ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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お久しぶりです(覚えておられますでしょうか!)。年末も年始も終ぞ一話もお届けできず申し訳ありませんでした…。

いつぞや以来のスランプ・ハズ・カム・バックです。全然文章が書けなくなっちゃいました。

心の中の魔人ブウ「こまった…ちょっと書けない…」








新・第六章 ドルマゲス捜索編 其の壱

おはようございます。アスカンタ王国王室小間使い(休暇中)兼、U.S.A.所属アスカンタ王国専属メンテナーのキラです。……まさか、こんなことになってしまうなんて。…嗚呼、どうかサーベルト様が、ユリマさんが、そして……ドルマゲス様が無事でありますように。どうか、どうか。

 

 

そこかしこから建物の倒壊する音が響いていて───。

 

私はライラス様と共に、怯えるリブルアーチの住民の方々を宥め、励まして回っていました。不安からか…私に心無い言葉をぶつけてくる方も多くいらっしゃいました。私がおばあちゃんの家で過ごしていた時には、お城で王様、王妃様に給仕していた時には、ドルマゲス様たちと旅をしていた時には決して言われなかったような言葉。…正直、とてもショックでした。…しかし、弱きを助けて強きを挫くのがドルマゲス様のポリシー。なればそれは彼に付き従う私のポリシーでもあります。『ソルプレッサ』さんに乗って必死に避難を呼びかけ続けると、次第に住民の皆さんも理解を示してくださり、アスカンタでお見かけした───たしか今は『勇者』様?のお仲間として行動されている───トロデ王とミーティア王女のご助力もあって避難は順調に進んでいました。

 

ユリマさんが魔物を蹴散らし、ライラス様が護衛に入ってくださったおかげで危なげなく伏魔殿と化したリブルアーチから脱出できた私は、妙に爽やかな風の吹く平原から轟音響く街を眺めていました。

 

大丈夫、ドルマゲス様は負けません。負けたところを私は見たことがありません。ドルマゲス様が全幅の信頼を置くサーベルト様もいらっしゃいますし、ユリマさんも。…少しだけ、ほんの少しだけ胸が締め付けられる感じがしますが、ユリマさんは私よりもドルマゲス様にかけられるものが多い、というのは明白な事実です。私は彼女のように直接的なあい…コホン、感情表現はできませんし、何の躊躇いもなく命を投げうつことはできません。もちろん、仲間たちの為ならばこの身を捧げる覚悟はありますが…覚悟を決めることと行動に移すことにはやはり距離があって…。こんな時、やはり私に力が無いことを口惜しく思ってしまいます。

 

「キラよ、住民たちの様子はどうだ」

 

「ライラス様…はい、住処を追われたことによる不安は依然残っているようですが、目立った傷病人もいないおかげか、おおよそ安定しています。」

 

ライラス様はそうか、とだけ述べると私と同様に街の方角を向かれました。彼もまたドルマゲス様たちが心配なのでしょう。本人の性格から鑑みるに…決してそれを口には出されないでしょうけど。

 

「ライラス様」

 

「なんだ」

 

「ドルマゲス様たちは…きっと問題なく帰還なされますよね」

 

「…。」

 

「…」

 

「当たり前だ。アイツは暗黒神なんぞに遅れは取らん」

 

私にはその言葉を聞くと安心して口を噤みました。ライラス様がそう仰られるのなら、きっと大丈夫なのでしょう。そう思いました。

 

 

 

 

 

そう、思い込みました。私の頭の中にある嫌な予感を拭いたかったから。

 

 

 

 

 

住民のみなさんから大きなどよめきが上がった時、私は膝を擦りむいてしまった少年の手当てをちょうど終えたところでした。振り返った私の目に映ったのは…街の上空で今にも全てを飲み込まんと佇む昏く禍々しい、まるで『黒い太陽』。それを目にした瞬間私は凄まじい胸騒ぎに襲われて、一目散に飛び出しました。

 

「なっ!止まれキラ!」

 

「『ソルプレッサ』!!」

 

ライラス様の制止に聞こえないふりをして、私はソルプレッサさんを呼び出し、その背に乗って走り出しました。あんな恐ろしいものがぶつかれば、さしものドルマゲス様もただでは済まないかもしれません。今なら間に合います、今なら…!

