獣拳のヒーローアカデミア   作:魔女っ子アルト姫

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第1話

「―――……」

 

歩く、歩く、歩く……瞳に光はなく、目的も意思も無く、唯々何も考える事もなく歩き続ける。絶えず燃え続ける炎の中を――――歩き続ける、絶えず崩落し続ける残骸のビルが立ち並ぶ道を―――歩き続ける。

 

世界総人口の八割が"個性"と呼ばれる不思議な特殊能力である力を持つ超人社会。ある時、中国で光り輝く赤ん坊が生まれ、世界は新しい流れに呑まれていく。不可思議な能力、のちに個性と改められる力を持った人間たちが現れた。この始まりの時代は後に『超常黎明期』とも呼ばれたその時代の中で徐々に個性という力は超常というカテゴリーから常識というカテゴリーに変化していった歴史を持った世界が存在する。その世界では個性は当たり前、常識であり強い個性で在れば憧れを持たれたり将来への道を開けるという事もある。

 

―――だが、逆に力が強すぎる影響で大きな傷を負ってしまった者もいる。

 

この社会には明確な光と闇がある。個性を悪用し犯罪を起こし人々を苦しめる闇であるヴィラン。その脅威から守る為に"個性"を用いてその闇を払い人々の笑顔と平和を守り続ける者、ヒーローの存在。

 

「―――……」

 

その街は、ヴィランの襲撃を受けたのだ。強大なヴィランはその力を振り翳して自らの欲望のままに街を破壊し人々の命を奪って行った、僅かな時間で街は地獄へと変わり果てた。そんな中を一人の少年は歩いていた。

 

「……」

 

何の言葉も発さず、唯々荒い息遣いとはち切れんばかりの心臓の鼓動が頭にまで響いてくる。思考は既に死んでいる、精神は枯れて如何したらいいのかすら思う事も出来ない。それでも彼の命は叫び続けていた、生きたい……生きたいと。だが、彼に手を差し伸べられる手は一つもなく、余りにも破壊の規模が大きすぎるとヒーロー達は撤退していった。せざるを得なかったのだ……これ以上此処に居たら自らの身も危ない。

 

多くの命が残された、一つ、また一つと命の灯が消えていく。呻き声が聞こえては消えていく、正しく現世に具現化された地獄で少年は歩み続けていた。きっとヒーローが、きっとヒーローがと励ましてくれた友も死んだ、家族は自分を庇って死んだ、絶対にヒーローが……故に少年はヒーローを探していた。ヒーローは既にいない、それでも……絶望の中で足搔き続けて彼を待っていたのは……矢張り、絶望だった。

 

「ああそうか……ヒーローは、いない、んだね」

 

そんな言葉が空へと向けて放たれた。視界が回った、身体がどんどん熱くなっていくのに寒くなっていく、血溜まりの中に沈んだ身体が感じるのは炎の熱さと凍えるような寒さと湯船につかっているかのような温かさだった。

 

「熱くて寒くて温かい……気持ち、悪」

 

思わず出た笑い、瞼もどんどん重くなっていく。身体に力も入らず目も霞んでいった、そして同時にビルの残骸に挟まれて血を流しながら死んでいる人間を見て思ったのだ……ああ、これはきっと罰なんだ……自分が助けようとすれば助かる人もいた筈だ、それなのに何もしなかった罰なんだ……そう思いつつもその罰を受け入れようとした。

 

「ごめん、なさいっ……何も出来なくて……」

 

そして次第に増す睡魔に身を委ねようとした時に……

 

「確りするのじゃ、お主はまだ死んではならぬ。お主に何かできる事があるのならば―――生き抜く事じゃ!!!」

 

力強い言葉が飛んできた、同時に身体中にあった熱さと寒さが消し飛んで温かさだけが増して行った。重くなった瞳を開けてみるとそこには……人のように二足歩行をする猫、恐らく異形型の個性と思われるモノによって猫の姿になっている人がそこにいた。

 

「貴方、は……?」

「なぁに通りすがりじゃよ、さあ確りするのじゃぞ」

 

何もかもが分からなかった、気付けば自分はその力強くも優しい言葉に身を委ねていた。そして……少年は地獄から生還した。

 

 

 

獣を心に感じ、獣の力を手にする拳法・獣拳。

 

獣拳には相対する二つの流派があった。

 

1つ―――正義の獣拳、激獣拳ビーストアーツ。

 

1つ―――邪悪な獣拳、臨獣拳アクガタ。

 

二つの流派は一つに還り、激動の時代は終わり告げた―――が

 

世の平穏が乱れた時、獣拳は再び現れる!!

