ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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大は小を兼ねる。だが、過ぎたるは猶及ばざるが如し。








新・第五章 きーぷ・あ・しーくれっと

しくじった…っ!

 

リーザス様との面会を終えた俺とサーベルトは、キラちゃんからの緊急連絡を受け最速でリブルアーチに帰還した。そこで見たものは既に半壊した街道、邸宅、住宅街。俺はまだ時間はあると高を括っていた昨日の自分を殴りたくなった。

 

「な…んてことだ…美しかった街並みが…!」

 

「…サーベルト、よく聞いてください。この騒動はおそらくゼシカさん…ラプソーンが引き起こした事態です。であれば目的は賢者の血であり、ヤツはまず間違いなくハワード邸へ向かうことでしょう。私はハワード氏にこの『クラン・スピネル』を届けてきます。サーベルトはその間できるだけラプソーンを足止めしておいてください」

 

「し、しかし…街はどうする?…俺は…俺がこの街の住人を見捨ててゼシカを助けても、きっとあいつは笑わない…」

 

俺は分身──ライドンの塔へ向かった個体──のフィードバックを受けて漲ってくる力を感じつつ、サーベルトの肩に手を置いた。

 

「大丈夫、この街の人は私たちが全員助け出します。サーベルト。今だけは懸念を全て私たちに預けて、ゼシカさんを助けに行ってあげてください。」

 

「ドリィ…」

 

「さあ!」

 

「…わかった。ありがとう」

 

「さて…」

 

そういうや否やサーベルトは風と消え、後にはひびが入るほど強い踏み込みを受けた石畳だけが残った。一人になった俺は崩落した家から出られなくなっている住民を助け出しながら冷静に…できるだけ冷静に現状を分析する。

 

「…」

 

「たっ助かりました!ありがとうございます!」

 

「いいえ。お怪我はありませんか?」

 

「はいっ、おかげさまで…」

 

「…。よいしょっと。…この建物の中にこの周辺の人々を連れて隠れていてください。ちょっとやそっとの衝撃じゃ崩れやしません」

 

「どうやってこんな建物を一瞬で…いや、わ、わかりました。しかし魔物が…」

 

「大丈夫、魔物は────」

 

「ドルマゲスさーーん!!!」

 

「…ヴッ!」

 

俺が言い終わらないうちに向こうから来てくれた。凄い速度で。俺はツバメのようにまっすぐ飛び込んできたユリマを抱き止め、うまく着地させた…が、今のでアバラにダメージが…。ほぼほぼ突撃(ドラゴンソウル)だし、普通に危ないからやめてね。

 

愛情表現(あいじょーひょーげん)です!」

 

犬か!せめて最低限の人間らしさ(コミュ力)を身に付けてから愛を表現して頂戴。

 

「…ゲホッ、失礼。…魔物は彼女が全て撃退してくれます。できますよね?」

 

「任せてください!黒い魔物も黒くない魔物も、みんなまとめて塵殺です!」

 

物騒だなぁ。あと黒くないのは多分セキュリティサービスだから壊さないでね。…ともかく、俺は瓦礫から助けた男性に周辺…つまりリブルアーチ北部にいる人間を、先ほど作り出した鋼鉄製の小屋へ誘導するように頼んでその場を後にした。

 

空気を足場にして空を歩いているだけの俺と違って、ユリマは重力魔法で自分を「進行方向へ引き寄せる」ことで飛んでいるため、精密かつ速度の出せる飛行が可能だ。高速飛行は偵察にも有効であり、こと塵殺に関して彼女の右に出られる存在を俺は知らない。

 

「ドルマゲスさん…えと…」

 

「はいはい。……。では任せましたよ、ユリマ!」

 

「…♪はい、頑張ります!!!」

 

ユリマは基本的に身内以外の他人に対して一切の興味を持たないのだが、今回は街一つの危機ということもあり先んじて街を守ってくれていたようだ。頭を撫でるようねだってくる(本人曰く『最も効率的に行動するための充電』らしい)のも人命救助の対価としては安すぎる。俺はユリマの頭をぽんぽんと撫でて送り出すと、ハワード邸へ向かう足を速めた。

 

 

