ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい   作:えにぃ

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でもただのスランプじゃねぇぞ…何度でも意志の弱さで筆を置き、停滞する

ド級のスランプ ドスランプだ!!!



「…はッ!?そ、それじゃあまさか、ドルマゲスさん、本当は『ド級のルマゲス』で『ドルマゲス』だったんですか…!?…うぅ、不肖ユリマ、こんなことにも気がつかないなんて…正妻失格です(アンケート結果参照)」

「ルマゲスって何ですか?」

「驚いた、ドリィは『ド級のリィ』だったわけか。…俺もまだまだだ、アルバート家の跡取りとして恥ずかしいな」

「何言ってんですか?貴方それ同じことお母様の前で言えます???」

「ルマゲス…様…?これからはそうお呼びした方がよろしいのでしょうか…?」

「いいんですよ呼ばなくて。キラさんは本当に素直でいい子ですねぇ」

「流石のわしも知らなんだ。お前がかの『ルマゲス』だったとは…これは一本取られたな」

「そんな一本要りませんよぅ。師匠までノると収集つかなくなるんで、いやホント」



「『ド級のルマゲス』…か。…ククク、道理で『あの』時『ああ』なったわけだ…漸く合点がいったわ…」

「は?お前は帰れよ。調子乗って適当なこと言ってんじゃねぇ帰れよ」「スマヌ」




が、頑張るぞ!








新・第七章 ドルマゲス捜索編 其の弐

おはよう。リーザス村の領主の息子…今は一人の剣士としてドリィ達に付き、世界を破滅から護るための旅をしているサーベルト・アルバートだ。…キラにはああして強がりを言ったが、やはり俺だって不安だし、心細い。もちろんドリィが死んだとは思っていないが…いつでも自信たっぷりなあの顔を見ないとやはりどうにも落ち着かない。

 

とはいえ、だ。俺は俺に出来ることをやるだけさ。それしかないんだ。

 

 

 

 

「オークニスに…ですか?」

 

「ああ。そこに賢者はいる。きっとだ。」

 

俺はキラの決意を確認した後、ゼシカたち──といっても本人は寝ているが──に行き先を伝えた。俺は基本的に人を騙すのが不得手だし、仮に得意だとしてそれを良しとはしない。しかしそんな俺と比べ、ドリィは実に巧く嘘をつく。そして奇妙なことに大抵それで凡その物事は上手くいき、皆が満足する結果になるのだから本当に凄い。

 

『誠実な人は嘘をつけませんが、嘘をつける人が必ずしも不実だとは私は思いません。サーベルト、方便と呼んでください?合理的虚偽です、ごーりてききょぎ。』

 

以前、嘘で人を操ろうとしていたドリィを俺が諫めようとした際、彼はそう言った。…まあ屁理屈には違いないのだが、その一方で納得できるところもあったのは事実だ。ドリィは人を動かすためによく嘘をつくが、自己保身のための嘘は俺の知る限り一度もない。そもそも俺やゼシカを何度も助けてくれたドリィが不実なわけがないしな。

 

…話が逸れたが、話術も優れているキラの説明ならともかく、嘘をつけない俺が勇者たちと相対するのは少なからずリスクの伴う行為だと思う。だが、俺からの言葉であれば勇者たちは信用してくれる、とドリィが言うのであれば致し方あるまい。

 

『ゼシカさんを説得するのであればサーベルトの言葉以上に有効なものは無いでしょう。嘘をつけなくとも、真実でゴリ押せば万事意外と何とかなるものです。結局モノを言うのは勢いですからね。』

 

『…』

 

『な、なぁんですかサーベルト!その限界まで薄めた目は!』

 

『…』

 

…うーん、まあ不安が無いと言えばウソになるかもしれないが。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それは本当…なのか?」

 

「妹の前で嘘はつかない。本当だ。」

 

「…理由は。理由はそれだけってことは無さそうだが?……ああいや、気を悪くしないでくれ。オレたちは何も助けてくれたアンタのことを疑いたいワケじゃあないんだ。ただ、あー、少し──」

 

