ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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わーお!知らないうちにUA数が300000を突破!?こ、これはもしや本当に最終目標のハーフミリオンも夢ではないのでわ…!?
それもこれも読者の皆々様のおかげです。いつもありがとうございます。これからも頑張って皆様に楽しんでいただけるようなものを作っていこうと思いますので、どうかお付き合いください!

今回、ちょっとだけ「残酷な描写」タグが仕事します(食べある記ほどではない)ので、ご留意の程よろしくお願いします。








Chapter29 リブルアーチ地方 ④

ゼシカの兄を名乗る男性の助太刀によってなんとか呪われしゼシカを打倒した一行。ひとまず窮地は脱したものの依然街には魔物たちがうろついており、エイトたちはトロデと共に魔物の残党たちの退治に奔走する。…そんな消化試合ムードの漂う中、突如建物の崩れる大きな音が聞こえてきた。

 

 

「なんだ?今、凄い音がしたよな?」

 

「屋敷の方でがす…兄貴」

 

「うん……嫌な予感がするね。幸い、街の北の方にはほとんど魔物は残っていないみたいだし、ゼシカも心配だ。戻ろうか。よろしいですか?王様」

 

「よい。ワシの方もこの通り、もうじき全員が街から脱出できるであろう。おぬしらもゼシカが気がかりじゃろうし、許可するぞ。少しの間だったが、住民たちの護衛ご苦労じゃった。」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「じゃ、じいさん後は頼むぜ」

 

「うむ、行ってこい」

 

そういうとトロデは引き続き住民を連れてゆっくりと街の北口へ向かう。ミーティアも久々に父親の先導者としての勇姿を見られて満足そうにしていた。

 

 

「妖魔…ゲモン…!」

 

「!…グハハハ……キサマ、ニンゲンのくせに俺のことを知っているとは…中々面白え野郎じゃねェか。そうさ、俺様こそが偉大なる暗黒神ラプソーン様が腹心、妖魔ゲモンだ」

 

所変わってハワード邸。倒壊したのは幸いにもハワード邸ではなくその向かいの家であるが、状況はゼシカと相対していた先程よりもさらに深刻である。ドルマゲスはサーベルトに肩を支えられて瓦礫と化した家から立ち上がり、噴水の上で翼を広げる半鳥半獣の魔物を睨みつけた。焦燥を隠しきれてはいないが、とっさに念力でハワード邸のドアを歪ませて開かなくし、屋敷の人間が外へ出て巻き込まれないようにする冷静さは保っているようだ。

 

「(なんでここ…しかもこんな時に…ッ!)」

 

「ラプソーン様直々のご命令により闇の世界から光の世界へ、バカな賢者どもに風穴を空けにやってきた次第よ。グハハハ…その杖はテメェのような汚らわしい下等生物が持ってていいモンじゃねェんだ、今すぐにその杖をよこしな!」

 

「…絶対に…イヤですね。断固拒否します。」

 

「この杖はこの世界を恐怖に陥れる呪物!貴様らのような闇の手先には絶対に渡さん!」

 

威勢よく啖呵を切るドルマゲスとサーベルトだが、その額には汗が浮き出ている。ドルマゲスとサーベルトが共に手負いの今、目の前の妖魔に対してはあまりに戦力が足りない。そう理解しているのだ。そんな二人の様子を見抜いたゲモンはさも愉しそうに、嘲るようにせせら笑った。

 

「グハハハハ!威勢のいいザコは好きだぜ?そうでなきゃ引き裂くときの泣き声喚き声が映えねェからな!」

 

「くっ……」

 

「ドリィ…ユリマは」

 

「んん?聞こえたぞ?ユリマといやあ、ラプソーン様が以前仮の宿としてお使いになっていた女だな?……グハハハ、そいつならさっき俺様が始末した。後ろからの一撃で墜ちたぞ。魔法出力が強くとも、防御力はゴミ同然!手応えすらなかった!ケヒヒッ、仕上げに火葬しておいてやったんだ、慈悲深い俺様に感謝するんだな!」