俺が先刻リーザス像の塔に於いて、キラちゃんから受けた連絡事項は簡潔に述べると3つある。一つ目は「リブルアーチが襲撃を受けた」こと。キラちゃん、ユリマ、師匠がリブルアーチに帰還したのとほぼ同時に襲撃は始まったらしい。そして二つ目は「既にリブルアーチ南部から救助・避難誘導を開始している」こと。少し前に彼女にはアジトが襲撃を受けた際の対応マニュアルを渡していたのだが、それをリブルアーチの構造や立地に合わせて即興でアレンジしたらしい。殲滅力に優れたユリマを街北部の魔物掃討に向かわせたのも彼女の指示であり、そんなキラちゃんのあまりの手際の良さに俺は報告を受けながら思わず感心してしまった。…そして三つ目は「襲撃者は全身が黒い未知の魔物」であること。俺が一番気がかりなのはこれである。

 

「かぶとこぞう」など黒を基調とした魔物は多くいるが、本当の意味で「黒い」魔物というのはこの世界には存在しない。しかしキラちゃんは「全身が黒い」と表現したためまさかとは思ったが、俺の嫌な予感は的中していた。リブルアーチの街を破壊せんと蠢く魔物たちは「スライムダーク」「ブラックモス」「シャドウパンサー」など。『闇の世界』…つまりこことは違う異世界に棲息する魔物たちだ。原作でコイツ等が登場するのはもっと後のため、イレギュラーが発生していることは自明である。「剣士像の洞窟」へ向かっていた俺も、分身とはいえ俺…リブルアーチ地方の魔物には集団で囲まれない限りは簡単には負けやしない。それが敗北したということは、やはりこの街に跋扈する魔物が生半可な強さをしていないということだろう。ラプソーンが魔物を街に放ったのは俺たち人間という種族が同族を助けずにはいられないことを知ってか知らずか。

 

「まったく、要らん知恵をつけてくれやがって」

 

俺は「光明斬り」で黒い魔物たちを一匹ずつ確実に仕留めつつ、ハワード邸の近くまで来たところで『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』を使って姿を消し、ハワード邸へ侵入した。

 

 

「(…はあ、『書記(メモリア)』もああなったらもはや修理はできないな…作り直しか)」

 

ラプソーンのヤツも随分派手に俺の兵器群(こどもたち)をぶっ壊してくれたものだ。昨日のうちにハワードはじめリブルアーチの住民たちに了解を得、俺は街のそこかしこにセキュリティサービスを配置していたのだが、あそこまで粉微塵にされては直せるものも直せない。しかしセキュサとメモリアが居なければリブルアーチは壊滅し、チェルスも死んでいただろうことを考えると、必要な犠牲だったのだろうか?……とりあえず今は呪われしゼシカを相手に激戦を繰り広げている勇者たちとサーベルトに託す他ない。

 

「ど、ドルマゲス様でございますか?私です、使用人のチェルスです。この騒ぎは一体…?」

 

「ああ、チェルスさん。これがハワードさんの言っていた『杖使い女の襲撃』です。しかしハワードさんの予言よりも早く発生してしまっていたようですね。今この街に安全な場所というものはありません。絶対に屋敷からは出ず、他の使用人と共に奥の部屋へ隠れていてください」

 

チェルスはまだ屋敷にいた。初代ハワードのかけた『因縁の呪術』は既に解けたはずだが、結局ここに残ることを選んだんだな。しかし不幸中の幸い、今だけは賢者の所在が掴めるのがありがたい。

 

「このような状況の中、ドルマゲス様はどういったご用件で……?」

 

「私はこの騒動を収めるため、ハワードさんに頼まれた品を持ってきたのです。彼は今自室に?」

 

「は、はい。ハワード様は既に結界の作成に取り掛かっているようです。」

 

「そうなんですね、ありがとうございます。…あっと、ところでレオパルド…ほら、ハワードさんのペットの…はどこにいるか分かります?」

 

「レオパルド様なら……ああ、ほらあそこに。外にはドルマゲス様がお置きになった魔物がいらっしゃいましたので、私が今朝屋敷の中にお連れしたのです。…おかげで腕を噛まれてしまいましたが…はは…」

 

そう言ってチェルスが腕を捲ると、左腕に痛々しい咬跡があった。チェルスはハワードの愛犬であるレオパルドにも嘗められている。そもそも飼い主であるハワードがチェルスをぞんざいに扱っているので仕方ない事であるが、賢者を守るべきハワード家の使命を考えると何ともやるせない。俺は暢気に寝転んでいる黒犬レオパルドを視界に収めつつ、チェルスの傷を癒す。

