ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

93 / 147
わぁい感想500件!あかり感想大好き!








Chapter28 リブルアーチ地方 ③

 

 

 

「はぁ…はぁ…見えてきたっ!あれがきっと…」

 

「ゼシカがあそこにいるのか!?」

 

「わからない!でも今は王様を信じるしか…」

 

「あ、兄貴!アレを!!」

 

「…ッ!!!」

 

町一番の富豪の家、ハワード邸へと続く階段を上り切ったエイトたち。そこで目にしたものは、轟音と共に倒れる大蜥蜴(オオトカゲ)と、数多の機械の残骸の中心に立つ一人の女。肌は不気味な青色に染まり、全身に悍ましい血管が浮き出ている、邪悪な笑みを浮かべている女はエイトたちの記憶の中の彼女とはまったく一致しない。しかしその姿が、持っている杖が、嫌でも彼女が自分たちの仲間『魔法使いゼシカ』であることを認識させられる。

 

「…うふふ。もう来たの?思ったよりも早かったわね。」

 

「ゼ、ゼシカ…」

 

「ゼシカ!こ、これは一体どういう了見でがすか!!」

 

「…待て、近づくなヤンガス!様子がおかしい!…何かに憑かれているのか…!?」

 

ゼシカの豹変ぶりに動揺し思わず駆け寄ろうとするヤンガスを、咄嗟にククールが制止する。「腐っても聖職者」を自称する彼はゼシカのような人間を何度か修道院で見たことがあった。「人が変わったように」と形容されるそれは…文字通り『人格が侵されている』ことを意味する。今のゼシカの様子は、精神汚染を受けている人間のそれと完全に同じだった。

 

「ククール!あれって…」

 

「…ああ、ゼシカは悪霊か何かに取り憑かれて操られている可能性が高い…!」

 

「うふふ。こんな玩具でも、一応の時間稼ぎにはなったってこと。……忌まわしいわ…!」

 

伏兵を警戒し、ゼシカに注意を割きながらも周りを観察していたヤンガスは、先ほど倒れた大蜥蜴に既視感を感じ、思わず二度見した。

 

「…?」

 

どこかで見たような。蜥蜴、とかげ、トカゲ、リザード…チャゴス?

 

「…!あ、兄貴!さっき倒れたあのトカゲ!アイツ、アッシらが『王家の山』で戦ったデカブツにそっくりでがす!」

 

「なんだって!?…いや、それも気になるけど、今はそれどころじゃ…」

 

「……一つ言えることがあるとすりゃ、あのゼシカはオレたちが四人がかりで倒したあのデカトカゲを一人でぶっ倒したってことか」

 

「あら。この蜥蜴以外にもたくさんいたわよ?全部塵芥になっちゃったけどね。くすくす…」

 

ゼシカはその端正な顔を醜い笑顔に歪め、杖で足元に散らばる残骸をつついた。がじゃり、がじゃり、と肉と鉄の混じった耳障りな音がする。

 

「あなたは…一体誰なんだ!何が目的でゼシカの肉体を…!」

 

「…悲しい、悲しいわ…。あなたたちは本当に何も知らないのね…うふふ…説明してあげたいのはやまやまだけど…今から死ぬあなたたちに何を言っても無駄かしら?」

 

「…!!!(ヤンガス、ククール)」

 

「(ああ、わかってる)」「(兄貴、伏兵は心配無さそうでがす)」

 

「本当なら今すぐ屋敷の中で震えている賢者を刺しに行きたいところだけど…一緒にドルマゲスを…あの哀れな道化を追って旅をしたよしみよ、先にあなたたちを死なせてあげる。…あなたたちの旅がこんな最期だなんて、悲しいわね…くすくす」

 

「…来るっ!!」

 

「あははははっ!」

 

「ぐっ…!」

 

ゼシカは低空飛行で瞬時に目の前まで移動し、いきなりエイトを杖で殴打した。すぐにエイトは「ちからの盾」で防御するも、確かなダメージが身体には残る。ゼシカは反撃で繰り出されたヤンガスの一撃をひらりと避けて距離を取ると、杖で空間を切り裂く。空間の切れ目からは、さきほどククールも相対していた「シャドー」がうようよと這い出てきた。

 

「…確か『イデア』だったかしら?…うふふ、なんともお粗末な名だわ」

 

「ちっ!増援か!」

 