 

「止まるんだ!」

 

「きゃっ!」

 

突然ソルプレッサさんは動きが止まり、私は慣性に従って転げ落ちました。ライラス様の口から唱えられたのはセキュリティサービスやオートマターの電源を強制的に落とす緊急停止コード。…ドルマゲス様がライラス様に伝えられたのでしょうか。私とドルマゲス様しか知らないはずだったのに……。

 

「…悪い、キラ。気持ちは十二分にわかる、しかし許せ。ここでお前を行かせてしまうと……わしはもうドルマゲスの師匠ではいられなくなってしまう」

 

「…」

 

「許せ」

 

ライラス様は座り込む私の前に杖を刺して進路を塞ぎました。黒球に飲み込まれる街、崩落していく街を見て絶望する人たちの嘆きの声、風に乗って微かに香ってくる血の匂い。そこから想起させられる様々な気持ちが重なって……どのみち私にはそこから立ち上がる気力が残っていませんでした。

 

リブルアーチだったもの、その最後の瓦礫が海に落ちて凪いだ時。その時に初めて私は事の重要性に気づきました。考えないようにしていた、可能性。

 

 

 

すなわち、『全滅』。ドルマゲス様とサーベルト様が、負ける。

 

「ああ…あ…」

 

片や出来ないことなど何もないと豪語するほどに多様な手段と明晰な頭脳を持つ最強の道化師ドルマゲス様。片や世界一の剣士を名乗ろうとも誰も文句を言うことのできないほどに完成した剣技を、今もなお磨き続ける最強の剣士サーベルト様。お二方が揃って敵わないものなどありはしない。それはU.S.A.では誰もが知る常識でした。

 

それに加えてユリマさんと勇者様がいて、どうして敗北することがあるでしょうか。私はどこかそう思っていました。いつもの通り、最終的には何とかなる────ベルガラックや闇の遺跡での一戦のように。

 

 

 

しかし夢は醒めます。現実という冷水によって。

 

「……………負けた、敵わなかった、のか…」

 

「そ、んな。そんなわけが…」

 

「…」

 

「ら、ライラス様、先ほど私に仰られましたよね?暗黒神に遅れは取らないと」

 

「……」

 

「ライラス様…!?」

 

ライラス様は口を閉ざしたまま俯かれました。その沈黙は…その沈黙が私にとっては答え合わせ。

 

「…っ」

 

「おい!キラ!何をするつもりだ!!!」

 

「…っうみを!海を探します!きっと皆様は海へ逃げ延びたのです!!!今ならまだ…ッ」

 

「無謀だ!それに…。」

 

「…」

 

「…」

 

「……そんな、そんな…」

 

ライラス様は私の肩を持って抑え込み、私は呆気なく地面に組み伏せられてしまいました。…彼が続く言葉であろう『無駄だ』と仰られなかったのは私を慮ってのことでしょうか。それとも彼もまた諦めたくなかったのでしょうか。

 

「う、うぅ…うぅう……」

 

ぱ、と手を放して立ち上がり、埃を払うライラス様の後ろでさめざめと泣く私。なんて無力なのでしょう。この時、私は何故泣いていたのでしょうか。驚き?絶望?恐怖?悲しみ?……もしかしたら悔しかったのかもしれません。自分が完全に蚊帳の外になってしまっていたことに。「私のせいで」という状況にすら至れず、私の全く関係しないところで私の敬愛する方々は姿を消してしまった。私は最初からいてもいなくても同じだった。もしかしたらこんな状況で、私は自分の為に泣いていたのかもしれません。自己本位。不義理。最低。

 

私の後ろで慟哭に暮れるリブルアーチの皆様。顔を青くするトロデ王、眠りこける勇者の女性と、同じく青い顔の大柄な勇者の男性。亡骸を抱き、泣き崩れるのは…ハワード様。では、あのお方が賢者様……。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

ああ、何も守れていないじゃないですか。何もかも。私は何のために、私たちは何のために……。

 

ふっと身体中の力が抜け、そのまま倒れる私────

 

 

 

 