 

「ああ……包帯くらい巻けばよいものを…『ベホイミ』」

 

「あ、いや、そんなつもりじゃ!…あ、ありがとうございます!」

 

「お気になさらず。」

 

俺は再度チェルスに絶対屋敷から出ないように伝えるとハワードの部屋へ続く階段を上った。外からは度々轟音が響き、その度に屋敷は小刻みに揺れる。エイト、ヤンガス、ククール、それとサーベルトがゼシカと戦う余波が屋敷の内部まで響いているのだ。戦いの規模を考えると正直こんな屋敷などいつ消し飛んでもおかしくないのだが、賢者が跡形も残らないとラプソーンも困るのだろうか、こちらには攻撃が飛んでこないような立ち回りをしているようである。…と、そんなことを考える暇はない。俺はノックも適当にハワードの部屋へ押し入った。

 

「ハワードさん!持ってきました!」

 

「!!!なんだ、お前さんか…驚かせるでない。わしはもうてっきり杖使い女が来たのかと…」

 

「へいへい、私です。そして…はい、こちらが『クラン・スピネル』です。」

 

「おおっ、手に持っただけで感じるこの魔力の波動は間違いない!これぞクラン・スピネルじゃ!」

 

「『ビーナスの涙』はもうお持ちですか?」

 

「何を寝ぼけとるんじゃ。『ビーナスの涙』もさっきお前さんが持ってきたじゃろうが」

 

「(よし、よくやった分身の俺!)…。そうでしたよね。ではハワードさんはそれを使ってちゃっちゃと結界を完成させてください」

 

「ドルマゲス貴様、言葉を慎め!先ほどからわしに対する敬意がまるで感じられんぞ!」

 

「自身の占星術を過信して後れを取った貴方に『敬意』、ですか?」

 

「う…。」

 

「すみません、棘のある言い方をしてしまって…私も色々と反省はしています。お互いこれから挽回していこうじゃありませんか」

 

「…わしはこれより結界作成の最終段階に入る。お前さんは外にいるバケモノ女を少しでも足止めするのじゃ。」

 

「わかりました。」

 

俺はいそいそと大鍋に向かうハワードを横目に部屋を後にした。ちょっぴり強めにお尻も叩いたことだし、この様子なら数分後には結界は完成しているだろう。

 

 

正直、ハワードだけを責めるのがお門違いだということは分かっている。念のためを考えて「メモリア」とセキュサ共を屋敷の庭に配置したのだって、ただの保険のつもりでしかなかった。最初から屋敷に陣取ってラプソーンを迎え撃つべきだったのだ。…俺の判断ミスでリブルアーチへ魔物の侵入を許してしまったという事実は否めない。だからこそ俺はこれ以上状況が悪化するのを防がねばならないのだ。…ハワードに対しては多少私情も入っていることは否めないが。

 

「バウワウッ!!!」

 

「待て!レオパルド!『待て』!!」

 

俺はハワードや使用人が部屋に籠っている隙を突いてレオパルドを追い掛け回していた。流石に腕を噛まれたチェルスに頼むのは気が引けるし、飼い主のハワードに見られたら何を言われるか分からない。

 

サーベルトがいる限り、まず呪われしゼシカに勝ちの目はないだろう。そこのところ、俺はサーベルトを全面的に信頼している。しかしそうなると敗北したラプソーンは次の端末を探す必要に駆られる。…そして原作での次のラプソーンの端末こそがこの黒犬レオパルドなのだ。そこに至る背景には勇者たちが庭に落ちた『神鳥の杖』を放置していたことや、ハワードがレオパルドを甘やかし続けていたことなど、双方の杜撰な…本当に杜撰な管理が原因として在るが…なんにせよ、ここで俺がレオパルドをひっ捕まえて監禁していれば、彼…彼女?この犬がラプソーンに操られる心配はなくなり、結果としてラプソーンを孤立させることができる。

 

「バウッ!!ガルルル…!」

 

「痛ッ!ホントに躾がなってないな…仕方ない」

 

……のだが。この犬、動きは速いわ近づくと迷いなく噛みついて来るわで中々捕まらない!…屋敷の使用人たちがレオパルドを恐れているのも何となくわかるな。これではペットどころかもはや猛獣…まさに獰猛な肉食獣(レオパルド)。しかし、俺もワンちゃんとの追いかけっこに興じているほど暇ではない。うちにはただでさえユリマという大きなワンコ(犬系少女)がいるのに、これ以上はご勘弁願いたく。

 

「ワウッ!ワウワウッ!」

 

「────ッッ!!!!」

 

「キャンッ!?」

 

俺は『おたけび』でレオパルドを竦ませ、すぐさま手製の檻にレオパルドを収容する。これで分かったかワン公!俺が上位者だ!!!美味しい肉あげるから大人しくしてなよ!!

