ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
寸前で魔王を取り逃がしたものの、無事に闇の遺跡から生還した一行。しかしディムに続き、今度はゼシカがパーティーから姿を消してしまう。一行は一時的に人間に戻ったミーティア姫の証言を頼りに、サザンビーク城の北にある橋の町リブルアーチを目指して進むのであった。
…
「姫様はああ言ってたが、案外一人でリーザス村に帰っちまったのかもな。何も言わずに出てったのは別れが辛いからとかさ……。…うーん、ゼシカに限ってそんなのあるわけないか。」
「どうだろうね…。」
ククールは矢じりに付着した魔物の体液を拭き取りながら呟いた。いくらゼシカが抜けて三人パーティーになったとはいえ、彼らは全員がレベルが30を超えた猛者。そう簡単に後れを取ることはない。
「宿屋で待ってりゃあ、ひょっこり帰ってきたりしないでがすかね?」
「うーん、それこそないんじゃないかな。ゼシカが僕たちに何も言わずに出て行くなんて、いくら何でも不可解すぎるよ。」
「するってぇと、やっぱむさい男ばっかのパーティーがイヤになったとか……。」
「安心しろ。このオレがいる限り断じてそれはない!」
「これ!誰よりも麗しいミーティアを忘れるでないぞ!!」
「はは…」
ヤンガスもククールも暢気そうにしているが、それも全て立て続けに異変が重なって疲労しているパーティーを勇気づけるため。それを分かっているエイトは何も言わない。
「オレとしちゃ、院長に頼まれたからお前らについてきただけで、もともとこの旅にさほどやる気があったってわけでもないんだが…ディムの飯も食えねえし、ゼシカがいなくなったんじゃテンションが下がりっぱなしだ。ハッキリ言ってもうマイナスだな。」
ヤンガスはククールの言葉を聞いて少し思案に耽る。ディムの扱いについて、未だこのパーティーでは方向性が定まっていないのだ。敵か、味方か、それ以外か。
「ディムね…兄貴、ディム…いや、ドルマゲスについてなんですがね──」
その時不本意にも、ヤンガスに重なるようにトロデが叫んだ。
「な、なんじゃアレは!?関所が……!?…お、おお、すまぬなヤンガス。で、ドルマゲスがどうしたのか?」
「何か考えがあるの?」
「…いいや、いいでがす。こういう話はゼシカを取り戻してからにしやしょう。それより、今はあの関所でがす。兄貴、あの関所の破られ方を見てくだせえ。…異常でがすよ」
「…!」
トロデがヤンガスの話を遮ってしまったのも、あの関所の惨状を見れば仕方ないと言えよう。一行が目線の先に捉えたのは、明らかに普通ではない手段で破壊された関所の門。鉄の柵は様々な方向にねじ曲げられ、目にした者を恐怖に誘う…これは魔界の芸術品、そう説明されても納得できそうな禍々しさがある。
「…ヒュー…誰だが知らねえが助かるぜ。門をこじ開ける手間が省けたんだ……なんてな。…ちっ、こんな芸当ができるのは…」
「まさか…『魔王』!?」
「そ、そんなことが…」
「…てことはなんだ?ゼシカは一人で魔王にリベンジを挑みに行ったってのか?……おい、それは…流石に無茶が過ぎるぜ…」
「ど、どうやらうだうだ言っていられる状況じゃあなさそうじゃ。急ぐぞエイトよ!気を引き締めてゆくのじゃ!」
「はい!」
今にも地面に落ちてきそうな曇天の下、一行はリブルアーチへ向かう足を速めた。
…
─リブルアーチ─
「たっ、助けてくれぇ!」
「俺の作品が!」「あんた!命の方が大事だよ!」
「なんでっ!?なんで私たちの街に魔物がいるの!?」
街は騒然としていた…というより半ばパニックに陥っていた。それもそのはず、町中に魔物が跋扈しているのだ。もちろんトラペッタやアスカンタとは違う、人間に対し敵対的な存在としての
「こ…れはなんたることじゃ…」
「魔物が街を…?しかもあっちじゃあ魔物同士で殴りあってやがる…」
「…!王様!姫!危ないッ!」
馬車の背後から忍び寄るは
「なんなんだ…!?こんな魔物、見たことが無いでがす…」
「しかも単体じゃ大したことないとはいえ…弱かねえぜコイツ等ッ!」
見る者全てに不安を抱かせる実体のない悪魔「シャドー」を『バギマ』で追い払いながらククールも距離を取った。
「くっ…ゼシカを探しに来たはずなのに…!この街に一体何が…?」
『──!…──ます!…──ください!』
「兄貴!向こうに誰か…」
「うん!行こう!」
襲い来る魔物たちを粗方対処し終えたその時、魔物のおたけびに交じって近くから少女の声が聞こえてきた。エイトたちは瞬時に声のした方向を向く。人がいる。襲われているなら助けねば。トロデの周りに魔物がいないことを確認するとすぐに走り出したエイトたちだったが、角を曲がった先で思わずその足を止めた。