「立て。いや、せめて…倒れてくれるな。希望を捨てるな!」

 

「…」

 

 

 

────を寸前で受け止めたのは、やはりライラス様でした。…前言を撤回します。彼は諦めたくなかったのではありませんでした。彼はまだ「諦めていなかった」。ずっと注意深く魔力の流れを観察していたのです。でもそうだとして、今更何が…

 

「しっかりしろキラ!"何か"が来るぞ!」

 

「…えっ」

 

準備?何が起こるの?何かって何?私がそんな思考を巡らせる暇もなく、突然私の目の前に橙色の光球が出現しました。魔物の攻撃!?…いや、そのような攻撃的な魔法ではない。魔力のあまりない私にもそれは分かります。それではこれは何?私が戸惑っていた一瞬のうちに光球は粒子となってかき消え、中から現れたのは…

 

「…!!!」

 

バンダナの勇者様、修道士の勇者様、そして……

 

「サーベルト様!!!ユリマさん!!!」

 

手足がぐずぐずに潰れて変形してしまったユリマさんと全身から夥しい血を流しているサーベルト様が血の海に沈んでいました。私は気を失いそうになる情けない自分を律すべく舌を噛み────

 

「…っ、しょ、処置を、手当てを…!」

 

よたよたと救急箱を手に駆けだしました。

 

 

 

 

突然現れた勇者様たちに驚いたのはなにも私とライラス様だけではありません。トロデ王と大柄な勇者様、そしてリブルアーチの住民の皆様も不思議な光を目にして集まって来ていました。

 

「ライラス様ッ!治療を!!」

 

「もう始めている!お前はユリマの方を!!」

 

「はい!…っ!」

 

ユリマさんはもうほとんど何も身に纏っていませんでした。自ら脱いだのか、それとも…。とにかく、衆人の眼にユリマさんの嫁入り前の裸体を晒させるわけにはいかないので、私は自分のライダースーツを脱ぎ、急いでユリマさんに被せました。変形してしまった手足を極力刺激しないように。上着を脱いだ私が着ているのはただの肌着が一枚だけ。到底人前に出て良いような恰好ではありませんが、ユリマさんをそのままにしておくという選択肢は元よりありません。

 

「おい、エイト…街が……!」

 

私が「せかいじゅのしずく」を何とかユリマさんに飲み込ませようと四苦八苦している間に、修道士の勇者様が指したのは自分たちが先程まで確かに立っていたリブルアーチがあった場所。…今はもう跡形もありません。治療は時間との勝負。私は勇者様には目もくれずユリマさんに包帯を巻き始めました。

 

「…」

 

「…!」

 

「…ホント、ギリギリセーフだったってわけだ」

 

 

「おおお!エイト!ククール!!無事じゃったか!!!」

 

「まあ、なんとかな」

 

「兄貴ィ!!!アッシは、アッシはもうダメかと…」

 

「王様!ヤンガス!ゼシカも、みんな無事で良かった…」

 

勇者様たちも再会を喜んでおられます。…私個人としてはアスカンタでの一件から勇者様たちのことをそこまで快く思っていないのですが、今はそのようなことにこだわっている時ではありません。巻き終わった包帯の合間から「せかいじゅのしずく」が作用してユリマさんの傷が引いていくのを確認したのち、私はライダースーツを羽織り、徐に立ち上がって勇者様に声を掛けました。

 

「あ…あのっ!」

 

「ん?お嬢さんは…ああ、アスカンタの。ウチのじいさんと一緒に避難を誘導していたんだったな。無事で良かった。しかし、キミのようなレディがどうしてこんなところに?」

 

「……。」

 

「なにか、アッシらに聞きたいことがあるでがすか?」

 

「その……ドルマゲス様を…お見かけしませんでしたかっ…」

 

「!!!」

 

「な……!」

 

瞬く間に凍り付く空気。しかしなりふり構っている場合では…ありません。

 

「アンタ、なんでその名を……」

 

「存じ上げています。あなた方の旅の目的、ドルマゲス様との確執。……差し出がましい申し出ではありますが、教えてくださいませんか。リブルアーチでの一部始終を。嘘偽りなく。」

 

「…!」

 

「キラ…」

 

