USJでの事件後、休校となった雄英の職員室では忙しそうに仕事をし続ける者もいる。雄英の内部に他にヴィランが潜んでいないかの警察との合同調査、次はどのようにそれを防ぐかの職員会議などで普段以上に忙しさが増しているが、子供を導き守る責任がある大人として手を抜く訳には行かないと職務に励み続けている。
「さて……ん?」
次の書類を……と思ったのだが、重ねていた書類が随分と低くなったような……と違和感を覚えたブラドキングは顔を反らしてみるとそこには自分の書類を半分ほど自分のデスクに起きながら席に着いた―――包帯塗れのミイラ男が居た。
「ぬおっ!!?」
「俺だブラド」
「イレイザー!?お前、またそんな状態で来たのか……」
其処にいたのはUSJで重傷を負ってまだ安静にしなければいけない筈のイレイザーヘッドこと相澤であった。と言ってもこの男は怪我を負ったとしてもある程度の所まで、仕事が出来る程度まで完治したら基本的に出て来るのでまたか……という印象が強い、まあ一応リカバリーガールの許可は取って来たのだろうが……それでも今回は最大級。
「婆さんの治療が大袈裟なだけだ、仕事は十分出来る。お前は一息入れろ」
そう言いながら早速始めてしまった同僚の姿を見ながらも溜息混じりに折角だからそうさせて貰うと珈琲を飲む。その最中にある事を調べるために
「今回のUSJでの事か?」
「まあ、間違ってはいないな。イレイザー、お前を倒したヴィランを無月が倒したという話は」
「聞いた」
治療を受けながらもUSJの顛末については聞いた、自分が脳無によって重傷を負わされた後に零一によって自分ごと緑谷達を救った後にたった一人で立ち向かって勝利を収めたという。無個性が勝てる通りなんてないと思うかもしれないが、獣拳の存在を知っている身としてはあり得ない話ではないと捉えていると同時に、生徒に自分の尻拭いをさせてしまった事を済まないと感じている。
「あの後、俺達は偶然雄英を尋ねていた彼の師というシャーフーさんと共に話を聞いた。獣拳とは一体何かと、その時に……彼に対して失礼な事を言ってしまってな」
「あいつの殺意や敵意にも似たあれの事か」
「知っていたのか」
「オールマイトから大体の事は聞いていた」
戦闘訓練のVを見る時にオールマイトから話をされた、零一のそれはまるでヴィランのそれのように鋭く冷たい物を感じてしまったと。だが自分は別段そこは気には止めなかった。そして今、それが臨気と呼ばれるものである事を聞いたが相澤は別段何も感じていない様なリアクションだった。
「別にいいだろ、ヒーローがヴィランみたいでも。ヴィランのようなヒーローランキングや俺みたいなアングラヒーローもいる、その位でギャアギャア騒ぐな、非合理的だ」
「お前はそうかもしれんが……俺達はヒーローとして彼らを導く立場だぞ、しかもオールマイトからそんな事を聞かされては気にするなというのが無理だ」
「悲しみや絶望で力が増すか、結構な事だ。現場はそれで溢れているんだからあいつはその増した力で誰かを救える、寧ろ臨気は災害現場などにおいて本領発揮をするヒーロー向きの力だと俺は思うがね」
ブラドキングはハッとした。そうだ、災害現場においては人々の悲しみなどで満ちている、ならば臨気はその特性で増幅していく。誰かを救う為には持って来いの性質だと相澤は寧ろ肯定的な見方をしていた。
「臨気の力が落ち着いていく、逆にそれを利用してセンサーのような使い方も出来る筈だ。合理的に判断すればそう言う見方も出来る、オールマイトに限った事じゃないが潔癖が過ぎるぞ。清濁併せ呑む、それをした方がいい」
「……全く以て恥ずかしい話だ」
一歩引いた客観的に観るだけで臨気をそれだけの事に使える、自分との差に歯痒さを覚える。相澤は合理主義者故に切り捨てる時程ドライに切り捨てに掛かる、それも優しさである事も知っているつもりだったが……自分は何処かでそれを理解出来ていなかった事を思い知ってしまった。
「それで何を調べたんだ」
話す、零一が言っていた過去の出来事、そして何故雄英に来たのかを。それを聞いて合点が言ったように溜息をもらす。
「成程な、あいつからヒーローへの熱意が感じられないのはそう言う事か、単にここを踏み台としてしか見てなかったという事か。んで何を調べてる?」
「過去に起きた事件のリストだ、中でも一際被害が大きかったものをな……」
何も知らない、知らなさすぎる。それでは許さない、だから手始めにブラドキングは零一のオリジンを探ろうとしていた……。
「激獣クロコダイル拳とはこれはまた優れた獣拳に目覚めた物じゃの、これは将来有望じゃて」
「あ、有難う御座います!!」
その頃、零一はシャーフーに尾白を紹介しつつも尾白の激気を見て貰う事にしたのであった。
「激獣クロコダイル拳は獣拳の中でも古い類の物、それよりも古い物はライノセラス拳以外ないのじゃ」
「ライノセラス拳、獣拳の祖が扱っていたという」
「そ、そんなに古いのか……」
目覚めた獣拳がまさかそこまでの歴史を持つものだとは知らずに少しばかり気圧されてしまう尾白、それだけの物を自分が扱い切れるのかという不安もあるが逆にそれだけの獣拳を使える事に喜びも感じている。
「じゃが気を付ける事もあるぞ、クロコダイル拳は使い手を選ぶと言われて来た獣拳。何故かと言われればクロコダイル拳は強き心が無ければそれに呑まれてしまうとも言われておる」
「の、呑まれる!?」
「安心してよいぞ、この場合はクロコダイル拳に慢心して敗れる事をさすからの」
曰く、ワニのような硬き鱗と剛力を齎すので使い手の弱い心を引き出しやすいという脆さを持つ。武術は最初は誰もが弱い、だがクロコダイル拳は身に着けた瞬間から一定の強さを持ててしまう、しかもその強さはかなりの物なので使い手となる者は多かったが、結果として身を滅ぼす使い手の数の方が圧倒的に多いとの事。
「さて、如何するかの?他の獣拳の習得を目指すかの、激気を扱えるようになった今ならばそれも出来るが」
「……俺は何れゴリラ拳を修得するつもりです。ですがゴリラ拳は心を司り強き心が無ければ扱えない、ならその為の心を鍛えるにはピッタリって事ですよね」
不敵に笑う尾白に零一は思わず笑い、シャーフーは嬉しそうに微笑んだ。正しい選択だ、ゴリー・イェンもこの場に居たら彼を褒める事だろう。
「身を滅ぼす獣拳……何だろう、ちょっとカッコいいって思っちゃったよ俺」
「暢気だな、臨気とは別の意味での危険を持つというのに」
「ホッホッホッ若きことは良い事じゃの~」
シャーフーは兎に角ニコニコと笑っていた。何故ならば零一は楽しそうしているからだった、これからも尾白とは良い友人関係を築いて欲しい物だと頷くのであった。
相澤先生的には臨気は全然OKな認識。寧ろヒーロー的に素晴らしい素質だと思っている。