燃え滾る炎の中、迫り来るヴィラン達。それに対して一歩も引く事もなく応戦の道を選ぶ二人の影、普通ならばその選択肢は愚策とも言えるかもしれないがその力は愚策を最高の策へと変貌させていた。
「くそガキィ!!」
「てぇぇえだぁ!!」
「がぁっ!?」
炎に耐性を持つ個性、金属になる個性や高い体温になる個性などの持つヴィラン。それに対して尾白はギリギリまでそれを見極めるようにしながらも自らが持ちうる最高の一である尾を使って対抗する。全身を捻る様に回転させながらも一撃を叩きこむ。
「貴様ぁ!!」
「(あれは炎の個性!!)零一頼む!!チェストォ!!」
「ぐぼえらぁ!!?」
迫って来たのは全身を発火させる事が出来る個性のヴィラン、それに対して先程金属になる個性のヴィランの鳩尾に尾を叩きこんで意識を朦朧とさせるとそのまま背中合わせになっていた零一にその場を交代する。
「激技、剛勇衝波!!」
「がっ―――!!?」
深く深く震脚を行いながらも掌底を炸裂させた、臨気によってそれはさらに増幅されてヴィランはまるで玩具のように吹き飛ばされて彼方へと吹き飛んでいく。
「頭下げろ!!」
「っ!!」
「激技、剛勇吼弾!!!」
尾白に頭を下げさせると臨気を練り上げて硬質の弾丸へと変えた物を周囲に向けて撃ち放つ。的確にヴィランを撃ち抜いて崩して行くその姿に尾白は……素直に感涙を感じた。これが鍛え上げられた獣拳使いの戦いなんだ。
「怯むなぁ何れ限界が来る筈だ、まずは尻尾のガキから仕留めろ!!」
炎に干渉して操る個性、それを持つヴィランが協力して周囲の火災を使って炎の津波を作り出して丸呑みしようとしてくる。それに尾白は逃げる事を考えるが、それよりも早く零一が激気と臨気を溢れ出した。
「俺がそれを、させると思うのか!!剛勇雷来陣!!!」
激気と臨気が頭上で渦巻くとまるで雷のように轟ながら自分達の周囲へと落ちて来た。それは互いに共鳴するようにドーム状のバリアを展開して炎から自分達の身を守ってくれている。こんな事も出来るのか、尾白は驚愕する。
「尾白、今の内に態勢を整えろ」
「あ、ああ……」
頼もしすぎる、彼と一緒なら負ける気がしないと思うが同時に思った、自分は何て情けない存在なんだ、自分は頼るだけの存在なのか、何の為に獣拳を学んでいるのかと、誰かを守りたいという思いは嘘なのかと自分の中で渦巻く中心で尾白はそれを全て否定する。
「違う、違う!俺は!!」
『良いか尾白君、君は優しく強い、そしてその願いは高潔だ。だからこそこれから苦難の道が待っている。その時に、自らの願いを叶える為に獣拳を使ってくれ』
『ゴリーさん……俺、頑張ります!!』
「そうだ、俺は叶えたい夢があるんだ。その夢は……誰かを守って一緒に笑顔になるヒーロー!!」
力強く叫ぶ尾白、その時―――その身体からオーラが沸き上がって来た。それは紛れもなく……激気!!今、尾白の中にある正義の心が完全に目覚めた。それによって彼の奥底に眠る野生が解き放たれた。それを感じた時、零一は笑った。
「ここで覚醒したか……雷来陣を解くぞ!!」
「ああっ!!!」
未だ炎に呑まれ切っている自分達、それを剛勇雷来陣の内側から力を咥えて一気に破裂させて炎ごとぶち破った。だが炎が消し飛んだ時、そこへより硬い金属になる個性を持つヴィランがそれを狙い撃ちにするかのように飛び掛かった。ヴィラン達とてバカではない、だが―――彼らはそれに負けるような事はない。
「烈烈蹴!!」
互いに迫って来るヴィランに向けて技を放った、それは強力な激気を纏っており零一の一撃はチタンのような身体のヴィランの肉体に罅を入れて崩壊させる程に強力であった。そして尾白は……
「馬鹿めお前程度じゃ俺に傷なんて入らねぇよ!!」
尾白に向かっていたヴィランの個性は鋼。肉体を鋼に変える個性、到底尾白では戦う事が出来ない程に強固な物。だが尾白はそれに動じなかった。
「でぇぇえいっ!!!」
渾身の力を込めながらも己に燃え滾る正義の心と高潔な願いは溢れんばかりの激気へと変わる、そしてその身に己が内に眠る獣の力が宿る。尾白の尾には鱗のように変化した激気が纏われていく、その一撃は鋼の肉体にも負けぬ鎧となってそのまま鋼を穿ち吹き飛ばした。
「で、出来た……?これが、これが激気……!?全身から凄い力が、溢れ出してくる!!」
「そうだ、それが正義の心を持つ者が扱う事が出来る力、激気。そして今のは……激獣クロコダイル拳!!水陸両地の戦いを完全掌握する事も出来る獣拳だ!!」
「クロコダイル拳……!!」