 

「…!」

 

「大丈夫です、サーベルト。ユリマはそう易々と斃される子じゃない」

 

「…あ、ああ、そうだよな」

 

『ゲモンよ…貴様、よもやここへ己が欲望を満たしに来たわけではあるまいな…』

 

その場にいる全員の脳に流れ込んでくるのは底知れぬ恐怖感を与える声。発生源は無論ドルマゲスが左手に握りしめている杖だ。

 

「ら、ラプソーン様!?勿論でございます!ええ!すぐにそこな男から貴方様を奪還してみせますとも!」

 

「来ますよッ!サーベルト!!」

 

噴水から跳びあがり、真っ直ぐこちらへ急降下してくるゲモン。ドルマゲスとサーベルトはそんな相手を迎え撃つべく構えたが、そんなゲモンを止めたのは杖から響く声。

 

『止まれ。ゲモンよ、計画は既に変更された。この道化をまずは確実に沈める…手筈は分かっているな?』

 

「…はっ!仰せのままに!」

 

「ドリィ!杖を黙らせることはできないのか!」

 

「さっきからもっと強く魔力を籠めていますが…!どうもこちらが乗っ取られないようにするのが精一杯で…!気を抜けばそれも危ういかも…」

 

「そうか…っ!」

 

ゲモンは急旋回して再度上空へ飛び上がると、獲物を甚振る肉食獣のような獰猛、かつ悪逆な笑みを浮かべた。

 

「グハハハハ!ザコの道化よ!その二つしかねェ目玉かっぴらいてよーく見ていな!」

 

そう言うとゲモンはくるりと向きを変え、リブルアーチの街並みに向かって「はげしい炎」を吐き出した。

 

「なっ!?」

 

ドルマゲスはすぐに飛び出し、「ぎゃくふう」で炎を跳ね返す。ゲモンは返ってきた炎をひらりと避けると今度はまた違う方向へ炎を吐いた。

 

「貴様ッ!何が目的…ッ!?」

 

「グハハハ!黙ってな!テメェのようなザコに割いてやる時間はねェ!大人しく俺様の手下と遊んでいやがれ!」

 

助太刀に入ろうとするサーベルトの背後から襲い掛かってきたのは「あんこくちょう」に「デスターキー」。ラプソーン配下、妖魔ゲモンの忠実な部下たちであり、先の戦いで呼び出された「クロコダイモス」同様、闇の世界に生息する高等モンスターである。それが甘く見積もっても十数体。影の中から現れた伏兵たちがサーベルトを取り囲んでいた。

 

「くそっ、なんて数…っ!」

 

 

「(何が目的だ…?さっきから賢者とは関係のない無差別な攻撃ばかり…)」

 

死に物狂いで「ぎゃくふう」を連発するドルマゲスだが、町中に放たれるはげしい炎を防ぎきることはやはり難しく、そのうちの何回かは街に衝突し、炎上する。分身してカバーすることも一瞬考えたが、おそらく力を分散させた状態での「ぎゃくふう」はかなりリスキーなものになるだろう。

 

「グハハハ…!チンタラしてるとどんどん街が燃えていくぜ?」

 

「さ、させない…ッ!」

 

飛んでくる灼熱を、回り込んで跳ね返す。その間に放たれる灼熱をまた回り込んで跳ね返す。回り込む、跳ね返す。間に合わない、炎上する。回り込む、跳ね返す。間に合わない、炎上する。ただでさえ頭部から出血しているドルマゲスは、全身の筋肉を酷使する運動と廻転し続ける霊力によって少しずつ判断力を鈍らせていった。そして…

 

 

 

 

「グハハハ!なかなか頑張るじゃないか?愉快愉快…だが…ただ風を吹かせるだけではこれは跳ね返せまい!」

 

そう言い放つとゲモンは鋭い爪で石造りの住居()()()()()を鷲掴みにし、そのまま投げつけた。投げた先は街の外…一見見当外れかと思いきや、外には避難したリブルアーチの住民たちが固まっていた。

