獣拳のヒーローアカデミア   作:魔女っ子アルト姫

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第12話

「脱出終了」

「あ~……普通の気温の筈だけどすっげぇ涼しい~……」

 

火災ゾーンから無事に脱出する事が出来た零一と尾白。思わず首元から空気を入れてその涼しさに声を上げる尾白、激気も扱えるようになっているから余計に心は晴れやかな気分になっている尾白だが……それに対して零一は何処か冷淡、いや冷静にUSJを見回している。

 

「矢張りUSJに敵がいる、その場所に俺たちはそれぞれ転移させられた」

「うん俺はそれも思ったよ、あいつらの個性は明らかに火災ゾーンに適した物だった」

 

炎系の個性に炎熱を無効化出来る個性を持ったヴィランばかりがそこにいた、つまりこれは雄英のスケジュールが把握された上で計画されていたという事。

 

「……考えられるとするとこの前のマスコミのセキュリティ騒ぎか」

「あっそっかワープ個性ならセキュリティは突破出来るし後は目くらましさえあればいいんだ」

「恐らくな……となると、オールマイトの殺害目的は本気という事か」

 

それを聞いて思わず尾白は背筋が寒くなる感覚を覚えてしまった。決して勢いづいたヴィランの無謀な行動などではなく、綿密に計画された作戦である事が伺える。他もヴィランによる襲撃を受けている筈。仮にも雄英に合格出来ているメンバーなのでそう簡単にやられるとは思わないが……一刻も早く他の生徒と合流するのが先決と考えるべきだろう。

 

「あっ零一あそこ!!」

 

尾白が指を指した先では水難ゾーンの水辺の傍で身を潜めている影が見えた、目を凝らしてみるとそこにいたのは緑谷に蛙吹、そして峰田であった。如何やら水難ゾーンに飛ばされていたらしいが、湖の中心ではヴィランが一塊になっているのが見えた。あの様子ではヴィランの襲撃は退ける事は出来たらしい。

 

「よしあいつらと合流しよう」

「分かった」

 

だが他にもヴィランが居る事を警戒して声を潜めながらもゆっくりと歩み出して行く、そしてある瞬間に―――二人は思考するよりも先に激気に導かれるように全力で駆け出していた。その視線の先では脳が剥き出しになっている巨漢のヴィランを従えている全身の各所に手のような物を付けたヴィランが蛙吹へと腕を伸ばし、巨漢のヴィランは今にも緑谷を殴り殺そうとしている場面だった。

 

「チェエエエエストォォォォ!!!」

「でぇぇえいっ!!!」

 

だが二人の激気はそれを許せなかった、許しておけるわけがないと叫びそれに身体が応えた。尾白は手を付けているヴィランへと尻尾の一撃を浴びせ、零一は巨漢ヴィランの顔面が歪むほどの一撃を放ちそれを吹き飛ばした。

 

「ぐっ!!」

 

一撃を受ける瞬間、即座に飛び退いてその勢いを軽減しながらも距離を取ったヴィラン……それは霧のヴィラン、黒霧から死柄木弔と呼ばれていた。その死柄木は忌々し気に自分達へと殴り掛かって来た者達へと目を向けるのだが……直ぐに目を見開いた。何故ならば―――巨大な白き獣が飛び掛かって来ていたからだ。

 

『ゴォォォォォォォッ!!!』

「なんだこいつはぁぁっ!!?」

 

咄嗟に回避する、微かに獣の爪が髪を削り取りながらも横を抜けていくがそのまま走り抜けると何かを回収して再び飛び掛かって来た。舌打ちしながらも回避するとその獣は零一の元で歩みを止めて此方を威嚇するように唸りを上げていた。

 

「なんだお前……いきなり殴りかかって来たと思ったら今度は化物を出しやがって……サモナー気取りかよ」

「生憎召喚士じゃない、格闘家だ。そして―――相澤先生は返して貰ったぞ」

 

その言葉通り、白い獣……ライガーの足元には血だらけになっている相澤が転がっていた。

 

「尾白、あいつは俺が喰いとめる。お前は先生とそいつらをライガーで連れていけ」

「零一!?俺も戦うよ!!」

「付け焼き刃以下の獣拳使いなんて戦力にならん」

「ちょ、ちょっと無月君!?」

 

助けてくれた事へのお礼を言うよりも先にその言葉に思わず緑谷は声を荒げてしまった、感謝したいが幾らなんでも言い方が酷くないかと思った。しかも今の言い方からすると彼は此処に一人で残ろうとしているように聞こえる。まさか戦うつもりなのかと、その直後に零一が吹き飛ばしたヴィランがゆっくりと死柄木の背後に戻って来ていた。

 