「「アンタの提案はオレたちに都合が良すぎる」…か?」「!」

 

銀髪の勇者の言い分はよく分かる。冒険者である彼らは──いや、自由の象徴たる冒険者だからこそか?『敷かれたレール』、もとい『これ見よがしに置かれた宝箱』には人一倍敏感…ということだろう。リブルアーチが襲われ、自分たちが窮地に陥った瞬間に俺が助けに来る。そして命を救われ、さらに次の行き先まで指示される。…なるほど、こうも都合のいい展開が連鎖すれば俺でも少々訝しむものだ。だが、打算こそあれど俺に彼らを害する気などは毛頭ない。その上で疑いの目を向けられる。説明したくとも、できない。もどかしい──

 

「…。」

 

ドリィはいつもこんな辛さを抱えながら動いてくれていたんだな。俺たちの為に。

 

「…サーベルトさん?」

 

「…おっと、失礼した。まだ病み上がりなものでな」

 

「病み上がりというか、オレが見た時は死体どころか肉塊と見間違いそうな惨状だったんだが…」

 

「…。」

 

人を死体だ肉塊だなどと失礼な男だ。…まさかゼシカは彼に気があるんじゃないだろうな?ゼシカはあれでいて面食いだからな、この男の面の良さに惑わされている可能性もある。

 

少々、いやかなり気になるところだが…俺は咳払いを一つして続ける。

 

「都合がいい…と言えばそうだろう。しかし生憎俺は証拠になるようなものは何も持ち合わせていなくてな。…とにかく、今はただ、北へ。それが君たちにとっても、俺たちにとっても最善なんだ。」

 

「ちょ、待ってくだせぇ、サーベルトの兄ちゃん!さっき聞いたキラのはなし──」

 

「悪いな。俺も分からないことばかりなんだ。…もう行かなくては。ゼシカをよろしく頼む。起きたら心配していたと伝えてくれ。…信じてくれなくてもいい。ただ、俺は君たちのことを信じているよ。じゃあ。」

 

バンダナの勇者はなおも俺に詰め寄ろうとする大柄な勇者を引き留めた。ヤンガスと呼ばれた男はもう少し俺に聞きたいことがあったようだが、いくつかの問答の末に勇者たちは馬車へ戻っていく。馬車が北へ向かって走り出すのを見届けた俺はキラたちの元へ戻ることにした。ふぅ、これ以上はボロが出そうだったので助かった。…全く、尋問なんてするのもされるのも得意じゃないんだ。

 

「またな、ゼシカ。」

 

「…。」

 

どうしてもゼシカのことが気になってしまう俺は、やっぱり馬車が木々に隠れて見えなくなるまで見送ることにした。

 

 

「ん。サーベルト、帰ったか。」

 

「はい、只今。…ライラスさん、やはり俺にこういうのは向いていないようです。」

 

先程までの問答を思い出すだけで顔から火が出るほど恥ずかしい。自分でも分かるほど苦しい言い分だ。指示だけを飛ばし、こちらの情報は何も開示しなかった挙句、最後には逃げるようにして話を打ち切ってしまった。ドリィかキラが見ていたら頭を抱えるほど情けない働きだったろう。ゼシカだけは俺の意志を汲んでくれるはずだから、勇者たちが今の言葉を過不足なくゼシカに伝えてくれることを祈るしかない。

 

「お前はくそ真面目だからな。…しかしお前も村の次期領主ならば、腹事だの駆け引きだのの技術経験は必要ではないのか?」

 

「う。耳が痛いですね…」

 

背を向けたままのライラスさんはユリマの治療を続けている。平静を装っているが、精密な治療には莫大な魔力と集中力が必要だということは彼の首筋に流れる汗が物語る。邪魔をするわけにはいかない。キラの所へ…

 

「キラはこのテントの裏に人を集めて演説をするつもりらしい。お前も暇ならその生まれの権力を振りかざして力添えしてやるんだな。…後、くれぐれも(やかま)しくするんじゃないぞ」

 

「!は、はい!ありがとうございます!」

 

