獣拳のヒーローアカデミア   作:魔女っ子アルト姫

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第14話

USJでの事件は終息、零一は両腕や手の事もあって直ぐに保健室へと連れていかれてリカバリーガールの治癒を施される事となった。全快とまでは行かなかったがそれでも使い物になる程度には回復すると直ぐに雄英の校長であるネズミのような……というか小柄なネズミ人間とも言える根津校長から話を聞きたいと言われて談話室へと向かう事になった。

 

「さてと……両腕の治療がさっき終わったばかりで申し訳ないけど是非とも話を聞かせて欲しいのさ」

「獣拳について、ですか。それならマスター・シャーフーから聞けばいいでしょう、俺は高々10年程度の修行を積んだ身でマスターとは比べ物にならぬ未熟者」

 

其処で待っていたのは校長だけではなく、ミッドナイトにプレゼント・マイクと言った雄英の教師陣までもが共にいた。これではまるで尋問されるようではないかと内心で想いつつも隣で暢気にお茶を啜っているシャーフーに倣うように平静を装う。

 

「勿論獣拳についても聞きたい、僕も話程度にしか知らないからね」

「それじゃあ無個性である事が信じられないとでも、守るべき存在に守られた事が不服だと?」

「そんな事はないわ、なんか凄い言葉に棘があるわね無月君」

 

とミッドナイトは否定しつつも零一の態度には明確にヒーローに対する棘がある事を感じ取る。普段からあまり言葉に衣を着せないという話を聞いているが教師にもそれを貫くとはあまり思っていなかったようだ。

 

「まあ落ち着けよ、俺からすればお前は超COOLだぜ!!だけど俺たちの常識からは掛け離れちまってるのさ、獣拳だって個性でしたって言われた方が納得できるレベルだ」

 

個性が常態化している超人社会において個性を持たない者が個性を凌ぐ力を持つ事はハッキリ言って超常の域だとマイクは語るが、それを聞いて零一は鼻で笑った。言うなれば旧人類に区分される自分が新人類である個性持ちから超常扱いされるなんて何て笑える話だろうか。

 

「加えて言わせて貰うとオールマイトが君のいう激気から悪の物を感じると言っていたな、我々からすれば獣拳とは何なんだという疑念も大きくなっている」

 

ヒーロー科のB組担任のブラドキングはハッキリそう言った、そう言われて漸く解せた。雄英としてはヴィランかもしれない、という自分に不安を寄せてしまっている。加えて対オールマイトの脳無というヴィランを倒しているしその師匠はオールマイトに追い付けるだけの能力を持ち合わせる、獣拳に関しても全く情報がない。未知の存在に対しての不安が積み重なっている。

 

「……」

 

ある種その反応は正しい。獣拳は世間とは一線を引いた所にいる武術、基本的に学ぼうと思っても学べない物。学ぶ為には尾白のように拳聖や獣拳使いに直接教えを乞うしかない。加えて以前シャーフーから獣拳の使い手は数を減らし続けていると聞いた、零一はシャーフーからしても久しぶりの弟子でもあった。

 

「悪、か……」

 

臨気は確かに正義とは言えない物を源にする。悲鳴や絶望などの負の感情から生まれる、しかしそれを悪と言われるのは不服でしかない。ならば……自分の臨気の源でもあるあれは何なんだ、あれは悪なのか。

 

「流石に聞き捨てならんぞ」

 

だがそれに真っ向から立ち向かったのは零一の肩に手を当てながらも瞳を大きく開いたシャーフーだった。

 

「オールマイトが感じたというのは臨気、悲しみや絶望から生まれるものじゃ。しかしそれを悪と断じられるのは潔癖が過ぎるのではないかな?」

「いや、だが……オールマイトはその臨気、だったか。それはヴィランが放つ悪意や殺意に似ていると言っていた」

「否定はせぬ、じゃが人間はそこまで崇高な生き物かな?ヒーローは全員殺意も敵意を出さないと言えるのかな」

「そ、それは……いや、その通りだシャーフーさん、申し訳ありませんでした」

 

諭すような言葉にブラドキングは素直に自らの過ちを認めて謝罪をした、ヒーローは自らを正義に身を置く者としての意識を強く持つ故に悪であるヴィランと戦う事を誓っているような物。そんな彼らからすれば悪に準ずるような物は受け入れづらい物なのかもしれない。

 

「何も知らぬ者からすればそう感じるのも致し方ないじゃろう」

「……無月君、こういう事を聞くのは失礼かもしれないけど言わせて貰うよ。君は何か大きな災害や事件に巻き込まれた経験があるのかい」

 

素直に根津の頭の回転には舌を巻く、此処までの話を聞いて根津は零一の力は正義の獣拳だけではなく臨気が大きく関わっていると分かった。ならばそれだけ大きな臨気を生み出すだけの物が彼の中にあり、それを生み出してしまうだけの経験をしたのではと思い至った。

 

「そして恐らくだけど……君はヒーローにある種の失望を抱いている、違うかな?」

「絶望だよ」

 

思わず言い放った。失望なんて物じゃなかったと、そんな生易しい物ではなかった。

 

「俺は地獄を見た、地獄の中で死んでいく友達や家族を見た。皆言ったよ、きっとヒーローが、きっとヒーローがってな。だけど誰も来なかった、そして多くの人が死んでいった」

 

それを言われてプロヒーローである雄英の教師陣は言葉を紡げなかった。目の前で大切な人たちがヒーローが助けてくれると言いながら死んでいく、だがヒーローは決して自分を助けてはくれなかった。そしておそらく彼を救ったのは獣拳、シャーフーなのだという事も察する事が出来た。

 

「では、何故君は雄英に来たんだい?ヒーローに絶望したという君が」

「修行の為だ、目の前で誰が死に掛けているのに助けられない自分を変える為の」

 

そう言い切るとこれ以上は語る事はないと言わんばかりに零一は頭を下げてから談話室から出て行く、これ以上は語りたくはなかった。早くこの場から出ていきたいというのが素直な本音だった、早歩きをしているとシャーフーがそれに追い付いてきて肩を叩いた。

 

「マスター……ヒーローを許せぬ俺は未熟でしょうか」

「いや、一定の理解を寄せ割り切っているお主は立派じゃよ」

 

ヒーローに絶望している、だが嫌っている訳ではない。ヒーローは人を救っている、そこは尊敬するべき所かもしれないが……許しきれない、許してしまったらあの地獄を忘れてしまいそうで……辛いあの日の事を忘れようとしてしまいそうで……忘れてしまったら家族が、友人が本当の意味で死んでしまうような気がしてならない。

 

「あの絶望が風化してしまうのが怖い……あれだけは、絶対に忘れてはいけないんだ……」

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