私はバンダナの勇者様から目を離すことのないように見つめ続けました。誰かにお願い事をするときは丁寧に、丁重に。そして誠意と覚悟を見せることが重要だ、というのはかつてドルマゲス様からご教授いただいた心得です。

 

「王様、どうしましょう……?」

 

「…わからんか?あのお嬢さんはワシではなくエイト、お主に問うておるのじゃ。お主が決断すればそれが正解となるじゃろうて」

 

「まあ兄貴、話だけでも聞いてあげましょうや」

 

「ああ。それでいいんじゃないか?オレたちもそろそろずっと追いかけてる相手が何者かくらいは知りたい。なあ?キミは知っているんじゃないか?オレたちの真の敵を」

 

「はい。知っています。」

 

「…」

 

「今はただ、ドルマゲス様の所在が知りたいのです。そのためなら文字通り"なんでも"致しましょう。私に出来ることならば」

 

間髪入れず返答、追撃。しかし…嗚呼、『なんでも』などと大言壮語を吐いて、果たして私に何が成せるのでしょうか。ユリマさんの言う通り私の身体は貧相で、頭の良さもライラス様には遠く遠く、足元にも及ばず、サーベルト様のように力強くも素早くもありません。どこにでもいる、夢見がちなただの小娘だというのに。

 

「わかりました。僕たちが見たもの、見てきたものを全てお話ししましょう。」

 

こうして私は、己のちっぽけさを痛感しながら勇者様との情報交流会に臨むのです。せめてなにか、この場にいらっしゃらないドルマゲス様の所在に繋がるものを得られるでしょうか。

 

 

……

 

 

「……」

 

「そう、気を落とすな。キラ。」

 

「……はい」

 

結局、勇者様たちはドルマゲス様の所在地に関する情報は何もお持ちではありませんでした。完全に取り越し苦労で、空回りで…何してるんでしょうね、私。

 

「勇者共はドルマゲスなんていなかったなどと抜かしおったが、今しがたわしもハワードにも話を聞いてきたところだ。確かにドルマゲスはハワード邸で魔物と戦っていたようだ。」

 

「…!」

 

やっぱり…だったらどこへ。私がそう口を開こうとすると、それよりも早く私たちの間に割り込んでくる声が。

 

「ああ、俺とドリィは一緒に戦っていたんだ」

 

「…ぇ」

 

「サーベルト!?お前、もう起きたのか!?」

 

「たった今な。いつまでも寝ているわけにはいかないさ。…ほっ、はっ。……ん。よし、骨も治ってるし神経系も問題なさそうだ。ありがとうございます、ライラスさん」

 

「あ、ああ……」

 

先程まで意識を失っていたはずのサーベルト様がもう立っておられました。…なんなら身体の調子を試すためかその場で跳躍なされて…時々、彼は実は人間ではないのではないかと思ってしまう時すらあります。こんな失礼なこと、サーベルト様には口が裂けても言えませんけど。…だって、こんなの人間業とは思えない…ですし…。

 

「そ、それより!サーベルト様!…あっ、それよりじゃなくて、まずはおはようございます、一時はどうなるかと思いましたが、元気なようで私も本当に嬉しいです!…ええと、それで…」

 

「焦らなくていい、キラ。分かってるさ。ちゃんと説明する…しかし、恥ずかしながら先の戦いで俺は力及ばず途中で敗北してしまって…ユリマの声が聞こえてきたところまでは意識があるんだが…そうだ!ユリマは!」

 

「ユリマさんならサーベルト様の後ろに…」

 

ユリマさんは私が治療したのち、落ち葉を集めて作った簡易な寝床に寝かせています。ドルマゲス様がいればこんな枯草からでも上質なベッドを作れるのに…

 

「うわっ、これユリマだったのか!?俺はてっきり自然発生した『ミイラ男』の屍かと…」

 

「…サーベルト様、流石にこんな状況で縁起でもないご冗談を言われるのは…」

 

「すまん、あいや別に冗談のつもりじゃあなかったんだが…いや、むしろ結果オーライか」

 

???私個人的には完璧な治療を施したつもりで……。少し、ほんの少しだけ包帯をきつく巻きすぎてしまったような気がしないでもないですが、ユリマさんの症状は主に火傷に骨折。包帯はあって困らないと思うのですけど…。