敵わないなぁ…ライラスさんには俺の思考なぞ丸々お見通しのようだ。『賢者の末裔』という同じ肩書を持つ俺たちではあるが、人生経験や実力を鑑みると俺と彼をひとくくりにされることには少し気後れしてしまう。

 

終ぞ俺には目もくれなかったライラスさんと眠っているユリマを残して俺はテントを後にした。()()ドリィの代わりを()()キラが務めると言うのだ。微力ながら俺にも手伝わせてほしい。

 

「キラ」

 

「サーベルト様、お帰りなさいませ。勇者様たちはいずこへ?」

 

「ああ、(多分)無事に送り出せたよ。このままオークニスで賢者と出会ってくれるといいんだが…」

 

「そうなのですね!ありがとうございます!」

 

「…彼らは」

 

「はい、リブルアーチ住民の方々です。『賢者の末裔』チェルス様以外の死亡者、行方不明者は確認されませんでした。」

 

「そうか…」

 

テントの裏には既に住人たちが集まっていた。そこまでの大人数ではないとはいえ、数十人が集まってこの静けさというのは異常だ。見ると、どの住人も心ここにあらずというか、放心しつつも暗い表情をしている。恐らくは怒りや悲しみといった感情のステージを通り過ぎ、今はただただ絶望に襲われている、といったところだろうか。今ここにいるのも何かを訴えたり聞きに来ているわけでなく、ただ本当に「呼ばれたので集まってきた」程度のようだ。そんな皆の顔を見ていると俺まで胸の奥が締め付けられる思いになる。…もし、もしもリーザスの村が跡形もなく消えてしまったら俺はどうなってしまうのだろうか?……考えたくもない。

 

「何か…俺に手伝えることはあるか?」

 

「…そう、ですねぇ…。あ、では!私が危なくなったら助けていただいて…!」

 

いい案を思いついた!という風に手を叩くキラだが…それは俺が頼まないと助けてくれない薄情な人間だと思われているということだろうか…?だとしたら心外だな。

 

「…!」

 

「…。」

 

「キラ。…もし辛ければ、俺が代わろうか」

 

「ありがとうございます、サーベルト様。…でも、私にやらせてください。私がやらなくてはならないのです」

 

「…。そうか、なら頑張ってくれ。応援してるからな」

 

手も足も小刻みに震えているキラを見かねて俺は交代を提案したが…流石、自分がドリィの代わりになると言い張っただけのことはある。…この様子なら他に所用もなさそうなので、俺は黙って頷き一歩下がった。それと入れ替わり、キラが壇上に立つ。キラの両側から光が(ほとばし)り、彼女を照らす。

 

「(『レミーラ』の魔法玉か)」

 

魔法玉は俺がドリィと旅に出るきっかけの一つにもなったマジックアイテム。使用されているのを見るのは久しい。

 

「お集りの皆様、本日は思いもかけないことで、誠に残念でなりません──」

 

そして今度は拡声器。こっちの原理は…なんだったか忘れてしまったな。

 

「──そんな前置きは、皆様の聞きたいものではありませんよね。失礼致しました。」

 

「?」

 

そんな俺の心のぼやきも、キラの演説が始まるとどこかへ行ってしまった。

 

「申し遅れました、私はアスカンタ王国のキラと申します。これより皆様の欲す情報を今からお伝え致します」

 

絶望に伏している住民のうちの幾人かはその虚ろな目を壇上のキラに向ける。

 

「本日この平和な街で、世界を揺るがす大きな戦いが巻き起こりました」

 

「首魁はかの暗黒神ラプソーン。…御伽噺だと笑いますか?ではどうぞ、あの海原に沈んだ美しい街の前でお笑いになってください。止めはしません。」

 

「─!」

 

にわかには信じがたくとも、誰も笑わない、笑えない。それはそうだ。神の仕業でなくして、一体誰が街を一つ消し飛ばせようか。

 

「悪辣な暗黒神の手によって芸術の街リブルアーチは消滅しました。夢幻(ゆめまぼろし)の類ではありません。救いようもない真っ黒な現実です。ここにあった皆様の住処、思い出、そしてその結末…。心中お察し申し上げます。」

