ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
『
…
「ここが…」
「では、私たちはある程度魔物のサンプルを採取したら、先にリブルアーチへ戻っていますので」
「ドルマゲスさん!いってらっしゃーい!!」
「…さっさと行って戻ってこい」
「みなさんに手伝って頂けて嬉しいです。キラさん、その『
俺は大きく手を振るキラちゃんたちに手を振り返し、ライドンの塔へ飛んだ。開門に必要な「石のつるぎ」も、空を歩ける俺にとっては無用の長物である。
…
「ゼェ…ハァ…た、高すぎ…」
…いくら宙に浮くことができるといっても、なにもスーパーマンのように飛び回れるわけではない。上へ上へと移動するにはやはり歩行に相当するプロセスが必要であり…とどのつまり普通にしんどい。道中では「メイジキメラ」の集団に絡まれたが、そのうちの一匹の首根っこをひっつかんでボコボコにし、羽を全部毟って「岩塩」を皮膚に擂りこんでやると、以降は誰も俺にちょっかいを出さなくなった。
「あ~…やっと頂上に…着いた~…!」
ライドンの塔11F、地上から100mはゆうに離れているであろう最上階に俺は転がり込んだ。火照った体にひんやりとした大理石の床が気持ちいい。…ずっとこうしていたいところだがあまり時間もないので、俺はしばらく息を落ち着かせると、脚に「きつけ草」で作った湿布を貼って重い腰を上げた。
「…えーとライドンさんは…ああいたいた」
ライドンの塔の建設者(絶賛建築中)であるライドンは最上階の中央で大岩を彫っていた。内部面積だけで言えばアスカンタ城の数倍はあるこの巨塔は、あの小男がたった一人でここまで築き上げたものなのだ。彼は「天才彫刻家」なんて通り名で呼ばれているようだが、もはや「天才」でくくってしまってよいのか不安になるほどのずば抜けた才能である。その建築技術、ぜひうちに欲しい!ということで今回こうやって勧誘に来た次第だ。
「ハーイ!ライドンさんですよね?」
「ぬおっ!?なっ、なんだおめえ!いつの間にここまで登ってきやがったんだ!?」
「私は…ドルマゲスと言います!今日は貴方をスカウトしに来ました!」
一瞬
「……スカウトだァ…?そもそもおめえ、どっから登ってきた?わしが見た時には誰もいなかったはずだぞ!」
「空から登ってきました」
「…は?」
「ほら、こう…こうやってですね…ほいほいほいっと」
俺はパントマイムの様に何もない空に手を掛けて登ってみせた。目の前で人間が浮くのは初めてだったのだろう、ライドンは目を丸くして驚いている。
「…おめえ…じゃあまさか、塔に入らないでズルして登ってきたってわけか!?ああ!?」
「…塔の作者である貴方がそう仰るならズルなのかもしれませんが…私もここにくるまでめちゃくちゃ苦労したので、楽をして登ってきたつもりはないです。」
ライドンの凄みにも屈せず、俺はあくまで強気に対応する。職人
俺たちはしばらく睨み合ったのち…突然ライドンが我慢できないという風に吹き出した。
「……うはははは!なるほど、空から…とは盲点だったわい!わしにはおめえみたいな自由な発想がいつの間にか抜け落ちてたみてえだな!」
ライドンは豪快に笑うとこちらに向き直り、手に持った金づちを置いてコキコキと手首を鳴らした。
「やい若造!気に入ったぞ!そうとも、わしが彫刻家のライドンだ。お前さん、さっきわしをスカウトするだなんだとぬかしていたな?聞くだけ聞いてやる、話してみろ!」
よっしゃ、ライドンはとりあえず話を聞いてくれるようだ。これで「ちゃんと塔を登ってこない奴は話にならん」とか言われてたらもう時間的に諦めてた。気分屋のライドンの気が変わらないうちに早速交渉に入ろう。
…
「ふん、なるほど。ドルマゲス…お前さんの依頼内容はわかった。要はお前さんとこの施設の建築を手伝えってんだな?」
「はい。ライドンさんは自由に建築していただいて。こちらではその様子をウチの従業員に見せ、技術交流を行いたいのです。」
「はんっ、生意気なのは嫌いじゃあねえ。わしの技術が見て盗めると思っているなら好きなだけ見ればいいさ。生憎、見ただけで盗まれるような貧相な技術をわしは持ちあわせてないがな。…だがそれは
「…理由をお聞かせ願えますか?」
何となく想像はつくが、念のため聞いてみる。
「他ならぬわしが気に入った若造だ。お前さんの頼みは聞いてやりたいところだが、見ての通りわしは仕事中で、この塔はまだまだ未完成!コレをお前さんみたいな奴でも頂上に辿り着けないほど高い塔にしてやるまで、わしは他の場所には行けん!うはははは!」
ライドンは地面に置いていた金づちをもう一度手に取った。暗に話はこれで終わりだということを言いたいのだろう。…思った通りライドンにはここを離れる気が無い。「貴方の息子が帰ってこいと言っていましたよ」などと言っても多分動かないだろう。もはや塔は彼にとって生きがいそのものなのだ。…であればこういう提案はどうだろう。
「では、報酬の話なのですが…」
「…もういいだろう?わしは金になんて興味はない。さあ行った行った」
「私たちに協力してくれた暁にはこの塔に必要な建材をすべてこちらで用意する、というのはどうでしょう?」
「!」