 

「!!!させ、るか…ッ!『メラゾーマ』ッッ!!!」

 

ドルマゲスの放った豪火球はゲモンの投げた住宅にぶつかって弾け、海に落ちた。

 

「ハァ…ハァ…どうだ…!」

 

大方、疲弊させたタイミングでこちらの隙を突き、大量の人間を殺して心を折る作戦だったのだろう…そう予測し、相手の一撃を見事防いだドルマゲスだったが…その瞬間、ゲモンの口角が歪む。

 

「グハハハハハッ!!!…使ったな?今」

 

『クックック…使ったな?「魔法」を』

 

「なっ、くっ!し、しまった!!!!!」

 

既に頭部からの出血は地面に滴るまでになり、ドルマゲスの頭はまるで回っていなかった。しかしそれでもドルマゲスが自分を回復しなかったのは「今魔法を使うと危ない」と本能的に感じたから。しかし皮肉にも、その決断故に判断力が鈍り結局魔法を使ってしまった。

 

 

 

【…魔力とは精神力。ラプソーンが魔力を消費すれば、杖から魔力が充填されるまでは精神汚染も弱くなる。ならば、ラプソーンが魔力を解き放った瞬間であれば隙ができる】

 

 

 

かつてその理論は正しく機能し、トロデーン王国の戦いに於いてドルマゲスは見事ラプソーンの支配に一矢報いることができた。…しかし、ならばその逆も然り。ドルマゲスが魔法を使えば精神的な抵抗力は一時的に低下する。

 

そしてラプソーンは『大魔王』としてのカリスマこそ見る影もないが、闇…いわゆる「負」の部分を司る神である。卑劣で、意地が悪く、そして執念深い。一度出し抜かれた戦法をラプソーンは決して忘れはしない。ドルマゲスの背を数多の罪と悪意が走り抜け、飲み込んだ。

 

「きひゃっ! くははっ!! あはははははははははははははっ!! ひゃーはっはっはっはぁ!!」

 

 

「ドリィ…!!!」

 

「ら、ラプソーン様…お加減は大丈夫なのでしょうか…?」

 

「クク…問題ない。ただの"意趣返し"よ。ああ、先の女や町娘の身体に比べると随分と動きづらい肉体。だが…ッ」

 

ザシュッ

 

「こうする分には…まるで問題が無い」

 

「!!!」

 

ザシュッ ザシュッ

 

ドルマゲスの身体を乗っ取ったラプソーンはあろうことか、その手に持った杖で自分を串刺しにした。何度も、何度も。

 

「や、やめろおっ!!!」

 

「おおっと!そんなによそ見されちゃあ俺様の手下どもが妬けちまうぜ?」

 

「あっ!ぐああっ!」

 

ラプソーンを止めようと飛び出したサーベルトをゲモンが踵で地面に叩き落とす。そこへすかさず「デスターキー」の剣の一撃が刺さり、サーベルトの口元に泡を含んだ黒い血が垂れた。その隙を突いて他の魔物たちも畳みかけ、動けないサーベルトを殴り、掴み、裂く。

 

グシュッ ぐしゅっ ずちゅっ くちゅっ

 

サーベルトが嬲られているその傍らで、ラプソーンがドルマゲスの肉体を杖で刺す不快な音は次第に粘っこく、水っぽくなっていき、服は元の色が思い出せなくなるほどに赤黒く染まっていた。

 

「クク…嗚呼、愉快。嗚呼、滑稽。まさに『胸の()く』思いだな?ククク…哀れな。斯くも弱く愚鈍な同胞を救おうとするその虚栄心こそが己の身を亡ぼすと分からぬか、まるで学習能の無い奴よ」

 

「ラプソーン様!どうでしょうか!」

 

「重畳…やはりニンゲンは脆い…この哀れな道化の自我はもうどこにも見られぬわ。死んだか、最低でも意識はなかろう。…さて、死に逝くこの肉の殻にいつまでも宿るわけにもいかぬ。ゲモンよ!」

