそんなことを知っているんだ?」
「ひみつです☆」「流石はドリィだな!」
リーザスは確かサーベルトやゼシカの直系の先祖で、俺の記憶が間違っていなければ「ひいばあさまのそのまたひいばあさま」…つまり六代前の人間だったはず。数世紀前のことなんてほとんど神話と変わりはない。
「そして彼女は生涯最高の出来となった自身の像に時を忘れるほどの美しさを持つ魔石『クラン・スピネル』を埋め込みました。…何のことだか、サーベルトならお分かりで?」
「…!それがリーザス像…!まさか、クラン・スピネルとはリーザス像の御眼のことなのか…!?」
サーベルトの目が驚愕に見開かれる。俺はあえてそれを見ないふりをして階段を一番上まで駆け上がった。
「そういうことです…と、最上階に着きましたね。案内ありがとうございます。」
暗くてじめじめした塔内とはうって変わり、最上階には優しい日の光が差し込み、全く出どころが分からない美しい水が流れる、不思議で居心地の良い場所となっている。そして微笑みを湛えて最奥に鎮座しているあの彫刻こそがかの「リーザス像」…リーザス・クランバートルの最高傑作だ。
「…どうするか、しかし…ああ!俺はどうすべきなんだ…!」
「…。(さあ、こっからは賭けだな…)」
…さて。予想通りサーベルトは葛藤している。自身の信仰と妹の命との間で揺れているのだ。
信仰とは、何らかの行動を求められたときのみ姿を現すものではない。証拠が無くとも、何かを信じるためにまず必要なものこそが信仰なのだ。まずは信じなさい。さすれば其方に心の安定を。確固たる拠り所を。…それが信仰である。『背信』とは、周囲から非難されるだけでなく、自身の穏やかな心の平穏を破壊する行為でもあるのだ。
「…サーベルト、今まで黙っていてごめんなさい。ですがきっと昨日のうちにこのことを話せば、サーベルトはここへ来ることを渋っていたでしょうから…ゼシカさんを救う結界を作るためにはどうしてもリーザス像の御眼を取り外す必要があるのですよ…」
「…頭では分かっているんだ。しかし…。俺の心はいつだってリーザス様に支えられてきた…ッ!それを裏切るような事を…くっ」
「サーベルト…」
「…ドリィはいいだろうさ、君には『信仰』が無いんだから」
「!」
あらま。サーベルトが俺にこんな棘のある言い方をするとは。ちょっと驚いた。
…俺とて信仰に理解が無いわけではない。誰かの信心をバカにするような真似はしないし、誰かが敬意を持つ者に対しては俺も敬意を払うように努力はしている(暗黒神は除く)。しかし、いくら理解があるといっても、俺は信者ではないのだ。「理解があって」も「理解している」わけではない。
つまりどういうことかというと、信仰に関して、信者でない俺が信者であるサーベルトを説得するのは非常に難しいということだ。これに関してはもう仲が良いとか良くないとかの問題ではない。
「…わ、悪い。俺は君になんてことを…ああ、最低だ」
「気にしないでください。『信じる』ということは本来とても素晴らしい事なのですよ。」
しかし皮肉にも、『信』が集まるとそこには不和が生まれる。相反する『信』同士は激突し、信あるものは信なきものを蔑む。これも知性体の面白い点であり困った点なのだ。
「…」
「…」
像の両目に輝く美しい二つの宝石は、流れる水が照り返す太陽光を受けてキラキラと輝いている。俺はチラチラと像に目をやりながら苦悩するサーベルトを見守っていたが、何も起こらない。
「(…早く出て来てくれ~)」
もしかして、俺がいるからダメなのだろうか?サーベルトを連れてきたけど、それでもダメ?ねぇリーザス様?