「二人とも!相手をゼシカだと思って手加減したらダメだ!僕がさっき防御したあの一撃も、まともに食らったら危ない!」

 

「…レディ相手に本気にならなくちゃいけないとは、情けねえ話だぜっ!」

 

ククールは『スクルト』を、ヤンガスもオノを背負いなおし『スクルト』を唱える。硬質化していく肌の感触を感じてもなお、眼前に佇むゼシカの底知れない恐怖はまるで拭えない。しかし…

 

「はあああっ!!」

 

「ちっ!」

 

エイトのはやぶさの如き高速の二回攻撃がゼシカに命中し、一瞬たじろぐ。そうしてゼシカの意識がエイトに向いた瞬間を狙ってヤンガスがオノを振り抜き、(ひら)でゼシカの頭をぶん殴った。悪霊を追い出すにはまず頭を殴って意識を飛ばすべし、というのが僧侶ククールの教えである。

 

「痛いわね…かよわい女の子にそんな物騒な武器をぶつけるなんて…正気?」

 

「遠慮なんかしちゃあアッシらから狩られそうでがすからね。アンタの怒りはもっともでがすが、全部終わった後で甘んじて受け入れるでがすよ。」

 

「エイト!何か攻略の糸口は掴めそうか?」

 

「…攻撃は当たる。少なくとも『魔王』のような厄介さはなくて、シンプルな戦いになりそう…だけど増援とゼシカ生来の呪文の威力が厄介になるかも」

 

「りょーかい。なら雑兵どもはオレに任せろ!」

 

ククールは「しっぷうのレイピア」に「せいすい」を伝わせ、「シャドー」たちを一箇所に追い詰めてエイトたちから引き離した。無駄なことを、とゼシカはくつくつと嗤う。

 

「…随分と私を買い被ってくれているみたいね?私は魔法使いのタマゴよ?大したことはできないわ。例えばこんな…」

 

ゼシカが『マヒャド』の呪文を唱えると、エイトたちの頭上に大きな氷塊が現れ、そのまま重力に従って落下する。ヤンガスはオノで、エイトは盾で直撃を免れたが、氷塊は地面に衝突し、炸裂した氷片が二人の身体に次々と突き刺さる。

 

「うっ…!」「いてェなクソッ…!」

 

「氷を降らすことくらいしか…あら、寒そうね?可哀想に、私が温めてあげるわ。『ベギラゴン』」

 

「ぐあああっ!!」

 

「あっははは!悲しいわねぇ!」

 

「エイト!ヤンガス!待ってろ今…『ベホマラー』!」

 

灼熱の高等呪文をまともに受けた二人の損傷は激しく、ククールは完全回復の『ベホマ』と迷ったが、自分も少なからず傷を受けていることや『ベホマ』だと二人のうちどちらかが危険に曝されることを鑑みて全体回復を選んだ。

 

「…。どうせならウェルダンにしてあげようと思っていたのに…ニンゲンの丸焼きなんて向こうの世界でもなかなかお目に掛かれないのよ?…まあ単にニンゲンが不味くて食べ応えが無いだけだけど。くすくす…」

 

「『ライデイン』!」

 

「うふふ、マッサージかしら?もう少し強めの威力が私の好みね」

 

「でえりゃあっ!!」

 

「突進、大振り…ハァ、芸が無いわね」

 

エイトの呪文も、ヤンガスの攻撃もあまり有効打にはなってはいないものの、全くのノーダメージというわけでもない。戦闘は順調にも思えたが、ククールは先ほどの相手の発言が気になっていた。

 

「(『向こうの世界』だと…?霊界、いや神界…?ゼシカに憑いているのが悪霊じゃなく来訪神や産土神の類だとしたら……。状況は思ったよりもヤバいんじゃねえのか…?)」

 

ククールの信仰する神は一柱のみだが、異なる宗教にはまた別の神が存在し、何人もの神を信奉する宗教もある、ということくらいはククールも知識として知っている。現にあの『闇の遺跡』でも禍々しい異界の神が崇められていた様子が見られた。仮に信仰によって通常ではあり得ないチカラを持つ神…来訪神(らいほうしん)産土神(うぶすながみ)などの神格実体を相手取っている場合、此方の戦力は圧倒的に足りない。大陸中の冒険者をかき集めて勝負になるかどうか…しかしこちらから相手の本拠地に攻め込んでいった前回と違って、今回は防衛戦。形勢が悪くなったところで退くことはできない。