 

「俺は目覚める前から、意識の深層でキラたちの話を聞いていたんだ。」

 

「え、えぇ……?」

 

「いよいよ人間味が薄れてきたな」

 

「…ライラスさん?」

 

「なんでもない。続けろ。」

 

「…。ゴホン、さっきキラは勇者たちと話していただろう?いずれ解く誤解とはいえ、勇者と確執のあるユリマを今引き合わせるわけにはいかなかったんだ。…まあしかしここまで個人の判別のつかない状態ならバレはしなかっただろうな。」

 

確かに…。私は先ほど勇者様たちに暗黒神ラプソーンについてお話したのでおそらくドルマゲス様やユリマさんへの疑惑はやや薄れているかもしれませんが、話す前にユリマさんと出会っていたらもうひと悶着あったかもしれません。勇者様がユリマさんを連れて脱出するときに気が付かなかったのが幸い……。……いえ、髪も変色して顔も傷だらけで。それで正体がバレなかったといって、そんなのを幸いとは言えませんよね。

 

「ユリマはまだ起きなさそうか?」

 

「お前の起きるのが早すぎるだけだ、サーベルト」

 

「そうか、はは…ま、とりあえず……」

 

「?どちらへ?」

 

「勇者たちを次の賢者のところへ向かわせないとな。雪国の町『オークニス』。…そもそも、まだ俺とユリマの命を救ってもらった礼も言えていない。」

 

「…!」

 

 

 

サーベルト様は、もう、次を、見据えて。私は。

 

 

 

「…なぜ」

 

「?」

 

私はほとんど反射的にサーベルト様の服の裾を掴んで引き留めてしまいました。

 

「なぜ…サーベルト様はそんなに気丈でいられるのですか。ドルマゲス様が…行方不明なのに」

 

「…」

 

「私は………正直心細くて今にも消えてしまいそうです。こんな気分は生まれて初めてです。世界で一番強い道化師のドルマゲス様、世界で一番強い剣士のサーベルト様、あわやその二人を失いかけて……私にはもう、何を心の拠り所にすればいいのか…」

 

やはり、サーベルト様はその心根から私と徹底的に異なっているのでしょうか。私が弱いだけ…なのでしょうか。

 

「…キラ。」

 

「はい…」

 

「俺も、君と変わりはないさ。こう見えても俺はかなり落ち込んでいる。相手に勝てなかったこと、仲間を守れなかったこと。世界の危機というドリィの言葉がここへ来ていよいよ現実味を帯びてきて、しかし当の本人はいない。……こんなに心細いことがあるか?」

 

「…!だったら…」

 

「まずはドリィを信じること。俺が倒れた後のリブルアーチで何があったのかは未だ知らないが、俺はドリィが死ぬようなヘマはしないと思っている。ですよね?ライラスさん」

 

「…まあ。あの街から生きて戻る方法については皆目見当もつかんが、あいつはこんな道半ばで死ぬようなタマではないだろうな。」

 

「…そ、それなら私も…」

 

「ああ。それは俺たちなら誰にでもできる。俺たちがしなければならないのはその先のことだ」

 

「その先…」

 

「行動するんだ。あいつならどう動くか…ではなく、あいつなら俺たちにどう動いてほしいか。それを想像して、動く。俺はそれが最善だと思っている」

 

「…」

 

「俺はドリィじゃないから、彼が何を考えているのか分からない。だがそれは彼の為に動かない理由にはならない。一歩でも動かないと。それがドリィと近しい存在にある俺たちの責務じゃないかと俺は思うんだ。拠り所は変わらない。ドリィと…まあ、ドリィの信じる俺を信じてくれれば良いさ。」

 

「…でも」

 

「?」

 

「でも、私には何も…何もないのです。頭も、身体も、心も、何も秀でていないのです。私に為せることは何も…」

 

私が絞り出すようにそう告げると、サーベルト様はきょとんとした表情に、ライラス様は眉を顰められました。…何か、出しゃばったことを言ったでしょうか?