 

「…しかし私が心から喜ばしく思うのは皆様の内に命を落とした方も、行方知れずとなってしまった方もおられないということです。…たった一人を除いて…」

 

住民の内の何人か──『(チェルス)』のことを知る者だろう──はまた目を伏せる。

 

「おっ、お前に何が──」

 

「そして私もまたこの戦いで大事な人を見失いました」

 

「!?」「…っ」

 

お前に何が分かるんだ、と手を振り上げ飛ばされかけた野次は寸前で止む。俺ですら思わず息を呑むほどの気迫、圧力。絶妙な間の取り方、相手の精神に直接響く言葉選び、台詞の抑揚。『(うま)い』。俺は改めて感心してしまった。これがキラの…

 

「大事な人、大切な仲間、大好きな人…彼は暗黒神との戦いに臨み、そして相討つ形で暗黒神を撃退しました。彼は…彼は間違いなく完全に完璧に行動しました。もし彼がいなければ私や私の仲間の命はおろか、住民の皆様の安全は全く保障できないものになっていたことでしょう。」

 

…人はどんなに絶望的な状況に陥ったとしても、それより更に悪い状況を想起することで幾分か気持ちを楽に保つことができる。それはドリィもこれまで幾度となく採ってきた手法だ。

 

「彼の名は『ドルマゲス』。この名に聞き覚えのある方はいらっしゃいませんか。私たちの命を繋ぎ留めた英雄の名を…」

 

初めて聞く英雄の名にどよめくリブルアーチの住民たち。その中でずいと前に出る男が二人。

 

「…ああ、知っているとも。わしはあの男に…ドルマゲスにどれほどの感謝と謝罪を捧げればよいのか…」

 

「…待てよお嬢ちゃん。ドルマゲスってぇのはあの胡散臭い道化師の若造のこと…なのか?」

 

「町長!」「ハワード様…」「おやじ!?」「ライドンさん…知ってんのか?」

 

言わずと知れた大呪術師、リブルアーチの町長ハワード。ユリマ曰く『生理的に受け付けない男の人』らしいが、それでもこの街を統括する町長、人望は薄くはあれどゼロではないはずだ。

 

そしてライドンさんと呼ばれた御仁…ドリィが言っていた。リーザス様譲りの驚異的な彫刻の才の持ち主、俺の()()()()…ハワード氏よりも周囲の反応が大きかったあたり、どうやら人望はかなりのものらしい。

 

「貴方はクランバートル家のライドン様…ですね。ええ、確かに。貴方は彼とどういった関係なのでしょう?」

 

「…あいつは面白ぇやつだったさ。自分のとこの建物を俺に見てくれと、最高の場所にしたいんだと、目をガキみてぇにキラキラさせて言いやがる。…よく知った仲ってわけじゃあねぇが…そうか…。」

 

「あの頑固なライドンさんがああまで言うなんて…」「あ、あんなしおらしいハワード町長を見るのは初めてじゃ…」

 

気がつけば絶望一色だったリブルアーチの住民たちはドリィという「知られざる英雄(ミスターアンノウン)」を悼み始めていた。確かに自分たちは住処と財産をすべて失った。しかし『ドルマゲス』なる男がいなければ状況は更に悪くなっていたという。自分たちは『救われた』のだという。そして良くも悪くもこの街で最も有名な二人の男がそれを承認している。それが疑惑を確信へと変え、今この瞬間を以て俺たちと彼らの立場は逆転した。俺たちが「憐れまれる側」になったのだ。

 

これも全て狙ったことなのだろうか、と俺はキラの方を見た──

 

「うわっ」

 

「なっ、い、いかがされましたかサーベルト様…!?」

 

「や、なんでも…続けてくれ」

 

「は、はあ…?」

 

キラは笑っていた。…いや、なんと言うのだろうか。笑い方がドリィとちょっと…ほんのちょっとだけ似ていた。あの…どう見ても悪人にしか見えないあの…あー、強烈な?笑みだ。…どうやら計算通りらしい。話術、人心掌握についてはドリィに勝るとも劣らないとんでもないスキルだが、似なくても良いところまで似てしまっている…