 

「(ま、相手が誰であろうとやることは変わらないか。オレに出来るのはパーティーを全滅させないように後方で立ち回ること…)」

 

『バギマ』を唱えて「シャドー」たちを一掃し、レイピアから弓に持ち替えたククールは『ピオリム』を唱え、エイトとヤンガスの対処に追われ、自分から意識を逸らしているゼシカを狙い澄ます。

 

「そして、狙える時は…狙うっ!」

 

『ピオリム』により加速する脳の働きが極限の集中を促し、ククールの弓から放たれた矢は、確かな手応えと共にゼシカの肩に命中した。会心の一撃だ。

 

「くっ…!」

 

「手応えありだぜ!」

 

「……痛いし、醜いわね…弓箭とはもっと鮮やかなものでしょう?」

 

ゼシカは杖を地面に突きさすと、右手に『メラ』、左手に『ヒャド』を発生させ、掌を合わせてその二つを激突させた。…嫌な予感。それを見たエイトは今飛び込むのは危険と判断し、バックステップで距離を取る。

 

「『炎』と『氷』、相反する二つの魔力…これらをぶつけるとどうなるかご存じ?」

 

「…!」

 

「『水』になる?…うふふ、冗談」

 

「…兄貴…あれはヤバそうでがすよ…ッ!」

 

魔力をあまり持たないヤンガスでさえ、目の前で起こっているのが『異常な魔法』であることはわかった。

 

「『ただの魔力』になるの。炎でも氷でもない、ただ純然たる『力』の塊」

 

「(避け…ッいや、ここは受けて確実にダメージを減らすッ!)兄貴ッ!ククールッ!こっちでがす!」

 

白く眩い光を放つ魔力の塊を、ゼシカは弓矢の要領で引き絞る。愉しそうにこちらを見るゼシカの眼から明確な死の気配を感じたヤンガスは、エイトとククールを掴んでゼシカとの対角線上にオオトカゲが来るような位置を取り、防御の姿勢を取った。

 

「避けないで防御に専念…いい判断ね。ただ、これを受けて立っていられるかしら…?『メヒャド』」

 

「!!!」

 

ゼシカが手を離した瞬間、光速に迫る速度で魔力が炸裂し、炎とも氷ともつかない形容しがたい爆音と共に、ハワード邸の庭は大きく抉り取られた。

 

 

「う………」

 

「い、生きてるか…お前ら…」

 

「…アッシら、ここ最近で死にかけすぎじゃないでがすかね…」

 

「…あら。驚いた、本当に生きていたのね。さっきのは私もかなり全力だったんだけど…うふふ。次はどうかしら」

 

皮肉にもゼシカの言う通り回避ではなく防御に専念したのが功を奏し、強烈な魔力の一撃から三人共生存することができた。呪文に対し強力な耐性を持つオオトカゲ「メモリア」を肉壁としたのが大きな威力減衰となったのだが、そのメモリアも今の『メヒャド』で粉微塵となり、二度は防げそうにない。エイトたちが依然として劣勢であることに変わりはなかった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

少し、話は逸れるが……先ほどのククールの考察は当たっている。ゼシカに取り憑いているのは一介の悪霊程度の存在ではなく、闇の世界を統べる暗黒の神。産土信仰を受けた土着神よりもさらに高位の存在である。…だが同時に、暗黒の神は異界から来た存在、それすなわち来訪神と呼ばれる類の神である。

 

一般的な来訪神の特徴として、「グロテスクで美しい容貌をしている」「千年単位で現れる」などが挙げられるが…一番大きなものはやはり「大量の禍と、一つの希望を一緒に引き連れてやってくる」ことだろう。

 

 

 

「次はもう…耐えきるのは厳しい…!」

 

「どうするってんだ…」

 

「くそっ、万事休すか…っ!」

 

 

 

 

『大量の禍』と──

 

 

 

「そこまでだ、止まれラプソーン!!!」

 

 

 

──『一つの希望』。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「…誰?そんな所に立って、死にたいのかしら?」

 

動けないエイトたちに止めを刺そうとするゼシカ。彼女の前に立ちはだかったのは見覚えのない…いや、どこかで見たことのある風貌の男性。

 

「…。」

 