「私たち『U.S.A.』はアスカンタ王国と提携している…という話は先ほどしましたね?切り立った崖や森の多いアスカンタ国領からは上質な石材や木材が生産できるのですよ。それを見返りとして譲渡しましょう、この塔が完成するまで」
「…そ、れは…」
おお、揺れてる揺れてる。いくら金に興味が無いと言ったって、やはり人間。無欲というわけではない。塔を建設するにはやはり金と時間と手間がかかるのだ。
「継続的に食事もこの塔に配給しましょう」
「…ほう…わざわざ家に食料を調達しに行く必要が無いわけだ」
「建設者のみが建設中にだけ使用できる昇降機を設置しましょう」
「…上り下りが格段に楽になる、か」
「そして私たちU.S.A.のデザインはこの世界のどれにも当てはまらない独創的なものなので、きっとライドンさんにとっても良い刺激になると思います。あと今なら腰痛によく効く湿布もお付けしますよ」
「…乗った!口の上手い奴め、そこまで言われちゃあお前さんに付いていかないのは圧倒的に損だな!うはははは!…いいだろう。このわし、彫刻家ライドンがお前さんのとこの施設をこの塔に次ぐ世界で二番目の建築物にしてやる!」
「あ、ありがとうございます!」
よかった、交渉成立!やはり自分の知らないデザインというのは、芸術家にとってやはり魅力的に映るようだ。俺の出せる条件がライドンのお眼鏡にかなったようで何よりである。
「ははは…よし、なら早速連れて行け!…と言いてえところだが、この塔をこのままにはしておけねえな。意外なことにここに住み着いてる魔物の大半は温厚なんだが、そこはやはり魔物、狂暴な奴もいるにはいる。すでに完成した階層でいくら暴れられたところでわしの塔は微動だにせんのだが、未だ建設中の最上階はちぃとばかり不安だ。どうしたもんか…」
「ふむ、それでしたらこの子を番犬として置いておきましょうか。」
俺は『
「こ、コイツは…!?」
「まあ、簡単に言えば人造モンスター…とでも言いましょうか。…ほいほい、ぴっぴっぴっ…と。これで塔の最上階に何者かが侵入したら撃退するプログラムを打ち込めましたよ。ライドンさんの顔は今認証しましたので大丈夫です。」
「こんなおっかねえバケモンを…お前さんが作ったってのか…?」
「はい。こんなのがあと3体はいますよ」
俺は基盤の蓋を閉じ、肌触り滑らかなブラックボディを撫でた。つい最近メンテナンスの終わったばかり、キラちゃんのアイデアと量産出来た「オリハルコン」も盛り込んで更に強化された
「く…くく…」
「?」
「お、おもしれえ!!わしも短くない時間生きてきたが、そんな姿をした魔物は見たことが無い!そんなとんでもねえのがお前さんの拠点にはまだいるってのか!?俄然やる気になってきた!」
「…それはなによりです!」
思わぬところで好印象。このカッコよさに感動してくれるライドンさんにはぜひウチのアジトにある現代住宅を見て更に腰を抜かして欲しい。
「よし、そんなら塔の心配はねえな。だがそっちに行く前に一度リブルアーチに寄らせてくれ。うちのせがれたちにも一言言ってやらねえと、後が怖いからな。」
「ええ、もちろんで──」
その刹那、俺の脳にズキリと痛みが走る。
「痛ッ」
「?」
「…ッ!!!」
俺の全身がぞわぞわと粟立つ。体の熱は一瞬で引き、しかし額には汗が浮かぶ。
「なんだ?どうしたんだドルマゲス」
「す…みません、…ああヤバ、少々マズい事態に…ら、ライドンさん、落ち着いて聞いてください」
この脳の痛みはこれまでも何度か感じたことがある、細い神経を千切られるような短く、しかし鋭い痛み。これは
「(消されたのは…『剣士像の洞窟』に向かった俺…消えた場所は…リブルアーチ…ああ、最悪だ)」
「ど、どうしたってんだ?」
「……どうやら現在、不明な勢力によってリブルアーチが襲われているようです」
「な…なんだと!?」
「私は今から『戻ります』。ライドンさんはリブルアーチ以外の安全な場所で待機しておいてください」
「そんなまさか…おい、わしの家族は!」
「大丈夫、ライドンさんの家族も、街の人たちも全員助け出します!…ごめんなさい、私はこれで!」
俺は自身に掛かった『
昨日は1000字ちょっと…なんて言っていましたが、結局4500字も書いてしまいました。…すぐ長くなっちゃうんだから!
完全体自律戦闘人形(リアルオートマター)
従来の試作自律戦闘人形を、「オリハルコン」や「せかいじゅのしずく」などの希少なアイテム、さらに多様な魔物の細胞を組み込んで大幅に強化した兵器。安全性も向上した。その実力たるや作り手のドルマゲスですら単騎では敵わない。ただ燃費は悪い。
初号機『煌星(キラリン)』
かつてモグラのアジトやパルミド地方で大暴れした初号機『踊り子(バイラリン)』の生まれ変わった姿。ベルガラックでの呪われしユリマ戦でズタボロに破壊された時の反省を活かし、巨体ながら俊敏な動きが可能になっている。ドルマゲスが「キラさんとの合作だから…」とこの名前を提案した際、キラは猛烈に反対したのだが、結局ドルマゲスがこの名を気に入ってしまったためそのまま押し通された。ふざけた名前に反し、『ボミエ』重ね掛けからの四刀流剣術の凶悪さは健在であり、「やみのころも」を金属加工して覆われたボディは夜だと姿が見えなくなるという特性を持つ。全然煌めいてない。