 

「皆様…私は彼の恩に報いたいと思います。姿を消してしまった彼に…。皆様はどうでしょうか」

 

その実キラは一度もドリィを「死んだ」とは言っていない。演説で忌み言葉は使わない、というのが道理なのはそうだが、何だかそれすらも打算のような気がしてくる。実際リブルアーチの住民たちはもう既に『ドルマゲス』を死んだものとして演説に耳を傾けているわけだしな。

 

「お、オレ!そんな立派な人に救われたんなら!なにかしたい!」「私だって!」「しかしどうやって…?」「わしのような老人にもできることはあるかの…?」

 

「だ、だがよ!そのドルマゲスって人でも暗黒神ってやつには敵わなかったんだろ?」「悔しいが俺たちにゃ何も…」「そんな!薄情よ!」「無いじゃないか!金も!家も!」

 

「命を救ってくれた英雄だぞ!俺らが命懸けねぇでどうするってんだぃ!」「あんたァ、気持ちはわかるけどね…」「あたしたちだって助けになりたいのは山々さ。でも…」

 

「何か、僕らに出来ることは無いのかな…」「…」

 

若き彫刻家の呟きの後、住民たちは静寂に包まれる。俺はキラの方を見たが、キラも静観を決め込んでいるようだ。よし!なら今こそアルバートの嫡男としての俺の権限を…

 

「…あるぜ、坊主。わしらに出来ることがな。」「「!?」」

 

「ら、ライドンさん?それって一体…」

 

「おいお嬢ちゃん、お嬢ちゃんもドルマゲスと同じ…あー、『ゆーえす』…ナントカの人間なのか?」

 

「はい。仰る通り、私たちは南の大陸、アスカンタ王国に属する自治組織『U.S.A.』のメンバーです。」

 

「だったらお嬢ちゃん、ドルマゲスとの契約を履行させてもらおうか。ただし契約内容は一部変更、『ゆーえすえー』代表は()()()()()()()()()()()、契約者は()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。」

 

「おやじ、それってどういう…?」

 

「おめぇらは知る由も無ぇだろうがよ、わしはドルマゲスと契約を結んでいたんだ。『ゆーえすえー』から資材を提供してもらってわしの『ライドンの塔』を完成させる。そしたら今度はわしが『ゆーえすえー』の改築を請け負うって算段だったんだ。」

 

「な、なるほど…?」「ライドンさん、まだあの塔造ってたのか…」

 

「では…」

 

「ああ、わしの塔なんざ後回しだ。誠心誠意、全力でドルマゲスの住処を()()()()()の場所にしてやろうじゃねぇか。それがわしらにも出来る命の恩人への弔いってもんよ。なあおめぇら!!」

 

発破をかけたライドンに一拍遅れて野太い声がこだまする。もうそこには絶望に暮れる住民たちはいなかった。男も女も、子どもも老人も、皆の心が『知られざる英雄に報いたい』という気持ちで一致していた。その様子を見てキラはニコニコといつもと変わらない笑顔で見守っていた。…さっきの恐ろしい笑顔は見間違いだったのか?

 

その後、喧しいとライラスさんから雷(高等雷呪文(ギガデイン))が落とされるまで喊声(かんせい)は続いた。

 

 

その後、俺は全会一致でU.S.A.への移住を決定した住民たちにとりあえずU.S.A.についての簡単な説明(魔物と生活スペースを同じくすることの旨、特に安全性については再三強調した)を行い、テントに戻ってきた。遅れてキラもテントに戻ってくる。

 

「…やあキラ、凄かったじゃないか、演説。俺にはまるで出る幕が──」

 

「………」

 

「キラ?」

 

「ふ、ふえぇ~…こ、怖かったですぅ……」

 

弱弱しい声を絞り出したかと思うと風船の空気が抜けるようにして倒れこむキラを、俺は慌てて近くに合った簡易ベッドを引っ掴み、滑り込ませて受け止めた。

 

「キラ…」

 

「サーベルト様…私、しっかりやれていたでしょうか…?ドルマゲス様のように」

 