訝しがるゼシカだったが、相手の正体に思い当たったのか、突然苦虫を嚙み潰したような表情になった。

 

「…あなた…ッ!賢者の出涸らしッ!!」

 

「俺の…俺の妹の姿で言葉を発するな、ラプソーン!!!俺の名はサーベルト!ゼシカの兄だッ!!!」

 

怒りに燃える一つの希望(サーベルト)が、今終局を迎えようとしていた一つの戦いに新たな風を呼び込んだ。

 

 

「それ」は死者の名。ゼシカの兄は死んだと、ヤンガスとエイトは他ならぬゼシカ自身からそう聞いていた。だが目の前に立つ男は自身を「サーベルト」だと、「ゼシカの兄だ」と宣った。正体は分からない。目的も分からない。一体全体どういうことか分からない、まるで何も分かっちゃいないが…

 

「立てるか?」

 

「…はい、ありがとうございます」

 

彼は味方だと、エイトたちは何故か確信できた。

 

「これを飲むんだ。今は何も考えなくていい。全てはゼシカを救ってから」

 

サーベルトを名乗る男性が手渡してきたのは、服用すると完全に体力と魔力を回復できる薬「ふしぎなサプリ」。対象のあらゆる呪いを強制的に解呪する効果も持つ。

 

「…!」

 

何故貴方がこれを、という言葉をエイトたちは錠剤と共に飲み込む。今は戦闘中、彼の言う通り話を聞くのは全てが終わった後が吉だろう。

 

「戦えるか『勇者』たち!!」

 

「はいっ!!!」「問題ないでがす!」「ああ、行けるぜ!」

 

「行くぞッ!合わせろッ!」

 

全員の戦意を確認するや否や、サーベルトは残像を残すほどの瞬発力で飛び出し、目にも止まらぬ連撃「超はやぶさぎり」を繰り出した。「はやぶさの剣・改」の持つ元来の軽さをも利用した八条の剣戟がゼシカを切り刻む。そこに躊躇いなどはない。

 

「あぐっ…!」

 

続くヤンガスの「かぶとわり」は杖によって防がれるも、一度そちらへ意識を向けようものならすぐにサーベルトの追撃が飛んでくる。

 

「くっ!これなら…どう!この数は捌けないでしょう!」

 

ゼシカは再度空間を、今度は先ほどよりも倍近い大きさの裂け目を開き、何匹もの「シャドー」、さらに「あんこくちょう」や「クロコダイモス」など高位の魔物も裂け目から顔を出した。

 

「…!今だっ!『ライデイン』!!」

 

一度見た戦法、慎重なエイトがそれを見逃すはずがなく。既に三度に渡りテンションを溜めていたエイトは魔物たちが出揃ったタイミングで敵全体に雷撃をお見舞いした。白金色のプラズマがシャドーを散らし、あんこくちょうの翼を打ち、クロコダイモスを地に堕とす。ゼシカにも一瞬足がよろけるほどのダメージが入った。

 

「っ!」

 

「お望み通り、強めの『ライデイン』だけど。お気に召したかな?」

 

「小癪な……!」

 

「コイツ等はオレたちが引き受けるぜ!」

 

なおもこちらを狙う黒い鷲と鰐。その眼球をククールが弓で狙い撃ち、敵愾心を煽って引き付けたところを背後からエイトが両断したことで二匹は消滅した。

 

「恩に着る!でやああっ!!」

 

「う…!あなたッ…さてはあの道化の差し金ねッッ!!!あなたたちは……あなたたちは何度わたしの邪魔をすれば気が済むと云うのッッッ!!!」

 

「お前の企みを止めるまでだ、ラプソーン!俺たちは絶対にお前を許さない…!」

 

「そのためなら妹の身体すらどうなろうと知ったことではないと?…偽善!…反吐が出るわね!その空虚な正義を抱えたまま、あなたの妹の魔法で消し飛ぶがいいわ!」

 

「…」

 

ゼシカは大きく飛び上がり、ハワード邸の噴水に飛び乗ると、再度『メラ』と『ヒャド』を構える。

 

「アレはマズい!!サーベルト?…の(あん)ちゃん!何かに隠れるでがすよ!」

 

融合呪文の恐ろしさを先ほど身に染みて体感したヤンガスはサーベルトに防御を促す。しかし、サーベルトは大丈夫だ、とヤンガスを手で制した。

 