 

 

 

深い深い樹海の奥、獣達が自由気ままに暮らす自然の中。その奥の奥、巨大な滝の中にその影はあった、一分間に一体何ℓの膨大な水が流れ出しているのか分からないが、その水の勢いは巨大な岩を穿つ程の力を秘めているのにも拘らず、その中に身を投じながらも座禅を組み続けていた。

 

「……」

 

一体何時間そのままで居るのか、身動ぎ一つせずにいる影……そこへ丁度太陽の光が差してきた。鍛え抜かれた肉体が浮き出る様に身体にピッチリと合うように作られた黒と赤の道着を身に纏っている少年、そして何かを気配を感じ取ったのかゆっくりと瞳を開いた。

 

「何か御用ですか、マスター」

 

その言葉に木々の陰から楽し気な笑いを浮かべながらも師と呼ばれた者は姿を現した。猫のような人、人のような猫なのか、その正体は彼の師でもあるマスター・シャーフー。

 

「修行の邪魔をしたようで済まなかったのう、気配は消しておったつもりじゃったが」

「確かに気配はしませんでした、ですが周囲の木々が貴方を気にしておられた」

「ホッホッホッ見事なり、気配を感じる術は見事に会得しておるの」

 

態々師匠が尋ねて来てくれたのに何時までも滝に打たれ続ける訳には行かぬだろうと滝から飛び出した、シャーフーの前へと立ち拳を合わせて敬意を表すポーズを取った。そんな姿をシャーフーは見つめながらも水滴一つない事に満足気に笑いながらも好々爺のような笑いを滲ませた。

 

「お主に手紙が来ておったぞ、雄英高校からじゃった」

「それで内容は」

「ホッホッホッ……弟子に来たものを見るほど野暮ではないわい、ほれ確認するとよい」

 

そう言いながらもシャーフーは懐から一通の手紙を差し出した。先日、ヒーロー科最難関とも呼ばれる高校、雄英高校への受験を終えた身、これが来たという事は合否が分かるという事なのだろう。そう思って中身を確認してみると……書類もあったのだが、500円硬貨程度の大きさの装置のような物があった。それが何かを察したのか、直ぐに適当な石の上に置くとそれは直ぐに動き出した。

 

『私がぁぁぁぁ……投影されたぁ!!』

 

装置からは光が溢れ出して映像が映し出された、映ったのは現代における大英雄とも呼ばれる№1ヒーローのオールマイトだった。

 

『HAHAHA!!如何やら驚いてくれたようだね、私には君が思わず投影装置を落としてしまう姿が見えているよ!因みにこれは中継とかではなくて録画された映像だぞ!!そして私は今年から雄英にて教鞭を取る事になったのだ!!その告知も含めて私が合格発表を行っているのだよ!!』

「随分と自意識過剰な№1ですねマスター」

「ホッホッホッ、自分の立場をよく理解しておるという事じゃよ」

 

普通ならばオールマイトの登場に大興奮するかもしれないが、彼にとってはオールマイトは別段テンションが上がる相手でもない。正直言えばどうでもいいとさえ思っているので若干冷めている。

 

『さて本題に入ろうじゃないか!!君が獲得したヴィランポイントは45ポイント!!実に素晴らしい成績だが実は表沙汰にはしていない物があってね、ズバリレスキューポイント!!』

 

随分と楽し気に語るな、と思いつつもただそれを聞く。何の感傷も抱く事もなく、そしてそのポイントも合わせると首席合格になると語られるが同時にオールマイトは言った。

 

『いやぁ本当に驚いたよ、何せ雄英始まって以来の無個性での首席合格者だからね!!ともかく、来いよ無月少年!!此処が君のヒーローアカデミアだ!!』

「どう思います、マスター・シャーフー」

「全てではなかろう、お前さんを見極めたいのが大部分じゃろうて」

 

シャーフーの言葉通り、自分は個性は持たない。それなのに首席合格に成りえるだけの成績を残した、普通ならばあり得ない事である……だが自分にはそう成し得る牙と爪を宿す獣を秘める。それを用いて入試では邪魔者として出された巨大ヴィランロボを一人で倒した。無個性なのになぜそんな事が出来るのか、放置するのは危険だと雄英は考えているのだろう。

 

「獣拳も今の世の中では知る者は極めて少ない……悲しき事じゃがこれも時の流れにて失われた時、致し方ない事じゃて。さて、お主はこれから如何に過ごすつもりじゃ―――零一」

「変わりません、私は私の道を貫き通すまで。己が内に溢れる魂のままに」

「それでよい……さて、それじゃあ飯にするかの~」

「そうしましょう」

 

頷く彼はそのままオールマイトがまだ映っている装置を蹴り砕いた、最後に映っていたのは―――巨大なロボヴィランと戦っている巨大な白い獣だった。その獣はまるでオーラで作られているかのように姿が揺らいでいるが……何処までも力強くロボの腕を簡単にその爪で切り裂いていた。

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