今のキラは俺とドリィがアスカンタ王国で初めて出会ったころの彼女を想起させる、小動物のような…いや、手足を縮め、繭にくるまるようにして震えている様は小動物そのものだった。

 

「ああ。完璧だった。…ちょっと完璧すぎるくらい、ドリィに似ていたよ」

 

キラの顔立ちでアレをやられるとインパクトが凄いのでできれば笑顔の方は真似しないで欲しい、という言葉は飲み込んだ。今の状況を見る限り、彼女もきっと必死だったのだろう。

 

「本当、ですか…よ、よかったぁ…っ」

 

「ああ、ずっとドリィと一緒にいる俺が言うんだから間違いはないさ。ですよね?ライラスさん」

 

「うむ。わしが静かにやれというのに言うことを聞かずに大きな声で騒ぎ立てるところもよく似ている」

 

「もっ、申し訳ありませ──」「とはいえ、内容に関しては文句はない。文句の一つも出せないのが腹立たしいところはあのバカ弟子そっくりだ。」

 

「ライラス様、それは…」

 

「…無論、誉め言葉だ。キラ、よくやった。お前はリブルアーチ住民の心を救ったのだ。これは…ああ、偏屈で口下手なわしには叶わぬことだ。」

 

「う、ありがとござ、うぅぅ~」

 

感極まったキラはさめざめと泣き始めてしまった。俺より一回りも二回りも年の離れたキラがこんな立派な演説をぶったんだ。俺が領主の座を継ぐ際にはもっと素晴らしい演説をしなくちゃならないな。

 

「よしよし。…しかし本当に心を揺さぶられるような、どこか恐ろしさすら孕んだ演説だったよ。まるでドリィが帰ってきたかのような────」

 

その瞬間、奥のベッドががさりと音を立てたかと思うと…

 

「ドルマゲスさんっがぁ!!帰ってきたんですかぁっ!!??」

 

「うおっ!」「はぁ…」「ウワーッ!?」

 

「ユリマ…」

 

東洋のグール(キョンシー)のように跳ね起きた全身包帯巻のユリマは口元の包帯を引きちぎって叫んだ。あまりに突然のことで、もともと精神的に摩耗していたキラは衝撃でそのまま気絶してしまったようだ。

 

「お兄さん、ドルマゲスさんは!?…んああもう、邪…魔ッ!包帯ッ!見えっないっですっ!」

 

「はあぁ…どいつもこいつも、なぜこんなに意識の回復が早いんだ、怪物どもめ…」

 

眉間に手を当てるライラスさんの前をそっと横切り、俺は包帯を引き千切ろうと躍起になっているユリマの肩に手を置いた(一瞬で払いのけられた)。

 

「まずはおはよう、ユリマ。…それで、ドリィはまだ…」

 

「…そう、ですか。…。そう、なんですね…。」

 

「…」

 

「…」

 

「…。でも、ドリィは生きているさ。そうだろう?」

 

「!…っあ、当たり前ですよ!ドルマゲスさんがあんなドブカスに負けるわけありません!」

 

「ゆ、ユリマ。控えて」

 

「…?あっ、すみません。はしたなかったですね」

 

「…ゴホン、ドリィのことはもちろんだが、君も無事で良かった、ユリマ。…さあ、一緒にドリィを探しに行こう。」

 

「お兄さんこそ、あんなグズグズになって死んじゃったかと思ってたので、生きてて安心しましたよ。お兄さんは…ドルマゲスさんの大事なお友達なんですから、しっかりしててくださいね!」

 

差し出された俺の手の人差し指と…中指も控えめに握ってユリマは浅く微笑んだ。

 

どうだ、ドリィ。君がいなくたって俺たちはなんとか大丈夫だ。だから、安心して待っていてくれ。俺が、俺たちがきっと君を探し出してみせる。

 

 

 

 

 




「もう!キラちゃんったらこんな大事な時に寝てるなんて!だらしないですね!」

「ユリマ」

「起きてくださ~い、起きろ~」ペチペチ

「う、う~ん…」

「ユリマ、やめたげて」
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