体育祭までの準備期間はあっという間に過ぎて行き、開催までの時間を各々が有効に使ったと確信出来るような日々を送りながら遂に当日の朝がやって来た。オリンピックに変わるイベントとも言われる程の知名度と人気を博する雄英体育祭、縁日のように出店が立ち並び空には高らかと花火も打ち上げられている。正しく祭りの様相である。
「コスチューム着たかったなぁ~……残念~」
「公平を期す為だからしょうがないわよ三奈ちゃん」
折角自分の為の衣装があるのにそれを着られない事に文句を言う芦戸だが、公平を期す為故にこの辺りは致し方ないだろう。コスチュームによっては筋力増強などの効果を付与しているのもあるので公平さを欠いてしまう、故に自分の力で戦って貰う為にコスチュームは抜き。
「尾白、今回は時間が取れた拳聖も来るらしい」
「えっという事はシャーフーさんとかも来る訳!?」
「師匠は絶対に来るな、こういうの好きだし」
賑やかな事は好きなシャーフー、加えて超人社会になってからはシャーフーは基本的に猫の個性を持ちという扱いになる。なので昔に比べても気兼ねなく出歩く事が出来るとその点は良い時代になった物だと言っている。
「ゴリーさんとか来るのかなぁ……」
「一応連絡はしておいた、来られてるかは知らん」
「見られてるかもしれない―――よし頑張るぞぉ!!」
と一気にモチベーションが上がっていく尾白。そんな彼と同じく、零一も体育祭に挑む為のモチベーションは基本的に師匠たちに情けない姿を見せないようにする、というのがメインでプロに自分の力を見せる云々は一切考えていない。
「俺のも見られるのか」
「まあだろうな、俺が手解きしてるってのはマスターから伝わってるだろうし」
「……大丈夫かな」
と僅かな不安を漏らす轟。と言っても零一から見ても尾白もだが轟の獣拳の心配はしていない、今日まで獣拳の修行はミッチリとして来たし激気も大きく強い物になっている。零一からすれば2週間足らずで此処まで成長する二人に本格的に師匠を探したほうが良いかもしれないと思ったりしている。
「にしても、この中で一番変わってるのって緑谷だよね」
「それは思う」
「ああ」
そんな視線の先に居るのは心なしか逞しくなっている緑谷だった。流石に身体つきが大きく変化しているという訳ではないのだが、表情にこれまであった不安や心配といったマイナス方面の物がかなり減っていて自信を持てているように思える。それ故か胸を張っているように見える。
「デク君も気合十分だね!!一緒に頑張ろ!!」
「うん、気合入れて頑張るつもり!!」
「お待たせしました~買ってきましたよ焼きそばとタコ焼き、後イカ焼き」
「おおっすまんの、走りのような事をさせてしもうて」
「いえいえ、ちょうどカキ氷買って食べてたところですから」
客席に腰を落ち着けながら始まるのを今か今かと待ちわびているマスター・シャーフー、そんなシャーフーへと袋に買って来た食べ物を渡すのはサメの半魚人とも言うべき姿をしている、そんな者の正体は―――零一の師の一人にして七拳聖の一人、激獣シャーク拳のシャッキー・チェン。
「随分と嬉しそうにしとるのぅ」
「そりゃもう!!だって零一の晴れ舞台なんですよ、今日なんて朝3時には目が覚めちゃった位なんですから!!」
「早起きじゃのう」
マスター・シャーフーの下で修業しているが、その他の拳聖の下で修業する事は別段珍しくはない。零一もその例に漏れずに修行を付けて貰った事がある。その中でも一番仲が良いというよりも大切にして貰っているのがシャッキー。
「シャーク拳使ってくれるかな~使ってくれたら嬉しいな~♪シャッキーン!!」
「それなら日常的に使っていると思うぞ」
「ええっ本当ですかマスター・シャーフー!!?」
とシャーフーの言葉に驚きを隠せないシャッキー、が、意味合い的には少し違うかもと前置きしつつ答える。