 

「はっ!不肖の魔、妖魔ゲモンは偉大なる暗黒神ラプソーン様復活の助力をさせていただけること、まこと恐悦至極に存じます!」

 

ラプソーンは自分の魔力を再度杖に込めると、ゲモンに杖を投げ渡した。同時に肉体の支配を解かれたドルマゲスはうつ伏せに倒れ、そのまま動かなくなった。ただ広がっていく血のシミだけがその容体の深刻さを物語っている。

 

「グハハハ…素晴らしい…!ラプソーン様の御力を受け、この肉体に魔力が更に漲ってくるのを感じるぞ…!」

 

闇の魔力で強化されたゲモンが爪を立てて引っ掻いてやれば、ハワード邸はいとも簡単に崩れ去った。黒雲の元に晒されたのはゲモンを睨みつけるハワード、呆然とするチェルス、そして屋敷の隅で縮こまっている使用人たち。彼らは戦地の真っただ中にいた故に避難することができなかったのだ。そしてチェルスの隣には未だ目を覚まさないゼシカが…

 

「さて、どいつから死にたいか?選ばせてやろう」

 

「あ…ああ…あ…!」

 

「!!!ぜ…しかァッッ!!!」

 

…『希望』未だ死なず。使用人たちが絶望に飲まれかけたその瞬間、群がる魔物たちを剣で切り開き、赤い風と化した血濡れのサーベルトがゲモンを蹴り飛ばした。

 

「ぐぬぅっ!?テメェ、その死に体のどこにそんな力が…!」

 

「ゼェ…ゼェ…」

 

家宝の鎧(サーベルトのよろい)は砕け、ドルマゲス特製の「オリハルコンの仮面」にすら罅が入るほどのダメージを受けたサーベルトに、最早ゲモンの言葉に返事をする余裕はない。

 

「お前さん…何が…いや、わ、わしはどうすればいい!?」

 

「に…げて…くれ…賢者の血を…ゼシカを…守って…」

 

絞り出されたサーベルトの声。注意していても聞き漏らしてしまいそうなそれを…その言葉に込められた確固たる意志を、ハワードはしかと受け取った。

 

「……わかった。……だが、逃げるのはわし以外の者たちだ。お前さんの妹は助ける、文句はないな?」

 

「…」

 

「ピーピー喧しいクズ共が、順番なんてまどろっこしい、全員一気に────ぐっ!?」

 

「喧しいのは…ゴボッ、お前らだ…さっさとこの街から…この世界から出て行け…っ!!!」

 

「…!ザコはザコらしくそこで寝てろ!そこの道化みたいによォ!!!」

 

 

「!!!は、ハワード様!?しかしそれではハワード様が!!!」

 

「うるさいぞチェルス!!…レオパルドちゃん!そこの女性を乗せて街の外まで行くのじゃ!お前たちはレオパルドちゃんに道案内をしろ!よいな!」

 

この家では当主の命令が絶対。黒い怪物への恐怖を心に刻まれた掟が上回り、我に返った使用人たちは急いでベッドに横たわるゼシカをそりに乗せ、レオパルドにそりの紐を括りつけようとする。しかし当のレオパルドは牙をむいて使用人たちを寄せ付けようとしない。目前の怪物にもまるで動じない愚か…あるいは豪胆な犬である。

 

「ウゥ~!バウ!バウワウ!!!」

 

「ハワード様!レオパルド様が!」

 

「レオパルド!!!わしのいうことが聞けんのか!!!」

 

「!?」

 

…猛犬と言えど飼い犬。産まれてこの方、誰にも叱られたことのなかったレオパルドは、突然の飼い主の豹変に酷く動揺した。…しかしそこは流石学習能力の高い犬、「ご主人様の機嫌が悪い時には餌が少なくなる」ことを思い出し、すぐに使用人たちに大人しく従うことを決める。使用人の内の一人が手際よくレオパルドの首輪に紐を括りつけ、そのまま全速力で階段を駆け下りていった。