「戦局を考えろ、相澤先生は重傷な上にお前も怪我をしている。怪我人は大人しく下がれ、尾白任せる」

「―――分かった、ライガー借りるよ!!」

「ああ、ライガー」

 

零一の言葉にライガーは何処か渋々といった態度を取りながらも身体を下げて背中に乗れと促した。尾白が先導する形で蛙吹と峰田、相澤を乗せるのだが緑谷はどうにも納得がいかないようだった。

 

「君も一緒に!!」

「時間稼ぎは必要だ、これ以上の問答は不要。ライガー連れてけ」

「うわぁぁぁぁ!!?」

 

そう言われてライガーは緑谷を咥えるとそのまま走り出して行った、その姿を見送りながらも零一は忌々し気に首を掻き続けている死柄木に睨みつけられる。憤りと苛立ち、様々な物を自分に向けている。

 

「お前何様のつもりだよ、お前一人で足止めする気か?自己犠牲か何のつもりか知らないけど身の程知らずも大概にしろよ」

「身の程は弁えてるさ……それにな―――俺はヴィランに無用な加減をする気はない」

「あっ?」

 

その言葉に更なる怒りを募らせようとした時、そこに冷や水が掛けられる。臨気だ、零一の全身から溢れんばかりの臨気が放出され始めた。全身を突き刺すような

凄まじい臨気、それに思わず顔を歪めつつも驚愕した。

 

「死柄木弔……これは……!!」

「なんだ、なんだよあいつ……!!」

 

臨気という感じた事もないそれに顔を歪めている死柄木達、それを放っている零一の視界は―――炎に包まれている地獄のように映っていた。自分にとっての地獄、血溜りに沈んで死に絶えた知人、友人、家族の姿に相澤の姿は被った。既に克服しているそれを想起した零一は敢えてそれを心象一杯に映し出した。あの時感じた物を再び呼び起こす、それによって臨気は増幅されていく。

 

「おい何をやってるんだ脳無、あいつを殺せ!!!」

 

脳無、そう呼ばれた巨漢ヴィランは訓練された猟犬、いや機械のようにその命令に従って零一へと向かっていく。その巨体からは想像出来ない程の速度で零一の元へと到達するとその剛腕で殴り飛ばそうとする。迫り来る剛腕、当たれば大ダメージは避けられないだろうそれを一歩前に出ながらも腕の内側に左手を入れるようにして受け流しながらも脳無の心臓目掛けて肘打ちを臨気と共に打ち込む。

 

「ぜぇらぁ!!」

 

後ろに下がった瞬間を見逃さずにその顔面に裏拳を叩き込んで更に仰け反らせつつも鳩尾に渾身の掌底を叩き込んだ。同時に放たれた臨気によって脳無の巨体は浮き上がって後方へと吹き飛んで倒れこんだ。

 

「あの脳無を真正面から……!?」

「っ……落ち着けよ、脳無にあんな攻撃が利くと思ってるのか」

「そ、そうでしたね」

 

黒霧は脳無が真正面から殴り飛ばされた事に驚愕するが、直ぐに冷静さを取り戻した。その言葉通りに脳無は起き上がって再び殴り掛かってくる、それに零一も流石に眉を顰めながらも攻撃を受け流していく。

 

「近接自信があるみたいだけどな、そいつはショック吸収の個性を持ってるんだ。幾ら攻撃した所で無意味なんだよ」

「成程―――それなら!!」

 

凄まじい勢いで迫り来る脳無の攻撃、それらを臨気でガードしつつも受け流していく。回転しながら脳無の一撃を地面へと導く、剛腕は地面へと深く突き刺さって動きが一瞬止まった。そこを突くように右腕へと臨気、そして激気を収束させる。

 

「セェイヤァァァ!!」

 

裂帛の叫びを上げながらも渾身の力で脳無の腕へと拳を振り下ろす。臨気と激気を纏った拳は脳無の肉体へと深く深く突き刺さり、筋肉を穿って骨にまで到達し激気と臨気の力で骨を砕いた。

 

「直接折っちまえば、吸収の使用もねぇだろう!!」

 

脳無の腕の中へと直接腕を突っ込んで骨を折るという手段を取った零一。白い激装には返り血で濡れるが当人はそんな事を気にはしない、これで少なくとも片腕は……と思ったが腕を引き抜いた直後に傷口は一気に塞がっていった。

 

「何っ!?」

 

その異様さに驚くが、それが隙を産み零一の腹部に脳無の一撃が炸裂し吹き飛ばされて地面を転がった。その姿に死柄木は酷く愉快そうに声を上げて喜びを露わにした。

 