「あなたはここで跡形もなく消し飛ばしてあげるわ!そして賢者を殺した後は……あの道化を探し出して血祭りにあげてやる…!」

 

「…」

 

「あなたにも教えてあげましょうか?『炎』と『氷』が合わさるとどうなるか!」

 

「…知ってるさ。『ただの魔力』になるんだろう?お前は知らないだろうが、ドリィは既にそんなステージは超えているんだ。お前は見たことがあるか?緑あふれる平原に降る『雪』(ジングル・ベル)を」

 

「分からないことを…」

 

ゼシカはギリギリと魔力の弓を引き絞る。先ほどよりも強く、速く。照準をサーベルトだけに絞る代わりに貫通力を底上げした攻撃。一度放てばどんなものも貫くだろうその攻撃の照準は、まっすぐサーベルトの頭蓋を狙っていた。

 

「俺は相手がゼシカの肉体だろうと、躊躇はしないさ。ゼシカは絶対に助ける、そうドリィは約束してくれたからな。だから俺は全力を持ってお前を切り伏せることができる」

 

「…もういいわ。今すぐにその口を永遠に閉ざしてあげる。…『メヒャド』」

 

「忘れているんじゃないか?何故今までお前はドリィの下で大人しくするしかなかったのか…はぁッ!」

 

キィンッ!

 

「なっ!?うあっ!!」

 

サーベルトは放たれた『メヒャド』を完全に見切り、手に握った棒で打ち返した。『メヒャド』は勢いそのままに進行方向だけが反転し、真っ直ぐゼシカの腕を穿つ。

 

「…ドリィ曰く、『ミラーシールド』を『マホカンタ』で精錬した箱…を加工した棒、だそうだ。魔法を確実に反射する箱、少し前までお前の入れられていた箱だろう?」

 

「くっ、貴様…!」

 

「そろそろ妹の身体を返してもらおうか!」

 

「減らず口を!!!」

 

「(…す、凄い…僕たちでは手も足も出なかった相手を…!)」

 

「なんて人でがすか…」

 

決してエイトたちが弱いわけではない。彼らもまごうことなき超人ではある。…だがサーベルトとではまるで練度が違う。剣運び一つにおいても、エイトやヤンガスのような無骨なものではなくもっと美しい、まるで舞のような…

 

「……?」

 

「…お、踊りながら攻撃して…!」

 

「止まらねえ…アイツの動き、攻撃が終わらない…!」

 

サーベルトの終わらない連撃はいつしか炎を纏い、舞のように戦場を焔で彩りながらゼシカを追い詰めていく。それはまるで神楽舞。母なる太陽へ捧げる炎の神楽が、暗黒の神を圧倒する。

 

「うぅ…!がはっ!ど、どうして…さっきから身体が上手く…!」

 

「どうだっ!」

 

「…!ハァ…ハァ…!有り得ない…有り得ないわ…なぜ私がこんな…」

 

「……。ゼシカ、そろそろ起きろ。寝坊は良くないぞ?」

 

「!!!」

 

 

 

……エイトたちにとって、サーベルトは「突然助太刀に入ってくれた謎の男性」程度の認識しかない。

 

だが、彼女にとっては違う。

 

 

 

「!か、身体…が…」

 

「ゼシカの動きが止まった…?」

 

「もしかして…ゼシカの奴、内側から抗ってるのか…?」

 

 

 

彼女にとってのサーベルトは……

 

彼女にとってのサーベルトは「人生」だった。同年代の友達が村にいなかった彼女の生活の中心には、いつも憧れの、尊敬の象徴として兄の存在があった。共に目覚め、共に食し、共に学び、共に遊ぶ。朝から晩まで、年中無休で。もはや半身とも呼べるそんな兄からの呼びかけが、ゼシカの心の奥底を大きく揺るがす。次第に肌は元の明るみを取り戻し、浮き出た血管は収まっていった。

 

「…まさか、そんな…私が…私じゃ───」

 

 

 

 

「…にいさん」

 

「ゼシカ」

 

「良かった…生きてた…生きててくれた…」

 

「ああ。俺がお前や母さんを置いて逝くわけがないだろう?」

 

「ドルマゲスが…ううん、ドルマゲスさんが兄さんを殺したんじゃなかったのね…」

 

「もちろん。ドリィは俺のヒーロー、そして…お前のヒーローさ。今も昔もな。」

 