 

「ハワード様!!どうか考え直して…!」

 

「チェルス!お前はどうしてそうわしを苛立たせるのだ!お前の顔などもう二度と見たくない!わしの命令には素直に従え!!さっさと逃げろ!」

 

「…っ!」

 

「…逃げてくれ。…頼む。今まで…すまなかった。」

 

「…は、ハワード、様…!?」

 

零れるように発せられたその言葉に一番驚いたのはチェルスでなく、他ならぬハワードだった。「逃げろ」など、いつもの自分では絶対に出てこない言葉。チェルスを遠ざけるような考えは今の今までただの一度も浮かんだことが無いのだ。それはドルマゲスの手引きによって二人に掛けられた「因縁の呪術」が解呪されたことが大いに関係しているのだが……彼らはそれを知らない。ハワードは自分から出た言葉への驚きをすんでのところで飲み込み、続けた。

 

「わしは…今まで大きな思い違いをしていたのだ。ドルマゲスにそれとなく諭された時こそわしを羨んだ末に口をついて出た世迷い事と思っていたのじゃが…チェルスよ、奴の言っていた通りお前こそが賢者の末裔だったのじゃ。わしなどただ大呪術師クーパス様のチカラを借り受けていただけの似非(えせ)呪術師に過ぎん。」

 

「!?そ、そんな!私は…僕はただの使用人で…」

 

「わしが『世界結界大全』を探している時、古い書庫に大呪術師クーパス様の手記と、わしのご先祖様の手記を見た。ハワード家に生まれたわしの真の使命は、賢者の末裔であるチェルス、お前を守ることだったのじゃ。今までは気持ちの整理がついていなかったが、この土壇場で決心した……チェルスよ。お前はわしが絶対に生かす。生かさねばならん」

 

「し、しかし僕は」

 

「お前とわしの出会いすら全て…大昔に仕組まれたものだったのじゃ。故にお前がわしに拾われたのも必然。お前がわしに恩義を感じる必要はない。」

 

「…」

 

「…しかしいくらお前が守るべき存在と分かったところで、わしがお前のことを嫌いなのは今も昔も変わっておらん。だから早く……行け!町の北まで!」

 

「…ハワードさまっ」

 

未練を吹っ切るように走り出すチェルス。ハワードはそれを見届けて口元に小さく笑みを浮かべると、すぐに向き直り吹っ飛んできたサーベルトを受け止めた。

 

「…ぅ…ぐ…」

 

「!(…な、なんと酷い怪我…なぜこれで立っていられる…いや、生きていられるのじゃ…)く…悪い、流石のわしでもこのレベルの傷は治せん。今ある傷の出血を止めるくらいしかできぬが…!」

 

ハワードが呪言を唱えると、全身の裂傷からどくどくと流れるサーベルトの血が止まり、体表に付着した血液は全て体内に再吸収された。

 

「恩に着る…これでまだ、戦える…!」

 

「…んなわけねェだろ!!いい加減にくたばれよ!テメェに割いてやる時間はねェっていってるだろうが!!」

 

「よくも…ドリィをッッ!!!!!」

 

「しつっこいんだよォ!!!」

 

「…!!!」

 

ゲモンは飛び込んできたサーベルトの頭を爪で掴んで地面に叩きつけ、更に上から何度も踏みつけて地面に埋め込んだ。頸椎を酷く損傷し、サーベルトは今度こそ意識を失ったようだ。

 

「(クソッ、思ったよりも時間を取られちまった…!賢者を逃がしたとあっちゃあ大失態、俺様も大目玉を食らっちまう。早く追いかけねば…)」

 

「ま、待ていっ!」

 

今しがた回復したばかりのサーベルトの敗北に慄くでもなく、怯えるでもなく、街道へ続く階段に仁王立ちで構えるハワード。その眼は今までの下卑たものではなく、自分の使命を真に理解した者の澄んだ瞳であった。

 

「……こちとらテメェにゃあ微塵も興味ねェんだ。殺す時間すら惜しい。端で縮こまっていやがれ、後でゆっくり引き裂いてやるよ」

 

「でやあああっ!!」

 

バチッ!