「…ッ!こ、こりゃあ…」
「…このデカブツは…どっかで見たことがあるな。確か、アスカンタ王国だったか…?」
『皆様!落ち着いて行動してくださーい!我々は、この魔物は味方です!ゆっくりと、落ち着いて、この街から避難してください!まだ家の中におられる方は安全に気を遣いながら、だいじなものをまとめて表に出てきてください!繰り返します!現在、避難誘導を行っています!皆様、落ち着いて行動してくださーい!』
眼前に君臨するはいつかの日に見た「巨大なキラーパンサー」。未来国家アスカンタとの癒着が仄めかされている『U.S.A.』なる胡散臭い組織、その使者であるキラの使役する魔物である。無害をアピールするのが目的なのか、頭に大きなピンクのリボンをつけたキラーパンサーを中心に、おそらくこの街の住民たちだろう、何十人もの人間たちが寄り集まって震えていた。
「これは、どういう…」
「おい、お前たち。
「ん?あ、ええと…」
呆気にとられるエイトたちに話しかけてきたのは一人の男。白い髪と白い髭が特徴的な老人である。気難しそうな老人を前にエイトたちがまごついていると、ガタンガタンと鳴る車輪の音と共にトロデが遅れてやってきた。
「エイトや、ワシらを置いていかんでくれ~…」
エイトたちの肩越しにトロデを視界に入れたその瞬間、エイトたちを訝しがっていた老人の目が大きく見開かれる。
「とっ…まさか、そこにいらっしゃるのはトロデーンの君主、トロデ王ではありませんか!?」
「おうおう、ワシこそがトロデ…って!?この姿をワシと見抜けるとはお主、何者じゃ…!?」
「おっさん、このじいさんと知り合いでがすか?」
「んん、むむ…?」
「…ハァ、私の方は二度お会いしたことがあるのですがね。」
「…!?!?いや、そんな、ま、まさか…」
トロデは老人をまじまじと見つめていたが、何かに思い当たったのか、びくりと肩を震わせた。
「王、やはり魔物の姿に…であればお前たちが『勇者』だな?良いところへ来た。よく聞け。この階段を上った先に大きな館がある。この町一番の富豪の家だ。そこに先刻お前たちの仲間の女が押し入った。今は我々のセキュリティサービスが迎撃しているが…それも風前の灯火、今に破られるだろう。我々は見ての通り避難誘導と魔物の撃退で手が離せん。街に発生した魔物たちはこちらに任せて、お前たちは可能な限り急いで元凶の女を止めてくれ」
「な…いや、待て待て、状況が…」
「そうでがすよ。アンタはなんでアッシらのことを?」
「本当に僕らの仲間が…ゼシカがそこにいるんですか?ここの魔物たちは一体どこから?」
「……二度は言わんぞ、さっさと行け!!!」
「…っ!」
老人の気迫に、エイトにククール、豪胆なヤンガスでさえも思わず口を噤んでしまう。
「や…ヤンガス、エイト、ククール。行くのじゃ。ワシも何が何やらじゃが…確かにワシはこの男を
「おっさん…」
「…よし行こう二人とも!ゼシカを止めるんだ!」
「…お前がそう言うなら、行くとするか」
「あ、兄貴~!置いていかないでくだせえ!」
まだ軽く混乱していながらも、今はかなり切迫した状況だということはエイトたちにもわかる。トロデがこの老人は信用に値すると断言した以上、自分たちがそれ以上その場にとどまり続けるのは不毛、かつ悪手。瞬時にそう判断したエイトはヤンガスとククールを連れて階段を駆け上がっていった。
「…。」
「…おぬしは死んだ、ドルマゲスに殺されたのではなかったのか…?『マスター・ライラス』よ」
「……。ではここにいる私はさしずめ肉を着た幽霊ということですかな?…はて、生身の人間と何が違うのやら。」
一度はトロデを見て驚愕を露わにした老人だが、今はもう元の憮然とした表情に戻っている。
「おぬしのことも気にかかるが、今はこっちじゃ!この街に何が起きておるのか!?誰がこんな恐ろしいことを…!」
老人は、慌てふためくトロデを見て、誰にも聞こえないほど小さな舌打ちをし、呟いた。
「『世間知らずの高枕』とは、昔の人間もよく言ったものだ。…元を辿れば誰のせいでこうなったのかも知らないで」
「…王よ、今は民間人の避難を優先すべきです。先ほどのお言葉、確かに聞かせていただきました。ご協力感謝いたします。」
「う、うむ。して、ワシは何をすればよいのか?」
「私と、あそこにいるキラが魔物から警護いたしますので、王は民間人たちを連れながら北上し、北口から街の外へと誘導してくだされ。黒い魔物は全て敵、それ以外の魔物は全て味方なのでお間違いなく…では」
それだけ言い残すと、老人は俊敏な動きでトロデの前から消えた。程なくして近くで轟音と共に橙の閃光が迸る。おそらくは『ギガデイン』、先ほどの老人が放ったものだろうか。