「…ドリィ、少し外の空気を吸いに行ってもいいか?」
「…ええ、もちろん」
最上階は吹き抜けなのでここはほとんど外みたいなものだが、サーベルトが言いたいのは場所を変えて気分を変えたいということだ。このまま待っていても徒に時間を使うだけなので、それでサーベルトの気持ちが変わるのなら…。そう思い、俺が像に背を向けた瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。
──お待ちください。勇気ある旅人、そして私の愛しい子……。
「だっ、誰だ!?誰か俺たちの他にいるのか!?」
「…これは」
あー、よかった…これで多分何とかなる。俺は胸を撫で下ろした。
──私の名はリーザス……。はるか遠き昔にこの世界を生き、この像を生み出した者です。
「サーベルト、どうやらこの声はリーザス様の像から聞こえてくるようです。」
「…では、この声の主は…リーザス様!?た、確かにお告げの時と同じ声…」
俺とサーベルトがリーザス像に注目すると、うっすらと人型の靄が出現した。靄は次第に濃く、輪郭を定めていき、ものの数秒で完全な像を結んだ。浮かび上がったのは腰まで届く長い髪と薄紫色のローブが特徴的な美しい女性…彼女こそがサーベルトのご先祖様、リーザスおばあちゃんである。
──まずはそちらの旅の方、私の近くへ……。
「…え?私ですか?」
満面の笑みを浮かべる彼女は何故か俺をご所望のようだ。…その笑顔が貼り付けたもののように見えるのは気のせいだろうか?俺は未だ混乱中のサーベルトに断りを入れ、リーザス様の霊体に近づいて耳を傾ける。
「ええと…リーザス様、お初にお目にかかります。ワタクシ、道化師のドルマゲスと申します」
──では、ドルマゲスさん、もう少し近くへ……。
もっと近くに?俺は更にもう二歩踏み込み、ほとんど耳打ちのような格好でリーザス様の続く言葉を待った。
──アンタ…
うわ耳くすぐったい。持ち前の美貌と透き通るような声が相まって少し変な気分になる。まさかドラクエ世界でASMRを経験することになるとは。…しかしそんな俺の余裕も次の瞬間
──何してくれてんのよ!アンタが私のこととか賢者のこととか全部言っちゃうから、私の話すことなくなっちゃったじゃない!!!!
「!?!?!?」
ギイイイイィィィン……と脳内に衝撃が走る。俺にその時何が起こったかは単純明快、
何をされたかはわかった。でも…
「な、なんでそんなことするの……」
「ドリィ!?おい!大丈夫か!ドリィ!」
──後で話は聞いてあげるから、しばらくそこで寝てなさい!
確かにお株を奪ってしまったのは悪いと思うが、そんなに怒ることだろうか…俺の脳は音の波による激しいシェイクに耐えられず、そのまま俺は意識を失った。
…
「…れ…起きてくれ!」
「んぁ…サーベルト…」
そうだ。俺はそこの幽霊BBAに怒鳴られて気を失ってたんだった。こうして言葉にすると何とも情けない字面だ。しかし…ううん、まだ耳が痛い。
──起きましたね。さて、ドルマゲスさん、サーベルトから状況は全て聞きました。クラン・スピネルは持っておゆきなさい。これが助けになるのでしょう……?
は?え?なかったことになったの?さっきの俺への仕打ちは?