 

「いや…キラは良いだろう?頭」

 

「えっ」

 

「頭、というより要領が良い。物事の覚えも早いな」

 

「えっ。ですがライラス様には遠く…」

 

「たわけが。十数年生きただけのお前に並ばれるようなわしではないわ」

 

「あいたっ」

 

「俺にはセキュリティサービスの操作はさっぱりだ。戦闘の指揮もできない」

 

「えっ、あっ…」

 

「キラ」

 

「は…はい…?」

 

「君は自分が思っているよりもずっとすごいヤツなのさ。…『世界一の剣士』である俺が保証するよ」

 

「…今一度考えてみるんだな。自分に出来ることを。ドルマゲスがお前にどうしてほしいか。そうすれば自ずと答えは見えてくるはずだ」

 

「…!!!」

 

サーベルト様は『世界一』と自称する際に少し照れ臭そうに、ライラス様は対照的に終始真顔で。私の価値を認めてくださいました。正直、嬉しさよりも驚いています。お二方が私をそんなふうに評価してくださっていたなんて。

 

「…。」

 

私に、出来ること。こんな私でも出来ること。私だから……出来ること。

 

「さあ、キラ。()()()。君はこれから何を成す?」

 

「尊重しよう。あのバカ弟子ならばともかく、お前の提言する案ならわしは信頼できる。」

 

「…」

 

「わ、私は…」

 

目を閉じて。私の中に在るという美点について考えを巡らせる…要領の良さ、物事の覚えの良さ、セキュリティサービスの操作能力、指揮能力。

 

目を開けて。目の前の風景を、光景を、世界を見る…消え去った街、帰る場所を失い嘆く人々、行き場のない感情を燻らせている職人たち、こんな私に期待してくれる二人の男性、すうすうと寝息を立てる一人の女性。

 

…これでしょうか。私にできる…やらなければならないこと。ドルマゲス様が私にやってほしいこと。

 

「「私は?」」

 

大きく息を吸って。

 

「U.S.A.全従業員をあげて…ドルマゲス様を捜索します。それと並行してリブルアーチを再建します。」

 

「…ほう」「つまり?」

 

「U.S.A.の全権をドルマゲス様から私に委譲します。」

 

「随分と勝手じゃないか?」「全くだ。今からわしにお前の部下になれと?」

 

「はい。とんでもない越権行為です。ちなみにサーベルト様も今から私と個人的に雇用契約を結ばせていただきます。」

 

「大きく出たな、キラよ」「へぇ…。キミにとっては俺も駒の一つというわけだ」

 

「取締役であるドルマゲス様のいない今、指導者の椅子は空席…組織には先導する者が必要です。私がその席につきます。」

 

「はあ……俺はドリィの為に動けと言ったが、道化になれとまでは言ってないぞ?」

「やれやれ、(しお)れていると思っていたら、まだこんなバカげた計画を考えられる余裕があったとはな。見誤ったか」

 

「…やっぱり、ダメですか?」

 

……なんて。優しいお二方のこと、返ってくる言葉は十分承知しています。

 

「「いいや、面白い!!乗った!!!」」

 

「…うふふっ」

 

 

 

私は…救われてばかりですね。ユリマさんの強さに、サーベルト様とライラス様の優しさに、そしてドルマゲス様の輝きに。でも、私だってもう眺めているだけじゃダメなんです。貴方様がお帰りになるまでは、私が貴方様のお城を全身全霊で守りましょう。

 

ですのでドルマゲス様…きっと、帰ってきてくださいね。私が必ず見つけに行きますから。

 

 

 

 

 

 




キラたそのモノローグ難すぃ~こんな難しい話の途中で筆置くんじゃなかった~

サーベルトが意識の深層でキラたちの話を聞いていたというのは『ドラゴンボール』シリーズでフリーザ編の悟空や生残者グラノラ編のグラノラがやっていたようなものを意識してます。サーベルトは最初から馬姫を担ぐくらいの馬鹿力なのでほぼサイヤ人みたいなもんです。

ちなみに勇者たちがリブルアーチから脱出する際に使った呪文は『ルーラ』ではなく『リレミト』です。そのうちもう少し詳しく解説する予定です。

次話…絶対書くので、そこは安心してください。私はエタりません!!!
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