緑谷 出久は無個性である。
彼には個性がある、矛盾しているが彼は後天的に個性が発現した。だがそれまでの彼は無個性として生きて来た、オールマイトという巨きな光に憧れて自分もあの人のようになりたいと願っていた。だが無個性だと知らされた自分には決して叶える事が出来ない夢だと打ちのめされた。しかしそれでも夢は簡単に捨てきる事が出来る訳ではないのだ。
ヒーローの分析ノート、プロヒーローの事を調べて自分なりの分析や個性の応用などを書き綴ったノート、ヒーローになる事が出来ないならせめて……と始めた趣味に近い。未練がましいと言われればその通りだ、自分もそう思っていた事だろう。どんなにヒーローになる為の努力をしても意味はない、無個性は……現実を見なければいけない。
「個性だけねぇ……だったら無個性の俺はどうなる」
だが、そんな自分の考えに真っ向から立ち向かうような存在とあった。無月 零一、クラスメイトである彼は獣拳と呼ばれる武術を扱い強個性を持つ相手とも対等以上に戦う事が出来る、そんな彼は以前の自分と同じ無個性。そう、無個性、自分と同じなのにあれだけの力を得ている。如何してかと問えば答えは簡単に帰って来た。修行をしたからだと言われる。
「今こうして視察に来ているのは体育祭だから頑張ろう、鍛えようと思ってる奴らばかりじゃないのか。鍛錬は常日頃からするもの、お前の言うリザルトを出すのはそういう事をして来た奴だ」
体育祭を控えて、敵情視察をしに来た心操だけではなくその場の全員に言った。それを言われて一番胸を抉られたのは他でもない、緑谷だ。無個性だから、ヒーローになれないから……なんて諦めに甘えて本気で目指そうともしなかった、それまで必死に身体を鍛えようともしなかった。
「……そうだ、僕は何て愚かなんだ……僕は全然皆と同じ立ち位置じゃないんだ……!!」
そうだ、今まで何もしてこなかったのは自分だってそうじゃないか。無個性である零一はきっと自分以上に努力を重ねて続けている、それは間違いなく今も。それを思うと立ち止まってなんていられない、そう思うとスマホを取り出してある人に連絡を取る、如何やらいま休憩室に居るらしいので行っていいかと聞くとOKのスタンプが返って来た。麗日や飯田が止める声なんて聞こえなくなっていたのか廊下を爆走していった。
「ウォオオオオルマイトォ!!!」
「緑谷少年が凄い勢いで来たぁ!!?」
扉を開けるとそこではオールマイトがお茶を淹れようとしていたのか急須をもって吃驚していた。骸骨のような風貌をした男、その男はオールマイト。特別な事情と理由があり、緑谷とオールマイトは強い絆で結ばれている。それは個性。
「ど、どうしたんだ一体……?」
「お、お……オールマイト、アメリカンドリーム、プランの予定表ってまだ、残ってますか……!?」
「ア、アメリカンドリ-ムプラン?あ、ああそれは当然あるけど……」
「それ下さい!!」
現緑谷が持つ個性はオールマイトより託された物、脈々と受け継がれて来た正義の心、その名もワン・フォー・オール。オールマイトは依然大きな戦いの傷の影響で長い時間のヒーロー活動が出来なくなり、その後継を探していた。そしてその後継として選ばれたのが緑谷だった、がハッキリ言ってこれまで大して鍛えてこなかった彼は個性の器としては不適合。そんな彼を雄英の入試に間に合わせるように鍛え上げたプランこそオールマイト考案、目指せ合格アメリカンドリームプランなのである。
「どうしたんだい緑谷少年、突然そんなにやる気というか覇気に満ち溢れちゃって……」
「僕、何もしてなかったんです……オールマイトから個性を貰って、それで何とか最低限扱えるようになって、オールマイトに見て貰えてただけで……皆と同じで居たつもりになってたんです……僕は何倍も努力しなきゃいけないって自分で言ってたのに……!!」
彼は恵まれている。境遇は同情に値する、理解も出来る、だがその一方で酷く恵まれている。№1ヒーローに見初められて後継者として扱われ、直接の指導や相談にも乗って貰えている立場にある。そんな自分に甘えてはいけないと今更ながらに本当の理解が出来た。
「僕はもっともっと頑張らないといけない身でした、だからっ!!アメリカンドリームプランで体育祭まで自分を鍛え直します!!」
「おおっ……まさかナンセンス界の貴公子というべき君から此処までの熱い言葉を聞けるなんて……Oh my……Oh my……goodness!!!」
大声を上げながらも突然筋骨隆々の馴染みのある姿へと変じるオールマイト。曰く、プールで腹筋に力を入れているような原理で
「受け取ったぞ君の熱い想い!!そうだ、その想いこそが君に欠けていた物。そうだ、そのパッションこそが君を更に高みへと連れて行く!!こんな事もあろうかと実はこっそり君のプランを用意しておりました!!でもこれあの時よりもマジできついから―――」
「有難う御座います!!」
プランをひったくるかのように奪い取るとそのまま駆け出して行く緑谷、遠くから走るな!!という注意が聞こえて来てようやくオールマイトは我に返った。
「まさか緑谷少年があそこまでの情熱を燃やすとは……クラスで何かあったのかな、もしや無月少年に何か影響されたのか?」
「ハァァァァァ……ハァッ!!!」
「うっそぉ……」
「正しく逸材か……」