そう言われるとストンと胸に落ちて来た、何故ならば尻尾の個性を持つ尾白はこれをどのように生かすべきなのかと考えていた時に真っ先に参考したのはワニだったからである。ワニは強靭な顎に目が行くが、尻尾も強靭な武器にもなっている。その一撃はその威力は人間が喰らえば骨折、最悪死に至るほど。更にデスロールとも呼ばれる回転まで兼ね備えており、自分に組み込むにはこれ程に絶好な手本は存在しなかったからである。
「フフフッ猿夫って名前なのに鰐か!!それも一興だね!!」
それを聞いて笑いながらも尾白の表情は何処までも晴れやかだった、長らく願い続けていた獣拳、激気の修得。それが成し遂げられた事で漸く自分は本当の意味で抱き続けていた願いへと歩き出せたのだ、そして今それを形にする為の名乗りを上げる。
「願望成就。願いと誓いを胸に、極めてみせよう己が技―――
力強く、真っ直ぐとした激気に零一は素直に素晴らしいと思った。この土壇場で激気を引き出しただけではない、その事に一切疑いを持たず自分を信じている。精神的にも尾白は素晴らしい逸材だと感じながらも続けた叫ぶ。
「燃え立つ激気は正義の証!!」
「この激気を恐れぬのであれば!!」
「「掛かって来い!!!」」
「な、なんだこいつらさっきと全然雰囲気が違うじゃねえか……!?」
確かに先程までだって自分達に立ち向かい続けて来ていた、だが明らかに違う。纏っている空気が全く異なっている、しかもただ変わっただけではない。何か途轍もなく強靭な物へと変貌している。それを感じたヴィラン達は思った、勝てない……と。
「クロコダイル拳、俺はその神髄は分からない……だが分かる事もある!!鰐の回転攻撃は強力無比、死の回転とも呼ばれるその一撃に俺の尻尾の力が加われば―――倒せぬものなどいない!!ハァァァァ……!!!」
激気を溢れさせ高めていく尾白、その背後には巨大な鰐が構えて大口を開けているようにヴィラン達には映っていた。
「な、なんかやべぇぞ!?」
「や、やれぇ!!どうせ付け焼き刃だぁ!!」
一部の希望を抱いて尾白へと突撃していくヴィラン達、それを見ながらも向かってきた一人を薙ぎ倒した零一はそれを静かに見つめていた。クロコダイル拳は攻撃と防御を兼ね備えた攻防一体の獣拳、そしてそこに回転の速度が加わった時―――その力は正しく一撃必殺。ヴィランがあと一歩まで迫った時、尾白は瞳を開けながらも叫んだ。
「激技、高転鰐舞!!!」
尻尾で地面を叩きながら真正面へと飛び込みながら超高速で回転、猛烈な激気を纏ったその身体はさながらドリル。高速回転その身体に触れるだけでヴィランは吹き飛ばされるが直後に襲いかかるのは大きく広げられた尻尾による追撃。相手の身体を削る様に突き進み、直後に猛烈な一撃を叩きこむという一撃必殺の連続攻撃。
「がぁぁぁ!!」
「俺の、身体が……崩れてる……!?」
「信じられない……」
それは金属のように硬い身体を砕き防御を無力化させてしまう程の威力、防御を奪った所を確実に倒すという尾白の技量が光る見事な激技だと零一は思わず感心した。そして着地した尾白に合わせたかのようにヴィラン達は次々と倒れこんでいく。
「ハァハァハァ……うぅっ……」
「大丈夫か」
「あ、ああ……大丈夫」
敵を倒した直後、尾白は激しく息を切らして膝を突いた。初めて激気を引き出せただけでも大した物なのにいきなりの激技、激気の調節が出来ずに大量に消費してしまったらしく軽いスタミナ切れを起こしてしまっている。
「でも、出来たぁ……激獣拳……」
「見事な物だった。激獣クロコダイル拳、確かに見せて貰った」
「でもまだまだだね、無駄が多すぎた……もっと練習しないと……」
「そこは誇っていい所だぞお前」
零一としては此処まで出来たのだからもっと自分に自信を持ってもいいとは思うが、尾白的には目の前にもっと凄い獣拳使いが居るのでそんな気にはなれない模様。故に慢心せずにこのままじっくりと練り上げて行こうと決意する。
「兎も角ヴィラン達は倒した、一先ず火災ゾーンから出るぞ」
「そうだね、此処じゃおちおち休憩も出来ないし」
先導する零一に続きながらも尾白は拳を深く握り込みながらも嬉しさに満ち溢れていた。危機的な状況に変わりはない筈なのにその足取りは不思議と軽かった。
という訳で尾白の獣拳は激獣クロコダイル拳です。
猿じゃないの!?とも思われるかもしれません。私も最初はモンキー拳とかを考えていたのですがまんま過ぎるかなぁ……と思ったりしながらも尻尾を活用するならどんな動物を参考にするかな?という所に重点を置きました。
勿論、猿を参考にしてたりもすると思うのですがは回転を利用している描写が多い印象を受けたのでそれならワニなんかも参考にしたんじゃないかなと思いました。それに尾白がゴリラ拳の修得を目指す事を考えたらモンキー拳にしてしまうとタブるんですよね……ですのでワニにしました。