「うん…うんっ…!」

 

「さあゼシカ、あともうひと踏ん張りだ。頑張ろう。」

 

「うんっ。兄さん、またね!」

 

 

 

 

「……ハァ…ハァ…なんて、こと…どうしてこの私が、肉体の制御権をこうも奪われるの…?…道化にも、くすんだ髪の女にも、この女にも…いくら賢者の血が二人分しか集まっていないとはいえ、こんなことが…」

 

ゼシカの肌は再び青く染まり、血管が浮き出た恐ろしい姿に戻る。だが、そこに先ほどまでの余裕は感じられなかった。表情は苦悶に歪み、力なく杖に寄り掛かる。

 

「…許さ…ない、絶対に許さないわ…見せてあげ…る……闇の世界を統べる神の本当の実力をッ!!!」

 

ゼシカは宙に浮きあがると、杖を天に掲げた。『神鳥の杖』から溢れ出る厖大な魔力が一点に集中し、極大の火球を作り上げる。あんなものが放たれれば、エイトたちはおろか、この街も消えてなくなってしまうだろう。

 

「…さ、サーベルトさん…!」

 

「……大丈夫だ、『勇者』エイト。俺たちは十分やった。後は任せようじゃないか」

 

サーベルトは腕を組んでただゼシカを見つめる。焦りなどは見られず、逆にその顔からは妙な自信さえ感じられた。

 

「任せる…っていったい誰に?オレにはあのバカでかい火球を受け切れそうな知り合いはいないぜ?」

 

「俺にもいないさ。だが、こんな時にきっとなんとかしてくれる親友はいる」

 

「親友…?」

 

「ああ、君たちも心配なら、俺の親友に懸けるんだな」

 

「…他に出来そうなことも見つからねえ、お言葉に甘えてそうさせてもらうか。」

 

ククールはおどけてみせたが、実際エイトたちにはもう打つ手が無い。エイトもヤンガスもククールも、サーベルトという乱入者の言葉を信じて祈ることしかできないのだ。

 

「…燃え尽きるといいわ……この街と共に、貴様らの命もッ!!!」

 

「…そこまでじゃ!わしの庭で好き勝手に暴れる杖使い女め!」

 

現れたるはサーベルトに続く二人目の乱入者。…いや、ここは彼の邸宅なのだからむしろ被乱入者と言えようか?奇抜な彩色の服に身を包んだ男、ハワードは自信に満ちた表情で立ちはだかった。

 

「ぶわっはっはっはぁ!!どうやら間一髪だったようじゃな!ようやく完成したわい、三つの魔石の力を注いだ結界が!」

 

「…?」

 

「わしの住むこの美しい街をめちゃくちゃにし、わしの命までも狙わんとする不届き者めが!この超強力な退魔の結界を食らえいっ!どりゃあっ!!!」

 

ハワードは気合の入った雄たけびと共に結界を展開した。加速しながら広がっていく光の領域がゼシカを飲み込む。

 

「なっ!?ぐ、ぐわあああああああああっ!!!!!」

 

魑魅魍魎だけを除外する退魔の結界。その光がゼシカから暗黒神を引き剥がし、分離する。身の毛もよだつような断末魔を上げ、ゼシカから完全に邪気が消えた。

 

「……ぁ…」

 

「ゼシカ!!!」

 

浮遊状態を維持できなくなり落下していくゼシカをサーベルトがふんわりと受け止めた。

 

「…兄さん…ありがと……」

 

「ああ。よく頑張ったな、ゼシカ。俺はお前を誇りに思うぞ」

 

「…えへへ──」

 

ゼシカはエイトたちにも見せなかったような「妹」としての笑みを浮かべると、心労からか、そのまま気を失ってしまった。

 

「終わった…!すごかったです、サーベルトさん」

 

「そんなことないさ。君たちが予めゼシカの体力を削ってくれたから、さっきだって君たちとの連携が無かったなら、俺はきっとゼシカには勝てていない」

 

「く~っ!アッシはサーベルトの(あん)ちゃんの強さに感服しやした!兄貴…は兄貴だけのものでがすから、サーベルト『(にい)ちゃん』って呼んでもいいでがすかい!?」

 

「ははは、悪いな。俺のきょうだいはゼシカだけだ。ポルクとマルクは別だが」

 