そんな言葉を漏らしている尾白と零一、二人は許可を取ってトレーニングの台所ランド、通称TDLで修行を行っていたのだが……そこで轟が自分の成果を見て欲しいと言いながら自らの激気を放出し始めた。しかも激気の量も半端な物ではない。
「俺の激気よりもずっと強いしデカい……」
と尾白は半分落ち込んでしまった。折角クロコダイル拳に目覚める事が出来て轟よりもずっと先に言っている自信があった、あの轟よりも少し上にいるというのは気分とは嬉しい物だったのにそれをあっという間に覆された……慢心はしていなかったのにこの有様と凹んでいるがこれは完全に轟の才覚が飛び抜けている。
「獣拳の差でもあるな」
「差?」
「クロコダイル拳は何方かと言えば身に纏って繰り出す方面に優れている、激気の大きさ=獣拳使いとしての強さには直結しないから安心しろ」
「そ、そっか……よし負けないように修行だ!!如何すればいい!?」
「簡単だ」
クロコダイル拳は身体に纏う激気によって強化される身体能力と強固な鱗による防御力、それを高めるには―――より強い攻撃を受けながらの組手。
「思った以上に分かりやすいね……」
「轟も参加だ、激気を使ってみろ。難しく考えずにインスピレーションに任せろ」
「分かった」
「じゃあ行くぞ」
早速構えを取る零一に二人も構えを取る、のだが直後に零一は演武を行いながらも激気を高めた。そして狩りをする獣が如く勢いよく飛び込むように迫って来た。
「烈光爪撃!!!」
「い、いきなりぃ!!?」
飛び込みながらも光り輝く爪を振り翳してくる零一に対して激気を纏う尾白、同時に防御を固めるのだが零一の一撃はそのまま尾白のガードとクロコダイル拳の堅さを越えて激気を一瞬で切り裂いて肉体へと届いた。
「ぐぁっ!?」
二重のガードを一瞬で貫通された尾白は驚愕した、クロコダイル拳の防御力は自分で検証してみたが鉄にも匹敵していた。未熟な自分の激気で此処まで硬くなるのか……と驚いていたのにそれをアッサリと貫いてしまった零一。
「これは常にこのまま攻撃する、これを防げるようになったら合格って所だな。その為に激気を高め続けろ!!」
「そういう事か、やってやる!!」
「はぁぁぁっ!!」
カバーに入るように轟が飛び出して行く。下から氷を生み出して押し出すようにして推進力を得ながらも激気を纏った延髄蹴りを放つ。が、零一はそれを受けながらもその勢いで身体を回転させて攻撃を受け流すと轟の足を掴んで地面へと振り下ろす。
「がぁっ……!!はぁ!!!」
だが轟は怯まない、そのまま手から氷柱を飛ばすのだがその氷柱にも確りと激気が纏われている。それを回避しつつ距離を取るが、直後に真上から尾白が飛び掛かってくる。
「激技、高転鰐舞!!!」
「舐めるなぁ!!」
渾身の一撃が零一へと直撃する、まるでドリルのように此方を削らんとしてくる攻撃は未熟な激気であるのにも拘らず凄まじい衝撃と威力を出している。これは将来が楽しみだと思いつつも零一はそれを完璧にガードしていた、そしてそのまま両腕に力を籠める。
「激技、烈光絡撃拳!!チェェエエエストォ!!!」
腕で円を描くように回してそのまま高転鰐舞の力を方向と全く別の方向へと導きつつもそこに自らの激気と臨気を乗せて回転速度が数倍に増幅させながら放った。
「うわああああっ!?轟退いてぇぇぇ!!?」
「くぅっ!?」
咄嗟に回避した轟、尾白はそのまま回転を止める事が出来ずに壁に激突してしまった。余りの勢いだったせいか尾白は壁に突き刺さってしまっている。あれだけの一撃を完璧にいなしつつも自分の力を加えて跳ね返す技に轟は言葉を失っていると零一が手を差し出してきた。
「如何だ、激技を目の当たりにした気分は」
「……素直にすげぇ」
「そうか、後お前上着破れちまったな」
尾白の高転鰐舞の余波で敗れてしまったか首部分が結構派手に破れてしまっていた、それを気付いた轟は後ろを向きつつもジャージを持ち上げるようにしてそこを隠した。
「気になるなら着替えて来い」
「……そうする」
轟は何処かそっぽを向いてしまったまま着替える為に姿を消すのだが……零一はある事を考える。
「あいつ、晒付けてたのか。気合入るもんな―――んっ?」
『―――それにしても美人な子達じゃな零一?』
不意に脳裏をよぎったのはUSJでのシャーフーだった。何故それを思い出したのか、全く分からない……だがこうして思うと妙な点もあった。
「あの子"達"?あの場には葉隠しかいなかったような……いや葉隠は葉隠で透明で顔分からないからそれはそれで可笑しい気もする……そうか、そこか」
「れ、零一~出るの手伝ってくれ~……」
「ああ、悪い」
そんな思考が生まれたのだが、葉隠の事だったんだろうなと結論を付けてそれを終わりにすると中々壁から抜けられない尾白を引っ張るのであった。
「―――ふぅ……大丈夫だろ、多分……」
一人、更衣室で轟は荒くなっている息を鎮めながらも何かを抑えていた。それは呼吸なのか、それとも激気なのか、それとも……。
壁犬神家をさせてしまってすまん尾白。
なんかスマホのニュースのおすすめみたいなのに尾白を許すなってあったからつい……。だが皆甘いな!!私はずっと前から葉隠さんが可愛い事を知っていたからな!!残念だったな!!
だが尾白、一発殴らせてくれ。主に龍牙のドラゴンインパクトで。