「お主のシャーク拳の神髄は兎に角努力し続ける事で成長し続ける事、頑張る事じゃ。零一は毎日修行を欠かさずに努力し続けておる。故にシャーク拳を扱っていると言えるのではないかな?」
「おおっ……そうかぁ零一、君は何て良い弟子なんだぁ……」
感動して泣きだしてしまうシャッキー、拳聖の中では最年少で涙脆い。だがそれ故に真っ直ぐで一時期、歪みそうになっていた零一の心を解きほぐして強い絆で結ばれているシャッキー。そんな彼が一番この体育祭を楽しみにしていた、そんな思いに応えるように開始の合図であるプレゼント・マイクの声が聞こえて来た。
『刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!?』
「さて、どのような事になるか楽しみじゃなぁ……ほれシャッキー、泣いとらんでお主も食べろ」
「ぅぅぅぅっ……はい、応援の為にも食べます!!」
「選手宣誓!!」
入場も終わったのでいよいよ開会式を勧めようと一人の教師が声を上げる。それは全身を肌色のタイツにガーターベルト、ヒールにボンテージ、色んな意味でエロ過ぎて18未満は完全に禁止指定のヒーロー、18禁ヒーロー・ミッドナイトが主審として台の上へと上がった。そして宣誓として呼ばれるのは―――
「選手代表、1ーA 無月 零一!!!」
そう、首席で合格を果たしている零一である。周囲から視線を集めながらも壇上へと上がった。
「さあっ頼むわよ無月君、一応前以て話は行ってるわよね?」
「ええ大丈夫です」
深呼吸をしてから零一は言った。
「宣誓、我ら此処に集うのは誇りある雄英の生徒。ヒーローシップに則って正々堂々と戦う事を此処に誓います」
オーソドックスでテンプレに近い宣誓、それに見事と関心を寄せる者もいればつまらないと思う者もいる。だが相澤としては普通にこなしてくれて良かった、と思っていた。
「あくまで今のは選手代表としての言葉、こっからは俺自身の言葉を言わせて貰う」
『!?』
「良いわよ言っちゃいなさい!」
皆が驚愕する中唯一人、ミッドナイトだけはサムズアップで許可を飛ばした。此処は自由が校風の雄英、教師が自由ならまた生徒も自由で良いではないか。それに零一は則る事にした。
「ある生徒が言っていたが普通科の生徒にはヒーロー科落ちた者が大半だと、その上で言うが―――俺は無個性だ」
いきなりの爆弾発言に会場だけではなくTVを見ていた全員が硬直した事だろう。だがそれに構う事も無く零一は続けた。
「無個性だが首席で合格している。無個性でヒーロー科に合格した俺と不合格になったお前らとの差は何だ、修行不足だ」
正しく簡潔でシンプルな理由。無個性であるのに合格しているという事実がそれを物語っている、どんなに言い訳しても覆る程がない程のインパクトがそこにはある。
「この場の全員に聞く。修行はちゃんとして来たか、覚悟を決めて来たか、身体を鍛えて来たか、技を高めて来たか、そうでなければどう足搔いてもこの場で結果を出すなんて夢のまた夢でしかないぞ。その成果を見せてみろ―――俺をいや俺達を蹴落としてみろ」
其処まで言い切ると零一は頭を下げて壇上から降りていく、余りにも大胆不敵な宣言に誰もが呆気に取られる中、一人の生徒が声を上げた。
「ああ、その為に今日まで必死になって鍛えたんだ……絶対に負けない!!」
「―――っああそうだ、俺達だって努力してるんだ!!」
「負けねぇぞヒーロー科ぁ!!」
「うおおおっ一気に盛り上がってるなぁ!!?」
「クソモブ共が、テメェなんざ敵じゃねぇんだよ!!」
「蹴落とせるものならやってみろってんだ!!」
一人の声を皮切りに、彼方此方から闘志溢れる声が出て来た。零一の言葉はその場にいる者のプライドとこれまでの努力を刺激した。お前だけが努力してきたのではないと言いたげなそれに零一は僅かに笑い、それを見たシャーフーとシャッキーも思わず笑ったのであった。
「ホッホッホッ言うのぅ零一」
「これは楽しみになってきましたね、零一のシャッキーンが!」