「で、サーベルトさんよ…アンタの親友ってのはあそこで高笑いしてるおっさんのことかい?」

 

ククールが指さす先には勝ち誇った笑い声をあげているハワードがいた。ククールにそう指摘されたサーベルトは非常に不本意そうに口を尖らせた。

 

「いや、あの人じゃない。…ドリィの奴め、あくまで正体を隠し通すつもりか?俺の親友は暗躍するのが好きみたいでな、此度の結界だって完成にこぎつけられたのは彼のおかげさ」

 

「ふぅん、オレたちの恩人ってわけね。ぜひとも会ってみたいもんだ」

 

もう良く知っているだろう?と言い、サーベルトはゼシカを抱えたままハワードへ事情を説明しに行った。ハワードからすれば杖使い女のゼシカは街の侵略者であり、自らの命を狙った暗殺者である。そのままでは止めを刺されてしまいかねず、そんなことになったら元も子もない。

 

「…ゼシカは大丈夫そうだね。よかった…」

 

「兄貴、これからどうします?(あん)ちゃんに事情を訊こうにも、今は忙しそうでがすよ。」

 

「…まだ街は魔物の危険に曝されてる。王様と合流して僕らも避難誘導を手伝おう!」

 

「がってん、了解でがす!」

 

「…へっ、何だか今の方が修道院にいた頃より人助けしてる気がするぜ」

 

トロデと合流すべく駆けだすエイトたち。庭には投げ出された『神鳥の杖』。サーベルトはもちろん杖の所在を気にかけているが、拾得するだけで強力な精神汚染を受ける杖を迂闊に触ることはできない。安全に拾うことができる者がいるとすれば、それは強靭な精神と自我を持つ者か、それとも────

 

「…苦節数か月、やっと取り戻しましたよ…!『神鳥の杖』!!!」

 

「ほ…予め庭で姿を消して待機していたのか。ドリィめ、ヒヤヒヤさせてくれるな」

 

魔力制御に長け、精神汚染を跳ねのけることができる者か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それとも────。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・呪われしゼシカが強くなっている。
エイトたちが『王家の山』で苦戦を強いられた試作自律戦闘人形四号機『書記(メモリア)』を易々と打ち破る魔法出力を持っており、原作には登場しない融合呪文を使う、空間の裂け目から「シャドー」以外にも闇の世界の高等モンスターを呼び出すなど、戦術にも変化が生じている。

・戦闘中にサーベルトが助太刀に入ってくる。
ゼシカ曰く彼はドルマゲスに殺され、葬式まで執り行われたはずなのだが、突如エイトたちの目の前に現れて共闘し、見事強化された呪われしゼシカに勝利した。サーベルトと対峙したことでゼシカの心の闇が取り払われて呪われしゼシカの能力が大幅に下がったこともあるが、単純にサーベルト自体もめちゃくちゃ強かった。

・退魔の結界も強化された。
「アルゴンハート」「ビーナスの涙」のチカラをもつぎ込んだ最強の結界だが、サーベルトのおかげでゼシカの心の闇はほとんどなくなっていたので、正直「クラン・スピネル」だけでもよかった。

・ゼシカをサーベルトが受け止めた(どうでもいい)
原作ではゼシカはまあまあ高いところから落ちた(あの落ち方だと膝の皿が割れててもおかしくない)のに、エイトたちは全員棒立ちで誰も助けに行かないという虐めみたいなことになっていたので、本作ではサーベルトが受け止めに行きました。イケメンですね。



エイト
レベル:30→31

ヤンガス
レベル:30→31

ゼシカ(復帰)
レベル:30→34(単騎でメモリア始めとする兵器群を完全に破壊した)

ククール
レベル:30→32



サーベルト無双回です。エイトたちとはレベルが倍近くあるので妥当ですかね。サーベルトが『メヒャド』を打ち返した棒は、第二十一章でユリマちゃんに盗まれるまで杖が入っていた箱を、ドルマゲスがバットに改造したものです。呪文をほぼ確定で跳ね返す特級呪具ですね。一方打ち返された『メヒャド』ですが、本作では『メドローア』の下位呪文として位置付けています。モンバトシリーズでは普通に『イオナズン』とかよりも威力あるのでここら辺がいい塩梅ではないでしょうか。

サーベルトのドルマゲスに対する矢印、デカすぎ…?こいつドルマゲスのこと信頼しすぎだろ…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。