 

檻に捕らえられたにも関わらず能天気に「しもふりにく」に食らいつくレオパルドを見ながら、俺は檻を屋敷の奥へ運びこんだ。

 

「…。」

 

この犬もある意味では被害者と言えよう。原作でレオパルドは散々ラプソーンに使い潰された挙句、最期は勇者たちの手によって絶命してしまう。ラプソーンに操られた経緯だって、庭に落ちた杖に興味を示して咥えてみただけなのだ。甘やかされて育った犬が庭に落ちた棒きれに興味を示したとして、それを一体誰が咎められようか?レオパルド自身に悪気は一寸たりともなく、言わば人間の怠慢と暗黒神の悪意によってその一生を終えてしまうのだ。こんなに虚しいことはない。

 

「さて、行きますか」

 

そんなレオパルドの為にも、チェルスの為にも、まだ見ぬ賢者の為にも……俺はここで確実に『神鳥の杖』を取り戻さなければならないのだ。

 

 

俺が再度姿を消して屋敷の庭に身を潜めた時には、既に勇者たちとゼシカの戦いは佳境を迎えていた。サーベルトの『天照神楽(ヒノカミカグラ)』が炸裂して大ダメージを与え、さらにゼシカの自我が呼び起こされたことでラプソーンは大きく出力をダウンさせられており、もはやこちらの勝利は揺るがない。戦いの主導権を握っているのは俺の予想通りサーベルトだが、なかなかどうして勇者たちにも光るものがある。戦況を見極めてサポートに徹するエイト、戦況を見極めて相手が一番来てほしくないタイミングで攻撃を加えるヤンガス、戦況を見極めて回復しながら攻撃のチャンスは常に窺っているククール…戦況を見極めてる奴ばっか。戦闘熟練度こそまるで及ばないが、こと戦闘センスだけに絞ればサーベルトに勝るとも劣らないだろう。

 

「……ハァ…ハァ…なんて、こと…どうしてこの私が、肉体の制御権をこうも奪われるの…?…道化にも、くすんだ髪の女にも、この女にも…いくら賢者の血が二人分しか集まっていないとはいえ、こんなことが…」

 

まあ…それは相手が悪いというかなんというか…。俺は相手の魔力を外付けの魔力で押し流しただけだし、ゼシカには精神支配を凌駕するほどのショックを与えられたから…。ユリマ?…ええと、知らん。

 

「…許さ…ない、絶対に許さないわ…見せてあげ…る……闇の世界を統べる神の本当の実力をッ!!!」

 

ついにやけくそになったラプソーンは魔力を頭上にかき集めて巨大なエネルギー体を作り出した。なるほど、式を組み込んだ『魔法』だとサーベルトに反射されるから、ただのエネルギー体に変換したわけだ。半ば理性を失いながらもこういうところで抜かりないのがラプソーンの厄介さである。…ところでそんなもんぶっ放したら賢者ごと消えそうだけどそれは大丈夫なのだろうか?

 

俺がそんなことを考えているうちにタイミングよくハワードが現れた。…うん、大体想定通りだ。もしクラン・スピネルを俺が持って行った段階でまだ結界の作成に取り掛かっていなければ間に合っていなかっただろう。事前に「世界結界大全(レシピ)」を探しておくように言っていたことが功を奏したかな。

 

サーベルトは俺が助けに来てくれることを期待していたようだったが…俺をそんなスーパーヒーローか何かだと思わないで欲しい。無理なものは無理!……今だって割と余裕があるように振舞っているが、それは焦っても特に事態は好転しないということが経験上分かっているからそう心がけているだけで、今この瞬間も十二分に崖っぷちと言えば崖っぷちである。

 

「わしの住むこの美しい街をめちゃくちゃにし、わしの命までも狙わんとする不届き者めが!この超強力な退魔の結界を食らえいっ!どりゃあっ!!!」

 

「なっ!?ぐ、ぐわあああああああああっ!!!!!」

 