 

後で殺す、と言って背を向けたゲモンにハワードの放った光弾が炸裂する。その一撃は素手のサーベルトにも届かないような微小なダメージだったが、ゲモンを激昂させるには十分だった。

 

「…そうか。そおおおおォか!!!そこまで死にてェんなら!!今すぐにその首を身体とお別れさせてやるよォオ!!!」

 

額に大量の青筋を浮かべ、三つの瞳をギラギラと血走らせたゲモンは、鳥類特有の圧倒的な膂力に任せ、ラプソーンの封じられた『神鳥の杖』を投擲した。普段のゲモンならそんな不敬を働くわけがない。激昂して一時的に我を忘れた故の、異常な行動である。

 

「…ッ!」

 

咄嗟に防御結界を展開するハワードだが、内心では半ば諦めていた。ああ、自分はここで死ぬのだと。だが最後に使命を思い出せて、チェルスを逃がす時間稼ぎができてよかったと。妙な満足感すら覚えていた。

 

 

 

 

だが「悔いのない死」などという甘美なものはそう簡単に手に入らない。勝利の女神は常に公平である。

 

「…がはっ」

 

「!!!!!」

 

ゲモンの投げた神鳥の杖は、ハワードではなく、(ハワード)を突き飛ばしたチェルスの胸をまっすぐに貫いた。

 

 

 

 

 

 





原作との相違点

・レオパルドの魔犬化を回避した。
ドルマゲスは予めレオパルドを監禁することで、レオパルドがラプソーンに操られることを回避した。

・妖魔ゲモンがフライングで登場し、リブルアーチを襲った。
妖魔ゲモンは原作では次の次の次の次のダンジョンで戦うボス。その直前に戦う相手のせいで相対的に弱く見られがちだが、ボスの中では強い部類に入る。コイツが現れたのでドルマゲスがレオパルドを監禁したのは無駄だったかと思いきや、レオパルドがいればおそらくラプソーンはこちらに乗り移るはずなので、そうなればゲモンとレオパルドの二体を相手取ることになりほぼ確実に詰んでいた。

・ハワードがチェルス死亡前に自分の使命を思い出した。
原作ではチェルスが死んで初めて思い出すというなんとも虚しいことに。しかもチェルスの死に目にも立ち会えていない。大呪術師クーパスのかけた因縁の呪術はとことんポンコツである。


レベル:変化なし


妖魔ゲモンは皆様の解釈から外れすぎないよう、本作ではDQⅧの傲岸不遜な感じと、DQMJ2Pの下品な感じと、DQSの狂暴な感じを混ぜ合わせたような性格にしています。

妖魔ゲモンについて解説
妖魔ゲモンはかつてラプソーンに仕えていた直属の部下。どうみても大きな「ダークジャミラ」にしか見えない。もしかしたらダークジャミラスの中で一番大きく強い個体が『妖魔ゲモン』という名を手に入れられるのかも?原作ではラプソーンが七賢者と神鳥レティスに敗北し封印されてからの数百年間、ラプソーン復活に奔走するわけでもなく闇の世界で過ごし、レティスが卵を産んでからは闇の神鳥の巣に陣取って卵を人質に取り、ひたすらレティスに嫌がらせをするだけの毎日を過ごしていた(どちらにしろレティスは闇の世界から出られないので本当に意味のないことをしていた)。このことからラプソーンを熱烈に信仰している狂信者というわけではなく、ラプソーンを上司のように捉えている魔物のようだ。上司とはいえ自分の住む世界を束ねる神なので、崇拝はしている。本作では、そんな上司から何チンタラ遊んでんねんとお叱りを受け、慌ててこちらの世界にやってきた。闇の世界に残された卵はレティスが今も大事に温めているようである。
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