「ひっ!」
至近距離で響いた雷鳴に頭を抱えて蹲ったトロデだが、おそるおそる顔を上げると、その眼にはリブルアーチの住民たちの不安そうな顔が映った。泣く少女、子を抱きしめる親、困惑する青年、自棄を起こし叫ぶ女性、今にも殴り合いを始めそうな男たち…
「…!」
そう、トロデ含め皆が不安なのだ。巨大な魔物を乗りこなし、拡声器を使って住民を誘導しているあの少女だって不安を隠しきれてはいない。しかし彼女は不安を押し込め、なけなしの勇気を奮わせて動いている。
自分よりも勇気を持って動いている。
「(…魔物に怯えて蹲るのが一国の王の姿なのか?あんな小さな少女が皆を救わんと勇気を奮って叫んでいるのを、ただ黙って見守るのが君主の務めか?違うじゃろう)」
「…。」
そうは言っても下手な行動が命の危機に直結するこの状況、やはりトロデは尻込みしてしまい、ミーティアを思わず見やる。トロデの不安をきっと彼女は感じたのだろう。だが、それを知った上で彼女はゆっくりと、だがしっかりと頷いた。
『大丈夫』
ミーティアは馬、人語を話すことは
「…みっ、ミーティア…!」
「…。」
「(…そうじゃ。民を導けずして何が『王』か。背中で示さずして何が『主』か。娘に誇れる姿を見せずして…何が『親』か!!!)」
トロデは馬車の幌によじ登ると大きく息を吸い、喉も枯れんばかりに精一杯叫んだ。
「皆の者!!ワシが安全な場所へ案内する!!一人も置いていかん!!不安な者は全員、ワシについて来い!!」
『!!!』
トロデの大声に、騒いでいた住民たちは一旦静まりかえるも、またぽつりぽつりと喋り始める。不安の輪が広がっていく。
「おい、誰だあれは?」
「顔色が悪いぞ」
「まさかあれも魔物じゃ!?」
「お、おい違う!待て!ワシは魔物などでは…」
「か、囲まれた!もう終わりだ!」
「うわあああああっ!!!」
トロデの声は住民たちには届かない。トロデは先ほどまでは確かにあった、自分の勇気の篝火がみるみる弱まっていくのを感じていた。
「(や、やはり今のこの姿のワシでは…ッ)」
────ッ!!
『!!!』
その時、大きな馬の嘶きが街に響き、騒めき始めていた住民たちをまたもや黙らせた。
「ミーティア…」
「な、なんだ?馬も魔物なのか!?」
「でも…なんだか気品ある鳴き声…心が落ち着くような…」
「あんなキレイなお馬さん、初めて見た!」
「しかしあの毛並み…只者ではあるまい」
「私の次の作品のモデルになってくれないかしら!」
父の思いを汲んだミーティアの心からの祈りは住民たちの心を溶かし、さらに…
『皆様!あちらにおられる緑の方は我々の味方です!あの方の指示に従ってください!!』
「…!」
トロデと目が合った金髪の少女もまた力強く頷いた。『貴方に任せます』と、トロデには彼女がそう言っているように見えた。
「み、皆の者こっちじゃ!!ここの道はまだ損傷も少なく魔物もいない!!列に並んでワシの馬車についてくるのじゃ!!」
「お、おいどうする…?」
「私は行くわ…!あの人に従ってウチの子が助かるなら…!」
「ボ、ボクも!!」
「(ワシは…トロデーンの王…たとえここが他国の領地であっても、救える民は救ってみせる!)」
一人、また一人とリブルアーチの住人たちは馬車の後ろに列を成し始める。トロデはそれを確認すると馬車に乗り込み、皆の足並みに合わせてゆっくりと進み始めた。未だこの街は黒い魔物たちが跳梁跋扈する伏魔殿、しかしトロデにはもう怯えてエイトたちに助けを求めるようなことはしない。ただ、進む。王の、主の、親としての矜持を守るため。
原作との相違点
・リブルアーチ全体が襲撃を受けている
原作ではハワード邸のみが狙われたが、ゼシカは第三者による妨害を懸念し町中に魔物を放っている。また、リブルアーチを占拠すれば、船では出入りすることのできない雪山地方にいる賢者の逃げ道を塞ぐことができるという狙いもある。なお、リブルアーチに放たれた魔物は「スライムダーク」「シャドー」「ブラックモス」「シャドウパンサー」など。知能が低く、戦闘力も高くはないが、数が多く攪乱に適している魔物が主である。
・謎の老人と少女
リブルアーチの南側で避難誘導をしていた少女と、民衆を狙う魔物を撃退していた老人。エイトたちは少女を朧気ながら覚えており、トロデは老人のことを見知っているようだ。
・黒い魔物と黒くない魔物
老人の言葉から察するに、黒い魔物が人間に対し敵対的、そうでない魔物はトラペッタやアスカンタにいたような人間に友好的な魔物のようだ。
レベル
変化なし
長くなったので分けました。次回は近日中に…。
ちなみにユリマは街の北側をぶんぶん飛び回って黒い魔物たちを塵殺しています。