──ああ、先ほどのことはごめんなさい。それで……
そんだけ!?…いや、もういい。これ以上拗らせたくない。
原作では芯の強く、礼儀正しい女性というイメージしかなかったリーザス様だが、なかなかどうして我儘で苛烈…。
…ああ、それもそうか。彼女はサーベルトのご先祖様であると同時に、あのゼシカのご先祖様でもあるのだから。そう考えると妙に納得がいった。
クラン・スピネルやゼシカ、ラプソーン云々のことは既にサーベルトがリーザス様に話してくれたらしい。そしてサーベルトも、信仰先のリーザス様自身がクラン・スピネルを持って行っていいと言っているので文句はない。サーベルトには
──うるさいですね。そもそも私はあなたが魔の者だと思っていたのです。だからあなたと賢者の末裔ライラスがリーザスの村へ来る際、サーベルトにお告げをしたのに…これじゃ賢者の面目丸つぶれですよ。さっきのはその八つ当たりもあるのです。
「もしかしてリーザス様…私の心、読まれてます?」
…正確に言うと、今のリーザス様は霊体ではない。魂はとっくの昔に成仏しているのだから。今の彼女はリーザスの村民からの信仰から生まれたエネルギーを、自身を模した像に宿らせて存在している「リーザス・クランバートル」の残滓…思念体のようなものだ。今の彼女は幽霊よりむしろ神や精霊に近く、であれば相手が今何を考えているかくらいは察知できてもおかしくはない。
──そういうことです。なのであなたが私を「リーザスおばあちゃん」なんて呼んでたのも知ってます。さっきのはその復讐でもあるわけですね。
「…。」
どうやら俺は知らぬ間に彼女の地雷をいくつか踏んでしまっていたようだ。でもそれにしたって八つ当たりで気絶させるのは酷くない?
「リーザス様、それくらいにしてあげてくださいませんか。ドリィがいなければ俺…私はきっと今貴方様とこうして会話することはできなかったでしょう。私は彼に本当に感謝しているんです!」
──……。まあ…サーベルトがそう言うなら。私の愛しい
「はい、リーザス様?」
俺はリーザス様の言葉を待った。…もちろん十分に距離を取って。
──私はあなたに感じた魔のチカラが誤りだったとは思っていません。何かが違えば、私の目の前であなたがサーベルトを殺していた未来さえあったと、そう思っています。
「…。」
リーザス様にそう言われて、俺の脳裏に浮かぶのはあのシーン。原作ドルマゲスが殺人を犯す様子が初めて描かれたイベントである。ああ、あの時もサーベルトはリーザス様の前で…そしてドルマゲスに…。
──しかしサーベルトからあなたの話を聞きました。あなたはサーベルトの精神的な支えになり、ゼシカの旅を陰ながら見守って手助けしていると。世界を救うために必死で奔走していると。
「サーベルト…」
サーベルトはうんうんと頷く。サーベルトは俺を誰かに紹介するとき、俺をめちゃくちゃ褒めるきらいがある。決して悪い気はしないのだが、ちょっと恥ずかしいな。
──……そして、将来はアルバート家へ婿へ入ると。
「…サーベルト?」
あー。あとサーベルトは俺を誰かに紹介するとき、ちょっと誇張する悪癖もある。こっちは普通に…こういうことになると困る。サーベルトは茶目っ気のある笑顔を俺に向けてくるが、俺にとってはその隣、ジト目で睨んでくるリーザス様の視線の方が気になる…。
──まあいいです。今は時間が無いのでしょう。改めて、このクラン・スピネルを持っておゆきなさい。私にとってはクランバートル家もアルバート家も大事な家族…アルバートの血を持つサーベルトを、ゼシカを……。よろしく頼みましたよ。……ドルマゲスさん……。
「…任されました。リーザス様。必ずゼシカさんを救い出してみせます。サーベルトも守り通します。」
──じゃあね、サーベルト……。私はいつでも村の皆を見守っているから…次のお祭りの日、またゼシカとアローザと、三人で会いに来て……。
「はいっ、リーザス様…!私はきっと今日のことを忘れません…!きっとゼシカを助けて、今日のこと、貴方様のことを伝えてみせます!」
サーベルトがそう言って笑いかけると、リーザスおば…お姉様もまた笑って応える。その表情は強さと優しさを兼ね備えた、まさに親が子へ向ける顔だった。リーザス様の思念体はまた靄となって霧散し、石像の眼に埋め込まれていたクラン・スピネルが剥がれ落ちた。サーベルトは傷がつかないよう地面に落ちる前にキャッチし、俺に差し出す。
「さあ、受け取ってくれドリィ!これでゼシカを助け出すんだ!」
「…ええ!!」
さあ、これで結界が作れるぞ。戻ったら分身たちと合流して、クラン・スピネルとビーナスの涙をハワードに渡して、ハワードの愛犬レオパルドを監禁して、それから…。俺がそんなことを考えながら赤く輝く一対の宝石を受け取ったその瞬間、懐の
「!」
キラちゃんからだ。…何か、あったのだろうか?