だが、安全地帯が確実に存在するからこその「崖」なのだ。別にヒーローは俺じゃなくてもいい。悍ましい断末魔と共にラプソーンの魔力は杖へと引き戻され、落下するゼシカはサーベルトが無事に受け止めた。戦いは無事に終了したが、俺の仕事はむしろここからだ。

 

「…。」

 

杖はカランカランと軽い音を立てて庭へ落ちた。俺は周りに一般人やレオパルドがいないことを確認すると、左腕に魔力を集中させる。常に聖の魔力を廻し続けるあの感覚を何度もシミュレーションしながら、俺は恐る恐る杖を手に取った。

 

「…(なんとも…ない、大丈夫)」

 

杖を握った時に悪しき魔力に触れられる不快感はあったものの、持って歩く分には問題なさそうだ。でも持ったままだとまた前のように眠れなくなるから、早く次の「箱」を作らないと。…まあ、とりあえず……

 

「…苦節数か月、やっと取り戻しましたよ…!『神鳥の杖』!!!」

 

俺は『ラグランジュ』を解いてサーベルトに作戦成功の意を伝えた。

 

 

 

 

 

…と同時に脳に響く声。

 

『…なんだ、草葉の陰に隠れて震えていたわけか。…ククク、なんとも哀れで滑稽な』

 

「(ラプソーン…もう貴様の出る幕はない。この街の魔物を掃討したら、お前をまた『箱』に入れる。今度はもう逃がさない)」

 

『……クク…悲しいな。嗚呼、実に悲しい。貴様…よもや()()()()()()()()()とでも考えているのではあるまいな?』

 

「…!!!」

 

俺はその瞬間耐え難い焦燥に駆られた。この言葉は負け惜しみ?こちらを混乱させるためのブラフ?それとも否?とにかく『ヤバい』。俺の脳は全力で警鐘を鳴らした。

 

「サーベルトッッ!!まだ終わってないッッ!!!」

 

俺のただならぬ叫びが届き、サーベルトは一瞬で警戒態勢に入る。ゼシカは既に屋敷の中に横たえてきたようだ。

 

『相も変わらず、反応の速さだけは悪くない…だが、貴様がやってきた小手先の準備と…我の"準備"とではまるで格が違う。貴様の準備など、所詮童の飯事(ままごと)よ』

 

何をしてくる?いや、この状態のラプソーンに何ができる?やはり負け惜しみ?…いや、コイツはそんな無駄な足掻きはしない。俺の頭はかつてないほど回転し、過去の記憶や原作知識を引っ張り出して考えられるパターンをいくつも導いていた。

 

「ドリィ!後ろだ!!!」

 

「えっ────」

 

しかし悲しいかな、原作知識はイレギュラーにめっぽう弱い。俺が振り向いた時には既に眼前に迫っていた「黒い爪」。当然避けきれずに俺は吹き飛ばされ、向かいの家の壁に激突する。

 

「があぁっ!!」

 

頭が痛い。血が出ている。失明…はしていない、大丈夫。耳も聞こえる。血の味、舌が切れた?…でも意識はある。ラプソーンは絶対に抑え込む!!!

 

『今の一撃で気を失っていれば楽に済んだものを…本当に哀れな道化よ』

 

「ドリィ!大丈夫か!」

 

「何とか…くそ、しかしここでコイツが出張ってくるとは……予想だにしていなかった…」

 

俺を痛烈に殴り飛ばした「黒い爪」の正体。翼を持つ三つ目の妖魔。ヤツもまた『この世界に存在しないはずの魔物』。

 

 

 

 

 

拾得するだけで強力な精神汚染を受ける杖を迂闊に触ることはできない。安全に拾うことができる者がいるとすれば、マルチェロのように強靭な精神と自我を持つ者か、それとも俺のように魔力制御に長け、精神汚染を跳ねのけることができる者か。

 

 

 

それとも………操る必要すらなく、最初からラプソーンに心酔している闇の手勢か。

 

 

 

「グハハハハ……さあ、並んで平伏せ、ニンゲンどもよ!!!順に八つ裂きにしてやるぞ!!!」

 

漆黒の羽根を壊れた街に舞わせながら噴水に降り立った獅子と鷲の鳥魔人『妖魔ゲモン』は、手負いの俺とサーベルトをねめつけて、嗜虐心に溢れた舌なめずりをした。

 

 

 

 

 

 

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