「凄いねぇ本当に。脳無の腕の骨を物理的に折るのは流石だと褒めてやるよ、だが残念だったなぁ……脳無はな、オールマイトの為に用意した超高性能サンドバック人間なんだよ、ショック吸収だけじゃなくて超再生の個性持ちでもあるんだよ」

 

愉悦に染まり切った声と表情で零一を嘲笑いながら脳無の姿を語った。本来あり得ない個性の二つ持ち、複合した能力を持つ個性という物はあるが、別々の個性を同時に持つという事はない。あり得ない事を持つ脳無に全身を貫くような痛みを感じつつも立ち上がる。

 

「ぐっ……ぅぅ……成程、超再生とショック吸収か……羨ましいもんだな」

「そう悲しむ事ねぇよ……どうせもう感じなくなるんだからよ、誇っていいぜ脳無の腕を折った事をな」

「お前は木の枝を折る事を誇るのか」

 

愉悦に染まっていた表情が再び、怒りに染まっていく。此奴はなんと言ったのか、脳無の腕を折る事は別段誇る事でもないと言ったのか、気に入らない、本当に気に入らない。その怒りのままに脳無に命を下す―――あいつを殺せと。ならば来ると良い……お前の望む通り、サンドバックにしてやる。

 

「ライガー拳、激技!!」

 

地面を殴り付けつつも構えを取る、両手に激気と臨気がそれぞれ収束していくと両手は強い光を放ち始めて行く。腕を振るうとその光によって残光が生まれて行く程に強い光が溢れ出して行く。

 

「烈光爪撃!!!」

 

そしてそれを迫って来る脳無へと向ける、そして差し向けられた腕を回避しつつもその腕へと光り輝く爪を突き立てるようにしながらも一気にその肉体を切り裂き、そのまま脳無の腕を切り落としてしまった。続けて片腕へと差し向けて其方も切断する、両腕を切り飛ばされてしまった脳無はたじろぐように後退ったが死柄木は余裕がある様に笑った。

 

「今度は腕を飛ばすか、ヒーローを目指すのにひどい事するな。だけど無駄だ、分からねぇかな超再生で―――……おい、脳無、おい脳無!!」

 

脳無の腕が中々再生しない、再生を試みているがそのスピードが明らかに遅いのだ。少しして漸く腕は再生し始めて行くがそれを再び零一は切り飛ばす。

 

「個性は身体機能の一つ、再生するならば細胞を介してだろうな。だったら焼き切れば良い」

「な、にぃ……!?」

 

幾ら個性の力と言っても死滅した細胞まではそう簡単に再生出来ない、故に脳無の腕の再生速度は著しく遅くなっていた。そして絶えず全身を刻み続けて行く零一、先程までとは攻守が完全に逆転し脳無が押されていた。そして遂に傷の再生がされなくなった。

 

「限界が来たか、ならばっ!!!」

 

傷だらけの脳無は片腕を完全になくした状態のまま、立ち尽くしていた。激気と臨気を常に送り続けていた為に再生の限界にも達していたのだろう、止めの一撃を言わんばかりに両手を構えてそこに二つの気を集中させていく。正反対と言っても気はぶつかり合いながらも激しくスパークしながらも莫大なエネルギーとなっていく。

 

「死柄木弔、あれはまずい!!絶対に不味い!!」

「ぐっぐぅぅぅぅ……!!撤退、撤退だぁ!!」

 

黒霧は零一が繰り出そうとしている技の恐ろしさを感じ取ってしまった、故に取り乱しながらも歯軋りをする死柄木と共にUSJへと来た時と同じように転移して消えていく。それを見ても零一はそのまま気を集中させ続け、遂に臨界に達したそれは一段と巨大となりながら太陽の様な輝きを放ち始める。

 

「激技、激臨威砲!!!ぬぅぁぁああああああ!!!」

 

唸るような雄叫びと共に放たれた光球は轟音を立てながらも脳無へと向かって行く、脳無は最後の抵抗と言わんばかりに残った腕で光球を殴り付けるが……エネルギーの塊と言ってもいいそれは一瞬にして腕を跳ね除けると脳無の胸部へと直撃した。脳無は全身に二つの気を浴びせられ、そのショックを吸収する事がしきれず臨界を迎えたエネルギーは大爆発した。

 

「―――……」

 

その爆炎の中で脳無はゆっくりと崩れ落ちて動かなくなってしまった。それを見届けた零一は息を荒げながらも膝を突いてしまった。

 

「っ……やっぱりこの技、身体に来る、な……」




激臨威砲、分かりやすく言うと一人で行う激激砲。但し、激気と臨気を合わせる上にゲキバズーカも無しで行うので零一への負担も大きい。

烈光爪撃、分かりやすく言うとストライクレーザークロー。

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