思えば、どうして原作ラプソーンはリブルアーチでチェルスを狙った際、勇者に見つかっただけでその場を退いたのだろうか。勇者を相手にしながらでもチェルスは狙えるだろうし、チェルスだけを最速で殺して撤退することもできたはずだ。
…まあ、夢のない言い方をしてしまえば、これが『都合』というやつなのだろう。
そして、この世界はそんなに『都合』よくできてはいない。「無駄」は最も唾棄される。
俺は急ぎこそすれ、時間を浪費したつもりはなかった。
ハワードも決して嘘をついていたわけではないだろう。
しかし、誤算があった。占星術とは「星の動きから未来を予測する術」。しかし逸脱者たる俺の影響で『星の筋書き』が乱れ、闇の遺跡で力を蓄えたラプソーンを、星は正しく観測することができなくなってしまっていたのだ。
結果、原作では的中していたハワードの占星術に誤差が出てしまった。
そして思い込みによる見逃し。闇の遺跡でラプソーンの云っていた『準備』とは何も自分の肉体を最適化すること
誤算は伝播する。蝶の羽ばたきが地球の裏側にまで影響を与えることがあるように。
終ぞ誰も見抜くことができなかったその誤算は、おおよそ考え得る最悪の事態…
「チェルスの死亡」
「リブルアーチの崩落」
…そして俺、「ドルマゲスの失踪」という状況を招くことになってしまった。
本編は凄い終わり方になってしまいましたが、後書きはいつも通りのノリで行きます。
サーベルト・アルバート
レベル:59
暇さえあれば鍛錬を繰り返し、着実に剣神へと近づいている剣士。なぜかユリマからライバル視されている。本人曰く「魔法の才はゼシカに受け継がれた」らしいが、『ベホイミ』『スカラ』『ピオラ』『バイキルト』など基礎補助呪文に加え、『マジックバリア』『ディバインスペル』『フバーハ』などの特殊な補助呪文も覚えている。当たり前だが『メガンテ』や『メガザル』の使用はドルマゲスから固く禁じられており、本人もドルマゲスと固く約束したため使うつもりはない。
・リーザス・クランバートル
サーベルトの6代前の賢者。魔法・剣術・芸術に秀でた名家クランバートルのお嬢様。顔立ちも良い上にナイスバディで真っ直ぐな性格という天から与えられたものが多すぎる女でもある。何もなかった平原に塔を作り、人を集めて村の礎を作った。自身の彫った彫刻を偶像とし、そこに集まる信仰を依代に死後も思念体として現世で子孫たちを見守っている。
アローザやゼシカを見るに、二人のあの苛烈な性格はおそらく遺伝、であればリーザス様も実はあんな感じなのでは…と思いました。原作リーザス様は、訪問してきたのがなんのしがらみもないエイト・ヤンガス・ククールだったので余所行きの性格で対応しましたが、今回は直系の子孫とめっちゃ疑ってた男が来たのであんなフランクな感じになりました。お淑やかなリーザス様が好きな方には申し訳ありませんでした。
リーザス様のお告げについて
リーザス様は何もイシュマウリのように運命が円環のように廻り続けているとか、そういうことは知りません。ただドルマゲスとライラスがリーザスの村に来たことで「なんかちょっと想像と違うな…」くらいには感じていたんじゃないでしょうか。信仰のチカラで人間として一段階上の存在に昇華されたリーザス様には、原作の流れがうっすらと見えていたのかもしれません。
明日は1000字ちょっとの番外編を投稿できたらいいなと思ってます。今回がだいたい10000字なので、10分の1くらいのボリュームでしょうか。頑張ります。